阿礼狂いの少年は星を追いかける   作:右に倣え

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この二人そろそろ名前決めるか……。


人里の少年たち

「女の子にモテたいんだ」

「前にもやったなこのやり取り」

 

 ある日の昼下がり。楓が日課となっている人里の見回りをやっていると、ちょうど寺子屋時代からの男友達二人と顔を合わせたため、一緒に見回りをしている時のことだった。

 

 以前にも酒の席で女の子と仲良くなりたいと話していた少年が、今度は真面目な顔で楓の方を見ながらの台詞に楓は呆れた顔を隠さない。

 

「お前な、前にも話しただろ。俺の知り合いの妖怪は確かに少女だが、その実人間なんて簡単に引き裂ける奴らばかりなんだぞ」

「……女の子にモテたいんだ!」

 

 どこか覚悟すら感じられる言葉に楓はもう一人の少年の方を見る。物腰の落ち着いた彼ならこの少年のキチガイじみた覚悟を説明してくれるはず。

 すると楓たちの話を困ったように笑って聞いていた少年が口を開き、説明を始めた。

 

「あはははは……。どうにも、出会いがないからか本格的にこじらせちゃったみたいで」

「可愛い女の子に喰われるなら男として本望では?」

「頭でも強く打った?」

「最近でそんな危ないことはなかったと思う」

 

 じゃあ素で言っているのか、と別の意味で友人との付き合い方を考えようか悩む楓へ、少年が直角に腰を折る。

 

「だから頼む! 俺と仲良くなってくれてできれば襲いかかってこない女の子を妖怪でもいいから紹介してくれ!!」

「一瞬で日和ったな……」

「だってお前、俺を殺すかもしれないけど可愛い女の子を紹介してくれ、って言ったらそのとおりのやつ紹介するだろ?」

「それが望みなんだろ?」

 

 そこまで熱望するなら楓も鬼じゃない。地底の妖怪を紹介してその少女に看取られながら喰われてもらおうと思っていた。

 やっぱり本気だったと少年は顔を青ざめさせる。

 この守護者の少年、他人の言葉を額面通りに受け取り過ぎというか、一般人が本気でそんなこと思うわけないだろうと思うことでも平気で実行するところがある。

 

「ちっげーよ喰われて死ぬとかゴメンだよ!! でもこの際多少の危険を飲んでも女の子と仲良くなりたいの!!」

「その度胸があるなら適当な女に声をかけるのではダメなのか?」

「人里で噂になったら恥ずかしいし……」

 

 妖怪と仲良くなりたい男だと噂されることは恥ずかしくないのか。

 寺子屋時代から特に気の合う友人だと思っていたが、知らない間に変な扉を開いていたのかもしれない。

 

「しかし妖怪の知り合いを紹介しろか……」

「可愛くて一般人の俺でも危なくないやつをお願いします!」

「……慧音先生とかでは――」

「ダメに決まってんだろ紹介された時点で全員頭突きコースじゃん!!」

「俺は逃げるから安心しろ」

「僕も逃げる」

「怒られて終わりじゃん!? 今後の友情まで壊れるわ!!」

 

 要求の多いやつだと楓は頭を悩ませる。

 しかし今回は思いつく相手がそれなりにいたため、楓は顔を上げた。

 

「……確認するが、多少危険でも良いんだな?」

「え? お、おう。え、マジでいるの?」

「ああ、折よく人里を歩いているやつに何人か紹介できそうなやつがいる」

「へえ、最近来た人たち?」

「そうなるな。よし、さっさと動こう」

 

 何人か紹介して、話ができれば少年も溜飲が下がるだろう。継続的な付き合いとなるかまでは責任が取れない。

 楓は少年二人を引き連れて、目的の相手を探し始めるのであった。

 

 

 

「――であるからして、命蓮寺では日々入信者を募っております」

 

 朗々としたよく通る声で布教活動を行っているのは、宝塔を片手に持った寅丸星その人だった。

 ナズーリンも今日は彼女と行動を共にしているようで、彼女の隣で真面目くさった顔をしている。

 

