ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
FGOのほうも再開しなくては。
アリリコの要素が入ります。
課外授業、というものがある。
央都セントリアの衛兵隊から依頼された仕事を、修剣学院の生徒が請け負う制度だ。
その内容は多岐に渡る。
兵舎の本格的な清掃、荷物の運搬、央都花園の手入れ、ペット探しなど、雑事も多い。
あるいは……
「危険度が高かったり、増えすぎたりした獣の調査あるいは駆除、とかな」
「……なるほど」
ガラガラと、音を立てて道をゆく馬車。
修剣学院の印が刻印された幌の内側で、説明を聞き終えたシャーリーは何度か頷く。
馬車内の座席で、ぴったりと両足を揃えて姿勢良く座る彼女に、ルークは優しげに笑う。
「緊張するか? 初めてだもんな」
「……実は、結構ドキドキです」
普段の抑揚がないものとは違う、硬い声でシャーリーは小さく囁いた。
学院から支給された、頑丈な厚い革のブーツの爪先を擦り合わせ、違和感がないか確かめ。
時折傍らに置いた鉄剣の包みに視線を向け、太ももの上で握った拳をそわそわと動かす。
僅かな期待と大きな不安が、シャーリーの中でないまぜになっていた。
「まあ、大抵は調査だけだ。実際に獣を相手するのは稀だからそんなに気負わなくていい」
元は衛兵隊のやるべき仕事。正式な職についているわけでもない学生に無理を強いたりしない。
学院には貴族が多いのだ。怪我などさせれば大問題になってしまうという点からも、さほど責任は重くなかった。
「……先輩は、戦ったことがありますか?」
「まあな。俺が傍付きをしていた人に連れられて、数回相手したことがある」
その言葉に、ほんの少しシャーリーの緊張が緩んだ。
内心では一番頼りにしている先輩が経験豊富と知り、安堵したのだ。
目敏く気付いたルークは、優しい顔をしながらもあえて硬い声で続けた。
「とはいえ、万が一の状況ってのはどうしても予想される。特に最初はな」
「……はい」
緊張が解けるのと同時に、気が緩みかけていた。
そのことを理解した聡明なシャーリーは、真剣な色を瞳に帯びる。
よし、とルークな心の中で頷き、シャーリーの肩に手を置く。
「実地では、
ふと、そこで言葉を切ってとある方向を見る。
つられてシャーリーもそちらを向き……馬車の出入り口で、射し込む陽光に和んでいる黒い男を見た。
髪も制服も、ついでに腰に下げた剣まで真っ黒な修剣士。
最低三人を原則とする、という課外授業の制度に数合わせとして連れてこられたキリトである。
視線が集中していることに気がついた彼は、気恥ずかしそうに指で頬をかきながら答える。
「ステイクール、だぜ。落ち着いていくことが一番大事だよ」
「ってことだ」
「……はい」
今度も、はっきりとシャーリーは頷くのであった。
話しているうちに無駄な力みが抜けた後輩の姿に、ルークも安堵する。
(村での害獣駆除じゃあ、こういうやつから怪我してたからな。気をつけておかないと)
ルーク自身、幼い頃に苦い経験がある為、可愛い後輩に絶対怪我はさせまいと決意する。
ふとキリトの方を見ると、彼は普段のどこか気の抜けた様子とは違う真面目な顔で頷く。
実力が確かなことを知っている、頼れる弟分にルークも頷き返した。
(……しかし、最近こういう依頼が多いな)
シャーリーの様子を伺いながらも、ルークは黙考する。
(昔から課外授業という制度自体はあったが、俺が初等錬士の頃は大体央都内のものだった。それなのに……)
近頃、というよりも今年に入ってから、獣の調査依頼が頻繁に掲示されるようになった。
顔見知りの衛兵の話によれば、壁を隔てた他の三帝国でも似たような状況なのだという。
人界全体で、何かが起こっている。
ルークは、そんな気がした。
(……衛兵隊の手が回らなくなるほどの獣の異変、北の洞窟のゴブリン……世界の、終わり)
脳裏に思い浮かぶ、濃紺の制服に身を包んだ麗女の後ろ姿。
記憶の中の彼女は顔だけこちらに振り返り、その横顔に笑みを浮かべ……
「まさか、な」
──ィイン
呟くのと同時。
見計らったようなタイミングで震えた愛剣にルークは小さく驚き、そして強く握った。
その様子を、彼がそうしていたのと同じように観察していたシャーリーはふと口を開く。
「そういえば、先輩がその剣を使うのを初めて見る気がします」
「ん、ああ。そういえば一度もまともに見せたことはなかったか」
「ん。部屋の清掃時には、いつも見てるけど」
「そうだな。置きっ放しにしてるわけでもないんだが……」
ルークは毎日欠かさず、その重さを忘れないよう素振りをしている。
だが目的を持って持ち出すのは、ルルディと語り合ったあの休息日以来だ。
「改めて紹介するよ。こいつは俺の愛剣。故郷の洞窟にあった白竜の骸、その牙から削り出した唯一無二の剣だ」
鍔の部分で絞っていた紐を解き、はらりと落ちた包みから白い姿を露わにする。
白竜の骸、と聞いたところから驚いていたシャーリーは、あまりの美しさに息を呑んだ。
「……綺麗な剣」
