ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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十万UAありがとうございます!

一日遅れてしまいました。

ついに開戦。

楽しんでいただけると嬉しいです。


終末の崩門

 

 

 

 

 

 

《東の大門》。

 

 

 

 

 

 いつしか言葉を持つ者達からそう呼ばれた黒壁は、生まれ落ちた瞬間(とき)に落とし始めた砂時計の最後の一粒を落とさんとしていた。 

 

 明々と輝くソルスが最後の茜を引き連れ、深く切り立つ峡谷の向こうへと消えていく。

 

 六千弱の人界守備軍、及びに七万の暗黒侵略軍が看取る中、世界が闇夜に包まれた刹那。

 

 

 

《東の大門》は、断末魔を轟かせた。

 

 

 

 それはまるで、神代より生き続けた最後の古獣が己の死を生きとし生ける者の心に刻みつけるように。

 

 それはどこか、高らかに終末の始まりを世界中へ知らしめる大鐘の如く。

 

 

 

 中心に雷鳴の如く大亀裂が生じ、恐るべき速度で縦横無尽に広がっていく。内側から溢れ出してくるのは目を眩ませる純白の光。

 

 誰もが見上げるその光はやがて炎と成り、轟々と大門の表面を燃やしながら文字を描いた。

 

Final Tolerance Experiment(最終負荷実験)】──意味を理解するのは、戦場に僅か五人。

 

「オォウ……こいつはすげえ。そこいらのVRじゃ滅多にお目にかかれねえ光景じゃねえか」

 

 その一人、ヴァサゴは指揮用戦車から身を乗り出して笑った。

 

「よう兄弟(ブロ)、AIを確保するよりもこの映像技術をいただいた方が一儲けできそうだとは思わねえか?」

「残念ながら、これを映像として残すことは不可能だ。ポリゴンではなく、STLを通して見る幻想(ファンタズム)なのだからな」

 

 同じように荘厳とさえ言い表せる崩壊を目に焼き付けていたガブリエルはすげなく答える。

 

 任務中でなければその美しさをいつまでも眺めているところだが、数秒で意識を切り替えると玉座から立ち上がった。

 

 

 

 十候が一人、暗黒術師ギルド長ディー・アイ・エルが献上した大髑髏の前に立つ。

 

 音声を伝達する機能を持つそれを通し、〝闇の神ベクタ〟として声を張り上げた。

 

「聞け、闇の国の将兵らよ! 古より待ち焦がれた時だ! 触れるもの全てを奪え! 生きとし生ける者を殺し尽くせ! ──蹂躙せよ!!」

 

 

 

 ウォオオオ────!! 

 

 

 

 小鬼が、巨人が、狼人が。戦士が、騎士が、術師が、歓喜と欲望を孕みに孕んで咆哮する。

 

 鈍色に輝く槍や蛮刀を掲げ、足を踏み鳴らしてはギラギラと血走る目を怒らせた。

 

 

 

(よく吠えるものよ。瞬きの後、絶えるとも知らずにな)

 

 

 

 心底嘲り笑う女を傍らに、その全てが目に見えずとも全身で感じた皇帝は黒毛皮を翻す。

 

「第一陣、突撃開始!!」

 

 下された最初の命令(コマンド)

 

 さながらウォー・ゲームをプレイする気分で放ったそれに、確かな魂を持つ彼らは己の意思を以って呼応する。

 

 平地ゴブリン、山地ゴブリン、共に五千。ジャイアント隊一千、オーク隊二千──しめて一万三千の大群が、早くも八割が消失している大門へと走り出した。

 

 

 

「戦闘準備開始! 第一部隊、抜剣! 修道士隊、治癒術準備!」

 

 

 

 人界軍副長ファナティオは、鋭く声を発する。

 

 じゃりぃん! と重なる三百の音。鞘から姿を現した白刃が篝火と鎧に照らされて眩く出張する。

 

 じとりと掌から滲み出て鎖帷子を濡らす汗と、早鐘を打つ心の臓。

 

 血を知らぬ兵士達は、必死に今にも逃げ出そうとする体を叱咤してぐんぐんやって来る亜人達を見ていた。

 

 彼らの心を支えるのは、先頭に立つたった三人の整合騎士達。

 

