ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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今回は文字数がかなり多いです。

楽しんでいただけると嬉しいです。


勇気を吠えろ

 徐々に目的地に近づくほど、ルークは言い知れぬ不安を感じた。

 

 それはセルカがまだ無事なのかという思いか、それともこの先に行くことを心が拒んでいるのか。

 

 その気持ちを抑えながら走り続けていると、ふと出口のすぐそばの岩壁にオレンジの光が揺れていることに気がついた。

 

 それに疑問を感じたのもつかの間、ついにドーム状のその空間に三人は飛び込んだ。

 

「っ、隠れろ!」

 

 その瞬間見えたものに、とっさに後ろの二人に呼びかけて身を隠す。

 

 やや大きめの水晶の裏に隠れた三人は、そっと顔を出してドームの中の様子を伺った。

 

 あいも変わらず広いこの空間は、床一面が全て分厚い氷と、そこに咲くように屹立する水晶で覆われている。

 

 そして、大きな前の牙の一方が失われた白竜の遺骨と、中央に唯一大きく割れた池のようなものがある。

 

 先ほど岩壁に反射していた光は、その池のすぐそばに立っている二つの篝火だった。

 

 黒い鉄籠の中でばちばちと燃える薪は薄暗い空間を照らしている。

 

「あれは……」

 

 が、三人の目線はそこにはなかった。

 

 数は三十ほどだろうか。二つの篝火のすぐ側、それを取り巻くように座っている複数の者達。

 

 彼らは遠目から見て、立っている個体でもルークたちの胸ほどもない背丈だった。

 

 

 しかし、ただの獣ではない。

 

 

 横幅のある体躯や鋭い鉤爪のついた異様に長い腕、くすんだ灰緑色の肌。

 

 耳の周りを除いて禿げ上がった頭に尖った鼻、突き出た額の下に収まるギョロリとした二つの目。

 

 革製の鎧や骨や毛皮で作られた腰巻、手に持った鋳物らしき蛮刀(マチェーテ)が彼らが知性を持っていることを伺わせる。

 

「あれって……」 

「──ゴブリン」

「本当にいたのか……!」

 

 果ての山脈にゴブリンの集団が出た、と言う噂は村で聞いたことがあるが、まさか真実だったとは。

 

 いかな衛士であるルークとて、初めて見るおとぎ話の中の怪物に、少しだけ体が震える。

 

 だが、それも一瞬のこと。ここへ来た目的を思い出せば、今更怖気付いていられない。

 

「それよりも、セルカは──」

 

 右後ろにいたユージオが、そう言って空間の中を見渡す。

 

 つられて残りの二人も探して……ほぼ同時に、ゴブリンたちの側にある荷台に乗せられた少女を見つけた。

 

 体を荒縄で縛られ、気絶しているようだが──あの修道服と髪色は、間違いなくセルカである、

 

「セルカ!」

「ッ!?」

「おいっ、ユージオッ!?」

 

 見つけたまでは幸い。しかし、思わず立ち上がってユージオが叫んでしまったことが不幸だった。

 

 案の定、ゴブリンたちはこちらに気がついて、濁った目に様々な感情を浮かべる。

 

 

 

 不審、驚き、喜び──そして飢え。

 

 

 

 ありとあらゆる悪意を詰め込んだのではないかと言うその瞳に、ルークはまた体が強張った。

 

 キリトはこの世界に住人(人工知能)の原理、それに基づいた場合の、彼らにも存在する本物の悪意に驚愕する。

 

 事の発端であるユージオは、やってしまったと言う感情とゴブリンへの恐怖で立ち竦んでいた。

 

「おい見ろや、また白イウムのガキが三匹も転がり込んできたぜぇ!」

「どうする? こいつらも捕まえるかぁ?」

 

 そして、耳障りな声で彼らは喋った。

 

 醜悪な見た目にふさわしい声でそう言ったゴブリンに同調するように、キィキィと他の連中も騒ぎ立てる。

 

 座っていたゴブリンは武器を手に取り、既にそうしていたものは新たな獲物に更にやかましく鳴いた。

 

 

 

「「ぐらぁっ!」」

 

 

 

 突如、洞窟の奥から二つの大きな雄叫びが響く。

 

 それを聞いた途端に、ゴブリンたちは騒ぐのをやめた。そうするとバラバラと左右に分かれていく。

 

