楓が紅魔館に足を運ぶ頻度は決して多いわけではないものの、皆無というわけでもなかった。
とはいえレミリアに会うためではなく、紅魔館の大図書館へ足を運ぶ目的である。
「ふむ……やはり俺の炎は妖術の類にあたるか」
魔法、妖術などの対策となる知識を求め、また自分の扱う力がどのような分類に入るのかなどを知るために楓は貪るように本を読む。
知識を得ることは嫌いではない。
知識として己の血肉になり、なおかつ阿求がそういった知識を必要とした時に即座に応えるためだ。
敵対しうる全てから阿求を守る武力以外にも、あらゆる学問を修める知恵も従者に求められる技術の一つだった。
父も己や霊夢の抱く疑問に対し、一切の思考を挟むことなく答えていた。
あの頃は漠然と父の偉大さしかわからなかったが、今ならわかる。あれは弛まぬ努力を続け、莫大な経験と豊富な知識に裏打ちされた言葉だったのだ。
自分があのような言葉を投げかけられるようになるまで、どれほどの時間が必要なのか。武芸を練り上げ、知識を身につければつけるほど、道程の果てしなさを実感するばかりである。
それでもなお淀みなく手は動き、凄まじい速度でページがめくられていく。先が長いのは百も承知なのだ。実感したからと言って、今更足を止めるような殊勝な精神はしていなかった。
「……なあ、楓」
黙々と本を読み進める楓の後ろから声が届く。
千里眼で確認するまでもなく、ページをめくる手を止めないまま返事をする。
「俺のことは気にせずお茶会を続けてくれ」
「いやそこまでわかってるなら気にしろよ!? というかページをめくる音がうるさくて集中できねえ!!」
騒々しいツッコミを入れてきた少女――魔理沙の声に楓は面倒そうな色を隠さず、振り返る。
そこにはこの大図書館の主であるパチュリー・ノーレッジと魔法の森で暮らす魔女二人が一同に介し、同じテーブルを囲んで紅茶を飲む姿があった。
……尤も、魔理沙とアリスは楓の姿を見て頭痛をこらえるようにしており、パチュリーは変わらず本を読み進めているのだが。
「よくそんな速度で読めるな。速読にも限度があるだろ」
「慣れるとそうでもない。物語を楽しむわけでもないんだ、効率を求めるに越したことはない」
「……まあそこは良いや。一応、私らは魔女同士の話し合いとかあるんで、帰って欲しいんだが?」
「もう少し本が読みたい。そっちが適当な雑談をしてくれ」
「よーしよく言った楓。マスタースパークでふっ飛ばされたいんだな?」
全く譲る気配の見られない楓の姿に、青筋を立てた魔理沙がミニ八卦炉を構える。
そこに魔力が集まるのを楓は振り返らないまま確認し、鬱陶しそうに腕を振るった。
すると魔理沙が集めていた魔力が淡雪のように儚く霧散してしまう。
「あ、あれ?」
「――へぇ」
魔女としては新参も新参だが、貪欲に力を求めている魔理沙は知識はともかくとして、実力はアリスやパチュリーを唸らせるものがある。
そんな彼女の魔法を一息でかき消したことに、今まで我関せずと本を読み続けていたパチュリーが顔を上げた。
「今ので対価として問題あるか?」
「いいえ、ないわ。対価を支払った以上、今日は魔女としてあなたを歓迎するわ」
「普段は歓迎されてなかったのか……」
ここに通い始めてそこそこ経つが、初めての情報だった。
「対価を何も支払わない者に気安く何かを与えるほど魔女は安くないの」
「魔理沙はどうなんだ」
「彼女の研究はそれなりに興味深いものがあるわ。アリスは言うまでもなく、私と同等の魔女として扱っている」
言われてみれば自分はここにやってきて本を読む以外のことを特にしていなかった。
