楓と天子が聖白蓮の解法を掲げる妖怪たちにそれぞれの方法で協力している頃、幻想郷の調停者である博麗霊夢は普段通りの日常を送っていた。
そして今日は楓が鍛錬に起こしも来ない。つまり霊夢にとって好きなだけ二度寝できる素晴らしい一日の始まりである。
「んーっ、良い天気」
思う存分の二度寝を堪能し、日がそれなりに高くなってから起き出してきた霊夢は蒼天に向かって背伸びをしながら身体をほぐしてにへらとだらしない笑みを浮かべた。
「考えてみればここ最近異変は多かったし、楓はいつも通りうるさいし、というかあいつのせいで洒落にならない修羅場をくぐらされたんだし、休めるだけ休んでも良いんじゃない? むしろ私を休ませるべきじゃない?」
うんうんと霊夢は自分の理屈の完璧さに何度もうなずく。
楓の能力の性質上、純粋な妖怪は誰一人として彼に勝てないのだから、彼に十全な状態で立ち向かえる自分や魔理沙が万全の体調を維持するのは至極当然の帰結であろう。
……いや、あれともう一度戦うとかたとえ紫に土下座されても御免被りたいものだが。
「…………」
生きた心地のまるでしなかった激戦を思い出してしまい、霊夢は気持ち良い朝に水を差されたと顔をしかめた。
「まあ良いや。あいつも生きてるし私も生きてるし。それより今日はどうしようかしら」
遅めの朝食はすでに済ませた。この後の予定が何か入っているわけもなし。
霊夢が暇だと思うと妖怪がよく訪ねてくる神社だが、今日に限ってそういった様子もない。どうやら幻想郷は今日という一日を霊夢の休日に当てたいようだ。
ならば厚意に甘えて休むのが筋というものだろう。霊夢は一人納得すると日差しの良い縁側で日向ぼっこでもしようと足を向ける。
その時だった。見慣れた箒にまたがった少女が見慣れた様子で見慣れた境内に着地したのは。
「おーい霊夢! なんだ、今起きたのか? 私は朝早くから魔法の実験が上手く行って最高の気分だぜ?」
「うっさいわね。二度寝の魅力と布団が私を離してくれなかったのよ。罪な女だわ……」
「その罪はお前の身体を蝕むタイプだな。しかし霊夢、知ってるか?」
「なによ」
「宝船の噂だ。なんでも空を飛ぶ船が雲間を漂っているらしいぜ」
魔理沙の話に霊夢は少しだけ眉を上げながら、話の続きを促した。
「いつの噂よ」
「それが今日からだ。私もちょっと人里に寄った時に聞いた話だが、実際に私もチラリと姿が見えた。これは追いかけるしかないだろ?」
「馬鹿らしい。幻を見せる妖怪とかの術中にでも嵌ったんじゃないの?」
「いつぞやの三妖精だったらせいぜい個人の悪戯止まりだろ。人里でそれなりの連中が見たんだ。影もあったしとても幻には見えなかったぜ」
「む……」
「腰が重いな。だったらとっておきの情報だ」
魔理沙は秘蔵の道具を取り出すようにもったいぶった様子で三角帽子を指で上げ、それを口にする。
「――楓と天子は動いているみたいだぜ」
「何ぼさっとしてんのよ、さっさと動くわよ」
「切り替え早いな!?」
「天子はわからないけど、楓が見知らぬ事象に対して動くってことは確実に異変なのよ! あいつが守護者になってからどれだけ異変に関わってると思うの!」
しかも大体、霊夢が異変を察する前にあの手この手で巻き込まれている。すでに霊夢の中で楓が得体の知れない状況にいることは、異変に巻き込まれていることと同義だと思われていた。楓が聞いていたら噴飯ものの評価である。
「あいつらが動いているなら、絶対なんかある。妖怪の企みなんてロクなもんじゃないし、その空飛ぶ船とやらも私が止めれば終わりよ!」
「お、おう……相変わらず腰が重いくせ、一度動き出すと早いよな霊夢……」
「文句あんの?」
「いんや、博麗の巫女さまは勤勉で結構なことだぜ。それじゃ異変解決に――なんだありゃ?」
霊夢と一緒に幻想郷の空へ飛び立った魔理沙だが、視界の端をよぎった何かに目を瞬かせる。
ほんの一瞬、彼女の視界に見慣れぬ何かが通ったのだ。
