ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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深夜廻にどハマりしている作者です。昨日はそれで二次創作漁りに没頭してました。

ハルユイ大好き。

今回でザッカリアは終わりです。

楽しんでいただけると嬉しいです。


ザッカリア剣術大会 後編

 

 ザッカリア教会の《時告げの鐘》が、正午の旋律を響かせる。

 

 高らかな音色に、集会場の観客席を満杯にするほどの観客達が一斉に歓声をあげた。

 

 共に拍手とケムリ草の破裂音が響く中、総勢五十六人の参加者達が二列縦隊の形をとって試合場に入場する。

 

 参加者達は、四つある舞台の前でそれぞれ二つに分かれ、十四人ごとに東西南北に分かれていく。

 

 そして全員が舞台に上がると、南側の貴賓席に陣取るザッカリア領主の一族に一礼。

 

「ザッカリア現領主、ケルガム・ザッカリア五等爵氏である」

 

 審判席に座る衛兵のうち、全体の進行を取り仕切る男がそう言って、領主が登壇して演説を始めた。

 

 少し長めのそれが終われば、焦れたように短い拍手を観客が送った。

 

 現金な反応だな、とルークは小さく笑う。

 

「では、これより各組の選抜予選を行う! まずは一番、前へ!」

 

 そうしてようやく、大会が始まった。

 

 くじで引いた順番通りに、十四人の参加者の中から八人を選び出すための《型》の演舞が開始される。

 

 評価項目は、剣の軌道、足捌き、手捌き。それらの動きの正確さ、勇壮さ。そして美しさだ。

 

 

(……キリトのやつ、本当に平気だろうな?)

 

 

「では三番の参加者! 前へ!」

「っ、はい」

 

 生来の世話焼きな気質で、直前に詰め込んだ弟分を心配しているうちに、自分の番が回ってきた。

 

 気持ちを切り替え、堂々とした足取りで前へ出る。胸を張り、自信に満ちた瞳で一礼してから抜剣した。

 

「では、始め!」

「ふぅ……はっ!」

 

 合図に従い、ルークは舞台の上で舞う。

 

 型一つにつき十秒、合計百秒。それが参加者に与えられた時間だ。

 

「せいっ、はっ!」

 

 ルークは残りの時間を頭の中で刻みながら、慎重に、かつ見事に練習通りに演じていった。

 

 その美技とも呼べる完成度の高さに、おおっと観客たちは簡単の声を漏らす。審査員たちも稀に見る完璧さに目を見張った。

 

 

 他の参加者たちに比べ、年若いルークにそこまでの反応が上がるのには、彼の容姿にも起因する。

 

 本人はあまり自覚がないが、ルークは顔立ちが整っているし、手足はすらりと長く、かつ逞しい体つきだ。

 

 鍛え上げられた体から繰り出される完成された《型》は、それだけで十分に見ものである。

 

「──そこまで!」

「ふぅ……」

 

 最後まで見事に演じきり、深く息を吐いたルークは鉄剣を鞘に納め一礼した。

 

 万雷の拍手が送られて、ルークは気恥ずかしさを抑えるために肩にかかったおさげをいじりながら元の場所に戻った。

 

 そうして元の場所に戻ってきて間も無く、次の番号の参加者が呼ばれ、次々と演舞を披露する。

 

 

「「「うおおっ!?」」」

 

 

 順調に予選が進み、いよいよ十番台の選手が呼ばれようかという時だ。

 

 悲鳴とも、歓声とも取れる声が観客席中からあがり、共に暴風と言っていい風が吹き荒れる。

 

「な、なんだ?」

 

 ざわつく他の選手同様、困惑したルークは西側の舞台へと目を向けた。

 

 

 すると、そこにいたのは型通りに剣を振り切った体勢のキリト。

 

 さしもの彼や、東側の舞台にいたユージオがキョトンとする中で、さらにキリトは剣を振るう。

 

 その瞬間、また暴風がルークの前髪と後頭部のおさげを激しく揺らした。

 

 同時に観客からまた声が上がるが、しかしそれは先ほどよりも歓声の色合いが強いもので。

 

「はは……マジかあいつ」

 

 それらを総合し、ルークは呆れた笑いを浮かべた。

 

 とどのつまり。あのとんでもない弟分は、またしてもとんでも無いことをやらかしているのだ。

 

 その後の演舞も、十秒あるはずがほぼ二秒で終わらせ、一つ型を披露するごとに観客席が湧く。

 

 

 いくら完成度が高く、美しくとも、結局は何十年と続けられてきた同じ動きの見物だ。

 

 そんな中で、あのキリトの突拍子もない行いは実に見応えのあるものだろう。ルークも笑いそうだ。

 

 そして遂に最後の型を披露して、剣を鞘に抑えて一礼した途端、割れんばかりに拍手と喝采があふれ出した。

 

