ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
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「うーむ……」
部屋に一つ、悩む声が響く。
発生源はこの上級修剣士寮の新たな住人である、ルーク。
つい最近引越しを終えたばかりの彼は、ソファに座り一人悩ましい顔をしていた。
その視線の先には、格調高いデザインのテーブルの上に置かれた一枚の紙。
〝上級修剣士専用制服申請書類〟と銘打たれたそれが、彼の新たな悩みの種であった。
「……どうするかなぁ」
ルークの口から、もう三回目の同じ科白がこぼれる。
学院生のトップ、選ばれし十二人の上級修剣士に与えられるいくつかの特権の一つ。
それが制服の改修である。色、形、その他幾つかの点を使用者の自由にできるのだ。
ルルディはその髪の色に合わせ、深い紺色を基調としたものとし、スカートの長さも調整していた。
キリトが傍付きをしていたソルティリーナや、ユージオのゴルゴロッソも同様に特異なものであり。
またこれは、彼ら上級修剣士を見分けるための証でもある。
そのためにルークにも、この書類が回ってきたわけだが……ここで迷った。
正直ルークとしては、自由にしていいと言われてもあまりピンとこない。
上級修剣士としての威厳はなければならいが、かといってどこぞの輩のように自分を誇示する趣味もない。
しかし基本色にするのも、それはそれで勿体無いが………
「なあ、お前はどう思う?」
振り返り、剣立てに鎮座された愛刀に聞いてみる。
ーーィイン。
返事をした相棒だが、あいにくと自分で考えろと言っているようだ。
唯一の相談相手を失い、ガックリと頭を落としたルークはため息を吐く。
「あーダメだダメだ、こんなとこで考えてても仕方がない。ちょっと外出よう」
こんな所で缶詰になっていても仕方がない、とルークは立ち上がる。
どうせなら修練場に行くかと、木剣を手に取り、申請書をポケットにねじ込んで部屋を出た。
寮監に外に出る確認を取り、剣士達の塔の外に出る。
大修練場は上級修剣士寮のすぐ隣にあった。
今日の授業は全て終わり、よほど熱心な輩でもなければ残っていないだろうと考えながら向かう。
そして、実際に修練場の中にはわざわざ放課後まで汗水を垂らして練習する貴族様はいなかった。
「せぁっ!」
「くっ、まだまだ!」
そう、貴族は。
木剣を手に、互いを鋭い目で睨みつけている二人の少年。
いいや、もうルーリッドを立ってからまる二年以上経過したのだ。男と言っても差し支えあるまい。
剣士と呼ぶにふさわしい気迫で鎬を削っている男達に、ルークは思わず口の端が上がってしまった。
(そりゃそうだよな。お前らがこんな自由な立場になって、時間を存分に使わないわけがない)
あるいは、男の一方がもう一人を誘ったのかも。
ともあれ、弟分らの精力的な姿勢に感心しながら、パンパンと軽く手を叩く。
二人は同時に振り向き、そしてルークだとわかると一気に剣気を解いた。
それを確認して、ルークは二人……キリトとユージオに歩み寄る。
「よう、お前らもいたのか。ずいぶん白熱してたみたいだな?」
肩で息をする二人に聞くと、キリトは不敵に笑い、ユージオは少し恥ずかしそうにした。
「まあな。こいつが頭を抱えてるから、リフレッシュがてら連れてきたんだ」
「うん、キリトが付き合ってくれたんだよ」
「リフレッシュ?」
「あ、ああ、気分転換って意味だ」
「なるほどな」
まあいつものキリトの神聖語的な言い回しはともかく、ユージオの方を見る。
見た所普通そうだが、どうやら自分と同じように何か悩んでいるらしい。
「……よし、わかった。それなら俺も混ぜてもらおうか」
「ええっ、ルークもかい?」
「おう。俺もちょうど頭を空っぽにしたかったんだ」
いいだろ?と聞くと、特に問題もない二人は快く頷いた。
ユージオは少々休憩が必要ということとで、先にルークとキリトが模擬戦をすることになった。
「加減はいるか?」
「冗談」
からかい半分に問うキリトに答え、構える。
右半身を後ろに腰を落とし、愛刀の形に似せて削り直した木剣を左腕に乗せるように。
右の手で柄の根元を。左の手は自由に動かせるよう緩く柄頭に添える。
キリトも木剣を腰だめに構え、二人は一定の距離を保って闘志を高めた。
「ーー来い」
「それじゃあ行く……ぞっ!」
宣言と共に、鋭い踏み込み。
「ハァッ!」
裂帛の叫びと共に右足が踏み込まれ、中段からの一閃が放たれる。
他の同級生達とは比べ物にならぬ鋭さと速さは、迫るだけで冷や汗が浮かぶ。
されど、ルークは動揺しない。
確かにその剣筋を目で捉え、短く踏み込むと木刀の腹でするりといなした。
「ふっ!」
そのまま返す刀で首を狙うも、素早く引き戻された剣によって防がれる。
キリトがニヤリと笑い、同じ顔で笑い返したルークは一瞬で姿勢を落とすと下から斬り上げた。
キリトは冷静に一歩下がり、その一撃を避けると上から……と見せかけ、右斜めからの斬り下ろし。
左下から同じ軌道で弾き返し、振り切る前に軌道を変えて上段。
するとキリトは、なんと弾かれた腕を振り下ろし、柄頭で木刀を叩き落とした。
