「納得いかなーい!!」
あくる日の早朝。火継の家から甲高く、不満をありありと乗せた叫びが木霊する。
もとより家に仕える女中以外はほぼ阿礼狂いで構成された家だ。昼夜の区別なく鍛錬に励むものが大半のため、その声は屋敷中の人間の耳に届いた。
しかしだからといって何なのか。阿礼狂いの男たちは声の方向を一瞥するか、あるいは見向きもせずに己の鍛錬に励んでいく。
七十年以上の側仕えを勤め上げた親より後を継いだ少年が火継の一族の掟に従い当主となり、一年ほどが経過した。
鷹の子は鷹と言うべきか、妖怪の血さえも持つ少年の才覚は火継の一族誰もが認めるところ。
とはいえ頂点が隔絶していると言って諦める殊勝な輩は阿礼狂いにあらず。
彼らは今日も今日とて修練を積み、それが道半ばに果てるとも永遠にたどり着くことなくとも、積み上げ続けるのだ。その先に御阿礼の子の幸福があると心から信じて。
そして叫び声の主がいる部屋――件の当主である火継楓とその母親である火継椛。居候である永江衣玖と比那名居天子が朝食を摂っている部屋に視点を変える。
声の主は天子のものであり、食卓から立ち上がった彼女の顔は地上で暮らすようになってからあまり見かけることのなくなった不満に彩られたものだった。
「どうして私が天界に戻らないといけないのよ!」
天子の視線は衣玖に注がれており、衣玖はそれをまるで気にせずマイペースに味噌汁をすすった後、口を開く。
「そう言われましても、それが総領様のお望みでしたので。何が原因なのやら」
「衣玖、どのような報告をしたんだ?」
一足早く食事を終えた楓が食後の茶を片手に聞いてくる。
「大したことは言っておりません。総領娘様をコテンパンにのした男の家に転がり込んで、男と一緒に日々遊び歩いておりますと正直にお伝えしただけです」
「どう考えてもそれが原因よ!?」
間違ってはいないが大いに誤解を与えそうな報告内容に、天子は怒りか別の要因か頬を赤く染めて叫び、楓も相変わらずの衣玖に呆れた目を向ける。
「少し意外ではあるな。天子からの話を聞く限り、あまり娘に興味を持っているようにも思えなかったが」
「親だもの。子供には推し量れない想いがあるのよ」
「そんなものですか」
楓らにはわからないものである。椛は穏やかに目を細めて息子の頭を撫でた。
「そんなものです」
「親の心子知らずとは言うけど……うーん……」
「嫌がるな。何か他の理由でもあるのか」
天子が父親と上手くいっていないことは楓も察している。
だが同時に天子が聡明で、時と場合によっては己の感情を封じて動くこともできる少女であると知っているのだ。
その彼女がここまで難色を示す理由が楓にはわからなかった。
すると天子は顔をそらし、楓の視線から逃れながらボソボソとつぶやく。
「……私がいない間に楓がまた異変に巻き込まれてたら癪だし」
「人をなんだと思ってるんだ」
「見てても見てなくても冒険に巻き込まれてる男」
「概ね事実ですね」
「衣玖、仕事追加」
「雇用主の横暴!?」
楓自身も天子の評価にうなずいてしまうところはあるが、他人に指摘されるのは癪なので衣玖には仕事を与えておく。
「俺が騒動に巻き込まれたり首を突っ込んでいるのは認めるが、異変に関して俺が起こしたことは一度も……一度も……」
言いながら思い返してみると、結果的に異変にはならなかっただけでだいぶスレスレの騒動もそこそこあるような気がしてきた。
「――うん、一度も起こしていない。俺を信じてほしい」
「思い当たるフシがそこそこあるな? って顔してそう言い切れる面の皮は褒めてあげるわ」
「そもそも選択肢はないだろ。ここで断って、次は別の強硬手段に出てきたらどうする? 向こうが呼びつけている、って体裁を維持している間にさっさと終わらせる方が賢明だ」
「ぐむぅ……」
天子も楓の言っていることが正しいのはわかっているのだ。今回サボった場合、次はもっと長く拘束されるかもしれない。
