ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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こっちは久しぶりに更新


かなり気合入れました。


楽しんでいただけると嬉しいです。


炎の騎士

 

「……見えた。あれだ」

 

 

 

 目撃情報のあった場所から程近く、丘の上の林。

 

 一層生い茂った茂みの中から、ルーク達三人は様子を伺う。

 

 彼らが見据える先には、調査対象であるキバザキギツネの群れが闊歩している。

 

「こりゃ結構な数だな……村の農民だけじゃどうにもできないはずだ」

「ん。普通の群れよりもかなり多い気がします」

「単なる厄介な害獣ってだけじゃあなさそうだな」

 

 獣達に勘付かれないよう、三人は声を潜めて会話する。

 

 

 

 野生の獣というのは、自然の中に生きているだけあって外敵に敏感だ。

 

 耳は鋭く、鼻は冴え、目が利く。

 

 それらから隠れ、気配を消すことの重要性を、ルーク達はよく理解していた。

 

「どうする? こりゃマジで衛兵隊の出る案件だぞ?」

「当初の予定通り、正確な数と縄張りを把握して撤退しよう」

「いい判断だ、俺は賛成だな」

「私もです」

 

 よし、と頷いたルークは作戦会議を始める。

 

「まず、俺達は今群れの右側にいる。この茂みが一番姿を隠すのに適しているからだが、同時に視界が悪くて目的は果たしにくい」

「じゃあ、どうするんですか?」

「まずキリト。足の軽いお前に、縄張りの範囲を確認してほしい」

「なるほどな……見張りをしてる個体を見つけるってわけか」

 

 すぐに理解した弟分に、頼もしげに笑うルーク。

 

 こういう群れを作る類の獣は、小さな社会を構築するだけの知能がある。

 

 自分達のテリトリーを作り、それを維持しようとする場合が多い。故に外敵への警戒は重要だ。

 

 その修正を活用し、狐達が縄張りを守るために配置した見張りを見つけておく魂胆である。

 

「見張りの位置と数を確認したら、そいつらに気付かれない、見晴らしの良い場所に移動する」

「でも、そんな場所を探してる間に気付かれたら……」

「安心しなティリーモアさん、俺とこいつの頭にはバッチリこの辺りの地形についての情報が入ってるからさ」

 

 キリトの自信ありげな言葉に、シャーリーはこの二人が経験豊富な先輩であったことを思い出した。

 

 片や森にも入ることがあった村の衛士、片や廃人レベルのゲーマー。

 

 地形情報の把握はお手の物だ。

 

「とはいえ、ただ待ってるだけってのも時間の無駄になる。俺の方でも観察してある程度目星をつけておくよ」

「任せた。そんじゃ、いっちょ探してくる」

「頑張ってください、キリト先輩」

「おう」

 

 慎重に、かつ素早くキリトは茂みから出ていく。

 

 

 

 

 残ったルークとシャーリー。

 

 不安げに身じろぎする彼女を一瞥し、ルークは早く終わらせるべく観察を始めた。

 

 

(見た所、すべての個体がそれなりに周りを警戒している。ここが本来の住処じゃないのか?)

 

 

 草木の生い茂るその場所からはやや見難いが、狐達は何かを気にしている。

 

 そのことに違和感を覚えながらも、ルークはそこから見える限りの数を数え始めた。

 

 目視できたのは20匹近く。角度や位置的に見えていない個体がいれば、もっといるかもしれない。

 

 

 

(おいおい、いくらなんでも多すぎだろ。多少数の多い群れでもここまでじゃないぞ?)

 

 

 

 ルークの天職は衛士であり、当然狩人などではない。

 

 しかし、北の果てにある森林に近しい開拓村に住んでいれば、それなりに獣のことは詳しくなる。

 

 そして狩りの際の連携や獲物の分配の都合などの観点から、明らかにこの群れはおかしかった。

 

「別の群れが合流してるのか……?」

「だとしたら、理由があるはずです」

「そうだな……だけど、ここまでの数だと迂闊にこの場から動くのも」

 

 そこで、不意にルークは言葉を止めた。

 

 不思議に思いったシャーリーは彼の顔を見て──その鋭い目にぞくりと背筋が震える。

 

 

 

 

 これまで一度も見たことのない横顔。

 

 剣を交えている時でさえ、どこか温かみのある瞳とも異なる、冷たく研ぎ澄まされた視線。

 

 その視線の先にあるものは──不意に素早く顔を上げた、一匹のキツネ。

 

 群れの長と思しきその個体は、後ろ足だけで立ち上がり、しきりに耳を動かして周囲を睥睨した。

 

「なんだ……?」

「っ、せんぱいっ!!」

 

 それは突然だった。

 

 両手を使った全力で肩を突き飛ばされ、ルークは大きくバランスを崩す。

 

「な」

 

 何をするんだ、とシャーリーを見るルーク。

 

 彼が見たのは──目を見開き、眉を怒らせて、必死な表情をした後輩の顔。

 