相手もこちらを気にしていないのだから、こちらも気にする必要などないだろうと雑に扱ったのはまずかったか。
「……次からは手土産ぐらい持ってこよう」
「ああ、レミィから聞いたけど人里は外の勢力と薬の取引を始めたと聞くわ。喘息に効く薬なんかあったらほしいわね」
「覚えておく」
人間用の薬を用意してもらっているので魔女にどの程度効果があるかは疑問だが、持ってこなければ本を見せないとか言われかねない。
仕方がないと本を閉じ、楓は魔理沙たちの方へ体の向きを変える。
「対価ついでに今の技についても話そう」
「お、待ってました。確かに威力は抑えたが、マスタースパークの出をかき消すってどういう技だ?」
「この前、魔理沙みたいな魔力を集めた光線をバカスカぶっ放してくる相手と戦った。その時に覚えた」
覚えなければ死んでいたとも言う。直撃すれば一本ですら自分を殺すに余りある火力の光線が雨あられと迫りくるのだ。あまり思い出したい光景ではなかった。
「バカスカってどのくらいだ?」
「正面の視界全部が光で埋まるぐらい」
「どんな危険人物だよ……」
「風見幽香」
「は、ばっ!?」
こともなげに言い放った楓の言葉に魔理沙は血相を変えて席を立つ。
慌てて楓の近くに駆け寄ってきた魔理沙は楓の姿を頭から爪先まで見直して、安堵の息を吐いた。
「……よし、死んでないな。足がある」
「殺すな。死にかけたが」
「そりゃそうだろうよ。人里の生まれなら赤ん坊だって知ってることだろ。風見幽香がヤバい大妖怪だってことぐらい」
「向こうから突っかかってきたんだ。俺だって戦いたくなかった」
誰が好き好んで低い勝率の、しかも負けたら死ぬ勝負などやらなければならないのか。強くなるために実戦をするのは良いが、それにしたって限度がある。
アリスとパチュリーは聞き覚えがなかったようで、首を傾げていた。
「風見幽香……? 魔理沙、知っているの?」
「パチュリー……は、ここに引きこもってるし、アリスも魔法の森だから知らないのも無理はないか……いいぜ、教えてやるよ。楓が」
「なぜ俺が」
「実際に会って話までしてるのはお前だろ。それに話さないと本は読めないぜ?」
楓が見回すと、三人の魔女が好奇に彩られた瞳でこちらを見ているのがわかった。魔理沙は言うまでもないが、アリスとパチュリーも負けず劣らず好奇心旺盛なようだ。
仕方なしに人里で教えられている情報をかいつまんで話してやる。
「……とまあ、太陽の畑から基本的に動かない妖怪だ。人里ではお互い不干渉の意味で特級に危険な妖怪として教えられる」
「なるほど、恐れさせて接触できない状態にしたと」
「が、最近になってまた動くようになってな。人里にも時折姿を見せることがある」
動くようになった原因は楓の父親なのだが、知ったところでどうしようもないのでそれは言わないでおく。
パチュリーとアリスは納得したとうなずき、優雅な手付きで紅茶を飲んだ。
「太陽の畑、というのは私も空を飛んでいる時に見たことがあるわね。あそこの妖怪ということ」
「そういうことだ。で、その妖怪にこの前絡まれてな。戦闘になったんだが、魔理沙の戦い方に似ていた」
「へ、私?」
「魔力を集めて、ぶっ放す。極めて単純で、強力なそれが妖怪の馬鹿げた魔力に物を言わせて壁かと見紛うほどやってくる」
直撃したら黒焦げどころか骨も残さず蒸発である。死にものぐるいで避け、対策を練らなければ命がなかった。
それを話すと魔理沙はわかってないとばかりに肩をすくめた。
「そりゃ無粋だ。必殺技ってのは文字通りこれで決めるってつもりで撃たなきゃダメだぜ。私みたいに小器用な戦い方も見習って欲しいもんだ」
