ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
今回はキリト視点で。
楽しんでいただけると嬉しいです。
俺……桐ヶ谷和人がこのアンダーワールドにやってきて、二年。
明日奈と一緒にいた時に、元ラフィン・コフィンのジョニー・ブラックに襲われ。
気がつけば、〝キリト〟としてラースが管理するこの世界へと舞い降りていた。
程なくして、ユージオというこの世界の住人……アンダーワールド人に出会った。
彼に導かれ、ルーリッドの村にて出会ったのは、ルークやセルカを筆頭にした大勢の人々。
まるで異世界のようなこの世界に生きる彼らは、驚くべきことに自ら成長する人工知能なのだ。
だが、それを時々忘れてしまいそうになる程に、彼らは人間味に溢れている。
常々そう感じるのは、ユージオとルークという近しい存在がいてこそだろう。
俺にとって、ユージオは相棒。ともすれば兄弟のような存在だ。
彼に俺が剣技を教え、そして彼が俺にこの世界の常識を教え。
助け合い、歩幅を合わせて積み重ねた時間は、彼が単なるAIではなく、魂を持つ〝人〟であると何度も俺に感じさせた。
そして、ルーク。
彼は、ユージオとは違った意味で特別な存在だ。
俺個人の観点から見れば、頼り甲斐のある兄貴分というのが適切か。
同じ目線に立って、同じ場所を目指す手助けをしてくれる、同い年の兄貴分。
常に余裕を持ち、先を見据え、理知的に行動する様は、厄介な貴族達でさえ歯牙にも掛けない。
恥ずかしながら、彼に剣を持つ以外の戦いで助けられた回数は数え切れないだろう。
色々と純粋なユージオに比べてみると、ある意味より現実世界の人間らしいと言える。
そんな二人と共に、俺は今日まで人界を統括・守護する公理教会《セントラル・カセドラル》を目指し、剣を振るっている。
俺は、あの天楼に存在すると思われる、現実世界への架け橋を目指して。
ユージオは、かつてこの人界を守る整合騎士に連れ去られた幼馴染、アリスと再会する為に。
ルークは、ユージオと同じようにアリスを取り戻す為。
そしておそらくは……俺達が旅の終着点に至ったその先をも、考えている。
「せぁっ!」
「ふっ!」
裂帛の叫びと共に、剣戟が交わされる。
木剣とは思えない硬質な音が響き、白金樫の刀身が小さく火花さえ散らしているように見えた。
それを握る二人の剣士は、鎬を削りながら小さく微笑むのだ──俺の眼前で。
「良い踏み込みだな、リィ!」
「んっ!」
背の高い男──俺の友人にして兄貴分であるルークが、楽しげに褒める。
短く返答した傍付きの女の子が、一旦身を引くと恐るべき速度で刺突を繰り出した。
「しぃっ!」
「はっ!」
レイピアのように細い、木剣の切っ先が刀身の腹で受け止められる。
一度ならず、何度も何度も、いなす隙さえも与えないよう嵐のように繰り出されていく。
小柄ながら……いいや、小柄だからこそ素早く、鋭い。
踏み込みも体重移動も良く、もしかしたらアスナともいい勝負ができるのではないだろうか?
そう感嘆するほどに、一つ下の少女の剣技はずば抜けていた──相手がルークでなければ。
「いいぞ、リィ! 技の繋ぎが前より滑らかだ!」
「くっ!」
剣の腕前を褒めそやしながら、軽々と全ての刺突を受け止めている。
適当にではない。一つ一つの動きが洗練され、最も彼女を疲れさせる位置取りをしているのだ。
実際、良いペースを保っていたシャーリーさんの動きが、少しずつ鈍っていく。
やがて、それは起こった。
握力が限界だったのだろう。腕を引き戻した拍子に剣先がぶれたのだ。
「ふっ!」
「っ!」
そのタイミングを見逃さず、ルークが踏み込む。
シャーリーさんは小さく驚き、苦しげな顔をしながら身を引いた。
そして胴体を守ろうと木剣を構え──ピタリ、と止まったルークに今一度驚く。
フェイント。大仰な動きで意識を誘導したルークは、彫像のように静止することで更に大きく隙を作った。
そしてルークは、両手で握った木刀を──
「はい、ここまで」
「……あう」
トン、と天命が減らない程度の力で、剣先が頭に置かれる。
それは終わりの合図。
途端にシャーリーさんが座り込み、荒い息を吐く。
「うん、目覚ましい進歩だな。この前よりも剣技の冴えが増してる。いい成長だ、リィ」
「はぁ、はぁ……ご指導、ありがとう、ございます」
「ゆっくり息を整えるんだ。まだ時間はあるから」
ルークの言葉に、木剣を支えに立とうとしていたシャーリーさんが緊張を解いた。
それを優しい眼差しで見ているルークは、ふとこちらに振り返る。
「で、観客席のお客さんのお眼鏡には敵ったかな?」
「……ああ、十分だよ」
汗ひとつかいていないルークの顔に、苦笑せざるを得ない。
アンダーワールド人は平均してかなりスタミナがあるが、ルークはその中でも飛び抜けている。
長年鍛えられた肉体と、恵まれた体格から繰り出される剣技は、時折俺でもひやりとするほどだ。
しかも、稽古をしながら相手に改善点を気付かせるのも上手い。
「ほら、これ」
「おう、ありがとう」
