ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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ミステリアスな先輩

 

 

 ザッカリアの街での剣術大会に三人で最後まで勝ち残り、衛兵隊に入り、いつか央都へ上る。

 

 

 

 そう決意し、剣術大会に参加してから早いもので一年半が経過していた。

 

 ルーリッドの村を出てからの時間を合わせれば、もう二年。気がつけば随分と月日が経っていた。

 

 農場に住まわせてもらいながら半年間大会のために修練し、それから後の半年は衛兵隊で仕事に励み。

 

 キリト、ユージオ共に推薦状を見事勝ち取ると、修剣学院の門を叩いたのが一年前のことだ。

 

 

 学院に入ってからは、朝九時から午後三時までの学科授業と実技訓練に精を出した。

 

 そこに加えて、帝立修剣学院の初等錬士は高等錬士の上位十二名、上級修剣士の《傍付き》をする義務がある。

 

 暇を持て余していた門番の仕事が恋しくなるほどに忙しい日々だが、ルークはそれを苦には思わない。

 

 自分たちの目標のためには、ほんの少しでも多くの力が、知識が必要なのだから。

 

 

 

「しスてむ・コール……うーん、システムコール、か?」

 

 そしてルークは、今日も今日とて修剣学院内にる図書館にて一人勉強に励んでいる。

 

 村の掟や、禁忌目録を暗記するほどに勤勉な彼は、ここにおいても努力を怠ることはない。

 

 学科項目の一つである神聖術は、これまで剣の修練一辺倒をしてきたせいか、やや苦手な部類だ。

 

 そのため、こうして放課後に自主的に図書館に赴き、神聖術の教本と睨めっこしていた。

 

 有り余る熱意のせいか、初等錬士の宿舎の門限を軽く破っていることに関しては、まあご愛嬌だろう。

 

 その熱心な姿勢に、図書館を管理する学院に所属する司書も騒がない限りはそれを黙認しているほどだ。

 

「んあー、イメージが大事って言われてもなぁ……」

 

 が、そのうち集中力の限界がやってきて机に突っ伏した。

 

 図書館に所蔵された本はすべからく貴重品だ、破損させることは学院の規則に反するので横にずらしてある。

 

 もしもここに弟分達がいたならば、積み上げられた教本に埋もれて撃沈したルークに苦笑したに違いない。

 

「神聖術を使うための力はあるはずなんだけどなぁ……」

 

 交差させた両腕の上に額を乗せ、誰に聞かせるでもない愚痴を零す。

 

 

 

 二年前の一件で、ルークは武具を扱う権限()のみならず、神聖術を使う力も大幅に増した。

 

 しかし、幼い頃から学んできたアリスやセルカのように勉強していたわけでもなく、うまく扱えない。

 

 

 

 実技も学術も一級品、しかし神聖術だけが平凡。

 

 学院の教師達もそのような評価を下しており、この一年を通してのルークの悩みでもある。

 

 はぁ、とあまり上達しない自分の腕に顔を上げながらため息を吐くと、その拍子に前髪が揺れた。

 

「……そういや、随分と伸びたな」

「そうだね。まるで女の子のようだ」

「うわっ!?」

 

 突然声がしたと思ったら、視界が何かで塞がれた。

 

 びくっと体を浮かせながらも、突然暗闇の中に誘ったそれがやけに覚えのある感触だとわかる。

 

 少しして、それが前髪と同様にかなり伸びた、一つにまとめた後髪だと気付いた。

 

 そして、それを使ってこのような悪戯を仕掛けてくるのは、ルークの知己にはただ一人だ。

 

「……〝ルル先輩〟、またですか」

「ふふ、本当に長いものだよ。髪の結い方を教えてあげようか?」

 

 クスクスと楽しそうに笑いながら、後ろにいる人物はルークのおさげを手放す。

 

 途端にひらけた視界には、窓から差し込む斜陽でオレンジ色に照らされた机と本の山だけ……

 

「門限。もう過ぎてるんじゃないかい?」

 

 かと思った途端、視界の右側からひょっこりと現れる一人の女性。

 

「……承知の上です」

「おや、不真面目な優等生さんだ」

 

 微笑みながら顔を引いた女性に、ルークは上半身ごとそちらに向き直る。

 

 

 そこに立っているのは、まるで女神かと見間違うほどの美貌を持つ女性。

 

 

 美しいと可憐のちょうど中間にいるような完成された美貌に、紫水晶(アメジスト)の如き静かな瞳。

 

