東方書録   作:鳥の番

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第6書 一時の時間

「お、落ち着いた?」

 僕は彼女が突然泣き出してから泣き止むまで、どうにか泣きさまそうと焦りながらもなんやら努力してから随分と経った今、大分落ち着いた息遣いになった頃にそう声を掛けた。

 彼女のの鼻を啜る音がする。こう言うのは少しばかり失礼かもしれないけど正直驚いた。

 

 初めて会った時、というのも僕を一緒にいる時は違ったが連れてこの屋敷に到着するまで間、ずっと無表情だったからもしかしたら冷徹な人か、それとも感情が冷めた、冷静沈着な人なのかと言う印象を持っていたのだが。

 ……こんな感情的な人だったとは思わなかった。

 僕を呼び止めた、引き止める理由は何なのかわからないけど。しかし何かと深い事情が彼女にもあるのかも知れない。それはさっきの話でも出た家柄の事もあるだろうし、それに仕事も相当大変だろうと余所者僕ぐらいでもそのくらい予想できる。

 だから初対面の僕がそれを深く追求する訳にも行かない。

 

 しかし昔はよくこうやって母親にあやされたものだ。今、自分がその逆の立場になろうとは……何だか考え深いなぁ。

 と、そんな物事に耽っていると。

「……ええ、ありがとう」

 まだ涙目の彼女は泣いた興奮のためか、目元を拭いながら上気した顔を僕に向けて何故だか礼を言われた。

「――っ、いや別に気にしなくてもいいですから」

 そう言って僕は彼女に気取られないくらいに目線を逸らした。いや、だって恥ずかしいし。

 

 と言うか僕は本当にこの人と一緒に住めるのだろうか? 啖呵を切った後ながら自分の覚悟が全くなかった責任のない言葉を言った事に、そんな不安と後悔が湧いてきた。

 こんな体だからか性欲と言っても微々たるモノで、襲おうなんて思わないし、て言うかそんな度胸も元からない。それよりももし襲ったとしても後のしっぺ返しのほうが怖いとか別にそんな理由じゃない。……ない。

 とにかく、不安な理由としては色々な経験が僕には無いからだ。

 そもそもそっち方面に疎い僕からしたら性欲に釣られて事を起こすなんぞエベレストの山を生身で登山するくらい――それも男女に限らず他人と一緒に住む何て言う事が僕としてはこれが初めての出来事である。

 

 前の世界での僕は暇さえあれば本、本、本と、恋愛のレすらないくらいに全くの無関係だった。

 というか縁がなかった。恋もした事もない、特に好きな女性も居なかった。ま、閉鎖的な生活をしていたものだからそれも当たり前かと思うんだけど。

 それに交友関係も同じで友人も指で数えられる程度で、親友と言ったら本くらい……。家を出るのも仕事に行くか、仕事場の図書館に行く位であった。言ってしまえば準、引き篭もりみたいな感じだったのだ。

 職場と言っても女性なんて一人も居なかっただけであって、こうやって面を向かって礼を言われるというシチュエーションには慣れていないもんだから一緒に居るだけでも凄まじく恥ずかしい。それも将来美女になると思われる(あくまで僕主観だけど)異性に言われたもんだから……まあ、最終的になにが言いたいかというと、僕には女性免疫が極端に低いと言う事だ。

 

「……?」

 いや、ですから顔が近いのですけども……少し僕の様子に気づいている感じだけど何だか不思議そうにしていた。と言うか体も近いって……分かってやっているのか、それとも天然なのかこの人は。

「え、あ、はい。すいません――って今すぐ離れますねっ」

 混乱する頭で何とか絞り出した言葉を吐いてさっと体を引いた。

「……ぁ」

 そう微かな音を洩らした彼女に僕は視線を向ける。

 何か僕が粗相をしたかと疑問を込めて顔を向けると彼女は慌てたように手をぶんぶん振りまして、なんでもないのと言ったのだが……なにがなんでもないんだろ? しかしそんな疑問よりも、どうやら彼女の振る舞い見る限り、少しばかり憑き物が落ちたと言った様子、僅かに弛緩した雰囲気に表情を緩ませながら元の位置に腰を下ろした。

