Forged Souls -愛しき貴方に捧げる偽りの想い- 作:V9
艦娘は前世である”軍艦”の頃の夢を見る。
そんな噂を何処から伝え聞いていた。
曰く、誇りを胸に大海原を旅した夢を。
曰く、憧れの先輩や姉妹と過ごした夢を。
曰く、全てを賭して戦い抜いた夢を。
曰く、大好きな大海原に身を沈める悲しい夢を。
これは『艦娘』であるならば誰もが一度は見るものらしい。それを見たものは喜び、怒り、楽しみ、悲しんだ。そして新たに得た命に感謝し、戦いの日々を過ごして行く。決して良いものとは言えないが、今の自分というものを自覚するには非常に良いものだと考えているものもいるらしい。
でも、”私”が見る夢は軍艦の夢では決してなかった。
その夢は非常に断片的で一つとして同じ場面はなかった。確かなのは、夢の舞台が戦後の日本……明らかに平成の時代である事だ。加えて毎回のように同一人物であると思われる男性が夢に登場していた。彼の顔は非常に不鮮明で夢から起きた時にはどんな顔であったか全く思い出せない。でも、彼と接する夢の中の私はなんだか非常に複雑な思いをしていたようだ。夢から覚めると、体の中の臓器をギリギリと締め付けられるような不思議な感覚が残っている。幸せや喜び、怒りや憎しみとも違うその感覚は私にとって未知のものであった。
「朝……ね……」
布団から起き上がった私は眩しい朝日に身をすくめながらもゆっくりと立ち上がる。例の如くあの夢を見た私はその未知の感覚を振り払うように伸びをし、昨夜スマホをいじっていた時に見かけたセリフを口に出した。
「今日も一日……頑張る……ぞい!」
はあ、朝から何をやっているんだ私は……
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201X年、日本は荒れに荒れていた。続く天変地異に少子高齢化に停滞する経済……ニュースで今年は異常だとかなんだとか色々と騒がれてるけど、そんなニュースも十年以上前から毎日のように聞いている気がする。
だが、2010年代はそれとは違う異常に世界は巻き込まれていた。深海棲艦と呼ばれる謎の生命体が突如として湧き出し、世界中の海を支配したのだ。最早、人類の栄華もここまでかと揶揄されていたが、日本政府が開発した『艦娘」という謎の対抗戦力と協力する同盟国が深海棲艦を駆逐していった。
現在では海の大半を人類の手のもとへ戻し、深海棲艦の勢力は太平洋ハワイ諸島の深海棲艦中枢部のみとなった。
それでも、人類の勢力下にある海域でも深海棲艦は家の中に湧くコバエや干した洗濯物に紛れ込むカメムシのように何処から湧いてくる。そのため、日本沿岸地域には深海棲艦に対抗するための小規模艦娘部隊が数百か所に配備されていた。
ここもそんな艦娘が配備された寂れた港町の一つ。
この場所の呼称については色々あるのだが、所属する艦娘たちはみな鎮守府と呼んでいた。そんな呼び名がおこがましい程の小規模な基地だが慣れ親しんだ名称なので文句を言う人はいない。
とまあ、こんな小規模鎮守府ではあるが艦娘を指揮する”提督”も勿論いる。厳密には提督という役職にはついていないのだが、艦娘達は提督だとか司令官だとか好きに呼んでいた。当の本人がそれに対して何も言わないのでなおさらだ。そんな一応はこの基地の最高責任者で艦隊を指揮し、艦娘たちの尊敬を集める彼は……
「おう、山城! 今日の夜は俺とディナーに行かないか? いやそれがな、凄くいい店をみつけちゃってな」
「すみません提督。私の心は姉様と共に……」
「ちょっ……本当にいい店なんだ! このクソ田舎にしては洒落た洋食屋でな、そこのハンバーグがかなり旨いぞ!」
「すみません提督。私の心は姉様と共に……」
「いや、ほんとに……もう予約もしてるし……」
「不幸だわ……」
「…………」
