ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
あの約束から数日後の、休息日。
キリトとユージオは、村の入り口のところにある木の下でアリスたちを待っていた。
「遅い!」
「仕方ないよ、キリト。ルークは次の衛士長候補だし、アリスは女の子だしさ」
腕を組みぶつぶつと文句を垂れるキリトに、苦笑気味に言うユージオ。キリトは不満げな顔をする。
しかし、キリトは「なんで女ってやつは準備に時間がかかるんだよ」と言っただけで、ルークについては何も言わなかった。
いや、言えなかったという方が正しいか。なにせキリトもユージオも、ルークが日夜厳しい修練に身を置いているのを知っている。
今も衛士用の訓練場で一人、剣を振っているはずだ。やや悪戯好きなものの、その真面目さと責任感は誰もが認めるところだ。
そのため、守られる立場であるキリトとユージオはルークが遅れようと文句は言えない。
なにせ自分たちを守るために、たぐいまれなる努力をしてくれているのだから。
「あーあ。俺も木こりなんかじゃなくて衛士だったら、もう少し格好もついたんだけどな」
「いやいや、せっかく賜った《天職》なんだからそんなこと言っちゃいけないよ」
そう言いつつも、村の子供なら誰もが憧れる《天職》だ。ユージオももし自分が衛士だったらと夢想する。
衛士は毎年秋になると、ザッカリアの街で開かれる大会に出る権利がある。そこで上位に入ると街の衛士……つまり正式な剣士と認められる。
さらにそこから衛兵隊の中で好成績を残せば、央都セントリアの《修剣学院》の受験資格が得られ、本格的に剣を学べる。
そして二年制の学院を卒業し、帝の御前で行われる試合で優勝……ちなみにベルクーリはこれで優勝したらしい……する。
最後に、公理教会が開く《四帝国統一大会》で勝ち抜けば、全ての剣士が夢見るもの……すなわち人界を守る整合騎士になることができるのだ。
「きっとこのまま努力すれば、ルークは整合騎士になれちゃったりして」
「つっても、本人はなる気がないっていうしなぁ」
そう。以前そのことを聞いた二人に対してルークの返答は、自分はこの村から出るつもりはないというものだった。
生まれ育った村を守り、自分の子供や孫を見ながら生涯を終える。それがルークの望みらしい。
「才能があるのにもったいないよなぁ」
「まあ、本人がそういうんだから仕方ないよ。それにルークがずっといるなら、ルーリッドの村は安泰だしね」
「それもそうだな」
ニッと笑うキリトを見つつ、ユージオは再び夢想の続きを考える。並んで浮かんできたのは、幼馴染であるアリスのこと。
アリスはきっと、将来的に神聖術をより深く学ぶため修術学院へ入ることだろう。そして修術学院の生徒は一人、護衛を持つことができる。
美しく成長したアリスの横にいるのは、修剣士の制服に身を包み、腰に剣を下げた自分……
「おーい!」
そこまで考えたところで、ルークの声が聞こえた。ハッと顔を上げると、大きく手を振りながらルークがこちらに走ってきている。
その後ろにはアリスもおり、ユージオは一旦妄想をやめにして手を振り返した。
「遅いぞ二人とも!」
「いやーすまん、衛士長のやつが離してくれなくてさ」
「それに勝手にバスケットの中身を覗こうとしたからでしょ。まったく、朝から説教なんてさせないでよ」
悪い悪い、と悪びれた様子もなく謝るルークにもう、と腰に手を当てるアリス。いつもの光景に二人は苦笑いした。
ユージオがちらりと見れば、もう片方の手にはバスケットが握られている。おそらく今日の昼食であろう。今から楽しみだ。
「さて、それじゃあ全員揃ったことだし。いざ北の洞窟に向けて、しゅっぱーつ!」
「「「おー!」」」
音頭をとったルークの声に合わせて、三人は拳を振り上げるのだった。
「そういや、遠目に見たけど二人でなにを話してたんだ?」
果ての山脈より流れるルール川のほとりを歩きながら、ふと思い出したようにルークがそういった。
あの距離で見えていたことに二人は苦笑しつつ、アリスに聞こえないよう衛士のことを話す。
それを聞いて、ルークはふむと何かを考えた。妙に様になっているのは、今日も腰に下げた鉄剣のせいだろうか。
「別に、なれないこともないだろ」
「やっぱり、ルークはわかってるよな」
「えっ?」
何かを知っているらしいキリトとルークは、互いの顔をみて同じことを考えているとわかって面白そうに笑う。