修練場を支える柱の根元に置いていた、シラル水の入った水筒とタオルを投げ渡す。
見事にキャッチしたルークは、視線を彼女に戻すと空いている手を向ける。
「平気か?」
「……はい」
ルークの手を取り、シャーリーさんが立つ。
すっかり呼吸を整えた彼女は、カチリと靴を合わせると小さく会釈した。
「いい勉強になりました。感謝します、ルーク上級修剣士殿」
「ああ、俺も色々考えることができた。今後も頑張ろうな」
「はい」
顔を上げるシャーリーさん。
そこにタイミングよく、ルークが水筒とタオルを差し出した。
彼女はそれをしっかりと受け取る。
「それで。キリト大先生から見て、リィはどうだ?」
「なんだよ、その呼び方……筋はいいと思う。ちゃんと基礎はできてるし、反応も早い」
流石、並み居る初等錬士達の中でトップ12位に入っただけのことはある。
偶然学院内で遭遇し、どうせならと稽古を観戦させてもらったが、充分見応えがあった。
それに……
「シャーリーさんは、剣が真っ直ぐだ。一本芯が通ってるっていうか、剣筋に迷いがないんだよ」
「ああ、それは俺も感じていた。リィは剣技にも素直さが表れてる。学んだことはすぐに実践できるし、反省点も即座に飲み込んで、考えながら動ける。正直ヒヤヒヤしてるよ」
「……でも、一度も届いたことがありません」
「はは、二ヶ月ちょっとで追いつかれる訳にはいかないからな」
「むう。いつか絶対勝ちます」
「どうやら、性格の項目に負けず嫌いも追加みたいだ」
朗らかに笑うルークと、少しむくれるシャーリーさん。
さながら兄妹のようなやりとりに俺も表情を緩めながら、先ほど言ったことを思い返した。
このアンダーワールドの貴族達は、一つの義務を持っている。
有事の際に平民を守る為、修剣学院にて剣技を充分に習得しなくてはならないのである。
一等爵氏から六等に至るまで、全ての貴族が共通して持つ務めであり、責任だ。
彼女もまた、その例に漏れてはいない。
だが単なる義務以上に、彼女の剣にはどこか強い〝意志〟を感じる。
このアンダーワールドで何よりも力を持つと予想される、唯一無二の心意を。
「さて、そろそろ帰る時間だ。アズリカ教官に睨まれる前に、寮に帰りな」
「はい。本日もありがとうございました」
律儀にもう一度礼をしたシャーリーさんが、足早に修練場を出ていく。
その後ろ姿を見送り、俺はふと楽しげな横顔のルークに尋ねた。
「なあ、ルーク。彼女があそこまで剣に没頭する理由って何だと思う?」
「ん? そりゃあ、貴族の義務ってのがあるからじゃないか? 三等以上の貴族様はともかく、下位貴族は真摯に考えてるしな」
「ああいや、それもそうなんだけど。なんていうかさ、彼女の個人的な理由っていうか」
ふむ、とルークが唸る。
オレンジ色に染まったソルスの光が満ちる修練場に、一時の静寂が訪れて。
やがて、彼は答えた。
「純粋だから、だろうな」
「純粋?」
「前に言ってたんだ。〝義務としてじゃなく、私自身が剣が好きなんだ〟って。その言葉は多分本当で、リィはどこまでも純粋に
「なるほど……」
楽しむ、か。
アインクラッド流と銘打った俺の技、それは元を辿れば、あの鉄の城で生き残る為に磨いたもの。
あの頃はかけがえのない思い出もあったけれど、それよりも辛いことの方が多い、残酷な世界で。
解放された後も、俺は何かしらの目的の為に剣を振っていた。
アンダーワールドにやって来てからも、ユージオに教えている時くらいのもので。
思えば、純粋に剣を振るうのだけを楽しむというのは、あまりなかったかもしれない。
「だから俺は、その気持ちを持たせ続けてやりたい。あいつの先輩でいる間は、いつか彼女が
「………………」
気にかかるセリフが入り混じったその言葉に、俺は返答をしなかった。
このアンダーワールドは、何よりも意志の力が強い武器となる。
剣を学び、振るうことが好きだという意思が、シャーリーさんの剣に芯を与えているように。
ソルティリーナ先輩が、自らの剣に誇りを抱いていたように。
そして、ルークもそれは同じなのだ。
強靭で、強固なまでの、〝守護の心意〟。
あの北の洞窟で、ダークテリトリーのゴブリンを斬り伏せた時から感じていた、無二の意思。
俺が知る中で、この世界の誰より強いその想いが、ルークの剣には秘められている。
それがより強くなったと感じたのは、数ヶ月前のこと。
具体的には、俺がウォロ・リーバンテイン主席修剣士と一戦交えた時期あたりからだろうか。
ルークはその頃から何か、その意思を行使するのに明確な
それは、不思議なことに
ルルディ・クローマと名乗っていた、アンダーワールド人にしては不透明すぎた女性。
彼女は、彼に何を言ったのだろうか?
「俺達も戻るか。門限が遅いとはいえ、夕食にはありつきたいしな?」
「……ぷはっ。そうだな、早く帰ろう」
まあ、なんにせよ。
ルークというアンダーワールド人が、ユージオと同じように二年以上の時を共に過ごした友人で。
頼りになる、この世界での兄貴分であることは変わりがないか。
そう思い直して、俺はルークと共に修練場を後にした。
読んでいただき、ありがとうございます。