ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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第一章最終話です。

てんこ盛りだよ。

楽しんでいただけると嬉しいです。


ここから、始まる。

「──セルカ! ユージオッ!」

 

 かばりと起き上がり、覚醒してから開口一番に二人の名を叫ぶ。

 

 見開かれた目の奥にフラッシュバックする洞窟での光景に、荒く呼吸を繰り返した。

 

「はぁ、はぁ……ここは、どこだ?」

 

 少しずつ気持ちが落ち着いて来ると、訝しげな目で周囲を見回す。

 

 するとどうやら、自分の部屋であることがわかった。いつも使っているベッドで眠っていたらしい。

 

「俺は……一体何がどうなって……」

 

 ズキズキと痛む頭に手を置き、必死に記憶を掘り起こす。

 

 最後の記憶は、ボスゴブリンの首を自分が跳ね飛ばした光景。それを最後に映像は途切れている。

 

 それに関連して、骨が折れていたことを思い出して右胸を見ると、真新しい包帯が巻かれている。

 

 他にも何ヶ所かに治療が施してあり、どうやら自分が思っていた以上に負傷していたようだ。

 

「すぅ……すぅ……」

「……母さん?」

 

 そこでようやく、自分の足を枕にして眠る母がいることに気がついた。

 

 若々しい寝顔は朝日に照らされ、非常に穏やかだ。

 

「……ありがとな、母さん」

「んんっ……ルー君……」

 

 起こさないように優しく頭を撫でて、それからふとあることが気になる。

 

 印を切って、自らの《ステイシアの窓》を呼び出すと……驚くべきものが刻まれていた。

 

 

 

 ──────────

 

 UNIT ID : NND5-8876

 

 4758/4863 DURABURUTY

 

 Object Control Authority : 49

 

 Unique Object Authority Holder

 

 ──────────

 

 

 

「天命がものすごく増えてる……」

 

 4000を少し超えるほどだった天命が、大幅に上昇していた。

 

 一番下の神聖文字はよくわからないが、剣などを扱うための力が、あの白剣の数値を上回っている。

 

 

(あの洞窟でゴブリンを倒したから……か?)

 

 

 思いつく理由といえば、洞窟での死闘。あれがさらなる力をルークに与えてくれたのだろう。

 

 そういえば剣はどこだと部屋の中を見ると、枕元に立てかけてあった。

 

「ずいぶん様変わりしたな、相棒」

 

 以前の無骨な姿は何処へやら、洞窟で見た見事な装飾の柄に触れて笑う。

 

「……抜けるか?」

 

 思い切って柄を掴み、ぐっと力を込めて腕を上へと動かす。

 

 だが、ビクともしない。

 

「よっ……」

 

 眉を顰めたルークは、今度はなんとなくボスゴブリンと対峙していた時の気持ちになってもう一度試みた。

 

 すると、あっけないほどにすらりと剣は抜け、美しい純白の刀身を現す。

 

「おお、綺麗だな」

 

 中ほどまで抜いた刀身を初めて見たルークの感想は単純であった。

 

 以前より遥かに軽く感じる剣を鞘に収めたところで、セフィアが身じろぎする。

 

「んう……はれ? ルー君?」

「おはよ、母さん。なんか看病してくれたみたいだけど、ありがとな」

「うわぁあああん! ルーくぅううん!」

 

 寝起き早々、大号泣したセフィアはガバッと抱きついてきた。

 

 わんわんと大泣きする母に、ルークは仕方がないというように笑って背中を叩く。

 

「ごめんな、心配かけて」

「ううん。こうして目覚めてくれたんだからいいのよ。本当に、良かった……」

 

 涙ぐむ母の懐の深さを感じ、ルークは気恥ずかしくなって後頭部をかいた。

 

「それで、俺はどれくらい眠ってたんだ?」

「一週間くらい。胸の骨が肺に突き刺さってて、すごく天命が減ってたの。セルカちゃんが応急処置してくれたみたいで、ギリギリのところでキリト君が、ぐったりしたユージオ君と一緒に村に連れて帰ってきて……」

 

 そこでちらりと、セフィアは部屋の隅を見た。

 

 一体なんだとそちらを見ると……血の滲んだ皮袋が置いてある。

 

