人里の様子がおかしいことに気づいた楓はすぐさま目を見開き、人里の状態――主に稗田邸を中心に――を千里眼で精査していく。
「……目の前の連中のようになっているのがおよそ六割ほど。残りの四割は比較的若い連中が多く、状況に困惑している。阿求様の方は……結界か?」
阿求の名を出したところで横にいたさとりは露骨に顔を歪め、頭痛をこらえるようにこめかみを押さえる。
「その名を出さないでください。……ああ、いや、あなたにそれは無理筋ですね。ですがあなたが彼女の元へ向かうなら私は一人で動きます。気もそぞろな輩に来てもらったところで足手まといです」
「よく言う。……一旦彼らの状態を把握した後、天子に話を聞きに行く。元はお前の妹探しだが、手がかりがお前の勘頼りだ。この状況の把握と打開を並行したい」
「向きが同じならご自由にどうぞ。ただし、違っていたら私の方を優先してもらいます」
楓は苦い顔になる。軽々しく味の実験体など頼むのではなかった。
しかし彼女との約束を破棄するのはなんか負けた気がして癪だ。御阿礼の子も現時点で悪影響は出ていないので、多少は自由に動いても良いだろう。
「……わかった。何が手がかりになるかわからん。業腹だが、本当に業腹だが、この状況でお前の能力は優秀だ」
「ふふ、私に頼みたいなら土下座してお願いしますさとり様の一つもして――はっ! そう何度もやられませんよ第三の目を狙ってぐぇっ!?」
第三の目への殺気を感じ取ったのだろう。さとりは機敏な動作で第三の目を抱え込む。
なお楓は知ったことではないと、さとりの腹部に蹴りを入れて吹き飛ばした後、体を翻す。
「時間を無駄にするな。さっさと動くぞ」
「絶対いつか殺す……!」
こいつに限っては怨嗟の声が心地よい。楓はさとりの声を無視して気力なく佇む人たちの前に向かう。
そして眼前で手を動かしたり、声をかけてみたりと反応を探ってからさとりと話す。
「一応受け答えはしっかりしている。ただ、未来のことへの不安や何やらが彼らを無気力にしているらしい」
「こちらも幾人かの心を読みましたが、概ね同じです。将来がわからない、不安だ。――だから今が楽しければええじゃないか。今でこそ無気力状態ですが、しばらくすると刹那的な快楽を求めて行動を起こすかもしれません」
「それがまかり通ったら秩序の崩壊だな……」
「私は人里がどうなろうと知ったことではありませんが、事態はおそらく人為的、それも偶発的なものですね」
楓は舌打ちをする。彼女と同じ結論に達しているのが妙に腹立たしい。
「……理由は」
「おやおや、わからないのですか? このような人の心がわからない男が人里の守護者では先行き不安ですねえ。……え? 意図したものなら絶望を与えた方が良い? ……チッ、わかっているじゃないですか」
さとりも楓の心を読んだ内容と同じだったのか、およそ少女がやってはならない顔になって楓の推理を肯定する。
「ええ、その通り。彼らは一様に将来への展望――希望がない」
「希望がないから無気力になる。人里への攻撃として見るには弱い」
「それなら絶望を埋め込めば良い。生きることに絶望すれば容易に自害するでしょうから」
「俺の考えを読むな気色悪い」
「読んでませんよそっちこそ私と同じ答えにたどり着かないでください気持ち悪い」
『…………!』
こいつできる限り苦しんで死なないかなという思念を込めてにらみ合うが、話が進まないので同時に顔を背ける。
「……話ができそうなやつを探すぞ。アテはある」
「では行きましょうか。それにしても地上は騒ぎが多い。こいしは大丈夫か不安でなりません。ああ、あなたにはわからない気持ちでしたね失礼っづぁぁっ!?」
「いちいち煽らないと死ぬ病気なのかお前は死ね」
「いちいち私を殴らないと死ぬ病気ですかあなたは死ね!!」
またもにらみ合うが、今度は一瞬でそっぽを向くと同じ方向へ二人歩き出していくのであった。
「……仲良いなあの二人……」
「……あれ痴話喧嘩だよな……」
なお、無気力になったとはいえ意識がなくなったわけでもない人里の住人は、彼らのやり取りを余すところなく見ていたのだが、些細な話だろう。
楓が一直線に向かったのは自警団の詰め所だった。
そこにいくらかまともな人と、天子が集まっているのを千里眼で発見していたのだ。
自警団の詰め所に入ると、そこでは楓の友達である少年たちと天子が腕を組んで立っていた。
