ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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今回はあの子が再登場。

楽しんでいただけると嬉しいです。


再会

 

 

 人界歴三百八十年、四の月七日。

 

 

 

 その日は北セントリア修剣学院に在籍する、上級修剣士にとって重要な日である。

 

 何せ、彼らは入学試験で得点の高かった上位12名の新たな初等錬士から、傍付きを選ばなければならない。

 

 

 これは、生まれながら《貴族》の天職を与えられた学院の子息子女らにとって、一種の儀式だった。

 

 上級修剣士、特に子女は、自分より爵位の低い家の錬士を選ぶことが好ましい。

 

 つまりここで自分より格上の相手を選ぼうものなら、自分の無知を晒すこととなる。

 

 それを避けるため、貴族である上級修剣士は他家の名を覚え、緊張を張り巡らせて臨む。

 

 

 

 もっともこれは、貴族ならばの話。

 

 

 

 ルーク、キリト、ユージオ。

 

 平民にして見事上級修剣士の座を手にした彼らにとって、この風習は()()無関係。

 

 ただ代わりに気にすることが一つ、決して上位貴族を選ばないこと。

 

 

 これだけ聞くと風習に囚われているようにも思えるが、実際は個人的な心情が非常に強い。

 

 あの性悪二人組やその他のお貴族様に辟易している彼らにとって、それは最重要事項なのだ。

 

 

 願わくばルルディのような人物がいることが望ましいが、そんなことはあり得まい。

 

 故に、キリトとユージオを守るためにこの二年で鍛えた観察眼をルークは存分に使う気でいた。

 

 無論貴族の家名など網羅していないが、見ればわかる。

 

 

 

「……時間か」

 

 八度目を半分過ぎた鐘が鳴り、ルークは神聖術の教本を閉じる。

 

 集合30分前の知らせでもあるそれに、よしと今一度気合を入れてソファーから立ち上がる。

 

 

 部屋にはルーク一人。

 

 一度浴室に行き、鏡で寝癖や真新しい上級修剣士の制服にシワがないかを確認する。

 

 

 初等錬士のものより濃い灰色に、胸元に白と水色の差し色が入った制服。

 

 当初こそ大して興味がなかったので気恥ずかしかったが、一週間も経てば今や彼の勲章だ。

 

「……よし」

 

 身だしなみに問題がないことを確認したルークは、ふと手首に目がいった。

 

 動かした拍子にチャリン、と互いに擦れて音を立てる、二つの花飾り。

 

「行ってきます、先輩」

 

 それを通して〝彼女〟に呟き、ルークは気合を込めた瞳で浴室を後にした。

 

「じゃ、行ってくるぞ」

 

 

 ──ィイン。

 

 

 相棒にも挨拶をして、いよいよ部屋を出る。

 

 そうして扉を閉めたところで、向かいから音がして振り返った。

 

「あ、ルークだ」

「おお、二人か。キリトはちゃんとうたた寝はしなかったみたいだな」

「おい!」

 

 本日も良い日柄、暖かい陽光で寝こけていたと勘繰られたキリトが抗議する。

 

 隣にいたユージオと、螺旋状の階段を間にルークが笑い、最後の緊張を解きほぐした。

 

「ったく……っし、行くか」

「うん」

「ああ」

 

 切り替えは一瞬。

 

 揃って頷き、一階に降りると寮監からの激励をもらって集合場所に急ぐ。

 

 

 上位12名が集められ、上級修剣士と面会するのは大修練場。

 

 

 学院生達が修練を積み、剣技を磨くその場所こそが並み居る剣士を押しのけ、上に立った者達に相応しい。

 

 初等錬士は既に入学式を終え、大修練場にて上級修剣士を待っている。

 

 

 なので自然と足早になりながらも、三人はぼやくような会話を交わす。

 

「それにしても、ほんとこの行事緊張するんだよなぁ……」

「去年は僕らが選ばれる側だったからね。適当に決めないでよ」

「わかってるって。いらないおべっかを使うのなんかゴメンだからな」

「俺の方でも見とくが、二人とも気をつけろよ」

 

