阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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死神の語る永遠

「ふぅ……明日の授業の準備はこんなものか」

「お疲れ様。これを慧音は昔からやってきたのでしょう。人里の住人は頭が上がらないわね」

 

 寺子屋の一室。教師たちが使う部屋で慧音は明日の準備を整えていた。

 そんな彼女に労う声をかけるのは、同じく教師でもある比那名居天子だ。

 何かと要領が良く、誰かに教えるのも上手な彼女はさっさと準備を終えていたが、慧音を待ってくれていたらしい。

 

「ははは、私が好きでやっていることだ。年季だけは積んでいるから慣れたものだよ」

「人里の守護者もそうだけど、あなたみたいな人がいたことが人里にとって一番の幸運でしょう。どれだけ優秀な頭脳があっても、学ぶ余地がなければ磨かれないのと同じように」

「そう褒めないでくれ。褒めても何も出ないぞ?」

「私も守護者と教師を務めて思ったことを口にしただけよ。さて、そろそろ帰りましょうか」

「そうだな。途中まで一緒にどうだ?」

「良いわよ。天人のお供をする権利を与えるわ」

「それは光栄だ」

 

 慧音と天子は並び立って夕焼けに暮れなずむ人里を歩いていく。

 授業が終わり、遊んでいた子供たちも今はどこへ行ったのやら。朝の騒がしさが嘘のように静まり返った寺子屋を振り返り、慧音は眩しそうに目を細める。

 

「……あの場所が私の願いだったんだ」

「願い?」

「ああ。私がこれでも人里で長いことは知っているだろう?」

「ええ、どれほど昔からなのかは知らないけれど」

「だから色々と見てきたんだよ。どうしようもないこともたくさんあった」

 

 そう語る慧音の目はここではないどこかを見ている様子で、その視線に秘められているであろう歴史に天子は何も言うことができなかった。

 

「……子供が死ぬことも今ほど珍しくなくてな。守護者をしていても守れない命もザラにあった」

「…………」

「妖怪との共存など夢のまた夢だと思ったよ。人間は人間だけで手一杯だったのだから」

「……変えたのが楓の父親だったというわけ」

「そうだな。正直、あの子がそんな願いを持つとは思ってなくて驚いたが」

 

 天子がそれとなく今に目を向けるよう話すと、慧音はおかしそうに小さく笑う。

 

「そんな願い?」

「受け身な子だったんだ。自分から積極的に友人を作りに行くタイプじゃなかった。寺子屋の友人だって最初は私がそれとなく世話をしたくらいだ」

 

 そこから生涯の親友となったのだから、一度付き合いを持ちさえすれば付き合いの良いタイプだったのだろう。

 しかし、キッカケがない限り自分から動くことはないタイプでもあった。

 

「……そういえば慧音は楓の父親も教えたんだっけか。あいつは父親のことをあんまり話さないのよね」

「こう言ってはあれだが、あまり知らないんだろう。誰かに私情を見せるのを良しとしない人間だったし、彼のことだ。後継としての稽古だらけで人となりを知る時間すらなかったはずだ」

 

 それでも楓が父親を尊敬しているのはよくわかる。

 純粋に子として父を慕っているのか、はたまた偉業を成し遂げた阿礼狂いへの尊敬なのかはさておき。

 

「父と子なのに?」

「本当に感情を表に出すことは滅多になかったからなあ……。私が見ている限りでも数回あるかないかだろう」

「楓とは大違いね……」

 

 楓は公人として動いている時は真面目にこなすが、そうでない時間などに話しかければ普通に笑うし、彼からも積極的に話しかけてくる。おそらく人と話すこと自体が好きなのだろう。

 慧音も同じことを考えたのか、また小さく楽しそうにくすりと笑う。

 

「あれは母親に似たんだろうな。良し悪しかもしれないが、私は今の楓が好きだよ」

「ま、思ったことを言わないよりはマシでしょうね。それで慧音から見た父親ってどんな感じだったの?」

「ふむ……一言で表すならやはり英雄、だろうな」

「へえ?」

「人間、誰にだって良い点と悪い点があるものだ。良い点だって裏を返せば欠点になりうることもある。私も人里の規範にならんと心がけてはいるが欠点だってある」

「そりゃそうでしょう。誰しも表裏一体の美点と汚点を抱えているものよ」

 

 天子の言葉に慧音も同意の首肯をする。

 