楓の近くにいられない時間が増えれば増えるほど、冒険の機会が減ると言っても過言ではない。
頭ではわかっていても、感情が納得しないというか、妙な第六感がささやいているというか。
「……あーもう! わかった、わかったわよ。行けば良いんでしょう!?」
「そうですね。まあ一日、二日程度で戻れるかと。総領様は総領娘様よりの話を心待ちにしておりますので」
「……楓、衣玖をお金で買収ってできないかしら?」
「ふむ、言い値の前払いで構わないから、天子を連れて行かないことを父親に説明できるか?」
「あなたの主を差し出すなら考えます」
つまり絶対やりたくないということだ。これは無理だと天子も悟ったのだろう。肩を落とすしかなかった。
「仕方ないから行ってくるわ。全く、天界ではほとんど無干渉だったのに地上に降りてから急にちょっかい出してきて……」
ぶつくさ言いながら部屋を出ていこうとする天子だが、ふと思ったのか部屋を出る直前に楓たちの方を振り返る。
「あーっと、その……天界の野暮用が終わったら戻ってくるけど、良いのよね?」
「? 地上の家はここだろ?」
別の活動拠点でもあるのか彼女は、と不思議そうな顔になりながら楓は言い切る。
「早く帰ってこいよ。頼みたいことはまだまだあるんだ」
「……ま、地上に唯一の天人だものね! この私がいなければ仕事が回らないなんて私も罪な女だわ! しょうがないからパパっと言って帰って来ようじゃないの!」
そこまでは言ってないが、指摘して天子の機嫌を損ねる理由もない。気持ちよく動いてくれるならそれが一番なのだ。
面倒そうな顔から一転し、意気揚々と部屋を飛び出す天子と衣玖を見送っていると、椛が飽きもせずまた楓の頭を撫でる。
「……なんで頭を撫でるのです?」
「楓のそういうところはお父さん譲りよねえ……」
変わったことをしたつもりはないのだが、懐かしそうに笑いながら頭を撫でる母を無碍に扱うこともできず、母の気が済むまで頭を傾けて撫でやすい体勢を取るしかないのであった。
「妖怪の山と言えば、一昔前は一大勢力だったんですよ。いえ、今も大勢力なのは変わりませんが」
「それは知っているが」
文の言葉に楓は同意しながら、はたての家に二人で向かっていた。
最近、あまり顔を出せてなかったことと彼女が外に出たという情報を聞かなかったため、ここらで様子を見に来たのである。
「だというのに、最近の若い者たちはやれ命蓮寺だの、やれ守矢神社だの……もっと天狗の威光を思い出しても良いと思うんです。なんか強いけど彼女らと比べると中堅どころでは? みたいな認識を改めていただきたい」
「そこまでいくと被害妄想では?」
楓は天狗を侮ったことなどない。天魔を絶対的な頂点とした縦社会が構築され、何より群れている妖怪の数で言えば文字通り桁が違う。
今や楓一人で一つの勢力を相手取ることは可能になった。だがその彼をして天狗社会に喧嘩を売ろうとは思わない。
率直な感想を文に告げると文は嬉しそうな顔になるものの、すぐ怪訝な表情になって口を開く。
「……それはあなたが天魔様を知っているからでしょう。仮にあなたが天魔様を知らず、私が事実上の頂点たる天狗であると考えた場合、あなたは侮りませんか?」
「もちろん。手数と速度が何よりも恐ろしいのは知っている」
あまり前に出たがらず、新聞記者としての仕事が優先されているだけで、文の力量は天魔からそう何枚も劣るものではない。
楓の知る限り天魔と勝負の土俵に立てる、という天狗は彼女ぐらいだろう。
それに楓は勝てるかどうかで相手への対応は変えない。影狼たちが相手でも、幽香が相手でも基本的に同じ対応を取っていた。
「あまり卑屈になっても良いことないぞ。それに天魔なら侮りたければ侮れば良いぐらい言うはずだ」
