阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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本編最終話です。諸々詰め込んだので長くなりました。


星を追いかけた少年の結末

「薬を二つ用意したわ。直接過去に行くのではなく、あり得たかもしれない過去を追想する形のもので、どんな行動を取ってもこの未来に影響はない。仮に過去が変わったとしても並行世界が生まれるだけとなる」

「構わない。紺珠の薬を作った時から可能だとは思っていた」

「副作用は一つ。過去で傷を負ったらそれは直接あなたの傷となる。当然、死んだら現実の身体も死ぬわ」

「承知の上だ」

「……一つ目の過去は千年前に戻るもの。そしてもう一つはあなたが指定した日時に戻るもの。どちらも意図が読めないわね。具体的な日時を指定したものまであるなんて」

「……その日は父上が亡くなる前日だ。幼い時分だった俺が最後の稽古を受けた日でもある」

「そう、父親を超えたいの?」

「紺珠の薬がなければ考えもしなかった。――俺が火継最強であると、誰憚ることなく名乗るためにも」

 

 

 

 

 

 永琳の用意した薬を飲んだ楓の心臓は一度大きく跳ね、視界が歪む。

 足元も覚束なくなるような目眩の後、楓の目に飛び込んできたのは永遠亭の一室ではなかった。

 曇天の空が広がる荒涼とした平原。現代では人里の一部であり、千年前はまだ手のつけられていなかった場所に楓は立っていた。

 

「……っと」

 

 千里眼で周囲を把握する。

 現代の幻想郷はもはや所狭しとあらゆる勢力が渦巻く混沌とした有様になっているが、過去の幻想郷はそうでもなかった。

 霧の湖の向こうに紅い屋敷もなく、妖怪の山の中腹に大きな湖と神社もなく、魔法の森に店もなく、人里も今ほど大きくなく、博麗神社への道も荒れ果てていた。

 

「……空気が荒れているな」

 

 平原が運んでくる風に微かな血の臭いを感じ、楓は顔をしかめる。

 そして改めて自らの千里眼で見えるものを精査し、その理由も判明する。

 人の死体があるのだ。それも明らかに通常の死に方ではない、妖怪に食い散らかされたものが数こそ多くないが点在している。

 

 なるほど、荒れ果てた時代とはよく言ったものである。道端に死体があることといい、まるで人と妖怪が争いの最中にあるような空間だ。

 いや、事実としてこの時代の幻想郷は人と妖怪が戦う時代なのだろう。弾幕ごっこがあるわけでもない、人間が圧倒的に不利な、原始的な戦いの時代である。

 

 弾幕ごっこの普及した幻想郷が自身の記憶の大半である楓にはいささか衝撃的な光景だったが、楓は特に驚いた様子もなく見えている光景を受け入れる。

 なにせ自分は阿礼狂い。御阿礼の子以外で心動かすことなどほとんどない狂人だ。人が死んでいる光景を見たところで人が死んでいる以上の感想など持たなかった。

 

「時間は限られている。手早く済ませよう」

 

 千里眼を使い人里の内部を精査する。

 まだ慧音もいないのか、寺子屋のあった場所には物々しい空気の漂う武器庫となっていた。

 そんな中、稗田の屋敷はすぐに見つかった。現代の場所とほぼ変わらず、人里の中心部にほど近い場所にその屋敷はあった。

 しかし外から見てもわかる。その屋敷は完全に死んでおり、人気が欠片もない。

 このまま人の手入れもなければ、遠からず荒れ果てた廃屋になることが確実な状態だった。どうやら当代の御阿礼の子である稗田阿礼はすでに亡くなった時期らしい。

 

 少なからず残念に思う気持ちはあるが、今回の目的は彼女ではない。万が一阿礼の姿を認識してしまった場合、阿礼狂いの血が彼女に仕えろと命じてくるだろう。

 そして楓はその命令に逆らわない。逆らおうという気すら覚えない。そうなったら誰にとっても面倒な事態にしかならない。そもそも過去にずっといられるわけでもなし。

 意識を切り替えた楓は続いて火継の屋敷――人里の外周付近にあるはずの大きな屋敷を探す。

 

 幸い、火継の屋敷はすぐ見つかった。稽古場である道場がないだけで、屋敷そのものの構造は今と変わっていなかった。

 そして当主の部屋も今と変わらず同じ場所にあった。どうやら阿礼狂いといえど歴史はある程度大事にするらしい。

 当主の部屋にいる一人の男が、以前に自分が夢で見た男と相違ないことを確認すると、楓は転移の術を発動して屋敷の内部に潜り込む。

 人の出入りはあるようだが、そこは慣れ親しんだ我が家である。女中や一族の若者の目をかいくぐって当主の部屋まで向かうことなど造作もない。

 

「邪魔するぞ」

 

 音もなく襖を開き、中にいる男に無遠慮な声をかける。

 男――初代火継の当主は肩を驚かせつつも油断なく刀に手を伸ばし、こちらへ振り返る。

 

「――っ!? 誰だお前は」

「お前の願いに巻き込まれた一族の末だ。ああ、大声を出しても意味はない。スキマに吸われて終わりだ」

「っ、あの女狐絡みか……!」

 

