阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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せめて……せめて週休二日はください……(相変わらず社畜中)


神霊探しの冒険

 さて、張り切った早苗に連れられて大空へと繰り出した楓たちだが、まず最初に向かう先について考える必要があった。

 

「楓くんに会えたので、千里眼で見えないかなって思ったんですけど」

「パッと見て変わっているように思える場所は見当たらんな。単純に俺が見落としているか、建物の中等の変化になっているのか」

「あれ、坊やの目は建物内だと見えないの?」

「見ようと思えば見えるが、確証がない限り使いたくない。結構気を使うんだよ」

 

 その気になれば人の秘密などのぞき放題なのだ。千里眼の射程にいる以上、早苗もはたても例外ではない。

 

「どうして?」

「人の風呂や着替えなんて見放題だからこそ、そういうことに使わないという信頼を常日頃から積み重ねているんだ。よほどの事態か、そこに何かあるという確信がない限り屋内は見ないようにしている」

 

 そこまで言われては早苗も引き下がるよりなかった。

 とはいえ拒絶のみで終わらせるつもりもなかったようで、楓は腕を組んでこれからの行き先を出す。

 

「今思いついた候補としては二つだ。一つは守矢神社。早苗が気づいたように祭神も気づいたはずだ。より詳細な情報を持っている可能性がある」

「うーん、私は神奈子様らの指示を受けてここにいるのでとんぼ返りするのはちょっと避けたいですね」

「だったらもう一つ。白玉楼だ。元々霊の管理といえば冥界と決まっている。通常の人魂とは違う神霊が出現している件について何かしら知っているはず」

「むしろそこが黒幕まであるのでは?」

「その可能性もあるが……ううん……」

 

 神霊とやらを増やして白玉楼が得をする絵面が描きにくい。そもそも白玉楼はまともな人員が幽々子と妖夢以外にいない。

 

「可能性を潰す意味も兼ねて白玉楼へ向かうか。二人は冥界に行ったことは?」

「妖夢さんとはお友達ですけどありません」

「私が妖怪の山と人里、博麗神社以外に行くとでも?」

 

 早苗はともかくとして、はたてが胸を張って言うことではなかった。

 

「もう少し人付き合いを増やせ」

「……坊やがいるし問題なくない? 坊や、大半の人と知り合いでしょ」

「言われてみれば確かに。楓くん一人いれば、誰かと会いたい時もほとんどなんとかなりますよね」

「…………」

 

 その通りだと楓自身も思ってしまったため咄嗟の反論ができず、楓は思いきり口元を引き結んで前を見ることしかできなかったのであった。

 

「とにかく行くぞ。はたてもここまで来たんだから付き合っていけ」

「坊やは最後まで付き合うの?」

「何かしらの結論が出るまでは付き合ってもらいます!」

「だそうだ」

 

 人里の守護者としてはそこまで危惧していないが、早苗の言葉を無視する理由もない。

 それに今の楓は阿求の寿命をどうにかするという使命を抱えている身。この騒動の先に未知の勢力がいるのなら、それは可能性に直結する。

 

「とにかく白玉楼へ行こう。道は俺が案内する。あそこの桜は人生で一度は見ておいて良いものだ」

「へー、そんなに綺麗なんだ」

 

 季節の区別なく乱れ咲く桜並木は、博麗神社の桜を知っている楓でも見事と言わざるを得ないものだ。

 死後、生の疲れを癒やすとしたらあの場所以外にないだろう。

 などと考えながら、楓が早苗とはたてらを連れて白玉楼へ向かう道中、はたてが携帯片手にふと聞いてくる。

 

「ところでさあ、坊や」

「俺もいい加減無視するようにしているが、坊やはやめろと」

「坊やの方は最近どうなの? 何か面白いこととかあった?」

 

 楓の抗議を無視したはたてが再度聞いてくるので、楓は渋々口を開く。

 

「そうだな……。この前の宝船の異変からでいいか」

「いいよ。妖怪の山でも突発的な嵐だとか何かがあって大変だったから私も覚えてる」

「大変でしたよねえ、色々と」

 

 当事者は早苗と自分で、方々へ助けを求めて幻想郷中を駆けずり回った騒動だ。

 異変と呼べるほどの内容でなかったため幻想郷縁起に記されることもないが、一歩対応を間違えていれば幻想郷が滅んでいてもおかしくないものだった。

 