霊夢は魔理沙の様子を見て、何も言わず飛ぶ方向を人里から魔理沙の見た何かの方角へ変える。
「あ、霊夢!?」
「鳥でもないし、人でもない。異変が起きようとしている空でなにかあったらそれはおかしいの。――追いかけるわよ、着いてきなさい」
「……ま、こういう時の霊夢の勘は信頼できるしな。よっしゃ、宝船に乗り込む前に空でお宝探しと洒落込みますか!!」
魔理沙は色々と疑問が残るものの、この場での霊夢の勘は信じられると判断し、すでに先を進み始めた霊夢の横を一緒に飛び始め、異変解決役の少女らは幻想郷の空へ飛び立つのであった。
一方その頃。かつての千里眼を持っていた頃ならばいざ知らず、周囲の状況しかわからない楓は霊夢が動き出したことなど知る由もないまま、星とナズーリンを伴って香霖堂への道を歩いていた。
「ところで、宝塔とはどういった代物なんだ? 封印の解除に用いる以外わからない」
「まあシンプルなものだよ。持っていれば宝を呼び寄せる。ご主人の能力もそういった類のものだ」
「仏門に仕える身として最低限あれば良いのですが、七福神の一柱として融通招福の一環――財宝が集まる程度の能力を持っておりまして。宝塔とともにあれば何もせずとも財が集まるのです」
そう語る星は心底困っているとばかりに眉尻を下げ、ため息をこぼす。
「無論、厳密には仏門の徒ではないナズーリンを除き、私どもは御仏に仕える身。日々の糧以上は求めていないというか、私の存在で財が集まることを知った良からぬ輩が来ることもあって……」
「俺に話して良かったのか?」
「守護者殿は最初から話す候補だったよ。誰にも打ち明けず、最悪の状況で露見するよりはこちらから話した方が誠意も見せられるだろう?」
「……まあ、そうだな」
楓としては考えることが増えて頭が痛かった。
だがそうなるとこれから向かう香霖堂に目当てのものがあった場合、少し面倒な事態になりそうだと楓は危惧する。
香霖堂の店主である霖之助は道具の名前と用途をひと目見て判別する能力がある。それで宝塔を見れば、財を集める類の道具であることは見抜かれるだろう。
それを素直に手放してくれるかどうか。商売っ気のない人だと思っているが、さりとて手元に転がってきた儲け話を見逃すほど甘いとは思えない。
などと考え事をしながら歩いていると、香霖堂へ向かう道の先に一人の気配を感じ取る。
その気配は特に警戒することなく楓たちの方へ向かい、彼らの姿を認識してあらと声を上げた。
「楓じゃない。最近はよく会うわね」
「む、アリスか」
「これから人里で人形劇をするところだけど、そっちは何を?」
どう答えたものかと僅かに迷った楓だったが、探している宝塔の性能以外は特に隠すことでもないと判断し、端的に答えることにする。
「後ろの連中に頼まれて、魔界へ行く手段を探しているところだ」
「魔界? どういうこと?」
「こらこら守護者殿。私たちが頼んでいる手前だが、あまり軽々に話すことは感心しないな」
魔界という単語に予想以上の食いつきを見せたアリスだが、楓が詳しいことを話そうとする前にナズーリンが楓の背中を押す。
背中を押された楓は不思議そうな顔でナズーリンに疑問をぶつける。
「そこまで秘匿するような内容か?」
「みだりに話して敵を増やすような状況を避けたいだけだよ。じゃあ悪いけどお嬢さん、そういうことで」
「あ、ちょっと!」
「すみません、お嬢様。我々も急ぐ身なのでこれにて失礼します。非礼のお詫びはこちらの目的が達せられてから改めて」
ナズーリンに背中を押されて消えていく楓の背を横目に、星は丁寧にアリスへ謝意を伝えると楓たちを追いかけていってしまう。
残されたアリスは呆然と彼らを見送り、つぶやいた。
「魔界に行く……? 楓、今度は何をやったのかしら……」
楓が何かやったのはアリスの中で確定していた。地底の時といい、何かと話題に事欠かない少年である。どうせ先程の妖怪に頼まれたとかで否応なしに巻き込まれているのだろう。
