ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
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道が続いている。
「……ここは」
それは、子供の頃幾度となく、幼馴染み達と一緒に歩いていた道。
ああ、また
そう思う泡沫の意識は、けれど二年前よりもずっと穏やかだ。
何故ならこの夢は、
「あれは……」
いつものように前を向く。
するとずっと先に、仲良く手を繋いで村に向かって歩く、小さな三人の子供がいた。
自然と足は一歩先の地面を踏みしめ、
「■■■、ユージオ、アリスッ!」
声は太く、躍動する体は逞しく。
かつての悪夢と異なり……否、あの夢の最後よりもずっと強くなったルークは大切なものへと手を伸ばす。
修剣学院の制服に包まれた腕は、あの二人の弟分を押さえつけた頃よりずっと長く、遠く届いて。
「俺は、俺はもう二度と、お前達の手を──!」
走る、走る、走る。
力不足だなどと嘆かない。もう届かないだなんて言わせない。
だって自分は、セルカに約束したのだ。
あの二人と一緒に、自分はアリスを──
キィィインッ!!
清涼な音が響いた。
それは、あと少しで三人に触れられたはずだったルークの手を阻む。
「っ……!」
立ち止まったルーク。
行方を阻むものを鋭く睨むと、それは地面に強く打ち付けられた、純白の剣の鞘であった。
そして、それを持つだろう者の足元は、鎧と公理教会の聖十字が刺繍されたマントに包まれている。
ああ、またなのか。
また騎士が、民を守るはずのお前達が、自分のささやかな願いを阻むのか。
そう思い、勢いよく顔を上げて睨みつければ──
「っ、おまえ、は──」
「………………」
静かにそこに立つ一人の騎士。
その目は静かに──
「どうして、お前が……!」
そして、先を言おうとした瞬間──世界は暗闇に閉ざされる。
「ッ!?」
周りを見るも、道も、木も、吹き抜ける穏やかな風さえもそこには存在しない。
──若者よ
その代わりとでも言うように。
ルークの背中から、生暖かい風が──いいや、何者かの大きな大きな吐息が吹きかけられる。
体が硬直する。それなのに痛いほど心臓は高鳴って、ルークはここが夢だということを忘れかけた。
恐る恐る、振り返る。
「あ……」
そして。
闇の中から突き出たその〝口〟に、心底戦慄した。
──叫べ
白い鱗に包まれた鼻先が。
──吠えろ
ルークの背丈ほどもあるずらりと並ぶ牙が。
──証明せよ
ルークを見つめる、黄金の
──お前の、勇気を
その全てが、ルークに訴えかけた──。
●◯●
「──ッ!」
目が覚める。
覚醒時の心地よい微睡みなどなく、一気に現実へとルークの意識は目覚めた。
カッと見開いた目と同じほどに冴えた耳に、起床とほぼ同時に響いた《時告げの鐘》の旋律が届いた。
「……またあの夢、か」
薄いシーツの中から右手を出して、天井に伸ばす。
そこに夢の中の幼馴染達はいない。それどころか、自分を邪魔したあの騎士さえも──
「……ふぅ」
伸ばした拳を握り締め、それから脱力して胸の上に落とすとそのまま起き上がった。
対面を見ると、右奥とその隣のベッドではこんもりとしたシーツの塊が上下している。
どうやらまだ眠っているようだ。
先ほどの鐘の音と、3の月特有の朝の肌寒さから推測するに、おそらくまだ五時半ほどだろう。
休息日だというのに随分と早く起きてしまった。特別な夢を見た日はいつもそうであった。
「…………」
シーツを足の上から退けたルークは、立ち上がってすぐにしゃがみ込み、ベッドの下の引き出しを開ける。
そこに収められていた長細い皮袋を手にとり、緩く巻いてあった紐を取り払うと中身を取り出す。
それは、一本の純白の剣。
よく手入れをして鞘に収めたそれは、周囲の天命を吸収して常に美しい姿を保ち続ける。
そして、夢の中の騎士の持っていた剣の鞘は、まるで……
「そろそろ、お前の名前も決めないとな」
──ィイン。
答えるように、白い刀身が僅かに震える。
これまでの二年でルークは、ある一つのことを確信していた。
この剣には、明確に意思のようなものが宿っている、ということを。
村からの旅路でも、修剣学院に入ってからの一年も、ルークが困ったことになると必ず音を鳴らした。
例えば農場で、馬の血を吸って暴れさせるオオヌマアブが知らぬ間に入り込んでいた時。
例えば珍しく体調が優れなかった日、危うく部屋の近くでライオス達と鉢合わせしかけた時。
まるで、ルークを手助けするようにそれは音を伝え続ける。
それに前と変わった夢の内容を思えば、おそらくこの剣の中にはあるいは──と。
「言葉は交わせないけど、これからもよろしく頼むよ」
側から見れば、剣に語りかけている珍妙な光景だ。
しかしルークは真剣な表情でそう言い、剣を革袋の中に戻して引き出しの中へとしまい込んだ。
普段ならば、ここまで早く起きた時は村からの習慣である鍛錬に明け暮れる。
だが《休息日》に剣の修練をすることは学院の規則で禁じられている上、まだ寮の外に出られない。
そのため、ルークは図書館から借りてきた神聖術の教本を読むことで時間を潰した。
「ん、ふぁ……」
「ふぁ〜……」
しばらく教本の内容に没頭していると、そんな声が聞こえた。
ズラリと並んだ神聖語から目を上げると、いつのまにか鳴っていた六時と半分の鐘と共に二人が起き出している。
体を預けていた壁から背を離し、ベッドから降りて起き上がった二人に歩み寄る。