 警告とも取れる言葉を二人に送り、幾許もしないうちに大修練場の前に着く。

 

 

 今更確認しあうこともなく、ルークが扉を両手で押し開いた。

 

 

 中に広がるは、まさに大修練場の名にふさわしい立派な練習場。

 

 磨き抜かれた白板張りの床、四面取られている正方形の試合場と階段状の観客席。

 

 年四回の検定試験を最大のイベントとして使われるそこは、実に院生・教員合わせ260名を収容できる。

 

 

 そこには既に何人かの上級修剣士が揃っており、ルーク達はそこそこ早かったようだ。

 

「おやおやこれは、ルーク上級修剣士にキリト修剣士、ユージオ修剣士ではないか」

「てっきりその身分が恥ずかしくて、部屋から出てこないものと思いましたぞ」

 

 そしてまあ、厄介な奴らもいた。

 

 もはやお馴染みとなった嫌味ではあるが、ウンベールのルークを見る目がやけに敵意に満ちている。

 

 

 それもそのはず。

 

 二人のうち、特に噛み付いてくるウンベールを悉く撃退しているのはルークである。

 

 さりげない授業中の嫌がらせを逆手に取り、自分の優位とすること数回。

 

 うまい具合にキリト達を人の目の届かない所に誘導しようとし、教員にチクったこと数回。

 

 

 

 嫌味を嫌味で返すこと、数えきれず。

 

 

 

 ただでさえやり込められていることが不満ならしい上に、第三席になった途端これだ。

 

 どうやら捻じ曲がったプライドをこさえた彼にとって、ルークはとても調子に乗っているらしい。

 

 まるで平民風情が、と顔に浮き出てきそうなレベルで剥き出しの負の感情だ。

 

「おや、これは首席殿と次席殿。本日もご調子はよろしいようで。ところで上の部屋はどうですか? なんでも風が強いとか。特にウンベール殿は、その髪型が風で崩れそうですが」

「貴様……っ!」

「やめろウンベール……いや何、実に爽快だよ」

「そうですか。それでは」

 

 が、ルークはまるっとそれを無視して部屋の隅に二人を伴い去った。ウンベールの顔がさらに赤くなった。

 

「ぷっ、くく……!」

「か、髪型がって……!」

「だってお前らもそう思わないか? あの髪型、絶対毎朝丹念にセットしてるぜ。それなのに窓から吹き込む風で、ブワッと……」

「や、やめろルーク、脇腹が痛い……!」

「な、なんでそんなこと思いつくのさ……!」

 

 本人に聞こえないよう堪え笑いする二人に、ルークの背中に射抜かんばかりの熱視線が突き刺さる。

 

 無論ルークは反応すらせずに腕組みをして時を待ち、さりげに初等錬士を観察する。

 

 

(みんな緊張してるな。特にあの小柄な女の子と赤髪の女の子が……?)

 

 

 半数が女である初等錬士を観察していると、ふと目が止まった。

 

 特にガチガチに緊張している二人と対照的に、全くその気がないからか。

 

 あるいは、その「背中まで伸びる艶やかな紫の髪」にどことなく既視感を覚えたか。

 

 

(あの子どこかで……それも、一度会ったら忘れないレベルの……)

 

 

 頭を捻るルークだが、後頭部しか見えないのではわからなかった。

 

 結局ルークが思い出す前に上級修剣士が全員集まり、いよいよ始まった。

 

「では首席から、順番に指名するように」

 

 教師の言葉に従い、直立不動で並んだ初等錬士達から傍付きが選ばれる。

 

 

 順位に倣って並ぶために、隣からのウンベールの視線をシカトしながら自分の番を待つルーク。

 

 さほどせずにライオスが召使い……否、傍付きを選び終え、ウンベールも同じように相手を見繕った。

 

