阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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天魔の真意

「しかしまあ、博麗の巫女は容赦というものがない。上半身しかないオレにあそこから更に追撃まで入れてくるか、普通?」

 

 楓が天魔との戦いを制した後、彼らはなんとか霊夢と文の繰り広げる弾幕から逃れていた。

 すでに天魔の傷は完治しており、楓の負っていた軽傷も全て治っていた。傷の度合いで言えば天魔の方が遥かに重いのだが、治る速度は天魔の方が圧倒的に速かった。

 

「異変の時に容赦はするな、という父上の教えを守っているのだと思う。あの時の霊夢は俺にも容赦しない」

「……大変な妹だな」

「あれで良いところも……良いところも……っと」

 

 言葉に詰まった楓の後頭部に退魔針が投げつけられるが、楓は振り向くことなく首を動かして避ける。

 

「そこで言葉に詰まるとは死にたいらしいわね?」

「博麗の巫女か。文はどうした?」

「私がきっちりぶっ飛ばしたわよ。ったく、私の目が黒いうちに好き勝手異変なんてさせるかっての」

「――さすが。腕利きという言葉に嘘はないな。楓もだが、その歳で見事なもんだ」

「で、あんたらは何やってたわけ? 楓はまあ歩けば棒に当たるとして、そっちは天狗の大将でしょ?」

 

 ものすごく物申したそうな顔になった楓を無視した霊夢が天魔を見る。

 天魔はなんてことのないように肩をすくめ、皮肉げに笑った。

 

「いやなに、友人の息子を見てみたくってな。そちらとは別に剣を交えていたんだ。さっきまでは妖怪の山の頂上でやっていたんだが、戦っている間にこいつの術中にハマっていた」

「ふぅん? まあそれは良いわ。本当なら邪魔したってことでぶっ飛ばしたいけど」

「おおこわいこわい。まあオレたちはこれ以上何かをするつもりはない。守矢神社の連中をぶっ飛ばすのも、魔法使いの嬢ちゃんと一緒に戦うのも好きにしてくれ」

「魔法使い……ああっ! 楓、魔理沙って今どの辺!?」

「話の意味がわからな――」

「早く言わなきゃ夢想封印!!」

 

 鬼気迫った様子の霊夢が札を構えていたため、楓は嫌そうな顔をしながら口を開く。

 

「……もう神社の方に行ってるぞ。勝負はまだ始まったばかりだが」

「いっけない、競争に負けちゃうわ! 負けたらあんたのせいだからね、楓!!」

「お前が負けたら指差して笑ってやるから安心しろ」

「私の代わりに魔理沙の言うこと聞いてもらうわ」

「お前がどうしてもと頭を下げるなら考えてやる。ほら、さっさと行け」

 

 しっしっ、と腕を振ると霊夢は楓の姿に一度肩をすくめ、そのまま振り返らず幻想郷の空へ再び舞い戻っていく。

 それを見送った二人は休息で疲労も消えた身体を起こし、立ち上がる。

 

「さて……久方ぶりに気持ち良い戦いもできたことだし、約束を果たそう。オレがお前を妖怪の山に招いた真意を教えてやる」

「…………」

「なんとなく答えは察している、という顔だな。答え合わせをする前に、もう一度頂上に行くか。ここだと人目がある」

 

 飛び上がった天魔に追随し、再び雲海を抜けて誰もいない山の頂上へ到達する。

 ……戦いの影響で緑の色濃かった地表が多少禿げ上がっているが、時間がやがて解決してくれるだろうと楓は深く考えないことにした。

 

「よっと、わざわざ悪いな。老いぼれのワガママに付き合わせて」

「老いぼれ」

「こう見えて天狗の中じゃ最高齢だぜ? 伊達に千年も天魔はやってない」

 

 天魔の語る口に楓は妙な違和感を覚えた。

 

