「――で、自暴自棄になったそいつをぶっ飛ばして自殺を止めて異変は終わり。あー疲れた」
「なるほど。外の世界にも色々な奴がいるものだな」
くたびれた様子で肩を回している霊夢から今回の異変のあらましを聞き取った楓は彼女を労う。
「結果だけ見れば人里に被害もなし。黒幕の少女とやらも死んだとかじゃないなら万々歳じゃないか。よくやったな」
「本当よ。頼りになりそうな人里の守護者は阿求のところに行っちゃうし」
「天子をやっただろう。あいつが役に立たないことはないはずだ」
「そこはまあ、助かったけどさ……」
しかし天子も天子で自分の冒険を優先するところがあるので、霊夢が全幅の信頼を寄せるには微妙な相手なのだ。
彼女を完璧に御せるのは楓ぐらいのものだろう。彼の周りにいる限り、常に新しい刺激と冒険が提供されるという確信があった。閑話休題。
ともあれ、と霊夢は全身を畳の上に投げ出して大きく伸びをする。
「私は頑張った! しばらくはゴロゴロする! そう決めた!!」
「過度の怠惰に良い顔はできんが……異変の後だ。大目に見よう」
「やった! ついでに朝ごはん作って!」
「わかったわかった」
異変の後ぐらいは楓も霊夢に優しかった。特に今回は彼女に任せきりだったので、食事を作るぐらいで労をねぎらえるなら安いものである。
霊夢も霊夢で何もせずとも食事が出てくるありがたみを噛み締め、楓の作った食事に舌鼓を打つ。
「ふむ、そういえば針妙丸はどうした? お前が世話をしていたのでは?」
「この前の異変で少し身体を大きくできたから好きに動いてるわ。ペットってわけじゃないし、あいつにもあいつの友達とかいるんでしょ」
ある意味冷淡とも言える霊夢の言葉だったが、楓は特に追求しなかった。
少しの間静かに食事の音が響く。霊夢も楓も食事中に話すことはあまりしない主義だった。共通の師からそうしつけられたとも言う。
そうして食事が終わり、食後のお茶を片手に飲んでいるところで再び霊夢が口火を切る。
「ところであんたは大丈夫だったの。いや、阿求と一緒に遊んでたけど」
「お前たちと別れてからも人里で遊び尽くしたぞ。魔理沙、布都、神子、白蓮の連合も薙ぎ払ったぐらいだ」
「うへ、そこまでして勝ちたかったの?」
「こっちもこっちで阿求様と俺のイメージをかけ合わせた父上を召喚してな。あの一時だけは全盛期以上の父上が顕現していた」
「そりゃ死ぬわ。阿求のイメージだけなら攻略できると思ったけど、あんたまで加わったら私も諦めるわ」
「結局、真っ向からの攻略ができそうだったのは霊夢だけだったな」
「全盛期以上の爺さんとか反則じゃないの?」
「一回だけで次はない。オカルトの力も徐々に薄くなり始めている」
異変が収束し、オカルトボールもすでに霊夢の手によって封印が施された。
そのためオカルトの力自体が消えつつあり、阿求はもうスペルカードの使用ができなくなっている。
「あの時限りのお祭り騒ぎだ。俺たちがはっちゃけたぐらいで異変には何も影響しなかっただろう?」
「それもそうね。にしても、爺さんか……」
霊夢は立てた片膝に腕を乗せ、ぼんやりと遠くを見るような目になって何かに思いを馳せる。
「……やっぱりあんたはまだ爺さん超えって掲げてるの?」
「当然だ。御阿礼の子の従者は火継の最強が果たす役割だ。父から継いだ俺が例外なんだ」
「でもあんたは火継の一族じゃぶっちぎりで最強でしょう?」
「これが明らかに遠縁と呼べるレベルの年代差があったら納得もする。時代によって側仕えの強弱も多少は出るからな」
「何となくわかる」
妖怪との揉め事があった時代と、なかった時代。それぞれの側仕えは力量に差も出てくるだろう。
楓も父が曽祖父、あるいはもっと遠い時代の最強であったという存在なら受け入れていた。
しかし火継の最強は自分の父親だ。阿求の記憶にも鮮烈に焼き付いている最強である。
「父超えをしてこそ、父上から側仕えの座を継いだ意味が生まれる。父上の見立ては間違ってなどいないのだと俺が証明する」