「あら、あなたマスタースパークの発展型のスペルカードをいくつか――」
「小器用に隙を作って、そこに一撃を叩き込む! これが美しい弾幕ごっこってやつだぜ」
アリスの指摘を聞かなかったことにし、得意げに語る魔理沙に楓はそんなものかと首肯する。
霊夢や魔理沙が弾幕ごっこで異変解決しているのは知っているが、その戦い方がどんなものであるかまでは詳しく知らなかったのだ。
「だからさっきの楓の魔法潰しも対策は浮かんでる。でかい一発じゃなくて、小さいのをいくつもぶつければいいんだ。さっき腕を振った動きからして、射程はそんなに長くないだろうしな」
たった一度見せただけだと言うのに、魔理沙は魔法を阻害する楓の技への対策をすでに見出していた。
楓は両手を上げて降参を示し、魔理沙を見る。
「……参った。そこまで見抜かれるか」
「ガキの頃から知り合いなんだ。好き嫌いもわかるってもんだぜ」
「後学のために聞いても?」
「お前の目から見て無駄なことはしない。射程が短いのも、それだけあれば踏み込むのに十分って意味だろ?」
魔理沙の言う通りなので、笑うしかなかった。
楓の術は基本的に射程はそこまで長くない。というのも、術はあくまで接近するための余技であり、本命は二刀での斬撃だからである。
「その通りだ。一瞬の驚愕さえあれば、距離を詰めて斬ることはできる」
「相変わらずおっかねえ考え方だこと。まあ良いや、それだけわかればアリスもパチュリーもビビる必要ないだろ?」
「私達のために聞いていたの?」
アリスの言葉とパチュリーの視線を受けて、楓は妙に突っ込んで聞いてきた魔理沙に納得の顔をした。
「私は箒で距離を取れるけど、二人はそうもいかないだろ? だから私以上に楓を警戒したんだと思ってさ」
「言っておくが、阿求様と俺に喧嘩を売らない限り俺は剣を抜かないからな」
喧嘩を売られない限り剣は抜かない。その前提を踏まえた上で考えるなら――楓が一番戦いたくないのは魔理沙だった。
アリスもパチュリーも機動力という点で言えば大したことはない。一息に踏み込むことさえできれば対処は容易い。
二人はそんな楓の視線を見透かしたように肩をすくめ、薄っすらと自信に満ちた微笑みを浮かべた。
「ご心配どうも。ただ、魔女というのはその場での対応力が全てじゃないわ。事前にあらゆる状況を想定し、それらへの対策を用意しておくのが魔女」
「私の本や、アリスの人形。これらにどれだけの術式が秘められているか、わからないほど駆け出しでもないでしょう?」
足が速いなら、止めてしまえば良い。距離を詰められるなら、距離自体を曖昧なものにしてしまえば良い。楓が彼女らを追い詰めるなら、彼女らもまた追い詰められない手は用意してあるのだ。
単純に己の力量に自信があるものより、こういった対策を怠らない相手の方が厄介である。そのことが直感できた楓は戦いたくない、と思いながら本を片付けるのであった。
「――さて、一通り読み終わった。邪魔していたようだから、そろそろ御暇するとしよう」
「お、帰るのか? じゃあこれでようやく魔女の話し合いができるって――」
帰る支度を始めた楓を見て、魔理沙は改めて椅子に座り直してアリスとパチュリーに研究成果を話そうとしたところで、後ろから甲高い少女の声が届く。
「あら、魔理沙。来ていたの?」
魔理沙が視線を向けると、そこには宝石の羽を持つ少女――フランドール・スカーレットが手に時計の長針を歪めたような杖を持って歩いてくる。
澄ました表情とは裏腹に瞳は輝いており、どことなく弾んだ足取りで魔理沙の方へ向かう。
「寺子屋から帰ってきたら魔理沙がいるなんて、今日は運が良いわ。ね、この後遊びましょう?」