「…………跡目はいなかったのか?」

「オレを全てで上回れる天狗が現れた時がそうだと思っていたが……なかなかどうして、オレは才能に溢れていたらしい」

 

 そう言って肩をすくめる天魔を、楓は呆れた目で見る。

 全てで天魔を上回るどころか、一芸ですら上回っている奴が誰もいないのだ。そんな状態で天魔を超える傑物など生まれるわけもない。

 

「文は優秀な右腕だが、右腕以上にはなれん。あれは根本的なところで真面目でな。オレの指示に従って動く分には良いが、自分で天狗の未来を示してやるってなると厳しくなる」

「それが難しくない奴はいないと思う」

「ご尤も」

 

 しかし、それを千年やってのけたのが目の前の天狗なのだ。彼が自身の跡目に要求するハードルの高さもわかるというもの。

 楓は自分に向けられるであろう言葉をある程度理解した上で、天魔の話に付き合っていく。

 

「……オレがいつまでも正しい道を選べるかわからない。もしもオレが間違えた道を選び、天狗を滅びに向かわせることがあった時、オレを止められる誰かが必要になる」

「……そろそろ本心を話しても良いだろう。――オレに何をさせるつもりなんだ?」

 

 昔を懐かしむように語っていた天魔はゆっくりと楓の方を振り返り、そして楓を妖怪の山へ誘った本当の理由を口にする。

 

 

 

 ――お前、オレの後を継ぐ気はないか?

 

 

 

「……途中からそんな気はしていた」

 

 でなければあそこまで本気で自分の器を試しには来ないだろう。今、天魔と親交があるのは親の七光りでしかないのだ。

 そう天魔に告げると、天魔はハッキリと首を横に振って楓の考えを否定する。

 

「親の七光りだけならここまでやらんよ。オレは犬走椛と旦那――天狗の血を引くお前が永夜異変を境に頭角を現した時からお前に目をかけていた」

「……永夜異変の頃はまだ箸にも棒にもかからないと思っていたが」

「年齢を考えれば破格も破格だっての。お前さんはどうにも旦那と己を比較して自分を卑下することが多すぎる」

「…………」

 

 よく周りからも言われているので、返す言葉がなかった。

 天魔はそんな楓の姿に目を細め、全てを己の益と考える天魔らしからぬ――どこか好々爺を思わせる優しい眼差しで見つめる。

 

「こうして刃を交えて確信した。――お前は必ずオレを超える。武芸だけじゃない、政治の面でもこのまま成長を続ければオレを出し抜くことだって可能になる」

「……自分の所属は人里だ。妖怪の山ではない」

「別に兼任したっていいだろ? 一つの勢力の長にしかなれないって決まりはない」

「……本気で言っているのか?」

 

 兼任すれば良い、と宣う天魔の言葉に楓は軽く目を見開いた。

 

「本気も本気さ。そもそもお前さんは阿礼狂い。何があっても優先順位は変わらない、だろ?」

「ああ」

「妖怪の血が混ざって多少は変わることも期待したが……まあ、そこは良い。オレはオレの治める妖怪の山がより良い方向に向かえば何も言わない」

「…………」

「旦那との付き合いも含めればそろそろ半世紀。旦那やお前さんの考えも多少は理解したつもりだ」

 

 そう言って天魔は楓を指差し、楓が今思っていることを当てていく。

 

「御阿礼の子が第一なのは変わらない。変わらないが、御阿礼の子が健やかに過ごす環境のためにも周囲の情勢は可能な限り良くしたい。違うか?」

「合っている」

「だろう? であれば、お前さんが動かせる勢力は多ければ多いほど良い。末端まで把握できていればなおさらだ」

「……そうだな」

「だったら天魔になれ。自分で言うのもあれだが、妖怪の山は勢力としてみれば最大だ。個々人の質でここより優秀な勢力が現れても、数でこちらを上回ることは絶対にないと断言できる」