 生まれた道を歩いてきたのは、二体のゴブリン。

 

 おそらく隊長なのだろう二体はどちらも背丈が高く、ルークたちより少し上ほどか。

 

 一体は筋骨隆々のゴブリン。鱗鎧に身を包み、腰には大振りのマチェーテ。頭には羽飾りをつけている。

 

 もう一体は、片割れとは対極に極限まで絞りきった体だった。膝ほどまである長腕にはそれぞれ一本ずつ武器が握られている。

 

「男の白イウムなんざ、連れて帰っても売れやしねえ」

「面倒だ、ここで殺して肉にしてしまおう」

 

 野太い声で片割れが言えば、小さなゴブリンたちよりさらに甲高い声でもう一方が同調した。

 

 そのどちらも、赤い瞳の中に残虐と言えるほどの悪意と、この部屋よりもさらに冷え切った知性がある。

 

「あ……」

「くっ……!」

 

 ユージオの口からかすれた声が漏れる。明らかに強そうな二体と、多勢に無勢な数のゴブリンにキリトは冷や汗を流した。

 

 そんな二人の腕をぐいと引っ張り、ルークはもう一度物陰に引き込むと、そっと彼らの耳元に顔を寄せる。

 

「いいか、よく聞け。俺が雑魚を何匹かやる。その隙にお前らはあの篝火を倒して、あそこから剣を取れ」

 

 篝火の近く、様々な武器が散乱しているところを指差すルーク。

 

 既に戦う覚悟を決めたルークの横顔に呆気に取られながらも、キリトはグッと顔を引き締めた。

 

「……わかった。そうしたら俺はあっちのデカブツをやる」

「頼んだ。俺はあっちのヒョロ長いのを相手するから、その間ユージオは他の奴らを近づけさせないようにしてくれるか?」

「……僕、剣で戦ったことなんてないよ」

 

 不安そうに瞳を揺らすユージオに、ルークは後悔した。

 

 もしも自分が自らの世界に閉じこもらず、昔のように剣を教えていたらと思うが、今はそんな場合ではない。

 

 かける言葉をうまく見つけられず、ルークはユージオの両方を掴むと、はっきりとした口調で言った。

 

「お前ならできる。斧を使っている時を思い出せ、あいつらを木だと思えばいい」

「そ、そんな無茶な……!」

「ルーク、時間がないぞ!」

「ああ……ユージオ。この光、無くすなよ」

 

 腰に挿している草穂を失わないように指示をしながら、ルークは振り返った。

 

 もうすぐそこまでゴブリンたちは迫っている。ここ数年培ってきた鍛錬の成果を見せる時だ。

 

「ふぅー……」

 

 瞑目して深く息を吸い、そして吐く。

 

 次に目を開けた時──ルークの目には、もう純粋な戦意のみが宿っていた。

 

「はぁああああっ!」

 

 雄叫びをあげながら、物陰から一直線に飛び出していく。

 

 全力で疾走し、驚きと疑念に満ちた目をするゴブリンたち目掛けて突撃した。

 

「なんだこの白イウム、バカじゃねえのか!?」

「やっちまえ!」

「ふっ!」

 

 ゴブリンたちが武器を振り上げるより早く、ルークの右手は柄を握る。

 

 抜刀、からの大きな踏み込みによる横薙ぎによって、ゴブリンの首を一瞬にて二つ跳ね飛ばした。

 

 ドサリ、と後ろで重いものが倒れる。遅れて首が落ち、最後に床の氷に武器が当たってけたたましい音を発した。

 

「…………弱いな」

 

 剣を振り切ったルークの心に、思ったよりも恐怖はない。

 

 同じ言葉を話している故に迷いが生じるかと思ったが、一切の躊躇はなかった。

 

 

(これなら……いける!)