 左に向けて長く、斜めに切り揃えられた前髪は左目を隠し、同じように左側が長い肩口ほどまでの髪がさらりと揺れる。

 

 身長は168セルチ程度、濃紺のスカートとそれより少し明るめの紺に基調された上級修剣士制服に身を包んでいた。

 

 細く手折ることさえ叶いそうな体は、しかし少し膝上のスカートから覗く、しなやかな脚より鍛えられていることがわかる。

 

 

 名をルルディ・クローマ。

 

 

 上級修剣士第三席にして、ルークが傍付きを務める女性……つまり《先輩》だ。

 

「今頃、君の弟君の一人もリーナと門限破りの真っ最中かな?」

「いや、本当に弟ってわけじゃ……でも、そうだと思います」

「ふふ、揃って不真面目さんというわけだ」

 

 くすくすと笑い、学院本校舎の近くにある屋内修練場が内接された塔の方を見るルルディ。

 

 つられてルークもそちらを見て、上級修剣士次席の女性にしごかれているだろう黒い方の弟分を想像した。

 

 少しすると彼女はこちらに視線を戻し、こてんと首を傾げるとルークの手元にある教本を覗き込む。

 

「まだ神聖術は苦手?」

「はい。どうも合わないみたいで」

「この髪からは想像もできないほど、剣の振り方は力強いのにね」

「ちょ、遊ばないでくださいよ」

 

 ルークのおさげをひょいと手に取り、揶揄うように揺らすルルディ。

 

 

 キリト達や、村の同世代たちには兄貴ぶれるルークだが、ルルディを相手にはどうも調子を狂わされる。

 

 独特のペースと、年上の女性特有の余裕のようなものを醸し出す彼女は、彼を年相応の少年にするのだ。

 

「どうせなら、私が切ってあげようか? 修練をするにも邪魔だろう?」

「え、いいんですか?」

「いつも懸命に傍付きの仕事をしてくれる君へのお返しということでどう?」

 

 至近距離でにこりと笑うルルディに、ルークは考え込む。

 

 

 

 背中の中ほどまで伸びたそれは、指でつまんで、目の所まで回されても違和感を感じないほど長い。

 

 村にあったものよりも宿舎の風呂場の石鹸が上質なので、艶やかさが増しているのがなんとも皮肉だ。

 

「本当に、そんなことをしていただいても……」

「おや。もしかして特別な相手がいて、私には髪を切らせたくない?」

「いや、そういうわけじゃないですけど」

 

 単純に村にいた頃はセフィアに切ってもらっており、年頃の女性に触られる想像が新鮮なだけ。

 

 そも、自分でも不思議なほどに異性に心を惹かれたことがないのだ。無論のこと男も、である。

 

 それを知ってか知らずか、揶揄い好きの先輩にルークはなんとも言えない苦笑いを浮かべた。

 

「じゃあ……恐れ多くも、お願い致します」

「はい、承りました。それじゃあ明日の《休息日》に、上級修剣士の宿舎にある私の部屋にいらっしゃい」

 

 軽くルークの肩を叩き、腰の後ろに手を回したルルディはその場を去った。

 

「ほんと不思議な人だなぁ」

 

 この一年で何回言ったかわからないことを口にする。

 

 

 

 このノーランガルス北帝国では、貴族の位が《一等爵士》から《六等爵士》という六つに分かれている。

 

 一等爵士に近づくほど上級貴族とされ、それに比例して選民意識、と言うべき意識が強くなる傾向にある。

 

 その言葉の意味を、この学院に入ってから自分たちを目の敵にする連中のおかげで()()()()()実感している。

 

 

 

 そしてルルディは二等爵氏であるクローマ家の次女なのだが、そうとは思えないほど気さくだ。

 

 辺境の村人であるルークにも気軽に接し、これまで数度《休息日》を共にしたこともある。

 

 もっとも、その爵位と先の経緯から剣士として、また人としての敬意以上を持ち合わせてはいない。

 

 

 

 しかし、()()()第三席に甘んじているような実力の底の知れなさに興味を惹かれていた。

 

 さらに……彼女には、ある〝噂〟がある。

 

「〝学院で初めての上級修剣士次席の生まれ変わり〟、か……」

 

 クローマ家。

 

 このノーランガルス北帝国が生まれた当初からある古い家であり、何人も名剣士を輩出した家系。

 

 その中でも彼女は、家督を継ぐ長女でないにも関わらず、それと同じほどの知名度を持つ。

 