 

 

 その一人、右翼隊を率いる《熾熖弓》デュソルバート・シンセシス・セブンが腕をもたげた。

 

 ぴたりと愛弓をゴブリン達へと向け……一度、彼の視線が揺れた先は革手袋に包まれた左手の薬指。

 

 

 

 ──起きて、あなた。朝よ……

 

 

 

 淑やかに、柔らかく、痛く。

 ()ぎる声が瞼の裏を掠め、泡沫のように胸の奥底へと染みて消えていく。

 

 それを噛み締めながら、右手で矢筒から一気に四本の鋼矢を取り出した。

 

 

 

 ──その夢を見始めたのは、いつからだったろうか? 

 

 

 

(誰かが、眠る我を呼び起こす。指輪の嵌った白く小さな手を我の手に重ね、心安らぐ微笑みを伴って)

 

 

 

 夜明けの前、自分の中に現れる一つの幻。

 

 日暮れ無き無限の日々の中、いつか天上へ舞い戻った時、あの誰かに会うことだけを願いながら己を法と秩序の番人として律してきた。

 

 だが、その夢はまやかしと打ち砕かれたのだ。三人の罪人と、他ならぬもう一人の最高司祭によって。

 

 

 

 我が身は天の使いに非ず。誰かから命を授かり生まれ落ちた、血の通った人であると言う。

 

 ああ。ならばもう、あの小さな手は、向けられた微笑は──遠く昔に失われたのだ。

 

 〝デュソルバート・シンセシス・セブン〟は、己を教会の機関ではなく人間たらしめる泡沫を失った。

 

 

 

 それでも今、この戦場に立っている。

 

 潰えた願いの残滓──自分が愛したのであろう〝誰か〟と過ごした儚い世界を、守るために。

 

 

 

 

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

 

 

 

 

 薬指に嵌った指輪の感触から意識を断ち切り、声高に詠唱する。

 

 呼応した愛弓の周囲にはいくつもの丸窓が浮かび上がり、紅蓮が灯った。

 

 轟々と燃え盛るそこに矢筒から取り出した四本の鋼矢を番え、先端にまで紅蓮が伝播したのを確認して引き絞る。

 

 

 

 そして、ゴブリン軍の先頭との距離が二百五十、三十、十五──ついに、二百を切った瞬間。

 

 

 

 

 

「整合騎士、デュソルバート・シンセシス・セブンである! 我が前に立つ一切、灰燼に帰すと知れ────!」

 

 

 

 

 

 存分に隠し続けた《愛》を込め、限界まで溜めた炎矢が解き放たれた。

 

 

 

 音を破り突き進んだそれらは闇の国の者達に炸裂し、盛大に炎の花を咲かせることで始まりの狼煙を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 響く獣声と爆裂。

 

 

 

 萌芽の余波は第一部隊の遥か後方、その全てが竜で構成された第三特殊部隊にまで届く。

 

 微かに肌を打ち付けられたシャーリーは慄然とした。恐怖とも、武者震いともつかぬ感情に《鬼蜂の剣》へ置いた左手が力む。

 

「──始まったか」

 

 直後、ハッと硬直した意識が解放された。

 

 遠い最前線に飛んでいた意識を目の前にやると、そこには一つの背中がある。

 

 地に《白竜の剣》を屹立させ、円環を背負ったルークには一つの怯えもなければ、動揺もない。まるで鎧の上にもう一つ何かを纏っているようだ。

 

 

 

 右に控えるクィーニもまた、涼しげな横顔で戦場を捉えていた。

 

 更には背後の竜達から漂う濃厚な戦意に、いよいよくっと小さな唇を引き締めたシャーリーは胸を張り直す。

 

 

 

(私だけ、怖気付いていられない)

 

 

 

 自分が今、誰の側にいるのか。それさえ思い出してしまえば、感情を律することは造作もなかった。

 

 すっかり元の落ち着きを取り戻す心の音。

 ふと少しだけ面に安心を浮かべたルークは、()()を見る。

 

 峡谷を水路に見立てるとすれば、満たすだけでは飽き足らず盛大に弾けさせんと押し寄せる暴流。

 