「そして人里は幻想郷の要でもあるため、どこかに脅かされる心配が薄い」

 

 楓が妖怪の山を率いることによって生まれる利益を、天魔は熱心に説いていく。

 その姿を見て、やはり本気で天魔は己を自身の後継にしたいことを察する楓。

 確かに天魔の話は利益が大きい。実際にできるかどうかはさておき、少なくとも天魔は楓にそれができるだけの器を見出している。

 だが、それでも楓に即答できる話ではなかった。

 どう断ろうか言葉を選んでいる楓の姿に、天魔はふっと微笑んで楓の頭に手を乗せる。

 

「……天魔?」

「オレが語った言葉に嘘は一つもない。だが、オレとて今すぐお前に天魔をやれというほど耄碌しちゃいないさ」

「どういう意味だ?」

「百年、二百年でも良い。お前が親を超えたと確信して、その上で天狗を導くことも受け入れてもらえるまで待つってことだよ。後継が誰もいない百年と、受け継ぐ誰かがいる百年は全く違う」

「…………」

「オレの話が未来の皮算用と笑っても良い。良いが――これ以上の卑下はするな。オレはお前に己を超える器を見出した。お前にならこの山の将来を任せても良いと思えたんだ」

 

 らしくない、とさほど付き合いの深くない楓ですらそう思うほど、天魔の言葉には熱がこもっていた。

 だからだろうか。楓は彼の言葉を受け入れ、自分なりの答えを返さなければならないと感じる。

 

 阿礼狂いの自分が優先すべきものは終生変わらない。

 人里の守護者というのも、実態としては御阿礼の子が属する集団を守るための方便に近い。

 無論、与えられた役割は果たす。周囲とより良い関係を築くための努力も怠らないが、言ってみればこれは本業の片手間である。

 御阿礼の子と人里の守護者、どちらを優先するかと言われれば考えるまでもなく御阿礼の子を選ぶ。それはあらゆる物事が秤の片方に乗っていても同じである。

 

 選択の時が来たら迷わず切り捨てる。阿礼狂いにとって全ての物事はその程度の重要性でしかない。だが――それを最期の時まで行わなかった人間を楓は知っている。

 ならば自分もそうするべきなのだろう。己の許容を超えない限り、あらゆる物事を背負い続ける。今回は人里に妖怪の山が増えただけだ。

 楓は瞑目して考えをまとめ、ゆっくりと顔を上げる。

 

「――わかった。俺が今以上に経験を積んで、力を磨き、多くの物事が見えるようになった時は――妖怪の山も俺が背負おう」

「その言葉が聞きたかった。その時が来たらオレも休ませてもらおう」

 

 今はまだ果たされることはなく、結実する時は遠い先の話になるが――楓はこの時確かに、父より多くのものを背負うという決心を固めたのであった。

 

 

 

 

 

 楓は自らの決心を語ると、早々に踵を返して阿求のもとへ戻っていく。博麗の巫女が来た以上、彼にとって守矢神社と妖怪の山との異変はもう終わったものという扱いなのだ。

 天魔も頂上から見下ろした感じ、すでに決着はつきかけているので楓の見方は全くもって正しいのだが、心配とかまるで感じていないのだろうか。

 楓本人に自覚はないだろうが、相当な信頼を霊夢に寄せているのは誰の目にも明らかだった。

 

「さて――見ているんだろう、スキマ」

 

 誰もいなくなった頂上で天魔は一人、そこにいるであろう妖怪の名を呼ぶ。

 幻想郷創始の頃から知り合いであり、ずっと政敵としてやり合いながらもそれなりに親しい間柄である妖怪の賢者――八雲紫が空間に開かれたスキマに腰かけて現れる。

 

「ま、あなたならこれは気づくわね」

「守矢神社の幻想入りの手引もそっちだろう? この場所に来ちまったのは流石に事故だと思うが」

「事故でないとしたら?」

「なんだ、妖怪の山の総力でお前を殺しにかかるとでも言えば満足か?」

 

