阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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永夜の出会い

 普通に弱かった。

 刀を抜くまでもなく、素手である程度ボコボコにしたところ劣勢を悟ったのか、それとも落ち着いたのか少女は綺麗な土下座をして楓に命乞いをしていた。

 

「で、なにか言い残すことはあるか?」

「ごめんなさい最近続いてた満月でちょっと気分が高揚しちゃってたんです殺さないでくださいぃぃ!!」

「今さっき俺が襲われたんだがな……」

 

 呆れた顔を隠さないものの、別段殺す気まではなかった。

 少女の攻撃にも殺意はなかったので、たとえ楓が無抵抗であったとしても多少怖がらせて楽しもう程度の魂胆だったのだろう。付き合う理由はないので反撃したが。

 

「はぁ……」

「ひぅっ!」

「何もしないから顔を上げろ。いちいち怯えられると俺が悪いことをした気になる」

「え、でも私を一方的に殴って……ハイスミマセン襲ったのは私でしたね!!」

 

 襲った側がなに言ってんだこいつ、みたいな目で見たところ意味を察したのかもう一度頭を下げられた。

 下手になにか言うと話が続かないと察した楓はその場に腰を下ろし、最初に聞こうとしていた話を始める。

 

「で、何の要件でここまで来たんだ? 今は隠されているが、ここは人里だぞ」

「……言っても怒らない?」

「この機に乗じて里を襲うとか言い出さなければ」

「ムリムリ絶対無理! そうじゃなくて、里に知り合いがいるのよ。ちょっと安否が気になっただけ」

「知り合い?」

「うん。あ、あの子は誰かに知られるのとか嫌がる子だから、名前とかは言えないけど」

「ふむ」

「まあ安全そうならいいや。異変が終わったら私から顔を出せばいいし」

「懸念は解消できたようで何よりだ」

「うんうん、ところできみはこんなところで何してるの?」

 

 普通に少女が話を続けてきたことに楓は内心で驚愕する。あれだけ殴ったのに恐怖とかないのかこの少女は。

 

「……」

「え、言えないこと?」

「いや、結構強めに殴ったと思って」

「ああ、うん。痛かったなあ。でもそれだけでしょ?」

「それだけか」

 

 言わんとするところはわからないでもない。楓も半妖のため、肉体の再生速度は人間の比ではない。

 父親からの鍛錬でも腕や足が切り飛ばされたことは……まあ、数える程度であるが存在する。手足の感覚が一気に消えるそれは何度も味わいたいものではなかった。

 

「妖怪同士の喧嘩とかだと腕がもげたり足が吹っ飛んでも続けることの方が多いし。妖怪の体は頑丈なの」

「いや、痛いのは嫌じゃないのか?」

「嫌だけど続かないもん。あはは、やっぱりこれも人間と妖怪の違いなのかな?」

 

 お気楽な様子でけらけら笑う少女に、理解できないと楓は息を吐く。この辺りの感覚がうまく理解できないのは、楓が人間として育てられたからだろうか。

 座り込む楓に親近感でも覚えたのか、少女がとことこと近寄ってきて無防備に座る。

 

「おい、帰れよ。人里が隠れてる理由も話しただろ」

「え、やだ。だって今の竹林、異変が起きてるんでしょ? じゃあ博麗の巫女とか異変解決役もいるってことじゃない」

「そうなるが、敵意がないことを示せば襲われないと思うぞ」

 

 多分、という言葉はあえて付け加えないでおく。異変を解決せんとする少女らがどいつもこいつも血の気の多い連中であることは、すでに幻想郷に知れ渡っていることだった。

 当然ながら少女もそれを知っていたのか、首を横に振る。

 

「そもそも鉢合わせるのが私みたいな木っ端妖怪にはおっかないわよ。だったら、ここで終わるまで待ってた方が安全かなって。それに退屈も紛らわせるし」

「殴り足りなかったか」

「きみだって一人じゃ退屈でしょ!? 暇人同士おしゃべりしましょうよ」

 

 よっぽど話したいのか、楓の肩を掴んでねえねえと揺らしてくる。鬱陶しい。

 これでも楓は常に人里の範囲を千里眼で見ているため暇ではないのだが、この少女がそれを知る由もない。

 チラリと宙を漂う椿に視線を送る――変わらず、楓以外には見えなかった――と、椿は諦めたら? とでも言うように肩をすくめた。

 

