ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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やっと教習所の勉強ひと段落ついた…

数日ぶりの更新です。

楽しんでいただけると嬉しいです。


ザッカリア剣術大会 中編

 剣術大会は、ザッカリアの街にある《集会場》にて行われる。

 

 街を取り囲む城壁の縦横比をそのまま縮小した長方形の広場を、階段上の観客席が取り巻く構造となっている。

 

 普段は領主の演説や楽団、劇団の公演などを目的として使用されている空間だ。

 

 その集会場の正面入り口に設けられた受付から少し離れた広場にて、三人の少年が昼食を取っていた。

 

「なんとか選手登録はできたね」

「おいおいユージオ、ここまできてまだ緊張してるのか?」

「そんなんだと幸運の女神様が逃げちまうぞ?」

 

 冗談めかして言うキリトに、安堵のため息を吐いたユージオはなんだそれ、と笑う。

 

 案外大きなその笑い声は、まだ大会の開会前だというのに集会場付近にごった返した大勢の人の喧騒にかき消された。

 

 様々な《禁忌》と天職に縛られた人々にとってこの大会は、一年位一度の大娯楽。人の入りも圧倒的だ。

 

「とりあえず、キリトは型を間違えたりするなよ」

「うっ、わかってるって……予選で落ちる、なんて間抜けなことはしないさ」

「本当かい? もしも運良く全員他のブロックになれたとしても、全員揃ってなきゃ意味がないからね?」

「ゆ、ユージオまでそんなに念押ししなくたっていいじゃないか」

「つまり、お前のいい加減さはそれくらい気をつけないと釣り合いが取れないってことだよ」

 

 わしゃわしゃと頭をかき回すルークに、ぶすっとした顔でキリトは「俺は適当だよ」とぼやく。

 

 しかし、実際にこうしてたわいもない会話をすることで、弟分たちに下手な失敗をさせないようにしているのだ。

 

 そんなルークの気遣いをなんとなく二人もわかっており、弁当を平らげるまでテキトーな会話が続いた。

 

「じゃあ、もう一回確認だ。この後十一時半の鐘までに控え室に入って、そこで北、南、東、西の組に別れる。そこで試合用の剣が貸与されて、十二時から北と南、東と西の順で予選が行われる」

「そこで事前に取り決められた一から十までの型の演武をして、ひと組が八人に絞られるんだったよね?」

「そうだ。で、全部の組の絞り込みが終わったら二時から本番だ。そこからは残った八人で……」

「衛兵隊に入る権利をかけた生き残り、ってわけだな」

 

 右の手のひらに左の拳を打ち付け、不敵な笑みを浮かべたキリトが締めくくる。

 

 そこだけは自信たっぷりな様子の弟分にルークは笑い、「頑張ろうぜ」と言って軽く背中に張り手を入れた。

 

「よし、じゃあ時間までちょっと街を見て回るか?」

「あんまり遠いところまで行くと、この人の数じゃあ戻れなくなるね。気をつけないと」

「この商店街をぐるっと一周、ってとこか?」

 

 鐘が鳴るまではあと一刻ほど、余った時間を有効活用するために少年たちは立ち上がる。

 

「…………」

「っ!?」

 

 その瞬間、どこからか強い視線を感じたルークは弾かれたようにその方向を向いた。

 

 すると、こちらから見えづらくなっている路地の陰から自分達……いや、ルークを見つめている人物がいる。

 

 正体を隠すためか、全身をすっぽりと覆ったローブに身を包み、目深にフードを被っていて顔はわからない。

 

 そのフードの奥から感じる強い視線は敵意や害意などではなく、ただただルークに興味を示すようなものだ。

 

 

(……怪しいな。少し接触してみるか)

 

 

 歓談に夢中になっているキリトとユージオは、どうやら気がついていないようだ。

 

 その場で少し待ち、二人がくるりと反対を向いたタイミングで、ルークはこっそりと人影に紛れた。

 

 その直前まで路地が見えていたのだが、こちらの移動を察知して、あちらも物陰から奥へと体を引く。

 

「っと、こっちが近道か……」

 

 うまく行き交う人々の間をすり抜けながら、喧騒から抜け出していくルーク。

 

 伊達に次期衛士長とまで言われた訳ではなく、見事な足運びで人混みを抜けたら、今度は姿勢を低くした。

 

