ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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長らく、大変長らくお待たせしました!


ほぼ十ヶ月ぶりとなりますが、楽しんでいただけると嬉しいです!


三冥将

 

 

 

 

 軍議場が動揺に揺れる。

 

 

 

 ライオットがもたらした一つの可能性は、元より圧倒的な暗黒軍を前に瀬戸際で士気を保っていた面々を容易に不安に陥れる。

 

 ふむ、とベルクーリが顎鬚をさすりながら温厚とは呼べぬ眼差しを向けた。

 

「軍勢、ね。そいつはちっと大袈裟じゃねえか?」

「伝承では、奴は闇の神の降臨と共に目覚めを始める。そして実際に皇帝が暗黒界に現れた今、ロヴィナもまた力を増している可能性はあると俺は見ています」

「なるほどな。神話に基づく仮説というわけだ。だが、根拠としちゃ弱いな」

 

 ベルクーリの眼差しには推し量る色があった。

 

 それはライオットという男が、騎士の中でも一二を争う勇猛さでありながら、同じほどに思慮深いことを知っているからだ。

 

 軽々にこのような発言を現状でするはずはない。何かもっと具体的な背景があるはずだと判断した。

 

 

 

 ライオットは、微かに考えるそぶりをすると口を開く。

 

「……カーディナル様。これから話すことを、ここにいる者のみのものとする許可を。そうでなければ要らぬ混乱を起こす」

「うむ、よかろう。全員に箝口令を敷く。ライオットの語る一言一句、その胸の内に秘めるものと心得よ」

 

 朗々と賢者が命ずれば、緊張の面持ちで全員が胸に手を当てた。

 

 これで善し。カーディナルに目配せを送られ、いよいよ騎士は重々しく口を開く。

 

「ルーリッドに経つ前のことです。俺は僅かな未練からルークを元に戻す手立てを探し、ペーリッシュの部屋を改めました」

「ほう? 彼奴の部屋をか。今更何が残っていたとも思えぬが」

 

 アドミニストレータが斃れて後、ペーリッシュの件を報告されたカーディナルは優先的にかの者の居室を騎士達に調べさせた。

 

 片眉を上げた彼女に、しかしライオットはかぶりを横に振った。

 

「いいえ、あったのです。ただ一つ、このアンダーワールド全てを記した地図が、絡繰と術によって壁の内に埋め込まれていました」

「地図、じゃと……? そんな大仰なもの、誰も見つけられぬわけが……」

 

 ハッと賢者が悟る。

 

 そうして隣に佇む従僕を見上げると、彼もまた張り詰めた面持ちで主人のことを見返した。

 

「まさか、改竄か……!? 部屋の極一部にのみ、集中的にデータの隠蔽を……!」

「かの厄災もまた、我が身と同じく世界の理。その程度は容易かった、ということでしょう」

 

 カセドラルは全て、アドミニストレータが作り上げた被造物である。

 

 最高位の権限を用いて作られたそれは構築する全てが膨大な天命と優先度を有しており、並大抵の力では壁の模様一つ変えることもままならない。

 

 女神の写し身たるカーディナルを除き、誰にも変えられず、侵すことのできぬ不変の塔だ。

 

 

 

 一体誰が考えようか。 

 

 ペーリッシュが世界の破壊者に相応しい権限を用いて、己の居室のデータを書き換え隠蔽していた──などと。

 

 ソルスが夜明けと共に昇ることを疑うのと同義だ。調査した誰一人とて思いつかずとも罪には問えない。

 

「ライオット。お主はどうして見つけ出すことができた?」

「経験に基づく勘に従ったまで、としか。似たようなことをしたことがあったのが幸いしました」

 

 肩を竦めたライオットを見て、ルークはその腕に装着された手甲に目線を吸い寄せられた。

 

 スワロウの分館へ秘密裏に渡っていた彼にこそ解き明かせたのだろう、と密かに納得する。

 

「その巧妙に秘された地図には、何が?」

「〝(みち)〟です。()()()()()()()()()()()()が、そこには記されていました」

 

 カーディナル達の顔が強張る。地図に刻まれた字を脳裏に浮かべ、ライオットは淡々と告げた。

 

 

 

 それは、光の届かぬ冥府に至らんばかりの、地中深くに張り巡らされた空洞。

 

