東方書録   作:鳥の番

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 キリが良かったから切っては見たが予想通り、全く話は進まなかったが私はまったく反省はしていない!
 マジですいません。はい、今度からもう少し早く投稿出来るようにします。


第9書 豆腐だから仕方ない

 

「そっか……。

 ……少し、考える時間貰ってもいいかな」

「そう、よね……一生に関わる事だもんね」

 宇宙(そら)に行くと言う告白に玲は少なからずの動揺、着いて来てほしいと言う願いに戸惑いを覚えた。

 僕が行ってどうする? 素朴な疑問が首を絞めるように思わず息が詰まりそうになった。

 今の生活は、彼にとって満足か否か。答えは簡単、否だった。

 外に自由に出れない。幾ら本が好きだとしても彼にも限度と言うものがある。下手すと一生、それでなくとも長い時間閉鎖された空間で過ごすことは彼にも容易に想像出来た。

 

 もしも月に行くとして、果たしてそれは今の不満を解消するに足りるのだろうか?

 ――そもそも、僕の不満って?

 

 気づけば、期限の先延ばしの口上を述べていた事に玲は言った瞬間後悔した。

 隣に居た永琳の顔が今にも泣きそうなほど歪み、すぐに取り繕った笑みを浮かべた事に胸を打つ様な痛みを感じ、言葉に詰まった。

 

「え……ッ」

 慰める。と言うにはこの場合は少し違うと感じて考え直した。ならなんと声をかければいいのか、思い浮かばず心の中で地団駄を踏みたい気分だった。

 長く生きていると言っても、人生経験で言えばそれほど苦労した記憶がない。人と関わらない生活をして来た彼では咄嗟に出る気まぎれな、この重くなりつつある空気を紛らわす台詞が言える筈もなく、飲み込んだ呼吸を最後に。それ以降、逃げと知りながらも落ち始めた夕焼けで燃える都市視界を固定させたのだった。

 

「…………」

 その後、会話がなくなった二人の間には重い空気と、太陽が沈み切った夕闇の風景の如く沈鬱した気分と共に訪れた冷えた夜風急かされて帰宅を余儀なくされた。

 

『……』

 暗くなった道を歩く間でお互いに言葉を掛けないのは話題がないという訳ではなく、永琳は玲の思案を邪魔させないがための気遣いからあえて口を慎んでいたからだった。

 それが社交的な場であれば、気心知れた中でも優とされる判断だったかもしれないがこの場合、それは悪循環でしかなく、玲は永琳の沈黙を悪い意味で受け取っていた。

 それ故に、玲も永琳に倣って話に触れず、ただ黙々と沈黙を守っていた。

 

 重苦しい空気の中、玲は帰路を辿る途中で見た都市は、昼間に見た輝いていた筈の都市の記憶は急速に色褪せ、都市の夜景は邪悪な、嫌悪感とも似た想いを彷彿させ、ぎこちない動きで目を逸らした。

 

 

 嗅ぎ慣れた匂いを感じて彼は重くもないドアをゆっくりと引き開けた。壁どころか空気に染み付いた薬品の香りにもう見慣れてしまったビンや管が並べられてるテーブルにちらりと目を向けて、彼はふとため息を吐いた。

 昨日今日と睡眠を取って日中行動したと言っても疲労が溜まるものではなかったのだが、玲は導かれるようにベットへと倒れ込んだ。体に取り付いた重圧も、ベットの上では脱力させて無駄に力が入っていた全身から力を抜いて行くと、重く圧し掛かってくる瞼に耐えながら彼は先までの出来事に思い浮かべた。

 主な疲労の理由、それは彼へ対する永琳の度を越えた気遣いから来るものだった。

 

『今日は私が料理をするから玲は居間でゆっくりしてて頂戴』

 厳密に、料理当番のルールなんて事を決めている訳ではないだから、特に反論などはなかった玲だったが、せめて料理が何らかの気紛れなればと思ってその時は口出しをしなかった。少なからずの違和感を感じていながらも。

 そしてそれはすぐ、確信に変わった。

『美味しいかしら?』

『足りなかったら何時でも言って頂戴ね?』

『食器、ついでに下げちゃうわね』

『お茶どうぞ。それと余ってた奴のお菓子、食べるよね?』

「あ、ああうん」

 

 彼がアクションを起す毎に、永琳の気遣いの声が掛けられた。

 彼女は食事をしながらも、視線は一挙一動見逃さないと玲を見据えていた。

 

 既に予感が確信に変わっていた彼は、次第にぎこちなくなりながらも他愛もない返答をし、何とか流していた。その中で聞いた話では宇宙に行くのは一ヶ月後。

 彼女の心遣いが、残された30日後へ対する不安を紛らわす事から来るものなのかも知れない、と。この時ばかりは半分以上ハッキリしない自分が悪いと首を下に折ったが。

 