「やるなキリト!」
「お前こそな!」
互いを讃え、また剣舞を繰り返す。
剣速は互角ーー否、力ならばルークが上。
「腕を上げたな!」
「お前こそ!」
ルークの剣術は、元を辿れば村にある衛士用の剣術指南書のものだ。
それは修剣学院の授業にも通ずるところがあり、つまるところーー一撃の強さを求めたもの。
しかし、それが通じないと悟ったのは森の獣退治を行い始めた頃。
当たり前なことだが、〝魅せる〟ための一撃を大人しく受けるような、阿呆な獣はいない。
幼いルークは翻弄され、いいように弄ばれた。
それからルークは手数の多さに重きを置くようになり、そしてキリトが現れた。
数々の秘奥義に多彩な剣技、これこそが求めていたものだと確信し、積極的に取り込んだ。
貴族達からは田舎剣法などと馬鹿にされているものの、ルークの今の地位がその実力の証左。
つまるところ、経験と類い稀な修練によって培われた剣技は……キリトに勝るとも劣らない。
「ハッ!」
「フッ!」
永遠に続くかと思われた攻防は、互いの首筋に剣を突きつけることで終わった。
「……引き分け」
「だな」
互いに剣を収め、張り詰めていた緊張感が解ける。
キリトとルークは互いに無言で見つめ合い、やがてがっしりとどちらからともなく手を握り合った。
そこに観戦していたユージオが近づいてきて、キラキラとした目で二人を褒める。
「すごいよ二人とも、速くて目で追うのが大変だったよ」
「おおユージオ、次はお前か」
「うん、よろしくねルーク」
それからユージオとも模擬戦を行い、その結果はまたも白熱したものとなった。
キリトに負けない気迫、そしてギガスシダーの伐採で鍛えられた足腰から繰り出される力強い剣技。
ルークは存分に剣を振るい、熱中することで、頭痛がしそうなほど悩ませていた思考を爽快にした。
「ふう、一旦休憩……」
「つ、疲れたよ……」
「まあ、お前らは俺が来る前もやってたからな。仕方がない」
腰を落ち着けた二人に笑いかけ、ルークは目の前に座る。
「で? ユージオは何に悩んでたんだ?」
「実は、傍付きのことなんだけどね」
「あーそうか、お前らも上級修剣士になったからには付けないといけない義務があるもんな」
「そうそう。で、俺らは平民だろ? だからユージオ君は、貴族様の息子や娘と、どう接しようって今から緊張してたんけだ」
「なるほど、そういうことか……」
以前にも話題に出たが、気楽に聞き流せない問題だ。
ライオスとウンベールのようなのは稀だが、それでも貴族は総じてプライドが高い。
下手な相手を選ぼうものならば、先輩である修剣士が後輩にへり下る、なんてことになりかねない。
そんなことをユージオは心配しているのだろう。
自分達は決して、貴族に媚を売るためにこの学院にいるのではないのだから。
ルークも、相手は慎重に選ぼうと内心決めていた。
「そういうお前は気楽そうだな、キリト」
「実際に会ってからじゃなきゃ、どうなるかなんてわからないだろ? どんな奴が学院に入ってくるのかもわからないしさ」
「まあ、それも一理あるな」
「キリトのその奔放さが、時々羨ましく思えるよ」
呆れとも取れる反応を返すユージオに、いたずらに笑ったキリトは「なんだと〜?」とじゃれついた。
いつものことなので微笑ましく見守り、やがてキリトが飽きてユージオから離れた所でルークを見る。
「要するに、落ち着いて、自然体でいけばいいんだ。ステイ・クールだよ」
「ステイ・クール……」
「それにほら、いけすかない奴が出てきても、我らがルーク君があしらってくれるさ」
「まったく、俺は貴族避けじゃないぞ」
でもあしらってるだろ、と笑いかけられたら、頷かざるをえない。
他の学院生達の間でも、貴族をやり込める不遜な男として名が通ってるのがなんとも皮肉だ。
「しかし、自然体か……」
口の中で呟くように、キリトの言葉を反芻する。
自然体。
無駄に畏まる必要も、威厳を必要以上に出す必要もない。
それは、今ルークが抱えている悩みを解決するのには十分な答えだった。
「ありがとな、キリト」
「ん? 何のことだ?」
「いや、なんでもないさ」
軽く肩を叩けば、キリトはユージオと顔を見合わせて首を傾げた。
その後、十分に休息をとった後にもう一戦やり、広場の方に行くらしい二人と別れた。
「〜♪」
寮へ帰る際のルークの足取りは軽く、鼻歌さえ歌いながら歩く。
たった十数メルの道を行き、寮監に帰ってきたことを告げ、確認を取ってもらい部屋に行く。
「さて……」
部屋に帰って早速、木刀を片付けて申請所類を書くことにする。
ポケットの中で若干端が折れていた用紙を取り出し、テーブルに置くとカリカリと書き込む。
「あとは……」
いくつかの項目を書き込んだ所で、視線を上げて部屋の中を彷徨わせた。
最終的に白剣へと目線は定まり、応えるように牙は震えた。
ーーィイン。
「そうだな。俺の〝自然体〟には、お前もいないとな」
〝主張〟を伝えてきた相棒に笑い、ルークは最後の項目を書き込んで。
数日後、ルークの下に届いた制服は灰色に染まり、青と白の線が入っていた。
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