「済まない、遅くなった」
「楓! どこ行ってたんだよ!」
「それも含めて話す。俺は――」
楓がさとりと一緒にいることも含めて事情を話すと、天子は納得した様子でうなずく。
「ふぅん、そっちの事情は大体把握したわ。誰に聞いても知らないって言うからどこへ行ったのかと思いきや、逢引とは」
「こいつと逢引なんて願い下げです」
「全くだ。事情がなければ顔も見たくない」
『…………!』
「何がしたいのよあんたら……」
顔も見たくないなら顔を合わせなければ良いではないか、と天子は人を殺せそうな視線でにらみ合う二人を見ながら思う。
その視線に気づいたのか、楓が顔を天子の方に戻して状況を確認する。
「こっちの事情は話した。そっちの状況は?」
「よくわかってないってのが実情。咄嗟に結界を作ったから阿求のところ含め、重要な場所はいくらか守れたけど情報はさっぱり。ああ、結界は本気で補強したから博麗の巫女でもない限り破れないわよ」
「阿求様の守護、心より感謝する」
今回は本当に危なかった。無論、稗田邸は霊夢の札などで万全の状態を維持しているが、おそらく今回のような状況まで対応はしていないだろう。
それを防いでくれた天子には感謝の心しかない。
楓が直角に頭を下げると天子は機嫌良さそうに自身の髪を細い指から流す。
「ま、あんたの味方になるって言ったんだしこれぐらいはね」
「外面はかろうじて取り繕ってますが内面は歓喜に彩られていますね。相手は選んだ方が良いですよ」
「楓、要石でそいつ潰すからこっちに渡して」
「殺す時は俺が殺すからやめろ。さて……」
青筋を浮かべて緋想の剣を持ち出した天子をなだめながら、楓は今後の方針を考えていく。
手がかりも皆無に等しいので、とにかく動かなければならない。
それが危険を孕んでいることは事実だが、楓や天子、自警団は有事の折に危険な役割を負うのが役目。動かない道は選べなかった。
などと考えていると、横合いから袖を引かれる。
視線を向けるとさとりが非難する目で楓を睨んでいた。
「……私がここにいる意味は忘れてないでしょうね」
「一度交わした約束は破らないから安心しろ。天子」
「なに?」
「霊夢のところへ報告を頼む。それが終わったら彼女の方に行ってほしい」
「博麗の巫女と一緒に動けと?」
首肯する。事情を把握すれば彼女は動くだろうし、彼女と一緒なら間違いなく元凶にたどり着ける。
「俺は俺でこいつの妹探しをしなければならん。根拠のない直感だが、どこかで道は交わると睨んでいる」
「……良いわ。今回はあんたの勘を信じてあげる。他は?」
「危険なのは承知の上だが、見回りを頼みたい。今でこそ無気力で済んでいるが、状況が悪化したら自殺しかねない勢いだ」
楓は少年らの方を見て頼むと、彼らは力強く自らの胸を叩く。
「任せとけって! 異変なんていつも人里は外れていると思ってたけど、そうじゃないこともあるんだな。俺たちも異変に関われるとかワクワクするぜ!」
「割と洒落にならない事態だから油断しないでね。危なそうならここに戻ってくる、で良いんだよね?」
「ああ、無理はするな。ここから出たら希望が奪われる可能性もあるから、二人一組でお互いに見張り合うように」
「了解! そっちはこれからどこ行くんだ?」
少年の言葉に楓はさとりを見やる。
大勢の人前だからだろうか、あまり口を開かずにいたさとりは楓の視線を受けて口元をいやらしくひん曲げた。
「ふふ、あなたは今この一時、私の手足にも等しいのです。手足が頭に異を唱えることがありますか? わかったならあなたは黙って頭を垂れておおおおおぉぉぉ!?」
「誰が、いつ、お前の手足になったって?」
青筋を浮かべながら第三の目とさとりの頭を両手で握ってやる。
しかしさとりもやられっぱなしではない。一瞬だけ黒い影が彼女を覆うと、呆れ切った目で見ていた天子が驚くほどの速度と精度で楓の腕を蹴り上げたのだ。
「ふんっ!!」
「っ! 本当に厄介だなお前のそれは!!」
「最高の褒め言葉どうも! 躾のなってない動物を躾けるのも飼い主の役目ですから躾けてあげますよワンちゃん!」
「上等だぶっ殺す!!」
「喧嘩すんじゃないわよあんたたち!!」
『ぷげっ!?』
顔を突き合わせ、歯をむき出しにして威嚇し合う二人の後頭部に天子の放った要石が突き刺さる。