 

「そうですか。そしたら僕はどこに住めばいいんですか?」

 お互いに腰を落ち着けるのを待った後、そう僕が聞くと彼女は一瞬訳が分からないと言った顔をした。

 まあ、まだ先の動揺でも残っているのだろう。そしてさっきはあんな事を考えたが、永琳と一緒に暮らす事は無いだろう。精々住むと言っても他の部屋か、最低でも物置くらいであれば僕としては十分なのだ。

 うんうん頷く僕を見る永琳はすぐに気を取り直したよう、なんでもないと言った声でトンでもないことを言い出した。

「なに言ってるの? 私の部屋に決まってるじゃない」

「は?」

 

 思わず、思考が止まって固まる僕。

 なにを言っているのだこの人は、それは最悪――というか彼女が言った事、それは僕が考えもしない答えだった。

 混乱する僕に対して何故か彼女は満足げな、実にいい考えだろ? と自慢顔をしているのが妙に腹立たしい。ていうかなんでさ!

 幾らそう言う事に疎い僕だとしても普通、男女と言ったら別々の部屋に泊まるのが普通だってくらい知っているし。しかもこの屋敷だ。

 部屋なんて廊下を歩いている時に幾つか見たし、これだけ騒いで誰も来ないのだから住んでいる人も永琳だけだろうし予想できる。なら何で? 訳が分からず其の侭言葉にして聞くと。

「ふーん、普通は男女別々なのね。まあ他所は他所、うちはうちよ。勿論理由はあるから少し落ち着きなさい」

 

 やはり先ほどの泣いた時の動揺が残っているらしい、常識という頭のネジが一本や二本抜け落ちたみたいだ。

 しかし、これをほっとくほど僕は人でなしではない。よし、これは一度衝撃を与えないとだめだなと、女性に手を上げることに若干の苦心を懐きながらも硬い決心を固めるかのように拳を握り締めて振り上げた――所で彼女に止められた。

 

 何だと睨むように見ると彼女は先ほどの泣き顔ではなく、悪戯が成功したような子供顔をしていた。明らかに冗談だと言ったその様子に、真面目に話を聞いていた僕としては若干むっとしながらも、ここは大人である僕が一歩身を引くことが大事だろうと話を促した。

 

「この屋敷には私以外住んでいないのだけれど、一週間に一度、本家の家政婦が来るのよ。表立ては普通の家政婦となっているけど、正確には私の監視が目的なのよ。そんな中で貴方が彼女と鉢合わせになったらどうなるか、分かるわね? 自分でも言うのもなんだけれども私は友人が少ないと自覚してるわ。だからこそ、そこで貴方と言う存在がばでもしたら……」

 

 そうつらつらと語る永琳だが、僕はあーそう、へぇー程度に流していた。

 

 だってただ子供が監視なんて――と永琳スッペクを知る僕が侮る事なんて出来ないにしろ、いきなり言われた家族からの監視があるんだ、なんてカミングアウト、突拍子も無い話をあ、そうなんだ、と素直に信じるほど、僕は人間は出来ていないし、受け取った言葉をそのまま鵜呑みにするほど純朴のつもりでもない。

 しかし全てを否定するのも僕としては気が引ける。というのも一部、その限りなく真相に近い部分を読み取ったからだ。

 言っておくが先の仕返しが出来るとか別にそんな事は考えていない。断じてない。

 

「あーなるほど、永琳は友達少なそうだもんね」

 だから僕は出来るだけ同情するように、意気揚々とそう言った。 

「――へぇ、そう見えるかしら?」

 

「うん。だって永琳って人から見たら鉄仮面被ってる見たいで無表情だし、無感情なんだもん。それに変に常識がないし、正直、今日と昨日のこの短い会話だけだったけど実はコミュ障なんじゃないかと疑った――く、らい……で?」