「《
安直なのも良いだろう? と、あの日名付けた彼女は笑った。
それを思い返しながら、ルークはシャーリーに白竜の剣を見せる。
「前は白いのとか、白剣とか適当に呼んでたけどな」
「そういうお前も〝黒いの〟だろ? 良い加減名付けてやったらどうだ?」
「うーん、しっくりくる名前が思いつかないんだよなぁ……」
「黒金の剣、とか」
「ほほう、なかなか良いセンスだねティリーモアくん」
芝居掛かったキリトの言葉に、シャーリーとルークは顔を見合わせて笑った。
あれやこれやと、雑談をする内にも馬車は進んでいく。
央都を囲う白亜の壁を潜り、すぐ外に広がるコールディア平原に入り。
そして、舗装された街道の途中で馬車は緩やかに停止した。
「ここまでだ。正午を過ぎて、四回目の鐘が鳴るまでに帰ってきてくれ」
「「「ありがとうございます」」」
御者である衛兵に礼を言い、外に出る三人。
腰に剣を履き、課外授業用の頑丈なブーツで地面を踏みしめて。
そして、目の前に広がる色彩豊かな平原に向けて胸を張った。
「ん〜っ、いい天気だな。風も気持ちいい」
「せっかくだから、安全なところを探して今度の休息日にみんなでピクニックにでも来るか」
「……楽しそう」
気楽な会話もそこそこに、ルークはベルトに下げた小型の鞄から依頼書を取り出す。
「ええと、依頼はキバザキギツネの調査だったよな?」
「ああ。あっちの丘陵地帯だな、行こう」
早速、いの一番に歩き出すキリト。
続こうとして、ふとシャーリーは自分の体がまだ少しだけ強張っていることに気がついた。
踏み出せないでいると……ぽん、と軽くその背中に触れる、誰かの手。
「程よく、な」
「あ……」
切れ長の瞳に、優しい色を乗せて。
微笑んで先を行くルークの後ろ姿を目で追いかけて、それからシャーリーは少し俯いた。
「……いつも気付いてくれるの、ずるい」
その時シャーリーが浮かべていた、嬉しいような、恨めしいような。
ほんのりと赤く彩られた表情の意味は、彼女自身しか知らない。
少し経って、彼女はルークの隣に小走りでやってくる。
不思議とそのサイドテールが上機嫌に揺れている気がする。ルークは少し不思議に思った。
「…………」
「ん? どうしたキリト?」
「ああ、いや。ちょっと昔を思い出してな」
答えながら、キリトは脳裏にかつてを思い浮かべる。
それは二年も過ごしたこのアンダーワールドにやって来るよりも前、別の仮想世界でのこと。
SAOやALOでは、こうしたクエストでレベルや金を稼ぐのが鉄板だった。
(課外授業に来る度、似たような気分になるんだよな。まあ、万が一の事態でない限り調査を厳守ってのが気になるが)
アンダーワールドにおいて、他の生物の命を奪う権利は公理協会によって定められている。
狩人の天職を持つ人間が年に狩っていい数から食品に加工する家畜、衛士や衛兵が駆除する害獣まで。
全てが厳正に決められているのだ。キリトはそこに何とも言えないきな臭さを感じている。
(ゴブリンを倒した時に上昇した権限とステータス、そこに鍵がありそうなんだが……今考えても答えがポッと出てくるわけでもないだろうし)
(……昔ってのは、俺らと過ごした時間よりも前のことなんだろうな)
「ああ、俺も森の獣の間引きを思い出すよ」
「……私も、ちょっと」
「お、そうなのか。リィは貴族だし、てっきり経験はないものかと」
ふるふると首を左右に振り、シャーリーはルークの顔を見上げる。
「貴族は、教養と礼儀作法、剣術を学ぶことが義務。それは下位貴族も同じ。でも、それ以外は平民とあまり変わらない」
「つまり、リィも領地で獣の相手を?」
「ん。年に一度、繁殖期で手がつけられなくなった時には、ティリーモア家が指揮をとる」
曰く、シャーリーが参加したのは二年前からだったらしい。
最初の一年は、父と一緒に見学のような形で、昨年は実際に獣を相手取ったと言う。
「最初は、すごく怖かった。殺意を向けられるのなんて……獣以外にいないから」
「……確かにな」
「…………ああ」
あとはダークテリトリーの住人とか、という言葉を、二人は心の内に仕舞い込む。
ともあれ、獣というものが油断のならないものであることは確かだ。
「で、今回の依頼の詳細はなんだったっけ?」
「近隣に住んでる農家とかから、作物を荒らされるから調査をってことらしい」
「それって追い払ったりしなくていいのか?」
「依頼は対象の数と生息域の調査だからな。情報を受け取った衛兵隊が対応するんじゃないか?」
「……下手に刺激して、被害が深刻化したら大変」
「つまり俺達は
「「スカ?」」
首をかしげる二人に、キリトはゲーム的な用語を無意識に使ったことを自覚し慌てる。
「あ、あれだ。情報を収集する役割のことだよ」
「そういうことか」
「キリト先輩は、よく神聖語を使う」
「あ、あはは……」
多分の緊張感と少しの余裕を同居させながら、三人は出発点から西へと向かうのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。