 

 

 それは、渡り切るまでには水竜ですら力尽きるだろう、暗黒界の外れから壁の内にまで繋がる長い水底の抜け穴。

 

 

 

 凡そ並みの生物では生きて渡ることさえ叶わぬであろう、尋常ならざる隠れ路。

 

「共に神聖文字により、〝崩壊と共に〟──という一言も」

 

 静まり返った議場の中で、ひゅっと息を飲む音がする。ルークはそれが自分の漏らしたものか、判別がつかなかった。

 

 ただ、カーディナルが微かに震える声音で問いかけるのを見つめていて。

 

「……その路の規模は、如何程じゃ?」

「記述によれば、連隊規模までなら容易く」

 

 そんなものを何故、神話の怪物の傀儡たる使者が用意していたのか。

 

 

 

 真実は明白……かの者は備えていたのだ。

 

 支配を悦びとする女神の傍らで人の皮を被り、じわりじわりと人界を己に相応しく腐敗させ、その力を削ぎながら。

 

 いつしか予定調和の滅びが訪れた時、白亜の円環を真紅の絶望に染め上げんと企てを巡らせていた。

 

 

 

「──なんという、執念」

 

 

 

 たまらず誰かが囁いた、恐怖に塗れた一言。

 

 仮に全身を這い回るような暗い感情を言い表すのならば、それが最も近かったのだろう。

 

「奴がベクタが出現したことにより、生み出せる分身の数をどれほど増したのかはわかりません。百か、千か。だが、あれが単なる絵空事とは俺には思えない」

「……同感じゃ。これは最優先で対応する必要がある。ライオット、正確な場所と数を覚えておるか」

「無論です」

「よろしければこちらを」

「助かる」

 

 スワロウが差し出した筆を受け取り、地図の前に歩み出たライオットは侵入路を書き込んだ。

 

「俺が確認したのは、この三箇所。後は不向きと判断したか、あるいは年月の経過で使えなくなったか。全て破棄されていました」

「西の火山地帯、溶岩の流れる地下空洞と、南の樹海の奥深く。それに……」

「東の大平原にある湖の底穴、か」

 

 示された地点は暗黒軍が全戦力を投入するだろう《東の大門》とは離れた場所ばかり。

 

「狡猾な野郎だ。もしライオットが気づいてなけりゃ、こりゃおっ始めた途端に後ろから心の臓をグサリだぞ」

 

 人界軍を背後から強襲することも、無視して都に侵攻することもできる。

 

 一体でも最強の騎士が苦戦する存在だ。軍を成せば、いかに自己保身に走った貴族達が手元に独自の戦力を有していようと蟻を踏み潰すようなものだろう。

 

 そして己を守る力もない民は……もはや、考えるまでもない。

 

「至急、人界中の〝目〟をこれらの場所に集中させよう」

 

 すぐさま自分の目であり耳である者達に、移動と監視を開始するよう命令を送るカーディナル。

 

「……これで良い。少なくとも、知らぬ間に入り込まれる確率は低くなったであろう」

「さて。となると問題は一つだな」

 

 目を閉じた彼女を見たベルクーリは、重苦しい口調で呟いた。

 

 

 

「万が一、ロヴィナの分身が現れた時──()()()()()、だ」

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 ──同時刻。

 

 

 

 暗黒軍最奥、暗黒神の玉座にて。

 

「──それで。用向きとは何だ」

 

 肘かけに頬杖をつき、〝ベクタ〟としての威厳を纏うガブリエルは眼前の女を見下ろす。

 

 闇の民であれば竦み上がるだろう問いかけに応えるよう、黒衣の麗女──ペーリッシュの口より、クッと笑いが溢れた。

 

「いや、何。そろそろ貴様との約定を果たす頃合いだと感じてな」

「ああ、貴様の軍勢がどうという話か」

「そうだ。ああ! これを忘れていたな。わざわざ私めの些事の為に、このような場を設けていただき感謝いたします。コウテイヘイカ?」

 

 なんともわざとらしい口調、仕草で慇懃に礼をされる。

 

 ガブリエルは僅かに目を細めた。

 

 一方で、万一の有事の際を考慮してその場に置かれているヴァサゴが強調された臀部に小さな口笛を飛ばす。

 