しかし魔界という単語が聞こえた。それがアリスの心をざわめかせる。
何あろう、このアリスという少女――生まれは魔界なのだ。そして彼女が母と呼び慕う女性も当然、魔界で暮らしている。
そして先日、その母に手紙を送っていた。内容としては他愛のない近況報告だが、その中で楓たちについても書いた記憶がある。気の置けない友人が増え、面倒を見る普通の魔法使いもでき、日々楽しく過ごしているという内容だ。あまり顔を見せられていない親にあてた手紙としては問題ないはず。
「……大丈夫、よね?」
魔界は広大だ。彼が本当に魔界に行ったとして、アリスの危惧するような出来事が発生する可能性など、文字通り万に一つといった領域だろう。
しかし魔界に手紙を出した直後のタイミングで楓が魔界に向かうなどと言い始めた。作為的でないにしても、運命の悪戯的な何かを感じてもおかしくはない。
万が一、億が一、魔界に向かった楓がアリスの家族らと遭遇することもあるんじゃないか。そんな未来予想図がアリスの脳内にこびりついて離れない。
自分の送った手紙でどうしてここまで懊悩しなければならないのか。アリスは眉を寄せて難しい顔をしたまま悩み続ける。
「……ああもう!! どんな巡り合わせしてるのよあいつは! 人形劇終わらせたら様子を見に行く! それだけ!! それ以上は面倒見ないからね!!」
やがて迷いを振り切ったアリスは肩を怒らせながら、誰にでもなく宣言して人里への道を急ぐのであった。
「……?」
「うん、身震いなんてしてどうかしたかい? 今日はそう寒くもないはずだが」
「いや、何か嫌な予感が」
割としょっちゅう感じているので、あまり危機感も覚えない。今だって後ろを歩く星にそこはかとなく感じていたりする。
良くない兆候だと理解はしているが、感じてしまうのだから仕方がない。
「悪縁を持っているのやもしれませんね。御仏に仕え、己を磨いてみてはいかがです?」
「鍛えても変わらないと思うので却下。というか俺が仕える主を変えることはない」
「二君に仕えないということですか。良い忠義です」
そもそも楓に本気で鞍替えを勧める相手がいたら、無言で斬り殺して終わりである。阿礼狂いにそんな無謀なことをする輩がいるのかはさておき。
後ろを歩く星から時折、腰や足の動きなどといった部分や急所を舐るような視線が向けられて気持ち悪さは覚えるものの、努めて意識の外に投げ出して歩き続け、香霖堂へ到着する。
「これがその?」
「ああ。霖之助さん、今少しよろしいですか」
楓が店内に入ると古物店特有のどこかカビ臭い空気が楓たちを襲う。
楓は慣れているので気にならなかったが、ナズーリンと星には強烈だったようで露骨に顔を歪め、口を手で覆っていた。
「やあ、いらっしゃい。魔理沙から目隠しをして暮らすようになった経緯は聞かされたよ」
「出て行けと言わないので、そういうことだと考えても?」
「ふ、自慢じゃないが僕に誰かを害するなんて大それたことは考えられないさ。そんな労力がもったいないからね」
霖之助ならそう言うだろうと思っていた。彼は基本的に自分勝手で、けれどその範疇で多少は人のためにも動こうと思える人間だ。人畜無害でなければ霊夢や魔理沙が素直に慕いはしない。
「……あなたはそう言うと思っていました。ところで今日は後ろの二人が主役です」
「ほう? 新しいお客さんは大歓迎だよ」
「店主、悪いね。私たちは――」
ナズーリンはこの手の交渉に疎い主に代わり自己紹介と事情を説明し、霖之助に問いかける。
「――という事情で宝塔を探していてね。私とご主人でアテもなく彷徨っていたところを守護者殿に出会い、ここを紹介してもらった」
「なるほど、事情は把握しました。一つ心当たりがありますので、持ってきます」
そう言って霖之助はのっそりと立ち上がると奥の部屋に消えていき、やがてその手に小さな何かを持って戻ってくる。