「そういうところ、あんたは熱血よねえ……私にはわからんわ」
「お前こそ父上に鍛えられていただろう。越えたいとは思わないのか?」
「私一人がダメでも他の奴らがいるもの。私は死ぬ間際になんとなく越えたと思えれば十分だわ」
「そんなものか」
「肩肘張っても疲れるだけだし、私にそういうのは似合わないもの」
あっけらかんとした霊夢の態度に楓も理解を示す。
ぶつくさ文句は多いものの、日々の鍛錬は楓が尻を蹴飛ばせば真面目にやっているのだ。
すでに当代最強の呼び声も高い博麗の巫女である。きっと遠い未来では楓にも想像できない高みに至っているのが容易に想像できた。
「俺は一足先に進ませてもらう。――父の背中はもうすぐだ」
「――そう。意外に早かったわね」
「驚かないんだな」
「あんたのことは隣で見てきたから。アホみたいな速度で成長するのも知ってるわ」
「我ながら経験に恵まれたと思ってる」
「それは正直私も甘く見てた」
巡り合わせの良さと言うべきか、悪さと言うべきか。幻想郷で異変と呼べるものにはほぼ全部関わってくる上、何かしらの発端になっていることも多々あるのは霊夢をして脱帽せざるを得なかった。
仮に楓と入れ替われるとしても霊夢は首を縦には振らないだろう。こいつの方が絶対忙しい。
「次の満月に永遠亭に行く。それで多分、俺は父に並ぶ」
「ん。心配しないで待ってるわ」
「ああ、お前も息災でな」
話したいことも終えたので楓は立ち上がり、博麗神社を後にする。
霊夢は生き急いでいるとしか思えない兄貴分の成長に呆れながらも、どこか心配する声音でつぶやく。
「けどなーんか嫌な予感するのよねえ……。楓も楓で大概だけど、もっとヤバいことに口突っ込んでそうっていうか……」
胸騒ぎと言うには足りず、さりとて無視するには騒々しい。そんな嫌な感じを覚える動悸に霊夢は頭をかくのであった。
博麗神社から人里に戻る道中、この場所にいるのが珍しい知己を千里眼で見かけたため、一度地面に降り立つ。
視線の先にいる少女――アリスに楓は気安い調子で声をかける。
「ここで見かけるのは珍しいな、アリス」
「ああ、楓。あなたは神社の帰り?」
「そんなところだ。何かやってたのか?」
「少し人形の調整をね。気晴らしも兼ねて場所も変えてみたってわけ」
「なるほど」
完全な自立人形の創造を掲げているアリスらしい理由である。
「ここで会ったのも縁だ。まだやるなら付き合うぞ。第三者の目線が必要なものもあるだろう」
「ありがとう。でもこっちも一段落ついたところだから大丈夫よ。人里まで一緒に歩かない?」
「護衛ぐらいは引き受けよう。必要ないだろうが」
「ふふ、守られるのも悪い気はしないわよ」
朗らかに笑うアリスに釣られて楓も頬を緩める。
博麗神社から人里に向かう開けた道を二人で歩いている中、楓は前々から聞いてみたかったことを口にする。
「アリスは完全な自立人形の作成をテーマにして結構長いんだったよな」
「ええ、かれこれ百年近くはやっているわね」
「若輩の俺にはわからないんだが、そんなに長い時間をかけるものなのか? お前なら――」
「私なら、もっと早く完成させることもできる?」
「……そうだな。俺の知っているアリスなら、一年とは言わないが十年もあれば一定の完成を見ることができる気がする」
まだ二十年も生きていない楓には、長命な種族の生き方にピンとこないことが多かった。
アリスの研究にしてもそうである。楓が知る限りアリスは優秀で聡明な女性だ。
自分一人で難しくとも、パチュリーや魔理沙の力も借りればそれなりの形はできるのではないかと思ってしまうのである。
楓の疑問にアリスはくつくつと笑い、まだまだ少年な彼の疑問に答えてやることにした。
「確かに私の伝手、知己を全て頼って目的に邁進したら、楓の言うぐらいの年数で到達することも可能でしょうね」
「ふむ」
「それで――終わった後はどうするの?」
「む……?」