「それでも……いくらなんでも風呂にまで入って来るなんて度が過ぎてるよ……」

 どうやら行き過ぎた気遣いは、彼女に暴走とも思われる行動を取らせてしまったらしい。

 シャワーの途中に乱入して来た思わぬ侵入者に、逆とはいえ甲高い悲鳴を上げたのは、彼のことを思うと致し方ないことであろう。バスタオルを巻いているとは言え、抱いた腕に力が篭りすぎて押し上げられた胸元に、惜しげもなく出された四肢から連なる健康的な鎖骨から漂う色香は些か、湯の蒸気と相まって危険すぎるレベルまで高まっていた。

 そこから目も開かずに脱兎の如く逃げた彼を褒めるとは言わぬが責められる言われはどこにもないだろう。

 

 そして現在、逃げるように部屋で縮こまって居る訳なのだが、実に失念していた事に、ここは彼女の部屋でもあるのだ。ある意味当然の来訪だった。パッと点いた明かりに彼は瞼を薄く延ばした。

「……れい」

 控えめな声に彼は転がって視線を合わせることで反応を見せた。

 彼の振る舞いから表情を見る限り、不機嫌だと永琳は鋭敏に感じ取った。

「ごめんなさい……」

「……まったくだよ。ほんと、いきなり入って来るなんて……びっくりしたんだからね……」

 これだけの会話を聞いてしまうと、どちらが男なのかと思ってしまうが彼は間違いなく男性である。

「いきな「いきなりじゃなくても駄目だからね」……あ、当たり前じゃない。それに別にそんなこと言おうとしてないのだけれど」

「独り言ですから、それで? いきな……何かな?」

 

 玲は人の悪い笑みで芝居掛かった様子で首を傾げた。永琳に残された選択は、浮かばない考えに視線を宙に彷徨わせてこれ以上彼の怒りに油を注がない事だけだった。

「……まぁ、過ぎた事なんだからもういいんだけど」

 永琳の様子を見て、これ以上の言及は必要ないと考えて玲は終了の合図を出した。口調は柔らかいものだったのだが若干、やはり投げやりな感じだと永琳は感じ取った。

 

 自分でもやり過ぎた行動に罪悪感がまだ残っていたが、気を取り直して、神妙な顔立ちで逸らしていた目線を彼に合わせ、玲は何だかわからない展開に目を数回瞬かせた。

「今日は、一緒に眠ら、ない? ほら、明日からまた仕事で……当分帰ってこれなさそうだから……」

 一生懸命、彼女なりの精一杯の勇気を出して言ったのだろう。

「うん、別にいいけど?」

 

 彼は特に疑問も懐いた様子もなく、彼女が妙に緊張している事にも気づかずに即決に頷いた。まさか通ると思わなかったのか、永琳は呆然と彼を見つめた後、

「じゃ、じゃあ早速寝ましょうか!」

「何だか気合が入ってるみたいだけどちょっと待っててよ。僕にも用意ってものがあるんだから」

 彼の思わぬ積極的な言葉に彼女は戸惑いを浮かべながらも嬉しさからか、照れ笑いが隠せずににやにやとした笑みがパッと見だけで彼からも窺えた。玲は「?」と思いながらもベットから飛び降りた(残念な事に身長的には飛び降りたが正確だった為)。

「そ、そうよね……い、色々と……よ、ういが……?」

 

 しかしベットから降りた後、彼は何故か床に布団を敷き始めた。丁寧に毛布を被せて枕を膨らませて満足げに頷き、固まっている永琳に顔を向けた。

「昨日も寝たはずなのに何だか妙に眠たくてねー。どうせ明日も家出るの早いんでしょ? ならさっさと寝ちゃおうよ」

 光源の光度を極力下げた後、彼は一人――自分で敷いた布団に潜ったのだが、未だ動かずにいる彼女を疑問顔で見上げた。

 

「……どうしたの?」

 幸か不幸か、形相が浮かんでいるであろう彼女の表情は弱まった光の明暗で玲には見えなかった。体が小刻みに震えているのは怒りからか、はたまた違う何かからか。

 彼には全くわからなかった訳であるが、暫しの沈黙の後、怒りの鉄槌が振り落とされた。

「はえ? ――イタッ! な、なに!? いきなりどうしたの!?」

「うるさいうるさいー! また知っててからかってたんでしょ!? ええ騙されましたとも! どう? 満足!?」

 この状況、理不尽と言えばそうでもあるのだが彼の言動がそもそもの原因なのだ。彼には全くわかっていないだろうが。

 半狂乱に、我武者羅に振られた手足を玲は布団に潜りながら凌いでいた。

「ちょ、何言ってるかわからな」

「もういい!」

 はあはあと息を切らして煮え切らない面持ちのまま、止めとばかりに彼を踏んづけて跨ぐ様にベットに横になると乱暴に布を被って沈黙した。

 

