ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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まだまだ不定期更新になりそうです。


先輩とは

 

 

 修剣学院の学習時間は、午前と午後の二つに大きく分かれる。

 

 

 

 座学や剣技等、多岐に渡ることを日々学ぶ錬士達が持つ、休息日以外に最も長い休息の時。

 

 それが正午の鐘から次の鐘までの一時間、昼下がりのひと時なのである。

 

 この時間を利用し、錬士は昼食を取り、あるいは更なる勉学や鍛錬に励むのだ。

 

「……あむ」

 

 例に漏れず、学舎の側にて食事をする少女が一人。

 

 すぐ側に立つ大きな木の陰が自然の日除けとなる、壁沿いに設置されたベンチの一つに陣取っている。

 

 ソルスが頂点に来るこの時間は過ごしやすいそこに、彼女はいた。

 

「……♪」

 

 小さな口でサンドイッチを頬張り、小さく両足をゆらゆらと前後に揺らす。

 

 それに合わせてサイドテールがさらさらと揺れる様は、まるで小動物が尻尾を振っているような可愛げがある。

 

 小柄で可愛さの残る顔立ちである彼女は、そうしているだけで秘めた魅力を発揮していた。

 

 近くを通りがかる学院生が、チラチラと彼女に目を向けているのがその証拠だ。

 

 

 

 

 最初こそ気にしていたが、数ヶ月も経てばその視線にも慣れるというもの。 

 

 今ではもう、気にかける事もなく昼食を味わうことだけに集中している。

 

「あ、いたよ」

「ほんとだ」

 

 だから、自分に近づく人物に直前まで気が付かなかった。

 

「こんにちは、シャーリー」

「……?」

 

 投げかけられる言葉に、彼女……シャーリーはようやく気がついて目線を上げる。

 

 するとそこには、柔和に微笑む同級生二人が立っていた。

 

「……ロニエ。ティーゼ」

「一緒に食べてもいいかな?」

「私達も、丁度昼食をとろうと思ってたの」

 

 胸の前にバスケットを掲げる、幼さの残る顔立ちの少女はロニエ・アラベル。

 

 その隣で首をかしげる、きりりとした目つきの赤髪の少女が、ティーゼ・シュトリーネン。

 

 何かと遠巻きにされるシャーリーが、はっきり学友だと認識している二人組である。

 

「…………ん」

 

 傍に置いていたバスケットを持ち上げ、場所を開けるシャーリー。

 

 二人は笑顔を浮かべ、彼女を挟むようにして両隣に腰を下ろした。

 

 

 

 

「シャーリーもサンドイッチ?」

「実は私達も同じなんだ」

「うん。これが一番美味しい」

 

 学舎の中にある、修剣士用の食堂で注文してきたサンドイッチを掲げるシャーリー。

 

 普段は凪いだ泉のような瞳がキラキラと輝いている。

 

 怜悧な雰囲気とは裏腹な友人の様子に、ロニエ達はくすりと笑った。

 

「シャーリーって、ご飯食べてる時はなんていうか、年相応の反応するよね」

「たしかに。普段は真面目! って感じだけど、こういう時は女の子っぽい」

「む。私、そんなに仏頂面?」

 

 サンドイッチを持っているのとは反対の手で、自分の頬を弄るシャーリー。

 

 相変わらず無自覚な上、その仕草も無表情なので、二人は苦笑いするしかない。

 

 

 

 

 不機嫌と見られることすらない、完全な無表情。

 

 初対面であれば気圧されるのは必須。彼女に近づこうとして、その真顔に離れていった男子は一人二人ではない。

 

 しかし数ヶ月も付き合えば、それが純粋な彼女の個性であることをロニエ達は理解していた。

 

「せっかく可愛いんだから、もっと笑えばいいのに」

「時々、あの鬼みたいな教官達も怯えてるくらいだもんね」

「……怖がらせてるつもりはない」

「わかってるよ、それくらい真剣に取り組んでるんだよね」

 

 どこか優しさを含んだティーゼの言葉に、サンドイッチを咀嚼しながら頷くシャーリー。

 

 この学院で学ぶ全てが新鮮で、それを楽しんでいることは二人にも既知の事実だった。

 