「私の研究テーマに費やした時間が……まあ普通の人間の一生分であるとして。人間ならそれが終わったら後は死ぬだけだけど、私はどうすれば良い?」
「…………」
言われてみればそうだと楓は言葉に詰まる。
人間の一生には長い時間であっても、妖怪にとっては人生の一部でしかない。
千年以上を生きる彼女らにとって、百年の研究期間は短くこそないが、決して長いとも言えないものだ。
そして目的を失い、精神の刺激を見つけられなくなれば妖怪は死んでしまう。
「妖怪や魔女にとって時間は味方であり、どうしようもない敵でもある。目的についてもいずれ到達するからそこまでのんびりやろう、という考えになるのよ」
「……そんなものか」
「あなたは人間の世界で生まれて、人間と一緒に育ってきたからわからないでしょうね。――でも覚えておいて。人間の歩調で妖怪の時間を生きるのは難しいと言わざるを得ない」
「…………」
「妖怪には妖怪の。人間には人間の適した速度というのがあるわ。多少相手に合わせる程度ならまだしも、それ以上はどちらにとっても良くない結果になるでしょうね」
「俺はどうなると思う?」
楓は半人半妖であり、生きる時間は妖怪側の人間だ。
しかし同時に阿礼狂いでもある。
阿礼狂いにとって最も優先すべきは御阿礼の子であり、彼女の時間だ。
その点で言えば寿命がどれだけ長かろうと関係はないのだ。楓の時間は全て御阿礼の子に捧げることが決まっているのだから。
アリスもその辺りは理解しているのだろう。考え込むように顎に手を当て、まじまじと楓を見つめる。
「……難しいわね。妖怪が生きるという点だけで言えば私のようにゆっくり歩くことを覚えるべきだけど、あなたは御阿礼の子がいる」
「御阿礼の子がいる期間は短い。その時に万事を十全にこなせないなど一生の恥だ」
「御阿礼の子に合わせるとしたら……いない期間も己を磨くのに費やすでしょうね」
「そこで手抜きなどあってはならない」
「……どうしましょう。個人的に興味が出てきたわ。妖怪の時間を持つ存在が人間――それも通常より短い時間の人に合わせたらどうなるのか。結果が読めない」
「やはりそうなるか」
つまり誰にも楓の行末がどうなるかは予想できないのだ。
であれば好きに走った方が良い、と楓は結論づける。それで問題が発生するようなら修正すれば良いし、発生しないならそのまま走り抜ければ良い。
「あと御阿礼の子の寿命が短い話はやめてくれ。俺たち火継の一族もどうにかできないかあがいているんだ」
「それは失礼したわ。目処は立っているの」
「おおよその見当はついている。父上が遺してくれた本のおかげだ」
「聞いたわ。先日の異変で阿求と一緒に大暴れしたそうじゃない。武芸だけの人ではないということね」
本人ではないが、と言って楓は肩をすくめる。
などと話しながら歩いていると、不意に視界が暗くなる。
「む……」
「あら?」
「――ミスティア、近くにいるのはわかっている。鳥目にするのは感心しないな」
足を止めた楓が木立に向かって声を発する。
すると視界に再び光が戻り、木立の間から夜雀の少女が姿を現す。
「すぐ気づいちゃうんだから。まあ明るい場所で仕掛けたしわかるのも当然だけど」
「一人か?」
「今日はね。あんたを見かけたから声をかけたってわけ」
「友人が多いわね、楓は。この子は?」
「竹林で屋台をやっている妖怪だ。名前はミスティア・ローレライ」
同様にアリスについてもミスティアに紹介すると、ミスティアは快活に笑う。
「屋台の方もよろしく! おすすめは八目鰻の蒲焼きよ!」
「いつだったか魔理沙が話していた気がするわ。料理の美味しい屋台だって」
「私はこいつに引きずられた形だけどね。結構楽しいわよ」
「失敬な。死ぬか妹紅を手伝うかの二択をくれてやったではないか」
問答無用で襲いかかってきた妖怪への対処としては甘いものですらあっただろう、と楓は自己判断していた。
「それ、二択と言える人はどれだけいるのかしら……?」
「だよね!? おかしいのは私じゃないよね!?」