この遊びは命の危険が伴うものである、と察した楓が何かを言おうとするが、その前に魔理沙は気負った様子もなくうなずいてしまう。
「ああ、良いぜ。けどその前にお前もお茶ぐらい飲んでいけよ。今日の寺子屋は楽しかったか?」
ポットに残った紅茶を注ぎ、魔理沙はフランドールをお茶の席に誘う。
フランドールはどこか遠慮した視線をアリスとパチュリーに投げるものの、パチュリーは我関せずと読書に戻り、アリスは柔らかく微笑んでうなずくばかり。
それを受けておずおずと座ったフランドールに魔理沙はニカリと笑い、空になったポットを楓に渡す。
「んじゃ、お代わりとおやつよろしく」
「なぜ俺が……と言いたいが、わかった。台所事情がわかっている咲夜ほどのは期待するなよ。……あと、大丈夫なのか?」
心配する声だけ小さく言うと、魔理沙は気楽な様子で肩をすくめた。
「危ないのは承知してる。……でも、放って置けないんだよ。ここで逃げて悲しませるのは違う気がする」
「…………」
「心配してくれてサンキュな。私が死んだら親父に謝ってくれ」
「……言えた義理でもないが、気をつけてな」
この面倒見の良さは父親譲りだろうか。楓は自分に付き合い続け、そして吸血鬼とも付き合い続ける魔理沙を見て目を細める。
そして自分の役目はここに残ることではないと悟り、おとなしく厨房を探しに行くのであった。
楓の姿が見えなくなったのを見て、魔理沙はフランドールへ改めて声をかける。
「で、今日はどうだったんだ?」
「別にどうとも。慧音の授業は相変わらずつまんないけど、私に何かを教えようとしているのだけは伝わってくる。慧音の授業は眠くなるくらいつまんないけど」
「二度も言ってやるなよ……」
人里の生まれなら誰しも一度は必ず通る道なので、あまり強くたしなめることはできなかった。なにせ魔理沙も楓も、霊夢ですらも一度は慧音の頭突きを受けているのだ。
魔理沙の言葉を受けて、アリスも優しい眼差しでフランドールを見つめ、口を開く。
「最近見かけるのは、寺子屋へ行くところだったかしら。だったら、私の人形劇も話には出ているのかしら」
「聞いたことはある。見たことはまだ……ないけど」
「それは残念。一度見にいらっしゃいな。質は保証してあげる」
「……気が向いたら」
はにかんだ様子で答えたフランドールに満足そうに笑うと、横から魔理沙がニヤニヤと嫌らしい笑顔になる。
「相変わらず子供に優しいこって。私にももうちょい優しくしてくれて良いんだぜ?」
「将来のお客様と本泥棒では違って当然よ」
「借りてるだけだって。読み終わったら返してるじゃないか」
「楓がね。それも私からお願いして」
ドスの利いたアリスの声に魔理沙はこわいこわいと笑う。
そしてずっと話題に入ることもなく、黙々と本を読んでいる図書館の主に声をかけた。
「で、パチュリーはなにかないのか?」
「……妹様」
「う、うん」
「……ここでレミィと喧嘩するのはやめて。あとこれ」
指一本動かすのも億劫そうな様子で腕を振るうと、書棚から一冊の本が飛び出てきてフランドールの前に置かれる。
「これは?」
「……以前、寺子屋での授業でわからないところがあると言っていたでしょう。それを読めば多少は助けになるかもしれないわ」
「あ、ありがとう……パチュリーは私に興味ないと思ってた」
「ないわよ。ないけど、同好の士を無下にはしないわ」
「同好の士?」
オウム返しに聞いてくるフランドールにパチュリーはうんざりした様子ながらも、本から視線を外してフランドールをしっかりと見つめる。
「――本が好き」
「え、うん……それだけ?」
「それだけ。レミィは全然本なんて読まないし、私にレミィが幻想郷に来てからの自伝を書けなんて言う始末」