 嘘である。この時代の紫がどうなっているかなど知らないし興味もない。

 ただ、意味のわからない状況を納得させるのに便利だから口にしただけだ。

 事実、初代当主は納得した様子を見せて静かになる。

 楓は襖を閉じて密室にすると、初代当主を改めて見直す。

 

「…………」

「……なんだ」

「……いや、火継の一族の祖にしては凡庸だと」

 

 腕は立つようだが、人間にしてはという程度。現代の一族の人間と比較すれば向こうの方に軍配が上がるほど。妖怪相手など考えるだけ無駄だろう。時間稼ぎが関の山である。

 しかし、目を見るだけでわかる。――この男の正気はとうに失われている。

 

「……自分を殺しに来たのか」

「まさか。俺はあなたに感謝している。邪法に魂を浸し、子々孫々に下るに連れて効果を強める鎖で俺たちを縛った」

 

 今更普通の人間に戻りたいなど思わないし、何より自分は他者を阿礼狂いに変える魔眼を所持している。

 火継の末というのは言葉の綾でもなんでもない。極論、楓一人存在すれば火継の一族が絶えても阿礼狂いが消えることはないのだ。

 

「俺は未来から来た。理由はいくつかある。一つは始祖とも言える人をひと目見てみたかった」

「満足したか?」

「ああ。取るに足らない力量で、吹けば飛ぶような人間だが――あなたはやはり、我らの祖だ」

 

 狂気、ただ一点。楓たちが先祖代々に及ぶ術の継承によって作られた阿礼狂いであるなら、この男は天然のもの。

 初代当主に対し、楓は敬意を込めて頭を下げる。

 

「あなたのおかげで我らは御阿礼の子に仕えることができる。感謝しかない」

「……後の子孫には恨まれるものと思っていたが、違ったか」

 

 まさかと鼻で笑う。成すべきことが生まれた時から決まっていて、迷う必要もないのだ。これほど充実した人生もそうないだろう。

 

「そしてもう一つ。これは報告になるが――未来で御阿礼の子の短命は解決する」

「っ、真か!?」

「阿礼狂いにこんな嘘はつかない」

「阿礼、狂い……そうか、後の世ではそう呼ばれるのか……」

 

 全身から力が抜けたと安堵する初代当主を見ていると、身体がざわざわとどこかへ引きずられる感覚を覚える。

 もう時間が残っていないようだ。それを本能的に察した楓は告げるべきことを手早くまとめて口を開く。

 

「良いか、必ずだ。必ず血を繋げ。俺たち阿礼狂いは必ず、未来で俺たちの悲願を果たす」

 

 初代から始まる軌跡の果てに楓の父が生まれ、楽園に到達した末に楓が生まれる。

 そして自分が数奇な巡り合せの結実として阿求の寿命は解決される。

 具体的な時期をぼかして伝えると、初代はその目に狂気と同量の憤怒を宿した目で楓を見据えた。

 

「……遅すぎる! 未来で解決するから我らに――いいや、続く御阿礼の子には耐えろと? そんなバカな話があるものか!」

「――」

 

 ああ、やはりこの時間に来て正解だったと、楓は裂けるような笑みを浮かべた。

 きっとこの男ならそう言うと思っていた。なぜって自分がそうだからだ。

 未来から来た男の言葉によれば遠い未来で御阿礼の子が救われる? ――今救われない御阿礼の子に涙を飲めと言うのか。

 楓がここに来た最大の理由。それは自身の情報を伝えることで、短命の問題が解決されることを早めるためだ。

 未来に影響はない? 知ったことか。そんな道理、狂気で塗り潰してしまえば良い。例え自分の未来に影響がなくとも、確実に何かの意味は生まれる。

 

「――迷いの竹林を目指せ。隠れ住む者たちを探り当てろ! 永遠を崩せ! その先に願いはある!」

「その言葉、語り継ごう。私が無理でもいつの日か子孫が必ずそこにたどり着く……!」

 

 決意をみなぎらせた初代当主の目を見て、楓は自身の企てが成ったことを確信しながら引きずられる感覚に身を任せるのであった。

 

 

 

 

 

 一瞬の視界が歪んだ後、楓の眼前には再び大きな平原が広がっていた。

 初代当主の姿はなく、火継の屋敷からも離れた場所に立っている。

 

「……今度は父上の亡くなる前日だな」

 

 千里眼で周囲を把握し、自分のいる時間軸を特定する。

 霧の湖の向こうに悪趣味な紅い屋敷があり、妖怪の山の中腹にはまだ何もない時代だ。

 火継の屋敷には慣れ親しんだ稽古場が存在し、稗田の屋敷は火が灯ったように優しい暖かさが溢れていた。

 ついでのように楓は千里眼で火継の屋敷を見回すが、肝心の父の姿がない。

 もしかしたらと博麗神社の方まで確認するものの、見つかったのは楓の知る今より若干幼い霊夢の姿だけ。

 

「どこに行ったのやら。阿求様のお側にいないのは確認できたが……」

『妖怪の山じゃない? 釣りが趣味とか言ってなかった?』

「それだ」

 