 何故と思い浮かべる間も無く、シャーリーとルークの間を黒い大きな影が地響きを立てて走り抜ける。

 

「今のは!?」

 

 尻餅をついたルークは素早く立ち上がると、同じように座り込んだシャーリーに駆け寄る。

 

 青い顔をした彼女は、両手を所在なさげに彷徨わせたままふるふると首を横に振った。

 

「い、いきなりこっちに何か来て、わっ、私先輩が危ないって思って、それで」

「落ち着け。あれしきで天命が減るほど、ヤワな鍛え方はしてない」

「……ごめんなさい」

「大丈夫だから」

 

 シャーリーが俯き、ルークは彼女の肩を優しく叩いた。

 

 経験があっても、最初というのはどうしても緊張することは彼もよく知っている。

 

 その点において全く彼女を責める気はルークにはない。

 

 

 

 

 問題なのは、あの黒い影だ。

 

 シャーリーのことを気に掛けながらも、ルークは影の去った方を見ようとして──甲高い鳴き声を聞く。

 

 素早くそちらを振り返ると、何十というキツネがこちらに向けて疾走してくる光景が見えた。

 

 さらに後ろには──彼らより一回りは大きい、苔生した猪のごとき獣の群れ。

 

「おいおいマジかよっ!?」

「ぅあ……」

「くっ!」

 

 許してくれよ、と口の中で悪態を一つ。

 

 突然のアクシデントにルークの思考は切り替わり、この場で最善の行動をとる。

 

 すなわち、シャーリーの背中と膝裏に腕を通し、軽々と抱え上げてキツネの濁流から逃げることであった。

 

「せ、先輩っ」

「舌噛むから話は後だっ!」

 

 叱咤に近い声を発しながらも、ルークは全力で動き続けた。

 

 感覚を鋭く、意識を明瞭に、そして思考は柔軟に。

 

 不規則に遁走してくるキツネ達の動きを見極めると、その隙間を見つけ出した瞬間飛び込む。

 

「きゃっ」

「システム・コールっ! ジェネレート・エアリアル・エレメント! ディスチャージッ!」

 

 足の裏に風素を生成。

 

 キリトと以前に考案した方法を用いて、自分の身長の倍以上飛び上がって大氾濫を飛び越える。

 

 

(やべっ、神聖力の収束がっ)

 

 

 だが、それは咄嗟に思い出しただけの未完成の試み。

 

 完全に飛び越える前に風素が霧散し、ルークは空中で姿勢を崩すことになってしまった。

 

「目ぇ瞑っとけ、シャーリー!」

「っ」

 

 恐怖に唇を戦慄かせながら、反射的に言われた通り閉眼するシャーリー。

 

 それを感覚で察し、ルークは彼女を包み込むような姿勢に無理矢理体を捻った。

 

 そして、落下する。

 

「あがっ! ごはっ!」

 

 背中から地面に打ち付けられ、苦悶の声が歯の間から漏れた。

 

 北の洞窟でのことをふと一瞬思い出しながらも、数度転がった彼は木の幹に体をぶつけてようやく止まる。

 

「かはっ……ああくそ、ガキの頃……こうやって吹っ飛ば……されたっけな…………」

「せ、んぱい……?」

 

 恐る恐る、瞼を上げるシャーリー。

 

 最初に見えたのは、口の端から血を流しながらも、弱々しく微笑むルークの顔。

 

 思わず息を飲み、その後何があったのかを一瞬で悟った彼女は目元を悲しげに歪めた。

 

「先輩、ごめんなさい、私、私が……私の、せいで……」

「これくらい村じゃ日常茶飯事さ。お前は怪我ないか? どこか痛んだりは?」

「平気、です……でも、先輩がっ」

「そか、良かった。せっかくの可愛い後輩だ、守った甲斐がある」

 

 安心させる為か、それとも背中の痛みを誤魔化す為か。

 

 あるいはその両方の為にルークは無理矢理笑い、その顔にシャーリーは更に表情を歪めた。

 

「ばか……先輩の、ばか」

「おう、頭はあんまり良くないぞ」

「そうじゃなくて……もう」

 

 コツン、と小さな頭がルークの胸元に当てられる。

 

 講義をするように押し付けられた額と、小刻みに震える体。

 

 ルークは困った顔をしながらも、若干痺れる手で背中をさする。

 

 

(……恐怖が今になって溢れてきたんだろうな。突然色々起こったことで混乱してたのが、まともになったことで逆に、か)

 

 

 これも先輩の務めかなどと心の内で自分を揶揄ってみる。

 

 

(しかし、合点がいった。あの猪どもがやってきて、キツネ達はこの周辺にまで追われたんだ。けど、あんな数の猪がどうして纏まって……)

 

 

 

 

 

 ──フシュウゥウウウ

 

 

 

 

 

 風が、吹いた。

 

 

 

 生暖かく、獣臭い匂いを伴った。

 

 

 

 恐ろしい風が──息遣いが、すぐ側で。

 

 

 

「「──っ」」

 

 喉が引きつる。

 