それは鼻で笑って流したけど、と嘲笑して言い切るパチュリーの顔には遠慮などどこにもなく、それだけの間柄がレミリアと作られているのだと察せられた。
「アリスと魔理沙は言うまでもなく魔女で、楓も……まあ、目的はどうあれ私を害するつもりはないし邪魔はしないわ。そして妹様も」
「……じゃあ、また話しかけてもいいの?」
「答える保証はしない。……ああ、もう、長話すると喉が渇くわね」
それだけ言うと、パチュリーは再び本を読むのに戻ってしまう。
フランドールは戸惑った様子だったが、そんな彼女の肩に魔理沙が手を置いてウインクを投げかける。
「魔女ってやつはどいつもこいつも回りくどいのさ。ま、パチュリーもこれで意外と話し好きだったりするんだぜ?」
「あなたがうるさいからうんざりしてるだけよ」
「つまり、うるさいくらい話しかければいいってわけだ。簡単だろ?」
「次からはそうする。……うん、そうしてみる」
何かを掴んだ様子でフランドールは何度もうなずき、漂ってくる紅茶の香りに顔を輝かせる。
新しい紅茶の入ったポットを持った楓が現れ、テキパキと四人へ新たな紅茶を注いでいく。
「待たせた。咲夜ほどの味は期待するなよ」
「おっと、来たか。じゃあ続きはお茶でも飲みながら話そうぜ」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
フランドールのお礼に楓も柔らかい声で応え、すぐに目を細めていそいそと帰り支度を始める。
「楓?」
「悪い、先に戻る。菓子は後で咲夜に頼んでくれ」
「あ、おい!?」
魔理沙の制止も聞かないまま、楓は常に携帯している刀を二振り持つと図書館から出ていってしまう。
どうしたんだろうな、と答えを求める視線をアリスたちに投げかけるも、彼女らもわからないと首を振るばかり。
「お待たせいたしました。お茶のお代わりを客人にさせてしまうとはメイド失格ですね。どうかご容赦を」
「あら、咲夜」
「とはいえ、淹れた茶の質は保証しましょう。彼も従者の端くれですから」
しかし、彼と入れ替わるように現れた咲夜を見て魔理沙は答えを直感し、同時に苦笑いを浮かべる。
「なんだよ、楓のやつ私を心配できる立場にないじゃないか」
「魔理沙?」
「こっちの話さ。――厄介なやつに好かれちまった者同士っていう、な」
魔理沙たちといち早く分かれた楓は一直線にある方向へ向かっていた。
「あら、楓。楓が来ているからこっちから出向こうと思ったのに、途中で出くわすとは運命の相手と言っても過言ではないのでは?」
「過言だと思います、お嬢様」
「これは手厳しい……え、今のセリフ楓じゃなくて咲夜が言った? ねえ、仮にも従者なのよあなた?」
「主に真実を伝えるのが従者としてあるべき形だと思いまして」
「本音は?」
「お嬢様は好いた人に袖にされる姿が似合います」
「予想以上に直球かつそんな風に思われていた事実で泣きそうよ!?」
「――咲夜、図書館の方で俺が紅茶のお代わりを淹れてある。菓子は時間が足りず用意できなかったので残りを頼む」
この二人を好きにさせるといつまで経っても話が終わらないのは知っていたので、楓は無理やり話題に入っていく。
楓の言葉を聞いた咲夜はおや、と不思議そうな顔をした。
「お茶を淹れるのは別に良いわ。あなたなら任せられるもの。お菓子が用意できなかった片手落ちは気になるけどね」
「……フランドールが図書館にいる」
唇を動かすだけのそれだったが、咲夜は読み取ったようで楓に同情の視線を向ける。
フランドールとレミリアを会わせると大体喧嘩になる。当事者的にはコミュニケーションの一環なのかもしれないが、他の客人からすれば良い迷惑である。