 

 

 というのも、この修剣学院が創立された当初の話だ。

 

 その初期の修剣士には勿論、クローマ家も名を連ねていた。

 

 そして彼女は、当時在籍していたクローマ家の子女、上級修剣士次席と瓜二つの容姿をしている、というのだ。

 

 

 

 おまけに剣術、神聖術どちらもその祖先と遜色がない……否、同等の力を誇るのだという。

 

 だというのに第三席である事とその美貌から、殊更に彼女をこの学院の有名人にしていた。

 

「時々、先輩とか同じ初等錬士のやつらの目が怖いんだよなぁ……」

 

 そんな女性に、八割が貴族である初等錬士の中からあえて平民が傍付きを指名された。

 

 地位のある彼らではなく、平民の、おまけに田舎者が選ばれたら、当然のようにやっかまれる訳で。

 

 年に一度ある、錬士の順位を決める試験で上位にいるからいいものの、これで実績がなければ……

 

「……考えたくもないな」

 

 座ったままに体を抱き、ぶるりと震える。

 

 その拍子に足を動かし、ポケットの中にあるものが軽く太腿に食い込んだ。

 

 その感触にルークは中を手探りをし、そこからあるものを取り出す。

 

「結局、まだ会えてないな」

 

 手の平にあるのは、ザッカリアでの剣術大会あの日から肌身離さず持つ宝石の飾り。

 

 ルークが丁寧に手入れをしているからか、一年半という長い月日が経過しても天命が減る様子はない。

 

 いつまでも美しく輝く、四つの花弁を持つ花を象った宝石の持ち主は、未だ一向に見つかる気配がない。

 

「まあ、あと一年ある。のんびり探すとするか」

 

 言外に、整合騎士になるために必要な大会に出場するための資格、上級修剣士の上位4名になると口にする。

 

 

(あと少しだ。やっとここまでやってきた)

 

 

 あとほんの一年だ。

 

 それでルークは、あの二人と一緒にアリスを探しにセントラル・カセドラルに行くことができる。

 

「おっと、もう今日は行き詰まってるし早く帰ろう」

 

 飾りをポケットに戻し、厳格な寮長の顔を思い出してそそくさと立ち上がる。

 

 

 

 素早く使った教本を全てまとめ、正確に元の棚に戻して、史書に礼を言ってから図書館を出た。

 

 外はもうすっかり夕暮れ時だ。

 

 一分一秒でも早く寄宿に帰還すべく、全力で手と足を動かして疾走した。

 

 その道すがら、この学院のどこからでも見える白亜の塔がちらりと視界の端に映り込む。

 

 

 

 公理教会セントラル・カセドラル。

 

 

 

 人界そのものを隔てる《不朽の壁》で北、南、西、東の四つに分たれた央都セントリアの中央に位置するそれ。

 

 途中から雲で隠れ、先端が見えないほどに長大なそれこそが、やがて自分たちが足を踏み入れる場所だ。

 

「はっ、はっ……ふう、到着」

 

 カセドラルに住まう整合騎士や、《司祭》、《元老》などの名を思い返す内に、目的地に辿り着く。

 

 息を整え、古めかしい石造りの二階建て宿舎を見上げる。

 

 緑色のスレート葺き屋根のそれこそが、初等錬士百二十人が寝起きする初等錬士寮である。

 

 一瞬、幼い頃の抜け目のなさを発揮して窓から入ろうかと考えるが、規律の厳しさを思い出して断念する。

 

「おーい、ルーク!」

「ん? キリトか」

 

 さて、寮長の雷をどう受け止めるかと考えていると、後ろから弟分の声が聞こえた。

 

 振り返ると、上級修剣士寮の方角から走ってくる少年が一人。

 

 数秒でルークの前にやってきた少年……キリトは、出会った頃より幾分か背が伸び、体つきも良い。

 

「おう、ソルティリーナ先輩に絞られてきたか?」

「ああ、たっぷりな。他にも色々と……それより」

「ああ……こうなったら一緒に行くぞ」

 

 既にこれから先のことを察しているのだろう、無駄に真剣な顔つきのキリトと頷き合う。

 

 

 

 なんともくだらない協調性を発揮した二人は、揃って生真面目な顔で寮に入っていった。

 

 





【挿絵表示】



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ルークと先輩のイメージイラストです。

先輩のCVは早見沙織さん。私の趣味だ(真顔)

ルークは……うん、青タイツ兄貴でいいんじゃないかな(おい)

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