 

 

 怖気付いていない、そう確信したルークは唖然としているゴブリンたちに再び疾走した。

 

「なんだこいつ、強いぞ!?」

「はぁっ!」

 

 さらに二匹のゴブリンを難なく斬り伏せたことで、ルークは二人のための道を開く。

 

「今だ!」

「「うぉおおおおっ!!」」

 

 ルークの両脇を通り抜け、キリトとユージオが駆け抜ける。

 

 二人の体当たりで篝火は打ち倒され、地面の水溜りに散らばった火はあっけなく消えた。

 

「よし……!」

「ギギャァ!」

 

 思わず呟いたルークは、後ろから飛びかかってきたゴブリンの腹に素早く回し蹴りを入れて遠ざける。

 

 宙に浮いたゴブリンを斬り捨て、さらにもう三匹ほど前からやってきたゴブリンを相手する。

 

 一体目は得物を弾き、その隙に喉を斬った。

 

 二体目は下からすくい上げるような膝蹴りを鳩尾に入れ、浮いたところを柄頭で殴り殺した。

 

 そのタイミングで三体目が飛びかかってきて、咄嗟に背負った剣の柄を掴むと振り回す。

 

「グギャッ!?」

「……っ?」

 

 血の螺旋を描きながら吹っ飛んでいったゴブリンに、ルークはふと自分の手に目を向けた。

 

 

(片手で……持てる?)

 

 

 つい先ほどまでズッシリと重みを与えてきた剣は、ルークの左手の中に収まっていた。

 

 これまでどれだけやっても両手でしか持ち上げられなかったそれが、不思議と軽く感じるのだ。

 

「ユージオ! そいつで追い払え!」

「う、うん!」

「っ!」

 

 何故、と考えだそうとしたルークの耳に、仲間たちの声が入ってきた。

 

 反射的に振り向けば、キリトがユージオに向けて剣を投げ渡している。

 

 それを確認したルークは一旦疑問を収め、ボスの一人に意識を定めた。

 

「相手してもらおうか!」

「ふん、白イウムのガキが!」

 

 気迫のこもったルークの雄叫びに、ボスは双剣を胸の前で交差してこちらへ走り出す。

 

 ルークも剣の柄を両手で握りしめ、下段に構えて前傾した体を躍動させた。

 

「グギラァッ!」

「はぁっ!」

 

 衝突の瞬間、激しい火花が両者の目を眩ませる。

 

 高い金属音と共に交差した剣と一本の剣がせめぎ合い、至近距離で歯を剥き出して互いに威嚇し合う。

 

「ふっ!」

「ギャォッ!」

 

 力を抜いて双剣をいなし、その場で左足を前へと踏み込んで懐へと侵入する。

 

 体ごと一回転して遠心力をつけ、腹に向けて渾身の力で剣を薙ぎ払った。

 

 しかし、ボスゴブリンとて馬鹿ではない。瞬時に身を引くことで、薄皮一枚でその一撃を躱した。

 

「このガキが、舐めんじゃねえ!」

「くっ!」

 

 下からの振り上げる一撃を、咄嗟に腰の鞘で防ぎ、上からの袈裟斬りを片手で受け止める。

 

 挟み込むような一撃をどうにか凌いだルークは、ボスゴブリンの腹を蹴るとくるりと宙返りをした。

 

 着地して、プラプラと下半分がちぎれそうな鞘を投げ捨てる。

 

 

(キリトは……あっちのデカイやつの相手をしてるな。ユージオもちゃんと追い払っている)

 

 

 立ち上がりつつ仲間の様子を把握して、ルークは静かに剣を構え直した。

 

「この《大蛇狩りのドード》様に、よくも傷をつけてくれたな」

「へえ、それって俺の小指くらいの蛇のことか?」

「白イウムがああああああ!」

 

 激昂したボスゴブリンは、たった三歩でルークの前まで踏み込んでくると双剣を振るった。

 

 非常に長いリーチから繰り出される剣戟は嵐のようで、一歩でも間違えれば体を切り裂かれるだろう。

 

 ルークは深く注意力を発揮しながら、その全てを紙一重で避けていく。

 

 

(速度は凄いが、力はそこまでじゃない。いける!)