 そう言って天魔は気安く笑う。万が一にも紫の語っていたことが事実だった場合、先ほど口にしたことをためらわずに実行するという鈍い殺意を瞳に浮かべながら、だが。

 

「……まさか。私もあなたを敵に回すことの意味はわかっているわ。とはいえ、他に良い場所があったのかと聞かれると困ってしまうけど」

「人里に現れたら事故なんて話じゃ済まないだろうしな……」

 

 まず間違いなく阿礼狂いを敵に回す。それは天魔も紫もゴメンだった。

 

「で、ここまで顔を出していない理由を聞いておこうか。昔は楓のもとにも結構顔を出していたそうだが、最近はとんと見ないと聞くぞ?」

「相変わらず耳聡いわね。私がもっぱら霊夢の方に顔を出しているのは否定しないけど、楓にも注視はしているわ」

「ほう?」

「……幽々子があの子を警戒していてね。根拠など何もないと言っていたけど、幽々子がそう言うってことは何かがあると思っているわ」

「あいつの持つ魔眼だけではなく、か?」

 

 天魔の指摘に紫はゆるゆると首を振る。楓の所持する瞳が千里眼以上のなにかである、というのはある程度情勢に敏い妖怪なら誰もが知っていることになりつつあった。

 

「オレもさっき受けたが、ありゃ間違いなく魂に作用する何かだ。来るとわかっていれば気合である程度無視できるが、逆に言えば気合以外の対策がない」

「魂への干渉……亡霊である幽々子は特に強く影響を受けるでしょうね」

「元々妖怪ってのは精神寄りの存在だ。よほど肉体を傷つけない限り死にはしないが、退屈で精神が死んで消えてしまう例も稀に存在する」

「……妖怪などの精神、魂に比重が寄ったものに強く作用する魔眼。あの子もとんでもないものを持って生まれたものね」

「完璧に制御できているのが救いと見るべきか、はたまた阿礼狂いがそんな能力を持っていることを嘆くべきか……」

 

 天魔と紫は揃ってため息をつく。楓本人は才気に溢れた心優しい少年なのだが、彼の本質と所持する能力を考えるとどうしても警戒せざるを得なかった。

 

「……魂縛りの魔眼。それだけで済むと思う?」

「さぁて、な。オレにもそれはわからん。ただ、もしもその先があるとして――それを見る時は楓が阿礼狂いとして本気で怒っている時ぐらいだろうさ」

 

 先の戦いでも見せなかったものだ。取り回しが悪いものなのか、あるいはどれほど追い込まれても自分の問題で済むなら使わないのか。はたまた天魔の考えすぎなのか。

 いくら考えども答えは出ない。天魔は頭を振って思考を打ち切り、紫を見る。

 

「……考えたって仕方がない。あいつが言わない限り、オレも何も聞かないことにしよう」

「あら、買ったわね。そんなにあの子が気に入った?」

「もちろん。あれは将来、天狗を背負って立つ――オレの後を継ぐ存在だぜ?」

「ふぅん、天狗を……天狗を!?」

 

 気にした様子もなく受け流そうとした紫だったが、天魔の口からあり得ない言葉が出たことに気づき、思わず天魔の方を見てしまう。

 

「あなた、天魔を降りる気なんてあったの!?」

「オレより優秀な奴が出りゃあ、いつだって譲る気だったさ。オレが天魔の座についたのはオレ以上に上手く天狗を束ねられる奴がいなかったからだ」

「そりゃ千年も天魔の座に居続けるわけだわ」

 

 認めるのは癪だが、天魔の知略と統率はスキマ妖怪の紫をして厄介の一言以外になかった。千年もの長い付き合いの間、紫が一度も妖怪の山を手中に収めたと確信できる時が来なかった、と言えば彼の卓越した手腕もわかるだろうか。

 

