阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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変わらずそこに在るもの

 天子と楓はよく夜に並んで晩酌を傾けることがあった。

 その日の出来事を語り合い、星を肴に明日の希望を語らう場所。

 

「今日は地底に行ってきたけど、あそこの熱気はいつもこもってるわ。鬼の住処なんてすごい熱気よ」

「酒と喧嘩が華の場所だ。天子には俺の代わりに行ってもらっていつも感謝している」

「ふふん、もっと感謝なさい。ああ、これはいつもの地底の酒よ」

「またこれか……」

 

 味も何もあったものではない、ただ酔うためだけに作られたとしか思えない酒だが、不思議と嫌いになれない味で天子が気に入っているものだった。

 

「美酒は天界で飲み飽きたのよ。たまにはこんな酒という存在に謝って欲しいぐらいの不味い酒が恋しいわけ」

 

 言いながら天子は楓の盃に並々と注ぎ、自身の盃にもまた注いでいく。

 満月から少し欠けた月を酒に浮かべ、気持ち良さそうに酒を飲み干しては大仰に顔をしかめる。

 

「うーん、不味い!」

「ほんとにな。甘いも辛いもあったもんじゃない、酒精ばかり強い」

「一人では絶対飲みたくない酒ね。この不味さは笑い飛ばせる誰かがいないと」

「一人だったら二度と飲まないで終わるだろうな……」

 

 天子の横に置いてある酒を楓も手に取って、おかわりを注いでいく。

 酒に酔ったことがない楓にもわかるくらいにこの酒は不味く、しかし天子と飲むならまあ良いかと思える程度には気に入っている酒だった。

 天子にもおかわりを注いでやると、天子は勢いよく酒を流し込む。

 そしてわずかに赤みを増した顔で口を開いた。

 

「それであんたはこの前の満月、どこに行ってたの」

「さすがに気づくか」

「戻ってきた時の傷を見ればわかるわよ。外側だけ取り繕ってたみたいだけど、中身はぐちゃぐちゃ。あんたがそこまで追い込まれる相手がまだいたんだ」

「永遠亭だ。月の兵装は恐ろしい。レミリアの助力がなかったら死んでいた」

 

 空から降り注ぐ光の雨は思い出すのも恐ろしい。我ながらよく凌ぎ切って勝利を掴めたものだと楓も思っていた。

 傷を負った経緯やそれでも勝利した過程をかいつまんで話すと、天子は興味深そうに何度もうなずく。

 

「私なら要石で光の矢を撃ち落としながら、って感じかしら」

「おそらくは。常に要石を自分の周囲に浮かべて、そこから逃れてくる矢を緋想の剣で払い落とせば戦えなくもない」

「なるほど。私にもまだまだ伸びしろがあると。楽しいわね、上を目指すというのは」

「……誤解されても困るから言っておくが、俺があの戦いにお前を呼ばなかったのは力量云々の問題じゃないぞ」

「じゃあどうして呼ばないのよ。あんたにとって一番身近で、手っ取り早く動かせる戦力は私でしょう?」

 

 不満そうに口を尖らせる天子に何と言って説得したものか。楓は盃を傾けながら考える。

 

「一番身近だからこそ、万が一を頼みたかった。死ぬつもりは毛頭ないが、死んでしまった場合は考えないといかん」

「あんたが死んでも人里の守りは私が行うから万全って言いたいわけ? でもお生憎様。あんたが死んだら私に人里を守る義理はなくなるわ」

「……そうか。俺はこんなところでも死ねないわけか」

「で、呼ばなかった理由を答えなさい。はぐらかすんじゃないわよ」

「満月のレミリアがいれば十分だと思ったのが一つ。頭数だけ増やしたところで対抗できる絵面が描けなかったのが一つ。後はまあ、俺の私的な戦いだ。付き合ったところでお前に得があるわけでもなかった」

「……それで納得してあげるけど、次は呼びなさいよ」

 

 やはり彼女に何も言わず月に行くのは不義理か、と悟った楓は盃の酒を飲み干した後で言葉を紡ぐ。

 

「……近いうちに月に行く」

「月……月!?」

「永遠亭の面々は月からの逃亡者だ。月に文明があるのは驚くことじゃない」

「どうやって行くのよ!?」

「昔、霊夢たちは一度月に行ったことがある。その方法をまた使うのか、あるいは――」

 