 

 

「はぁあああああっ!」

「グゥウッ!?」

 

 やがて、剣の軌跡を把握したルークは反撃に転じた。

 

 ボスゴブリンの連撃の隙間に一撃を差し込み、一方的に相手の体を切り裂いていく。

 

「そんなものか、大蛇狩りとやらッ!!」

「調子に乗るなよ、白イウムのガキごときがっ!!!」

 

 ボスゴブリンの剣がさらに素早さを増す。

 

「ハッ!」

「ゴブッ!?」

 

 しかし、所詮速さが上がっただけ。

 

 その軌跡が変わることがないのなら、避ければいいだけのこと。

 

「て、テメェ……」

「シッ!」

 

 再び左手で振るった剣の鞘による不意打ちで鼻をへし折られ、ボスゴブリンは大きくのけぞる。

 

 勝った。

 

 そう確信したルークは、最後の一撃を入れようと肉薄し──

 

 

 

 

 

「ユージオッッ!!!」

 

 

 

 

 

 しかし、キリトの悲痛な叫びに意識を奪われた。

 

 飛び出した体はそのままに、視線がそちらへと吸い寄せられる。

 

 その目に映ったのは──もう一匹のボスゴブリンに腹を切り裂かれ、宙を舞うユージオの姿だった。

 

「ユージ──」

「グラァアアッ!!」

 

 その瞬間、ギンと目を光らせたボスゴブリンが両手を振り回す。

 

 長年の修練で染み付いた癖で咄嗟に振りかけていた剣を引き戻すと、凄まじい衝撃が刀身を襲った。

 

 渾身の一撃だったのだろう、バキン! と音を立てて衛士用の剣が真っ二つに折れる。

 

「オラァッ!」

「ごっ……!?」

 

 茫然とするルークの鳩尾に、ボスゴブリンの足の裏が突き刺さった。

 

 ほんの一瞬意識が飛ぶ。その間にルークの体は吹っ飛び、何度も地面に打ち付けられてからようやく止まった。

 

「ぐ、げぼっ……」

 

 苦悶の声と一緒に、口から赤黒い血が溢れ出す。

 

 どうにか折れた剣を支えに立ち上がろうとすると、胸に鋭い痛みが走った。

 

 

(骨が内臓に……! クソ、俺としたことが油断した!)

 

 

 一秒にも満たない刹那ではあったが、あのボスゴブリンから意識を逸らしてはいけなかった。

 

 いいや、そうではない。それよりも自分の大切な幼馴染みはどうなって──

 

「ユージオ! しっかりしろ、ユージオッ!」

「キ、リト……」

 

 あ、という声が口から零れ落ちた。

 

 床に倒れ伏したユージオの腹から、これでもかという量の血が流れ出している。

 

 

 

 遠目から見ても、確実に致命傷だ。

 

 

 

 それを証明するように震えるユージオの手を、キリトが握っていた。

 

「ユージオ、目を閉じるな! 頼むから死なないでくれ!」

「子供の、頃……約束、したろ……?」

「え……?」

「僕と……キリトと……ルークと……そしてアリスは……生まれた日も、死ぬ日も一緒だって……」

 

 弱々しく、ユージオの言葉が洞窟に響く。

 

 紐が千切れて広がった髪の奥で、ルークは目を見開いた。

 

 儚げに笑う血に濡れたユージオの微笑みは、かつての思い出を思い起こさせる。

 

 

 

 遠い昔──まだアリスがいた頃に、()()()そう誓ったことを。

 

 

 

「今度こそ……守る、ん、だ……」

 

 ユージオの手が、キリトの手の中から滑り落ちて。

 

 それきり、ユージオは動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

(──俺は、何をしているんだ?)

 

 

 

 

 

 

 

 ドクン、と心臓が脈動した。

 

 極限まで見開かれた瞳には、傷つき倒れた幼馴染と、項垂れる()()()()()()()()が映っている。

 

 自分の一番大切なもの。たとえ他の何を失おうと、決してそれだけは手放したくないと願っていたもの。

 

 それが今、目の前で傷付けられた。

 

 

(──俺がこいつらを守るんだって、そう決めたはずなのに)

 

 

 共に生き、共に死のうと誓ったあの日に、密かに一人、自らに誓った。

 

 だというのに、自分は……

 

「テメェも終わりだ、白イウム。すぐに肉塊にしてやるぜ」

 

 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、ボスゴブリンがゆっくりとルークに歩み寄る。

 

「…………俺は」

「あん?」

 

 ぽつりと響いた呟きに、その足が止まった。

 

「俺は、守ると誓った。守ってみせると決めた。守らなくちゃいけないと、そう決意した」

 

 ゆっくりと、ルークは立ち上がる。

 

 その拍子にまたジンジンと痛む胸の傷は酷く、手に持った剣はもう使い物になりはしない。

 

