ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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またまたお待たせしました。

シグロシグ戦をお送りします。


楽しんでいただけると嬉しいです。




血鬼

 

 

 

 

 

 シグロシグは激しく混乱していた。

 

 

 

 容易い事のはずだった。

 

 一息にジャイアント族が、人界の者どもを蹂躙する。

 

 軍師ぶった女狐や、その裏でこそこそと企むゴブリンの新たな族長に一つの余地も残さず武功を攫い、皇帝に認められる事で名実共に最強の種族として君臨する。

 

 たったそれだけの単純にして明快な目標。

 

 

 

 そうできるだけの力が自分にはあると、伝説的な闘士として名を馳せた彼は信じてやまなかった。

 

 だというのに、自分は膝をついている。

 

 人界人の女の攻撃に、怯え、震えていた。まるでジャイアント族の伝統たる試練に初めて放り込まれた幼子のように。

 

「あり、えない。この、シグロシグ様が。あり、えない……!」

 

 思考と現状が噛み合わない。己が乱れていく。

 

 彼らが人族と同じ雛形を持つ魂を歪に巨大な肉体(容器)で保つための、己の強さへの絶対的なイメージとの矛盾が加速していき、シグロシグという個を構築するものが崩壊を始める。

 

「ごろ、ごろす。ごろす、ごろすっ、ごろすッ! ごろすごろすごろでぃるっ、でぃるでぃるでぃるッ、でぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるでぃるッ────」

 

 軸を失ったようにあちこちへ回り出す眼球。

 

 恐怖で冷たくなっていた脳髄に火花が散り、口から理解し得ない単語が吐き出される。

 

 その精神を写し込んで、ついには体が蜃気楼のごとく揺れ始め、視界を埋め尽くす赤い光はますます輝きを増して──。

 

 

 

 

 

 

 

────愛い畏れだ。我が輝き、下賜するに相応しかろう

 

 

 

 

 

 

 

 バチン、と弾けた。

 

 シグロシグが勢いよく項垂れる。

 

 そのまま、頭上から糸で釣り上げられるかのような動きで立ち上がった。近くにいた側近のジャイアントが怪訝そうに近付く。

 

「長。進軍の命令を──」

「──足リヌ」

 

 は? という疑問の声が形になる前に、巨大な掌が視界を覆い尽くした。

 

 人族の赤子ほどもあるジャイアントの頭が包み込まれ、ぐんと2メル強の巨体が地面から持ち上げられる。

 

「な、何を」

「満タサネバ」

 

 後頭部に、指の先端が食い込んだ。

 

 そのまま強まっていく指圧は獣の牙さえ通さぬ皮膚を貫き、その奥に到達してメキリと内側から罅割れる音を鳴らした。 

 

「ガッ!?」

「〝貴様〟ヲ寄越セ」

 

 侵入した指先から、何か引き抜かれていく。

 

 全身に漲っていた生命。それが勢いよく喉を鳴らして酒を呷るが如くみるみるうちに吸われていった。

 

 数多の試練の中で鍛え抜かれた体はあっという間に痩せ細り、老躯と成り果てた。

 

 握るだけの力を失い武器を取り落としたジャイアントは、己の全てを奪われる強烈な恐怖に激しくもがく。

 

「や、やめろッ! 何故、ナゼェッ!?」

「捧ゲヨ。我ラガ大願ニ」 

 

 そのジャイアントが指の隙間から、最後に見たシグロシグは。

 

 溢れんばかりに爛々と瞳を輝かせ、喜悦に裂けた笑みを浮かべて──容易く、命を握り潰した。

 

 

 

 弾け飛ぶ脳漿。

 

 頭蓋の破片や目玉と共に落下した体は激しく痙攣しながら血の池を広げていく。

 

 ジャイアント達が、戸惑いに巨躯を揺らした。同胞の死と凶行に、本能的な恐怖から後ずさる。

 

「──アア、良キ哉」

 

 間も無く、酩酊したように上擦った一言が耳を撫でて再び体を硬直させた。

 

