ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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今回はいつもの倍くらい長いです。

それだけ気合を入れました。

楽しんでいただけると嬉しいです。


失いかけて、掴み取り。

 

 

 

 

 とある休息日の早朝。

 

 

 

 ルークは、上級修剣士寮の自室で険しい顔をしていた。

 

「……」

 

 歳を重ね、大人びてきた顔に貼りつくのは不安と怖れがないまぜになったような表情。

 

 とても尋常でない雰囲気を醸しながら、ルークは目の前にあるそれ──《白竜の剣》を見つめた。

 

 やがて、覚悟を決めたような目つきで剣を両手に取り、刀身を左に床と水平に持つ。

 

 右手で掴んだ柄と、鞘を握る左手、その両方に力を込めて引き抜き──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い顎門(あぎと)に一口で噛み砕かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っ!!」

 

 激しい音が響いた。

 

 剣を取り落とし、瞬きをしたルークの視界から、自分を食い千切った巨大な口蓋は消えていた。

 

 床に転がった剣に目もくれず、無我夢中で服を捲って腹をまさぐると……そこには傷一つない。

 

 ほっと安堵する。

 

 すると大量の冷や汗が背中を流れ、脱力してソファに体を預けた。

 

「はぁ……やっぱり駄目か」

 

 天井を見上げるルークの目には、諦めのようなものが浮かんでいる。

 

 数日も同じことが続けば、辛抱強いルークとて気が滅入ってくるというものだ。

 

 

 

 

 あの課外授業以降、ルークは《白竜の剣》を抜けなくなってしまっていた。

 

 それどころか、ここ数日に至ってはあの様な幻覚まで見せられる始末。

 

 初めての明確な、それも強烈な拒絶にルークはほとほと困り果てている。

 

「……今の俺じゃあ、力不足だっていうのか」

 

 意思が目覚めている以上、今はかの存在が担い手として拒絶しているということ。

 

 その原因を考えれば、自然とルークの思考は二週間前の課外授業に行き着く。

 

「見限られた、か……俺じゃあ担い手として弱すぎるって思われちまったかな」

 

 今はもう、あの言葉のような共鳴も聞こえない。

 

 完全に沈黙している愛刀を拾い上げ、ルークはその柄頭に額を触れさせた。

 

「必ずお前にもう一度認めさせてみせる。だから、あと少しだけ待ってくれ」

 

 囁くように誓って、そのまま剣を剣立てに差し込む。

 

 そうすると、テーブルの上に置いていた小さめの籐かごを手に取り、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 ──ィイン…………

 

 

 

 

 

 その背中を、どこか悲しそうな響きを以って見送るモノには気がつかず。

 

 

 

 

 自室を出たルークは、そのまま寮から出るために階段を降り始める。

 

 

 

(それにしても、男三人で散策とは。キリトならともかく、ユージオが誘ってくるとは珍しいな)

 

 

 

 先日、休息日の予定を聞きに来た弟分の顔を思い出す。

 

 たまには昔みたいに三人でのんびりと過ごそう。

 

 柔和に微笑みながらそう言われると、修練の鬼と化しているルークとて頷かざるを得ない。

 

 

 

(ま、少し行き詰まっていたし。ちょうどいい休憩だと思おう)

 

 

 

 そんなことを考えているうちに、すっかり階段を降りきった。

 

 寮監に外出の確認を取ると外に出て、そこで先に待っているはずの二人を探す。

 

 幸いにも出てすぐの場所に、黒と青の背中が揃っていた。

 

「待たせたな。キリト、ユージオ」

 

 やや大きめの声で話しかけたルークに、雑談をしていたらしい二人は振り返る。

 

 ルークはそんな二人に歩み寄っていき──傾いた彼らの向こうを見て硬直した。

 

「よう、やっと来たな」

「おはようルーク。どうしたんだい、そんな顔をして?」

 

 やや楽しげな表情で、どこか揶揄うような口調で返事をする二人。

 

 キリト達に倣うように、彼らの向こうにいた人物達もまた、挨拶をしてきた。

 

「ルーク先輩、おはようございます」

「おはようございます」

 

 大きなバスケットを両手に持った、長い赤髪の少女と、髪を二つ結びにした小柄な少女。

 