 そうすることで立ち並ぶ露天に身を隠しながら、ものの数分で先ほど謎の人物がいた路地にたどり着く。

 

 そっと壁に体を寄せ、路地を覗き込むと……ずっと奥にいるローブの人物と目があった気がした。

 

「……!」

「あっ!」

 

 どうやらそれは間違いではないようで、その人物はくるりと踵を返して走り出した。

 

 反射的に路地に入って、小走りでその後を追う。

 

「……」

「くそっ、早い……!」

 

 フードの人物は、鍛えているはずのルークでもさっぱり追いつくことができないほどの速さを持っていた。

 

 結局、距離の縮まらない追走劇はルークの体力が途中で切れるまで続くことになった。

 

 これ以上は天命が減るという無意識の警告に従い、急停止したルークは両手を膝に置いて荒い息をつく。

 

「はぁ、はぁ……一体なんだったんだ」

 

 ほんのりと頬に浮かんだ汗を拭い、謎の観察者の走り去った方を見る。

 

「……ん?」

 

 ふと、地面に何か光っているものが落ちていることに気付いた。

 

 用心しながら近寄り、右手の親指と人差し指で摘み上げると、それは何かの一部らしきものだ。

 

 路地に差し込むソルスの光が反射して、十字の花弁を象った小さな宝石は美しく輝く。

 

「……ま、収穫って思っとくか」

 

 拳の中にそれを収め、ズボンのポケットに入れると元来た道を引き返す。

 

 帰りの道はそれなりの長さで、自分がどれだけ追いかけていたのかと思うと、徒労に終わったことに苦笑が溢れた。

 

 そうして時間をかけて路地から集会場近くの広場に出た途端、左右からドスッと両肩に衝撃が走った。

 

「おわっ!?」

「へっへん、成功だな」

「まったく、キリトったら」

「お、お前ら……」

「いきなりいなくなるからびっくりしたぜ」

「何かあったの?」

「いや……なんでもない」

 

 待ち伏せしていた弟分たちに曖昧に答え、ルークはもう一度路地を見る。

 

 それから未練を断ち切るように二人の肩に手を回し、グリグリと握った拳をこめかみに擦り付けた。

 

「悪戯な弟分どもにはお仕置きだ!」

「痛い痛い!」

「ルーク、ギブ、ギブ!」

 

 ははは、と痛がる二人に笑っていると、ちょうど十一時を告げる鐘が響いた。

 

 それを聞いた三人は、軽く露店を冷やかしてから集会場へと戻る。

 

「おう、さっきのルーリッドの坊主たちか。衛士の坊主も、そこの二人も頑張れよ」

「はい、頑張ります」

「優勝を掴み取ってみせますよ」

「自信は十分です」

「そうか。それじゃあ行ってこい」

 

 受付の男に見送られながら係の衛兵に見せ、集会場の中の控え室へと案内される。

 

 奥行きが二十メルはあるかという大部屋の中には、片側に四つの頑丈そうな椅子が置かれていた。

 

 もう片方にも同じ並びで椅子が設置されているが、そちらには誰も座っていない。特別な意味があるのだろうか。

 

 そして、部屋の中にいる五十人を越える屈強な剣士達が、一斉に三人のことをジロリと睨みつけてきた。

 

「……よかった」

「……何がだい?」

「女性がいなくて、さ」

「……でも、女性だけの騎士団とかもあるらしいよ」

「……ほお」

「ったく、もうちょい緊張感持て」

「「あいてっ」」

 

 コツンと軽く拳骨を落とされた二人を見て、選手たちは一斉に興味をなくしたように目を逸らした。

 

 どうせ初戦で落ちる子供と考えたのだろう、侮ってくれたことにルークは内心ニヤリとほくそ笑む。

 

 革手袋や貸与された剣の点検をする彼らを見ていると、不意にキリトがすんすんと鼻を鳴らした。

 

「キリト?」

 

 思わず名前を呼んだルークに答えず、キリトは壮年の剣士達が座る椅子に歩み寄る。

 

 それから一通り、鼻を鳴らしながら椅子の周りを練り歩いた。当然参加者たちは怪訝な顔をするが……

 

