東方書録   作:鳥の番

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 やっと古代編が終了。次話から漸く他キャラが出せるぜー


第12書 サガ

 気がつくと周囲は何も見えない闇で――

 

 ――またここか……。

 僕ははぁー、と安堵からともわからぬ溜息を吐き、暗闇の地面に倒れ込む。

「負けた……」

 思い出すは鬼への恐怖だった。体の骨を砕かれ、筋肉を裂かれ、頭に至るまで粉々に砕かれた時の痛み。僕はあの戦いの最中、自分の意思で体を動かせなかった――自分の妖力に操られるなんて従者として、妖怪としても半人前もいい所だ。というか死んだよ。

 ……ショックだ。立ち直れないかも、と言うか今更立ち直ったから何だってんだ……。主の従者として、その任を守れなかったのだ。しかし――してはいけない。僕は自分がしたことに一切後悔はしちゃ駄目なんだ。

 ――……永琳達は無事だったかな。

 

 半分意識がなくて時間とか考えていなかったが多分、大丈夫だろう。妖怪達の大半は逃げってったし、やることは殆ど、神様に頼んだから問題はないだろうと思う。

 はは、さっきから思う――だろうとか。所詮は僕の憶測でしか計れなんだけど、ね……。

 

 口から吐かれた息と共に、今になって空気を吸うための呼吸を行ってない事に気づいた。

 混濁し始める意識の中で、自分でも笑ってしまうほど馬鹿げた事を考えてしまった。

 

 ――でも、一つだけ後悔があるとしたら、せめて――『もう一冊最後に読みたかったな』。

 呟きは音になる事はなかった。一瞬の瞬きの間に、僕の視界で何かが掠めた。

 

 瞬間、永遠に変わらない深淵の闇の中で視界が揺らいだような気がした。

「……なんだ?」

 僕はその空間を凝視するもやはり先とまったく変わりなく、なにも見えない。

「気の、せい……か?」

 

 ここは簡単に言うと主の世界だ。なによりも、不変の世界で変化(それ)が起きた。なぜ――それはまだそれが完全な物ではなく、僕と言う異物を抱えているから? いや、それは言いえて妙だ。僕は主との契約の元まさに一心同体、一蓮托生している。なら何かが異物としてこの世界に異変を起こしている……?

「――あっ」

 

 その時、僕の脳裏に思い出されるは主の言葉『輪廻転生』だった。

 僕はまだ、その枠から外れてない……? だからこの世界で僅かならも変化が起こった。僕が生きたいと願ったから?

 わからない。理論も、思考も追いつかない。だけど僕はまだ、少なくとも――生きている。

『――生きてどうする』

 

 不意に投げかけれる問いに、戸惑いを覚えるも僕はハッキリと、先まで倒れ込んでいた体で、無理矢理立ち上がり――答えなんて決まっている問いに答える。

「僕は生きて、生きて。どれだけ孤独だろうと、どれだけ殺されかけようと生き抜いて、生きていたい! この体が無くなっても、僕と言う記憶が無くなっても、生きて……生き続けて――本を――主と共にその知識(欲望)を満たしきるまで生き続けたい!」

 

 返事はなかった。死力を尽くした僕の心の叫びは聞き届けられたのか分からない。

 無言の時間、僕が今まで生きてきた以上に、とても長く感じられた時間で、それは突然に終わりを告げるように僕の体を包み出した。体が真っ赤に染められて行く。

 それは足元から首元に至るまで染められて行き、視界が完璧な赤に染められた瞬間、全身に感じる痛みに倦怠感。それに視覚、聴覚と言った様々な感覚が戻ってくる。と同時に聞こえる大地を揺るがすような咆哮。

 僕は思わず絶叫していた。

 ――ああ、僕は戻ってきた!

 

 ◆

 

「……主は、化け物か?」

 

 僕が地面にめり込んだ体を地表に押し上げると、鬼が咆哮を上げたままの状態で、固まり口をあんぐりと開けて目を剥いている。しかしそれもそうだろうと鬼の驚き同意せざる得ない。

 あれだけ体をぼこぼこに殴られたら普通生きてるほうがおかしいだろう。だが、僕の体の状態は未だに酷い状態には変わりなかった。

 無事に動かせるのは両足と腰くらい、左腕指がバラバラに裂けた左腕に関しては、千切れて僕が嵌っていたくぼみの中にぽつんと残っていた。

 右肩も外れ、右腕に関しては手がない。よく見れば数メートル先に転がっていたが、これってくっつくだろうか?