 すでに月からの侵攻は行われているらしい。

 ということは月から地上に来る方法が存在すると言い換えられる。月との連絡手段もあるだろう。

 後はその場所さえ突き止め、侵攻してきた奴らを返り討ちにすることで月への移動手段は確保できる。

 

「まあ方法はあるということだ。月に行ってからが本番なわけだが」

「聞いてなかったわ。月に行って何するの?」

「月の文明を持ってしても手も足も出ない存在を倒しに行く」

 

 月との相性問題もあるらしいが、と前置きして楓は純狐の情報を語っていく。

 純化する程度の能力を所持しており、傷一つでも負えばその傷を純化させて殺すこともできるという話を聞いて天子の顔も引きつるが、楓が挑むつもりであることを理解すると真面目なものに変える。

 

「命の保証はできん。……だが、月に行くなんて機会、これっきりだろう。他に霊夢も誘うつもりだったが、お前も来るか?」

 

 そう言って楓が見た天子の横顔は月に行けるという好奇と期待に輝いていた。

 

「私が否、なんて言うと思う? 月よ、月。天界よりも更に果ての天上に座す天体! そこに直接行ける日が来るなんて! 本当、あんたと出会って良かったわ」

 

 危険だとわかっていても、いやだからこそ燃えるとばかりに瞳を輝かせており、楓はこれ以上何を言っても意味がないと悟る。

 

「絶対に声かけなさいよ。私に無断で月なんて行ったら一生恨むからね」

「わかったわかった。危険だと言ってもお前には何の意味もないな……」

「自分の命の責任は自分で取るわ。死んでも気に病まないでいいわよ」

「安心しろ。御阿礼の子以外で誰が死んでも気に病むことはない」

 

 そう言うと天子はそれもそうだと納得して大笑いを上げる。

 どうやら話している間にだいぶ酒が回ったらしい。天子の顔は今や夜の月明かりでもわかるほどに真っ赤に染まっていた。

 月の話は一段落したので、約束の話を切り出すか否かを楓はわずかに逡巡する。

 今の彼女相手に約束したところで覚えているのか不安だったのだが、さすがにそこまで酒に飲まれることはないだろうと判断した。

 

「……天子、お前は天界からの追放期間が終わったら天界に戻るのか?」

「こんな楽しい場所をほっぽりだしてつまらない場所に戻れと? 楓も酷なこと言うわね」

「戻る気がないんだったら聞いてくれ。俺も長く生きる理由がある」

 

 御阿礼の子の役目と、それに付き従う楓の事情を話すと天子は顔の赤みは残ったままながら、真面目な顔でそれを聞いていく。

 

「……それがあんたの役目ってこと。いつか彼女の役目が終わる時まで――」

「隣に居続ける。そのためにも俺は是が非でも長く生きる必要がある」

「……それであんたは私にどうしてほしいの?」

「約束をしたい。お前を楽しませ続けるから、俺が死に引きずられそうな時、お前が引き戻してほしい」

「ん、なるほど」

 

 天子は小さく笑い、噛みしめるように何度もうなずいていく。

 

「それ、他の連中には言ってないでしょうね」

「毎回言われるんだが、これで三人目だ」

「あんた刺されて死なないようにしなさいよホント」

 

 天子からも真顔で言われてしまい、楓は首を傾げるしかなかった。

 

「別に今までと何か変わるわけじゃないだろう。突っ立ってるだけで異変や騒動が寄ってくるんだから、お前は俺の近くにいるだけで楽しく生きられる」

「まあそうね」

「だったら俺が死にそうな時ぐらい助けてくれても良いのでは?」

「過程も結果も言いたいことはわかるのに、言葉にされるとうなずきたくないこの気持ちは何なのかしら……」

 

 それに楓を現世に留める鎖が多いに越したことはない。

 なのでそれなり以上に深い間柄になった友人には声をかけているつもりなのだが、皆から口を揃えて女心を理解した方が良いと言われる。

 

「誰か一人に自分の命全部背負わせる方が無責任じゃないか?」

「お互いの命を預けても良いと思えるほどの信頼関係とは受け取れないの?」

「信頼してようがしてまいが、失敗したら終わりだろう。危険は分散するに越したことはない」

「誰かの手を借りずに生き残るのは無理なわけ?」

「無理だ。気合や根性でどうにかなる問題じゃないのは身にしみている」

 

 一人で耐えられるなら楓とてこんな約束を取り付けたりはしない。

 分散しているとは言え、命を背負わせようとしているのだ。人によっては耐え難い重圧となることだろう。

 