「最近拾ったものになります。私の能力で見極めたところ宝塔であり、宝を集める効果があるとか」
「そう、それだ!! 素晴らしい、本当に守護者殿の言った通りだ!!」
喜色満面のナズーリンが霖之助の持つ宝塔に手を伸ばすが、霖之助はその手を上げてナズーリンに届かせない。
「…………」
「…………」
「いくらお支払いいただけるので?」
「……いやいや、店主。さっきそれは拾ったと言っていたじゃないか。正しい持ち主が現れたのだから、返すのが筋だと思わないかい?」
「いいや全く。そも、これが君たちのものであると証明できない以上、僕としては君たちが財宝目当ての良からぬ輩であることも考えなければならない。全く、良心が痛むね」
「ぐぬぬ……」
これっぽっちも痛んでなさそうな顔でしゃあしゃあと告げる霖之助にナズーリンは歯噛みするしかない。
人里の守護者を連れている以上、暴力に訴えるなんてもってのほか。そもそも星が許してくれるはずもなし。
「……わかった。ここまでは出そう。こうでどうだい?」
「あまり僕を甘く見ないでほしいね。この宝塔の用途はわかっているんだ。――持っているだけで財が集まるなんて宝物、その程度のはした金で手放すとでも?」
「守護者殿からも言ってやってくれないかなぁ!? あれがないと本当に困るんだ!」
宝塔は見つかったので、ここから先は星たちと霖之助の話だと思い口を突っ込まないようにしていた楓に話が来たため、楓はナズーリンに代わって口を開く。
「……霖之助さんはそんなに財がほしいんですか?」
「いいや? さっきも言ったように、僕は万一を警戒しなければならないというだけさ。それに道具はあるべき人の手にあるのが最も望ましい。その理屈でいけば少なくとも今、僕の手にある宝塔は僕以上にふさわしい相手を見つけていないとも言い換えられる」
「いやあ、これは一本取られました。ナズーリン、これは私どものありったけの金銭を差し出してお願いする他ないのでは?」
のほほんと笑っている星にナズーリンはプルプルと震えて怒りを堪えている様子だった。暢気な上司を持つと部下は苦労するらしい。
「……守護者殿」
「俺が所持する形であれば良いのでは? 俺の身元は霖之助さんもご存知でしょう」
「そうだね。はい、これは渡すから正しく扱ってくれよ?」
「は?」
楓がとりなして聞いてみたところ、霖之助は先ほどまでの執着を欠片も見せず宝塔を楓に手渡す。
ナズーリンの開いた口が塞がらないと驚いている様子に、楓も肩をすくめる。
「霖之助さんの言いたいことは身元のはっきりしない輩に重要なものを預けたくない、だ。俺もお前たちが目的を持って動いているのは知っているが、それ以上はわかっていない。であれば――」
「僕から見て、より信用できる相手に渡すということさ。彼と一緒に行動している幸運に感謝した方が良い。僕は君たちだけだったら何を積まれても宝塔を渡す気にはならなかっただろう」
「商人に提示すべきは金銭の多寡ではなく、誠意と信頼であったと。ナズーリン、あなたはこの店主を嫌うかもしれませんが、私はこの人が大いに気に入りましたよ。出歩くものですね」
「……はぁ」
ナズーリンは物言いたげな感情を全て込めたため息をつき、顔を上げた。
「もういいよ。幻想郷はちょっと見ない間に随分と人情主義になったらしい。ご主人みたいなのは生きやすいんじゃないかい?」
「そのように褒めちぎられると照れますね」
「褒めてないよ!」
星とナズーリンがわいわいと騒ぎ始めたのを楓が宝塔片手に聞いていると、楓の近くに霖之助がやってくる。
「――これで君はだいぶ優位に物事を進められるはずだ」
「……手助けしてくれたのですか?」
「初対面の素性もわからない妖怪と、赤ん坊の頃から知っている友人と来たら友人の方に肩入れするさ。とはいえ僕にできるのはこのくらいだけど」
「十分です。助かりました」
少なくとも彼女らが求めている宝塔は楓の手にある。それだけで動きの自由度が段違いとなる。