 活動の方もちらほらとではあるが信心深い老人や壮年の人間が足を止めており、新参者の活動として見るなら上々な走り出しと言えるもの。

 布教の話が終わった星は傾聴してくれた者たちに丁寧な一礼をすると、興味のある方は命蓮寺までぜひ来てくださいと話を締めくくった。

 そして片付けをしようとなったところで、ナズーリンが星の袖を引く。

 

「ご主人、来客だ」

「おや、一体誰が……楓殿!」

 

 楓の姿を見つけると星は朗らかに笑って手を振ってきたので、楓も軽く手を上げて応えながら近づいていく。

 

「布教は順調か?」

「ぼちぼち前には進めています。あの洞窟の件については入れ違いになってしまい申し訳ありません。ぬえからおおよその話は聞きました」

 

 開口一番に星は夢殿大祀廟にて目覚めた神子たちについて謝罪をしてくる。

 彼女らも命蓮寺の墓地付近に洞窟が現れたことはわかっていたものの、人里に報告しようとした時にはすでに楓たちが洞窟に乗り込んでおり、そこから先は彼らの独壇場だったため出る幕がなかったのだ。

 

「こっちの察知が早すぎただけだ。そちらの対応に悪いところはない」

「私も後で聞かされて驚いたよ。というかなんで現場に最も近い私たちより気づくのが早かったんだい……?」

「色々あったんだよ。まあ今回はその話で来たわけではない」

「ふむ? 場所を変えますか?」

 

 首を横に振って楓は後ろで待っていた少年二人を紹介する。

 

「自警団の若手二人で、俺とは寺子屋時代からの付き合いになる」

「はぁ。入信希望者ですか?」

「いや、妖怪の女の子と仲良くなりたいだけ――」

「お前ちょっとこっち来い」

 

 特に隠す理由もなかったので正直に言おうとしたところ、後ろから少年に首根っこを掴まれて路地裏に引き込まれる。

 

「何か問題あったか?」

「初手で妖怪の女の子と仲良くなりたいです! なんて言う奴が友達になれると思ってんのか!?」

「そこからはお前の腕の見せどころでは?」

「難易度上げるだけ上げてぶん投げるな!?」

 

 注文の多い男である。楓はわかったわかったと適当な返事をしてあしらった後、再び星たちの前に戻ってくる。

 

「戻ってきましたか。何か話でもあったんです?」

「俺にもよくわからんが、この二人はお前のところの寺に興味があるそうだ」

 

 入信とかはまだ考えていない、と一応のフォローは入れておく。ここで変に入信希望とか言ってしまい、彼らが引きずり込まれるのは本意ではない。

 しかしそれでも良かったようで、星は目に見えて顔を輝かせる。

 

「おお、それはありがたい! どんな理由であれ、知ってもらおうと思えることが一番大切ですから! ですがよろしいのですか? これでは楓殿が我々に肩入れしたようにも受け取れてしまいますが……」

「後で守矢神社の手伝いにも紹介するし、神霊廟にこもった神子たちにも紹介する予定だ」

「ねえ楓、これって僕たちを体の良い労働力にするつもりじゃないよね?」

「そういった側面があることは否定しないが、それでも接点がほしいと願ったのはそいつだから恨むならそいつを恨んでくれ」

「向こう三回くらいの飲みは君持ちね」

「なあ楓、すでに俺の失うものがだいぶ増えている気がするんだけど」

 

 真顔になった少年の言葉に楓は何も返答しなかった。酒を飲むときは自分もおごってもらう予定だから。

 星はそんな彼ら三人のやり取りを嬉しそうに眺めていた。

 半人半妖故に付き合う人間も特殊な存在ばかりかと思いきや、彼は普通に人里の只人とも友人であり、彼らと気の置けない関係を作っていたのだ。

 

「ふふ……仲が良いことは素晴らしいことです。我々も人里へ提供する作物を作るため、畑の開墾を行っているところなのですが、やはり人手があるに越したことはありません。そちらの都合さえ良ければ手伝っていただけると助かります」

「私含め、妖怪は飽きっぽいやつが多くてね。真面目にやるのがご主人と聖ぐらいなんだ」

「もちろん、できる限りのお礼はいたします。いかがでしょう?」

 