「では、ルーク上級修剣士。前へ」

「はい」

 

 一歩前に進み、残る十人の錬士達を一人一人と順に見ていく。

 

 

 

 不安がるもの、不思議がるもの、平民と見下す目をするもの。

 

 

 

 あるいは、背の高く切れ長の目をしたルークの真剣な顔に怯えるものもいた。

 

 

 とりあえず、あからさまな蔑みを向けてくるものは除外。

 

 次に小さく悲鳴を上げた先程の女子二人も、彼女達に悪いので除外。

 

 

 仕方なし、残る誰かから選ぶかと視線を巡らせ……ふと一番右端を見た。

 

「っ!」

 

 そして、目を見開いた。

 

 

 そこに立っていたのは、一人の少女。

 

 

 些か小柄な体を初等錬士の制服に包み込み、美しい髪を左側で括っている。

 

 少女と女性の中間にいるような美貌は無機質で、その瞳もまたじっと虚空を見つめ。

 

 

 全てに見覚えがある。

 

 あの日と変わらない、けれどあの時よりも凛とした少女に、ルークはこれも運命かと笑んだ。

 

「ルーク上級修剣士。早く選ぶように」

「ああ、はい……では、右端の君」

 

 ゆっくりと、こちらに向く視線。

 

 

 彼女はルークの顔を見て、僅かにだが目を見開いた。

 

 それは驚き半分、といったところ。残る半分は彼女のみぞ知るところだが、悪意ではない。

 

「名前は?」

「……シャーリー・ティリーモア。五等爵氏、テリィーモア家長女です」

「そうか。では──君を俺の傍付きに指名したい」

 

 迷いなく、そう告げる。

 

 

 彼女が断ればそれまで。思い返せば、実に短く他愛無い縁だ。

 

 だがルークは、この偶然をそれのみで終わらせるのは勿体無く思った。

 

「……謹んでお受けいたします、ルーク上級修剣士殿」

「では、これからよろしく頼む。ティリーモア初等錬士」

 

 形式的な挨拶を終え、ルークは列に戻る。

 

 

 それから何事もなくキリト達も指名をして……あの二人だった……傍付き選考は終わった。

 

「では、これにて解散とする。以降、授業はないが寮で過ごすように。また、自主的に傍付きの生徒に学内を案内することは許可する」

 

 教師の言葉に、そういえばそんなこともあったなと思い返すルーク。

 

 この日は入学式に初等錬士達の入寮、その他諸々の手続きで学院はある種の休みとなる。

 

 

 とはいえ休息日でもないので許可なく学外へは出られないが、ある程度の自由が与えられた。

 

 去年はルルディに選ばれて早々、丘や小川まであるこの広大な敷地を連れ回されたものだ。

 

 

 物思いに耽るうちに、各々解散していく生徒達。

 

 あるものは最低限の顔合わせで初等錬士と別れ、あるものは上級修剣士寮に案内するという。

 

 

 そして弟分達は、やはりというか異性が相手になることでなんともぎこちないやり取りをしていた。

 

 一番マシそう、という理由が主たる選考理由だったが、まあ今後の成長のためにも放っておこう。

 

 

 そう思い、軽やかに弟分達を見捨て……見守ることにしたルークは、彼女を見る。

 

 するとシャーリーの方も、じっとルークの方を興味深げに見つめていた。

 

 ルークは少し笑い、なるべくあの日のように優しい顔つきを心がけながら歩み寄る。

 

「やあ、久しぶり。この学院に入ってきたんだな」

「……ん、お久しぶりですルーク上級修剣士殿」

 

 返ってきたのはやや固い声での返答だった。

 

 

(……ああ、緊張してるのか)

 

 

 見れば、少し表情も強張っている。

 

 

 思っていたよりもわかりやすい少女に、ルークはとりあえず話題を振ることにした。

 

「とりあえずここからは自由行動だし、少し外を歩きながら話そう。君が良ければ、だけど」

「……わかりました」

 