 先端が数十と削れるも、勢いを失することなく迫ってくる様は一つの巨大な生物とさえ錯覚する。

 

 

 

(──壮観、と感じてしまうのは。この耳が受け取るものが彼らの魂だからだろうか)

 

 

 

 伸ばされた巨獣の舌先は目を背けたくなるほど黒く、しかし欲望へ突き進む一貫した美しさをも放つ。

 

 上回らねば、覇邪竜が目覚めるより前に人界が滅びるとわかってはいる。

 それでも……強固な〝想い〟を源とする一点において、彼らが自分達と同質の存在だった故に。

 

 

 

(大丈夫だ。ここにいるのは人界最高の戦士達。彼らを信じて、俺は俺のするべきことをするまで)

 

 

 

 ルーク率いる第三特殊部隊の役割は、大きく分けて二つ。

 

 一つは人界守備軍の上空で大術式を詠唱するカーディナルの護衛。これには飛竜の一部とアリスが付いている。

 

 もう一つは、ロヴィナの手勢──軍議にて決定した呼称においては、〝邪竜軍〟が出現した際に応戦することだ。

 

 

 

 それ以外の行動は初戦では認められていない。

 

 未知数の邪竜軍を警戒し、一体でも多くの竜を温存する方針となった。万が一の事態が起こらない限り、ルークは何があろうと動かない。

 

 目の前で何十と死が積み重なり、魂の打ち砕かれる音が耳の奥に捩じ込まれ。それに酷く胸が痛もうとも。

 

 それを見届ける決意を胸に、凛と眼差しを最前線へ──中でも一際研ぎ澄まされた心意へと向ける。

 

 

 

 最前線中央部隊。

 

 ファナティオは、デュソルバートの放つ炎矢によって次々と剥がされていくゴブリン達の更に奥を見据えていた。

 

 携えた神器《天穿剣》の石突を右肩に、刃を水平に保ち、切っ先を左手で支えた姿は射手を彷彿とさせる。

 

 定めた狙いは、小鬼達より何倍もの体躯を持つジャイアント族。その中でもたった一体。

 

 

 

(奴らはたった一つの掟によって統率されている。〝力ある者に従う〟。それこそが闇の国を統べる理)

 

 

 

 強者への畏怖と服従。

 これによって各部族、そして今や皇帝ベクタの下で一つとなった暗黒軍は統率されている。

 

 とりわけ、ベクタの降臨以前は最高権力者であった《十候》の統率力は各部族を纏めていただけに凄まじいものだ。

 

 

 

 そこに勝機がある、とファナティオは見ていた。

 

 指揮官として戦場に出ているであろう《十候》を討てば、それ以外の多くは一気に纏まりを失って烏合の衆となるだろう。

 

 

 

(かつて、私達もそうだった。だが、我が輝きはもはや偽りの誉れに依らず。ただ、閣下と共に歩むのみ!)

 

 

 

 彼女を突き動かすものも、デュソルバートと同じく《愛》という想いの力であった。

 

 慎重に、冷静に。峡谷の彼方まで見通す思いでつぶさにジャイアント達を観察し、その存在を探す。

 

 

 

(──見つけた)

 

 

 

 眼差しが、あるジャイアントに定まった。

 

 頭一つ抜けた、小山のような巨躯。一度だけ見かけたことがある、ジャイアント族の長シグロシグだ。

 

 息を吸い、裂帛の叫びへ変換する。

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

 応じた《天穿剣》が震え、その刀身に純白の眩い輝きが宿った。

 甲高く鳴くそれを、古傷だらけの巨大な胸元に合わせ──

 

 

 

「貫け──光よ!!」

 

 

 

 一息に解き放つ。

 

 唸る剣閃。ソルスの光を凝縮したかのような熱線が、空を食い破り直進する。

 

 ゴブリンの頭上を悠々と飛び越えて、迷うことなくまず最初に手前にいたジャイアントの胸を背中まで貫いた。

 

 そのままもう一体の頭を消し飛ばし、なおも勢い衰えずに目標へ迫って──唐突に、シグロシグの体制が崩れる。

 

「っ!」

 

 白光は倒れ込んだシグロシグの胸があった場所を通過し、後方のジャイアントを三匹ほど屠ったところで消え去った。

 