 中に入っているものはおそらく、あのボスゴブリンの……そう考え、「そうか」とだけルークは言った。

 

「他に変わったことは?」

「あ、そうなの! 落ち着いて聞いてね、実は──」

 

 その後のセフィアの話は、ルークにとってこれまでにないほどの衝撃だった。

 

 他にもいくつか話を聞いてから、酷く減った腹を満たすために朝食を食べて、その後に外出ることにした。

 

 セフィアには心配されたが、どうしても確認したいことがあったため、少しよろける体に喝を入れる。

 

「っと……眩しい」

 

 何日も眠っていたためか、扉を開けた瞬間飛び込んできた陽光に眼を細めた。

 

「本当に大丈夫?」

「ああ。今日は衛士の仕事は休んでいいんだろ? 別に無茶はしないからさ、少し村の中を散歩するだけだよ」

「そう……気をつけてね?」

 

 なおも心配する母にわかった、と答え、白剣を肩に担いで家を出る。

 

 

 

 一週間ぶりの村の様相は、いつもより華やかだった。

 

 そこかしこにある飾り付けや、浮き足立つ村人達の様子は、やはりセフィアから聞いた〝あの話〟の影響だろう。

 

 中央広場に行くとそれは更に顕著になり、何かの準備をしていた村人達はルークの姿を捉えると近づいてきた。

 

 心配する村人、洞窟のことを聞きたがる子供、一見なんともなさそうなルークを侮る同世代の少年たち。

 

 最後の連中にはボスゴブリンのことをある程度聞かせて慄かせてから、ルークは教会へと向かった。

 

「すみません、シスター・アザリヤはいますか」

 

 扉を軽く握った拳で叩き、声を張り上げる。

 

 それから何歩か下がって待つと、数分もせずに扉が開いて初老の女性が顔を出した。

 

 その女性……シスター・アザリヤは、ルークの姿を捉えると驚いた後、僅かに微笑む。

 

「どうやら傷の具合は良いみたいですね」

「お陰様で、どうにか目覚めることができました。改めて、今日は礼を言いに」

「そうですか。ちゃんと静養してから、職に戻りなさい」

「はい」

「ルーク……?」

 

 ふと、シスター以外の声がルークを呼ぶ。

 

 彼女の後ろを見ると、半分ほど開かれた扉の奥にある教会内の食堂に、一人の少女が立っている。

 

 シスターも気がついて振り返ると、その途端に彼女──セルカは走り出して、中から飛び出てルークに抱きついた。

 

「ルークっ! 良かった、生きてる……!」

「っと、心配かけたみたいだな」

 

 なんだか一時間前にもこんなことがあったような、と思いつつ、セルカの頭をぎこちなく撫でる。

 

 それでもひしと抱き付いて離れないセルカに、ルークはシスターの方を向いた。

 

「すみません、少しだけ話してもいいですか」

「……神聖術の勉強の時間までには返してください」

 

 そう言って、シスターは静かに扉を閉めたのだった。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 広場まで戻った二人は、噴水に腰掛けて話すことにした。

 

「落ち着いたか?」

「ええ。ごめんなさい、はしたなかったわ」

「気にすんなよ。昔はよく抱き付いてきたぞ?」

「もうっ、何年前の話をしてるのよ!」

「ははっ」

 

 可愛らしく憤慨するセルカに笑いながら、ルークは自分が普通に話せていることに気がついた。

 

 もう心に怯えはない。どうやら洞窟での一件は、ルークにある程度の勇気を与えてくれたらしい。

 

 

 

 

 

 ──勇気を、吠えろ。

 

 

 

 

 

(あのとき聞こえた声は、一体誰の……)

 

「ルーク? 大丈夫?」

「ん、ああ。ちょっと考え事してただけだ」

「そう……本当に平気なのね?」

「大丈夫だって」

 

 しきりに身を案じてくるセルカを、なんとか宥める。

 

 しかし内心では、長年冷たい態度を取ってきたのにここまで気にかけてくれるセルカに罪悪感を覚えていた。

 

「と、とにかく俺はなんともないから」

「ならいいんだけど……」

「……ごめんな」

「え?」

「今までずっと避けて、本当にごめん。もっとちゃんと向き合うべきだったのに」

 