「……わかったよ。異変が終わったら帰れよ」

「え、そこまで一緒にいるなら、そのまま知り合いの顔見て帰っても良くない?」

「あ?」

「い、良いじゃん! 人里の子が心配なのは本当なんだって!!」

 

 楓が剣呑な気配を出すとたじろぎはするものの、特に恐れた様子もなく言い返してくる。

 これは本格的に脅した方が良いのだろうか、と楓は内心で煩悶する。

 ナメられて良い関係は築けない。特に自分のようなこれといって実績もない若輩者はなおさらだ。

 

 しかし、彼女のような雑魚妖怪を虐めたところで何が得られるわけでもない。それに、と楓は父親の教えを脳裏に浮かべる。

 

 

 

 ――経験には時間が必要で、実績も同様だ。だから焦るな。そして機会だけは迷わず掴み取れ。

 

 

 

 この少女を倒すことが機会だとは到底思えなかった。であればあとは父の教え通り、意図して嫌われない程度の自然体でいれば良いだろう。

 

「……まあ、いいか。ほら、なにか話せ」

「あれ、何その上から目線!? いや、良いけどさ。私から持ちかけたんだし」

 

 少女は楽しそうに笑うと立ち上がり、月明かりの中でふわりと一回転する。

 スカートの端をちょこんと掴み、優雅な一礼をして牙を見せる笑みを浮かべた。

 

「狼女の今泉影狼よ。本当はもうちょっと毛深くないんだけど、今は満月ってことで許して」

「ふむ、狼男の女版か」

 

 普段は人間の姿だが、満月の夜になると狼のような獣人に変化し、人を襲う妖怪だ。

 楓の解釈に大体合ってると少女――影狼は笑った。

 

「うん、そんな感じ。あ、でも私は人とか襲ってないよ?」

「ついさっき俺を襲ったやつの台詞とは思えないな」

「異変でちょっと気分がおかしくなってたんだって! 普段は満月のときにも引きこもってたんだよ!?」

 

 嘘ではないだろう。頻繁に姿を表していたのであれば、人里でも多少は噂になっていたはずだ。

 それがないということは、この少女は筋金入りに人見知りの妖怪、と見ることができる。

 

「じゃあなんで俺と関わるんだ。竹林に戻っていればいいじゃないか」

「なんかきみって他人の気がしないんだよね。どこか私みたいな匂いがあるというか」

「それは俺の生まれだろうな」

「ふーん? ねえ、そろそろきみも自己紹介してよ。私ばっかりじゃ不公平でしょ?」

 

 自分の番か、と楓はなんと話したものかと考えながら立ち上がる。

 

「――火継楓。母が白狼天狗で父が人間の半人半妖だ」

「ああ、道理できみから妖怪の匂いと人間の匂いがすると思った。でも白狼天狗なんてすごいじゃない、私から見たらエリートよエリート」

「天狗の中でも下っ端だぞ」

「天狗ってだけですごいのよ。妖怪の山の一大勢力に属しているのでしょう?」

「いや、俺の所属は人里だ。母が山を出奔して父と結ばれたのでな」

 

 でなきゃ人里を守ったりしない、と言うと影狼ははぁ、と不思議そうに楓の顔を見上げる。

 そしてそのまま手を伸ばして、楓の頭をわさわさと撫でてきた。

 

「うーん? 耳はないのって痛い痛い!?」

「気になるところはわからんでもないが、初対面の人間にやることか」

「きみこそ耳を引っ張らないでよ!?」

 

 非難の声が発せられたので手を離すと、距離を取られた。

 この方が話しやすいと楓は自分の身の上を説明する。特段、隠していることでもないのだ。

 

「俺は人間の血が濃く出ている。白狼天狗の特徴なんてこの髪と妖力ぐらいだ」

「耳とか尻尾とか爪は?」

「どれも人並みだ。不思議なことにな」

 

 ほら、と言って楓が差し出した手は、爪が綺麗に丸く揃えられたもので、他者を引き裂くそれとは似ても似つかなかった。

 

「そんなこともあるんだねぇ。いや、半人半妖を見たのも初めてだけど」

「今更生まれも変えられんし、気にするほどのことでもない。で、半人半妖の俺は人里の守護者として異変時の人里を警備しているわけだ」

「へえぇ……真面目ねえ。もっと気楽にやればいいのに」

「雑談に付き合ってやるだけ気楽だよ」

 