「よう、よく眠れたか?」
「ん……ルーク……?」
「お前……早くないか……?」
「まあ、ちょっとな。さあほら、今日はお前らも出かけるんだろう? 他の奴らも起き始めるからさっさと目を覚ませよ」
緩慢に頷いた二人は、目蓋を擦ったり背筋を伸ばしたりして眠気を払っていく。
やがて同室の生徒達も起き出して、目が覚めた二人と共に制服に着替えると食堂に行った。
またライオスたちと顔を合わせる前に手早く食事を済ませ、身支度を整えると部屋を出発する。
「あれ? ルーク、それ持っていくの?」
「ん、ああ……まあな」
その際、ルークはちゃんと包んだ白剣を肩に担いでいた。
修練をすることそれ自体は禁則だが、別に持ち歩くこと自体は規則違反ではない。
「珍しいな、ずっとしまいっぱなしだったのに」
「何か心境の変化でもあったのかい?」
「ちょっと、な」
曖昧に答えながらも、ルーク自身なぜこれを持っているのか不思議であった。
何はともあれ、三人は寮監室にいたアズリカに外出の申請をして初等錬士の寮を出た。
その時、久しぶりにルークの剣を見たためか僅かに表情を変えていたが……その真意はわからない。
「じゃあ、俺はここで」
「おう。帰ってきたら
「また後でね」
「ああ、楽しみにしてるぞ」
修剣学院の外に出る二人と別れ、ルークは上級修剣士の寮に足を向ける。
一歩進むごとに背中で揺れる皮袋は、中の白剣の重みをルークに伝えてきた。
「お前が俺を操ってるのか? ……なんてな」
──ィイン。
袋越しに響く音に軽く笑い、のんびりと寮に向かう。
本日は三の月七日。
寒々しい冬の風も暖かなものへと移り行き、そのうちこのノーランガルス北帝国にも春が来るだろう。
すっかり日が昇った学院の中にも陽光が差し込み、《休息日》にふさわしい穏やかな一日。
こんな日に剣を背負って髪を切りに行くのは自分だけだろうなと、そう思うルークであった。
「……いつ見ても壮観だ」
同じ敷地内であるために、到着するまでさほど時間はかからない。
百二十人が生活する初等錬士寮や同様の高等錬士寮と違い、そこは選りすぐりの剣士十二人の住まう聖域。
何段も重なった円形の塔状のそれを少しの間見上げ、ルークは中へと入った。
受付の寮監に用向きを伝え、三階にあるルルディの部屋に向かう。
どうやら初等錬士達と同じように皆が出払っているようで、寮の中は静謐な空気で満ちていた。
そこまで敵視されてはいないものの、他の上級修剣士達に合わないことに安堵しながら突き当たりの階段を登る。
それを二回ほど繰り返して、階段を登ってすぐ右側の部屋が目的地であった。
「ルルディ・クローマ上級修剣士殿。ルーク初等錬士、言いつけ通り参上いたしました」
三回ノックをして、その場で待つ。
『来たね。今開けるよ』
時を待たず、中から物音がした。
ガチャリ、という扉の開く音が、初等錬士寮のそれよりも重厚に聞こえたのは錯覚だろうか。
そんなことを思っていると、半分ほど開いた扉の向こうからひょっこりと紫色の頭が飛び出した。
「や、おはよう。早いね」
「あ、申し訳ありません」
「ああいや、責めてはいない。ただ、やっぱり君は根は真面目だなとね」
扉に手をかけ、こてんと首を傾げるルルディ。
そういう感情を抱いていないルークでも、その仕草にドキリとした。
「まあ、目標がありますので。日々精進の心意気です」
「うん、いいことだ。さ、入りなさい」
「失礼します」
身を引いて完全に開かれた扉を潜り、中に入る。
室内は、やはり何度来ても初等錬士寮の部屋より開放感があった。
対面に置かれた高級そうなソファ、ルークがいつも丹念に掃除している清潔感のある広い部屋。
壁際に設置された、剣を立てておくための場所にはルークのそれによく似た形状の剣がある。
おまけに個室の風呂もついているという、至れり尽くせりの環境だ。
上級修剣士という、ある意味特権を持つ彼らが羨ましくなるのも仕方ない。キリトも意気込む訳だ。
なお、この上級修剣士の寮は一つの部屋を二人で使う相部屋の形となっている。
だが不思議なことに、いつルルディの部屋に訪れても、彼女の同居人が現れることはなかった。
「もう少しでこの部屋ともお別れ。少し寂しいよ」
「はい……あれ、その服装」
そこでルークは、初めてルルディの格好が制服でないことに気がついた。
フリルのついた薄い水色のカットソーに白いロングスカートを組み合わせ、清楚さをさらに増している。
頭には青に近い紺色のリボンをあしらい、清楚さの中に可愛らしさを付け足していた。
「ああこれ? 懐かしいだろう。覚えてるかな?」
「はい。確か最初に《休息日》にお供させていてだいた時に……」
「あはは、堅苦しい話し方。君は変わらないね」
可笑しそうに、だがどこか名残惜しそうに笑うルルディ。
それが癖なのか、彼女は笑うとこてんと首を横に傾げる。
つられてルークも笑おうとして──動きを止めた。
「ん? どうかした?」
「……い、いえ。なんでも」
「そう? じゃあ風呂場で準備してくるから、制服の上は脱いでおいてね」
そう言って、彼女は風呂場へ行った。
「…………」
残されたルークは、白剣を近くの壁に立てかける。
そうすると、恐る恐ると言った手つきでポケットの中にいつも持ち歩いているものを取り出す。
それからルルディのいるだろう風呂場の方を見て。
「同じ、だよな──?」
首を傾げた際に露わになった左耳、そこに煌めいた
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