 

 

 初撃、失敗。柳眉が僅かに歪む。

 

 しかしその直後、ゴブリンを轢き潰さんばかりに猛進していたジャイアントがピタリと足を止めた。

 

 彼らは地に倒れ伏した同胞の亡骸を見てどよめいている。人族より圧倒的に豊富な天命を、一瞬で削り取った閃光に余程慄いたらしい。

 

 

 

(だが、奴はまだ……)

 

 

 

 本来の標的を見れば、亡骸のそばで尻餅をついている。その厳つい相貌が周囲のジャイアントより明確に恐怖で歪んでいた。

 

 好機。

 

 今であれば確実に倒せる。飛び回る飛竜を駆る暗黒騎士やあの二人組に比べれば、へたり込んだジャイアントを射抜くことなど容易だ。

 

 再び《天穿剣》を肩に担ぎ直し、僅か二秒で遠目にも巨大な顔面に照準する。 

 

 

 

 

 

 その唇が、完全武装支配術を紡ごうとして──。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 連なる山々に木霊する鳴動。

 

 

 

 

 遠く東の方角から届いた嘆きのような残響に、果ての山脈を蒼星に騎乗し飛んでいたライオットは片眉を上げた。

 

 

 

(大門が崩れたか。となると──)

 

 

 

 これから先を予想した直後、凛と手元が鳴る。

 

 手綱から左手を離し、無骨な手甲に張り付いているには愛らしい栗色の蝶に顔を寄せた。

 

「ライオットだ」

『──伝令。東の大峡谷にて戦闘を開始しました。敵部隊の総数は亜人を主として一万強。現在、第一部隊が応戦中です』

「了解。こちらは引き続き〝果ての山脈〟の警邏を行う」

『了解。交信を終了します』

 

 蝶の触覚が発光を止める。

 

 羽の間に括り付けられた極小の玉に触れ、蝶の〝交信先〟を変えてもう一度語りかけた。

 

「こちらライオット。各自伝達は受け取ったな。異常があれば報告せよ」

『イーディスよ。今のところ問題はないわ』

『同じく、敵影なし』

『異変は見当たりません』

 

 果ての山脈のどこかを飛んでいるのであろう騎士達から返答がやってくる。

 

「二十分毎に状況を報告。有事の際は即座に情報を共有だ。また、敵との戦闘で天命の残量が六割を切った場合には他の者へ援軍を要請。撤退行動に移行することを忘れるな」

『『『了解』』』

 

 いくつか言葉を交わし、交信を終える。

 

 再び眼前に広がる沈黙した山稜の監視へと戻り、一つの蠢く影も見落とさないよう目を凝らした。

 

 

 

(さて。皇帝とやらはどう動かしてくる?) 

 

 

 ライオットは暗黒領域に君臨したという、闇の神の皮を被った何者かに対し、慎重で、かつ相当に頭が切れると感じている。

 

 

 

 それというのも、気性の激しい暗黒領域の者共を今日この日まで完全に統率していたからだ。

 

 いずれも我こそ最高の種族と誇示して止まず、常に他を蹴落とそうと軋轢を抱えている五部族を纏め上げ、一切の先走りを許していない。

 

 実際、山脈に幾度か潜り込んだ斥候部隊もルーリッドのような大事は起こせぬほど必要最低限かつ、任務に忠実な行動を取っていた。

 

 無論、全て撃滅したが、結果的にそのような印象を与えるには十分だ。

 

 

 

(カーディナル様によりゃあ、外界──〝リアルワールド〟からの侵入者だって話だが。軍事に精通してる相手だってのは間違いねえ)

 

 

 

 おそらくは自分達と同じく、日頃戦いに身を置く者か。それも開戦までの一切無駄がない采配から、指揮官(コマンダー)として長けている。

 

 問題は、それがどれほどか。

 

 

 

(敵の構成を鑑みても、おそらく第一陣は小手調べ。さしずめ人界軍と暗黒軍、双方の力とその差を見極める布石ってところが妥当)

 

 

 

 暗黒領域一の剣の使い手、シャスター率いる暗黒騎士団や、強烈な暗黒術を駆使する暗黒術師といった主力の存在がいなかったのもその証拠。

 