 そして、ティーゼとロニエの間にいるのは──ロニエよりも小柄な、美しい紫髪の後輩だった。

 

「…………先輩」

「……リィ」

 

 呟くように、掠れた声で愛称を呼ぶ。

 

 そのことに不安げだったシャーリーはハッとして、少しだけ口元を緩ませた。

 

 

 

 

 表情を見られまいと俯く彼女にティーゼ達が微笑む中、ルークは状況を理解し始める。

 

 男三人だと聞いていた休息日のピクニック。しかしここにいるのは三人の後輩。

 

 そこから導き出される答えは──

 

「おーい、ルーク?」

「おやおや、どうしたんだいルーク君。やけに驚いているじゃあないか?」

「お、お前ら……」

 

 

 

(嵌められたぁあぁぁあっ!?)

 

 

 

 もはや隠すこともなく、盛大にしてやったりとニヤける二人に心の中で絶叫する。

 

 ルークはまんまとキリト達に誘き出されたわけだ。

 

 普段のルークであれば、多少の勘は働いたかもしれない。

 

 しかし、ここしばらくの過度な修練に意識が傾いた彼は気がつけなかった。

 

「いやぁ、最近はどうにも根を詰めすぎてたからなぁ」

「そうそう。ちょっとくらい息抜きしないとね」

 

 小刻みに震えるルークの両肩に、笑うキリトとユージオが腕を回す。

 

 がっしりと肩を掴む手は非常に力強く、拘束されたことをルークは悟った。

 

「さて三人とも、そろそろ出発するか」

「ルークも歓喜に打ち震えてることだしね」

「はい、そうしましょうか」

「いい天気ですし、きっと楽しくなりますね!」

「…………」

「ちょっ、待て、俺は……」

 

 慌てて断ろうとするルーク。

 

 その瞬間、余計なことは言わせないと言わんばかりに手の力が強まる。

 

「いっ!? お、おいお前ら、ちょっと強すぎ……」

「なあルーク」

「付き合って、くれるよね?」

 

 両側から突き刺さるような、鋭い目線。

 

 そこには何か、ルークには見通せない真剣なものがあって。

 

「……はい、付き合います」

 

 数秒もその視線に晒されれば、がっくりと肩を落とす他になかった。 

 

 悪意のある詐称は禁忌目録違反である。が、この場合は適用されないのだろう。

 

 そんなことを、ふと考えた。

 

 

 

 

 学院の敷地は非常に広大だ。

 

 そしてその三割は鬱蒼とした森であり、そこには野生動物達が小さな生態系を築いている。

 

 少し探検するだけでもとても楽しめる──そうルークがシャーリーに説明したのは、数ヶ月前だったか。

 

「………………」

「………………」

 

 無言で進む二人。

 

 気まずい空気が立ち込める彼らは、互いに目を合わせられずにただ足を動かしていた。

 

 前を歩くキリト達二組が和気藹々としているのも、余計に居た堪れない。

 

 

 

(……なんで、彼女はここにいるのだろう)

(……先輩、気まずそう)

 

 

 

 図らずも二人が考えるのは、互いのこと。

 

 ルークは恐ろしい経験をした後で突き放してしまったシャーリーが、自分を嫌っていないかと。

 

 シャーリーは非力な自分のせいで怪我をしたルークが、自分が隣にいて嫌ではないかと。

 

 どちらも相手が自分をどう思っているのか知ることはなく、ただそれだけを案じている。

 

 なんとも奇妙な空気が二人の間に構築されていた。

 

 

 

(キリト達は何を考えてるんだ? 俺がシャーリーを……その、避けてるのはわかってるはずなのに)

 

 

 

 これ以上、傷付けないようにとそれだけを思い、遠ざけたのに。

 

 少し恨めしい気持ちを抱きながら前を行く弟分達を見るが、勿論彼らは答えない。

 

 視線には気がついているものの、全力で無視していると言い換えてもいい。

 

 ますますルークはシャーリーをどうしたらいいのかわからなくなり、嘆息した。

 

 

 

(先輩、リィって呼んでくれた。それってまだ愛想をつかされたわけじゃないって、そう思ってもいいのかな)

 

 

 

 一方でシャーリーにとって、愛称とは家族以外には呼ばせたことのない特別なものだ。

 

 それだけに、たった数ヶ月でそう呼ぶことを……呼ばれてもいいと思ったルークの存在は大きい。

 