楓は霖之助に頭を下げると、ナズーリンたちを引きずって店の外に出た。
「さて、聖白蓮の解放に必要な宝塔は手に入った」
「めでたいことだ。……一つ聞くけど、それをこっちに渡す気は」
「お前たちの口ぶりから察するに宝塔を使って何かをする類じゃないはず。これを持って法界に向かえばそれで事足りる。違うか?」
「相違ありません。私は別に構いませんよ、ナズーリン」
「それがないとご主人の威光が八割削られる……! その辺りわかってるのかいご主人!」
「無論、承知しておりますとも。未熟な私では毘沙門天様より賜った宝塔に及ばない。――つまり、宝塔が手元にない今こそ己を磨いて宝塔にも劣らない己を獲得せよ、ということでしょう」
「んんんんん……!!」
苦労しているなこいつ、というのがナズーリンに楓が抱いた感想だった。言っていることもやっていることも現状と照らし合わせれば妥当なのに、巡り合わせがとことん悪いのか上手くいかない。
逆に星は厄介な輩という印象を楓に与えている。朗らかで明るく、優しいながら仏の教えに忠実でどこまでも一本気。
こういった手合こそが最も厄介であると楓は知っている。なにせ自分がそうであるからだ。
「この後はどう動くつもりだ?」
「……宝塔が手に入り次第、聖輦船に向かうつもりだったよ。今はあの船も空を飛んでいる頃だろう」
「飛倉の破片探しに協力するつもりでした。楓殿にもご足労頂いても?」
「ふむ……」
聖輦船は地底にあったという情報まで獲得している。間違いなく天子と早苗もそちらにいるはず。
天子と合流するのは構わないが、早苗と顔を合わせるのはなるべく避けたい。それが守矢の祭神と交わした約束であるがゆえに、楓はそれを守る気でいた。
それを考えると今から一直線に向かうのは楓にとって望ましくない。理想を言えば飛倉の破片を全て集め、法界へ行くことが確定した瞬間に合流したい。
どうせ天子も何があるかわからない法界まで早苗を付き合わせるつもりはないと楓は予測していた。法界へ向かうタイミングで早苗を引き離す策を用意しているはずだ。それに相乗りさせてもらおう。
霊夢もすでに動いているだろう。あれは異変が起きたと気づけば動くのも早い。聖輦船で法界へ乗り込むなどという騒ぎ、異変にならない方がおかしいのだ。どこかしらで彼女が介入してくるのは確実だ。
考えるべき情報をまとめ、楓はゆっくりと口を開く。
「……いや、一旦人里に戻る。飛倉の破片について何かしらの情報があるかもしれない」
「合流は後回しにすると?」
「分かれているんだ。数の強みを活かすべきだと言っている」
「一理ありますね。聖輦船では目立つ以上、必ず妨害が入ります。対し私たちは現在、誰の目にも止まらず動くことができる」
おまけに人里の守護者である楓を連れているので、人里での警戒もほぼ買わずに済む。
ナズーリンは提示されたメリットとデメリットを頭の中で並べ、腕を組んで唸る。
「むぅ、確かにそのアドバンテージは大きいか。私はご主人と違って戦闘とかからきしだからね」
「方針は決まったな。行くぞ」
楓は宝塔を片手に持ったまま、星とナズーリンを引き連れて人里への道を戻り始めるのであった。
聖輦船は非常に早い船だ。その速度たるや、およそ天子や早苗が普通に空を飛ぶ以上である。
天子としては船が空を飛ぶだけでも面白いと思っていたのに、これは嬉しい誤算だった。
「は、はははははっ! こんな速度で飛ぶとは思ってなかったわ!! やっほー!!」
お気に入りの帽子が吹き飛ばされないよう押さえながら、体中に叩きつけられる風に心地よく目を細める。
背に届く蒼天の髪をなびくままに、天子は蒼天の下で空飛ぶ船に乗るという唯一無二の冒険に胸踊らせていた。
「わわ……っ! す、すごい……! これが幻想郷……」
そして天子の隣にいた早苗もまた、天子とともに巻き込まれた規格外の冒険――異変に驚きながらも楽しむ姿勢を見せている。