 星はニコニコと笑いながら少年たちに歩み寄り、その手を掴んでお願いしてくる。

 相手が妖怪慣れしていないことがわかっているからだろう。手を握られた少年は見事にのぼせ上がり、真っ赤な顔でブンブンと首を縦に振る。

 

 楓はその様子を眺めながら、やっぱりこいつが一番油断ならないと星の脅威度を引き上げる。

 清廉潔白なことを言うし、事実本人はそうであるよう心がけて動いているが、必要なら躊躇なく何だって使う。

 

「おーおー、女慣れしていない少年たちに惨いことをなさるね、我がご主人は」

「お互い気心の知れた相手と働きたいでしょう? それに私ぐらいで緊張しているようでは、聖や一輪は目に毒ですよ」

 

 そんなものだろうか、と楓は首をかしげる。基本的に誰かを美醜で見ることがない少年のため、美人に気後れするといった感覚がよくわかっていなかった。

 楓が自分の気持ちを素直に話すと、まだ顔が赤い少年が楓をにらみつける。

 

「お前は良くても俺が緊張するの!」

「この通り悪事を働く度胸はない。必要なら使ってやってくれ」

「ええ、ありがとうございます。ではまた後ほど」

「今度は無縁塚の私の家にも来てくれ。君がいるとレアなお宝が見つかりそうな気がするんだ」

 

 礼儀正しく一礼をして去っていく星とナズーリンを見送り、楓は二人の方へ向き直る。

 

「あれが命蓮寺の面々だ。場所はわかるな? 道中は大して危険でもないし、暇なら手伝いに行くと良い」

「やることは畑いじりだから普段とあんまり変わらないと思うけどね……」

「だとしても女の子と話せるチャンスがあるかないかで全然違う! 俺はやるぞ! ……一応聞くけど本当に食われたりしないよね?」

 

 楓は思案した様子を少しだけ見せ、真面目な顔で口を開く。

 

「仇は討ってやるから安心しろ」

「そんなことはないって言えよぉ!!」

 

 そう言い切れるほど楓は彼女らを知らないので、ひょっとしたら万が一があるかもしれないという意味合いだった。

 だがそこまで懇切丁寧に説明してやるのも彼相手だと面倒だったので、楓は首を傾げて別の疑問を口に出す。

 

「泣き寝入りにならないだけマシでは?」

「お前は俺が守るぐらい言ってくれ人里の守護者!」

「人里の外で起きたことは管轄外だ。自力でどうにかしろと言わないだけ有情だろ?」

「くぅ……っ! 言い返したいけど妖怪の対応でこいつ以上がいないから言い返せねえ……!」

 

 なんか悔しそうな少年を一瞥した後、楓は再び歩き出す。

 

「次に行くぞ。たまたま見つけたがちょうどよい相手がいる」

「へえ、誰なの?」

「詳細を説明するのが面倒だから端的に話すが、千四百年の時を経て復活した聖徳太子だ」

「訳わかんねえよ!?」

 

 

 

 

 

「ふぅ……ご老体、お団子をもう一本もらえるかな?」

「はい、ただいま」

 

 先日、神霊の呼び声に応える形で目を覚ました尸解仙――豊聡耳神子は茶屋で一人、甘味とお茶を片手にくつろいでいた。

 青娥の引き起こした騒動からしばらく。

 外側だけのハリボテならばともかく、内部まで含めた完璧な修復は不可能なほどに破壊された夢殿大祀廟を放棄し、幻想郷の結界の隙間に仙界と呼ぶ世界の作成に着手していた。

 

 仙界――神霊廟と名付ける予定の空間の創造は順調に進んでおり、青娥もあれには懲りたのか今現在は大人しく神子の指示に従っている。

 ……まあ時々何か物憂げな視線をして熱っぽいため息を漏らしているので、また何か彼女の興味を惹くものはあったのだと思うので、それとなく布都と屠自古に見張りをお願いしている次第であった。

 また彼女を放置して巻き込まれるなど冗談ではない。本当に死ぬかと思い、肝を冷やしたのだ。

 