「あれ、結局なんだったんだろう。もっと近くで見てた天狗もいたと思うんだけど、文も全然言わないのよねえ」

「言わないなら知らなくて良いことだろう。あれからか……はたての方で知りたいことを聞いてくれ。俺も一から思い返すのが面倒だ」

 

 言い換えると振り返るのが億劫になるぐらい色々あったということ。

 しかし早苗もはたてもそれに気づいた上でツッコミはしなかった。

 

「んじゃこれ知ってる?」

 

 特に機嫌を害することもなくはたては携帯をいじり、一枚の写真を見せてくる。

 それは卵を使用して薄く焼いた生地の上に、色とりどりの果物を乗せたものだ。

 

「流行り物って調べたらこれが出てきたの」

「クレープだな。そこの早苗が教えてくれた料理だ。人里に行けば食えるぞ」

「そうなんだ。……楓も詳しいわね」

「私が楓くんに頼んでお店を紹介してもらいましたからね! あそこは美味しいお店ですよ!」

「ふぅん、今度行ってみようかしら……」

「俺からの紹介だとは言わないでくれると助かる」

 

 烏天狗まで通う店になった、とまた蛮奇に怒られるのは勘弁願いたかった。

 当事者の楓があまり積極的に話したがらないのを不思議そうに見ながら、はたては次の写真を見せる。

 

「じゃあ次はこれ。なんかどっかの屋台みたいなやつ」

「竹林の屋台だな。最近とうとう店を出せるようになった」

「知ってるの?」

「割と最初から口を挟んでいた」

 

 あの二人に任せていたらいつ店ができるかわかったものではなかったので、楓が口を入れてあれこれと段取りを決めていた。

 その辺りの事情と、実際に屋台を運営している妖怪について話すと二人は面白そうな顔で色々と聞いてくる。

 

「ほー、夜雀となんかよくわからん人間のコンビで。美味しいの?」

「美味い。酒も色々と出す」

「じゃあ今度坊やが連れてってよ」

「文に頼めよ……まあ客を連れて行くのは良いが」

 

 あそこが賑わう分には問題ないので暇な時に、と約束する。

 するとはたては一旦次の興味に移ったのか、また別の写真を見せてきた。

 

「じゃあ次はこれ。なんか見たことない風景だけど、これはどこ?」

「多分魔界の景色だ。空が紫だし見覚えがある」

「……楓くん、どんな人生送ってるんです?」

「むしろはたてはなぜ、ことごとく俺の知っているものを出してくるんだ」

「え? 私はいつも通り特ダネで念写してるだけよ。それで出てきた写真について聞いたら、坊やが全部答えてくれるの。知らないの何かないの?」

 

 大半の特ダネに楓が関わっているということである。

 楓はこれ以上何を言ってもやぶ蛇にしかならないと察し、口を引き結んで黙り込む。

 

「あ、ちょっと坊や!? あー、拗ねちゃった」

「拗ねてない」

「楓くん、それは私から見ても拗ねていると思います!」

「拗ねてない」

 

 はたてと早苗を意識の外に追い出し、目も瞑って彼女らの姿を視界に入れぬようにして楓は先を急ぐのであった。

 

 

 

 

 

「おお、ここが白玉楼ですか」

「はー、すっごい桜。こりゃ確かに見事なもんだわ」

 

 早苗、はたてを連れて白玉楼へ到着した楓は桜に見惚れる二人を尻目に門扉を叩く。

 内部では二百由旬にも及ぶ長大な空間が広がる屋敷だが、楓が門扉を叩いて数分と待つことなく迎えが現れる。

 

「門扉を叩いて来るなんてお行儀の良い輩はいないと思ったけど、楓でしたか。早苗と……どちら様?」

 

 白玉楼から現れた妖夢が楓に挨拶し、はたての方へ怪訝そうな目を向ける。

 するとはたてはビシリと身体を硬直させ、楓の後ろへこそこそと隠れようとして、楓がその体を押し返した。

 

「烏天狗の姫海棠はたてだ。極端な人見知りでな」

「はぁ。なんでここに?」

「成り行きというか、荒療治というか……慣れるまでは長いが、慣れると馴れ馴れしくなるはずだ」

「褒めてないですよね?」

 

 事実、早苗に対してはもうさほど緊張している様子がなかった。

 多少懐に潜り込むのが面倒なだけで、一度入ってしまえば後は普通に接することができるのだろう。

 ……まあ、幻想郷でそんな手間暇かけるのを好んでやる輩は少ないので、彼女の交友が狭くなってしまったのも半ば必然と言えよう。

 