「楓は白狼天狗と人間の血を引く――つまり天狗の仲間とも言える。これからも経験を積み続ければ、あいつは必ずオレを超える領域に到達する」

「それは……そうね」

 

 否定しそうになったが、紫もそれを肯定する。

 楓の前に顔こそ出していないが、彼女も楓の動向はスキマを通じ、また彼と交友のある橙らの報告を受けて確認していた。

 

 間違いなく彼は英雄の後継に相応しい才覚を所持しており、昨今の異変に次ぐ異変でそれが開花し始めている。でなければ風見幽香、天魔らと戦って生き残り、まして勝利するなどできるものか。

 

「いつか彼はあなただけでなく、私をも超えるかもしれない。そうなったら――」

 

 先んじて手を打つ必要があるかもしれない、と考える紫をよそに天魔は気負った様子もなく肩をすくめた。

 

「やることは変わらん。お前がお前の役目を果たす限り、あれはそちらの敵にはならんよ」

「…………」

「お前さんの考えていることを当ててやろうか? 自分は万が一を考えなくてはならない。もしも、御阿礼の子がそれを望んだ場合はどうしたら良いか、ってところだ」

「……あなたはどうするの?」

「あいつが天魔を継いだ後なら何も言わん。オレの見込み違いだったとして、自分の浅はかさを呪いながら消えるとしよう。それ以前ならまあ、抗うさ。いつも通りだ」

 

 楓にそんな決断をしてほしくないという思いはもちろんある、あるが――それでも時が来たら迷わないだろう。

 

「だからお前も気負うな。考えたって仕方ないことを考えても意味なんてないんだ。それよりどうすれば御阿礼の子のご機嫌取りができるか考えた方が良いんじゃないか?」

「……全く、いつもあなたはうんざりするぐらい態度が変わらないわね」

「性分でな」

 

 皮肉げに笑う天魔を見て、紫は不愉快げに――どこか楽しげに笑う。

 

「私もそろそろ顔を出しに行こうかしら。あの子は霊夢と違ってちゃんとこっちを敬う可愛い子だし」

「あまり公私混同はするなよ? 公人としての姿は旦那そっくりだ」

「ふふ、それらも合わせて楽しむとするわ。それじゃあ、私は守矢神社との話し合いにでも行くとしましょうか」

「妖怪の山の話はこっちでなんとかしてやるから、それ以外は任せた」

 

 紫の方を見ることもせずひらひらと手を振る天魔に、紫は誰に見せるでもなく小さく微笑み、自らの身体をスキマへと滑らせる。

 今度こそ誰もいなくなった妖怪の山の頂上で、天魔は両肩を回してその凝りをほぐす。

 

 

 

「ああ――ようやっと終わりが見えてきたのか」

 

 

 

 誰にも言わず、聞かれもしないその言葉は、長い長い道を歩み続けてきた者特有の疲労と達成感に溢れたものだった。

 

 

 

 

 

「阿求様、ただいま戻りました」

 

 所変わって人里。戻る道中で霊夢と魔理沙の弾幕が守矢神社の祭神を両方とも呑み込む場面を見た楓は、事の次第を報告しに阿求のもとへ戻っていた。

 楓を出迎えた阿求の顔に心配のそれはなく、ただ楓の服が微妙に焦げていることに気付いて困ったように笑っている。

 

「うん、おかえりなさいお兄ちゃん。文さんからお話は聞かせてもらったよ」

「でしたら妖怪の山の神社――守矢神社に行って起こった事の仔細についてもご報告させていただきます」

「それは部屋で聞こうかな。ところで、その服が焦げてるのは……」

「……こちらについても後ほどご報告いたします。すでに怪我は治っておりますのでご安心ください」

「お兄ちゃんは本当にお兄ちゃんだよねえ……」

 

 間違いなく褒められてない言葉を受け取り、やや憮然とした顔の楓は阿求の書斎で自身の知る全てを包み隠すことなく報告する。

 