 楓の独り言に椿が答え、その答えに納得した楓が改めて妖怪の山までを千里眼で見通す。

 すると人が入れそうな沢のほとりで釣り糸を垂らし、二刀を携えた老爺の姿が見つかる。

 

「……見つけた」

『じゃあ行こうか。楓のけじめを付けに』

「……ああ」

 

 妖怪の山への道を歩き出す。その道中、椿がいよいよだねと声をかけてきた。

 

『ずっと追いかけてた人と直接会えるんだね』

「俺が力を求め続けた最大の理由だ。本人に会えるのは嬉しい誤算だった」

『永琳さんの薬がないと不可能だもんね。無理だったらどうしてたの?』

「納得するしかないだろう。純狐との戦いで人間になった時、俺は父に並んだと思った」

 

 重く脆弱な人間の肉体になって初めて見えるものがあった。

 そしてその見えていたものこそが、父の見ていた世界だと楓はなんとなく理解していた。

 

「それに俺はまだまだ成長できる。今の時点でも父上に並んだと思っているが、あと一年も剣を振れば確実に超えられる」

『じゃあどうして阿求ちゃんの問題が解決する直前に思い立ったの?』

「……報告しておきたかった。父が俺に託したのは間違いではなかったと思ってほしい」

『そっか。キミが未来から来た息子ですって正直に話すの?』

「父上なら話は聞いてくれるだろう」

 

 幻想郷では何が起きても不思議はないと実体験として知っているはずだ。嘘だと一蹴されることはないはず。

 それより、と楓は椿の方を見やった。

 

「お前はどうなんだ。この長刀の以前の主に会うわけだが」

『んー? 私は自分でも不思議なくらい落ち着いてるかな』

「なぜ?」

『私さ、思い出せない記憶を取り戻すには真剣勝負するしかないって思ってたんだよね』

 

 勝ち負けが生き死にに直結するような、と椿は軽い調子で告げる。

 楓も椿を殺すのは気が引けるが、彼女が望むなら是非もないと思っていると、椿が見抜いたのか嫌そうな顔になった。

 

『ほら出た。楓ならきっと苦もなく受け入れるし、私を殺してもなんとも思わないだろうなって思ったからやめたんだよ』

「思い出せない記憶は良いのか?」

『――それ、キミを理解するのに必要?』

「…………」

『真剣に戦わないと得られないものはあるかもしれない。でも、私とキミの間でそれは必要ないと思ったんだ。ほら、キミって狂っているわけだし?』

「……だから記憶がないことも受け入れたのか」

 

 そういうこと、と言って椿は楓の額を軽く小突く。

 そして後頭部で手を組み、気楽そうな様子で楓の周りをふわふわと漂う。

 

『付喪神に成り立てだからそんなもの初めから存在しなかったって思えば受け入れられるしね。刀の付喪神が言うのもあれだけどさ、私たちは口があって言葉があって話せるんだから、話し合うべきだと思うよ』

「……まあ、言葉を尽くさず戦うのも馬鹿馬鹿しいな」

『尽くせる言葉があるなら尽くすべきだし、意味がないと思うようなことだって言えば何かが変わるかもしれない。キミの全部を見て私が思ったこと』

 

 仮に椿と楓の間で生死を懸けた戦いになったら、楓は椿の全てを切り捨てることができる。

 阿礼狂いとして生きている楓にとって、本質的に他者は御阿礼の子かそうでないかの二択だ。

 そうでないものは全て御阿礼の子と比較して切り捨てられる側になる。

 普段の楓が友人を大切にする心優しい少年である姿を見てきた。阿礼狂いとして幼馴染にすら躊躇なく剣を向ける姿を見てきた。

 どちらも見てきたからこそ、椿は選んだのだ。自らの願いに身を焦がすのではなく、言葉を尽くす道を。

 

『完璧な相互理解ではないかもしれない。けど私たちが一心同体であるのは相互理解があるからじゃない』

「俺が、お前の担い手だから」

『私を一番上手く振るえるのは私じゃなくてキミだ。キミのお父上と比べたって、私はキミを選ぶ』

「……そこまで言うなら使い倒してやる。まずは父上との勝負だが壊されるなよ」

『そこはキミが上手く扱ってほしいな。付喪神になっても切れ味が増すわけじゃないし』

「…………」

 

 思い返せば父は武器破壊を得手としていた。今の自分が戦っても武器を壊されずに済むか、自信はない。

 折れてしまったら椿の他に小傘にも頭を下げて修復を頼む羽目になりそうだ。

 想像するだけでも怒髪天を衝く勢いで怒る小傘が浮かんでしまい、楓は面倒な顔を隠さなかった。

 彼女の鍛冶師としての腕は信用しているが、唐傘お化けでもある彼女は道具への思い入れが強い。むしろ道具のためなら楓が傷ついても構わないと思っているフシすらあった。

 

「……まあ、気をつけよう」

『うんうん。大事にしてね』

 