 まあそんなことは今はどうでもいいとして、ほかの部位も手ひどくやられていていたが、頭に関しての傷は完治していた。

 今の状態は瀕死には変わりないが、即死するほどではないモノにまで回復していた。

 

「ハハ、つっても……」

 背骨が、バッキバッキにやられたのか、グラグラと体が安定しない。立っていることさえこの状態じゃ奇跡じゃないか、これじゃまるでゾンビ見たいだと、自傷気味に鼻で笑った。なんだか知らないが酷く愉快な気分だった。

 けど、正直このままで殺り合うにはこちらが余りに分が悪い。つい弱気になり自分の腰に視線をずらすと、驚くことに一瞬自分の血で染まってしまったのかと、思うほど真っ赤に輝いていた。

(――使えってことか?)

 

 ちらりと仰いで見ると、

 鬼はまだ、僕の様子に唖然として動きはない。

 やるなら今しかない――隙を突き、僕は妖力の応用で本を引き抜いて本を開くのを同時に行った。

 瞬間、本から飛び出す夥しい量の文字、いや、もう文字とは言えない真っ黒なソレに眼を見張った。一瞬、驚きの余り反抗しようかと半歩、後ろに下がったが文字の追撃が容赦なく僕の体に巻きついてくる。鋭い痛み顔を顰めたが徐々に収まる痛みの箇所に眼を向けると、次第に体の欠損を補って行くのが見えた。

 

「――なっ!」

 鬼の襲撃の間もなく、ものの数秒で僕の体の修復はほぼ完了していた。

 弾け飛んだ腹部は黒い蠢く文字に埋められ、出血を抑えていて、それを確認するように触れると内臓と同じように脈動を繰り返して機能している事が分かる。

 両腕とも漆黒に染まり、体には折れた骨を押さえるように、それは添え木のような要領と一緒で、尚もその字の数々は僕の体に強化して行く。それに危機感を感じたのか、鬼は瞬時に地を蹴り上げ、轟音と共に振り上げた手刀を僕目掛けて振り下ろした。

 

 体を弓なりに反らし、全身と豪腕からなる素早い手刀は、正面からぶつかれば名高い名刀さえ、両断されるだろう。冷静に分析をしながら僕は能力で正確な間合いを計りながら通常では対応出来る筈のない間合いから動き出し、右腕を前に突き出して手刀を迎え撃った。

 衝撃(インパクト)の瞬間、手刀に因って巻き起こった風がかまいたちとなって僕の肩口を鋭く裂いたものの、受け止めた黒腕には傷一つ付いていなかった。

「くはっ!」

 

 足元から涌き立つような歓喜に従い、黒く染まった右腕を振り上げた。まさか力で押し負けるとは思わなかったのか、鬼は片腕を上げた状態で硬直し、がら空きの胴体に黒の一閃を描いた。

「ぐッ!」

 斜めに出来た傷跡から鮮血が吹き上がったが、傷の入りは浅かった。

 現に反撃の一手が僕を襲うのは傷跡を確認しているのと同時だった。一安心する間も無く迫った一撃は僕に回避する暇も与えずに、容易く柔腹を突き破った。

「……!」

 

 反射的に捩った身も意味を成さなかった。視線は動きを追うように、呆然と鬼から突き刺さった腕へ、それから滴る黒い液体へ移っていく。見えた範囲ではない、鬼が、唇の端を上げていると気づいた。

 身長差から持ち上げられた体に、反抗する術もなく自然と視線がかち合った。

 ――痛みのない腹部、恐怖から、それとも恐慌からか。僕はごくごく自然に、それがこの場では不自然な、壮絶な笑みを浮かべた。

 鬼の腕と僕の手が重なり、鬼の顔が歪むと同時に――。

「僕の勝ちだっ!」

 

 黒き指は無数の文字から為っていた。それは僕の力、つまりは妖力により成り立っている。気質の違う力同士、反発しあうそれ等を無理に相手に流し込んでさえしまえば、答えは簡単、内部破壊だ。