 体の向きを直し、深く頭を下げる。

 

 謝ることそれ自体を恐れていたルークだったが、不思議と今ならこうすることができる気がした。

 

 いっそ罵られることさえも覚悟して待つが……聞こえてきたのは、ぷっという吹き出す音だった。

 

「あ、あははっ」

「せ、セルカ?」

「ルーク、あなた気にしすぎよっ、私怒ってなんかないのに、あははは!」

 

 予想と真逆の反応が返ってきて、ルークはどうしていいのかわからなくなった。

 

 中途半端な姿勢で固まっているルークに、ひとしきり笑ったセルカは両手でその顔を包んだ。

 

「確かに、ずっと避けられてたのは悲しかったわ。でもルークがあの時のことを真剣に悩んでくれてるのはわかってたし、それに……」

「それに?」

「ちゃんと、助けに来てくれたでしょう?」

 

 嬉しそうに言うセルカの笑顔は、これまで自分が一人で抱え込んでいたことがバカらしくなるほど純粋で。

 

 

(……そっか。もっと簡単なことだったんだな)

 

 

 ほんの少しの勇気があれば、変えることができる。

 

 そう思えて、どっと気が抜けたような気分になったルークだった。

 

 ほとんど力のこもっていない柔らかな両手から顔を引き抜いて、ルークはセルカに笑いかける。

 

「なんにせよ、セルカが無事で良かったよ」

「うん、三人のお陰でね」

 

 そこで一旦、会話が途切れた。

 

 もともと何年も話していなかったのだ、さして会話のネタがあるわけではない。

 

 どうしようかと視線を右往左往させて、ふと一つとっておきの話があることに気がつく。

 

「そういえば、ついに倒れたんだってな」

「あ、ええ。最初に見たときはびっくりしたわ──あのギガスシダーが、倒れるなんて」

 

 二人揃って、南の森の方を向く。

 

 村からでも見えるほど巨大だった漆黒の大樹は、どこを見てもその影も形もありはしない。

 

 ソルスとテラリア、その両方の恵みを長らく吸い上げていた悪魔の大樹が、ついに伐採されたのだ。

 

「俺が眠ってる間に、キリトとユージオは偉業を達成したわけだ」

「あの光景を一度見たら、一生忘れないわ」

 

 セフィアの話によると、昨日の昼頃に突然地響きがしたと思ったら、ギガスシダーが倒れた。

 

 三百年の月日をかけて削り続けてきた悪魔の木を遂に倒したことで、村は大騒ぎ。

 

 村役場の大人たちでの会議の結果、今は宴の用意をしているらしい。

 

 それを成した件の二人は、今はここにはいないようだ。

 

「……ユージオは、きっと村を出るだろうな」

「……そうね」

 

 ギガスシダーを切り倒したということは、刻み手としての天職を終えたということ。

 

 掟では、天職を全うした者は次の天職を好きに選ぶことができる。

 

 自由になった今、ユージオがアリスへの思いを天職と掟で抑え込む必要は、もうないのだ。

 

「あいつはやると一旦決めたらとことん頑固だ。アリスを探すために剣士になるだろう」

「ルークはどうするの?」

「俺は……」

 

 自分はどうしたいのか。

 

 それはこの6年間ずっと考えてきたことで、たった一週間前にセフィアに背中を押されたこと。

 

 ユージオが覚悟を決めるのなら……

 

「俺も、村を出る。そしてザッカリアの街の衛兵隊に入って、央都に行く」

「やっぱりね。ルークならそう言うと思ったわ」

「不思議なんだが、あいつらとならどこまでも行ける気がするんだ」

 

 あのとき、瀕死のユージオの言葉を聞いて昔の記憶が思い浮かんだ。

 

 

 笑い合うユージオと黒髪の少年、それに微笑むアリス……そして、彼らの肩に腕を回している自分。

 

 

 この村で生まれたときからずっと変わらない、夕暮れの中を騒がしく一緒に帰る思い出。

 

 最初からそうだったように、欠けていたピースが埋まったように、その光景が心に染み込んだ。

 

「資格はある。覚悟も決めた。もう何も、気兼ねする必要はない」

 

 街の剣術大会に参加するには十年衛士の職をこなさなければならないが、ルークは他の子供より天職を授かるのが早かった。

 