 適当な楓の返答でも十分だったのだろう。椿は機嫌良く楓の頭に抱き着いた後、鼻歌交じりに周囲を漂い始めた。

 思えば彼女との付き合いも長くなり、これからもそれは続いていく。

 自分が本当の意味で一人になることは今後もないのだろう。しかし、それを当たり前と思う程度には一緒に過ごしてきたのだ。

 

 長くなった相棒との時間に楓も小さく笑いながら、妖怪の山の沢へ続く薄暗い山道を辿っていく。

 そして開けた場所に出て――釣り竿を垂らす、父の背中が現れた。

 

 

 

 

 

「……隣、よろしいですか」

「好きにしろ」

 

 楓の登場に父――火継信綱は驚いた様子もなく、身じろぎもしない。

 素っ気ない言葉に気を悪くすることもせず、楓は信綱の隣に腰掛ける。

 魚籠にはいくらかの魚が泳いでおり、彼がそれなりに長い間釣りをしているのが伺えた。

 

「……何の用だ。こんな辺鄙なところまで来る天狗、あいつ以外にいないと思っていた」

「……未来から来た、と言えば信じますか」

「信じない。が、ここは幻想郷。春を奪うなんて荒唐無稽なことを考える輩も出てくる場所だ。疑うのも疲れる」

 

 父らしい物言いに楓は微かに笑う。

 信綱はそこでようやく楓を見る気になったのか、釣り竿から顔を動かして楓の方を見る。

 そして楓が背負う長刀を見て、訝しげに眉をひそめた。

 

「……俺の使っているものと同じ長刀、か?」

「形見の刀です」

「なるほど、未来から来たという与太話もあながち与太ではないらしい」

「自分は未来から来たあなたの息子です。母は白狼天狗の犬走椛」

「クッ」

 

 楓の言葉に信綱は引きつったような声を上げると、クツクツと肩を揺らして笑いを隠そうともしない。よほどおかしい内容だったらしい。

 しばし声なき笑い声を上げた信綱は面白い冗談が聞けたと話す。

 

「俺の妻は別にいた。それにあいつが妻などゾッとしない話だ」

「……誰が奥方なんです?」

「博麗の巫女の先代、と言えば通じるか。少し前に先立たれたがな」

「なんと……」

 

 やはりここは同じようで違う過去のようだ。

 当然ながら、楓が知っている父は椛を娶った父だ。

 しかしそんなことはあり得ないと信綱は断言している。

 阿礼狂いに後妻を迎える甲斐性があるとも思えない。

 この時間軸の場合、自分は生まれないのだろうと楓は確信を抱く。

 

「それで? お前はあいつとの間に生まれた子だと言うじゃないか。どうせだ、未来で起きたことでも話していけ」

「……よろしいのですか?」

「良い。この釣りもあいつを待って始めたことだ。未来の話を聞くのも暇潰しになる」

 

 どうやら楓の話は全く信じていないらしい。

 信じていないが、それはそれとして魚が釣れるまでの無聊を慰めるぐらいにはなると思ったのだろう。

 

「では俺が関わった異変を話します。まず――」

 

 

 

 楓は特に相槌を打つこともしない信綱に自分の経験を話していく。

 信綱は最初こそ他人事らしく耳に入れているだけといった様子だったが、楓の口から語られる異変の数が五つを越えたところで何言ってんだこいつ、とでも言うような度し難い生物を見る目で見始める。

 

「それで霊夢と共に黒幕を退治し――どうかしましたか」

「いや……未来ではそんなに異変が起きているのか……」

「作り話だと思いましたか?」

「話が荒唐無稽に過ぎる。作り話だったらもう少し落ち着いたものになるだろうさ。……仮にこれが作り話だったら作家の才能があるぞ」

「事実です。俺が経験してきた、という注釈が付きますが」

「今ですら騒々しいと思うのに、これ以上に騒がしくなるのか……」

 

 考えたくない未来を考えてしまったのか、信綱はうんざりした様子で頭を振った。

 話の続きを促そうか迷ったが、これで楓の口から今以上の異変の話が出てきたら信綱もどう対応して良いかわからなくなりそうだった。

 それに目当ての人物はもう来ていると信綱は気配を読み取っていた。

 

「――ん、来たか」

 

 信綱が釣り竿を横に置き、振り返る。

 そこには楓も知る人物、犬走椛が佇んでいた。

 

「今日、君はここに来ると思って――あれ、誰ですその子?」

「未来から来たそうだ。さて、始めるか」

 

 不思議そうに首を傾げる椛に信綱は適当な返事をした後、立ち上がった。

 楓に背を向けて数歩分の距離を離し、楓に向き直ったその顔は阿礼狂いらしく、何の感情も映していないもの。

 そしてゆっくりと背負った長刀と腰の刀を抜き放ち、椛が息を呑むのも気にせず二刀を楓に突きつけた。

 

「本当は長刀をこいつに渡すつもりだった。もう使わんだろうし、人里で使える相手もいない」

「…………」

「だが事情が変わった。お前がどこの誰かなんて興味もないが――阿礼狂いであることだけは確実だ」

「……っ!」

 