「紹介はさておき、今日来た理由について話そう。実は早苗の気付きで――」

 

 神霊と呼ばれる人の欲が形取った存在が地上に現れている。そのことを話すと妖夢も納得の表情で腕を組んだ。

 

「なるほど、神霊という呼び方まで知っているのは少し驚きましたが、確かにこちらからも観測できます。で、霊と言えば私たちのところだと」

「俺たちより知っていることは多いだろうと思ってな。当てもなく動くよりはマシだろうと」

 

 霊夢に聞けば彼女の勘で一発でわかるのだが、自分こそが最初に気づいたというアドバンテージをみすみす捨てるのももったいない。

 下手をすれば人里が危ういとかなら手段を選ばないが、今はまだ遊ぶだけの余力があるのだ。早苗にならい、冒険を楽しむのも面白い。

 

 妖夢はここで話すのもあれですから、と言って楓たちを白玉楼の中へ招く。

 白玉楼前の桜並木も見事の一言だが、それは内部の手入れが適当という意味ではない。

 むしろ内部の方が主の目を楽しませるべく、庭師である妖夢が技術の粋を凝らして作り上げた庭が飛び込んでくる。

 

「また腕を上げたな。俺も負けていられない」

「ふふん、これが私の生業ですから」

「楓くんはこの辺りも行動範囲なんですか?」

 

 得意げにする妖夢と親しく話す楓に早苗が聞いてみる。思えばこの少年、大体の場所に知り合いがいて、相手ともそれなりに友好的な関係を築いていた。

 

「自分の足で、となるとさすがに頻度は下がる。妖夢とはちょくちょく剣の稽古や庭の剪定について勉強しているし、白玉楼の主とは文通をしている」

「筆まめなんですねえ。……どこからその時間が?」

「その気になればいくらでも作れる」

「楓の言うことを真に受けたら死にますよ。前に一度、真似しようとしたら二日目で倒れました。私が」

 

 妖夢から重い実感のこもった返事が来たので、早苗はこくこくと無言でうなずくしかなかった。

 ちなみに彼女が倒れたのは体力的な問題ではなく、休まずあれもこれもと手当り次第学んでいるとしか言いようのない楓に付き合い、一睡もせず情報を取り込み続けた結果の知恵熱である。閑話休題。

 

 そうして客間に通された楓たちは妖夢を伴った幽々子が訪れるのを待って、妖夢にしたことと同じ説明をする。

 

「ふむ、妖夢が見ただけなら見間違いだと一蹴するところだけれど、あなたたちも確かに見たというのね」

「俺が見てわかるのは通常の人魂とは違う程度だが」

「私はわかります。何せ信仰とは人の欲望とも言いかえられます。神霊を独占できれば事実上、信仰の独占さえ可能になる」

「…………」

 

 となると、早苗に協力しているのは不味いのでは? という疑問が楓の脳裏によぎるが、言葉にはしなかった。まだ神霊が出現している、程度の問題なのだ。独占できるかどうかは後で考えれば良い。

 ……それに霊夢を出し抜くのは難しいが、早苗ならどうとでもなる。独占が可能だとしても土壇場で裏切って神霊を解放すれば話は終わるだろう。

 まあ早苗に怒られるのは確実だが、そこはそれ。特定個人に付き合う程度ならまだしも、特定勢力への肩入れは守護者的に問題がある。

 

「手がかりはないか? 神霊の出処とかも知っていたら教えてほしい」

「そうねえ……」

 

 幽々子は手元の扇子をいじり、パタパタと広げては閉じるを繰り返し、片目を閉じては開き、妖夢と楓らを行ったり来たりする。

 

「はい、決めました。――ここで意思を通すのに必要なのは言葉じゃないでしょう?」

「……そういうことか」

 

 幽々子の言葉の意味を察したのは楓だけではなかった。早苗もはたても、妖夢も、全員がその意味を理解して総身に力をみなぎらせる。

 

「この場に純粋な人間はおらず、私たちはたまの来客を歓迎している。――となれば、手土産の一つも渡さねば不調法というもの」

「ここはいつもの――弾幕ごっこで白黒つけましょう!!」

 

 早苗が叫ぶと同時、外へつながる障子が開かれて楓以外の四人が飛び出していく。

 そして見事な枯山水庭園と桜並木の間を色とりどりの弾幕を放ちながら目まぐるしく動き、楓の視界から外れる。

 

「余力は残しておけよー」

 