「えーりん……?」

 情けない事に玲が布団から顔を出してそう呼びかけたのは、彼女が静かな寝息を立て始めた頃だった。当然、返事なんて返って来るはずもない。

 混乱から頻りに視界を移動させていると、彼女の寝顔が見えた。しかし注目するべき所はそこではなく、目から流れた涙が道となった跡を見つけ、訳が分からずとも彼は痛まれない気持ちになった。

 考えに思い悩んでもそれでも出てこない答えに、玲は数時間のあいだ永琳の怒りように頭を悩ませ、理由が分からずに途方に暮れたのだった。

 

 ◆

 

 ガラガラ……タン。

 広い通路を反響して寝室まで届いたドアの閉鎖音で僕は目覚めた。今日は湿度でも高いのか、重苦しい空気で上半身だけで起き上がると重圧が肩に乗りかかったように、どうも息苦しさを感じた。

「……結局、少しも寝れなかったな……」

 それは快眠出来ない不快感から来るものなのか。それとも、恵みの光を塞ぐ曇天が僕の心と一緒に気分まで塞ぎこませているのか。よく、分からなかった。

 気分は悪かったが二度寝する気分でもない。そもそも、僕には睡眠が必要ないのだから睡眠を取る、と言うのは可笑しいのだが、今はそんな事はどうでもいい。

 

 首を下に向け、見てみると、やはりと言うべきか。半分……とまでは行かないが些か魔力が不足気味だった。体の不調も主にこれが原因だろうか?

「だる……」

 昨日は少しハシャギ過ぎたかもしれない、と多用した透過の術に反省を懐きつつ、一先ず居間へ向かおうと部屋を出た。

 居間に着くとやはりと言うべきか、既に永琳は出て行った後だったらしい。その証として布が被せられた朝食がテーブルの上に置かれていた。

 ……と言う事はさっきの音は丁度出て行った時の音か、と独り言に呟いてとりあえずは用意されたご飯に手を付け始めた。

 

 どうせなら起してくれればいいのに、と思ったりもしたが昨夜の様子では無理もないかと内心辟易した。

 しかし前の日の事を引きずるほど、彼女が小心者ではないと思ってる僕としてはなんだかなあ、と遣る瀬無さを隠せずにいた。

 そうすると、やはり理由はあの告白だろうとアタリを付けて見たりもしたが、真偽に関しては怪しいところだ。だけど他に何かあったか? と考えるとやっぱりそれしか思い浮かばないのだからおおむね当たりなのかもしれん。

 

「うむ~よく分からんなぁ……」

 安定しない思考、この感じだと寝ボケがまだ残っているようで、さっさと食事を片付けて仕舞おうと思ったが、考えと反して食があまり進まない。

 やっぱり、体調が悪いのかも知れない。そう言えば最近から体調が優れなかったっけ、そう考えた僕はフォークを置いて早々に食べかけの物に布で覆って寝室に戻った。

 

 で、

「つっても読書するにしても――気分じゃないんだよなぁ……」

 敷かれた布団を畳みなおす事もなくごろりとなりながら、僕は全力でだれていた。

 気分じゃない、と言うのもそもそも僕は気分屋な所があったなと今更ながらも再認識をしても、やはり動くこと事態に今だけは積極的になれなかった。

 頭がハッキリしてやっと分かった事だが、僕は現在進行形で悩みを抱えている。

 

「うちゅうか、一度は言ってみたいと思った事はない事もないけど……ぶっちゃけ写真だけで満足だしなぁ」

 発言が発言なだけに、その道に携わった人に聞かれてしまえば切れられても不思議ではない台詞だが、それでも僕としては考えを改めるつもりはなく、本での知識と映像か写真さえあれば十分満足してしまう性質(たち)であった。

 性格言えば修学旅行でカメラを持たない人間、と言ったところだろうか。我ながら的確な表現だと思う。

 

「……だったら何を悩んでるんだよ、僕は」

 呟きの理由(わけ)は本当は分かっている。

 今まで気づかないフリをして来たのが、今回は今になっておつりを付けて、ついでに利子までもついて押し寄せて来ただけのこと。

 見て見ぬふりが出来た過去は既に過ぎ去り、向き直らなければならない現実が目前にまで迫っているのだ。

「やべぇ……就職活動思い出した……」

 とうの昔の記憶に今だ色濃く脳裏に残る黒歴史(トラウマ)を思わず思い浮かべてしまった僕は硬直の後、苦しげに息を吐いた。心なしか動悸もワンテンポ激しくなったような気がする。

 どうして独り言なのに、こんなにも言葉にする事が、自覚すると言う事が怖いのか。人は、そう言う風に出来ているとでも言うのか。人じゃないけど、やはり未だに慣れない内臓を締め付けられるこの感覚は人特有物だと、未だに僕が人間から離れなれないなと強く思い至った。

 

「僕は、永琳が好きなんだろうなぁ……」

 だから、しみじみと吐き出した言葉と共に気絶したのは、少し見逃してほしい僕の新しい歴史だったりする。

 

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