 それは先の事件で突き放されたと感じて尚。

 

 

 

(先輩が、ずっとこのままなのは嫌。もう前みたいに話せないなんて……すごく、いや)

 

 

 

 むしろ、よりルークのことを考えるようになったと言って良いだろう。

 

()()()()に乗ったのは、それ故だ。

 

「──そういえば。この前の課外授業って、コールディア平原の林まで行ったんですよね、キリト先輩」

 

 不意に、一番前でキリトに剣技について教授をされていたはずのロニエがやや大きめに尋ねる。

 

 ルークがギョッとし、ユージオ達も驚く──風に装った──中、キリトは苦笑気味に頷く。

 

 無論、その表情もわざとである。

 

「ああ。キバザキギツネの調査だったんだが、〝色々〟あったんだ」

「っ……」

 

 色々、という部分にルークは表情を渋くして視線を落とす。

 

「もしかして、不測の事態が起こったんですか?」

「ああ、実はキツネだけじゃなくてクヅノジュウの群れまで乱入してきたんだ。それどころかヌシみたいなデカイやつも──」

「おい、キリトっ!」

 

 安易にあの日のことを話していくキリトに、たまらずルークは叫んだ。

 

 自分でも予想外なほど大きな声に、全員が足を止めてルークはハッとする。

 

 彼が……隣で立ち止まったシャーリーを見下ろすと胸の前で手を握ったシャーリーは顔を背けていた。

 

「リィ、今のは──」

「…………っ」

「シャーリーっ!」

 

 無言で走り去っていくシャーリー。

 

 元来た道でも前方でもなく、全く別の方向へと行ってしまったシャーリーにルークは手を伸ばした。

 

 一瞬躊躇する素振りを見せるも、キリトを珍しく剣呑な目つきで一瞥した後に追いかけていった。

 

 その後ろ姿が茂みの向こうに消え、足音が遠ざかった所で残った四人は一息吐く。

 

「なんとか誘導できたな。普段のあいつじゃこう簡単にはいかなかったぜ」

「き、緊張しました……」

「ごめんね二人とも、わざわざ付き合わせてしまって」

「いえ。私達もシャーリーの様子がおかしいのはずっと心配してたので」

 

 眉を下げて微笑むティーゼに、なんとも申し訳ない気持ちになりながらユージオは感謝する。

 

「さて。ユージオ、どうなると思う?」

「……きっとなんとかなるさ」

 

 だって、とユージオは二人が去った方向を見る。

 

「ルークは、僕らの頼りになる兄貴分だからね。年下の女の子を悲しませたままにするなんて、しないに決まってるよ」

 

 その言葉には、確信があった。

 

 

 

 

 

「リィっ……シャーリーっ! 待ってくれ!」

 

 どんどん森の中を駆け抜けていくシャーリーを、ルークは必死で追いかける。

 

 つい先刻まで避けていたにも関わらず、自然と彼の足は彼女を追いかけていたのだ。

 

 しかし、その距離は一向に縮まらない。

 

 シャーリーも一端の剣士、それなりに鍛えているとはいえ、歩幅や筋力の差は当然ある。

 

 だが、ルークの中に渦巻く後悔や負い目といったものが、どうにも足を鈍らせていた。

 

 

 

(くそっ、何やってんだ俺は! 臆病になってる場合じゃないだろ!)

 

 

 

 管理人がいるとはいえ、森の中には少々攻撃的な小動物もいる。

 

 シャーリーが怪我でもしたらと、ルークはおびえのような感情を押し込んで無理やり速度を上げた。

 

 すると、少しずつ距離が縮まっていく。

 

「シャーリー!」

 

 やがて少し開けた場所に出た時、ついにその肩に手が届く寸前。

 

 急にシャーリーが立ち止まった。

 

 体に勢いをつけていたルークは、ぴたりと静止した背中に驚きながら反射的にブレーキをかける。

 

 かろうじて衝突することは回避され、不格好なポーズで片手を伸ばすという姿勢に収まった。

 

「っと……シャーリー?」

 

 体を戻し、ルークは不可解な顔で後輩を見下ろす。

 

 するとシャーリーはゆっくりと振り返り──露わになったその表情に瞠目した。

 

「お前……?」

「……先輩、やっと話してくれた」

 