「……なるほどな。玉座の周辺から軍を退かせたのは、貴様の軍を呼び込む為というわけか」

「理解が早くて助かる。奴らでは我が写し身達を前に、逃げ惑うより先に恐怖で使い物にならなくなるやもしれんからな」

「大層なことだ」

 

 このアンダーワールドで竜というモンスターが、強力な存在として設定されている事は既に知っている。

 

 これまでの言動からこの女は己の力に余程の自信があるようだが、さて。実際はどれ程かとガブリエルは思案した。

 

「よかろう。では連れてくるがいい」

 

 クッ、と。持ち上がったペーリッシュの口端が三日月を描く。

 

 ゆるりとその愉快げな顔を皇帝に晒した使者は、両腕を広げると声高に宣言した。

 

「では、ご覧に入れよう。世界を喰み、滅ぼす──覇者の力をな」

 

 世界にその言葉が開放された、刹那のこと。

 

 

 

 どこからともなく、空にぽつりと黒点が現れた。

 

 

 

 目を凝らさねば見落とすほどのそれは瞬く間に膨れ上がると、漆黒の暗雲と化して暗黒軍駐屯地を覆っていく。

 

 遠ざけた闇の民達のざわめく声が、玉座まで届いた。

 

 されどガブリエルは尚も硝子色の瞳で、暗雲に金色の雷鳴が轟くのを一言も発さずに見つめている。

 

 

 

 グルル……

 

 

 

 暗雲の中に、雷鳴とは異なる呻きが混じる。

 

 ズルリと、雷光とは異なる不気味な黄金に輝く、鱗に包まれた腕が幾つも黒雲から突き出された。

 

 それらは迷いなく雲を掴み、その身を引き上げる。

 

 

 

 ガギュア! 

 

 

 

 現れたのは、無数の異形。

 

 竜を人の形、大きさに歪ませたようなこの世ならざる肉体は、見るものを畏怖させる逆立つ輝きに覆われていた。

 

 爛々と輝く眼に瞳は無く、知性や理性もまた有しているとは感じさせない。

 

「ほう……」

 

 獣性。獣の本性を曝け出したその姿に、感心の声が漏れる。

 

 次々と溢れ返る異形らの、ある一部は襤褸のような翼を広げて降り立ち、またそれ以外は地に落ちた。

 

 天に渦巻き赤き空に蓋を被せ、闇の民を退けた地を埋め尽くす、それはまさに昏き黄金の影。

 

「我が分身、二万。そして──」

 

 その内より、三体の獣が玉座の前へと舞い降り、あるいは歩み出て跪く。

 

 

 

「《冥翼ノ竜》、ココニ」

 

 

 

 一体は、オーガ族に匹敵する細い長身を六枚三対の翼で包み込んだ異形。

 

 

 

「……《冥怪ノ竜》。ココニ……」

 

 

 

 一体は、ジャイアント族に迫る剛体を真紅の装飾具で彩り、薄布で顔を隠した異形。

 

 

 

「《冥角ノ竜》。此処ニ」

 

 

 

 そして一体は、ペーリッシュの瞳を彷彿とさせる血塗れの一本角を備えた、鎧を纏う異形。

 

 

 

「「「我ラ、《三冥将》。闇ノ神ノ御意志ガママニ、遍ク命ニ滅ビヲ齎サン」」」

 

 

 

 奇怪な声を揃え奏上する、その姿。

 

 

 

(──強い。あの諸侯達に匹敵、いやそれ以上か)

 

 

 

 ガブリエルは一目で見抜く。

 

 この《三冥将》と名乗った者達が、ただ言葉を解するだけではなく、尋常ならざる戦力であることを。

 

 他の一般兵卒にしても、一体一体がこの世界で上位の能力値(ステータス)を持つことを感じ取った。これもスーパーアカウント《ベクタ》に備わった力だろうか。

 

「此奴らが、貴様にくれてやる〝見返り〟だ」

「──よかろう。お前の()()、確と受け取った」

「ありがたき幸せ、と言っておこう。ああ、今日まで待たせたついでだ。一つおまけをしてやる」

 

 ペーリッシュは手元に小さな黒雲を出現させ、そこから巻かれた地図を手元に取り出した。

 