「くくっ、相変わらずお前はとんでもないな」

 

 会場そのものを揺らすそれに、同様に拍手を送りながらルークはぼやく。

 

 その後、東側の舞台からすっ飛んできたユージオに説教されているキリトを見てさらに笑ってしまう。

 

「はは……っ?」

 

 そして、ふと二人の向こう側……西側舞台の奥の観客席に目がいく。

 

 そこには先日の約束どおり、ウォルデ農場の人物たちが応援にやってきている。

 

 だが、そこではない。ルークが気になったのはその隣、一家のすぐ隣にいる人物。

 

 こちらを……ルークをじっと見つめる、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「あれは、さっきの──」

 

 次に瞬きした時、しかしそこには誰もいなかった。

 

 小さく息を飲み、優良な眼力で注視するものの、そこにはやはり誰もいない。

 

「……?」

 

 見間違いか、とルークは自分のことを疑わざるを得なかった。

 

 

 

 ルークが頭をひねっているうちに予選はどんどん進み、予定通りに午後二時の鐘とほぼ同時に終了した。

 

 再び舞台の上に上がって整列した参加者の中から、審査員の代表者が彼らの前で本戦出場者の名前を番号を読み上げる。

 

 その中には当然のように、ルーク、キリト、ユージオの名前もしっかりとあった。

 

 わずかな不安の払拭と有り余る歓喜に、肩を落とした二十数名が退場して、本戦出場者のみが残る。

 

「「「いよしっ!」」」

 

 場内の待機所へ入った途端、三人は同時にガッツポーズをした。

 

「やったな二人とも、まずは第一関門突破だ!」

「お前がおかしなことをしでかした時にはヒヤヒヤとしたよ、キリト」

「はは、なんにせよ予選を通過したんだ。堅いことは言いっこなしだぜ」

 

 ポンと肩を叩くルークに、本人もそう思っているのかユージオもまあね、と笑った。

 

 そんな彼らを含め、深井戸で冷やしたシラル水と軽食が配られる。ここから三十分の休憩だ。

 

 観客達も一息をつく中で、三人は改めて念のために本戦の形式を確認し合う。

 

「いいか、試合は絶対に寸止めをしなければならない。相手の天命を減らすことは禁忌だからな」

「ああ、だからこそ格式張った《型》を重んじてるって話だっけ?」

「そうだね。そうすることで不慮の事故を防いでるんだ」

「お前らも十分気をつけろよ、何せ俺らは……」

 

 他の選手達より、圧倒的に武具を扱う力が強い。

 

 もしルークが()()の人間であれば、オブジェクト操作権限と呼称するそれのことを言外に指摘する。

 

 

 

 本来であればそれなりの重さがあるのだろう鉄剣も、三人にとっては中身が空洞の枯れ枝に等しい。

 

 それは何も良いことばかりではなく、その分人が相手であった時に簡単に傷つけられてしまうということだ。

 

「昔、この大会であまりに白熱した結果天命を損ずる事件があった。それからこのルールは絶対厳守として受け継がれている」

「わかってるって。要するに、相手に怪我させる前に速攻で勝負をつければいいんだろ?」

「やっぱり、どこからそこまでの自信が湧いてくるのか、僕には見当もつかないよ……」

 

 ルークが抜け目なく規則を確認し、キリトが不敵に笑い、そしてユージオが呆れる。

 

 もはや一連の流れとなったやり取りを行い、予選を突破したことで発生した脱力感を補っているのだ。

 

「あれ、シラル水がなくなった」

「こっちもだね」

「じゃあ俺が水筒を返してくる」

「サンキュールーク」

「ありがとうルーク」

「お安い御用さ」

 

 軽食を食べ終えるとほぼ同時に空になった三つの水筒を手に、ルークは席を立つ。

 

 そうして衛兵に返却しに行こうとした瞬間──ふと背後に誰かの気配を感じた。

 

「動かないで。目線はそのまま、ゆっくり前に進んで」

「……あんたは、もしかしてさっきの」

 

 背後から聞こえる声は、年若くも年老いているようにも聞こえた。

 

 だが、言葉遣いから女性であると判断し、ルークは言われた通りにゆっくりとした足取りで歩きだす。

 

「こんな会場のど真ん中にいていいのか? それにわざわざ逃げたのに、俺に何の用だ?」

「私の姿は神聖術で隠している。同様に声も聞こえないわ。ここに来たのは、あなたに聞きたい事があるから」

「……なるほどな」

 

 いくつかのことを、短い会話で理解する。

 

 まずこの人物は、ルーリッド村にいるセルカやシスターよりもさらに上の神聖術使いであること。

 

 当然のように姿を現した理由を述べたことから、先ほどの路地にいた人物で間違いないこと。

 

 そして声や、姿すら見られないながらも感じる雰囲気から、こちらに害意を抱いているわけではない、ということ。

 