そんな二人を見るユージオは困惑しきりだ。それを見てキリトたちはにひひ、と少しいたずらげに笑った。
「終わりだよ。今持ってる天職を全うすれば、次の職は自分で好きなように選べる。つまり……」
「俺たちが頑張ってあのデカい木を倒せば、晴れて衛士になれるってわけさ」
なるほど、と頷くユージオ。確かにそういうことなら、まだ現実的ではある。
だが……
「無理だよ。衛士になる頃には、僕たちはとっくに神様のところへ昇っているさ」
「ちぇっ、そうだよなー。これならいけると思ったんだけど」
「せめて、竜骨の斧より強い武器があったらいけるかもな」
まあもし衛士になれたら徹底的にしごいてやるよ、と二人の背中を軽く叩くルーク。頼もしい言葉にははっと笑った。
「ちょっと、三人で私を除け者にするつもり?一体なにを話してるのよ」
そんな風に話していると、草穂を手に先を歩いていたアリスが近寄ってくる。内緒話をしていたことにちょっぴり不満げな顔だ。
それを見てちょっと可愛いな、なんてユージオが思っていると、ルークがわしゃわしゃとキリトとユージオの頭を撫で回した。
「聞いてくれよアリス、こいつらもう昼飯が楽しみらしいぜ?」
「もう、本当に食い意地が張ってるんだから。というか、そんなこと言ってるルークもでしょ?」
「ありゃりゃ、バレちまったか」
全く仕方ないわね、と腰に手を当てて怒るアリスに、ルークがおどけてみせる。そしてぷっと吹き出したのであった。
しばらく歩いていると、やがて川が北と東に分かれている分岐点までたどり着く。四人が舵を切ったのは、当然洞窟に繋がるだろう北の方である。
「こっからはちょっとペース上げるか。ソルスが真上まで昇ったら引き返しだな」
「そうね。そうしないと夕食に遅れちゃうわ」
帰りの時間を確認しつつ、先へと進む。草木で覆われた道はのどかであり、ソルスの心地よい日差しとともに歩んでいく。
実に平和な道なりを見て、ユージオはなんだか唐突に不安になってきた。そして隣を歩くルークの袖を引っ張る。
「ね、ねえルーク」
「ん?どしたユージオ」
「ここらへんって、危険じゃないの?結構村から離れてるけど」
「なんだ、ビビってんのか?安心しろ、そん時は俺が守ってやるよ」
頼もしい笑みとともに剣を見せつけるルークに、そうだよねとユージオは安心する。ルークがいるならどんな相手でも安心だ。
そう思って前を見ると、呑気に羊飼いの歌を歌うアリスたちがいた。全く緊張感のない様子にユージオはため息を吐く。
「そんなだと、《ゴブリン》や《オーク》にあっという間にさらわれちゃうぞ」
能天気な二人になんだか悪戯がしたくなって、ユージオはそう言った。振り返ったキリトとアリスは可笑しそうに笑う。
「あのおとぎ話の、ダークテリトリーの?あれだろ、最後には央都から整合騎士が来てゴブリンの親玉を倒した話の。バカ言え、そんなの村ができた頃の話だぞ」
「それに、ここには未来の整合騎士様がいるしね♪」
「おいおい、俺は整合騎士になるつもりはないって」
そうだったわね、と笑うアリスにキリトとルークはケラケラと笑う。どこまでも明るい幼馴染たちにユージオは苦笑するしかなかった。
とはいえ、ルークもなにも考えていないわけではない。アリスたちと同じように笑いつつ、その目はこまめに森の中や岩陰を確認していた。
(何かあったら、俺が絶対三人を守らなきゃな)
そう思いつつ、ルークはいつでも剣を抜けるよう決して片手を柄から離さなかった。
賑やかに話し合いながら……あるいはキリトとルークがふざけ合って……しばらく歩き続けて、ちょうどソルスが真上に登った頃。
「おい、これって……」
「うそ……」
目の前にあるものに、信じられないと言う顔をする四人。そんな彼らの顔を見るのは、ぽっかりと空いた洞窟の入り口だ。
さらに付け加えて言うならば、まるで絶壁のように連なりそびえる山脈……《果ての山脈》が四人を出迎えていた。
「まさか、もう着いちまったのか……?」
「こいつはたまげた。俺たち、知らないうちに《北の峠》を超えちまってたらしい」
「もしかして、あのさっきのちょっとした上り下りのところが……?」
「私たちの村って、本当に北の果てにあったのねぇ……」
丸一日どころか、たったの四時間足らずで着いてしまったことに感慨とも圧巻ともとれぬ反応を見せる四人。