山城にフラれて撃沈していた。そんな彼を見つめながら、”僕”はこの鎮守府の最高戦力である扶桑型戦艦、妹の方である山城の様子を伺う。姉妹共通の巫女っぽい服装に身を包み、艶やかな黒髪を短くまとめた彼女は女性である僕から見ても非常に魅力的な女性と言える艦娘であった。彼女は提督からの誘いを無碍なく断ると、隣にいる姉……扶桑の湯飲みにお茶を注いでいた。扶桑は例の巫女っぽい服装に身を包み、この鎮守府の誰もが憧れる黒髪ストレートを持つ大和撫子だ。扶桑は湯飲みのお茶を口をつけ、ほうっと息をつく。それから妹を窘めるような微笑を浮かべていた。
「山城、提督はこんなにも素敵なお茶スペースを執務室に作ってくれたのよ。少しくらいは彼の熱意に報いてあげたらどうかしら……」
「姉様、私は提督の事なんかどうでもいいです。それより、無駄に広い執務室に茣蓙を敷いただけで喜んでくれるなんて、流石は姉様です」
「あの……山城……それは私の事を馬鹿にしてるのかしら……?」
「馬鹿になんてしてないですよ姉様。私はこの程度で提督に感謝するなんて、姉様は安い女だなって感動しただけです」
「そう……ん……安い女……?」
「流石は姉様です!」
「ん……? んー……そう……ありがとう山城」
この戦艦姉妹には僕の軍艦としての前世で非常にお世話になった。だからこそ、無碍には出来ないのだが今の僕にとっては非常に邪魔な存在であった。僕の提督は非常に優秀なのだが、この姉妹……特に山城の方にデレデレなのだ。それはもう、艦隊運営に支障が出るレベルなのだ。
僕は山城の前で撃沈している提督を引っ張り起こし、椅子に座らせ、その頬を軽く引っ叩く。そうすると、彼は気だるそうな目でこちらを見てきた。
「なんだ時雨、消沈してる俺に鞭打つとは鬼畜だな」
「何を言ってるのさ提督、君が仕事を放置するのがいけないんだよ。ほら、ちゃんと働いてよ」
「んな事いっても仕事なんかねえだろ」
「そんな事ないさ。さっき終わらせた演習の報告書の作成がるし、夜中にイカ釣り漁船の護衛が一件入ってる。ほら、編成考えてよ」
「へいへい……いつも通り駆逐艦三隻でいいか。時雨は出撃するか?」
「いいよ。少しでも経験は積みたいしね。じゃないと腕が鈍っちゃうよ」
さっき提督がいった『仕事がない』発言は決して否定は出来ない。ここに来る任務は漁船の護衛、離島へ定期運航しているフェリーの護衛、確保済みの資源収集施設からの輸送任務くらいしかない。おまけに敵と遭遇うする確率も3割を下回る。少しでも戦わないと、自分の艦娘としてのアイデンティティすら失いそうになるのだ。
「流石は一番付き合いが長いだけある。時雨は良い子だな。ほれ撫でてやるからこっち来い」
「もう、僕は君の飼い犬じゃないんだよ。失礼しちゃうな」
手招きする提督に少しムっとしながらも僕は素直に彼に近寄った。そうすると、彼は僕の頭を少し乱暴に撫でてくれた。なんだかんだで、こうして撫でられることは嫌いではないと思ってしまう自分が少し腹立たしかった。
「姉様、提督の毒牙にかかったら最後、あのように発情した犬みたいになってしまうんです。気をつけてくださいね」
「山城……犬になるのも悪くない気がするわ……」
「姉様!? しょうがないですね……それなら私が飼い主になってあげます。ほら、ちんちん……ちんちんしてください姉様」
「山城……?」
なんだか扶桑姉妹が気になる会話をしている気がするが、僕自身も提督にこねくり回されて少しくらくらしていた。そんな時、彼の手がぴたりと止まる。不安になって提督の方へ身を寄せると、彼は僕の顎を撫でながら真剣な顔つきになっていた。その姿何故だかお腹の奥が疼いた気がした。
「時雨、一つ仕事を頼まれてくれるか」
「わかったよ。服を脱げば良いんだね」
「ちげーよ馬鹿。仕事の話だ。曙、霞、満潮のクソガキ共を執務室に連れてこい。話はそれからだ」
「ん……分かったよ。じゃ探してくるね」
「あいよ、いってらっしゃい」
ひらひらと手を振る提督から背を向け、僕は執務室を出る。暖房の効いた執務室と違い、廊下は少し肌寒い。そこで少し火照っている体を覚まし、僕にとっては少しいけ好かない三人を探しに歩き出した。そこで少し気合を入れるため、最近少し気に入っているあの言葉を口にした
「今日も一日がんばるぞい……っと!」
タイトルは某フロムゲーオマージュの同人ゲーのパ……オマージュです。
残念ながらこれらの要素はありません。