 それに楓自身は今の立場を嫌っていない。父は個人の文武のみならず、人里の代表としての権力まで何もかも操って戦っていた。

 ならば後継ぎである自分ができなくてどうする。半妖の己に時間はあれど、御阿礼の子にはないのだ。それが強くなる最短であるのなら厭う理由はない。

 

「大体、俺が本当に職務に真面目ならお前を追い払っているぞ。言っておくが、今だってお前がまだ人里を襲う疑いは払い切れてないわけじゃないからな」

「えー、私すっごい友好的な態度だと思うんだけど!」

「見目や言葉で人を騙すなんて妖怪なら当然のようにやってくるだろ」

「それもそっか」

 

 楓の指摘に影狼はあっさりと納得し、陽気に笑う。

 その姿が信用できないのだと言いたかったが、言ったところで意味はないと思い直す。

 

「あ、じゃあさ。きみって妖怪の枠組みだと結構下っ端なの?」

「どうだろうな。そもそも生まれも育ちも人里だからあまり他の妖怪と比べる環境がなかった」

 

 かつて母親が属していた妖怪の山で生まれていたのなら、天狗の社会にも触れられたのかもしれない。

 しかし母は父と結ばれるために妖怪の山を追放されており、楓は天狗の社会を伝聞でしか知らなかった。

 

 ……追放という言葉尻だけ捉えると不穏なものを感じるかもしれないが、母と妖怪の山でなにかいざこざがあったわけではない。

 ただ、人里の人間と結ばれるならば名目上だけでも形は整える必要がある、という理由で追放という結論になっただけなのだ。

 なので母は普通に妖怪の山から仕事を頼まれることもあるし、烏天狗の新聞屋と話す姿を見かけることもある。

 

「ふぅん、天狗って言っても全然違うんだね。それできみは妖怪全体で見ると強いの? 弱いの?」

「……肉体的な性能、って意味なら弱い方だろうな。半分は人なんだ。本来の妖怪に比べれば力はどうしても弱くなる」

 

 妖怪は生まれついた時点でほぼ身体能力の限界などが決まり、残りは技術を磨くことで力をつけていくのが通例だが――一人一種族の妖怪や、半妖は当てはまらない。

 楓も今の力こそ弱いものの、鍛えれば鍛えるだけ身体能力も妖力も成長する可能性を秘めていた。

 精神に依る妖怪と、肉体に依る人間と。その両方の性質を備えた楓の持つ強みである。

 

「そんじょそこらの妖怪に引けを取るつもりはない。お前ぐらいなら剣を抜くまでもなく勝てる」

「それは身をもって体感しました……。まあいっか、きみが強いか弱いかは気にしないし」

「うん?」

「きみ、草の根妖怪ネットワークって聞いたことある?」

 

 覚えがないので首を横に振ったところ、影狼はだよねえ、と苦笑して説明を始めた。

 

「今も昔もそうなんだけどね、妖怪って弱いのは生きにくいの」

「そうなのか?」

「そうなの。理性がないくらい弱っちいのは害獣とかと大差ないからさておいて、私みたいに知性があるとすごく生きづらい」

「妖怪の山にでも行けばいいじゃないか。庇護下に入ればあそこは寛容だろう」

「その分制約も増える。いや、妖怪の山自体はすごいと思うよ? あれだけ長い間やっているのに、排他的な空気がほとんどない。良い場所だなあって思うもん」

 

 だったらなぜ、と視線で問うと影狼はこれまた困ったように笑う。

 

「のんびり生きたいのよ。人の営みも妖怪の営みも異変解決だってもちろん、遠い場所で眺めてのんびりと、ね」

「……さっきの草の根妖怪ネットワークとつながるのか?」

「うん。私みたいな考えを持っている子は他にもいて、その子たちとたまに集まって情報を共有したりしてるんだ。強い妖怪に目をつけられたら終わりだしね」

「なるほど」

 

 おおよその事情は把握できた。しかし、それなら自分は条件に該当しないと首を横に振る。

 