 いつも通りの、至って無表情。

 

 先ほどの話で心を痛めていると思っていたルークは、面食らった表情にならざるを得ない。

 

「……まさか、これもか?」

「ユージオ先輩に、提案されて。キリト先輩とロニエ達にも手伝ってもらった」

「マジか…………はぁ。してやられたな、こりゃ」

 

 ここまで綺麗に嵌められると、ルークとしても苦笑しか出せない。

 

 あるいはこんな所も……と、また例の件に思考を繋げ始めるルークを、シャーリーは見つめ。

 

「先輩。私は……」

 

 少し、言い淀む。

 

 しかしルークの視線が再び自分に向いた所で、小さな両手を握り締め、臍の辺りに力を込め。

 

 一度引き結んだ唇を、最大の努力で開いた。

 

「私は──先輩の傍付きを解任される?」

「…………は?」

 

 何を言っているのか、分からなかった。

 

 一世一代の告白と言わんばかりの様相を見せる後輩の言葉が、ルークには理解できなかった。

 

 人はえてして、自らの思考に全く存在しない言葉を告げられると呆然とするものだ。

 

 

 

 固まったルークに、シャーリーは一人語り出す。

 

「私は、先輩にたくさん迷惑をかけた。たくさん面倒を見てくれたのに、一つも恩返しをすることができなくて。こんな私は、先輩にとっては邪魔者でしか……ないですか?」

「おい、何を言って……」

「わかってます。あの日私がいなかったら、先輩は怪我をしなかった。あんな思いをしたら、誰だって原因になった人を嫌いに……なる」

「ちが……」

 

 邪魔者、自分がいなかったら、嫌いになる。

 

 次々と自らを貶める言葉を並べられ、ルークの思考は複雑に絡まり、混乱していく。

 

 それでも否定しなければ、と口を開きかけて──シャーリーの顔を見て、硬直した。

 

「だって……こんな、こんな弱い私がずっと、付き纏ってるのは…………先輩に、とって……迷惑でしか、ない……よね?」

 

 頬を伝う大粒の涙。

 

 とめどなく溢れ、色白の肌を流れ落ちていくそれには、一言では到底説明しきれない感情が内包されていた。

 

 自分への失望や嫌悪、諦観。それだけではなく、ルークへの後悔と遠慮──そして、恐怖。

 

 

 

「違うッ!!!」

 

 

 

 気がつけば、ルークは叫んでいた。

 

 シャーリーの両肩を強く鷲掴み、一歩踏み込んで、鼻と鼻が触れそうな距離で。

 

 これまでずっと逸らしていた瞳は、見開かれたシャーリーの瞳としっかり向き合っていた。

 

「それは絶対に違うっ! お前を疎ましく思ったりするもんか! 大事な後輩なんだぞ!?」

「だってそう思うしかないッ!」

 

 思うままに叫ぶと、シャーリーも泣き叫んで激昂する。

 

 一瞬硬直したルークを睨みあげ、彼女は言葉をぶつけた。

 

「あんな風に避けられてっ! 剣の稽古も、一緒にお茶を飲むのも、話すのも全部全部駄目って言われてっ! そんな風にされたらっ、嫌われたっ、て……そう、とし、かっ…………!」

「それはお前に傷ついてほしくなかったからだ! 俺の側にいることであのことを思い出して、お前が悲しい思いをするくらいなら距離を置こうって!」

 

 それに、弱い自分が尊敬して後ろをついて来てくれるシャーリーに相応しいとも思えなかった。

 

 あの程度の窮地も自力で乗り越えられなかったことが不甲斐なくて……そうルークは言おうとしたけれど。

 

 

 

「先輩が隣にいない方が、ずっと傷ついたッ!!!」

「─────。」

 

 

 

 そのたった一言に、全てを吹き飛ばされた。

 

「何もできなかったことを思い出して後悔するより、先輩に避けられる方が苦しかった! 辛かった! 悲しかったのっ!!」

「リ、ィ…………」

「一人で剣を振っても全然上手くならない! 勉強してても、他の何をしてても、先輩に嫌われたくなかったって、ずっとそれだけ考えてた!」

「お、俺は……」

 

 圧倒的な言葉の傍流と感情の嵐を叩きつけられ、ルークは何もできず、言えず。

 