「だが、彼にはそういった欠点がまず感じられなかった。いっそ人間味がないと言っても良かったな。それぐらい徹底して欠点というものを感じさせなかった」

「……どうして?」

「都合が良いから、だろう。英雄として振る舞えば人々は頭を垂れ、自分の思う通りに動かすことができる」

「できるからって実際にやる人はそういないわよ……」

「けどあいつはやり遂げた。英雄として知られるようになった二十代の頃から、死ぬ直前まであいつは人里の英雄であり続けた。片時も休むことなくな」

 

 あるいはだからこそ、素の自分を出す方法を忘れてしまったのか。

 振り返ってみても楓と彼の父親が親子らしい交流をしていた姿が思い浮かばない。

 

「……英雄としてはよくわかったわ。慧音から見たらどうだったの?」

「立派な教え子の一人だよ。どんな打算があったにせよ、あいつの存在が奇貨となって幻想郷は大きく様変わりした。時代を動かす人間とはああいうのを指すのだろう」

「ふぅん……今の人里に大きく貢献しているのね」

 

 天子が視線を動かした先には天狗と一緒になって酒を飲む人間の姿があった。

 今でこそ当たり前に見られる光景だが、それも一昔前はなかったのだ。

 

「ああ。というより、私は今の状態の方が信じられんよ。人間と妖怪の確執は根深く、長いものだった」

「幻想郷から出られない人間に妖怪と仲良くしろってのも無茶苦茶な話か」

「妖怪に家族を殺された人もザラにいた。その意味でも今は本当に夢のような状態だ」

「私や楓は今が当然だけど、そうでもないのね」

「何かを作り上げることと、維持することは求められる力が違う。そしてどちらも多大な力が要求されるものだ。お前と楓が一緒になって異変解決しているのは私の耳にも届いているよ」

「私は冒険が大好きなの。そして楓は私の求める冒険を提供してくれる」

 

 あの突っ立っているだけで騒ぎを引き寄せる間の悪さはもはや才能だろう。

 天子は自分の人生が手放しで喜べるようなものではなかったと思っているが、彼と出会えたという一点でお釣りが来るとすら思っていた。

 慧音は胸を張る天子に微笑み、人と妖怪が区別なく笑い合っている人里の方へ足を踏み入れていく。

 

「過去には色々あった。口にするのも憚られるような事件や、誰もが傷つくだけの事件もあった。だがこうして今に続いたからには――意味があったんだと思うようになった」

「…………」

「お前たちには感謝しているよ。願わくばこの時間が続くよう、私も祈っている」

「祈っているだけじゃ足りないわ。あなたもその一端になれるよう尽力なさい。本当に失いたくないものは見守るだけじゃなく、自分で手を尽くすものよ」

 

 これは一本取られてしまった、と慧音は笑う。

 どうやらまだ耄碌するには早いらしい。それなりに長く生きて、長く人の歴史を見てきたが、これからもそれは続いていくのだ。

 

「私も長く生きたから当事者ではないと思い込んでしまった。まだまだ子供たちには教えたいことも山ほどある。気合を入れ直すか!」

「その意気よ。じゃあ気合を入れ直すついでに呑みに行きましょ! 楓も大目に見てくれるわ!」

 

 深い知見と長く人々を見守り続けた自負があるがゆえに、時々足を止めてしまいがちな同僚の背中を叩き、天子と慧音は肩を組んで酒場に入っていくのであった。

 ……そして天人すらも酔い潰れるほどに飲み明かし、話を聞きつけた楓が二人を背負って帰る羽目になるのだった。

 

 

 

 

 

 ある日、楓が歩いていると隣に紫の傘が現れる。

 雨でもないのに紫の傘を広げ、楽しそうにくるくると回しながら楓の方を見上げてきた。

 見上げてきた少女――赤と青の目を持つ多々良小傘は楽しそうに声をかけてくる。

 

「ばぁー! おどろけー!」

「暇なのか?」

「わちきの食事を暇扱いした!? これは立派な食事ですよ!?」

「お前の驚かし方があまりにも高度すぎて咄嗟にわからなかった」

「え? そんなに難しい? うーん、これはもしかして今までもわちきの驚かし方が高度過ぎた……?」

「すまん適当に言った」

「ですよね!」

 

 あしらわれながらも小傘が楓から離れる様子はない。

 

「何か用事でもあるのか? 話なら聞くが」

「うん、前にわちきが鍛えた銀の刀はどうなったのかなって思って!」

「あれか。大いに助けられた」

「ほんと?」

「あれがなければ間違いなく死んでいただろうな」

 

 今思い返しても満月にレミリアとの決戦を挑んだのは、早まった行為だと言わざるを得ないほどの激戦だった。

 あの時からこちらも成長したのでもう一度同じことをやれる自信はあるが、それでも銀の刀は必要不可欠になるだろう。

 その辺りのことを小傘に話すと、小傘は自分の鍛えた剣が役立ったことを理解し、顔を喜色満面に輝かせる。

 