 そんな慌ただしく忙しない日々もようやく一段落。神子は布都と屠自古に休むよう請われてしまったため、人里の見物がてらお茶を楽しんでいた。

 

 お茶は自分の知っているものより味が良く、団子ももちもちとして程よい甘さでいくらでも腹に入る。

 こんな甘味を今の時代は子どもたちでも少し小遣いを出せば食べられるのだ。本当に良い時代になったと神子は感慨深く目を細め、穏やかに流れる雲を見上げた。

 今は私人としているため、耳当てをしっかりと付けて欲望の声も聞こえないようにしている。休むよう言われているのだ。徹底的に休めるようにするのは当然だ。

 

「ああ……たまにはこんな静かな一日も悪くないですね……」

「お、いたいた。息災そうで何よりだ」

「ぶふっ!?」

 

 いきなり隣に座ってきた長刀を背負う少年――火継楓の姿にびっくりしてお茶を吹き出してしまうのだった。

 ゲホゲホと咳き込んだ後、どうにか神霊廟の主としての気品を取り繕って声を発する。

 

「な、なぜここに……?」

「ちょっと用事があってな。ああ、俺がお前に思うところはないから安心していいぞ」

 

 何を安心しろと? というのが神子の内心だった。この少年がその気になれば神子、布都、屠自古の三人を瞬殺できる力量があるのは身を持って知っていた。

 そんな風に慄いた視線を向けると、楓は心外だと言うように口を引き結ぶ。

 

「恐れる理由はわかるが、割り切らんと困るのはそっちだぞ。俺は理由なく誰かに剣は向けない」

「……青娥のことについては」

「もう終わったことだ。俺がそれを引きずることはない」

 

 神子は軽く息を整えると、為政者としての自分と切り替える。

 すなわち、眼前の相手は正しく強大で打倒などよほどの好条件が揃わない限り不可能だが――決して話せない相手ではないのだ。

 

「――わかりました。布都と屠自古にもそう伝えましょう」

「助かる。で、今日訪ねた用件は別だ。来ていいぞ」

「……?」

 

 誰か呼んでいたのか、と神子は首を傾げながら耳当てを緩め、欲の声が聞こえる状態に変える。

 彼は無駄なことをやらないタイプだと神子は睨んでいた。すなわち、これもきっと自分たちの進退に関わる相手なのだろう。

 どこからどう見ても人里の少年二人が緊張した面持ちでやってくるのを見て、その心まで聞いた神子は不思議そうな顔を楓に向ける。

 

「……あの、楓さん」

「なんだ?」

「私の耳がおかしくなったのでなければ、片方は女の子とお話したい。もう片方はそんな少年が面白いから見ていたいという欲が聞こえるのですが」

「そういう能力なのか。いや、言葉の通りだぞ?」

「先日殺そうとした相手をナンパ相手に選ぶとか正気ですかあなた!?」

「何やったんだお前!?」

 

 こいつひょっとしてバカなのでは? という疑惑が一気に強まった神子がツッコミを入れ、それで多少の事情がわかった少年も楓にツッコミを入れ、楓は首を傾げた。

 

「? 別に今殺そうとしてるわけじゃないし良いんじゃないか?」

「あの、うちのバカがすいません。こいつめちゃくちゃ強いし頭も良いんですけど、たまにバカみたいなことやるんで」

 

 なんか保護者みたいなことを言い始めた少年に楓は青筋を立てる。

 彼が頼み込んできたから骨を折っているというのになんて言い草だ。

 ちょっと殺しそうになったことがあるだけで、神子の人間性はある程度保証できるものだ。

 誰が危険で、誰を敵に回さないでおくべきかの判断が良くできている。その判断力があれば人里の人間を無闇に傷つけることはないだろうと確信していた。

 

「帰っても良いんだぞ」

「おばちゃんお団子あるだけこいつに持ってきてー!! うへへ、肩とかお揉みしましょうか?」

「そんなに食えんわ。あと背中に回るな気色悪い」

 

 一瞬で手のひらを返した少年に呆れた目を向けた後、楓は再び神子の方へ向き直った。

 