「先ほどは不慮の事故だった。偶然見つかってしまったから逃げたわ」

「へえ。で、今になって出てきても良いって思ったのか」

「そうよ……私があなたに聞きたいことは一つだけ」

「それは?」

「──何故あなたは、あのオブジェクトを解凍できたの?」

「……は?」

 

 何故ここで神聖術の式句の一部を? それに解凍とはなんのことだ? と内心で首をかしげる。

 

 ルークの困惑を見て取ったか、背後の人物はハッとフードの中で息を呑み、言葉を選び直す。

 

「ごめんなさい。もう一度聞くわ。何故あなたは、あの剣を抜く事ができたの?」

「──どうして俺の剣のことを知っている?」

 

 あれを知っているのは、キリトとユージオ、そしてルーリッドの村人たちだけだ。

 

 それを既に抜く事ができる、という所まで知っているのは、先の二人に加えてセルカ、そして母のセフィアのみ。

 

 ごく限られた人物しか知らないこのことを、どうしてこの人物は知っているのだろうか。

 

「そうね……私にもわからない。けれど、これが私の目的であることはよく理解している」

「……よく分からないな。キリトみたいに記憶喪失なのか?」

「それは今は関係ないわ。質問に答えるだけでいい」

 

 どうやらこんな簡単なカマかけには引っかからないようだ。

 

 あるいは失ったキリトの記憶に関連する何かを引き出せるかもしれないと思ったが、案外用心深い。

 

 すぐに腹の中に隠した目的を諦めて、次の言葉を考える。衛兵のところまであと数メルしかない。

 

「なんで抜けたのか、か……俺にもよく分からない。ただ守りたいと、そう願った時にあれは応えてくれた」

「私が聞きたいのはその先よ。どうしてあなたは、そこまで他者を守る事ができる?」

「どういう意味だ?」

「確かに、そのような道徳を最初に彼らは教えた。けれど、自分の命を失う可能性まであったとしても他のユニットを守護する、という目的を自発的に選ぶような精神構造は、この段階で発生することはほぼあり得ない」

 

 またしてもその人物の言葉は理解の難しいものとなった。

 

 彼らとは誰だろうか。どうしてこの人物は、先ほどから神聖術の式句を交えて話すのだろうか。

 

「──そんなことはないさ。俺も、キリトも、ユージオだって、セルカを助けるために命を賭けた」

 

 疑問は尽きないが、けれど一つだけ明確に答えられる質問があった。

 

「けれど、彼らにあの剣は抜けない。最初に誰より強くそう願ったあなたに、その権限は与えられた」

「だとしたらそれは、恐れたからだ」

「……恐れ?」

「また妹分を失うことを恐れた。大事な弟分の意思を妨げることを恐れた。そして怯えて動けないことを何より恐れた。その恐れを振り払うために、俺は守ることを選んだ」

 

 

 

 今でも時折、あの夢を見る。

 

 

 

 最初にアリスが消え、■■■が消え、そして……ユージオに裏切り者と罵られる。

 

 

 

 忘れるなと、お前のしたことは消えてなどいないと、そう自分自身に言い聞かせられるように。

 

 

 

 追いかけても掴めないのは、もう嫌なのだ。

 

 

 

 失いたくないものを目の前で奪われるのは、もう嫌なのだ。

 

 

 

 何より、動けないことに諦めて、立ち止まる自分を肯定するのが嫌だった。

 

 

 

「だから守る。キリトも、ユージオも、どこかにいるアリスも、あいつらを脅かす全てから」

「……たとえ、全て無駄に終わるとしても?」

「無駄にならないように、俺はここにいるんだよ」

 

 

 

 もう、諦めないと誓ったから。

 

 

 

 歩き出すと決めたから。

 

 

 

 あの二人と夢を叶えるために、一歩踏み出したから。

 

 

 

「……そう、そうなのね。あなたは、それほどまでの〝意思〟を……」

「お前の目的が何かは知らないが、俺の邪魔をするなら……」

「いいえ。私はあなたを見守るわ」

「……は?」

「あなたなら、あるいは《A.L.I.C.E》にさえも……なれるかもしれない」

「何を言って……」

「修剣学院までいらっしゃい。そこで待っているわ。それまでこれは、あなたに預けておく」

 

 そっと先ほど拾ったものが入ったポケットが撫でられ、そして気配が消えた。

 

 バッと後ろを振り返るが、そこにはもう誰もいない。

 

 奇妙な行動をとるルークを他の参加者が怪訝な目で見た。

 

「……修剣学院、か。ああ、行ってやるさ」

 

 

 

(もちろん、あいつらと一緒にな)

 

 

 

 小さく呟いて、ルークは必ずこの大会を勝ち抜くことを固く決意した。




読んでいただき、ありがとうございます。

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