 楓は基本的に弾幕ごっこはしない。それは明言されているため、彼女らも楓のことは頭数に入れていなかった。

 少しすれば勝敗はさておき戻ってくるだろう。後のことはその時考えれば良い。

 

「……椿、少し庭でも眺めて待つか」

『お、いいね。お酒とかないの?』

「あっても飲めないだろ」

『気分だよきーぶーん! 朱塗りの盃に注がれたお酒に浮かぶ桜の花びら……そういうのが綺麗だってことぐらいはわかるんだから!』

「はいはい」

 

 それに久しくなかった椿と二人だけの時間だ。風光明媚な景色を肴に彼女と話すのも悪くないと思う楓だった。

 

「……うん……?」

『どうかした?』

「いや……あそこの木、見えるか?」

『ああ、あの咲いてない(・・・・・)桜の木?』

「あれから妙な気配がしたような気が……」

『木から?』

「……いや、今はもう感じない。弾幕ごっこの妖力と勘違いしたのかもしれん」

 

 ただ、一瞬。ほんの一瞬だけ、久しく触れた覚えのない気配――死の気配を感じて首を傾げるのであった。

 

 

 

「はたてさん、やるじゃないですか! 正直甘く見てましたよ」

「あんたも良い腕してるじゃない。ぽっと出の勢力だと思ってたけど、実力に嘘はないみたいね」

「戻ったか」

 

 数分後、袖がいくらかほつれているものの、無傷の早苗とはたてが何やら親しくなった様子で戻ってきた。

 同じ空間で弾幕ごっこをやったからだろうかと楓は立ち上がり、聞けた内容について確認する。

 

「で、何か聞けたのか?」

「お寺の裏側の墓地が怪しいと言ってました。幻想郷でお寺と言えばあそこしかありません」

「――命蓮寺か」

「そういうこと。早速そっち行く?」

 

 はたての問いかけに楓は少し待ってほしいと手で示し、顎に手を当てて考え始める。

 

(命蓮寺が異変の黒幕……ないと思うが証拠がない。いや、仮に黒幕だったとして、星が許容するとも思えない)

 

 彼女は近所付き合いの意味をしっかり理解している妖怪だ。幻想郷に来たばかりですぐに異変を起こそうなんて考える輩ではない。

 白蓮も同じく。自分から異変を起こそうとするタイプではないだろう。

 無論、楓が見誤っていて彼女らが黒幕である可能性もある。あるが、それより気がかりなことが一つあった。

 

「早苗、確認させてほしい。お寺の裏側の墓地が怪しい。そう言ったんだな?」

「え? ええ、はい、確かに言ってました」

 

 楓は一度空を見上げる。白玉楼は結構遠いため、行き来には時間がかかる。

 今から戻って行ける場所は一つが限界。それ以上は暗くなってしまい、彼女らを連れて歩くには難しくなってしまう。何より阿求への夕餉と報告を行いたい。

 

「本丸に乗り込む前に確認したいことがある。今日のところはその調査で終わりにしよう」

「えー、花果子念報にスクープとして載せたいんですけどー」

「命蓮寺には明日行く。それに付き合えば独占スクープになるぞ」

「じゃあそれにしよう。と、友達の早苗と一緒にね!」

 

 はたては照れで顔を赤くしながらも隣の早苗に視線を向けるが、早苗は楓を不思議そうに見るばかりだった。

 

「ちなみにどこかアテがあるんです?」

「私の精一杯が無視された!?」

「え? 友達ってもう私たちは親友(ベストフレンド)ですよね?」

「……早苗!!」

 

 早苗にすがりつくはたてに何か言うと話が脱線しそうなので、楓は何も見なかったことにした。

 

「――守矢神社に行く。命蓮寺の場所の候補を提供したのはこちらだが、選んだのは彼女らだ」

 

 

 

 

 

 段々と日が妖怪の山へ消え、夕焼けが幻想郷を茜色に染め上げる頃。

 楓たちが守矢神社へ到着すると、何かを覚悟していた様子の祭神二柱が三人を出迎える。

 

「……来ないかもと思ったけどやっぱり来たか」

「そうさね。早苗一人なら来ないだろうと思っていたが、うむ。少年は間違いなく持ってるな」

 

 うむうむと鷹揚にうなずき合った二人の前に楓が立って口を開く。

 