 三十年ものの濃厚な葡萄酒を味わった後のような熱い吐息を漏らすと、赤黒く染まった手を振り落として見やる。

 

 

 

 確かに、力が増したことを実感した。

 

 奪い取ったもの、そして今際の際に(フラクトライト)へ流れ込み迎合した絶望が、我が身をより強靭にしたのだ。

 

 

 

 これならばと周りを見渡せば、濃く香る畏怖。

 

 シグロシグを見る目はもはや同族へのそれではなく、怪物に向けるものとなっていた。

 

 鼻腔を擽る悪意がバチバチと頭の奥で雷にも似た快楽を生んでは、もっと味あわせろと欲望を掻き立ててくる。

 

「満チ足リヌ」

 

 マダだ。目的を果たすには、マダ足りない。

 

 あの女を完膚無きまでに叩き潰し、擦り潰して物言わぬ肉塊に変えて恐怖を消し去るには、もっと圧倒的な力が必要だ。

 

 故に、糧なる悪意を。より濃い恐怖を、より強い蔑みを、より惨い苦しみを。たった一匹ぽっちのものでは足りるはずもない。

 

 魂が飢え、寄越せ寄越せと喘いでいる! 

 

「全テ、捧ゲロォッ!!」

 

 枷を失った渇望に従うまま、身近なジャイアントに大槌を振り上げた。

 

 

 

 ファナティオは、その光景に強く戸惑った。

 

 とどめの閃光を解き放たんとした瞬間、突如としてシグロシグが同胞を殺し始めたのだ。

 

 その様は凄惨の一言。

 

 視線の先で躍動する剛体が、目についた端から頭を噛み砕き、心臓を抉り取って、腰から上と下を別ち、暴力を叩きつける。

 

 大槌を振るわば小石のように高々と打ち上げられ、四散した体がジャイアント達の頭に降り注いでいた。

 

 無論黙って彼らも殺されている訳ではないが反撃は意味を成さず、時を経るごとにシグロシグは猛々しさを増していた。

 

「ゴルゥアァアアァアァァアアァアァッ!!!」

 

 ビリビリと肌を叩く修羅の雄叫びに、顔を顰めさせる。

 

 何かを歓喜し、また要求するような主張ら肉体というよりも魂の根底から何か別の悪寒を呼び寄せた。

 

「奴め、錯乱したか……っ!?」

 

 思わず口走った言葉は、次の瞬間鋭い戦慄の吐息に変わった。

 

 

 

(シグロシグが、大きくなっている……?)

 

 

 

 ありえない考えに、すぐさま目の錯覚かと考え直した。

 

 しかし、また一人の枯れ枝となったジャイアントを打ち捨てた途端、血染めの体が一層隆起して確信する。

 

 

(何が起こっている? ジャイアント族にあのような力はないはず。奴だけが特別に秘めていたとでもいうのか?)

 

 

 騎士として長い生の中でも、あのような光景は目にしたことがない。

 

 しかし、あのまま放置していれば取り返しのつかない事態が起こると強く直感した。

 

「一瞬たりとも気を抜くな! 隊列を維持せよ!」

 

 背後で及び腰の気配を醸す兵達を一喝し、改めて《天穿剣》を構える。

 

 次で確実に仕留める。先刻よりその意志を固く、強靭に持ちながら。

 

 

 

 幸い、シグロシグは暴れ回ってはいるものの、一定範囲から移動していなかった。

 

 そこから彼我の距離、解放する威力、到達までの速度、何よりも最適な機を見計らい──また一人嬲り殺した直後。

 

「エンハンス・アーマ──ッ!」

 

 

 

 ぐるりと、真紅の魔眼がこちらを見た。

 

 

 

 まさにその時、その瞬間。あれほどまでに狂気的だった巨人の瞳が、迷いなくファナティオを射抜いたのだ。

 

 はっきりと映り込む、満面の笑み。

 

 獲物がかかったと、絶対の一撃故に意識を緩ませたなと、嘲笑うように醜く歪む相貌。

 

 

 

(しまッ、奴は初めから全て企んで──!!)