 だが、それ以上に。顔を俯かせたルークは、長い前髪で隠れた瞳に怒りを宿す。

 

「なのに、俺はいつの間にか自分のことしか見てなかった。俺ばかりが戦おうとして、あいつらを見なかった──ならばそれは、許されざる罪だ」

「何をゴチャゴチャと意味の分からねえことを……守るも何も、テメェは俺たちの餌になるんだよッ!!」

 

 今度こそ止まることなく、ボスゴブリンは走り出す。

 

 迫り来る〝死〟を前にして、ルークは壊れた剣を投げ捨てる。

 

 代わりに革紐を無理やり引きちぎって剣を手に取ると、鞘を左手で握りしめ、半身を引いて姿勢を落とした。

 

「グガラァァアッ!」

「………………」

 

 そして右手を柄に添えた瞬間、肉薄したボスゴブリンの双剣が目の前で振り下ろされた。

 

 それを前にして目を瞑ったルークの心は──これまでにないほど、澄み切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

(もしこの世界に、本当に神様がいるのなら。俺にできることなら、なんだってします)

 

 

 

 

 

 

 

          ──ろ。

 

 

 

 

 

 

 

(俺が何かを望むことが罪だというのなら、どんな罰だって受けます)

 

 

 

 

 

 

 

         ──えろ。

 

 

 

 

 

 

 

(だから、どうか俺に──守る力をください)

 

 

 

 

 

 

 

      勇気を、吠えろ。

 

 

 

 

 

 

 

「死ね、白イウムがぁああああッ!!!」

 

 叫ぶボスゴブリン。その剣は憎たらしい小僧の頭目掛けて振り下ろされる。

 

 彼の頭の中には確かに、真っ二つに裂けて血の噴水を作る白イウムの姿があった。

 

 

 

 

 

 キン。

 

 

 

 

 

「……あ?」

 

 ふと、彼は自分の両手が軽いことに気がついた。

 

 そして自分の両腕を見下ろすと──肩より下がない。

 

「な、お、俺様の腕が……!?」

 

 自分の強さに絶対的な自信を持っていた彼は、腕を失ったことによる激痛よりも困惑の方が勝っていた。

 

 何故だ、どこだ、と見渡して、目当てのものが足元に転がっているのを見つけた。

 

「なんで俺様の腕がこんなところに──」

「それはもう、お前には必要ない」

 

 白イウムの声が、後ろから聞こえた。

 

 その瞬間全てを悟り、心の底から溢れ出た憎悪のままに振り返ろうとする。

 

「てめぇッ! よくも俺様の腕を」

 

 

 

 スパン。

 

 

 

「ぐげっ……?」

「永久に眠れ、我が聖域を穢した侵略者よ」

 

 だが、彼が最後に見たものはゆっくりと倒れ伏す首無しの自分と。

 

 一点の曇りもなく輝く、美しい刀身だった──。

 

 

 

 

「な、ドードが……!」

「あれは……!」

 

 もう一人のボスゴブリン……《蜥蜴殺しのウガチ》と、彼と戦っていたキリトはその光景を見て驚愕する。

 

「………………」

 

 

 

 死したドードの側に立つルークは、その姿を大きく変えていた。

 

 

 

 肩甲骨まで届こうかという白銀の髪が、()()()()()()()()()()()が動くのに合わせ揺れる。

 

 

 

 冷涼とまで言える静かな瞳は黄金に輝き、どことも知れぬ場所を黙して見つめていた。

 

 

 

 そして何より、その手に握る剣。

 

 

 

 鍔さえもなく、無骨な装いだった柄は精緻な装飾を施されたものとなり、柄頭の飾りに四つの宝玉が嵌め込まれている。

 

 

 

 初めて露わになった純白の刀身は根本が尖り、柄頭の飾りと同じ紋章が彫刻のように刻み込まれており。

 

 

 

 それを握るルークの姿は、まるで──

 

 

 

「あ…………」

 

 突然、ルークの口から声とも呼べぬ音が漏れる。

 

 それに合わせ、剣を振り切った体勢の体から急速に力が失われ、後ろへと倒れていった。

 

 それに合わせるように翼が消え、剣が手から滑り落ちて、ルークの意識は朦朧としていく。

 

 

 

 

 

 

 

「ルーク!」というキリトの声を最後に、彼の意識は暗闇へと落ちていった。




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