その勢いに押される形で互いの額を強打し、両者が顔を押さえて悶えるのを天子が見下ろす。
「ったく、馬鹿なことやってるんじゃないわよ。事情は知ってるし仲良くしろとは言わないけど、もう少し協調性を持っても良いんじゃない?」
「こいつの下につくことは耐えられない」
「気が合いますね私もこいつより上に立たないと気が済みません」
『…………!』
「あんたたち二人揃うと呼吸の代わりに喧嘩しないと生きていけないの?」
全く反省の色が見えないままにらみ合いを始めたため、天子がもう一度要石を後頭部めがけて放つ。
すると二人が全く同じタイミングで首を傾げて避け、相手にぶつけようと悪い笑みを浮かべた。
『死ねぇ!!』
「思考が同レベル過ぎて笑うわ」
が、頭に血が上って良くも悪くも相手のことしか見えていない二人を手玉に取るなど、天子にとっては造作もなく。
放たれた要石同士がぶつかり、弾かれて楓とさとりの避けた方向へ向かって顔面を直撃する。
さすがに効いたのか二人は顔面を押さえて悶絶し、距離を離す。
「天子、お前どっちの味方だ……!」
「今この場に限ってはどっちの味方でもないわよ。ほら、さっさと動きなさい! 喧嘩しないこと!」
「……行くぞ、さとり」
「仕方ありませんね。今は目的を優先しましょう」
赤くなった顔を押さえたままフラフラと外に出ていく二人を見送り、天子は特大のため息をついた。
「……あの二人、一緒だと馬鹿になる呪いでもかかってるのかしら」
「ま、まあ楓も俺らと同い年なんで……」
引きつった声で少年も擁護の声を上げるが、寺子屋時代から振り返ってみても楓のあんな姿を見たことがなかったので自信はなかった。
少年、天子らの知る楓は良くも悪くも沈着冷静で声を荒げることなど滅多にない人間だ。
「……今のあいつに任せて大丈夫だと思う?」
「それはまあ。あいつが関わって悪い方向に終わったことなんてありませんから」
「ですね。騒ぎは大きくなるかもしれませんけど、何とかはしてくれますよ」
少年二人の評価が概ね、人里での楓の評価である。
天子もそれを聞いて腹をくくったのか、自身の頬を叩いて気合を入れ直した。
「……よしっ! 私たちも動きましょう。あの二人に先を越されるのはちょっとどころじゃなく屈辱よ!!」
誰か止める人がいなければ延々と喧嘩してそうな二人に任せるのも不安だ。
それに楓が語った通り、天子は天子の役目を果たせば楓たちの目的ともぶつかると睨んでいる。
ならば冒険を楽しもう。ついでに楓が自分の有り難みを思い知ってくれればなおよし。
天子は自警団の少年たちが動き始めるのを尻目に、自らもまた幻想郷の大空へ飛び出していくのであった。
「さて、不本意ながらお前の妹探しを手伝おう。この事態――もう異変で良いか。異変の解決は霊夢たちに任せる」
「異変の解決は誰がやっても良いのでは?」
「だから俺はお前の方に注力すると言っているんだ」
天子には頭が上がらない。彼女が阿求の周りに結界を張ってくれているからこそ、楓もこうして動けているのだ。
結界がなければ楓も異変解決を優先してさとりを放置している。
「理由はどうあれこちらを優先していることは褒めてあげます。さて、こいしの居場所ですが……」
「方向だけで良いから早く言え。時間が潤沢なわけじゃないんだぞ」
「あちらの方角、というぐらいです」
さとりが指し示した方角は命蓮寺につながるものだった。
他に信じるアテがあるわけでもなし。とりあえず動こうとしたところだった。
「そこゆく二人組、止まれ!」
二人の前に薄桃色の髪を持つ少女が現れる。
言葉の威勢は良いが、語る顔はどこまでも無表情。
青白く妖力の光を放つ薙刀を構え、お面を額に付けた少女が楓たちを制止した。
「おや、千里眼で気づいてなかったのです? 御大層なことを言う割に大したことありませんね目があああぁぁぁっ!?」
「声をかけてくるのが意外だったんだよ。見慣れない妖怪だが何か用か?」
「えぇ……この二人頭おかしいよ……」
勢いよく現れた少女は流れるように少年を煽る少女と、流れるように第三の目を突いて黙らせた少年に引いていた。
お面が鬼の面から困り顔のような面になっているのを横目に楓は話を進める。
「こいつは気にするな。それで用があるのか?」
「おお、うむ! ――最強の座を賭けて私と戦え!!」
少女の言葉に楓はなんと答えたものかと悩んでいると、痛みから回復したさとりが口を開く。