 さっきの仕返しとばかりにペラペラと喋る僕。ちらりと今どんな顔をしているかと見ると――見た瞬間から後悔した。

「へぇーそう見えるのね……」

「う、うん……だ、だからこれからは少し、気をつけたほうがいいかも……? ハ、ハハ」

 

 永琳の笑顔が怖い。目が笑っていない笑顔とは存外シュールである。何時の間にか乾いた喉から枯れた声が洩れ、お互いに空笑い一通り笑い合う。

 今すぐ逃げたい。どこへでもいいからこの場から一刻でも早く。

「さて、薬どこにやったかしら」

 そしてなにやら服をポケットを探る彼女、定期的に服用する薬でもあるのかな? 僕の予想では精神安定剤が妥当な所……いやもしかしたら頭が直るとかいうのもありかも。

「どこに言ったのかしら睡眠薬」

「眠らして何する気!?」

「――冗談よ」

「なにその最初の間? 出来れば断言してもらいたいんですけども?」

「大丈夫よ。しっかり致死量は入れておいてあげるから」

「だめ! それ僕が本当に永眠ちゃうから!」

「私が永眠……? 冗談にしてはつまらないわね」

 永琳が永眠って、何それ、今の状況でなくともそんなの少しも笑えないんだけど。というか。

「僕そんな事一言も言ってませんが!?」

 はぁと深いため息を一緒に流れ出してきた嫌な汗を拭った時、来訪者を知らせると思われる現代と似た、ピンポーと音が聞こえた。

 

「……ちっ」

「舌打ち!?」

 

 すると永琳は一度僕を牽制するかのように一瞥をくれるとめんどくさげに襖を開けて出て行ってしまった。

 助かった。そう思うと同時にここでも鐘の音は変わらないのかと、僕はそう実にどうでもいいことを考えていた。

 

「…………」

 

 しかし考えが途切れると途端に静かになった居間に僕は僅かな違和感を感じ、一人ちょこんと座っては思わず分からないその異変に首を捻った。

 暇だ……。耳を澄ませば微かに聞こえる音が耳に入るも、その音は小さすぎてあまり形にならず、内容まで把握は出来ない。そもそも盗み聞きなんてするつもりさえないのだからそれほど積極的に聞くつもりもなかった。

 屋敷内を散策したいが勝手にやっては失礼だろうし、何より先の話が本当だったら僕が見つかったりしたら大変な事になってしまう。

 結局の所、色々考えた結果、しょうがないので僕は一番無難な読書で時間を潰す事にした。

 

「ふふ」

 でも、久しぶりの人との会話、楽しかったな……。しみじみそう感想を懐き、一人読書に没頭する事で遅い時間の流れに身を任せた。

 

 

 空の頂上で光る太陽の下、雑に生えている低めの草木を掻き分けながら現在、僕と永琳は森の中を進んでいた。

 いきなり何を言っているんだと思うかもしれないが、兎に角。僕は今永琳と共に草木が生えた道とも言えない道を歩いていた。

 来訪者が帰ったあの後、いきなり言われた出かけると言う一言。極力人との接触は避けるようにと言われた傍からその的外れな言葉に僕はぽかーんとした訳だがそれは今はどうでもいいとして。

 

 出かける、と言うのも誰しもが、そして僕自身が想像していたモノとは違って、都市内にではなくただの外への外出だった。

 それならそれで疑問が湧く訳で、なんで外に出るんだ質問したところ、どうやら永淋が実験に使う多くの薬草のほか、原料が都市内で手に入れられないためにこうやって定期的にそれを補充する為に外に出ているらしかった。

 

 一般的(?)では多くの人は外に必要なモノがあった場合、警備隊に使いの依頼を出すらしいのだが、なぜか永淋はそれをしないと、僕視点だからかもしれないが自慢げに言っていたように思える。

 何だか期待するような視線に耐え切れず、溜息混じりにそれを聞くと本人曰く、自分で見て取ったほうが品質のいい物が取れるし、何より場所が場所なので警備隊での大所帯で行く場合にしては危険だそうだ。

 ……まぁ、要はただの自慢したかっただけと。

 