 椛の視線が楓に向く。信綱から阿礼狂いだと断言された少年はその言葉を否定せず、立ち上がった。

 楓もまたゆっくりと二刀を抜き、信綱と瓜二つの構えで相対する。

 

「――阿礼狂いに最強は二人いらない。同じことを考えているのだろう?」

「……俺は父が存命の時、一度も勝てなかった。俺の側仕えは、あなたから継いだものだ」

「それは――さぞかし、屈辱だったろう」

 

 誉れある御阿礼の子の側仕えは勝ち取るものだ。火継の一族最強になり、全ての人間を下して得られるもの。

 信綱ですら六歳の時、当時の側仕えであった父を打倒して側仕えの地位を獲得した。

 眼前の少年はそれをせずに受け継いだと言った。つまり――自分の手で勝ち取れず、与えられたものに甘受したのだ。

 信綱の嘲笑に楓は怒りは見せなかった。代わりに凍てついた、父と同じ阿礼狂いとしての顔になって言葉を紡ぐ。

 

「――火継最強の証明を今日、あなたから奪い取る」

 

 楓の言葉を信綱は挑まれる者として受け止め、話についていけない椛に顔を向ける。

 

「おい」

「え、あ、はい!?」

「合図を頼む。後はまあ、勝敗の判定も頼む」

 

 お互いに殺す気で戦うので必要ないかもしれない、という言葉を信綱は飲み込んだ。椛にいちいち説明するのも面倒くさく、何より阿礼狂い同士の戦いに理解が得られるとも思えない。

 椛が了承の返事をする前に信綱は再び楓と向き直り、互いにジリジリとした足さばきで相手の出方を伺い始めた。

 止められない。それを本能で理解した椛は半ばやけになったように片手を振り上げ、声の限りに鋭く叫ぶ。

 

「――始めっ!!」

 

 

 

 

 

「――っ!」

 

 踏み込む足は両者同じで、振るう腕も同じだった。

 互いの双刃が届く、一足一刀の間合いで目にも留まらぬ剣さばきが繰り広げられる。

 椛の目には刃の銀閃すら映らない。剣戟の火花さえも散らず、信綱の剣と楓の剣が触れ合った瞬間に生まれるのは小鳥の啄むような微かな音のみ。

 

 見れば互いの足すらも殆ど動いていない。片足を軸に半歩動くだけで首元の剣閃を避け、同時に相手の首元へ剣閃を奔らせる。

 恐ろしいことに、互角。楓を知らない椛は戦慄を隠せなかった。

 

(どこにこんな子がいたの!? 彼と正面から打ち合って一歩も引かないなんて天魔様にすらできなかったこと! 私の見立てでは彼と伯仲している! どちらが勝ってもおかしくない勝負だ!)

 

 固唾を飲む音すら妙に大きく聞こえる。

 互いの剣戟に音は伴わず、刃が空を切る音の方が大きいほど。椛には想像すら及ばない卓越した技巧によって、刃と刃が掠める程度の打ち合いしか発生していないのだ。

 

「――」

「――っ!」

 

 尤も、この状況は楓が狙っている部分もあった。

 父と正面から切り結び続けた場合、武器が先に壊れる。断言しても良い。

 故に切り結ぶ際、信綱の剣とぶつかり合うことは避けて刃を振るう。

 無論、彼もそれに気づかない訳はない。ほんの一瞬、不愉快そうに眉をひそめて剣を振るう速度を上げながら口を開く。

 

「良い腕だ。才もあるが、何より経験が底知れない。その歳で俺以上の経験を積んだのがわかる剣筋だ」

「あなたに勝つために磨き抜いた剣だ……!」

「なら、これはどうだ?」

 

 楓は信綱の動きを手足から毛髪に至るまで全て注視していた。

 

「は――?」

 

 その上で――信綱が無造作に踏み込んだ一歩に反応できなかった。

 否、確かに見えていたはずなのに、楓がそれを踏み込みだと認識できなかったのだ。

 懐に入った信綱が振るう二刀を、楓は戸惑いを噛み殺して守備に回ることで防ぐ。

 

 信綱相手に距離を取るのは愚策。主導権を渡せば返ってくることはなく、そのまますり潰される。それは何度も楓が身をもって思い知っている。

 だが、重々承知の上で楓は距離を取ることを選ぶ。距離を取って踏み込みのカラクリを読み切らねば、楓は無防備なまま斬り刻まれて終わりだ。

 

「――っ!」

「む」

 

 信綱の斬撃が楓の頬をかすめ、赤い筋が引かれると同時に楓の斬撃から烈風が吹き荒れる。

 天狗の術であると信綱は即座に狙いを看破し、更に距離を詰めようと先ほどの踏み込みをもう一度行う。

 信綱にとってそれは難しいことでもなんでもない。意識の間隙を縫う斬撃ができるなら、同じことを体捌きで実現すれば良い。

 言葉にするだけでも人間業とは思えないそれを、今の信綱は苦もなく実現する。

 

「――見えた」

「っ!」

 

 しかし、それこそが楓の狙いだった。

 後ろに下がるように見せかけ、信綱に同じ技を誘う。

 二度見せられれば見切ることができる。仮に踏み込んでこなくとも、カラクリを読み解くには十分な時間を獲得できる。

 純粋な体術や剣術の力量は未だ信綱が一枚上手だ。認めざるを得ない。――だが、信綱すらも凌駕する戦闘経験が楓を互角に押し上げる。

 

(原理はわからんが意識をズラしている! 注意と注意の隙間を縫うような動き! ――わかっていれば見える!)

