阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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こいつ人の事情に首突っ込みまくってんな(他人事)

メタ情報をキャラ情報に落とし込む回みたいな感じです。


永遠亭の事情

「聞いたわよぉ、楓」

 

 地獄の底から響くような怨嗟のこもった声に楓は顔をしかめる。

 相手が絶世の美女だからか、おどろおどろしいその声には奇妙な迫力があった。目隠しをしているので顔が見えないのは幸運の部類だろう。

 すでに面倒なことになりつつある。楓はため息を内心に隠して口を開く。

 

「……何を?」

「竹林の入り口で屋台を出しているそうじゃない。それもあなたの入れ知恵で……」

 

 恐ろしい声の主――輝夜は恨めしそうに柱の影から顔を半分だけのぞかせて室内にいる楓をにらみつけた。

 

「――私の万博もやろうって言ってんだから協力するのが筋でしょ!! なに妹紅の方を優先してんのよ!!」

「え、あれ俺も手伝うのか?」

「当然じゃない。手伝わない理由でもあるの?」

「逆に聞くが手伝う理由があるのか?」

「私がお願いした。これ以上の理由が必要?」

 

 胸を張ってふんぞり返る輝夜に、楓はなるほど確かにとむしろ納得の姿勢を見せた。

 かぐや姫にお願いをされているのだ。普通なら応えるのが筋というものだろう。

 

「言われてみれば、弱竹のかぐや姫に傅かれているわけか。時の帝ですら得られなかった栄誉と捉えるべきか」

「そうそう。この私の頼み事を聞けるなんて、一生の自慢よ?」

「じゃあ俺は永琳のところで勉強してくるからまた後で……」

「あらそう、また後で……ちっがうわよ!! 話聞いてなかったの!?」

「聞いたけど別にお前の頼み事を聞かなくても一生の自慢には困ってないというか……」

 

 この歳でもうお腹いっぱいですらある。永夜抄に始まる異変に関わってからこっち、楓は阿求にも呆れられるほどの頻度で騒動に巻き込まれているのだ。

 それに楓は阿礼狂い。輝夜に可愛らしくねだられたところで影響はない。平時の輝夜がかなりワガママな性格であることはいい加減わかっていた。

 

「一生のお願い!!」

「死なないだろお前。というか外に知り合いはいないのか」

「永遠亭まで来てくれるやつはそうそういないわよ。あんたも妹紅の案内なしに来れるようになってるし」

「……永琳に一応話しておくぞ?」

「友達が少ないって馬鹿にしてるわよね!?」

「馬鹿にはしていない。高貴な身分の人間が付き合う相手を選ぶのはあり得る話だと聞いている。幻想郷で身分がどれだけ役に立つのかという疑問はあるが」

 

 楓も一般人とはかけ離れた身分ではあるが、それが役立つ場面はそこまで多くない。

 せいぜい自分の所属する組織――要するに人里内で融通を利かせられる程度。

 人里の対外的な重要度は高いので相応に良いこともあるが、同時に守護者である楓に課せられる責任も重くなる。

 

 さて、そう考えると楓も輝夜の立場を気の毒に思えてきた。

 彼女らの事情を全て知っているわけではないが、おおよそ今の暮らしぶりを見るに果たすべき役目も責任もないように思える。

 それでもなお貴族として恥ずかしくない振る舞いを求められるのは、いささか酷だ。この少女が活発で、本来は天子に近い感性の持ち主であることはなんとなく想像できる。

 

「……輝夜はやはり外に出たいのか?」

「そりゃあそうよ。あなたから聞ける話だけでも相当面白いことになっているみたいだし、幻想郷は私が思っていた以上に広いこともわかったし。見られるなら見てみたいと思うのは悪いかしら?」

「……そこまで言うならわかったよ。少し本腰を入れて永琳と交渉してみる」

 

 楓の申し出は想定外だったのだろう。輝夜は目を瞬かせて楓をまじまじと見つめる。

 

「良いの? 聞いてるだけでも笑いすぎてお腹痛くなるくらい抱え込んでない、あなた?」

「それがわかっていて人に頼み事をしていたのか……。いやそれはこの際置いておこう。俺は友人の頼み事を聞いているだけだ。それが人より多くて、厄介なものが多いだけで」

 

 命がけになることも多々あるが、そういった修羅場をくぐり抜けてこそ磨かれる感覚というものもある。

 それに人の縁は大事だ。特に今は御阿礼の子の寿命を解決するという、間違いなく一人では持て余す大きな使命を抱えている。

 力を求める意味でも、縁を求める意味でも、楓は自分が割と友人を多く作れる性格だったことを不運に思ったことはない。

 