「なあ、命蓮寺の場所について確認したいんだが――」

「あれは事故です故意じゃありません!!」

「は?」

「え?」

「……別にお前たちが悪いと思っているわけじゃないぞ。ただ、命蓮寺について知っていることがあったら洗いざらい吐いてほしいだけで」

「え、えっ? 楓くん、何が見えているんです?」

 

 早苗とはたてが説明を求めてきたので、楓は一から順に自分の推論を話し始める。

 

「白玉楼で命蓮寺が怪しいと言っていただろう。で、そこでいくつか可能性を考えた。一つ、文字通り命蓮寺が異変を起こした場合」

「楓くんは違うと思ってるんです?」

「今やるのか、という気持ちが強い。同じ理由で守矢神社も省いている」

 

 異変は突発的な事故であったり、周到な計算の上で行われたものであったりと様々だが、黒幕と言える存在は必ず深い智慧を持っていることが共通していた。

 それに命蓮寺の面々は聖白蓮復活のため、千年もの時を耐え忍んだ連中。白蓮が復活したからと言って、すぐに動き出すというのは考えにくい。

 

「で、そうなるともう一つ――命蓮寺の立地そのものに何らかの原因があるんじゃないか、と思った。場所の候補はいくつかこちらで出したが、選んだのは白蓮と守矢神社の祭神――つまり二人だ」

「……言っても怒らない?」

「知っていることを話せば怒らない。とはいえこの期に及んで聞かれなかったから言わない、なんて選択は愚行だと思ってほしい」

「バレなきゃそれに越したことはないと思ってたけど、バレたら全部話すつもりだよ。というか隠すほどのものでもないんだ。ただ――命蓮寺の地下に霊廟があるのさ」

「そんなものがあったのか……」

 

 頭を抱えるしかない。土地の提供には人里も一枚噛んでいるのだ。

 

「私が少年への恩返しとして命蓮寺にいくらか便宜を図っただろう? あの時にこっちも気づいたんだ」

 

 命蓮寺が建つ場所の土地を豊かにするといった内容だったと思い返し、次の疑問を口にする。

 

「……命蓮寺は知っているのか?」

「多分ね。神霊の出現自体は歓迎しているんじゃないかな? あれを独占したい、ってのは宗教勢力ならわかる理由だ」

「誰の霊廟だ?」

「そこまではわかってない。わかっていたら早苗を調査になんて出さないよ」

「とはいえ推測はできる。神霊ってのは人の欲の塊だ。無論、普通には生まれない。そんなのが生まれる原因はなんだ?」

 

 神奈子が三人に問いかけてきたので、楓たちは一様に考えて最初にはたてが口を開く。

 

「誰かが人為的に作っているとか?」

「神霊の生まれについてはあり得る。だが、それでは幻想郷中に出てくる説明にならないな」

「あ、そっか。うーん……」

「……何かを求めている? 欲望とはつまり、何かを叶えたい欲求。人にも妖怪にも等しく存在するもの」

「お、さすが早苗。私たちも行き着いた答えだ」

「……欲望が願いを叶えてほしい相手? また神か何かか?」

 

 楓は自分でも信じられないような答えを出すが、神奈子がそれを否定する。

 

「いやいや、それは違うよ。神だったら私らが絶対に気づく。誓ってもいいが、今回の相手は神じゃない」

「しかし願いを叶えるなど……」

 

 神、あるいはそれに類する強大な力の持ち主でなければ誰が可能なのか。楓の疑問に対し、神奈子はくつくつと笑いをこぼしながらつぶやく。

 

「もっといるよ。それに神霊は元を正せば人の欲望。――わかるかい? 人の。人間の。人里に住まう住民たちだ」

「…………あっ!」

 

 神奈子に言われて気づいたのだろう。楓は目を見開いて彼女と同時にその答えを告げる。

 

 

 

 

 

『――為政者か!!』

 

 

 

 

 

 彼女は日が落ち、月明かりに照らされる人里の道を気分良く歩いていた。

 何せ実に千四百年ぶりの外である。おまけに策は順調に進み、人里では多大な収穫を得ることができた。

 歌の一つも歌いたい気分だ。今、この場で騒ぎを起こすと後が面倒になるので我慢するが、全てが終わったら大いに騒ぎ、人々の驚愕を集め、良い気分に浸りたいものである。

 

 ああ、良い気分なのは今も変わらない。千年の間に幻想郷がどのように変わったのか、情報収集も兼ねて人里を歩いていたのだ。

 見慣れない存在であると思われはしたらしいが、そこは長年の経験と仙術。ほんの少し服をはだけ、ほんの少し誘惑に弱くなるよう術をかければ実にペラペラと情報を話してくれた。