風で乱れる髪をそっと押さえ、横に立つ天子へ笑いかけて大声で話す。風が凄まじく、声を張り上げないと届かないのだ。
「これが冒険なんですね、天子さんっ!!」
「そうよ、これが冒険よ! 今この瞬間、この体験をしているのは私たち以外にいない! あんたも戻ったら祭神に自慢してやんなさい!!」
「そうします! それで今は――」
早苗が操舵手の方へ視線を向けると、そこにはカラカラと忙しなく操舵輪を操る村紗の姿があった。
「サイッコーだよ千年ぶりに思う存分舵を握れるってのはさ!! 飛倉の破片が集まって完成しちまったらこいつは勝手に動いちまうからねえ!!」
「それで船長! 私たちはどうするの!?」
「飛倉の破片探しさ! 船乗りの勘だけどそいつは目立つ形をしている! それを探せば良い!」
「それだけでもやっぱり雲をつかむような話ですけど……」
と、そこで早苗の視界に二人の少女が映る。
白黒のエプロンドレスに身を包んだ魔法使いの少女と、紅と白の脇が露出した巫女服に身を包んだ少女。
早苗の友人である魔理沙と霊夢が、聖輦船の速度にも負けないスピードで追いすがって来ているのだ。
「っ、霊夢さんと魔理沙さんです!」
「ほう、さすがに耳が早い。んじゃ私たちも役目を果たしましょうか」
片手で帽子を押さえたまま、天子は緋想の剣を構えて船の縁に立つ。
「よく来たな博麗の巫女と魔法使いよ!!」
天子の呼びかけに少女二人は顔を上げ、胡乱げな視線を向けた。
「ああん? 楓のところの天人がなんでここにいるんだ?」
「こちらの事情というやつよ。あんたたちは――」
「そう、今回はあんたが異変の側に立っているのね」
話を続けようとした天子だが、それは霊夢の放った退魔針に遮られる。
その目に迷いはなく、誰が敵であろうと迷わず倒しに来ることが容易に想像できた。
「こちらの事情と言っているでしょう。それ以上でも以下でもないわ」
「御託はいいのよ。この訳のわからない物体もあんたたちの仕業でしょう?」
そう言って霊夢は懐から木の破片に見える何かを取り出し、天子に見せつける。
天子はそれが飛倉の破片であると直感的に理解するが、同時に生まれた閃きが彼女にすぐ口を開かせることを止める。
霊夢の持つ天性の勘。それを利用して飛倉の破片を集められないかと考えたのだ。
「……どうかしらね。私が何を言ったところであんたのやることは変わらない。違う?」
「違わないわ。――博麗の巫女の前に立つなら誰であれぶっ飛ばす!!」
「だったら来なさい! 地上に降臨した天人である比那名居天子と現人神の風祝、東風谷早苗が!! あんたたちの今回の相手よ!!」
「やっぱり私も戦うんですね……! しかも異変を起こす側……っ! だとしてもみすみす負けるのは悔しいですし、何より――霊夢さんに今度は勝つって言いましたから!!」
語る言葉は終わり、ここからは弾幕ごっこの時間である。霊夢と魔理沙は速度を維持したまま高度を上げ、天子たちより更に上に移動する。
天子と早苗は聖輦船の甲板で霊夢たちを待ち構え、霊夢たちは上空から各々のスペルカードを用意し、弾幕を放つ。
後の幻想郷縁起に星蓮船異変と語られる異変の火蓋は、ここに切って落とされるのであった。
大体三組みとも以下の行動です。次回は楓も合流し、本格的に法界へ向かう予定です。
楓たち:宝塔探し&全体の動向把握
霊夢たち:飛倉の破片集め
天子たち:破片を集めてきた霊夢の迎撃
アリスについては魔界に手紙を出した直後に楓が魔界に行くとか言い出していやいやいやいやまさか……まさか……ねえ? ぐらいの気持ちですが、こいつなら万が一が起こりかねないと不安になっているところです()
何事もソツなくこなし、面倒見も良く、何よりそのことに自覚があるためアリスは人付き合いを最小限に留めようとしている裏設定があったりなかったり。手を広げすぎるとパンクするとわかっている。
なお放っておいても面倒に巻き込まれる少年やら普通の魔法使いやらがいるので最近は楽しくも頭が痛い模様。