「初対面の人に何言ってるんですか。……うわ、本気で言ってます。お前たちを倒して私が最強になる……?」
さとりが彼女の心を読んだのだろう。
何を言っているのかまるで理解できないといった様子で思念を言葉にした後、楓に判断を求めるように顔を向けた。
楓もさとりと目線を合わせ、視線でいくらかやり取りを交わし、二人は同時に返答した。
『いえ、人違いです』
「なんと!?」
少女は無表情のままのけぞり、大仰に驚いた格好を取る。
「人違いだったのか? 私が人里で聞いた限りだと、背中に長刀を背負う男が最強だと聞いたのだが……」
「俺以上に強い人を知っている。それはあちらの方向にいるぞ」
「そうですね。彼ほどの力の持ち主は私も見たことがありません。何が目的かは知りませんが、そちらの方が良いかと」
楓とさとりは丁々発止に一つの方向を指差す。
そこは楓の父が眠っていた墓であった。楓は父超えを目標に掲げているので間違いではない。
少女は楓たちの言葉を素直に信じたらしく、拍子抜けするほどあっさりとうなずいた。
「む、そうだったのか。で、それは一体誰なのだ?」
「近くまで行ったら人に聞くと良い」
父の名前を教えると少女はコクコクと首を縦に振り、楓たちにブンブンと手を振って走り去っていく。
「お前たちは親切だな、ありがとう! この恩は忘れないぞ!!」
「忘れてくれて良いぞ」
「むしろ顔も覚えないでほしいです」
二人は少女を見送った後、しばらく無言で手を振ったあとで目線を交わす。
「あんな
「お前も乗ったから共犯だ。それに面倒だろ」
「否定はしません。では私たちも動きましょう」
こんな時ばかり息の合う二人は空へ飛び上がり、命蓮寺の方角へ飛んでいくのであった。
「どの程度の距離まで近づけばわかるんだ?」
「発見しよう、と意識して無意識の部分を潰せば目視できる距離で判別はできます。今みたいに空を飛んでいる状態だと難しいですね」
「その体たらくで地上を探すのか……安請け合いした」
「ふふ、吐いた唾は呑めませんよ」
思いの外面倒なことに首を突っ込んでしまった。
これならさとりを適当なところで埋めて異変解決に注力しても良いかもしれないと楓が思い始め、さとりはそんな楓の心を読んで襲ってくるなら返り討ちにしてやろうと心に決めた時だった。
「――さとり、止まれ。命蓮寺の方向から人が来る」
「おや。あなたひょっとして目の敵にされているとか?」
「そんなはずはないと思うが……いや待て、お前人のことを何だと思ってるんだ」
「畜生道に生まれた悪鬼外道」
「お前みたいな性悪に聞いたのが間違いだった」
「うふふ私への仕打ちを忘れて良く吠えますね犬が」
「お前の行いも別に許してないんだぞ」
「……ここで白黒つけましょうか。今後の上下関係にも関わります」
さとりが戦闘態勢に入ったので、楓も戦闘態勢に入る。
トラウマを憑依させ、白兵戦もこなすようになった彼女の戦闘力は未知数だが、おそらく自分が優勢であると楓は踏んでいた。
ここで勝ってこいつに土下座させる。
殺すとかはもう考えてないが、とりあえずこいつに負けるのは我慢ならない。
「椿、構えておけ」
『え、この流れでやるの? というか命蓮寺からの人こっち来てるよ!?』
「知るか」
「……? 誰に話しているのです。頭の中のご友人ですか?」
「似たようなものだ」
「うっわ気持ち悪い」
「ぶん殴る」
楓が拳を固めて殴りかかり、さとりも薄暗いトラウマを憑依させた状態で応戦しようと構える。
そんな彼女らの前に現れたのは命蓮寺の住民である雲居一輪と聖白蓮の二人だった。
人里へ向かう道中、見知った知己である楓がいたので声をかけようとしたら、いきなり他の妖怪と殴り合いを始めたので、見なかったことにしようかと悩んでいるところだ。
「……聖の姐さん、あの二人は無視して良いんじゃないですか?」
「そ、そのようなわけにもいきませんっ」
一輪は無視しても良い感じになると思ったのだが、白蓮はそう思わなかったらしい。
「楓さん! 妖怪と殴り合うなど一体何をしているのですか!?」
「止めてくれるな白蓮。こいつとは白黒ハッキリ付けなければ気が済まない」
「どこの誰か知りませんが余計なお世話です。私も彼に一度上下関係を叩き込んでやりたいと思っていたのです!!」