 

 僅か二度、それも一歩の踏み込みだけで対策を見出した楓は後ろに下がる足に力を込め、前に蹴り出す推進力とする。

 今度は信綱が下がる番だった。楓の勢いに踏み込んだ足が押し戻される。

 

「――っ!」

 

 次の好機は楓のもの。一歩の踏み込みで思い切り地面を蹴り、信綱へ肉薄して刃を振るう。

 互いの息遣いすらわかる距離。信綱は距離を離そうと後ろへ下がるが、楓がそれ以上の速度で接近する。

 だが信綱の顔に未だ焦りはない。下がりながらも斬撃の速度は加速する。

 一方、楓は身を掠める程度の斬撃には眉すら動かさず前進するも、戦闘に支障の出る斬撃には足を止めて回避し、その瞬間を狙った信綱が前に出ようとする。

 

 目まぐるしく立ち位置と攻守を変え、周囲の岩すらも巻き込んで斬り裂く二人の剣戟は川辺から離れ、山の中に踏み入っていく。

 木々の間を縫って走り、振るう刃は不運にもそこにあった木々を薙ぎ払い、山の地形すらも変える勢いで両者は動く。

 

「――」

「――っ!」

 

 木漏れ日を反射する刃の光だけが二人の位置を知らしめる。

 秒と動きを止めず、両者の剣は阻むもの全てを斬り捨て互いに切り結び続けた。

 そんな彼らの戦いを見つめる目は――六つ存在した。

 

 

 

「あいつら妖怪の山を何だと思ってんだ。地形が変わっちまうぞ」

「あら、片方は天狗のように見えるけどあなたが知らないの、天魔?」

 

 妖怪の山の上空。彼らの戦闘の軌跡をなぞるように木々が倒れ、大地が割れていく光景を引きつった顔で眺める二人の影があった。

 どちらの顔にも色濃い困惑がある。自分たちの知る限り、あの男と互角以上に斬り結べる誰かが存在しているとは思わなかったのだ。

 片方の影の言葉――紫のつぶやきに天魔は鼻で笑って否定した。

 

「そんな天狗がいたら天魔に据えてる。あいつ、オレどころか旦那と互角だぞ……?」

「知っていて隠した……そんな子なら今出す意味もないか」

 

 二人は眼下に広がる壮絶な戦いの光景を見て、どちらからでもなく口を開く。

 

「……どっちが勝つかしら?」

「……わからん。いや、心情的には旦那に勝ってほしいが、見る限り本当に互角だ。もうどっちの剣もオレの目に追えない」

 

 今もまた、彼らの移動の軌跡を教えるように木々が根本から切断される。岩すらも斬り裂く彼らの斬撃はもはや何者にも阻むことができず、ただただ道を明け渡すしかなかった。

 天魔は後始末が面倒だとぼやいた後、彼らの戦いを見届ける姿勢になる。

 

「全くもって降って湧いた面倒事だし、山を直す手間も考えたくないが――何より今はあの戦いを見届けたい」

「……奇遇ね、私もよ」

 

 こんな戦い二度と拝めるものか。天魔と紫は童心に帰ったように瞳を輝かせて、両者の勝負の行く末に拳を握りしめるのであった。

 

 

 

 

 

(このまま行けば勝てる!)

(このままだと負ける。体力勝負になっている時点で俺の勝ち目がない)

 

 楓と信綱。両者の現状把握は正確だった。

 楓はこのまま戦えば倒せると攻勢を強め、信綱は強まる勢いに顔をしかめるも振るう斬撃は自らに迫る全ての刃を払い落とす。

 斜面を駆け上がり、木々を薙ぎ払い、崩れる木さえも足場にして行われる双方の剣戟は容赦なく体力を削る。

 およそ人間業とは思えない動きをしても信綱に息の乱れはないが、今だけだ。こんな妖怪がするような動きに付き合い続けたら必ず人間が先に音を上げる。

 順当に押しつぶすなんてことはもう不可能。眼前で刃を振るう少年が互角の力量を持つことはわかっていた。

 状況は――悪い。現状に甘んじたら負けることを認め、信綱は胸の奥で小さく笑う。

 

 

 

 負ける可能性が高い勝負など、自分がどれだけくぐり抜けてきたと思っているのだ。

 

 

 

 信綱は誰もが認める幻想郷の英雄だ。そして英雄の本領とは格上殺しに他ならない。

 平和な時代が訪れてなお練磨することを忘れなかった剣術。その中には実戦で使うことがなかっただけで、まだ見せていない技術がある。

 楓が知らないのも無理はない。彼は最期まで父に本気を出させることができなかったのだから。

 

 まず踏み込み。当然のように意識しても認識できない動きを織り交ぜ、しかし楓は全てを見切って待ち構える彼の左の刃――不思議な軽さと硬さを併せ持つそれに斬撃を奔らせる。