「だからお前の頼みも聞く。その代わりこっちが困っていたら助けてほしいが」

「貴族のお願いを聞けることがあなたを助けることに」

「さて、永琳のところへ顔を出すか」

 

 楓の目的はそもそも永琳から医学薬学を教えてもらうことなのだ。

 ここで輝夜の話に付き合っていたのも、彼女の無聊を慰めようとする楓の善意に過ぎない。

 

「待って待って待って冗談です冗談!? だからあなたからも永琳を説得して!?」

「時の帝がこの光景を見たら何て言うんだろうな……」

 

 恥も外聞も投げ捨てて自分の足に縋る輝夜に、楓は貴族というものに抱いている認識を輝夜みたいな奴らが大勢いる、というものに切り替えるのであった。

 

 

 

「……話は理解しました」

 

 輝夜を伴って永琳の部屋を訪れると、永琳は楓たちを一瞥して全ての事情を察した様子でつぶやいた。

 本を読むために使う眼鏡を外し、疲れた目を労るように目元を揉みほぐしながらこちらに向き直る。

 

「姫様。楓を味方につけるのは感心しません。あなたの美貌は一切合切通じませんが、そもそも彼は人に迫られると断れない性質に思えます」

「いえ私が頼んだけど断られたわよ? というか割と失礼なこと言ってるわね永琳!?」

「は? 姫様の頼みを断るとは何を考えているの、楓」

「そっちの方向の面倒臭さか……」

 

 永琳も永琳で輝夜に対する情が深い。楓は変な地雷を踏んでしまったと額に手を当てて天井を仰ぐ。何も見えないが気分的に空が見たかった。

 

「輝夜の頼みは断ったが、彼女も永遠亭ばかりでは息が詰まると思い、俺から申し出た次第だ。実際、彼女がここから出られない理由はないと思うが」

「……楓は私たちが異変を起こした理由って知っているかしら?」

「いや、詳しいことは知らない。偽物の満月を作り出していたことだけはわかっている」

「他者から知ろうとしたことは?」

「幻想郷縁起の取材でそちらが語ったこと以上は知らない」

 

 それ以上に首を突っ込むのは良くないと輝夜にも永琳にも釘を差されているのだ。楓とて知らずに済む内容をむやみに知ろうとは思わない。

 ……彼女らの出自や会話の端々から漏れ聞こえる月の技術などを考えると、おそらく後々踏み込むしかないと楓自身も察しているが、今ではないので先延ばしにする方針だった。

 

 直感も含まれる推測になるが、今の自分では永琳に勝てない。知略もそうだが、何より彼女の力量が未だに読めていない。

 それでもいつか挑まなければならない以上、準備は必須だ。負けるとわかっている勝負に無策で挑むのはただの犬死である。

 

 などという楓の思惑もどこまで見抜かれているのか。永琳は腕を組んで輝夜に許可を求める視線を投げかけた。

 

「姫様。私はある程度まで話しても良いと思います。話を聞くだけでもわかりますが、彼の人脈はもはや手放すには惜しい」

「良いわ。私も大手を振って外を出歩きたいし」

「では――楓、私たちは月からの逃亡者なの」

「……ふむ」

 

 さほどの驚きはなかった。月が地上と一線を画した文明を誇っていることはわかっていた。それを捨ててこの場所で暮らす理由を考えると残る可能性はそう多くない。

 

「元々永遠亭の場所にも疑問はあった。妖怪はそんなものだと言ってしまえばその通りだが――ここまで他者の目から隠れるようにしていることへの説明がつかない」

「他に疑問は?」

「……待て。お前たちが逃亡者であるなら鈴仙とてゐはどうなる? いや、そもそも――なぜ逃亡者が異変を起こす必要がある? ……月の追手とやらは何らかの方法で幻想郷に干渉する術があるのか?」

 

 輝夜と永琳の素性に関して気になるところはあれど、彼女らが語る口を持たないのでこの場で詳らかにする内容でもないと判断した。

 だが、二人の素性がわかった途端に出てくる疑問もある。鈴仙とてゐの関係。そして異変を起こしたそもそもの理由。

 

 楓の口から矢継ぎ早に出てくる疑問に永琳は笑みを深める。問いかけに対し、期待通りの答えを返してくれる弟子は話が早くてありがたい。

 