 

 今の幻想郷が異変に次ぐ異変だらけで、最近守護者として就任した少年が目覚ましい活躍をしているのも少女の興味を惹いた。強い存在は大好きだ。

 

 だが、それ以上に興味を惹いたのがその少年の父親である。

 

 弾幕ごっこができる前の時代。たった一人で多くの妖怪と渡り合い、吸血鬼を退け、百鬼夜行すら鬼の首魁を倒してのけた英雄。

 

 人間が妖怪を倒す。それ自体に少女は驚かない。なぜって、それは妖怪と人間の正しい関係だからだ。

 妖怪が人間を襲い、人間が妖怪を退治する。しかしそこには人間は群れで、という枕詞が付随する。

 だがその人間は一人でやってのけた。まさしく英雄と呼ぶに相応しいだろう。

 

 ――そして、少女が目覚める一年ほど前に死んでいる。

 

 生きていればひと目見るのも悪くなかったが、死んでいる方が少女にとって好都合だった。

 僵尸――動く死体であるキョンシーとすれば英雄の力が手軽に自分のものとなるのだから。

 

「うふ、うふふ、うふふふふ……」

 

 実に上機嫌だった。英雄であると聞くので意思は強いだろう。強めに感情を抑制し、物言わぬ僵尸として自身の護衛に侍らすのが良いか。

 少女に真っ当な道徳観などない。それが己の益となるならば、あらゆることを最短、外道、非道もその過程にあるならば迷わない。

 故に今から彼女が行うのは墓暴き。英雄の墓を一度参ってみたいと言えば快く場所も教えてくれた。

 埋められた骨をほじくり返し、それを元に死体を再生して僵尸を作る。内臓部分が存在しないため、そこは他から補う必要もあるだろうが、大したことではない(・・・・・・・・・)

 などと考えている間に墓場に到着したので、少女は愛しい自らの僵尸に話しかける。

 

「さあ、芳香。これからあなたの弟ができますよ」

「おお! 私の弟か!!」

「ええ、仲良くしてあげないとね……」

 

 そうして一歩踏み出した瞬間だった。

 

「――止まりなさい」

 

 目星をつけていた立派な墓の影から、一人の少女が現れたのは。

 髪は月光を受けて銀にも見える白髪。瞳は紅く、鋭い敵意が二人を貫く。

 左手に小型の盾を持ち、右手に大太刀を握る姿は穏便に話をしに来たとはどう見ても言えない。

 

「あらまあ剣呑。私は霍青娥というもの。今日は幻想郷の変革を成し遂げた英雄をひと目見たく墓参りに訪れた次第ですわ」

「弟を作る。それは私の聞き間違いですか」

「…………」

 

 ここから言い訳して煙に巻くのは苦しそうだ、と少女――霍青娥はたおやかな笑顔の裏で怜悧な思考を巡らせる。

 問題は目前の白狼天狗をどうするか唯一つ。

 彼女はいつでも戦える状態にある。警戒もされている。青娥が変な動きをするだけで踏み込んでくるだろう。

 

 

 

 ――自分と芳香ならば問題ない。それが青娥の下した決断だった。

 

 

 

「ふふ、それにしてもよく気づきましたね? 何か秘密がお有りで?」

「夫の眠る場所を妻が世話するのは不思議ですか?」

「まさか。――芳香、あれは食べちゃって構わないわ。行きなさい」

「わかったー! かくごしろー!!」

「――引かないならこちらも容赦はしません。あの人の死を穢すことは誰が相手でも許さない」

 

 剣を構える白狼天狗と、彼女を退けるべく構える邪仙と僵尸。

 月明かりだけが照らす丑三つ時の戦いは人里に知られることなく、始まるのであった。




楓たちは神霊の性質からたどっていく冒険を楽しんでいます。なお夜の出来事を知って真顔になる模様。

椛は怪しい存在が前作主人公のお墓に来たらそれとなく近づくようにしていました。特に問題なければ何もしませんが、今回は露骨に怪しかったので声かけたら襲いかかってきたのでドンピシャです。

せーがにゃんの性格と行動考えると、
・強い人が大好き
・目的のための手段は選ばない
・人々に力を見せびらかすこと大好き
・死体大好き

うーんこやつ墓暴きしない理由ある???? となりました(真顔)

戦いがどうなるか? 今のせーがにゃん、幻想郷逆鱗踏み抜きRTA走者だからそうねえ……。
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