「永琳、左手から23メートル先、妖怪が一匹」

 ハンドサインを交え、ある一角を指して僕がそう言う。

「了解」

 つがえた弓がキリキリと唸り、そこに添えられた矢が不思議な光が包み始める。

 

 で、それを聞いて当然の如く僕が思ったことがある。

 そんな場所に二人で行っても大丈夫なんだろうか? そう内心不安を抱きながらも来て見れば、あの自信も強ち嘘ではなく、僕の考え、今になってはそれはまさに杞憂だったとしか言いようがない。

「――ハッ!」 

 

 まず僕が能力を使用し、周囲の妖怪との距離を計る。

 近づいてこない限りは出来るだけスルー、または遠回りに迂回して避ける。もし襲ってきそうなモノがいたならば先のように永琳に場所を伝える。

 そして相手がこちらに気づき、近づいてきたところに攻撃を加えられない距離から永琳から放たれる霊力が篭った矢で打ち抜かれる寸法、と言う訳なのだけれど。

 

『シャッ――キ、ギギギイィ!』

 今も此方に獣の妖怪が茂みから飛び出してきたところで、弓から放たれた矢に因って妖怪の頭を正確に打ち抜かれ、その体が木に張り付けになった。最後に上げた断末魔の悲鳴とまだ力なくカクカクと動いている四肢が実に哀れさを誘う。

「ふぅー……」

 

 それはもう永琳の腕前は僕の予想以上だった、正直見ているこっちが怖いくらいである。

「さぁ行きましょう?」

「あ、うん」

 

 まるで流れ作業のように、射って、射って、ずんずん進んでいく永琳の背中に内心慄きながら僕も連れられるかのようについて行く。

 そこでふと気になったこと、先までに上げられた断末魔で周囲の妖怪が散ったのか。漸く妖怪の気配が消えた事で気紛れをかねて隣の彼女に湧いた疑問を口にした。

 

「そういえば永琳、都市側でつい最近で妖怪になにかした?」

「いえ、特にそう言った報告は受けてはいないけれども……」

「どんな小さい事でもいいんだけど……本当に何もないの?」

「……何か気になることでも?」

 

 ちらりと僕を見る彼女の表情を窺うも特に嘘を言ってる様子はない、だとすると……。

「貴方の能力、間合いを計る程度の能力って言ったかしら? 今は探知に使用しているみたいけど何か、見つかったの?」

 思案する素振りを見せるとすぐそう口にした彼女の声には僅かな不安の色が混じっていた。

 

「いや、別にそうゆう訳じゃないんだけど、ね。ほら僕が前まで洞穴に住んでたって言ったでしょ? そこから出来て来た理由が上の妖怪が騒がしかった、と言うものだったからさ。何も無いんだったらいんだけど。

 ……それでも、それなら何でこん何も妖怪が少ないんだろねぇ……」

 出来るだけ安心させようとそう言い、尾が付いた最後の一言は思わず考えから出ていたものだ。彼女は僕の言葉に僅かに頬を緩ませたが僕はどうも嫌な予感めいたものを感じていた。

 

 上の騒ぎ、それは始めは妖怪を駆逐しようとする人間が原因だろうと当たりを付けていたのだが、彼女の言葉が真相なのであればそれはハズレ。この異変も特に理由がないのであれば越した事はないがどうしてか気になった。

 今もこの周辺には今みたいな雑魚妖怪しか居らず、そしてなぜか中級妖怪、大妖怪とも言われるほどの強者達の間合いを計ろうとも、近くにいないのか反応がまったくない。

 

 ちなみにだが、僕の能力射程は全力で計りさえすれば約数キロまであるのだから、この妖怪の少なさは洞窟に引き篭もっていた僕でさえ分かるほどの、正直異常と言える事態だった。

 洞穴に居た時に感じていた妖怪の気配がほとんど感じない。普通ではあれば幸運と考えるかも知れないが大体の位置が把握できる僕からしたら何かの前兆では? とどうしても勘ぐってしまう。……妖怪は縄張り意識が強い生き物だ。それらがそれを放棄してまでどこに行ったのか。