「まあこういった事情だ。俺はこれ以上気にしないから、そちらも気にしないでほしい」

「……君たち、彼の友人で苦労していませんか?」

「たまになら楽しいですから……」

「人がいつも何か面倒事に巻き込まれているみたいな言い草はやめてもらおうか」

「いや事実だろ」

 

 図星を突いてきた少年の頭を握りながら楓は話を戻す。

 

「この二人は今話した事情だ。そっちも人手がほしいんじゃないか?」

「ふむ……いえ、言われてみれば渡りに船ですね。お二方、仙人の修行に興味はありませんか?」

「修行、ですか?」

「はい」

 

 ニッコリと笑った神子が詳しい話を始めていく。

 

「我々は仙人の中でも尸解仙と呼ばれる存在です。至る方法は秘匿いたしますが、仙人へ至る手段はこれ以外にも存在します。地仙、天仙と呼ばれるものが該当します」

「ふむ」

「幻想郷で我々は道教を広めたい。なので仙人になりたいものたちに修行をつけようと思っているのです。どうです? 厳しい修行は必要ですが、到達した暁には我らのような不老不死も夢ではありません」

「不老不死、ねえ……」

 

 少年はピンと来ない様子で腕を組み、首をひねっている。

 落ち着いた少年の方が疑問に思ったことを聞こうと隣の楓に話しかけた。

 

「じゃあこの人、楓より強いの?」

「何回やっても俺が勝つ」

「そっかー」

「彼とかいなければ不老不死も夢じゃないんですよ本当に……」

 

 仙人なのだ。身体能力も頑健さも常人の比ではない。

 比ではないというのに、そういった存在に慣れている楓が相手だと、他よりちょっと厄介だけど問題なく対処できる程度にしかならないのが泣けてくる。

 しかし人間が人間を超える手段の一つとしては有用なのだ。神子は咳払いをして話を戻した。

 

「ん、んっ! 彼ほどの強さは保証しませんが、それでも常人以上の強さになれることは確実です。どうです、興味はありませんか?」

「うーん、でも修行とか厳しそうだし……」

「強い人間はモテますよ」

「是非やらせてください!!」

「ここまで下心を隠さないのは一周回って美徳な気がしてきた」

 

 目をキラキラさせた少年に神子は微笑み、欲望結構と彼の願いを肯定する。

 

「別に良いのですよ。切っ掛けが欲望であっても、結果に貴賤はありません。では仙界への道を教えます。あなたなら仙人に至れずとも、きっと良い縁を見つけられる(・・・・・・・・・・)でしょう」

 

 神子はそう言って楓たちの方に目配せする。どうやら二人の思考を読んだらしい。

 

「良縁! 本当ですか!!」

「ええ、私が保証しましょう」

「俺も時間があれば顔を出す。仙人はさておき、仙術には興味がある」

「楓さんは簡単に真似してしまいそうで恐ろしいですね……。ともあれ私はこれで失礼します。人里の子どもたちと話せて楽しかったですよ」

 

 お代はここに、と神子は自分の分の代金を置いて去っていく。

 彼女を最近見ないと思ったら、仙界など作っていたのかと神子たち仙人の技術に感心する。やはり技術を学んで損はないだろう。

 

 神子と話せた少年は腕を組みながら今までで得られた戦果を振り返る。

 

「命蓮寺で手伝いと、仙界で修行……なんかそれっぽくなってきたな! これで俺も女の子にモテるかも!!」

「楓はどう思う?」

「希望を持つことに罪はない」

「ちょっと!?」

 

 辛辣な台詞を言い放った後、楓がもう一度立ち上がる。

 

「紹介できそうなのはあと一人だな」

「むしろまだいたのかよ。前に話した時はダメそうだったのに」

「多少のリスクを許容できるならこっちも選択肢はある。行くぞ」

 

 

 

 

 

「はぁい、こんにちは~。ゆかりんって呼んでね! きゃっ!」

 

 少女どころか童女にすら見えてしまう幼い容貌で、キャピキャピしたあどけない笑顔を見せるのは八雲紫その人である。

 

「おう、よろしくな! なんだよ、こんな可愛い妖怪の子供もいたのか」

「よろしくね。よかったらアメ、食べる?」

「わーい、ありがとうお兄ちゃん!」

「…………」

 