「まあ過去の話は良いだろう。それで俺を見つけたからと言ったが、何かあったのか?」
「あ、忘れてた。影狼たちが暇そうにしてるから草の根妖怪ネットワークに顔を出しなさいよってのが一つ」
「覚えておこう。一つ目とは他にもあるのか」
楓の質問にミスティアは僅かに顔を曇らせ、言うべきか迷っている様子を見せた。
「あー、うん。あるにはあるんだけど……」
ミスティアがアリスに視線をさまよわせたところで意味を察したのか、アリスが先に人里への道に向かい始める。
「言いにくいことなら私は先に行くわよ。楓、今日は話せて楽しかったわ。また今度、人と妖怪の違いについて議論しましょう」
「ああ、また今度な」
ひらりと手を振って飛び去っていくアリスを見送り、改めて楓はミスティアと向き直る。
ミスティアは颯爽としたアリスの態度に感銘を受けた様子だった。
「格好良いなあ。ああいうのって憧れるわよね!」
「別にアリスはアリス。お前はお前だろ。それで何かあったのか?」
「うん。妹紅についてなんだけど、何か知らない?」
「この前の異変で会ったな。オカルトの力を使ったやつだ」
「あー、なんか人里が騒がしかったやつ。あれ異変だったんだ。私は影狼たちと一緒にいたから知らないわ」
当時の会話を思い出しながら楓は話を続けていく。
「あの時は黄泉比良坂のオカルトボールを片手に願いが叶わないか聞いてきたな。その妹紅がどうかしたのか?」
「なんか最近、落ち込んでいるみたいで。屋台も出さなくなっちゃったのよ。何か心当たりはない?」
「と言われてもな……見たところ落ち込んでいるようには見えないが」
「見えないって……いや、そっか。あんたの目は千里眼だっけ」
「迷いの竹林全てを見通すのは無理だが、妹紅の小屋ぐらいまではなんとかなる」
これで遠くの人を見慣れてしまうと、実際に顔を合わせているのか視線だけで見ているのかわからなくなるので、特定個人を追いかける形で千里眼を使うことは稀だった。
普段は人里の全体を大雑把に把握している程度で、それにしても顔を合わせているかは区別するようにしていた。母から教わった千里眼のコツでもある。閑話休題。
「ふむ……妹紅は家にいるようだな。目に見えて落ち込んでいる様子もない」
「そりゃ人前でもないのに露骨に落ち込んだ様子なんてする意味ないでしょ。というかそんな細かく見えるの?」
「見ようと思えばな。行儀が悪いからまずほとんどやらんが」
「プライバシーの侵害どころじゃないものね。私の言い方も悪かったわ。直接聞きに行った方が本人のためでもある――」
あまり楓に行儀の悪いことをさせるのも忍びなく、また一緒に屋台をやる仲間である妹紅にも悪いと思い、ミスティアがもう見なくて良いと言おうとしたところだった。
楓の目が訝しげに細められ、その場所に来ることなどないと思っていた少女の名前が出たのは。
「む? 輝夜?」
「え、誰?」
「妹紅の不倶戴天の敵というか、因縁浅からぬ仲というか……」
案の定、楓の千里眼の先にいる妹紅は輝夜に食って掛かるが、輝夜は落ち着いた様子で一言つぶやく。
それがなんと言ったのか。口元を袖で覆い隠したそれは読唇を覚えている楓にもわからないもの。
ただ、それを聞いた妹紅が雷に打たれたように硬直し、フラフラと彼女の手を取る光景が楓の千里眼に焼き付く。
「……輝夜と一緒に出ていった。どっちも尋常な様子ではなかったな」
「……もしかして結構根が深い問題だったりする?」
「かもしれない」
迷いの竹林の奥深く。永遠亭は結界に阻まれており、千里眼で突破することは不可能だ。
つまり、あの中に連れ込まれると何が起こっても外部から認識できなくなる。
自分が気づいていなかっただけで、妹紅には前々から何か問題があったのかもしれない、と楓は輝夜と一緒の様子を見て思い直す。
……あるいは今の輝夜の行動も、近い満月の夜に訪れる楓との決戦に必要な行動かもしれなかった。
「ミスティア、知らせてくれて感謝する。後は俺に任せてほしい。下手に口を突っ込むと洒落にならない可能性がある」