 ライオットが懸念しているのは、その小手調べがこの山脈にまで及ぶのかの一点。

 

 

 

(暗黒軍が保有する飛行戦力は二つ。暗黒騎士の飛竜と、術師が土くれから生み出すミニオン。どっちも序盤で簡単に捨てられるモンじゃねえ)

 

 

 

 複数の整合騎士がここにいることは暗黒軍も把握しているはずだ。

 

 開戦前までの印象からしても、迂闊に初手で峡谷の外まで手を広げたりはしないだろう……そう思えたのは、五日前まで。

 

 

 

 ──気にかけておるのは奴の尖兵か。

 

 

 

「大当たりだ」

 

 ベクタの背後にはロヴィナ(ペーリッシュ)、そして邪竜軍が潜んでいる。

 

 邪竜から生まれ落ちた魂無き分身であれば、その二つと比べて遥かに使い捨てやすいだろう。

 

 もしかすると、秘密の抜け道、更には峡谷の戦場……と見せかけ、山脈側から分身を用いて奇襲してくるかもしれない。

 

 心のどこかで、危惧する自分がいる。

 

「俺の考えすぎなら、そいつでいいんだがな」

 

 疑り深いことは承知している。

 

 万事において冷静に。余計に力まず、逸ることなく。秘訣はとうの昔に理解している。

 

 それでも竜騎士の中でただ一人、知性を持つロヴィナの傀儡と長く接し、狡猾さを知るからこそ──用心に用心、更なる用心を重ねて。

 

 

 

 

 常時よりもうひと匙気を張りながら、山上を通過していく。

 

 二つ、三つ。脚を使えば踏破に数日とかかる峰々を、飛竜の優れた飛行力はたったの数分にできてしまう。

 

 

 

 そのうち一段と大きな山に差し掛かったところで、体内時計が正確に二十分の経過を報せた。

 

 イーディス達と交信を行う為に、蝶へ視線を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 ──全身を、殺意が突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

「蒼星ッ!!」

 

 顔を振り上げたのと、愛竜に叫びかけたのは同時。

 

 あらんかぎりの力で手綱を引かれ、野太い声で呼応した蒼星が地上と平行にしていた体を百八十度左へ捻った。

 

 

 

 

 

 

 バジュッ!! 

 

 

 

 

 

 体を傾け切る寸前、右翼膜を掠める黄金の影。

 

 そのまま空中で一回転させて逃げおおせたライオットは、激しく乱れて戻った前髪を見て冷たく目を細めた。

 

 

 

(──俺の音刃と遜色がないか)

 

 

 

 視界の端に通過する寸前で映り込んだのは、真紅の雷槍。

 

 他に類を見ない驚異的な速度を心に留め、緋眼を山の向こうからやってきた殺意の源泉に移す。

 

 

 

 ポツポツと、紺色の夜空に浮かび上がる影。

 

 あらゆる敵を見定め、射抜いてきたその目が捉えたのは、ボロ布の翼を操り飛んでくる数百の竜人であった。

 

「……チ。予感ってのは、この世で一番言うことを聞きやがらねえ」

 

 舌打ちを一つ。それは警戒から迎撃に意識を切り替える為の、ある種引き金であった。

 

 蒼星の首筋を撫ぜ、両手を手綱から離す。主人の操作を失った竜は、揺れ一つなく飛行体制を維持した。

 

「いい子だ」

 

 背に回った革帯から、《蒼竜の琴剣》を手に収める。

 

 

 

(ハ。それにしたって、大胆さも待ち合わせるか。やりやがるじゃねえか、皇帝)

 

 

 

 刃の向きを合わせ、出現した光の弦に指を乗せた流れのままに顔の横で構えた。

 

「各騎士へ伝達。〝邪竜軍〟の先鋒と思しき生物と会敵。これより撃滅する────ッ!!」

 

 

 

 飛竜と同等の速度で迫る邪竜達。

 

 

 

 その先頭の一匹を補足し──音を解き放つ。

 

 

 

 ライオットの戦いが、幕を上げた。

 

 

 

 

 





読んでいただき、ありがとうございます。
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