 楓はドン引きしていた。地獄の蓋を開けてしまった心地で三人のやり取りを眺めていた。

 紫が出歩いていたのを見かけたので、彼女なら人間を紹介しても無体に扱うことはないだろうと思い声をかけたらこの有様である。

 確かに普通の人間なので、警戒心を持たれすぎても良くないだろうと言ったが、ここまでやれとは誰も言ってない。

 

「で、この可愛い妖怪は誰なんだ?」

「どう言ったものか……」

 

 幻想郷の賢者です、と言ったらどんな反応になるのだろうか。

 しかしこれを言ったらスキマ送りにならないかと迷っていると、紫がわかりやすく頬を膨らませた。

 

「んもう、目の前にいるんだから私に直接聞いてよぉ!」

「あはは、ごめんごめん。で、君は一体どういう妖怪なんだい?」

「えっとねえ、難しい妖怪!」

 

 ニコッと笑う紫に少年たちは朗らかに笑って話を流す。

 どうやら見た目通りの幼い妖怪だと思っているらしい。レミリアのことを忘れているのかと楓が口を出す。

 

「おい、妖怪を見た目で判断するな。レミリアの例だってあるんだぞ」

「あっちはなんかもう雰囲気でヤバいってわかるけど、この子はそんなのないぞ?」

「確かにあんまり強い妖怪じゃないって感じるね」

「もー! ゆかりんとっても強いんだから!!」

 

 紫は大仰に怒った様子でポカポカと少年を叩き、少年は困ったように笑って謝る。

 楓は意図して聴覚と視覚を切って、吐き気を催すほど甘ったるい紫の声を遮断していた。

 

「それで、お兄ちゃんたちゆかりんとお話したいの?」

「うんうん、だけど楓も人が悪いな。こんな妖怪がいたんならもっと早く紹介してくれよ」

「もっと早く紹介してよー!」

「善処する」

 

 この際、幽香でも良いから誰か来てくれと切に願う楓だった。

 などと現実逃避している間も紫と少年たちはすっかり打ち解けた様子で話しており、コロコロと表情が変わる紫を妹のように可愛がっている。

 

「んー、お兄ちゃん、女の子と話したいの?」

「そうそう。そこのお兄ちゃんは女の子の知り合いが多いだろ? ちょっと可愛い子を紹介してくれって頼んだんだ」

「うふふ、良い目の付け所と褒めてあげます!」

 

 紫は満面の笑みでふわふわと飛び、楓の頭を撫でてくる。

 楓はおぞましいものを見た形相で紫を見ていた。正直、彼女なら殺すことはないだろうと思うので今すぐ逃げ出したい。

 

「他には誰とお話したの?」

「えーっと、最近やってきた命蓮寺の人と、なんか仙人とか言ってた人たちだな。やべっ、名前聞きそびれてた」

「寅丸星とナズーリン、後は豊聡耳神子だ。仲良くなりたいなら名前ぐらい覚えておけ」

「寅丸さんは知ってるけど他は紹介してなかったんだよ!?」

「へえ……」

 

 紫の目がすっと細められ、境界の賢者としての顔が一瞬だけ楓を見据える。

 だが楓は気にせず真っ向から受け止めた。政治的に難しい話ではないのだ。今回の自分は妖怪の女の子と仲良くなりたい友達に協力しているだけである。

 

「……うん! 私は許してあげましょう! 本当なら私だけとお話したかったって言えれば百点です!!」

「うーん、こりゃ手厳しい。じゃあ次は紫ちゃんだけに声をかけるよ」

「それならよろしい! じゃあ私はそろそろ帰るねー!」

 

 言うが否や、紫は脱兎のごとく駆け出してあっという間に人混みに紛れてしまう。

 にこやかに手を振って見送っていた少年らは楓の肩を揃って叩く。

 

「普通の子もいるじゃねえか。最近知り合った子なのか?」

「……いや、昔から知っていたが、俺の知らない一面だった」

「ふぅん? 普段は雰囲気が違うとか?」

 