 

 

 

 気づいた時には遅かった。

 

 武装完全支配術の解放態勢に入っていた体を動かすよりも早く、ガパリと巨人の大口が開かれる。

 

 

 

 

 

「オオォオオオオオオオオォオオオオオオオオオオォオオッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 撃ち放たれる大咆哮(ハウル)

 

 瞬間的にその威力は高位の攻撃系暗黒術にも匹敵し、周囲のジャイアント十数体を跡形もなく消し飛ばした。

 

 それだけに留まらず、込められたファナティオへの恐れと怒り、憎しみは直接彼女のフラクトライトに到達する。

 

「かはッ!?」

 

 血を吐くように体を折り曲げ、よろけたファナティオは膝をつく。

 

 ガンガンと頭の中に響く甲高い音。意識そのものを直接貫かれたような未体験の感覚。それでも《天穿剣》を手放さなかったのは幾百の修練の賜物、それとも剣士の維持だったか。

 

「ゴロスウゥウウウウウウッ!!」

 

 絶好の機を逃すまいと、シグロシグは地面を陥没させるほどの勢いで飛び出した。

 

 先行のゴブリンを踏み潰しながら、大咆哮の影響で未だまともに動けずにいる獲物へ一直線に迫る。

 

「ファナティオ様をお守りしろ!」

「「「了解!!」」」

 

 応じたのは側に待機していた四人の下位騎士、《四旋剣》であった。

 

 上官の危機に固く剣を握り、僅か数メル先にまで接近してきたシグロシグへ勇猛果敢にも斬りかかっていく。

 

「「「「はぁッ!」」」」

 

 正面から一人が突撃し、両足の腱を断ち切るために左右から一人ずつが仕掛ける。

 

 そして中央の背後から、奇襲するように最後の一人が跳び上がって頭を割らんと渾身の唐竹を見舞った。

 

 

 

 四人がかりであれば上位騎士相当の実力を発揮する彼女達の攻撃は──硬質な音で受け止められた。

 

 心の臓を穿つはずだった切先は大槌に阻まれ、他は力んだ手足の薄皮一枚を切り裂いたのみ。

 

「なっ!?」

「馬鹿な……!?」

「邪魔、ダァッ!!」

「がっ!?」

 

 たった一振り。四肢を振るわれただけで剣が粉砕される。

 

 剛腕に掠った胸当てや兜をひしゃげさせながら振り払われた四旋剣は宙を舞い、一人がファナティオの眼前に打ち付けられた。

 

「お前達っ!」

「オォアァアァアッ!」

 

 小山が跳躍する。

 

 赤空の中でも異質に目立つ赤黒の巨人は、腰だめにした大槌を振り上げ、憎き騎士へと落下した。

 

 

 

「死ネェエエエッ────!!!」

「ッ!」

 

 

 

 至近距離で、直接向けられた《憎の心意》が再び体を凍り付かせる。

 

 どうしても、指一本さえも己の意思に従わない。これまでかと悟った。

 

 走馬灯が脳裏をちらつき、その中でも強く思い描いたのは一人の男の姿。

 

 

 

(閣下っ……!)

 

 

 

 先に逝く不甲斐なさと、任を果たすことのできなかった不義。

 

 それらを感じながら、決して最後まで目を逸らすまいとシグロシグを睨んで。

 

「ま……だ……」

 

 

 その時、地に臥した騎士が拳を握った。

 

 

 

「まだっ、だぁぁああああっ!!」

 

 

 

 雄叫びを上げて、彼女は立ち上がる。

 

 それは誰もが予想し得ないことであった。ファナティオも、兵士達も驚く中で、大槌の前に躍り出る。

 

 そして、交差させた両腕で大質量の一撃を受け止めてみせた。

 

「ダキラッ!」

「羽虫、ゴトキガッ!!」

 

 シグロシグは、二度も邪魔を入れたダキラを新たな憎悪の対象として認識した。

 

 大槌を握る力が強まり、二秒と保たずに手甲が腕ごと砕ける。次いで肩、背骨、腰、膝、足首と体が裂け、大量の血と共に骨が露出した。

 