「答えられる限りで答えましょう。まず、月から地上に干渉する術はあります」

「でも今の所あんまり気にしないでいいわ。月の伝手があるのだけど、そこから得られる情報では大した動きもないみたいだし」

「……ちなみに月が地上に侵攻とかしてきたら」

「絶対に月が勝つわ。種族としての強度が根本的に違う」

 

 月と地上、双方を知っている輝夜の断言に楓もうなずくしかなかった。そもそも月に喧嘩を売る理由などなし。触らぬ神に祟りなしである。

 

「詳しい理由はどうせ言わないだろう。鈴仙とてゐについても本人たちの口から聞くべきだ。……まとめると逃亡者だから変に表舞台に出られない、ということか?」

「概ねそうなるわ。今が小康状態を保っているからと言って、それは永遠に続くものでは決してない。ならばこちらから刺激して状況を動かすことを避けるのは当然でしょう?」

「お前たちが罪人でなくなれば良いのでは? 何らかの方法で恩赦を得れば――」

 

 大手を振って外を出歩けるのではないか。そんな楓の言葉に対し、輝夜がささやく。

 

「かぐや姫の物語、最後の部分は知ってる?」

「月の使者がかぐや姫を連れ帰り……帰ってないな」

「その通り。じゃあその月の使者はどうなったでしょう」

 

 輝夜の地上にかける熱意に心打たれて戻った、なんて美談もあるまい。

 それに輝夜の言葉を聞いた永琳が僅かに身じろぎしたのを楓は察知していた。

 

「――殺した。そこにいる八意永琳が」

「正解。なので私たちは半永久的に犯罪者。驚いた?」

「少しは。はるか昔の話であり、人里の人間を殺したわけでもないのでどうこう言うつもりもないが」

 

 楓にとっては色々あったんだな、程度で終わる話だ。

 それよりも問題は輝夜がおいそれと出歩けない理由が無情にも提示されてしまったことだ。

 軽々な行動で彼女が万に一つも月に捕捉され、再び月から使者が送り込まれた場合、人里に抗う術があるのか。

 

「……楓、私はこうしてあなたを弟子に取り、置き薬に使う薬を作ったり、重病人と呼ばれる類の患者を診たりしているわ。でも、私が人里に顔を出したことはほとんどないでしょう? これはそういった理由よ」

「……なるほど」

「ちょっと待った楓、永琳に丸め込まれちゃダメよ! 確かに今話したことは全部事実だけど、月に見つかる危険は皆無よ!!」

「見つかる危険がなくなったから異変を終わらせたとも言えるわけか、なるほど」

 

 どちらの言い分も把握した楓は顎に手を当てて思案する。

 万が一を考えて永遠亭に居てほしい永琳の危惧も理解できるし、外に出て青空の下、思う存分好奇心を満たしたい輝夜の希望も理解は示せる。

 

「最後に一つ確認させてくれ。月の伝手とやらは一体どの立場なんだ? 輝夜が危険はないと断言する以上、それなりの地位にいると推測するが」

「平たく言うと月の最高司令官な姉妹」

 

 罪人と思いきり癒着している。月は大丈夫なのだろうかと他人事ながら心配してしまう。

 

「……永琳、ここは輝夜の言い分を聞いてはどうだ? このまま不満を溜め込ませる一方では何をするかわからなくなる」

「……あなたは従者として私に理解を示してくれると思っていたけれど」

「――そもそも。お前の心配は従者(・・)としてか?」

 

 今度は永琳が言葉に詰まる番だった。

 楓は永琳以外にも従者として働いている少女たちを幾人か知っている。

 そんな彼女らと比較しても、永琳の心配は度を越しているように感じられた。

 

「確かに側仕えが主の心配をするのは当然だ。主に嘆願するのも間違っていない。だが主の道を強制してはならない。俺たちにそんな権利はない」

「……弟子に諭されるとは」

「主の願いは叶えられるべきなんだ。その方法を提示するのが俺たちの役目じゃないか?」

 

 楓の言葉に永琳は悩んだ様子で眉間にシワが寄る。

 即座に否定しない辺り、彼女も楓の言葉が一理あると思ったのだろう。あるいは不満を溜め込み続けた末に輝夜がどんな行動に出るのか考えているのか。

 何度かの呼吸の後、永琳はたっぷりと悩んでから慎重に言葉を選ぶ。

 

「……確かに、楓の言う通りね。姫様、私は従者の分を越えていたようです」

「わかってくれれば良いのよ。あなたは私の従者であり、師であり、共犯者であり、大切な家族なんだから」

 