ああは言っていたものの、誰一人として今日一日……それも午前中いっぱいで着いてしまうなどとは、全く思っていなかったのである。
それでも、冷たい風を吹き出す目の前の洞穴がそれを証明している。なので四人はなんともいえない気持ちになっていた。
「まっ、着いたなら万々歳じゃねえか。それより、そろそろ飯にしようぜ!」
誰よりも早く、キリトが復活して元気よく言う。あっけにとられていた三人はそれに苦笑いをこぼし、それもそうだと準備を始めた。
ルークが肩に担いでた皮袋から布を取り出し、アリスがカゴから料理を出して広げ、《天命》の残量を確認する。
「おっ、今日は魚のパイか」
「どれどれ……」
「こらっ」
「あいたっ」
「ってぇ」
早速手を出そうとしたキリトとユージオがアリスに手を叩かれ、ルークがケラケラと笑う。すっかりいつもの様子であった。
おきまりのやり取りもそこそこに、創世神に感謝の祈りを捧げると《天命》が尽きないうちに急いで食べ始める。
四時間歩きっぱなしで、いつもとはまた違った疲れでお腹がぺこぺこだった四人には、ものの数分で食べ終わることなど造作もなかった。
「しかし、氷が手に入ったらこうして急いで食べる必要もないんだよなぁ」
「そうだね。もともと、それが目的なんだし」
食後のミルクを飲みながら、キリトがそうひとりごちる。後片付けをしていたユージオもそれに同調した。
「でも氷を手に入れたとして、どこで保管しとくんだ?氷の天命がなくなったら元も子もないだろ?」
「それならうちの地下室に入れておけばいいでしょ。まったく、ちゃんと考えときなさいよね」
「おろ、アリスに説教されちまった。ユージオ、アリスが怖いぜ〜」
「な、なんで僕に振るのさっ」
わざとらしく助けを求めてくるルークにユージオは狼狽える。その頬は心なしかほんのりと赤く染まっている。
アリスは意味がわからず首を傾げ、なんとなく相棒の内心を知っているキリトはニヤニヤと笑った。
「まったくルークは!」
「はは……ん?」
掴もうとしてくるユージオの手を華麗に避けていると、ルークはあることに気がつく。
「おい、あれ」
「あれ?」
「あれだよ、あの川の」
川?と三人は洞窟から流れている川を見て……目を見開いた。
清涼な音を響かせて流れる川の所々に、ソルスを反射して何かが光っている。もしやと思い、四人は川に走りよった。
そうして見てみれば……案の定、輝いているのは氷だった。アリスが川に手を伸ばし、氷を一つとる。
「ひゃっ!」
「どうしたんだいアリス!?」
「ユージオ、この水とっても冷たいわ!」
びっくり半分、面白さ半分といった表情で、アリスは濡れた自分の手をユージオの頬にくっつける。
その辺りの冷たさに、ユージオはアリスと同じような声を出して飛び上がった。その様子にあはは、とアリスが楽しそうに笑う。
「ユージオったら変なの。女の子みたいな声あげちゃって」
「う、うるさいな。それより、その……」
冷たさへの驚きが収まると、ユージオはちょっと気まずそうに視線をそらす。不思議に思ったアリスは、自分の手を見た。
そして、今更ながらにユージオの頬を両手で包んでいたことに気がついてさっさと手を離す。
頬を朱に染める二人の間に、なんともいえない空気が流れた。チラチラと違いを見る仕草に、キリトとルークのニヤニヤが止まらない。
「さっ、そこの仲睦まじいお二人さん。そろそろ中へ入ろうぜ?」
「な、仲睦まじいって……」
「ルークー!お前はさっきからー!」
「おおっと、今度はユージオが怒ったぞ!」
「あっはっはっはっ!」
両手を振り上げたユージオに追いかけ回される半笑いなルークに、キリトが腹を抱えて大爆笑した。
アリスも二人の追いかけっこを見ているうちに段々と恥ずかしさが消え、キリトと同じくおかしそうに笑う。
そんな穏やかな?昼も楽しみつつ、いよいよ四人は洞窟に入ることにした。
「いい? ユージオ、私、キリト、ルークの順で入るわ」
「ええっ、僕が先頭かい?」
「当たり前じゃない。男の子なんだから、ちゃんと私を守ってよね」
「う、うん……」
「じゃ、俺はしんがりだな。しっかり守るぜ」
「ルークなら安心だな!」
順番も決まったところで、ルークが皮袋からあらかじめ家から持ってきたランタンを出す。
そこにアリスが神聖術を唱えて火をつけて、ルークたちは洞窟へと足を踏み入れたのだった。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。