「暗黒界より、人界に潜入するための秘密の抜け道だ。もっとも使えるのは我が分身のみだろうが、場所を教えてやる」

「抜け道、か……」

「へいへい、ボスの言う通りにしますよっと」

 

 ガブリエルはヴァサゴにアイコンタクトを送った。

 

 偽の暗黒騎士は肩をすくめ、やや乱雑な足取りで近づくと書簡を受け取って中身を確認する。

 

 隅々まで理解すると、振り返ってガブリエルに首肯した。ダイブ前に把握しておいたアンダーワールドのワールドマップと一致したのだ。

 

 目線だけで了承すると、ペーリッシュに目線を戻す。

 

「有効活用しよう」

「ああ。せいぜい使いこなしてみるがいい。我の分身だ──人の身では御せぬほど、獰猛だぞ?」

 

 ガブリエルが鷹揚に頷けば、《三冥将》がさらに頭を下げて平伏する。

 

 

 

 

 そうして、また一つ。人界に迫る破滅は、その色濃さを増していた。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 シン──……と空気が張り詰める。

 

 

 

 ペーリッシュが差し向けてくるやもしれぬ刺客へ、いかにして対抗するか……誰も答えを口にしない。

 

 それが現状でどれほど絶望的なことかを、一人も余さず理解しているからだ。

 

 ただでさえ頭数も練度も心許ない人界軍に、万全とは呼べぬ人数の整合騎士団。一人でも欠ければ、それだけ東の峡谷での防衛作戦は困難となる。

 

「閣下。発言の許可を」

「ファナティオか。許可する」

「は。肝心なのは、仮にこの三か所のいずれかに覇邪竜の軍勢が現れるとして、()()()()()()()()ということです」

 

 ハッといくつかの声が重なる。

 

 それは暗黒軍以外の敵が現れる、という時点で停止しかけていた一同の思考を刺激するには十分だった。

 

「何か情報はある? 些細な心当たりでも構わないわ」

「心当たり、ね……奴は今際の際に、〝目覚めに喰らうには十分〟と残しました。人界十万の民を殺し尽くせる数を送ってきたっておかしくない」

「なるほど……ではバルド殿。実際に分身を討滅した実績のある貴殿に聞きたい。ライオットの言の通りの場合、いかほどの数が予想できますか?」

「二千もあれば、事足りるだろう」

 

 四帝国中の皇帝や貴族の持つ近衛軍、またかろうじて剣を扱える者を加味した上で、バルドは応じる。

 

 その脳裏に浮かぶは、かつてその豪剣が切り捨てた数多の敵において最も悍ましき異形。

 

「未だ色褪せぬ。己が血肉が焼かれ、引き裂かれようとも止まらず。事切れるまで眼前の命を破壊せんと暴れ狂う。まさしく死の申し子よ」

「生まれながらの死兵、ですか……それが数千ともなれば、これほど厄介な相手もいない」

「故に。彼奴の手先が姿を現したその時は、我が引き受けよう」

 

 間髪入れず。その宣言が、堂々と議場に響き回る。

 

 それは断固たる意志を秘め、圧倒的な覇気は物理的な圧をも伴いぴしゃりと聞く者の心と体を打ち据えた。

 

「彼奴の力の程は知っている。であれば、万であろうと冥府に送り返す事ができるであろうよ」

「っ。たった一人で立ち向かうと?」

「然り。そこな使者の力を借りれば、どこへだろうと赴けよう」

「確かに、私の門は数人が限度。バルド様だけをお連れすることなら、人界の何処であろうと造作もございませんが……」

「待ってくれ!」

 

 多くの者が体に残る覇気の余韻から静観せざるを得ない中で、ルークが勢いをつけ立ち上がった。

 

「だったら、俺が行く。父さんはこの戦場に残るべきだ」

「できぬ」

「どうしてだ……?」

 

 元より自分は成り損ないと堕し、戦力とは数えられてはいなかった身。だがバルドはライオットを遣わせてでもカーディナル達が欲した絶大な力の持ち主だ。

 

 前線に出るならばそちらの方が理にかなっていると訴えるが──そんな息子を男は見返した。

 

「我が剣は修羅。他者を顧みぬ破壊者の術理。なればこそ、修羅には修羅を。これが自明の理というものだ」

 