千里眼でレミリアの接近をいち早く察した楓はすぐに離脱し、先んじて自分が接触することで興味を図書館からそらしているのだ。
……実はフランドールが図書館に現れた時点で嫌な予感がしたため、普段はあまりやらない千里眼で部屋の内部まで把握していたのは秘密である。
「ではお嬢様、私はパチュリー様たちにお菓子を作ってまいります。お嬢様は楓と過ごされてはいかがでしょう?」
「あらやだ、これはいわゆる恋のキューピッドってやつかしら。うふふ、いじらしいことするじゃない」
「楓を旦那様と呼びたくはないので恋愛禁止で」
「従者に恋愛禁止って言われたのは初めてよ!?」
「俺もお前にそう呼ばれたくはない」
「追い打ちしないで!?」
咲夜はレミリアをからかうだけからかうと、文字通りその場から消えてしまう。
レミリアはそれを見送り、颯爽と踵を返して部屋に戻る。
「パチェのところに押しかけようと思ったんだけど、興が削がれたわ。楓は私の相手をしてくれるのでしょう?」
「……気づいていたのか」
「ここで会った時点で気づいていたわよ? あなたと咲夜のやり取りが面白かったから合わせただけ」
そう言って振り返り、ニヤリと牙を剥き出しにして笑う様はまごうことなき吸血鬼のそれだった。
「さて、今日はどうしたものかしら。楓は最近また腕を上げたようだし、私もそろそろ本気で殺しに……いえいえ、それをしちゃったら歯止めが利かなくなるわね」
「お前は俺を殺したいのか強くしたいのかどっちなんだ」
「強くなってほしいわよ? でも――」
振り向きざまに振るわれたレミリアの手には魔力で編まれた鎖が握られており、先端の棘が楓の肩に刺さる――直前で鎖自体がかき消える。
鎖が消えたことにレミリアは凄絶に笑い、同時に怖気の走る殺意が楓の総身に突き刺さった。
「術を解いた……本当、あなたたち親子は私を退屈させない」
「…………」
「ああ、その目……。お父上も美しかったけど、あなたのそれは別格。なにせ私の好きな紅色なんですもの」
焦がれてやまないものを乞う動きでレミリアは震える指先を楓の眼に伸ばし――火に触れたように指を引っ込める。
「おっと、危ない危ない。これ以上近づいたらあなたの眼が怖いわ」
「……なぜ」
「ただの勘よ。でも、私はこの手の勘を外したことはないの」
それだけ言うと、レミリアは先ほどまでの殺意を微塵も感じさせない足取りで歩いて行く。
楓が見る中、多少距離を離したレミリアはもう一度振り返ると、邪悪そのものな笑みでこう告げるのであった。
――その眼に振り回されないだけの力を早く身につけなさいな。でないと死ぬだけよ?
紅魔館組とのトーク。美鈴さん? こ、今度出します(震え声)
おぜうはこう言ってますが、楓の能力については何も知らないしわかってません。
ただ、下手に手を出すと自分でも不味いということぐらいはわかっています。
それはそれとして愛しい男の息子が強くなっているのは嬉しいのでちょっかい(対処できなきゃ死ぬ)はかけるのですが。
魔理沙は魔理沙で楓に負けず劣らず厄介な縁を自分から背負い込む子です。そしてなんだかんだ言って見話せずにズルズルと抱えてしまう。
楓から見た魔理沙→こいつロクでもない死に方しそうだから、多少は気をつけて見よう
魔理沙から見た楓→すでにロクでもない奴に絡まれてるから、困ってたら助けてやろう
両者共通→まあ自分は霊夢よりマシだ
外から見た三人? 五十歩百歩(無慈悲)
もう1、2話挟んだら風神録に突入します。天狗と妖怪の山勢力中心のお話になりますが、楽しんでいただければ幸いです。