「うぐっ、痛いところを。私が天魔様にいっちょ異変の一つも起こしましょうよと言ったところ、似たようなことを言われましたとも」
「だろうな。あの人は自分から波風立てる方ではない」
どちらかと言えば他人の起こした波を上手く乗りこなす方が好きそうな性格である。
「手足の使い方が上手いと言うべきだ。俺は自分で動いて終わらせたがる癖がある」
他人を頼ることはあれど、問題解決の中心は常に自分を置いて動いている。
これを個人としての美徳と受け取るか、人を束ねる長の悪癖と受け取るかは彼を評価する人次第だ。
「あやや、気づいておりましたか」
「天魔に言われた。本格的に長となるなら、人の動かし方を覚えろとな」
「ふむふむ。その一環としてはたての顔を見に行くのです?」
「ついでに河童の情勢や守矢神社の近況も聞いておきたい。あいつ、他の天狗と一緒にいると顔を出さないんだよ……」
「天魔様と私の二択ではそりゃはたても尻込みするわよ……」
そんなものだろうか。誰が誰と付き合っていようと関係ないと思うのに。
楓は文の言葉を今ひとつ理解しきれないまま、はたての家を訪れて扉を叩く。
「はたてー? いるかー?」
楓の呼びかけに家の中からドタバタと慌てて物が動く音と、扉越しのくぐもった声が届く。
「あれ、文じゃない!? そろそろ来るとしたら文だと思ったのに!?」
文も一緒だ、と言う直前に服の袖が引かれる。
何事かと振り返ると悪戯っぽい笑みを浮かべた文が黙っているよう、自分の唇に人差し指を立てた。
自分と文で対応に違いでもあるのか内心で首を傾げたものの、表に出さず文の悪戯に乗ることにする。
「たまたま俺の方が早かったんだろう。入っていいか?」
「ちょ、ちょっと! いやだいぶ待って!! 文ならまだしも坊やに見せられる格好じゃないから!?」
「お前……」
知り合いが少なく出不精なのは知っていたが、それはちょっと人としてどうなのか。
何も言えないまま楓は文に視線を戻す。文はいつものことだと肩をすくめ、小声で説明する。
「私だとものすごい適当な格好で出てくることもありますよ。どんな格好かは……彼女の名誉のためにも黙ってあげましょう」
「……こっちも深く考えることは避けよう」
それがきっとはたてのためである。楓と文はうなずき合って待つことにした。
そうして待つことしばし。これ以上待たされるならはたての尊厳などゴミに捨ててしまおうと楓が決心しかけた時、ようやく扉が開いてはたてが現れる。
「やーやー、ゴメンね坊や! いえね? 誰も来ないから油断しきって人に見せられない有様だったとかそんなわけじゃないのよ? ただちょっと文が色々置いていったものの片付けとかがねー!」
「へえ、私、あんたの家に何か置いた覚えなんてないけれど?」
「文ぁ!? なんで坊やと一緒にいるの!?」
初めて会った時や妖怪の山で顔を合わせるときと同じ服に身を包み、髪も整えられたはたては笑顔で楓を迎え、傍らに立つ文を見て目をひん剥く。
「ちょっとした悪戯心だったんだけど、思いがけない収穫があったわ。ねえ、はたて?」
ニッコリと笑い、しかし額に青筋を浮かべた文が親しげにはたての肩を掴む。
涙目になったはたてが救いを求めて楓の方を見るが、楓は合掌するばかり。
「――骨は拾ってやる」
「裏切り者ー!!」
「ちょぉっとお話しましょう? あなたの部屋でじっくりと、ね……? あ、楓も来ていいわよ」
「……わかった」
よく考えずとも楓に良いところを見せようと、文をダシにしたはたての自業自得なのだ。
自分の良心を痛める必要なんてこれっぽっちもないと気づくと話は早かった。楓は半泣きのはたての視線を受けながらも特に気にせず家の中に上がるのであった。
「うっうっ……なんでこんなことに……」
相変わらずの洋装に彩られた部屋に入り――何やらたわんできしみを上げている戸棚は見なかったことにする――文の説教が一段落すると、はたてはぐすぐすとぐずりながら現状を嘆く。