 ダークテリトリーにある闇の国からの偵察隊を退けたのだ、村長も駄目だと突っぱねることはできまい。

 

「ふふ、またジンクが先を越されたって悔しがるわ」

「ま、あとのことはあいつに任せるさ」

 

 昔から何かと突っかかってくる衛士長の息子を思い浮かべて、互いに笑い合った。

 

「じゃあ、俺は行くよ。村長のところにも話をしに行かなきゃいけないから」

「うん、私も教会に戻るわ。シスターとして神聖術の勉強を頑張らないと」

「……前にも言ったけどさ。あんまり張り切りすぎるなよ。お前はアリスになる必要はないんだから」

 

 そう言いながら、ごく自然にルークはセルカの頭に手を置いた。

 

 セルカが驚きに目を開くと、ルークもいつの間にか昔の癖が出ていたことに気がついて慌てて手を退けた。

 

「す、すまん」

「別にいいわ……それじゃあね、ルーク」

「ああ」

 

 立ち上がり、二人はそれぞれの向かう場所へと足を向けた。

 

 

(変わるんだ、俺も)

 

 

 歩き出したルークの目には、はっきりとした光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 それから瞬く間に時は流れ、夜の帳が下りる。

 

「はは、すげえなこりゃ。村人全員参加してるんじゃないのか?」

 

 中央広場の隅で、普段は食べることのない生の肉を焼いた串焼きを堪能しつつぼやくルーク。

 

 

 

 煌々とした篝火がいくつも焚かれた広場には、年末の大聖節のお祈りよりも多いのではないかという数の村人がいる。

 

 噴水の傍らの舞台では様々な楽器が賑やかな音を奏で、それに合わせて踊る人々の手拍子と靴音が響く。

 

 あまり踊りが得意ではないルークは参加こそしていないものの、それを眺めて楽しんでいた。

 

「ルー君〜」

「あ、母さん……って、酔ってるのか?」

 

 フラフラとした足取りでやってきたセフィアは、ほんのりと顔を赤らめている。

 

 両手で持つジョッキの中に入っているのは、おそらく果実酒か何かだろう。

 

 元からぽわんとしていた雰囲気が更に軽くなっており、花でも飛んでいるようだ。

 

「ったく、何杯飲んだんだよ」

「んーとねー、これくらーい」

 

 人差し指と親指で表した量は、ジョッキの半分もなかった。

 

 仕方がないなとため息を吐きながらも、ルークは頬が緩んでしまう。

 

「ほら、ここ座って。何か食べ物いるか?」

「じゃあね〜、ルー君の持ってるそれちょうだい〜」

「はいはい」

 

 更にいくつか乗っていた串焼きのうち一本を渡すと、セフィアは無言で頬張り始める。

 

 我が母ながら小動物じみた様子に苦笑し、ルークは宴の喧騒へと視線を戻した。

 

「母さん」

「ん〜?」

「宴、楽しいか?」

「ん……うん、楽しいわ。お酒もお料理も美味しいし、みんな笑ってるもの」

「そっか」

「ルークが守ったのよ?」

「……俺だけの力じゃないけどな」

 

 結局自分は途中で気絶したし、あの後キリトがもう一体のボスゴブリンを倒したことで撤退した。

 

 村役場にキリトが証明として差し出した首の話を思い出していると、ふと頭を撫でられる感触がした。

 

「ルークはとっても頑張ったわ。きっとお父さんもそう言ってくれる」

「父さんか……なあ、母さん」

 

 そこで一旦言葉を切り、セフィアへと向き直る。

 

 突然真剣な顔で振り向いた息子に、やや酔っていて思考が曖昧なセフィアは首を傾げるが……

 

「俺、央都に行ったら父さんを探そうと思う」

「……え?」

 

 次の言葉で、すっかり酔いは覚めた。

 

「ユージオたちと一緒に衛兵隊に入って央都に上がって、そこで父さんの行方を探す。それで父さんがまだ使命ってやつに縛られてるなら一緒に解決して……いつか、二人で帰ってくる」

「ルーク……」

「やっぱりさ、大切な人は側にいないとダメなんだ。もしかしたら見つけることすらできないかも知れないけど……それでも俺は、父さんと母さんに一緒にいてほしい」

 