「ぐっ!? あっ、ああ、ぁああああああぁァァアァアアッ!!」

 

 四肢で足りないならばと、半壊した兜を押し付けて、血涙を噴き出しながら睨み据える。

 

 矮小な反抗を見て、怒りは加速する。シグロシグはさらに押し込んだ。

 

「我らを──」

「侮るな!」

「グガァッ!?」

 

 そこに背後から肉薄する二人の影。

 

 彼女達は半ばまで失われた刃を、シグロシグの膝裏に全身で倒れ込むようにして深く突き刺した。

 

 

 

 唯一他よりも皮の薄かったそこに入り込んだ冷たい痛みに、堪らずよろける。

 

 僅かに大槌が浮き上がり、すかさず最後の一人が自分の体と同じほどもある腕を抱えてみせた。

 

「ダキラ!」

「おおぉおおおおおッッ!!」

 

 獣のように体を沈ませ、肉薄するダキラ。

 シグロシグの曲がった膝を蹴って跳び上がり、指の付け根から飛び出した己の骨を躊躇なく巨大な右眼へと突き入れた。

 

「グギャァァァアァアッ!!?」

「退けぇェエエエッ!」

 

 絶叫するのも構わず、もう一方の拳で顎を下から叩く。

 

 瞬間、血を火種に迸った蒼炎がその一撃を包み、シグロシグの頭を燃やしながら十数メルも吹き飛ばしてみせた。

 

「ぁ、ぐッ……」

「ダキラっ! っ!」

 

 体が動くことに気がつく。ファナティオは崩れ落ちるダキラを素早く抱き止めた。

 

「ファナ、ティオ……様……」

「喋るなっ! すぐに手当てをしてやるっ!」

 

 怜悧な美貌に涙が伝う。

 

 一滴がそばかすの付いた頬に落ち、ダキラは赤く彩られた茶色い三つ編みのおさげを揺らして笑った。

 

 自分は、なんと幸福であろうか。

 落ちこぼれだったにも関わらず、敬愛を超えて恋慕さえした方の側に置いてもらえ、カセドラルでの失態を重ねず今度こそ守ることができた。

 

 あまつさえ、死を悲しんでもらえる。これ以上に幸せなことなどない。

 

 

 

 今ならば、秘め続けた言葉を紡ぐことも許されるであろうか。

 

 死んだ指先を震わせ、美しい涙を拭いながら唇を震わせる。

 

「いつまで、も……お慕い……申して……おり、ま……す…………」

 

 そして、整合騎士ダキラ・シンセシス・トゥウェニティツーは意識を永遠に闇へ落とした。

 

「っ……!」

 

 少女の体をかき抱き、溢れかけた嗚咽を唇を噛んでしまい込む。

 

 自分は、何をしていたのだ。ただ妹や弟に等しい彼女達が蹂躙されるのを見ていることしかできなかったではないか。

 

「…………許さん!」

 

 後悔、怒り、義憤。胸に燃える意思を全て集約し、一言に変えて叫んだ。

 

 

 

 ──ィイン。

 

 

 

 はっ、と知覚する。

 

 前触れなく指先に感じた冷たさにダキラの遺骸を見下ろすと、どこからともなく霜が現れた。

 

「これは……」

 

 体を覆っていく白へ、半ば無意識に優しく地面に横たえる。

 

 みるみるうちに伸びた霜は、まるで南帝国で生産される極上の絹の原材である蚕糸のよう。痛々しく彩る血を洗い流し、十秒にも満たぬ時間で繭を編み上げる。

 

 長細く、完全な楕円を描く棺。さながら天が、せめて、ダキラの尊厳を保たんと差し向けた奇跡の御手だった。

 

「……ステイシア神よ。感謝いたします」

 

 これで憂いは、断ち切れた。

 

 もはや一片の冷たさもなく、内側から飛び出さんばかりに熱の通う体をもたげ、ファナティオは戦場に向き直った。

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 

 

 

 

 血の獣がいた。

 