「私と楓はたまたま一緒になっただけ。他は全部あんたの自業自得よ。これを機に少しは生活を改めなさい」
「やだー! 文だっていっつも外じゃ不真面目ぶってるくせに、なんで私にはそんなこと言うのよー!」
「あんたみたいな天狗と一緒にされるとか溜まったもんじゃないからよ!!」
文の気迫に怯んだのかはたてが身体をのけぞらせる。
これ以上話していても終わらないと思い、楓はそこで助け舟を出すことにした。二人の光景を見ているだけに飽きたとも言う。
「で、ここ最近は何をしていたんだ? あまり姿を見なかったが」
「え? 花果子念報作ってたけど、見てない?」
「しばらく目が見えてなかったから、その手の面白くな――失礼、興味を抱けないものには触れてない」
他にも最近は妖怪の山でも守矢神社にばかり行っており、天狗との話がおろそかになっていたことも理由に挙げられる。
……一番大きな理由は相変わらず花果子念報が鳴かず飛ばずの零細新聞であり、文の文々。新聞に比べれば知名度に天地の差があることだが、それを指摘しない慈悲はあった。下手に言って花果子念報改善を手伝って! とか言われないためという思いもある。
「どっちも私が受ける傷は大して変わらないけど!?」
「というか外に出なさいよ。あんたの能力で写真が入手できるからって、取材しないで良い理由にはならないわよ」
「えー」
「ブン屋が出不精って致命的すぎるわよ……」
「ここに来て正解だったかな……。文、はたてを借りても良いか」
どうぞどうぞと言わんばかりにうなずかれたので、楓は立ち上がってはたての腕を掴む。
「え、なに坊や。これからどこか行くの?」
「河童の近況も知っておきたくてな。行くぞ」
「あ、ちょ、引っ張らないでー!?」
引きずられていくはたてを見送り、一人残された文は腕を組んで彼らの組み合わせを思う。
「一人だと出たがらないし、あれぐらい強引な方がはたてには良いのかもね。そう考えると天魔様も上手い相手を付けたなあ」
「まああわよくばってぐらいだったけどな。オレとて人と人を合わせた場合の変化まで予測し切れない」
「その運まで含めて天魔様……なんでいるんです!?」
いつの間にか現れていた精悍な烏天狗の青年――天魔の登場に文は目を見開き、それが目にも留まらぬ速さを、周囲に悟られぬほど静かに発揮して窓から入り込んできたのだと察する。
どのような風の操り方をすればこの極地に到れるのか。速度の一点ではそうそう負けないが、この技量の果ては今なお底が知れない。
「文と楓が一緒に歩いてるのを見かけたからちょっかいかけに来ただけだ。さて――文が開けたことにしてそこの戸棚見てみようぜ」
楓と文が見なかったことにした戸棚に嬉々として向かう天魔を見て、呆気に取られていた文は正気に戻る。
「ちょ、待ってください!? そこにあるのが何でも私が被害しか受けない――あーっ! やめましょう天魔様! 世の中見ないで良いものはありますって天魔様ーっ!?」
天狗の頂点と、その右腕が自分の家でしょうもない争いを繰り広げていることなど知らぬまま、はたては楓と一緒に河童の集落へ向かっていくのであった。
「河童の方では最近何かあったの?」
「わからないから見に行くんだ。千里眼で見た感じ、何かごてごてした建物を作っているようだが」
地底にもつながる大規模な建物である。金属が日光を反射し、地味に見にくいのは千里眼所持者にしかわからない愚痴だ。
しかしはたての琴線には触れなかったようで、はたては興味なさそうにうなずくばかり。
「ふーん」
「お前な。そういうのが一番新聞のネタになるんじゃないのか?」
「人に説明するのが難しいものは新聞にしづらいのよ。そういうのは学術書で結構」
言われてみればわかるような、花果子念報が鳴かず飛ばずの理由がわかるような。