 話が丸く収まって何よりである。楓は腕を組んで壁にもたれかかって経緯を眺め、自分の要件を話すことにした。

 

「……話がまとまったならこっちも話したい。輝夜の護衛ぐらいなら頼まれればやろう」

「うーん、私としては一人の方が気楽な時もあるのだけど……まあ良いわ、あなたと一緒なら退屈とは無縁になるでしょうし」

「聞きましょう。今日の課題とは別の話ね?」

「ああ。話は――」

 

 御阿礼の子についての話をすると、輝夜はそんなこともあるのか程度の関心だったが、永琳はほんの僅か目を見開いた反応を見せる。

 

「――といった次第でな。俺一人の手には余るので、とりあえず借りられそうな助けを借りることにしている」

「ふうん。短命になる一族ねえ……永琳は何か――」

「……悪いけど、私たちで力になるのは難しいわね」

 

 輝夜が振った質問を被せるように、永琳は断言した。

 

(嘘――いや、真実ではない(・・・・・・)が正確か? まあ良い)

 

 楓は彼女の言葉に初めて知ったそれとは違う反応を見出していた。

 少なくとも何かを隠しているのは確信した。隠している内容まではわからないが、おそらく今の情報は彼女にとって初見ではない。

 踏み込むタイミング――ではない。何よりも失敗が許されない使命だ。彼女らの背景、事情など、まだまだわかっていないことが多すぎる。

 

「永琳?」

 

 輝夜は思わずと言った様子で永琳を見るが、永琳は楓が見えていないことをわかってか凍りついた表情で楓を見据えていた。

 それを見て輝夜も自分の知っている情報を話すことが不味いことを察し、これ以上の言葉を飲み込む。

 

「いや、知らないなら良い。一日二日でどうにかなるものでもなし。俺がそれを目的として動いていることを理解してくれれば十分だ」

「そうね――覚えておくわ」

 

 永琳が見せたのは前向きな反応だった。それだけでも収穫である。

 これ以上の話を続けて、変な反応を見せられると楓も突っ込まざるを得ないため、話題を切り上げる。

 

「聞きたいことはそれだけだ。俺はこれを最優先に動くが、他の物事を一切合切無視するわけじゃない。今後も医学について教えてくれると助かる」

「わかったわ。姫様の外出についても検討します。それでは今日の課題を――」

 

 話題を切り上げる楓の思惑にいささか性急さすら感じる速度で乗った永琳に答え、楓と永琳の講義は始まっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 鈴仙と一緒に医学の講義を受けた後、永琳は課題を残して研究室に戻ってしまった。

 残された二人は黙々と手を動かして学んだ内容をまとめていたが、不意に鈴仙が声をかける。

 

「ねえ、師匠の機嫌が妙に悪かったけど、なんかあったの?」

「悪かった? 俺にはわからなかったが……」

 

 うーん、と鈴仙は表現に悩むような素振りを見せる。

 

「なんだろう。緊張していたのかな? いつも違う感じがした」

「鈴仙が言うならそうなんだろうな。付き合いはそっちの方が長い」

「百年二百年って付き合いでもないけどね」

「なるほど。永琳が緊張する理由ね……心当たりがないでもない」

「え、あるの。言っちゃなんだけど、師匠が緊張するって言ったのも言葉の綾で、私はそもそも師匠が緊張しているところとか見たことないわよ?」

「心当たりなだけだ。正しい保証はない」

 

 永琳にした話を鈴仙にもかいつまんで話す。ただし、永琳の反応が変わったと思しき部分を重点的に。

 それらを聞いて、鈴仙はどういう意味だろうと首を傾げた。

 

「うーん……? 私には全く心当たりがないわ。師匠は何かあったのかしら」

「かもな。まあ言わないってことは何か隠しているか、俺が知るべきでない情報があるんだろう」

「ここまで教えているのになあ……。楓の立ち位置、そこが欲しくて月の人たちが大勢土下座したって聞くのに」

「月の住人だったら教えてもらえなかっただろうさ」

 

 肩をすくめる。月の事情は全く想像できないが、輝夜も永琳も相応の地位があったことだけは予想できていた。

 

「そちらは最近どうなんだ。こっちは語るなら一日必要なぐらいの物事が頻発しているが」

「時々聞いているけど、つくづくあんたの周りは孤独とは無縁よね」

「照れる」

「褒めてないわ。それで私の方だけど――ああ、最近だとてゐがやけに張り切っているのを見かけていたわね」

 