 体が強張り、心臓が煩いほど高鳴って、自分達の隣にいる()()に恐怖する。

 

 それでも横を見てしまったのは、恐怖の根源を理解したいという欲求からだろうか。

 

 

 

 

 そこにいたのは、巨大な怪物だった。

 

 キツネ達を追いかけていた猪達よりも雄々しく、逞しく、ちょっとした小山のようにさえ見えた。

 

 上に向かい突き上がった牙は極太の杭のようで、その奥で爛々と光る赤い瞳は──二人を見ている。

 

 こんな場所にいるはずのない、化け物であった。

 

 

 

(ま ず い)

 

 

 

 今すぐにこの場を離れなくては。

 

 せめて、自分の股の間で絶望したような顔でへたり込んでいる後輩を逃がさなくては。

 

 そう思うのに、未だに痛み、痺れる体は思うように動かず、金縛りにあっているかのようで。

 

 警鐘が脳裏で何重にも鳴り響く。冷たいものが心臓を撫でる。

 

 死が、迫る実感がした。

 

 

 

 オオォォォ…………

 

 

 

 そしてついに、低く、重々しい唸り声を漏らしながら怪物が一歩踏み込み。

 

 

 

 

 

 

 

 ────バシュッ! 

 

 

 

 

 

 

 

 乾いた音が響いた。

 

 直後、獣の歩みが止まる。途端にこの場の音の全てが消えたように二人は錯覚した。

 

 そんな二人のことを血のように赤い獣の瞳がじっと見つめ、せめてもとルークは睨み返し。

 

 刹那、グルンと上に向いたその目から光が消え。

 

 その巨躯が()()()()()()

 

 血飛沫を上げ、ゆっくりと左右にそれぞれ倒れていく大猪の骸。

 

 酷くゆっくりに見えるその光景の奥に、ちろりと炎が垣間見える。

 

 そして、ついに大猪だったものが傾いたその時。

 

「────」

 

 血の雨の奥に、銀光が輝いた。

 

 

 

 

 大猪が倒れ、地響きが起こる。

 

 丘そのものが震えるように揺れ動き、どこかで大量の野鳥が飛び立つ。

 

 だが。その全てが今のルークとシャーリーにとっては些事であった。

 

「………………」

 

 炎の騎士が、そこに立っていた。

 

 真紅の威容、木々の間から差し込む光で煌めく、どこか整合騎士のそれに似た鎧姿。

 

 右の腕には分厚い直剣。まるで竜の尾から削り出したような洗練されながらも荒々しい白の刃。

 

 左の腕には、2メドルを越えようかというその体に匹敵する、深い輝きを湛える漆黒の大盾。

 

 人の頭骨を削り、整えたような兜の奥では銀色の眼光が鮮烈に輝く。

 

 

 

 

 

 その全てが、絶えぬ炎に包まれていたのだ。

 

 

 

 

 

「あんたは……」

「整合、騎士様……?」

 

 思うままに、呆然と呟く二人。

 

 彼らを見下ろしていた炎の騎士は何も答えることはなく、ただじっと何かを見つめる。

 

 疑念を感じたルークは、その視線が見つめるものを追いかけて──自分の腰にある愛刀に行き着いた。

 

 

 

 ──ィイン。

 

 

 

「…………そうか。お前が、最後の白竜の」

 

 腹の底まで響くような声だった。

 

 兜の中で重複しているのか、聞くものを怯えさせるような言葉にシャーリーは震える。

 

 反射的に彼女を引き寄せながら、ルークはもう一方の手を鞘に添える。

 

「──担い手よ、忘れるな。その御霊に選ばれし意味、その責務を」

「……何?」

「いずれやってくる、守らねばならぬ時が。その時までに……白き翼を育てよ」

 

 それだけを告げ、炎の騎士は踵を返した。

 

 重厚な足音を響かせながら騎士は去っていき、炎に包まれた後ろ姿が見えなくなった途端、ルークは全身から脱力。

 

 両手を投げ出してズルズルと座り込んだ彼に、シャーリーはもしやと慌てる。

 

「先輩、先輩っ」

「………………平気だ」

 

 掠れた声で、どうにか答えるルーク。

 

 だが。

 

 

 

(死んだと思った)

 

 

 

 あの騎士の目に射止められた時、自分の首が撥ね飛ばされる様を幻視した。

 

 勝てる気など全くしなかった。あの大猪が央都の裏路地にいる小鼠に思えてしまうほど。

 

 あれは──とてもではないが、人が挑んでいいモノではなかった。

 

「は、ははっ」

「先輩……?」

 

 

(俺、調子乗ってたな。まだ、まだまだ上がいる。あの塔にたどり着くまでに、無数の壁がある)

 

 

 木々の葉の向こうに見えるソルスの輝きをぼんやりと見つめる。

 

 キリトと思しき人物が走り寄ってくるのを、視界の端に収めながら。

 

 

 

 

(──俺は、俺を絶対に許さない。停滞することも、盲目になることも、決して)

 

 

 

 そして、彼は押し寄せる疲労感に目を閉じた。

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。
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