 武器破壊には細心の注意を払った。そして楓が扱う左の刀は月の文明によって作られた特製のもの。

 

「な――」

 

 それが呆気なく切断される。キンッ、と軽い音を立てて根本から刃が折れてしまう。

 楓は目を見開いてその事実を受け止め、もはや用途のない左の刀から手を離す。

 趨勢は決してしまった。二刀を操る剣術で一刀を破壊されたのだ。もう間もなく楓は敗北する未来が決まる。

 ――だから、前に出る。

 

 信綱が行った斬撃の解析など考えない。勝利だけを求めた楓の頭脳は超短期決戦に懸ける以外の道が見出だせなかった。

 そしてその状況こそ信綱が真に望んだもの。長期戦で勝てない以上、信綱も短期決戦に懸けていたのだ。

 二刀と一刀。どちらが優位かなど考えるまでもなく、信綱の斬撃は容赦なく一刀になった楓の隙を突く。

 

「まだ……っ!」

「む」

 

 だが信綱の剣閃は楓が術で新たに生み出した風の刃に阻まれる。

 楓も信綱を相手に武器が壊される想定はしてあった。故に予め自らの裡で妖術だけは準備していたのだ。

 天狗の颶風を刃にし、即席の刀と変える。

 

(文字通り全てを斬る攻撃! なんてものを隠し玉に持っていたんだ父上は!)

 

 名付けるとしたら絶対攻撃か。

 あらゆる守りを無意味にする斬撃に、けれど楓は壊れてもなお再生する術の刃を振るうことでその対策を行う。

 右の刃が付喪神であることなど気休めにもならない。信綱が振るう斬撃全てを回避しなければ武器すら意味を持たず壊される。

 しかし楓も無意味に武器を壊されるだけでは終わらない。

 術による剣の生成は土壇場での発想だったが思いの外手に馴染む。不可視の風の刃を振るい、返礼とばかりに信綱の操る左の刀を斬り刻む。

 

「まだっ!!」

 

 支払った代償は大きい。信綱は左の刀が壊される直前、楓の左腕に刃を奔らせていた。

 手首から斬り落とされ、もはや術の刃すら握れない。しかし、一刀しか操れないのは信綱もまた同じ。

 次の一撃で決まる。誰に言われるでもなく悟った両者は互いに裂帛の気合を込め、大地の割れる踏み込みを行い――楓の手から長刀が弾かれ、天高く空を舞う。

 

 

 

 

 

 ――そして、ハリボテだった楓の肉体が溶けて消える。

 

 

 

 

 

「――っ!?」

 

 術かなにかを使った偽物。信綱の目すら欺いたそれは瞬く間に空気に溶け消え、楓の姿を隠す。

 否、探す必要などない。楓は信綱の懐でしゃがみ――武器をも囮に使った彼は右の貫手に灼熱の炎を纏わせる。

 裂帛の一撃をいなされた。信綱は戦慄と同時に自身の敗北を悟った。

 楓の戦闘経験が信綱の予想を超えて膨大だったこと。彼はあらゆる術を使いこなし、信綱の虚を突くという偉業を成し遂げた。

 

「届けえええぇぇぇっ!!」

「――見事」

 

 楓の炎を纏った貫手が信綱の長刀を吹き飛ばすと同時、自身の弾かれた長刀を右手に収めて信綱に突きつけるのであった。

 

 

 

 

 

「それまでっ!! あなたが勝者です!!」

「…………?」

 

 椛の声を聞いてようやく楓は自身の置かれた状況を把握する。

 左手は斬り落とされ、全身は刃がかすめた傷による出血で血塗れになっており、満身創痍と呼ぶに相応しい状態だった。

 対し信綱の身体に目立つ傷はない。いくらか服が斬り裂かれていたが、その程度で五体満足だ。武器さえあればまだまだ戦えるだろう。

 ――だが、長刀を突きつけていたのは楓だった。

 

「勝っ、た……?」

「ああ、お前の勝ちだ」

 

 肩で息をし、呆然とした楓のつぶやきに信綱は戦う前と同じ、無感動な無表情でつぶやく。

 そして悠然と刀を拾いに行くが、信綱の身体はよく見ればわかる程度に微かな震えがあった。表に出さないだけで相応の疲労はあるらしい。

 

「この歳で敗北を喫するとは。生涯未熟とはこのことか」

「俺が、勝った……」

 

 まだ実感が沸かない。傷の度合いで言えば楓の方が重たいのも拍車をかける。

 しかし長刀を拾った信綱はそんなことは些事であると口を開く。

 

「……まだこれを聞けていなかったな」

「……父上?」

「俺が死んだ後、阿求様はどうなった?」

「……父が遺した書物を俺が調べました。そして月の文明の技術を借り受けて、阿求様は人並みに生きられるようになります」

「そうか。……俺がいなくなってもあの方は生きようとなされるのだな」

 

 自分のいない未来を想像したのか、信綱は噛みしめるようにしみじみとつぶやく。

 