 極度に膨張した筋肉の鎧。中でも柱のような両腕は足首に届きうるまで肥大化し、全長六メルを超える、巨人だったナニカ。

 

 だが、いっとう目立つのは裂けた額から伸びたおぞましい色の一本角だろう。

 

 もはや知性の全てをかなぐり捨てたか、唾液を撒き散らす叫びは言葉にすらなっていなかった。

 

「──来い。引導を渡してやる」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──────ッ!!!!!」

 

 反応したのは言葉か、殺意か。

 

 激しく地面を両腕で殴りつけ、その反動を利用して怪物がファナティオに飛びかかった。

 

 それを見据え、腰を落として剣を向けると目を閉じる。

 

 

 

(今の奴の俊敏性は未知数。単に武装完全支配術を用いても避けられるか、常識外の堅牢さで防がれるだろう。それは死を意味する)

 

 

 

 ダキラ達が繋いでくれた命。自分が倒れれば殺戮されるであろう兵達の為にも、無駄にしない。

 

 ではいかにして此れを討滅するか。放った後は制御の利かぬ光ではいけない。かといって並みの秘奥義でも歯が立たぬ。

 

 ならば。深く息を吸い、吐いて──告げる。

 

 

 

「────()()()()」 

 

 

 

 詠唱は省略。ただ、自分に向けられた《憎の心意》を大きく上回る《愛の心意》が、その力を解放する。

 

 窓が浮かび上がり、《天穿剣》が本領を発揮する。しかし輝きは刀身の中に凝縮され、宿ったまま。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ──!!」

「──ッ!! セェアッ!!」

 

 怪物の拳がその顔を叩き潰す、刹那。

 

 激しく踏み込み、怪物の胸の中でマントを翻したファナティオは虚空に半円を描く。

 

 

 

 一拍。

 

 直後、怪物の肘から先が両方とも切り飛ばされた。断面は高温の溶岩に触れたように溶解し、炭化している。

 

「■■■■■■■■■■ッ!!!??」

「はぁあぁッ!!」

 

 驚愕する怪物。着地したファナティオは続けて、地と並行に剣を振るう。

 

 四旋剣の奇襲で脆くなっていた膝は、ほとんど抵抗もなく両断できた。

 

 支えを失った赤達磨が倒れ込んでくる。三度、《天穿剣》を天に向けて構えた。狙いは頭上を覆う怪物の、大きく開かれた口内。

 

 愛剣が悲鳴を上げている。放射することに特化した神器は、想定外の使用方法に限界を訴えていた。

 

 

 

(まだだ! この一撃さえ、放てれば────ッ!!)

 

 

 

 それでもと、確固たる心意を以って、右手を引き絞り。

 

 

 

 

 

「ニ■ゲン、■ト■ガァ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ────────!!!」

「冥府に帰れ、死の魔物よッ────!!!」

 

 

 

 

 

 最大の閃光が、シ■ろ■■の視界を埋め尽くした。

 

 口内を貫いた光はそのまま後頭部まで到達し、ファナティオの振るわれた腕に従って肉体ごと左右に別つ。

 

 空中で二つとなった体は、不思議な無音を生み出した後に内側から膨れて弾けた。

 

 

 

 降り注ぐ赤い雨。事の成り行きを見守っていた人界軍、巨人達の双方が言葉を失う。

 

 彼らの視線の先、凛然と立つ騎士はジュウと白く湯気立つ《天穿剣》の熱をものともせず、握り直すと前方を示した。

 

「第一部隊突撃! 奴等を押し戻せっ!」

「「「おぉおおおおおおっ!!!」」」

 

 

 

 

 

 ──大峡谷中央、第一陣。《十候》シグロシグ、討伐。

 

 

 

 

 

 整合騎士ダキラ・シンセシス・トゥウェニティツー、討ち死に。及び残る四旋剣は武具喪失と負傷により戦線離脱を余儀なくされる。

 

 

 

 

 

 

 それを遙か後方から感じ取り、一人の騎士がほうと冷たく、重い吐息を漏らした。

 

 

 

 

 

 






読んでいただき、ありがとうございました。

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