 

「判らないわ。確かに前来た時より随分と少なく感じるけど、それは貴方が妖怪を避けてくれているからとも考えられるし、私の判断は当てにはならないわよ? ――思いつくとすれば偶々、妖怪同士で大きな争いが遭って共倒れ……って事くらいかしらねぇ……」

 ふむ、たしかに彼女の意見も一理ある。

 そもそも妖怪は本能に純粋だ。戦いたくなったら近くにいた生き物に喧嘩を売るし、腹が減ったならそれを満たすまで止まらない。それ故に、妖怪は純粋で、個々それぞれ元来我が強い、そう書いてあった。

 もしかしたら今のこの現状もその気まぐれの一つ、なのかもしれない。

 

 しかし妖怪同士の争いか――そう言えば少し前の話だが、僕が何時ものように読書に興じていた時に突如、上から大きな妖力を感じた。もしかしたらそれが原因なのかもしれない。

 

「むむむ」

 考えを出そうにも材料が少なすぎる。そう何時までも答えが出ない問を重ねていると、肩に触れる手に気がついた。どうやら目的地に着いたらしく、永琳は僕に「見張りよろしくね」と一声かけると早速、僕から見たらただの草にしか見えないモノを手提げのカバンに詰めていく。

 

 警戒する僕と違ってその手早く材料を採取する様子は、僕に図太い神経の持ち主だ。と感想を抱かせた。勿論言ったら何をされるのかわかったもんではないので口にはしないが。

 

 しかし、ここまで来てしまえば今更後戻りなんて儲けのない、疲労が溜まっただけのそれこそくたびれもうけと言うものだ。意味のない事この上ない。

 それならば僕の役割と言えば周囲の警戒だけ、それくらい真面目にやってやるさ、どうせあとは帰りは来た道を帰るだけなのだから。

 

 まだ危険はあるかもしれないにしろ、一度は通った道なのだからそれほどでもない……と思う。

「あーっ……もうめんどくさいなー」

 途端に考えるのが面倒になった。纏まらない思考にイライラして先まで考えた考えを手放し、手頃な木に背を預けて目を瞑り、暫くの間、彼女が草を毟る音を耳で聞いていた。

 

 

「さ、帰りましょう」

「んー……了解」

 それほど長い時間ではなかったがあまり体を動かさずにいた凝った体を伸ばしながら背中の木から体を離す。日の光を浴びて気だるくなった体で立ち上がり、服についた着いた土ぼこりを払う。

 あれから数十分経った頃、薬草が入った手提げを携えた彼女がいつの間にか僕の前に立ち、一つの影を落としていた。

 それを見て僕は僅かに落胆する。

 この体の小ささはなんとかならないだろうか……。そう切実に願うも、今も背をピンと伸ばしても彼女の肩に頭が届くどうか、我ながら情けなくなる。

「どうしたの?」

「何でもないです、はい」

 

 もしかしたら身長で言ったら140無いのではないのだろうか……。今更だろうがそんな絶望感にうちひがれつつ、能力を使用し妖怪サーチ、うん異常なし。

「なら行きましょう」

 そう言う彼女はなぜかこちらに手を差し出す。

 訳がわからず彼女の顔を見るとやれやれと行った様子、それを頭に? を浮かべ見ているとぱっと僕の手を取り歩き出す。

「え? は?」

 それを呆然と、成されるままひきづれるように既に歩き出している彼女の横顔を見上げると、やはり少し気恥ずかしいのか、少し顔が赤い。恥ずかしいならやらなきゃいいのに……。

 そう思いながらも僕としては別段嫌ではないのだから拒否することもないだろうと、悪戯心からこちらからも手に力を少し込めて見た。

「――っ」

 

 驚いてびくっとする彼女の肩を見て笑いが込み上げて来たがばれたらどうなるかわからないし、焦る様子を茶化すのもいいが、ここはニヤニヤと緩む口元を手で覆うまでにおさめ、経路の道を進み始めた。

 

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