「だったら俺を誘わない方が良い。――自慢じゃないが、大妖怪とも言える連中からだいぶ目をつけられている」

「……きみ、ひょっとして相当なワル?」

「なんでそうなる。父上が多くの妖怪と知り合いでな。その七光りだ」

 

 父が背負っていた面倒事がそのまま楓に引き継がれたと言っても良かった。

 今でこそまだちょっかいはかけられていないが、楓が頭角を現し始めたらすぐにでもなにかされそうな空気を感じ取っている。

 

「きみのお父さんって人間だったのよね? どんな人生送ってきたの?」

「スペルカードルールの創設にも関わっていたらしい。まごうことなき英雄だと誰もが口を揃えて語る」

「はぁー……」

 

 感心しているのか呆けているのかよくわからない声が影狼から漏れる。

 

「紅魔館の吸血鬼。妖怪の山の頭領。地底の鬼の首魁。妖怪の賢者。全員父上の知り合いだ」

「大半じゃん!?」

「だから英雄なんだよ」

「……すごく面倒なもの背負わされたんだね、きみ」

 

 呆けた視線から一転。同情的な色を宿した瞳で見られたことに楓は肩をすくめた。

 

「重いとは思うが、それだけだ。それに父上から継いだ役目の関係上、早く慣れなければならない」

 

 具体的には御阿礼の子の側仕えであることへの慣れである。

 阿求の時間が多く残っている今のうちにさっさと成長して父を超え、彼女が背負う使命を少しでも軽減してあげなければ、己の生きている価値がない。

 

 英雄の称号への負担? ないとは言わないが、それは御阿礼の子の側仕えより重いのか。否である。

 

 楓の静かな意思を聞いていた影狼は、自分にはわからないと笑いながらも楓の肩を叩いた。

 

「私にはよくわかんないけどさ。頑張れ少年! なんか話しやすいし、きみのこと気に入っちゃった!」

「あれだけ殴ったのに?」

「あの時の痛い思いで友だちが増えるかもしれないんだし、良いことじゃない? 妖怪なら怪我より話し相手の方が嬉しいよ?」

 

 これも精神に比重を置く妖怪ならではの価値観だろうか、と楓は微妙に理解できそうで理解できない影狼の価値観に眉をひそめる。

 襲いかかったのが影狼側とはいえ、かなり殴ったのだから距離を取るのが当然だと思っていた。

 そしていくら注意したところで聞く様子もなかった。物理的な方法に出ても、妖怪相手だと大した意味がないのは今、思い知った。

 

「……まあ、俺が暇な時なら」

「うん、たまに人里には来るし、きみにも顔を出すようにするよ。へへー、半妖の友達ができるなんて顔を出してみるものだね」

「お前の考えを理解できる時は来るのか……」

 

 出会って話をした僅かな時間で、妖怪と自分の価値観の違いは理解させられた。

 こんなのと付き合っていけるのか、と僅かな不安が首をもたげるものの、すぐに気にしなくなる。

 

 理解できるできないの観点で言うならば、阿礼狂いの精神が一番わからないに決まっているのだ。そんな自分が他人の理解不理解など考えるだけ阿呆らしい。

 それを理解した時が影狼と別れる時となるだろうが――こちらから告げて時期を早める理由もない。

 

 楓は微かに相貌を緩めてよく話す影狼の言葉を聞いていると、不意に竹林の方から何かを見つける。

 

「……ん」

「どしたの?」

「竹林から誰か来る。俺の知り合いじゃない」

「ふぅん? あ、ちなみに私の知り合いもあり得ないよ。あの子、そもそも水場から動けないし」

 

 あの子が誰のことかはわからないが、影狼の知り合いという可能性もないらしい。

 一体誰だ、と楓はその千里眼で捉えている白髪の少女を見る。

 

 足取りは一直線に人里の方へ向かっており、遠からず少女の視界に自分たちも映るだろう。

 長い満月の夜だというのに、足取りに恐怖といった感情は伺えない。竹林から出てきたことといい、それなり以上に戦える存在なのは間違いなさそうだ。

 

 そういった情報を素早く視界から読み取ると、楓は険しい顔で腰の刀に手を添えて傍らの影狼に声をかける。

 

「――おい、巻き込まれたくないなら下がれ」

「え、え? なに、物騒な相手なの?」

「なるべく話はするが、無理な時は戦うしかなくなる」

 