 バルドは300年の時をただ一人で戦い抜いてきた騎士。共に歩むは竜の魂それのみであったからこそ、誰かと共に戦う経験には乏しい。

 

 ルークもカセドラルで試練を与えられた際、巻き込まれて焼死しかけていた幼い双子の整合騎士を思い出す。

 

「でも、今の父さんなら──」

「悪いが俺もそいつは聞き入れられねえな、坊主。お前さんには竜達の指揮をする責務があるだろう」

「っ、それは……」

「ルーク」

 

 迷うように声を震わせた、その時。

 

 一歩前に踏み出した父がその肩に手を置いた。沈み込む重さと、向けられる眼差しの強さに口が閉じる。

 

「息子よ。お前がいるから、行けるのだ」

「……俺が?」

「お前は我とは違う。刃に誓うは守護。瞳が見定めるは真に正しき義。何者にも恥じることはなく、己が愛する者を守ることができる」

「でも……まだ父さんには遠く及んでない」

「断じて否だ。お前の信念は、この胸に宿っていた憎しみを上回っている。そんなお前を置いて、()()()()()()()()は他にいるはずもない」

 

 ハッと顔を振り上げる。

 

 故郷での戦いを経て輝きを取り戻した、鮮烈な銀の眼光。そこに宿るのは一人の騎士としての信頼と……父としての確かな愛。

 

 バルドはルークの頭を一掴みに包むことができる大きな手を両方とも肩に置き、言い聞かせた。

 

「お前が私を守れ。お前達の背は、私が守る」

「父さん……」

 

 自分が、父を守る。それは考えもしなかったことだった。

 

 もしもこの東の大門での戦争に敗北すれば、闇の民が人界に雪崩れ込み、あらゆる略奪と暴虐の牙を剥く。

 

 当然、どこかに現れるロヴィナの軍勢を相手するバルドにもそれは及ぶ。そうさせない為に戦えと言っているのだ。

 

「預かってくれるか。ルーク」

「断れるわけないだろ。父さん」

 

 ゆっくりと、決意が定まっていく。

 

 すっかり胸の内に絡まる迷いを振りほどいたルークの瞳が薄く黄金に煌めき、バルドの瞳を見返した。

 

「必ず、みんなを守ってみせる。アリスやライオット達と一緒に」

「よくぞ言った。その言葉、我が心に刻むぞ」

「ああ」

 

 互いに首肯し、親子は離れるとそれぞれ戻った。

 

 するとまず最初に、事を見守っていたライオットがハッと笑いをあげる。

 

「思い直してくれて良かったぜ、兄弟。お前にはここにいてもらわなくちゃならねえ」

「どういう意味だ?」

「こいつはまた俺の見立てになるが、奴はおそらく峡谷の戦場にも戦力を送ってくるだろうからな」

「抜け道だけじゃない、ってことか」

「そういうことだ。まるっと奴の置き土産を信じてやるつもりはねえよ」

 

 抜け道の方に全戦力を投入しかけたと見せかけ、暗黒軍と共に外と内から挟み撃ちにする程度の策略は繰り出してくるだろうと睨んでいた。

 

 自分もバルドもいないからこそ、ロヴィナの動向を想定して残る竜騎士であるルークがいなくてはならない。

 

 その意見には納得できるものがあったので、ルークもすぐに頷く。

 

「もし皇帝の横でしたり顔してるだろう新しいペーリッシュに辿り着いたら、そん時は二度と湧いてこねえようぶった斬っちまっていいぜ」

「ああ。機があれば逃しはしない」

「うむ。全て、話はまとまったようじゃな」

 

 カーディナルが裾を翻し、手を振り上げて宣告する。

 

 

 

「抜け道への対応は騎士バルドに一任。竜騎士ルークを含め、戦乱を終結させるが為に我らが狙うは闇の神ベクタ! そして覇邪竜の傀儡たるペーリッシュの首である! 各々、人界の未来の為、勇気を奮い立たせよ!」

「「「はっ!!!」」」

 

 

 

 一斉に起立し、具足を踏み鳴らした剣士達が一糸乱れぬ礼を示した。

 

 

 

 こうして、数時間に及ぶ軍議は終了した。

 

 

 

 





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