 小傘のことか、と察した楓は少し詳しく聞いてみることにした。

 後でてゐ自身からも話を聞く予定だったので、周りからの情報はあればあるほど良い。

 

「ほう、なぜだ?」

「聞いてみたんだけど、出来の悪い弟子みたいなやつができたって言ってた。私の知ってるてゐはそういうの嫌がる方だと思ったんだけど、正直意外だったわ」

「弟子、ねえ……」

 

 存外に小傘を買っていたらしい。逃げられてしまったてゐの心境はいかほどか。

 

「後で話してみるか。興味が出てきた」

「その誰にでも興味を示す姿勢、嫌いじゃないけどそれが妖怪を招き寄せる原因じゃないかしら……?」

 

 鈴仙がドン引きしているが、てゐの様子に関しては間違いなく自分が蒔いた種である。

 小傘に頼まれたことまで含めて面倒を見るのが筋だと思っていた。

 

「それで話はお前だ。お前の方に何かなかったのか」

「ええ、まだ聞くの? 霊夢の家にお呼ばれした時に兎鍋が出てきて、大論争になったぐらいしかないわよ? あんたの日常と比べたらつまらないでしょう?」

「いや、今のだいぶ面白い話だぞ……」

 

 初耳だった。霊夢も霊夢で交友関係が広いのは知っているが、鈴仙とも友人だったのか。

 そして話のついでだろう。鈴仙はジト目を楓に向けながら確認の問いかけをする。

 

「ちなみにあんたは兎鍋なんて野蛮極まりないもの、食べないわよね?」

「俺自身は鍋をあまり食わんな」

 

 阿求、椛らと食事を一緒にするように意識はしているが、何かと多忙なので片手間で摘めるもので終わらせることも多々ある。

 そもそも妖怪なので胃に食物がない空腹感に耐えていれば良いので、食事自体を取らない時もあった。

 鈴仙に話すと逆に信じられないという顔で見られてしまう。

 

「あんたそれ、大丈夫なの? 妖怪は人間以上にそういったところで脆いのよ?」

「問題あったら続けていないし、俺だって避けようとはしている。飯だって食えるに越したことはない」

「そうしなさい。人型の妖怪は自分が思っている以上に人としての性質に引きずられるわ。眠らないと頭がおかしくなって死ぬし、食べないと空腹感に精神を苛まれるわ」

 

 一日二日程度は問題にならないが、鈴仙が危惧しているのはこれが続いて食事を抜くことが常態化することだ。

 たかが空腹感、されど空腹感。それがずっと付きまとうことによる精神のダメージは馬鹿にできない。

 

「気をつけよう。さて、俺はてゐの話を聞いてくるかな」

「そう。じゃあまたね」

「ああ、また」

 

 ひらひらと手を振って楓が出ていくのを見送った後、一人になった鈴仙はふと思ったことを口に出す。

 

「……あれ、あいつが何の鍋を食うのか答えてない?」

 

 ちなみに阿求の好物は兎鍋である。閑話休題。

 

 

 

「久しぶりだな。しばらく顔を出せなくて悪かった」

「ああ、楓か。小傘の様子はどうだい?」

 

 楓がてゐに声をかけたところ、返事は思いの外普段通りだった。

 鈴仙の話を聞いた感じ、気合を入れて小傘の面倒を見ているものだと思っていた。

 楓はいささか拍子抜けしながら話を続ける。

 

「友人の人狼に愚痴をこぼしていたよ。今は命蓮寺という寺で活動しているらしい」

「ほお、そりゃ重畳。あいつも驚かし方の場所ってやつがわかってきたのか」

「うん? 小傘の話を聞く限り、お前の教えが厳しくて逃げ出したような言い分だったが」

「間違っちゃないよ。ただし、逃げ出すことまで含めて私の思惑通りってこと以外は」

 

 どういうことだろうか、と楓が首を傾げるとてゐはチッチッと指を振って説明を始めた。

 

「お前さんもわかってると思うけど、あの3点娘にイタズラの才能はない」

「まあそうだな」

 

 小傘が聞いていたら泣いて撤回を求めてきそうな会話だが、残念ながら彼女はこの場にいない。

 

「ついでに言えば素直過ぎる。あいつに私のやり方を懇切丁寧に教えたらどうなると思う?」

「ふぅむ……」

 

 おそらく目をキラキラさせててゐへの尊敬を深めるだろう。そして彼女のやり方を学び――

 