「その物言いだと本当に気をつけた方が良さそうね……。わかった、私は吉報を待つわ」
「ああ、待っていてくれ」
「私の要件はこれだけ。妹紅に会えたらミスティアも待ってるって伝えて頂戴」
「必ず伝えよう」
「じゃあ私も帰るわ。次の屋台はいつになるのやら」
ブツブツ言いながら去っていくミスティアを見送り、一人になった楓は最後にもう一度だけ妹紅の方に視線を動かす。
すでに永遠亭の方へ向かったのか、どれだけ視点を動かしても妹紅の姿は見つからない。
ただ、明らかに尋常でない様子だったのは確かである。
言い知れない胸騒ぎを覚えながら、楓はすでに眼前まで迫った決戦に思いを馳せるのであった。
オカルトボールに期待していたわけではない。
どうせ眉唾ものだろうと、九分九厘は疑ってかかっていた。
しかし一厘は真実であってほしいと思っていたとも言い換えられ、願いが叶わないと言われた時の落胆は妹紅自身が思っている以上に大きかった。
誰もいない室内で壁に背を預け、自嘲気味につぶやく。
「死にたかった、ねえ……我ながら浅ましいったらないわね。楓には生きるのが楽しいって語ったのに」
不老不死となった妹紅に死は永遠に訪れない。
どれほど切望しようと、懇願しようと、誰も彼女を死なせることはできないのだ。
最初の百年は後悔に塗れていた。次の百年は全てを諦観に任せた。そうして――終わらない旅路の果てに幻想郷にたどり着いた。
あれだけ恨んでいたはずの輝夜も、同じ不老不死であるという一点でどこか同族意識すら覚えてしまう。
いや、認めよう。今や彼女を恨んでいるというのは表面上の話であり、心の内では彼女にすがっている自分がいる。
「……楓ならこんな時なんて言うかしら」
膝を抱え、ふと脳裏に浮かんだ少年のことを考える。
始まりは些細な行き違いからだった少年との邂逅は、しかし妹紅にとって思いも寄らない奇貨となった。
彼と知り合って以来、全てが目まぐるしく――まるで人間だった頃のように動いていく。
適当に口にした屋台をやりたいという願いも、彼がまたたく間に叶えてしまったのだ。
事実、彼と知り合ってからは死にたいなんて思う暇もなく、今日まで楽しく生きていられた。オカルトボールによる死の可能性が頭をもたげるまでは。
「……やっぱり死にたいのね、私は」
――あら、やっと気づいたの?
独り言のつもりでつぶやいた言葉に返答があり、妹紅は弾かれたように顔を上げる。
視線の先にいたのは憎く、恨めしく、それでいてどこか友情にも似た何かを感じてしまう怨敵――蓬莱山輝夜その人だった。
輝夜は長い袖で口元を隠し、しかし隠しきれない嘲笑を浮かべながら言葉を紡ぐ。
「どれだけ楽しい思い出を作ったところで人は人、不死は不死。誰も彼もあなたを置いていくし、あなたは残される」
「……っ!」
輝夜が語る未来の寒々しさと、やがて自分がそんな未来に到達することが克明に予測できてしまい、妹紅は寒さに身を震わせる。
そんな中、輝夜の声は暖かな日溜まりのような、あるいは生暖かい血溜まりのような、粘着質な響きを伴って妹紅の耳に届く。
「――でも、私は違う」
「あ……」
「戻っていらっしゃいな、妹紅。――あなたの命は、私のものよ」
差し伸べられた手を掴んだら戻れない。漠然とそんな予感を覚えるものの、誘惑には抗い難く。
蠱惑的な白さを誇る輝夜の手を、妹紅は砂漠で見つけたオアシスのように錯覚しながら掴む。
――次に妹紅の意識が戻ったのは、血まみれの楓が眼前にいる時だった。
合間に話すネタが、尽きた……っ!()
輝夜も輝夜で妹紅に大概執着してますし、永遠の前には大体の物事が陳腐化するというのも事実です。
その問いに対し楓がどんな答えを返すのか。それが永遠亭での戦いの焦点にもなります。どんな答えになるのか? 未来の私が考えるのでへーきへーき(真顔)
もう少し日常会話を挟みたいのですが、思いつかなかったら次回から永遠亭突入します()