楓は微妙な顔になるものの何かを言うことなく視線を正面に戻し、その大きな建物――間欠泉地下センターと河童の間で呼ばれている場所に降り立つ。
するとにとりとは違う河童が楓たちのことを発見して声をかけてきた。
「あれ、烏天狗さまと人里の守護者さま。こんなところに何か用です? 今日は守矢神社の代わりに見に来たんですか?」
気さくに話しかけてくる河童にはたてはビシリと岩になったように動かなくなるが、楓は気楽に応える。
「外から見ていて何を作っているのか気になってな。知っているのか?」
「先日あった間欠泉があるじゃないですか」
「あるな。しかしあれは博麗神社の方だろう?」
「なんでも地底の妖怪が自在に生み出せるようになったみたいで。そのエネルギーを地上へ活用するための建物みたいです。間欠泉地下センターって呼んでます」
「ほう」
間欠泉を起こす程度の能力の妖怪でもいたのだろうか。天子から地底の妖怪について報告は受けているが、いかんせん口頭のこと。この事象を引き起こせる妖怪はわからなかった。
「守矢神社の提案なんですが、天狗との共同開発みたいです。私たちはその実働で」
「なるほど。だから最近、市場の方で河童の数が減っていたのか」
「お金儲けも大事ですけど、やっぱり作るのが一番面白いですからねー。あ、もしかして人里で私たちのことが恋しいとか?」
「細工の腕前は認めてるからな」
それ以外の機械とかは一切認めていないが、河童は都合良く解釈したのだろう。技術を褒めてもらえたことに照れながら感謝を述べてくる。
「あはは、ありがとうございます。あ、守護者さま確かにとりと友達でしたよね? 呼んできます?」
「ああ、頼む」
間欠泉地下センターと呼ばれる建物の中に入っていった河童を見送り、微動だにしないはたての方を振り返る。
「……坊や、あの子と知り合いなの?」
「いや、初対面だが」
「なんであんな親しげに話せるの!? 魔法? 催眠の妖術でも使ったの!?」
「初対面の相手にそんなもの使う理由がないし使えんわ! そんな不思議なものでもないだろう。誰だって知らない相手は初対面だ」
「私は話せないけど!?」
「お前はどうして新聞記者なんてやろうとしたんだ……」
むしろよく今まで変わり者程度で天狗社会でやってこれたものだと驚愕する。
そしてはたては楓と関わったことで良くも悪くも知名度が上がりつつある。ここで楓が彼女を放り出したら天狗社会でやっていけるのか。
自分はひょっとして天魔にとてつもなく面倒なことを任されたのでは? と表に出さぬよう戦慄していると間欠泉地下センターの昇降機が動いてにとりがやってくる。
「やあやあよく来てくれたね、盟友! まだ建造途中のこれに目をつけるとはお目が高いよ!」
「最近、顔を出してなかったからな。場所を変えるか?」
「いや、ここで良いよ。この後守矢神社の確認もあるからね」
「ふむ、わかった。これは結局作って何をするつもりなんだ?」
「これでエネルギーを生み出すってのは聞いた?」
聞いたので首肯すると、にとりはそれを使った用途について説明を始める。
「天狗の方はまだ決まってないんだけど、守矢神社はこのエネルギーを使ってロープウェーってやつを作りたいみたいだね」
「ロープウェー?」
なにそれ、と楓ははたてと顔を見合わせた後、説明を求めるようににとりの方を見た。
「ほら、立地が立地で守矢神社は人間の参拝客って皆無じゃん?」
「まあそうね。天狗の私や楓は気にならないけど」
「それじゃ信仰が思うように集まらないらしいよ。だから人が大勢来られるように移動手段を作りたいんだって。ほら、私がさっき来るのに使った昇降機があるでしょ? あれをもっと大きくして安全性を高めたものみたい」
「それを定期的に動かせば、妖怪の山を歩けない人間も容易に参拝が可能になるということか。考えられていることだ」
博麗神社と比べれば雲泥の営業努力だと言わざるを得ない。あそこが何もしていなさすぎるとも言えるが。