「……商売敵が増えるわけか」

「そういうこと。あの子が素直に私のイタズラを覚えて、私と同じやり方でやったとして、そりゃ確かに驚きは得られるかもしれない」

「誰が教えたかもわかるから、危険も同時に背負う」

「だろう? 教えることは教えるが、あまり懐かれると私にとって百害しかないってわけさ」

「適当なタイミングで逃げ出すよう仕向け、後は彼女のやり方に任せると」

「河岸も変えてほしかったからね。だからといって教えることは全部教えた、なんて言っても調子に乗られるだけだ」

「……そうだな」

 

 てゐの言うことが全く否定できなかった。

 楓は重々しくうなずき、小傘へ持っていく報告をまとめ始める。

 

「お前は多少のやり方は教えた。後は自分でどうにかしろ、というスタンスで間違ってないな?」

「そもそも教えがどうこうってものでもないでしょ? 驚かせるコツとかイロハは教えたから義理は果たしたよ」

「責めてはいない。無償の頼みごとにある程度応えてくれただけありがたい」

「ま、悪くない時間だったよ。やることがあるってのは人生にハリが生まれる」

 

 そう言って肩をすくめ、てゐはふと思い出したように話題を変えた。

 

「イタズラで思い出した。竹林の屋台は私にも嬉しいよ」

「何か喜ぶような……いや、人が行き来するからか」

「そういうこと。あんまり竹林に人は来ないから、仕掛ける罠もありきたりになりつつあったんだ。色々来てくれて助かっているよ」

「……まあ、あまり酷いことはしないようにな。多少の不運程度にしてくれ」

 

 被害が出すぎて客足が遠のいても困るし、けが人が出たら楓も無視できない。

 

「程々にしておくさ。人が来なくなったら私の商売上がったりだからね」

「そうしてくれると助かる。では――」

「んじゃあ少年――」

 

 話が一段落したので帰ろうとしたところだった。てゐが不意に近づいて、楓の顔をのぞき込んできたのは。

 吐息すら感じられる距離。何事かと思いながらも害意はないと判断し、楓はてゐの好きにさせる。

 

「……ん、何か決心した顔になったね」

「てゐ?」

「良い顔だよ。挑むものは難しければ難しいほど良い。死すらも乗り越えるぐらいで良いのさ」

「…………」

「あんたは本当にそっくりだ。見た目や性格じゃない。生き方が、運命が――大地に国をもたらしたあの方と」

 

 偉大な父を背負った境遇に負けることなく、誰も成し遂げられなかったものに挑み、道を切り拓かんとする姿。

 そこにてゐは誰かの姿を見出していた。きっととても大切な人なのだと、目が見えない楓にも察せられる声だった。

 

「お前は――っと」

 

 てゐの言葉に何かを答えようとするが、その前に額を小突かれて言葉が途切れてしまう。

 その間にてゐは心を切り替えたのか、次の言葉は楓の知る調子に戻って背を向けていた。

 

「頑張れよ、若人。その結末をいつか私に教えておくれ」

「……それが契約だからな。必ず教えよう」

 

 てゐの背中に声を投げながら、楓は思う。

 彼女はおそらく本物だ。神代の時代より生き続ける時代の証人。ならば彼女の能力もおそらく――

 

「いや、俺には必要ない」

 

 首を振る。楓の推測が当たっていて、彼女の能力が祝福の類を授ける(・・・・・・・・)類であったとしても、彼女に強要することはできない。

 

「――てゐ」

「…………」

「お前の能力を使うなら、俺の主人にしてくれ。俺は自力でどうにかする」

 

 そういったものは阿求にあった方が良い。自分は祝福があろうとなかろうと、やることに変わりはない。

 楓の答えが予想外だったのだろうか。てゐは僅かに肩を震わせ、ひらひらと手を振って立ち去るのであった。




他人の事情ばっかり背負い込んでいる? 安心しろ、楓もこいつで巻き込むときは大事に平気な顔して巻き込む()

永琳はまだ踏ん切りがつかない状態。地雷解除まで踏ん切りはつかないので楓が命がけで踏み込まないと進みません(無慈悲)

輝夜はこう見えて地雷は進行しています。何が地雷? そこに最近生きることが楽しくなってる同類が(ry

鈴仙も地雷はあります。まあ永遠亭の面子は誰か一人爆発したらほぼ全員連鎖爆発起こす連中ですが()

あと2、3話挟んだら神霊廟が始まります。せーがにゃんのエピどうすっかな……(いつぞやのボツ案が割とありそうな気がしてならない)
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