「私なんか、楽しむ暇もないくらい毎日ヘロヘロだよ〜……座学は大変だし、剣技の指導は厳しいし」

「だよねー。家でも剣は振ってたけど、やっぱり修剣学院ともなると格が違うっていうか」

「だからこそ、もっともっと成長できる」

 

 それは確かに、と頷く二人。

 

 飽くなき探究心と好奇心は、ロニエとティーゼとて持ち合わせているのである。

 

 

 

 

 三人は、口々に学院での生活のことについて語る。

 

 あの座学が苦手だとか、神聖術の構築がどうだとか、あるいは他の学友のことだったりも。

 

 剣を修める為に在籍しているとはいえ、学生生活というのは彼女達にとって楽しいものだ。

 

「……あ」

 

 やがてその話題が、街のアクセサリーショップに移った頃。

 

 不意に、外へと向けた視界に映り込んだ人物にシャーリーが声を漏らす。

 

「………………」

「それで……? シャーリー、どうしたの?」

「何を見て……」

 

 無言になったシャーリーの視線の先を、ロニエ達は追いかける。

 

 

 

 

 すると、少し離れた場所で丁度通りがかる三人組がいた。

 

 一人は黒い制服を着た、活発そうな黒髪黒目の青年。

 

 一人は深い青色の制服を纏う、冷静沈着といった言葉がよく似合う金髪碧眼の青年。

 

 そして、灰色に水色の差し色をした制服に身を包んだ、背の高い大人びた青年だった。

 

 彼らは何かを話し合いながら、笑顔で歩いていく。

 

「……先輩だ」

「あ、本当だ」

「……ふぅん?」

 

 ぽつりと呟いたシャーリー。

 

 その表情は、先程サンドイッチの話になった際のように……否、それ以上に変化している。

 

 ルークを追いかける瞳は優しい感情に満ち、口元は優しく緩んでいる。

 

 

 

 

 普段のシャーリーと比べ、劇的な変化。

 

 それにいち早く気づいたティーゼは、ニヤリと少し意地の悪そうな顔をする。

 

 同じようにキリトを見ていたロニエは、遅れて彼女の表情を知り、シャーリーを見て……やはり同じ顔をした。

 

「……ん」

 

 三人が見えない場所まで行ってしまうと、少し残念そうに眉を落として視線を戻す。

 

 すると、ロニエとティーゼがニヤニヤとしていることに初めて気がついた。

 

「……何?」

「ううん、なんでもないよ〜」

「ただ、シャーリーの女の子っぽいところ、もう一つ見つけたなーって」

「?」

 

 二人の言葉と表情の意味が分からず、数秒首を傾げるシャーリー。

 

 やがて、徐々に理解していくと、それに伴い頬を赤く染めていった。

 

「……別にそういうことじゃない。ただ先輩がいたから、見てた。それだけ」

「ええ〜、本当〜?」

「そのわりにすごーく柔らかい笑い方してたよ〜?」

 

 二人の愉しそうな顔と言葉が止まらない。

 

 それを見るまいと、下を向いてプルプルと震えるシャーリー。

 

 

 

 

 合わせて小刻みに揺れるサイドテールが、まるで気持ちを代弁しているよう。

 

 そのうち、震えがピタリと止まる。おや? と不思議がるロニエ達。

 

 シャーリーがキッと少し恨めしげな顔で頭を振り上げた。

 

 これはまずいと思ったのも束の間、

 

「……ロニエだって、キリト先輩のこと凝視してたくせに」

「ふえっ!? ああああれはその、えっと〜……」

「シャ、シャーリー?」

「ティーゼも、この前廊下で鉢合わせしかけた時、角に隠れてユージオ先輩のことじっと見てた」

「な、なんで知ってるの!?」

「たまたま見てた」

 

 狼狽えるロニエ、シャーリーの眼光に体を引くティーゼ。

 

 劣勢であることを悟る二人。交互に二人の顔を見るシャーリーの雰囲気は鋭い。

 

「……ご、ごめんなさい」

「か、揶揄いすぎちゃったね」

「……ん、私も仕返ししたからおあいこで」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 

 ただならぬオーラを収め、残る一つのサンドイッチを食べるシャーリーにホッとする。

 

