ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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久しぶりすぎてブリになったわね…

はい、ということで他の作品の予約が落ち着いてきたので投稿です。

楽しんでいただけると嬉しいです。


休息日 後編

 

 

 

「俺、ですか?」

 

 目を瞬かせるルーク。

 

 ルークにとって、ルルディは今やステイシア神やソルス神に等しい人物だ。

 

 人界人としての平均的な信仰心以上を持ち合わせてはいないが、それでも世界を形作った人物。

 

 

 そんな人物に、自分をこそ目的としていたと言われ、面食らう。

 

 固まっているルークに微笑み、ルルディはふと視線を彼の後ろに移す。

 

 そこには、壁に立てかけられた白剣。

 

 

 スッと立ち上がり、ルークの横を通り過ぎていくルルディ。

 

 それを目で追いかけると、彼女は白剣の鞘に手をかけた。

 

「あ、それは……」

 

 途轍もない重さを持つそれにルークが声をかけよとした途端、軽々と彼女は持ち上げる。

 

 またも唖然とするルークに、振り返ったルルディはウィンクすると剣を手に戻ってきた。

 

「この剣、貴方はなんだか分かっている?」

「……俺の、剣ですけど」

「そう、貴方の剣。貴方が振るい、貴方を選んだ剣──そこには私がこの世界に残したモノが宿っている」

 

 テーブルに白剣を横たえ、ルルディは懐かしげな手つきで撫でる。

 

 その仕草と先の言葉、二つを再び動き始めた思考で分析したルークはハッとする。

 

「まさか、人界を守る竜は……」

「そう、私がこの世界のカタチ以外に唯一定めたモノ。私がこの世界の創造の一端を担ったのだという、ささやかな証」

「やはりそれには、白い竜の意識が……?」

「と、いうほどのものでもない。かの竜達のフラクトライトのID……ああ、魂だ。それには特別な施しをした」

 

 柄頭の飾りに嵌め込まれた白、黒、赤、青の宝玉。

 

 伝承の四竜を示すが如きそれを指で一つずつ示し、彼女は謳うように囁く。

 

「たとえその肉体、天命が尽きたとしても、強く共鳴する感情パターン、思考プロセスを持つフラクトライトに触れた時、その思考能力を取り戻す。そう設計した」

「強く共鳴する、感情……」

 

 何年も前を思い出す。

 

 アリスが連れ去られ、ユージオが笑顔を失い、妹のように可愛がっていたセルカから逃げた頃。

 

 一人休息日に北の洞窟に向かい、ユージオに頼んで貸してもらった竜骨の斧を手に骸の前に立った時。

 

 

 今よりもっと幼く、それ故にとても大きく見えた白き竜の亡骸を前に、自分は何を思っただろうか。

 

 

(──もう、失いたくない。二度とユージオを、セルカを悲しませたくない)

 

 

 純粋な、ただ一つの願いだけを胸に抱いた。

 

 この白い竜のように、ダークテリトリーの怪物からも、無慈悲な公理教会からも。

 

 俺の手にある宝物を奪うもの全て、この自分の腕より太い牙のように強い力で守りたかった。

 

 

 もしもその意思に、幼い自分のちっぽけな願望に、かの竜が答えたというのならば。

 

 ああ、それはなんて──誇らしいことだろう。

 

「この剣には、記憶が宿っている。擬似的な不滅を埋め込んだ竜達の、〝守護の心意〟と呼ぶべきもの。君は見事その眼鏡に適ったようだ。それこそがこの世界に私が来るきっかけでもあったのだけど」

「──ルル先輩。俺は」

「相応しいよ」

 

 決意を固めた顔で何かを問おうとしたルークに、先回りしてルルディは断言した。

 

 息を呑むルーク。

 

 ゆっくりと剣から視線を上げたルルディは、とても静かな瞳で彼を見る。

 

「たとえ私の世界に存在しないとしても、それでもこれは私の子。私の宝。だから君を見定める必要があった」

「……その、ために。昔の自分を蘇らせてまで、ここに?」

「この一年、君を見てきた。ずっと、なるべく片時も離れず。その結論だ」

 