「弾けろォオオおお!」

 僕の掛け声ともに、突き刺した指から流れた妖力に因って鬼の肘から下がバラバラに弾け飛んだ。

「――オ――!!」

 鬼はそれに声にならない悲鳴を上げるも、流石鬼。激痛に怯まず、鍛え抜かれた肉体から為る中段の前蹴りを放ってきた。

 着地と同時に僕は左腕でそれを屈んで受け流すと瞬時に引いた右腕を鬼の胸目掛けて突き出し、心の臓を貫いた。それは鬼の中心であり、走馬灯のように浮かんだ記憶に僕は懐かしい感覚の中、呟いた。

「――ガ」

「……ストラーイク……!」

 顔に笑みを浮かべてそう言った瞬間。

 バン! 鬼の体はその下半身を地面に残し、上半身が弾け飛んだ。血や内臓は黒く染まり、その教科書のインクのような黒が僕の体に降り注いでいた。

 

 勝ったのか……? 倒したのに倒してないような、明瞭としない意識の中、やっと自分に掛かる黒い物を見てハッキリと勝ったと確信した時、言い表せられない達成感に拳を天に掲げる。

「よっしゃああ!」

 柄にもなく大はしゃぎして、今にも小躍りしそうな気持ちの中、僕は鬼の死体に背を向けて、都市に足を向けた。

 

 永琳は隕石が落ちてくると言った。そしてそれは多分全てを破壊し尽くしてしまうであろうほどの規模の物だろう。前の世界の地球のように長い長い冬眠期、スノーボールアースと言ったような氷河期が来るかもしれない。何より――

 

 

「ここの本が全て隕石でなくなっちゃうなんて勿体無いじゃないか」

 僕はそう言って都市内の本屋を散策、もとい強奪していた。ま、盗っても誰も困らないから別にいいよね。肉体的にも精神的にも疲れていたが、これに関しては別として苦に感じなかった。

 そもそも妖怪とは、自分の欲に忠実な生き物だ。その欲に従わないと、どうなるか……は身をもって知っている。僕はもうあんな事コリゴリだ。

 まぁ、僕が妖力を封じるなんてバカな事しなきゃこんな事には為らずに済んだはずなんだけどね……。

 次はもっとうまくやろう、とそんな事を反省しながら僕は本(主)の収納魔法の魔方陣に本をポイポイ入れていく。

 

 しかし自分でもビックリしたことに、妖力の総量が異常にあがっているのだ。もしかしたら封印していたせいで、妖力のポケットが広がったのかもしれない。分かりやすく言えば、やせ細った僕が伸びきった服を着るような感覚だ。しかし先ほどの鬼との戦闘で予想以上堪えたのか……大部分の妖力を使っていたらしくなんだか眠いし、体が重い。

 

「よしこれで最後、と」

 そう言って僕は本を閉じて一度満足げに空になった店内を見渡すと、足早に店内を後にし、あの洞窟向かった。

 まさか何百年も暮らしてきた洞窟にまた戻ってくるとは……。僕自身驚いているが、隕石を防げそうな場所なんてあそこ以外知らない、と言うより思い至らない。もしかしたら都市内にも核シェルターのような物があるかもしれないが、僕はそんな場所は少なくとも知らなかった。

 

 まあ、何百年も実験し続けて張り巡らされた魔法陣に、強化魔法の数々、耐久で言ったらすでに要塞レベルではなかろうか? たぶん核が来ても大丈夫なのではなかろうか……いや、さすがにそれは、汚染とかがあるから無理、だとしても兎に角、凄まじい耐久があるということだ。最後に永琳と過ごした家を見に行こうとして、止めた。

 僕が暴走して壊してしまったから、もう跡形もないだろう……。鬱にな気分になるのを堪え、トボトボと密林の中を進み、やっと目的地に着いた時には、既に夕暮れ時、僕はその底が見えない洞窟の入り口でもある穴の淵に文字を刻みながら、最後の仕上げにありったけの妖力と魔力を流し込んだ。

「……つっ……」

 それが完了すると不意に、倒れそうになるのを必死に堪え、穴に落ちるように洞窟に入った。

 最後に侵入者が居ないか確認――異常なしっと……ぁー流石にもう限界だ。

 

「お休み、なさぃ……」

 最後にそう主に言った瞬間、猛烈な睡魔に襲われて僕は意識を闇の中に落とした。

 

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