「……名を」

「え?」

「名を、まだ聞いていなかった」

「……楓です。父が名付けた名だと、聞いています」

「そうか」

 

 聞きたいことは聞けたと信綱は話を終え――楓の頭に手を乗せる。

 

「あ――」

「立派になったな、楓」

 

 静かに笑う信綱の顔を見て、楓は胸に何かが込み上がってくるのを感じ取る。

 言葉にできない万感の思いが口を突き動かし、視界が歪む。

 その歪みが自分の顔を濡らす何かなのか、それとも元の時間に戻ろうと時空が引きずっているのかすら判断できず、楓はその名を叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「父上――!」

 

 次の瞬間、楓は永遠亭の一室に戻っていた。

 あれだけ激しい戦いを繰り広げたというのに、ボロボロになった自身の肉体と根本から折れてしまった月の刃以外、何の痕跡もない。

 だが、自分は確かに父に勝ったのだと、頭の上に残る体温がそれを証明していた。

 父を超えた。その実感がじわじわと胸に上り、楓は唇を震わせる。

 感動に震えそうになる手を強引に握りしめ、少年は何かが流れないよう目を固く閉じる。

 

「ああ、ついに俺が一族で最も強い存在になったのか」

 

 楓は永琳たちに一言礼を告げると、足早に永遠亭を出て阿求の下へ戻る。

 傷は戻る途中で全て治った。一度家に戻るとボロボロになった服を変え、改めて長刀だけを背負い阿求の部屋に向かう。

 

「阿求様」

「お兄ちゃん? 何かあったの?」

「はい。……今日から自分が火継の最強を名乗ります。これから先もこれより未来もどこまでも、私があなたの傍らに侍り続けます」

 

 阿求の中ではとっくの昔に決まっていたことだった。だが、それを口にするのに楓が多くの葛藤と経験をしてきたことは阿求にもわかった。

 故に阿求は満面の笑みを浮かべて、楓の言葉を受け入れるのだ。

 

「うん。信じています、私の大好きなお兄ちゃん」

 

 今日から続く明日も、これから先も阿求が掴んだ大切な時間も。

 阿求は愛しい家族とずっと――文字通り先の御阿礼の子の時間もずっと――共にいられるように、願いを込めて兄の名前を呼ぶのであった。

 

「これからもよろしくお願いします。楓さん」

「はい、阿求様」

 

 

 

 

 

 これにて星を追いかけ、掴み取った少年の物語は一区切り。

 此処から先の物語は彼らだけのもの。まだまだ多くの人妖が手ぐすねを引いて待っているが、一度筆を置くとしよう。

 私が彼らに願うことは唯一つ。

 どうかこの先も彼らの物語に幸いあれ、と――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……負けた。負けた、か」

「あの?」

「いやなに、俺もやるべきことは全部終わったからそろそろ終わりにしようと思って、長刀もお前に託そうとここまで来たんだがな」

「はあ……」

「未来から来た息子を名乗るやつに打ち負かされた。しかもあいつは未来において阿求様が救われると語った」

「あの、話がよく見えないんですけど」

「――死んでたまるか。あいつがいた時間の俺は素直に死んでやったようだが、俺にはまだまだ死ねない理由ができた」

「……なんだか嫌な予感がしてきましたよ」

「行くぞ椛、一から鍛え直しだ。絶対に生き抜いて、御阿礼の子の問題は俺が解決する……!」

「ほら来た!! ……ああもう! 本当にしょうがありませんね!! 本当、こうと決めたら一直線なんですから!!」

「当然だ。お前にも付き合ってもらうぞ、相棒」

「どこまでだって見届けますよ、相棒」




死神「あの、人間が気合で死期を伸ばすとか聞いてないんですけど()」
ノッブ「あいつが生まれないと御阿礼の子が救われないなんて話認めるものか」

楓が生まれるルートに入らないと阿求は救われない? ――そんなことはありません。本話が入るので前作ルートでもノッブが気合で原作ルートに入って御阿礼の子の寿命問題を解決した後で安らかに死にます(真顔)

これにて本編最終話となります。三年弱もの長い間お付き合いいただき誠にありがとうございました(土下座)。

ここまで長くなるとは誰が思ったか……永夜抄から紺珠伝というストーリーラインを付けていた時点で長くなるのは決まってましたね(白目)

本編最終話ということで初代との邂逅やノッブとの勝負など、本作を書き始めて入れたいと思った部分を全部乗せしました。
そしてついでのように壊される依姫の刀。激しい戦いだったからね、仕方ないね()
星を追いかけた阿礼狂いの少年が長い長い冒険を経て御阿礼の子の、そして阿礼狂いの悲願(星)を掴み、決着を着ける物語、楽しんでいただけたなら幸いです。



この後についてですが、人物紹介兼あとがきを別途投稿しようと思います。原作軸に入った影響で登場人物が非常に多くなったので、ドチャクソ長くなりそうですが気長に待っていただけると幸いです(震え声)

最後に、150話近い本作をここまで書き上げることができたのも読者の皆様方、感想、評価、ここすきをくださった方々のおかげです。
この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
……最後なので感想とかいただけると嬉しいです(欲望に素直)
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