 見た目から何まで全部違う、ということを話してやるべきか。

 だが紫があの姿を選んだということは、正体を知ってほしくないという意味でもあるのだろう。

 彼女ほどの大妖怪なら自分を知らない相手というのが貴重なのかもしれない。そう考えよう。

 

「……そんなところだ」

「そっか。うーん……紫ちゃんに寅丸さん、豊聡耳さんと知り合いは増えたな」

「命蓮寺の畑仕事の手伝いと仙界の修行にも誘われたね」

「……俺もモテる!?」

「年単位で続けていけば可能性はあるんじゃない? 妖怪の年単位だから十年二十年じゃないだろうけど」

「夢を見る権利は誰にだってある」

「お前らホント俺に厳しいよな!? もういい、俺がモテてもお前らに紹介しねえからな!!」

 

 辛辣な評価を下した二人に肩を怒らせ、少年も雑踏に消えていく。

 楓は残された方の少年と視線を交わすと、仕方がないと苦笑を浮かべる。

 

「だって、ねえ?」

 

 実を言うとこの二人、あの少年が女の子と仲良くなれない理由を知っていた。

 いや、仲良くなれないと言うと語弊がある。普通に里の女とは話せるのだ。ただ、彼が望むような男女の関係だけが縁遠いだけで。

 

 

 

 

 

「ああ――幼馴染が外堀を埋めている相手に粉をかける相手はおらんよ」

 

 

 

 

 

 真相は単純――知らぬは本人ばかりなりという話であった。

 

「楓も今日はごめんね? なんかいきなり巻き込んじゃって」

「いや、俺も色々と楽しめた。仙術を学ぶ切っ掛けも得られたから感謝している」

「そう言ってくれると助かるよ。まあ……そろそろ終わると思うから安心してよ」

「それは二人を傍から見ていたからの言葉か?」

「そうだね。あの子はぼちぼち本丸に手を出すだろうし、あいつも受け入れるんじゃないかな」

「それは重畳。お前も良縁があるといいな」

「どうだろう。期待しないで頑張るよ」

 

 軽く笑い合い、互いの手を叩いて二人は別々の道を歩き、見回りを再開するのであった。




男友達と練り歩くお話でした。ゆかりん? なんか勝手に動いた……(怯え)

ちなみに少年たちはこんな感じの設定です。

少年A:女の子にモテたい方。楓とは寺子屋仲間で友達の中でも特に仲が良い。
自警団に所属し、普段は里の見回りを主にやっている。明るく人好きのする性格で男女問わず友人は多い。
本人は女の子にモテたいらしいが、幼馴染の少女が頑張っているのを彼以外の全員が知っているので、彼女に配慮した結果。実は人生の墓場行き秒読み段階。
楓のことはメチャメチャ強くて頼れるけど、時々バカになる友人だと思っている。

少年B:物腰穏やかな少年Aのストッパー。Aと少女、Bの三人が幼馴染。楓とは性格的なウマが特に合うのか、よく話す友達。
三人でいるのが一番好きで、それは彼らの関係が変わっても変わらない。後方保護者面で関係の推移を見守っている。結婚の報告に一番喜ぶタイプ。
楓のことはすごく思慮深くて色々考えているけど、時々バカになる友人だと思っている。

楓:気心の知れた男友達なので楓も肩の力を抜いている。妖怪の相手を紹介してくれと言われた時はかなり悩んでいた。
友人二人への不満は時々自分をどうしようもないバカだと思う目で見てくること。

ゆかりん:自分のことを全く知らない相手に紹介したいと楓に言われ、全力ではっちゃけることにしてあの有様だよ!! 楓の化け物を見るような目は普通に痛かった。
とはいえ最後まで欺けたので私もまだまだイケるんじゃない? と思い霊夢のところに同じテンションで突撃。霊夢は思いっきり目を見開いた後、とても甲斐甲斐しくあれこれと世話を焼いた。
その時は霊夢が優しくしてくれたと喜んでいたのだが、後日紫がボケたと霊夢が楓に深刻な顔で相談しているのを聞いてしまい不貞寝した。



あと1、2話したら心綺楼が始まる予定です。ちなみに相棒はさとりんの予定です()
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