「まあまだ建造途中だけどね。地底まで繋げないといけないからもうちょっと時間かかるよ」
「完成する前に一声かけてくれ。いつできあがるか、は新聞のネタになりそうだ」
間欠泉地下センターの詳しい話は不要だが、竣工予定ぐらいなら良いだろう。それと同時に守矢神社のロープウェー計画とやらも動くはずなので良いネタになるはず。
はたてに目配せすると、彼女は感動したように胸の前で手を組んで楓を見ていた。
「ん、いいよ! まあ新聞を有名にしたければ楓の特集組めばいいと思うけどね!」
「…………っ!!」
「え、なんでそこでその手があったか! みたいな顔をするのそこの天狗」
「坊や、ちょっと一日、いや一週間ぐらい付きっきりで取材しちゃダメ!? 食事もお風呂もお世話してあげるから!!」
「天狗さらいと何が違うんだそれは」
にとりの一言が余計なやぶ蛇を生んでしまったらしい。
楓の恨めしそうな視線からにとりは逃げるように視線を動かし、やってくる影に顔を明るくした。
「えっと……あっ、守矢神社の人だ! いやぁ、盟友の相手をしたいんだけど残念だなぁ! でも仕事の相手が優先だから仕方ない――ありゃ?」
守矢神社からの人――東風谷早苗は最初こそにとりの方へ向かっていたのだが、楓たちの姿を認めるとそちらに方向を変えてやって来た。
「楓くん、良いところで会いましたね!!」
「うん? ああ、守矢神社からの人って早苗だったのか」
「異変解決、行きましょう!!」
「は?」
地面に降り立った早苗はずんずんと楓に近寄って腕を掴む。
はたてと言い合っていた楓はそれに惚けた声を出しながらも、強引に引きずろうとする早苗に抵抗する。
「待て待て、何があった。俺もさすがに問答無用で引きずられはしないぞ」
「むむ、現人神の力を持ってしても動きませんか。さすがは楓くん」
「世辞は良いから本題に入ってくれ」
「では手短に――最近、正体不明の霊を見ていませんか?」
「霊? いや、そんなもの妖精と一緒で割とどこにでも――」
いるものではないかと答えようとするが、早苗の顔が真面目なものだったので求められている答えではないと察する。
「……普段とは違うのか?」
「はい。現人神と神である私たちだからこそわかるのですが、これらは神霊――人の欲が具現化したものになります」
「普段は具現化しないものなんだな?」
「通常なら見えません。ほら、もう異変に近いでしょう?」
早苗の言葉に楓も理解を示す。
異変と断定するにはいささか弱いが、何かしらの異常が起きているのは確からしい。
「だったら霊夢に伝えて――」
「ダメです。気づいたのは私たちが先で、楓くんを捕まえたのも私が先。つまり――私たちで異変解決した方が面白い」
「…………」
「そんな早速面倒事に巻き込まれたみたいな顔しないでください。私は悟ったんです。この幻想郷では自由に生きていい――私は私の面白さを優先しても良いって!」
そう言い切ると早苗ははたての腕も掴み、今度こそ幻想郷の大空へ飛び立つ。
「――冒険しましょう、楓くん! こんなに面白いこと、私一人じゃもったいないです!!」
「……天子のご機嫌取り、後で考えないとな」
蒼天の下、霊夢に負けないくらい空が似合う少女は楓も初めて見るような弾ける笑顔で彼の手を引いて、幻想郷の大空に飛び立っていくのであった。
今話より神霊廟の開始です。そして天子は今回離脱組。フラグ立てるから……()
今回のパートナーは早苗さんとはたて、阿求がそれぞれ変わる予定です。阿求も入る理由? ウフフ(意味深な笑み)
なお神霊廟が発生(というか神子が復活した)理由に守矢神社があるので次話で守矢神社がまた土下座する模様。
ちなみに今回の異変は一日またぐ予定です。今が一日目昼で、二日目夕方には終わりそうな感じ。こいつら本当にジェットコースターじみた速度で異変察知して解決してんな()