 そういえばそうだった、とルークは思い出す。

 

 学院の授業や修練以外、ルルディは上級修剣士として、常に傍付きのルークの側にいた。

 

 まるであべこべだが、しかしこの立場は彼女にとってとても都合の良いものだったのだろう。

 

「君は強い。剣の腕だけじゃない、その心が強い。きっとこの世界の住人の誰よりもまっすぐで、気高い守護の心を持っている」

「そんな、俺は……」

「臆病者って? ふふ、そうだよ。勇ましき者とは常に恐れている者のことを言うんだ。恐るからこそ強い、怯えるからこそ倒れない。君はその不屈の意思がある」

 

 違うかい? と聞いてくるルルディに、ルークは口を噤む。

 

 自分の言葉が謙遜などではなく、ただの日和りであることを自覚したからだ。

 

 

 そうだ、なぜ否定する。

 

 あの時思ったではないか。酷く傷は痛み、二人が危機に陥って、混濁した意識は漂白されて。

 

 その中で、たとえ自分が罪深くとも、何を代償とするとしても──絶対に守るのだと。

 

 

 その意思は、否定できない。

 

 

「はい。俺は絶対に負けません。何が相手でも、整合騎士にだって」

「それでこそ、この子の見込んだ男の子だ。これからもよろしく頼むよ」

 

 またも易々と持ち上げられた白剣を手渡され、ルークは両手でしっかりと受け取る。

 

 ニコリと満足そうにルルディは笑い、それから真剣な表情になる。

 

「事実、君にはいずれ戦ってもらう必要がある。そうしなくてはならない理由がある」

「どんな理由でも、それが誰かを守れるなら俺はやります」

「潔い返事だ……では君に言おう」

 

 すっと、覚悟を決めるように息を吸って。

 

「──この人界はどこかおかしい。まるで箱庭だ。誰かがそうしているとしか思えない」

「箱庭……」

 

 ルークはその意味に首を傾げはしたが、訝しむことはなかった。

 

 十分に彼女の言葉が真実であることは証明されているし、何よりも信じたい。

 

 この世界の形を決めた彼女がそう言うのならば、やはりどこかしら歪なのだろう。

 

「一応私も今はこの人界の人間だ、迂闊なことは口にできないが、それでもこれだけは言おう。整合騎士を目指しなさい。そして教会……セントラル・カセドラルに辿り着いて、答えを見つけて」

「……そのために戦う、ってことですか」

「きっとね。そんな予感がするんだ」

「馬鹿にできない言葉ですね」

「是非そうしてね。そして……いずれ来る()()()()()()の前に、どうか折れないで」

 

 またしても物騒な言葉が飛び出してきた。

 

 ルークは眉を潜めるが、彼女はそれ以上話す気はないのか、それとも話せないのか続きは言わない。

 

 ルークの顔を一心に見つめ、先ほどとは別の色で……願うような光を込めた目で見てくる。

 

 そんな彼女に、ルークは不敵に笑った。

 

「当たり前です。俺はキリトとユージオの兄貴分で、セルカにアリスを連れ帰ると約束したんだ。世界が滅んでも、それさえも覆して守ってみせる」

「──いい返事だ」

 

 また、満足したようにルルディは微笑んだ。

 

「ん〜、っはぁ。楽しかったなぁ、この一年間」

 

 それから緊張の糸が途切れたように、ぐっと背筋を伸ばしてそう言う。

 

 肩の荷が降りたとでも言いたげな態度に、今日だけで尋常ならざる量の情報を聞いたルークは笑う。

 

 彼女としても、今日この時間は最も重要な時間だったのだろう。

 

 そう思うとこの剣を任されたことに、なんだか自信が持てる気がした。

 