 律儀にスペルカードルールに応じてくれるかもわからない。というより、そちらで戦うのであれば竹林の方に向かってほしいくらいである。

 影狼がコソコソと楓の後ろに隠れるのを横目に、楓はいよいよ人里の前までやってきた少女と相対する。

 

「――そこで止まれ」

「おや、人間……? あるいは、私の同類か?」

「……? ここから先は人里だ。今宵の月はおかしいため、人里を隠している」

 

 彼女の言葉の意味はわからなかったが、楓は自分たちの事情を話す方が先だと判断して言葉を続けた。

 しかし少女の信用には足らなかったようで、彼女は顔を険しいものに変える。

 

「確かに人里は見えない。だが私にはお前さんが人里を守っているというより、これから人里を襲う算段をつけているように思える。後ろに妖怪も隠しているようだしな」

「む……」

 

 どういったものか、と楓が一瞬だけ言葉に窮したところ、それで十分だと思ったのだろう。少女の周りから炎が噴き上がる。

 

「ひぃっ!?」

「おかしな月に、おかしな夜。あいつの仕業と思って動こうとしたけれど、そちらはすでに大勢向かっている。ならばと世話になっている義理がある人里に来てみれば、よくわからない人間らしきやつと妖怪が二匹。これはあれでしょう? ――あなたたちは倒した方が人里のためになるのでしょう?」

「……っ!!」

 

 戦闘は避けられない、と楓は少女の顔を見て確信する。あれは自分の出した答えに一切の疑問を覚えていない顔だ。

 しかし、隠している人里の前で呑気に妖怪と話していた自分に非がないとも言い切れない。

 特に自分は妖怪にも人間にも見られないのだ。何も知らない人間が見て勘違いをしてしまうのは責められなかった。

 楓は噴き上がる炎に怯えている影狼に顔を向け、逃げるよう促す。

 

「影狼。人里の方には行かず、どこかに逃げろ」

「え、えっと、きみは!?」

「時間を稼いでなんとか理解をもらえるよう努力する」

「危ないじゃん!?」

「ここで二人で逃げた方が危険だ」

 

 そもそもの話――炎を操る少女はこちらを信用できず敵だと言っているが、そんなものはこちらも同じなのだ。楓にだってあの少女を信じる要素はこれっぽっちもない。

 人里を守ろうとして動いている風に見える姿も、楓たちを騙すためであるという可能性がある。少女の素性を何も知らない以上、こちらに攻撃を仕掛けるという蛮行を見過ごすわけにはいかなかった。

 

「危ないことはしたくないんだろ。注意を引くのはこっちでやるからさっさといけ」

「……無理しちゃダメだよ! 死んじゃったら何もならないんだから!」

 

 楓が自分の意志を翻さないとわかったのだろう。影狼は少女の方を注意深く見ながらも、距離をとっていく。

 

「む」

「他所見して良いのか?」

 

 少女の視線が一瞬だけ影狼に向かったところで、楓は殺気混じりの視線を投げて自身に注意を向けさせた。

 それを戦闘への意識と受け取ったのだろう。少女は好戦的な笑みを浮かべる。

 

「さっきの妖怪もだがな。――俺にはどちらも人里に対して害を成さないなんて思えるほど楽観的じゃない。これより先に進みたければ素性と要件を言え」

「私はあなたが信用できないと言っても?」

「お互い様だ」

「そうね。だから――こうするのが一番手っ取り早い!!」

 

 少女が片手を振るうと同時、先程見せた炎と同じ――否、それ以上の莫大な熱量を持った炎が楓に向かって殺到する。

 それらを千里眼で捉え、二刀の抜刀で全ての炎を切り散らす。

 

「へぇ?」

「敵対するなら容赦はしない。素性の知れない相手を人里に入れることはできない。殺すかもしれないが、恨んでくれるな」

「――そうしてくれるなら、万々歳よ」

 

 楓の言葉に少女は一瞬だけ泣きそうな表情を浮かべたが、それを疑問に思う前に再び炎が巻き起こる。

 それらを目にしながら、楓は少女の無力化を試みるべく駆け出すのであった。




というわけで初陣は妹紅です。負けたら死ぬけど君ならできるよ(他人事)

草の根妖怪ネットワークは今後もちょくちょく出していく予定。何で出すのか? さぁ……(その場のノリ)
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