「ねえねえ、どうやってわちきの刀を活かしたの? どんな戦いだったの? 教えて教えて!」

「そうだな。まずレミリアは紅魔館もろとも吹っ飛ばすような一撃を放ってきて、俺がそれを転移で避けて反撃してからが本当の始まりだった」

「わかった。わちきみたいな木っ端妖怪じゃ割り込むことすらできない戦いだってことがわかったからもう良いです」

「なんだ。お前に鍛えてもらった銀の刀を溶かしてレミリアに流し込んだところがハイライトだぞ」

「待って、わちきの剣溶かしたの!?」

「ところで話は変わるがお前の驚かせ方は順調なのか」

「ごまかすなーっ!」

 

 ダメだった。ついつい言わないで良いことを言ってしまったと楓は顔をしかめる。

 実際のところ重要だったのは銀を手元に持っていることであって、小傘が鍛えた意味は特になかったりするのだが、それをそのまま言ったら小傘が怒るのは目に見えていた。

 

「なに、どういう使い方したの!? 道具を大事に扱わないやつにはから傘お化けの天罰が下るぞー!」

「過程を省くと最終的には折れた」

「それは仕方ありません。聞きかじっただけですが守護者さまはそれはもう凄まじい激戦をくぐり抜けたことがわかります。わかりますので、折れたことはこの際不問にします」

 

 折れたことそのものは問題ないらしい。

 小傘にとって道具とは持ち主を助けるものであって、その過程で壊れること自体は仕方のないものとして受け止めているようだ。

 

「でもどんな使い方をしたのかです。わちきの鍛えた刀は刀として、ちゃんと相手を斬る役目を果たしたのですか?」

「……まあ、おおよそは?」

「ちゃんと仔細を言えーっ! がおーっ!」

「途中でまとわせていた銀を炎で溶かして使った。レミリアの目を欺くためにはそれしかなかった」

「むむ、判断に困る使い方をしたわね……。じゃあじゃあ、最後の質問です。わちきが守護者さまの刀を鍛えた意味はありましたか?」

「正直そんななかった」

 

 霊夢によって清められた銀を隠し持って使っても結果に違いはなかっただろう。

 そのことを素直に話すと小傘は涙目で怒ってぽこぽこ叩いてくる。

 

「がおーっ!!」

「悪かった! 悪かったからやめろ!?」

「道具を大事に使わないと道具にそっぽ向かれちゃうんだぞーっ! 荒っぽい扱いにも限度はあるのです!」

「反省してる! 次からは気をつけるから!」

「次? 守護者さま、もしかしてまたさっき話したみたいな激戦に首突っ込むんです?」

「……後一回は確実に」

「命を何だと思ってるんですか守護者さまは!?」

 

 なんだか道具の扱いとは別の方向で怒られてしまった。

 ぷりぷりと怒っている小傘に下手なことを言うと不味いと思って黙っていると、小傘は諦めたようにため息をついた。

 

「はぁ……。守護者さまはものすごく強いのでしょうが、色々とダメダメですね。道具の扱い方とか、命の扱い方とか」

「正直返す言葉もないが、俺だって別に好き好んで修羅場に首を突っ込んでいるわけじゃないぞ」

「自分から行ってたら刀を鍛えてあげません! ……それで、次があるんだったらわちきの鍛えた刀は必要ですか?」

「……いや別になくても困らな――」

 

 永遠亭での決戦に必要なものが読めない。なので刀なども特に新しくする必要は感じていないと口にしようとしたところ、小傘に思いっきり足を踏まれる。

 

「ひ、つ、よ、う、ですか?」

「……神は細部に宿るというし、念を入れて困ることもないだろう。お願いする」

「よろしい。そういえば守護者さまの使ってる長刀の方は大丈夫なんです?」

「こっちの手入れは俺がやっている。誰かに任せる気もない」

 

 誰かと話している時は黙っているよう厳命している椿が無言で抱きついてくるが、無視して長刀に手を添える。

 

「これは父上の形見でもある。それにもう付喪神化もしていてな。人任せにはできない」

「え、そうなんです? その割には付喪神の妖怪さんを見ませんが」

「特殊なやつでな。俺以外に見えない」

「そうなんだ。なんか親近感湧くなあ。そこにいるの?」

「ああ、今も俺の首に抱きついてる」

「じゃあお兄さん、長刀の方は本当に大事に使ってるんだ。良かったね!」

 