 それに構わず、一周してきたキリトは二人のところへ戻ってくると、耳元に顔を寄せてきた。

 

「顔を動かすなよ。あの二列目の長椅子の一番奥に座ってる、衛兵見習いの制服を着たやつを見ろ。一瞬だけだ」

 

 二人は内心首を傾げたくなりつつも、言われた通りにちらりとそちらを見る。

 

 そこに座るのは、砂色の髪をやや長めに垂らし、赤褐色の生地にザッカリアの紋章が小さく入ったチュニックを着た青年。

 

 一見してあまり強くは見えなさそうなその青年に、しかしキリトの勘の良さを知っているルークは何か意味があると思う。

 

「え……知り合いかい?」

「……何か気になることがあるんだな?」

「ああ……もし当たったら、気をつけたほうがいい」

 

 この時点では要領を得ない忠告であるものの、二人は彼の言葉を胸の中にとどめておいた。

 

 

 

 三人は受付窓口に赴いて番号札を剣と革手袋に変えてもらい、問題がないことを軽く確認しておく。

 

 それから然程時間を置かず、正規の制服に身を包んだ四人の衛兵たち……受付にいた男もその一人だった……が部屋に入ってきた。

 

 腰に剣を吊り下げた彼らは、誰も座っていなかった椅子の側に立つと、内2人が手に抱えた二つの箱を強調する。

 

「この箱には1から14までの数字が書かれた玉が二種類ずつ入っている。

 白と黒の玉が入っている右の箱が北と南の組、赤と青の玉が入っている左の箱が西と東の組だ。

 白の玉を引いたものは北、黒の玉を引いたものは南の組。同じように赤の玉を引いたものが東の組、青の玉を引いたものが西の組に組み分けされる。

 諸君らには今から、箱の蓋に開いた穴から手を入れて、一つずつ玉を取ってもらう。数字の順に演舞を始め、残った八人が本戦へ出場だ」

 

 蕩々と衛兵がこなした説明を聞いて、三人は心の底からほっとした。

 

 こういう決まりなら、少なくとも一人は被ることはない。後の二人が同じ組にならなければ万事解決だ。

 

「俺が右の箱に行く。お前らは左の箱だ」

「了解」

「うん、わかった」

 

 素早く相談を済ませ、ルークはこの場にいる誰よりも早く右の箱の前に立つ。

 

 少し気になって直径十センほどの穴を覗き込むと、特殊な神聖術が使われているのか中は見えない。

 

 とはいえ、既に何の気兼ねもないルークは迷いなく手を中に入れ、そして一番上にあった玉を掴み上げた。

 

「白の……3番か。よし、ではこちらに玉を」

「はい」

 

 衛兵に玉を渡し、ふと隣にいるだろう二人を見る。

 

 どうやら先に選ぶのはキリトのようだ。やや慎重に、少し強張った表情で手を箱に差し入れる。

 

 しばらく悩むように腕を動かし、途中ピクリとして、やがて引き出した手の中に収まっていたのは……青い玉。

 

 西ブロックに決まったキリトに対し、次に進み出たユージオも同じような表情で箱の中を探った。

 

「…………っ」

 

 高鳴る心臓のあたりを手で押さえながら、固唾を呑んで見守る。

 

 1秒が1分に感じるような極限の緊張の中、やけにスローモーションでユージオの手が外に出てきて──

 

「あ……」

「……赤」

「っし!」

 

 最初にユージオが声を上げ、キリトが玉の色を告げる。その言葉にルークは小さくガッツポーズをした。

 

 ユージオ自身も安心したのか、口元に淡い笑みを浮かべている。最大の懸念事項を乗り越えたのだ。

 

 三人に続いて次々と皆が玉を引いていく中で集まった三人は、揃って目を輝かせながらはしゃいだ。

 

「やったな!」

「ああ、これで心置きなく戦えるぜ!」

「三人一緒に優勝しよう!」

 

 そう言ってがっしりと手を組み合わせる三人は、これから始まる大会に闘志を高めていた。

 

 有り余る熱意を胸に抱いた彼らが、果たして勝利を手にすることができるのか。その行方はまだ誰にもわからない。

 

 

 

 しかし、すぐに明らかとなることだろう──彼らが願い続けるのならば、望むように。




もうちょっとだけ続くんじゃよ。

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