「とはいえ頑張らないわけではない。要するに俺の方でもなんとか足掻くけどダメだったら助けてくれという約束だ」

「……互いのために生きる約束って結構重いと思っていたんだけど、あんたにかかると形無しね」

「それで答えはどうだ」

「……わかったわかった。あんたが一人でどうしようもない時は、皆で一緒に引っ張り上げてあげるわよ。何百年先だろうと、変わらずにね」

「感謝する」

「海よりも深く、山よりも高く感謝なさい。この天人に引っ張ってもらってまで生きようとする傲慢な男の行く末を見届けてあげると言っているのだから」

 

 胸を張って空を見上げる天子に楓も首肯を返す。

 

「千年か、万年か、あるいは億年か。俺は御阿礼の子の旅路に最後まで同道する。……その時までよろしく頼む」

「これを他の連中にも言っているのが業腹だけど、喜んであげようじゃない! だからくだらないことで死ぬんじゃないわよ。少なくとも私が見ている前で死ぬことは許さないわ」

 

 これから向かう月の異変のことを指しているのだろう。

 無論、楓に死ぬつもりは毛頭ない。誰が相手でも倒して生き残るつもりだった。

 コクリと大きくうなずいた楓を満足そうに見て、天子は盃を差し出してくる。

 楓もまた自らの盃を重ね合わせ、同時に盃を乾すのであった。

 

 

 

 

 

「珍しいわね。あんたからマヨヒガに行きたいだなんて」

「スキマに用事があってな。霊夢に頼んでも良かったんだが、草の根妖怪ネットワークに顔も出せてないから近況確認も兼ねてだ」

 

 人里で顔を合わせた橙と会話し、彼女の案内でマヨヒガに向かう約束を取り付けた後の話だった。

 橙は定位置である楓の頭の上に陣取り、草の根妖怪ネットワークの会合場所でもある霧の湖を指差す。

 

「ふぅん。じゃあ霧の湖の方から行きましょうか。それゆけ子分ー!」

「はいはい」

 

 魔法の森を一直線に歩き、霧の湖を目指していると橙に頭上から声をかけられる。

 

「あんたもまた腕を上げたみたいね。立ち振舞があいつそっくりになってきた」

「父上か? 霊夢や母上にも言われた」

「そうなんだ。んじゃ私からは言ーわない。あいつを褒めるのも癪だし」

「橙らしい」

 

 父との関係は悪友とも言うべきものだったのだろう。

 楓は橙らしい態度に小さく笑い、自分の近況を話し始める。

 

「こっちはまあ……いつも通り騒動があって、いつも通り命を懸けてきた」

「そっか。ここにいるってことは勝ったのね」

「ああ。父上の背中ももうすぐまで迫った」

「一年ちょっとでもうそこまで来たんだ……。私も成長しているのに生意気よ! うりうりー!」

 

 大きな犬にするように頭をぐしゃぐしゃと撫でられ、楓は困ったように笑いながらされるがままとなる。

 途中で鬱陶しくなったので頭をブンブン振って静かにさせた後、橙にふと思ったことを聞いてみる。

 

「橙はいつか藍やスキマよりも強い妖怪になるのが夢だったか」

「そうね。橙の名前を聞いたら誰もが震え上がるぐらい……いやそれは怖がられているから微妙ね。橙の名前を知らない人がいないくらいの大妖怪になるの!」

「妖怪は怖がられてこそじゃないのか」

「もう古いわよ。今や人里で妖怪を見ないことの方が珍しいじゃない」

「まあ確かに」

「畏れは大事だけど、恐れはいらないのよ。私はそう思うわ」

「人里にあまり顔を出さず恐れを獲得しようとしている妖怪もいるが」

「その妖怪は恐れが大事だと思ったんでしょう。私は思わなかった。それだけの話よ」

 

 妙に達観した橙の妖怪観を聞いていると、楓も自分は半人半妖としてどうなのか気になってしまう。

 

「俺はどうなんだ?」

「あんたはあいつと一緒でしょ? 人でも妖怪でもない。あんたはあんた。他の誰にもなれない」

「…………」

「あんたは好きにして良いのよ。それがダメだったら私が止めるし、良ければもっとやれって背中を押すだけなんだから」

「……じゃあ俺の話も聞いてくれるか?」

「いいわよ、なに?」

 

 最近、どうにも友人の少女たちから刺されることを懸念する声ばかりが聴こえてくるのだ。

 