「――以上が守矢神社と妖怪の山を巻き込んだ異変の仔細となります。先ほど戻り際に状況を確認しましたが、霊夢と魔理沙がスペルカードを叩き込む姿が見えたので、すでに異変は終わったものかと」

「そっか。いきなり神社が現れたことには私もびっくりしたけど、お兄ちゃんたちでどうにかしたんだ」

「私と天魔で話し合い、異変を起こしてそれの終了を以て彼女らの幻想入りは認められる。そういった手はずとなっておりました」

「ふむふむ……新しく幻想郷に来た方々とは改めてお話しておく必要がありそうね。お兄ちゃんの目から見てどうだった?」

「抜け目ない存在、という印象が強いです。天魔を相手にしても物怖じせず、全く怯むことなく差し出せるものは何もない、と言い放った存在は初めて見ました」

 

 あそこまで潔く出世払いと言われると一周回って清々しい。ああなりたいとは思わないが、あれも一つの資質だと思う楓だった。

 阿求は楓の言葉を熱心に書き留めていき、要注意と書いて一度筆を置く。

 

「巫女と祭神二柱……こんな規模で幻想入りできるほどの存在が幻想郷に来るなんて、外の世界は本当に幻想の住処がなくなりつつあるのね」

「裏を返せば彼女らが外の世界の知識を豊富に持つのは確かです。幻想郷縁起の取材も兼ねて、話を伺うのも良いかと」

「ん、そうだね。じゃあ今日のところはもうおしまい、かな?」

「はい」

 

 ひとしきり報告も終わり、楓の胸に去来したのは一つの思いだった。

 すなわち己は阿求の手足であり、万難を排する剣である。これから先、どれほどの時間が経ってもそれだけは決して変わらない事実として存在し続ける。

 

「……阿求様」

「……うん、楓さん」

「――火継楓、ただいま戻りました。これまでと変わらず。いえ、より一層の精進をして、あなたを守り抜きます」

「――はい、お願いします。私の唯一無二の手足として、これからの奮闘に期待します」

 

 何よりも愛おしい主の望外とも呼べる言葉を受けて、楓は無言で頭を垂れてまた己を鍛え抜くことを誓うのであった。

 己の全ては御阿礼の子のために。御阿礼の子のためになるのであれば、人里の守護者も幻想郷の英雄も天魔の称号ですらも、全て背負い抜いてみせるという決意を胸に秘めて。

 

 

 

 

 

「やっほー阿求! 暇なら今さっき妖怪の山に幻想入りしてきた神社に行ってみない? あそこで今から宴会やるから、外の世界のお酒が飲み放題なんですって!! ……って、あんたら何やってんの?」

 

 なお、麗しい主従の絆を再確認した直後に、元気ハツラツとした霊夢が中庭から阿求の部屋へ一直線に飛んできたので、今ひとつ締まらない姿になってしまったのはここだけの話である。




天魔は自分を超える奴が現れたらいつでも譲る気でした。なお千年現れませんでした。楓は白狼天狗の血も引いているのでギリギリ天狗と呼べなくもありません。なので未来の天魔候補にはなり得ます。

……まあ本編中でその姿が出ることはまずないので意味のない情報でもあります。

後はほぼ誰もがうすうすと感じつつある楓の眼について。まあもうすぐ日の目を見るのでその時までお待ちください……(震え声)

楓と阿求は多くの異変に関わり、二人三脚で乗り切っていく予定なのでもっとこう……楓が自分の足で情報を集めて、阿求がまとめ、取材する形を作っていけたらなって常日頃から思っています(思っているだけとも言う)

次回からは守矢神社が人里と関わりを持とうとしたり、ゆうかりんがそろそろ構えよ、と突撃してきたり、ばんきっきが登場したそうにしているので出していくお話をちょいちょい書きながら、緋想天に向かっていく予定です。
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