 これでも貴族の娘なので少し警戒していたが、シャーリーは表情無く頷いた。

 

 嫌がっているわけではなさそうなので、キリト達を残して大修練場を後にする。

 

 

 

「ここが中庭で、あっちが中央校舎と図書館。で、あそこにあるのが初等錬士寮。数ヶ月前まで俺もいたんだ」

「……結構、広いですね」

「ああ。俺はちょっと訳あって大体の場所を把握してるから、迷いそうな時はすぐ聞いてくれ」

「……はい」

 

 一応敷地内の説明をしながら歩くこと、少し。

 

 やはり緊張しているようで、シャーリーの受け答えはぎこちない。

 

 

 なんとも言えぬ表情になり、ルークは「あー」と徐に切り出した。

 

「使いづらいなら、敬語はいらないよ。あの時みたいな感じでいい」

「……でも」

「無理矢理に畏まる必要はない。俺もその方が気楽だからさ。それにほら、こう言うのは好きじゃないけど、俺は平民で君は貴族だろ?」

 

 それを避けて選んだ以上、ある意味禁句のそれを言うと、シャーリーは少し考え込んでから頷いた。

 

「……ルーク上級修剣士殿が、そう言うなら」

 

 仰々しい呼び名に、それもそのうちどうにかしないとなと思いつつ頷くルーク。

 

 途端にシャーリーは、ふっと小さくため息を吐いて表情を少しだけ和らげた。

 

「……疲れた」

「だろうな」

「ここに来てから、ずっと緊張しっぱなし。あなたに会ってもっと緊張した」

「それは悪かったな。俺も驚いたよ、まさか君がこの学院に入るとは」

 

 あの日の推測は間違っていなかった、と言うことだろう。

 

 なにせ上位に入るほどの得点を取れる腕前を持つのだ、剣士として将来性があるだろう。

 

「昔から、剣が好き。貴族の義務としてじゃなくて、私が自分で好きなの」

「そっか。俺も剣を振るのは好きだよ。おかげでこんな場所までやって来れた」

 

 今は誇りである制服の襟元に指で触れつつ、ルークはシャーリーを見下ろす。

 

 彼女は歩きながらじっと見つめ返してきて、少し躊躇いがちに口を開いた。

 

「どうして私を選んだ?」

「そりゃ、下手な貴族様を選ぶくらいなら、あんなことでも顔見知りの方が楽だろ?」

「……確かに」

「ああ、あともう一つ」

「?」

「また同じようなことがあった時、すぐに守れるようにさ」

 

 ポンポンと軽く肩を叩き、笑いかけるルーク。

 

 

 彼としては、一度厄介ごとに首を突っ込んだ以上は最後まで面倒を見るつもりだった。

 

 次の再会はこんな数ヶ月も後となったわけだが、それでも変わりはない。

 

 

 ちなみにこれは、よく癇癪を起こして口喧嘩する村の子供達の世話から生まれた思考だ。

 

 一回関わろうとしたならちゃんと最後まで世話をして、安全にことを終わらせる。

 

 

 おかげで、何故か年の近い連中には〝年下殺し〟だの〝無自覚たらし野郎〟などと意味不明なことを言われたが、そこはそれ。

 

 ある意味教訓じみたそれは、彼の中でシャーリーの一件にも履行されていた。

 

「というわけだ。困ったことがあればなんでも言ってくれ。俺のできる範囲なら、上級修剣士として面倒みるよ」

「……ありがとう」

「ん。じゃあ、今度は校舎内の案内をしようか」

 

 中央校舎の方に歩いていくルークの背中を、シャーリーは見る。

 

 

 

「……私も、あなたに選ばれてよかった」

 

 

 

 右肩に手を置いて、小さくつぶやいた言葉。

 

 それはルークには聞こえず、彼女は小さく微笑みながら後についていった。

 




読んでいただき、ありがとうございます。

二章はこれにて終わり。

また現実サイド書くかな…ネタないけど
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