 彼女を挟んでロニエとティーゼは顔を見合わせ、頷き合うと恐る恐る話しかけた。

 

「でも、実際ルーク先輩のことはどう思ってるの?」

「悪い人じゃないとは思うけど、シャーリーからはどう見えるのかな?」

 

 揶揄する意味のない、純粋な質問にシャーリーも、今度は少し考える素振りをする。

 

 やがて、答えが出たのか小さな口を開いて。

 

「…………すごい人、だとは思う」

「すごい人?」

「それって、強いって意味? たしかに上級修剣士序列三位だし……」

「それもだけど。もっと、色々すごい」

 

 ロニエ達の言う通り、剣を交えた時の泰然とした、まるで小山のように巨大な生物の如き威容もある。

 

 しかし、シャーリー・ティリーモアはルークという人間のことをそれだけで見てはいなかった。

 

「一生懸命、物事に取り組む姿勢も。真摯に人と向き合う優しさも……あと、上位貴族をやり込める弁舌も」

「あ、あははー……」

「最後のはともかく……シャーリーの言う通り、そういうところはすごいかも」

 

 ロニエとティーゼは、最初にルークを見た時は随分と怯えていた。

 

 横柄で傲慢な上位貴族とは異なる、見ているだけで呑まれてしまいそうな剣気を感じたからだ。

 

 さながら、雄黄の眼で見据えられ、巨大な顎門がそこにあるような、泰然とした雰囲気。

 

 

 

 

 ゴブリン討伐という、未だかつて整合騎士以外に体感しえない死闘を経験したからか。

 

 それを彼女達が知っているわけではないが、そんな風に一方的に怖がっていた二人にルークは気さくに接した。

 

 もっぱらキリトやユージオと一緒にいた時に、という機会が多いが、今ではすっかり悪い印象は解けている。

 

「私より頭二つくらい背が高いし、前は見下ろされると足がすくんじゃって……」

「すぐに気がついて怖がらせないよう接してくれたり、ユージオ先輩達もわからない座学のこととかも教えてくれるし」

 

 二人の言葉に頷き、シャーリーは三人がさっていった方向を見る。

 

「先輩は、大木みたいな人。側にいると安心する。だから……そういうこと」

 

 

((あ、最後ちょっと誤魔化した))

 

 

 肝心なところを濁したシャーリーに、二人はまた顔を見合わせてくすりと笑った。

 

 そんな二人に目線を向け、今度はシャーリーが問いかける。

 

「二人こそ。キリト先輩と、ユージオ先輩のことは、どう思ってる?」

「私は……型破りな人、かな」

 

 いつも窓から部屋に入ってくる、上から下まで真っ黒な上級修剣士を回想するロニエ。

 

 下位とはいえ、貴族として様々な教育や礼節を教え込まれて育ったロニエには全てが新鮮な相手だった。

 

 それだけに、彼女の心がキリトにどう向いているのかは……仄かに赤く染まる頬から窺い知れる。

 

「見たこともない流派だけど、剣技はすごく上手いし。色々教えてくれるよ」

「いい先輩、なんだね。ティーゼは?」

「ユージオ先輩の印象は……包み込んでくれるような人、かなぁ」

 

 ティーゼの脳裏に浮かび上がるのは、柔和や微笑みや、優しい話し方。

 

 何かと大胆不敵なキリトと正反対に位置するようで、それでいて不思議と噛み合っている。

 

 一緒にいると感じる暖かさのようなものは、ティーゼには心地の良いもので。

 

「私達、先輩達の傍付きに選ばれて幸運だったね」

「うん。ライオス様や、ウンベール様に比べたら……」

「先輩達の方が、良い。すごく、とっても」

 

 ロニエの言葉に即答したシャーリーは、自分の言葉にハッとした。

 

 二人を見ると、ちょっとニヤけている。こればかりは彼女自身の失敗だ。

 

 サイドテールを手に取る。それで表情を隠すように顔の方に持ってきた。

 

「……忘れて」

「うんうん、分かった」

「私達だけの秘密、ね」

 

 

 

 

 学院の一角に、少女達の朗らかな笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 




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