話しながらも殴り合いの手は止まらず、どちらも一輪から見て熟練としか言いようのない動きで戦っていた。
楓の拳をさとりが絡め取り、腕を破壊しようとすると読んだ楓の蹴りがさとりの体を吹き飛ばし、さとりは空中で素早く身を翻すと反撃の蹴りが楓の側頭部に当たる。
どちらも妖怪であるため、打撃のダメージなど事実上皆無に等しい。打たれたところが多少赤くなって骨が折れてもすぐに消えるといった程度。
しかし込められた技量に大きな優劣はなく、驚くべきことに少女と思しき妖怪も楓に匹敵する技量を会得していた。
「姐さん、これ止めるの大変じゃない? というか無理じゃない?」
「いえ、私たちは連携を取りながら戦えますが、彼らにそれはありません。おまけに私たちを眼中に入れていない。こちらにも勝機はあります」
「な、なるほど……え、私も数に入ってるのこれ?」
あれに殴りかかるのは嫌な一輪だったが、白蓮はその気になっていた。
「彼女らにどのような事情があるかは知りません。ですが、私は人妖平等の理想を掲げる者として見てみぬフリはできません」
「いやあれそんな大層な理想とか掲げてるやつじゃないですって」
一輪には彼らの殴り合いが一から十まで、ウマの合わない相手と一緒にいるから発生する喧嘩にしか見えなかった。
だが白蓮には届かない。彼女の理想は立派なものだし共感もしているが、ここでそれを発揮するのはやめてほしいと思いながら一輪も雲山を操るための道具を用意する。
「ま、それでこそ姐さんか。――援護するからやっておいで!」
「私は素晴らしい弟子を持ちました。――お二人とも! 喧嘩を止めないなら強引な手段で止めますよ!!」
白蓮は楓たちの返答を待つことなく突貫し、一輪も雲山の拳を放つ。
白蓮の攻撃を避けたとしても、見越し入道の巨大な拳からは逃れられない組み合わせだ。
相手のことしか見えていない状態なら不意打ち。仮に反応しても両方から一人で抜けるには至難の業。
『――――』
「は?」
「え?」
それに対し、二人が取った行動は白蓮と一輪を呆気に取らせるに値するものだった。
殴り合っていた二人は瞬時に手を止めると楓が白蓮の前に立って攻撃を防ぎ、後ろからさとりが第三の目を蠢かせて一輪の心を読み、その心から雲山を召喚し一輪からの攻撃を防ぐ。
一人で両方に対処する場合にダメージを免れないなら、一人で一つずつ防げば良い。
至極簡単な理屈であり、それ故いがみ合っている二人には不可能と思われたもの。
だが楓とさとりはアイコンタクトすら交わさず互いに動き、攻撃を防いでみせた。
そして楓の放った掌底で白蓮を押し戻すと、素手の構えを取る楓の隣にさとりが並び立つ。
「襲われる理由は?」
「全く思い当たりません。……いえ、あの尼僧の心を読む限り、喧嘩はいけないとのことです」
「なるほど。よし、話を聞こう」
「そうですね。ここで続けて邪魔をされるのも困ります。あなたにしては優れた判断ですね?」
「人の心を読んで好き放題話すだけを話し合いとは言わないからな。それすらわからない老婆に代わってやろう」
『…………っ!』
こちらを無視して殴り合いをしていたかと思えば息の合った連携を見せ、連携を見せたと思ったらメンチの切り合いが始まっている。
仲が良いのか悪いのか全くわからない二人の姿に、白蓮は困った様子で彼らを叱ることしかできないのであった。
「もうっ! 何なんですかあなたたちは――っ!!」
「……え、なんで怒られてるんだ俺たち」
「皆目見当もつきません。あなたが何かやったのでは?」
「は? お前がいつも通り煽って怒らせたんじゃないのか?」
「相手は選びますよ私だって」
「俺だって選ぶわ」
『…………!』
「そういうところですよ!! 良いですかお二人とも――」
さとりんと楓、下手に口を開くと即喧嘩に繋がりますが、相性自体はめちゃくちゃ良いです。大体こんな感じで。
楓と天子:お互い150の力が発揮できる。バランス良い組み合わせ。
楓とさとり:お互い250の力が発揮できるけど目を離すとこいつら自身がぶつかり合う。
楓と阿求:楓が10000の力を発揮して全てを滅ぼす。
天子は好奇心旺盛で冒険心の塊ですが根が常識人ポジなので楓とさとりんの喧嘩は止める側になります。なおある意味年相応な姿を無気力化してるとはいえ人里中に晒している守護者がいる模様()
次回から本格的に心綺楼解決に乗り出す予定です。