 小傘の顔が楓のやや上――折しも椿のいる場所に向かって笑顔になる。

 それを見た椿はむず痒そうにはにかんで照れた笑いを返すのであった。

 

「いっちょ前に照れたらしい。ともあれそういうわけだ。こっちの長刀は預けられん」

「それならしょうがないですね。そっちの刀はどうします?」

「そうだな……徹底的に磨いてくれ。光も弾くぐらいに」

「磨く?」

「上手くハマれば儲けもの程度の考えだ。頼めるか」

「……守護者さまが突っ込む戦いってもしかして刀程度じゃどうにもならないものだったりします?」

「予想だが、多分」

 

 レミリアと違って永琳に弱点があるとも思えない。刀に小細工を仕込んだところで付け焼き刃以上にはならないだろう。

 

「逃げちゃダメなんです? わちきにはよくわかりません」

「ダメだ。阿求様に関わることだ。絶対に避けては通れない」

「むむ……だったら、守護者さまの武器を鍛えた者としては祈るしかないのです。わちき、守護者さまのことは結構好きなので」

「意外だな。てゐを紹介したりしたから好かれているとは思ってなかった」

「その長刀を大事にしているだけで十分です。付喪神になるくらいってことはすごいことなんですよ」

「父上からの形見でもあるからな。俺一人のものじゃない」

「わちきもから傘お化けだから道具が大事にされているかはわかります。守護者さまには左の刀も大切にしてほしいですが!」

「すまん」

 

 術を使ったりするので、左の手は空けておきたい状況も多いのだ。

 それに楓の扱いに耐えられる名刀の入手も難しい。椿の宿った長刀が例外だった。

 幻想郷で良い刀が入手しづらい事情などを話すと小傘は長刀の方に視線を向ける。

 

「じゃあその刀はどこで手に入れたんです?」

「俺も詳細は知らんが、天狗の鍛えた刀らしい。人里で手に入る刀よりは名刀だろう」

「なるほど。だからそれだけ造りが違うんだ」

「わかるのか?」

「見る人が見ればわかる」

 

 断言する小傘の姿には鍛冶師としての矜持が浮かんでおり、楓も素直に感心する。

 驚かせ方の才能は全くもって皆無だが、鍛冶師としては信頼できるのだろう。

 

「なるほど。ことのついでだ、刀の手入れについても改めて教えてもらおうかな。時間はあるだろ?」

「もっちろん! 守護者さまのおごりよね?」

「誘ったんだ。それぐらいは持つ」

「よっしゃあ! じゃああそこの酒場に行こう!」

 

 小傘と楓の話がまとまったところで、いきなり後ろから肩に手を置かれる。

 千里眼で気づかなかったという僅かな驚きと、彼女なら可能であることを理解した楓は振り返り、その少女――小野塚小町に視線を向ける。

 

「え、誰!?」

「また死神が人里でサボりか? 良い顔はできないぞ」

「固いこと言わないでおくれよ少年。久しぶりに見かけたから声をかけたんだ。もっと喜んでくれても良いんじゃないかい?」

「小傘、こいつの相手を頼む。俺は閻魔大王に報告してくる」

「迷わずあたいの一番不味い相手に報告しないでくれるかな!?」

 

 小町がサボること自体は楓に関係ないことなのだが、サボっている彼女と一緒にいるところを映姫に見られた場合、自分まで説法の対象になるのだ。

 

「まま、固いこと言わないでさ。あそこの茶屋とかどうだい?」

「……仕方ないな。小傘もそれでいいか?」

「あ、うん。ところでこの人は一体どちらさま?」

「死神だ。普段は三途の川にいるんだが、こいつは時々サボって人里に来る」

「それって良いの?」

「こいつの上役に見つかったら脅されて仕方なくということにする」

「脅しに乗るタマじゃないだろ!?」

 

 小町の言葉は無視し、小傘を引っ張りさっさと茶屋に入っていく。

 それを見た小町はやっぱり声をかけるべきではなかったかもしれない、とほんの少し後悔しながら後を追いかけた。

 

「それで? 俺に何か用事でもあったのか?」

「最近、映姫様の監視が厳しくてなかなか人里に来れなくてね。何か面白い話とかがあったら教えてほしいってのが一つ」

「異変なら山程あったぞ。一息つく暇もない」

「そうだよそれそれ! そういう話ならお前さん以上はいないだろ?」

「わちきも興味あるかも!」

「では一つ話すとするか。まず直近の異変から――」

 