「困った時には助けるから俺も助けてくれと言っているだけなんだが、そんなにおかしなことを言っているのだろうか」

「お前のために生きるってのは結構重要そうだけど……というか楓、あんた誰に対してそんなの言ったの?」

「絶対に死なない不老不死の少女」

「楓が悪いわ」

 

 死なない人間に共に生きようと言ったのなら楓が悪いと断じる橙だった。

 楓は橙の断言に目を見開くものの、反論はしなかった。橙が言うなら実際そうなんだろうと受け入れる。

 

「橙が言うなら言葉が悪かったのか。しかし前言を翻すわけにもいかん」

「ダメなの?」

「嘘にする気はない。誰が見ても生きているとは言えなかった奴だった。あそこから引きずり出すにはそれぐらい言ってやらないとダメだと思った」

「じゃあ良いわ。言い直そうとか無理だと思うとか言ったら首を絞めてたわよ」

 

 勢い任せなところもあるが、言ったことを嘘にはしない少年だと橙は知っていた。

 

「橙は俺が死にそうになったら助けてくれるか?」

「当たり前でしょ。子分が危なくなったら親分が助ける! だから楓も私が危ない時は助けてね?」

「もちろん」

 

 この妹のような姉貴分はいつ見ても真っ直ぐだ。

 幼い頃から変わらず、だからこそ眩しく見える橙の姿に楓はほんの少し目を細め、霧の湖へ向かうのであった。

 

 

 

 霧の湖でいつも会合している場所に向かうと、珍しいことに蛮奇の姿もあった。

 わかさぎ姫、影狼、蛮奇の三人で集まっているところへ向かうと、楓たちに気づいた影狼が大きく手を振って来る。

 

「あ、楓! ばんきっきも来ているし、今日は珍しいね」

「人里はいつも通りの騒がしさで慣れてしまった。楓は何かあったのか?」

「ちょっと迷いの竹林の方で戦ってきた以外は何も」

「この前の満月の夜にお屋敷の方が妙に明るかったんだけど……」

「近づかないで良かったな。俺と永遠亭の戦闘の余波だ」

「昼間みたいに明るくなってたのに!?」

 

 好奇心を覚えて近づいていたら巻き込んでいた可能性が高い。楓も周囲に気を配りながら戦える状態ではなかったので、もろともに焼き尽くしていただろう。

 戦いの規模を話すと影狼は顔を真っ青にし、ガタガタと自らの身体を抱きしめる。

 

「危なかった! ちょっと何が起こってるんだろうって気になってたけど満月だから遊んだ方が良いやってなってよかった!」

「しかし話を聞くだけでも途方もない戦いだな。降り注ぐ光の矢とそれを薙ぎ払う炎と刀。下手すると神話の時代の戦いじゃないか?」

「どうだろうな。ともあれ俺の方はそれぐらいだ。ああ、あと近いうちに月に行く」

 

 驚くだろうと思っての発言だったが、楓の言葉に対して周囲の反応はそうなんだ以上ではなかった。

 

「お土産は月の石でよろしく!」

「楓はいつかそれぐらい行くと思ってたよ……」

「月に行くかもしれない人間ってどういう評価なんだ……」

 

 わかさぎ姫、影狼の言葉に楓は褒められている気がしないと微妙な顔になるが、あながち反論もできないので微妙な顔を続けるしかない。

 

「お前の戦いや経験を聞いているとな。月に行くのもお前ならそれぐらいありえるだろうと思ってしまうんだ」

「紫さまも前に月に行ったって話聞いたし、楓も行くんだなって思うだけよ。無事に帰ってきなさいよ?」

「善処しよう」

 

 蛮奇にも困惑より納得が先立ってしまうと言われてしまい、楓は自分がどういう人間だと評価されているのか思い直してしまうのであった。

 

「でも楓はここに来るよね。月に行くならもっと準備とかした方が良いんじゃないの?」

「頼みたい相手に声をかける程度だ。お前たちと顔を合わせる時間ぐらいある」

「知り合いだけは馬鹿みたいに多いからな。店でお前の姿を見かける時もほとんど違う女を連れている」

「誤解を生みそうな物言いはやめてもらおうか。幻想郷の名だたる妖怪たちが少女ばかりなのが悪い。というか男連れで行くこともあるだろ」

 

 蛮奇の店は味も良いので、少年たちと世間話をする時にも活用されていた。

 

「自警団の知り合いっぽい奴らだな。どこで知り合ったんだ?」

「寺子屋時代からの友達だ。人里の同年代なんて大体幼なじみみたいなものさ」

「逆に言うと最近知り合った人は女の人ばっかりなんだ……」

「お前は知り過ぎた」

「何を!?」

 