 かつて、アリスを救うことができなかったことでそれを痛感した。

 

 今回セルカをも失いかけて、ルークの中に再び強くその想いが芽生えたのだ。

 

「母さんは、父さんと一緒にいたいか?」

「……ええ。でも貴方が無理に頑張る必要はないのよ?」

「これは俺のやりたいことなんだ。アリスを探すのと同じくらいに」

「そう……」

 

 セフィアが顔を俯かせる。

 

 流石に生意気だったか、と思ったのも束の間、セフィアとの距離が近くなった。物理的に。

 

「ふふ〜」

「ちょ、なんだよ母さん。引っ付いてきて」

「立派な息子を持てて、お母さん嬉しいわ〜」

 

 また酔いが再発したのか、あるいは単純に感情が昂っているのか、セフィアは離れない。

 

 こうなるとどうしようもないので、仕方なく受け入れた時──不意に音楽が止んだ。

 

「……ユージオ」

 

 何事かと宴の会場を見れば、舞台の上に幼馴染がいるではないか。

 

 その腰には《青薔薇の剣》が吊るされており、隣にいる彼の父よりも精悍な顔つきでそこに立っている。

 

「さてみんな、宴もたけなわだが聞いてくれ!」

 

 ユージオの隣に立った中年の男……村長ガフスト・ツーベルクが声を張り上げる。

 

 ついに始まった。傍らに立てかけた白剣の柄を無意識に握り、ルークはじっと舞台を見つめた。

 

「我らが父祖の大願はついに果たされた! 南の肥沃な土地からテラリアとソルスの恵みを好き続けてきた悪魔の大樹が、ついに倒されたのだ!」

 

 わっという歓声が村人たちから上がった。

 

 これは貧困に喘いではあらずとも、長らく富んではいなかった村にとって非常に喜ばしいことだ。

 

 新たな畑、新たな牧場、ルーリッド村は更に発展するだろう。

 

「それを成し遂げた若者──オリックの息子ユージオよ、ここに!」

 

 ユージオが舞台の上から正面を向いた途端、二度目の歓声が起こった。

 

 口々に賛美や喝采を飛ばし、拍手を送る村人たちと一緒に、ベイリー親子も手を叩いた。

 

「掟に従い、見事天職を果たしたユージオには、自ら次の天職を選ぶ権利が与えられる!」

 

 そしてルークの予想通りに、ユージオには選択権が与えられた。

 

 木こりを続けるもよし、父の跡を継いで畑を耕すもよし、と言うガフストだが、ルークはもう答えがわかっていた。

 

 ふとキリトの姿を探すと、自分と同じような表情をしたセルカと共にユージオのことを見守っている。

 

 

 

「──僕は、剣士になります。ザッカリアの街で衛兵隊に入り、腕を磨いて、いつか央都に上ります」

 

 

 

 そして、ルークたちの予想通りにユージオはそう宣言した。

 

 しんと静寂が訪れる。先ほどまでとは打って変わって、あまり好意的でないざわめきが波及した。

 

 ガフストが片手を上げるまでそれは続き、収めた彼自身も厳しい表情でユージオのことを見る。

 

「ユージオ、お前はまさか……」

「…………」

 

 ユージオは何も言わなかった。

 

 だが、ガフストも変わらぬ意志を感じ取ったのだろう。それ以上は言わず、首を横に振った。

 

「……いや、理由は問うまい。次の天職を決めるのは、教会の定めたお前の権利なのだから。よかろう、ルーリッドの長として、オリックの息子ユージオの天職を新たに剣士と認める。望むならば村を出て、剣の腕を磨くがよかろう」

 

 ガフストが認め、それならばと村人たちもパラパラと拍手を送りだす。

 

 決して苦い表情をした者……ユージオの兄たちや衛士のジンクと父……がいなかったわけではない。

 

 しかし、キリトはほっと安堵した顔をし、セルカはユージオの引き締まった顔を見て、少し寂しそうに笑い。

 

 

 

 

 

「……やっと始まったな、ユージオ。俺たちの夢が」

 

 

 

 

 

 そしてルークは、優しい声で親友の新たなる門出を祝うのだった。




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