 人里の娯楽は主に酒か話すことである。

 小町と小傘もその例に漏れず、楓の語る異変の話に目を輝かせて食いついてきた。

 特に楓は異変以外にも騒動に巻き込まれたり、自分で巻き起こしたりしているため、話の種が非常に豊富だ。

 普通の人なら一生体験しないであろう、人妖入り乱れた騒動は聞いているだけでも面白く、光景が目に浮かぶようだった。

 

「――で、最後は俺と阿求様で全てを薙ぎ払ったわけだ」

「かーっ! オカルトが流行る異変とかあったんなら教えとくれよ! 死神が関わったらめっちゃ楽しそうじゃないか!」

「いなかったんだから仕方がない。この異変の前だと次は――」

「うんうん、次は次は!?」

 

 道具が付喪神になり、強いものが弱く、弱いものが強くなる異変について話すと小傘が食いついてくる。

 

「あの時はわちきの力も強くなってたんだ……。よくわからないし怖いから引きこもってなければわちきの天下が来たかもしれない……!」

「そうやって調子乗った妖怪が大妖怪に挑んでゴミのように蹴散らされた話もあるぞ」

「やっぱりダメだった……」

「人里は良いねえ。三途の川には面白い話なんてなんにもありゃしない。死んだやつの話を聞くこともあるけど、どれも似たりよったりさ」

「俺としてはそっちの方が気になるが」

 

 隣の芝は青いというものかもしれない。

 楓は異変や巻き込まれた騒動について記憶を掘り返しながら語っていると、ふと思い出したように小町が口を開いた。

 

「そういえば少年。不老不死の少女はどうしたね」

「妹紅のことか?」

「そうそう。屋台を始めたって聞いたから行こうとしたのに今はやってないのかい?」

「同じ永遠を生きるやつの手を取ってからは見てないな。家に戻った様子もない」

「ふうん。永遠を生きる連中には色々あるのかねえ」

「死神としては不老不死を認めて良いのか?」

「良いも悪いも、実際に存在するんだから仕方がない。個人的には死ねないなんて苦しいだけだと思うけどね」

「その割には天人は死神を倒して生き長らえているらしいが」

「それはそれ、これはこれさね。嫌われ者は辛いよ」

 

 楓は別に死神を嫌っていなかった。

 死は安らぎであり、役目を果たしたものへの安息である。

 成すべきを全て果たして逝った父を知っているのだ。死に悪いイメージは持っていない。

 

「ああ、だけどお前さんは不老不死と友人だったんだろう? なら気をつけな。――死ねない連中に負けはない。真っ当にやり合う方がバカを見る」

「…………」

「首を突っ込むんならよく考えるんだね。普通は死んだら終わりだ」

「わかった、覚えておこう」

 

 知ってか知らずか、小町の発言には死神ならではの含蓄が込められていた。

 近いうちに永遠に挑む予定の楓にとっても他人事ではないと肝に銘じ、その話の感謝として一つ教えてやろうと口を開く。

 

「死神の含蓄が聞けた礼だ。――映姫がここに向かってるから逃げた方が良いぞ」

「うへぇあ!? も、もう気づいたのかい!? 少年、助かったよ! 釣りはとっときな!!」

 

 泡を食ったように急いで逃げ出した小町を見送り、楓は続きの言葉を口にする。

 

「――映姫は一直線に向かってたし今も方向を変えたから小町自身が補足されている可能性大だが」

「うわぁ……最後まで言ってあげなかったね……」

「話を打ち切った向こうが悪い。俺たちも行くか」

「あ、わちきは鍛冶場に戻らないと。新しい針を鍛えてほしいって仕事があるんだ」

「そうか。息災でな。また今度鍛冶場にも顔を出そう」

「うん、またねー!」

 

 大きく手を振る小傘と別れ、一人になった楓は小町の言葉を反芻する。

 

「死ねない連中に負けはない、か……」

 

 なるほど確かに、道理である。

 楓がいくら切り刻んだところで復活する以上、いずれは体力の尽きた楓が死ぬことになるだろう。

 そうならないためにも、今のうちから不死者と勝つ方法について考えておかなければならない。

 

「レミリアの時とはまた違った答えが必要になりそうだ……」

 

 単純に切って終わりではない。言葉による説得も必要になるだろう。

 楓は一人歩きながら、永遠亭の面々について思いを馳せるのであった。

 

 

 

 後に楓が述懐する際、小町の言葉がなければ間違いなく死んでいただろうと自らの幸運に感謝したのは未来の話である。




永遠亭の決戦は戦闘に勝つ以外にも勝利条件があります。満たせない? 死にます()

死なない敵を相手にするので口プロレス技能は必須。
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