 余計な一言が多い影狼に手を向けると影狼は機敏に動いて蛮奇の背中に隠れる。

 じりじりと蛮奇を挟んで様子を伺っていると、場を取り持つようにわかさぎ姫が手を叩く。

 

「でも、楓は私たちとも付き合ってくれるわよね。私たちなんて木っ端妖怪なのに」

「知っているか。強い妖怪は相応に我も強いんだ」

「へえー」

「迂闊な受け答えですぐへそを曲げて殺し合いに発展するような連中なんだ」

「へ、へえ……」

 

 大妖怪以上の知り合いは確かにいる。しかし自身の付き合いを彼女らに限定したいかと言われたら首を横に振る。

 下手な付き合い方をしたらすぐ殴られるような相手ばかりなのだ。あんな連中とだけ付き合うなど、命がいくつあっても足りない。

 

「楓は勝てるんじゃないの?」

「九割勝てるが一割死ぬ勝負を日常茶飯事にしたいか?」

 

 例え九分九厘勝てるとしてもそんな日常はまっぴらごめんである。何が悲しくて死の可能性を日常的に背負わなければならないのか。

 

「え、遠慮しておきます……」

「だろう。俺も人里では阿礼狂いとして呼ばれているが、狂人だって嫌なものは嫌なんだ」

「私たちは狂ってるところなんて見たことないけどね」

「知らないに越したことはない。見せるつもりもない」

 

 阿礼狂いが狂気に身を任せる時は相手を必ず殺すと決めた時か、御阿礼の子の言葉があった時だけである。

 人里の人間と積極的に関わることすら避けたがる草の根妖怪ネットワークに、そんな姿を見せる予定はこれから先にも存在しない。

 

「それに月に行けば俺の戦いにも一区切りが付く。これまでは異変に巻き込まれまくっていたが、今後はそんなこともなくなる……はずだ!」

「いやあ、ないない。楓は絶対何かに巻き込まれるよ。姫のコレクションしてる石を賭けても良いね!」

「影狼ちゃんが勝手に私の石を……あ、私も巻き込まれるに賭けるわ」

「賭けが成立しないな」

「ミスティアがいればきっと俺を信じてくれただろうに嘆かわしい」

 

 ちなみに彼女は妹紅が戻ってきたため、屋台の再開に追われておりこの場に顔を出せる時間がなかったらしい。

 楓が話題に出したため影狼が首を傾げて質問を投げた。

 

「なんでみすちーは楓を信じると思うの?」

「信じないと言ったら屋台の宣伝をやめると言えばうなずくと思った」

「最低のスポンサーだ!?」

「味方は権力で従わせるもの」

「なんて悪代官……!」

「ということで蛮奇、ツケで飯を食わせてくれ」

「悪事の発想がみみっちい!」

「やったら出禁な」

「……影狼の毛を全部逆立てるぞ!」

「他に思いつかなかったの!? 楓、悪事の才能全然ないねえ」

 

 ケラケラ笑う影狼に楓も憮然とした顔になるしかなかった。

 例えばここにいる面々を殺すことは簡単だが、そんなことをして自分に何の得があるのかと思ってしまうのだ。

 それと同じで楓は悪事など効率が悪いだけだと思っており、戦闘時ならともかく平時に彼女らの損になることを考えるのは無駄だと思っていた。自分に得られるものがないのならなおさらである。

 などと考えているとまた頭の上によじ登ってきた橙が楓の頭を抱きしめた。

 

「あんたはそれで良いのよ。それに必要になればあんたは人並み以上にできるわ」

「何を根拠に?」

「今まであんたを見てきた私の目よ!」

 

 自信満々にそう言われてしまうと何も言えない。

 楓は軽く肩をすくめ、また草の根妖怪ネットワークとの雑談に興じていく。

 

 

 

 月から戻ってきた暁には再び顔を出し、彼女らが気になっているであろう月の冒険を語り聞かせてやろうと決心し、楓は一日を過ごすのであった。




話題を考えるのが大変だけど出してて楽しい面々だったりします>草の根妖怪ネットワーク

物語の核心に迫ることはありませんし、波乱万丈に巻き込まれることもありませんが、いつどんな時でも変わらずのんべんだらりと過ごしている妖怪たち。

主要な陣営と話したら月に行く予定です。おそらく1、2話で紺珠伝が始まります。
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