「やっぱり昔とは違いましたか?」

「そりゃもう、ね。特に跳ね鹿亭の蜂蜜パイ、あれは絶品だ」

「ああ、美味しいですよねあれ。この前キリトに一つもらったんですけど、頬が落ちるかと思いました」

「ふふ、昔はあんなに賑わってはいなかった。君を見定める傍らで、随分と楽しんだよ」

「……寂しくは、ありませんでしたか?」

 

 いつもの調子で笑うルルディに、ルークは少し遠慮がちに尋ねる。

 

「……ん、まあそうでなかったと言えば嘘になる。確かに私の覚えているもの、そのほとんどが変わってしまった。この学院だって私の頃より色々と」

「友人とかは、いたんですか?」

「友人と言えるかは怪しいがね。やはりこの爵位にもなると、周りも……ね」

 

 ああ、と納得してしまう。

 

 ライオスやウンベール、平民であるルーク達を目の敵にする上位貴族達を思い返した。

 

 彼女の根底が貴族ではなく別の〝誰か〟ならば、あまり生き易くはなかったのだろう。

 

「あれ、けど確か……」

「ん?」

「えっと、学院にある伝説というか、噂なんですが。当時の初代主席上級修剣士と次席は……」

「…………ああ」

 

 やや間を置いて、ルルディは声を漏らして。

 

 朧げなその噂を思い返していたルークは、ふと部屋の空気が変わったような気がして顔を上げる。

 

 そしてルルディの方を見て──物憂げな表情で窓の外を見つめる彼女の横顔の美しさにゾッとした。

 

 

 

「そんなことも、あったかな」

 

 

 

 とても、深い声だった。

 

 

 南帝国にあるという大湖を思わせる藍色の瞳、僅かに上向いた口の端、膝の上で軽く握られた拳。

 

 柔らかい陽光に照らされる全てが、彼女の抱く強い感情……あるいは懐古だろうか……を示していて。

 

 それはまるで、愛を抱いたような──

 

「古い話ね。もう終わってしまったことだよ」

「そう、ですか……」

 

 これ以上は聞いてはいけない気がして、ルークは話題をそこで打ち止めた。

 

「そういう君は、誰か心を寄せる子はいないのかい? 何も貴族ばかりではないだろう」

「はぁ……それが、特にそういうのは生まれてこの方なくて」

 

 確かに自分達と同じように貴族でない異性の学院生もいるが、切磋琢磨をする仲間としか思わない。

 

 小さい頃、弟分の一人を含めた村の少年達に人気のあったアリスにも友愛以上の感情はなかった。

 

 

 母は、今は何処にいるとも知れぬ父を心から愛していた。

 

 あのキリトでさえも以前カマをかけた時は遠い所にいるようなことを言っていたし、ユージオは……

 

 だというのに、誰にも心動かない自分はもしや、最初から愛が欠落しているのではとすら思う。

 

「なんだ、勿体ない。せっかく格好良い顔立ちなのに」

「そんなに綺麗なルル先輩に言われると、なんだかむず痒いですね」

「おっと、私を口説いても仕方がないよ?」

「そ、そんなつもりじゃありませんよ」

「わかってる。からかっただけだ」

 

 クスクスと笑うルルディは、ああ他の男が見れば一発で恋に落ちるのだろうなと思えるくらいには美しくて。

 

 けれども、先ほどの彼女の顔を見た後では……決して叶わないのだろうとも思えた。

 

「もしも君が……いいや、仮定ではないな。上級修剣士になった時傍付きが女の子なら、あまり迂闊なことは言わない方がいいよ」

「迂闊なことって?」

「ふふ、その時になればわかるさ」

「そもそも、相手が貴族だったらどうにもならないんですけどね……」

「いや、五等や六等の爵位の子ならば感性はほとんど変わらないはずだ」

 

 ルルディにからかわれ、ルークが応答する。

 

 あと少しで終わってしまうこの一年を振り返るように、いつも通りの雑談を昼過ぎまで楽しんで。

 

 

 

 

 

 その後、ユージオからキリトがウォロ主席上級修剣士と罰として立ち合いをしたと聞いて卒倒しかけた。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

次回からどうするかなー。
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