 みるみるうちに弱った彼の腕を振りほどき、泣きながらも目を怒らせたシャーリーは拳を振り上げた。

 

「傷つけたくなかったなんて嘘っ! 私を自分の失敗の言い訳にしないで!!」

「────ッッ」

 

 小さな拳が、ルークの胸にぶつけられる。

 

 

 

 

 天命が1つすら減らない、弱い攻撃。

 

 おそらく制服の天命すら削れていないだろう一撃は──完全にルークの心を打ち砕いた。

 

 その言葉が、その拳が、その涙が、全て全て。ルークに一つの事実を訴えてきたが故に。

 

 

 

(──そう、か。俺は、言い訳をしてたのか)

 

 

 

 納得してしまった。

 

 シャーリーの言う通りだった。

 

 彼女を遠ざけたのも、修練にのめり込んだのも、行動の全てをあの日と結びつけるのも。

 

 その何もかもが、何もできなかった自分への嫌悪と惨めさから目を逸らす為の目隠しでしかなく。

 

 ああ、それこそ──シャーリーの方から愛想をつかされて当然の、外道の行いではないか。

 

「私は、先輩の枷じゃない……重しじゃない……そんな風に思われるのは絶対……嫌なの」

「…………」

「だって……だって私、先輩のことがっ……!」

 

 抑えていた感情が決壊したシャーリーは、いよいよ一番奥に隠したものを引き出す。

 

 自らも自覚しきれぬそれを、激情のままにぶつけんと顔を上げ。

 

「──ごめんな」

「あ…………」

 

 ルークに、抱擁された。

 

 それはとても優しく、慈しみに満ちた抱擁であった。

 

 邪な思惑も、下心やもっと甘い感情でもなく、ただただ包み込むような、暖かい胸の中。

 

 両手を軽くシャーリーの背中に回したルークは、険しい顔のまま語りかける。

 

「本当にごめん。全部俺が悪い。何もかも、俺のせいだ」

「先、輩……」

「不安にさせてごめん。怖がらせてごめん。守ろうとしたのに背を向けて、ごめん」

「…………私は、守ってもらった。ずっと」

「最後まで守りきらなきゃ、見捨てたのと同じだ」

 

 少しだけ、右手の力が強くなる。

 

 それに少し頬を染め、しかしシャーリーは両手を同じようにルークの背に触れさせた。

 

「お前の言う通りだ。俺は逃げてた。嫌なこと、駄目な自分を見たくなくて、お前にその責任を押し付けた」

「……ん。すっごく嫌だし、悲しかった」

「だよな。取り返しのつかない大馬鹿をやらかしたもんだ」

 

 本気の謝罪の念を込めた、かつ少し軽い声音に、シャーリーは小さく笑う。

 

 ルークはシャーリーの背中から手を外し、彼女も同じようにすると少し離れて目線を合わると。

 

 互いの目に映り込む、紫の瞳と白銀の瞳にもう濁りはなかった。

 

「その分、俺にできることを全身全霊でお前にしていく。変な思い込みや遠慮は、もうしない。二度と向き合うことから逃げない」

「……私も、怖がるのはやめる。こうして本音をぶつけ合って、それが何より大切だってわかったから」

 

 互いに誓う。

 

 不敵でどこか余裕を感じさせる笑みと、強い芯を感じる小さな微笑を、それぞれ浮かべて。

 

 そこにはもう、いつしか抱いていた互いへの勝手な悪印象は欠片も存在していなかった。

 

「俺の後輩でいてくれるか、リィ?」

「ん。私は、先輩の傍付き。これからもずっと」

 

 

 

 二人は、在るべき関係に戻ったのであった。

 

 

 

 その時、がさりと近くの茂みから音がした。

 

 素早く二人がそちらに振り向くと、まるで慌てるように激しく揺れる茂み。

 

 数秒してピタリと揺れが止むと……裏から人が現れた。

 

「あ、あー、ようやく見つけたー」

「わー。も、もう、シャーリーもルーク先輩も、足が速いんだからー」

「ロニエ、ティーゼ……」

「お前達……っ、まさか!」

 

 何故か目線を明後日に向け、赤い顔の少女二人に、ルークは茂みをもう一度見る。

 

 顔を引き攣らせる彼の予想に応えるように、新たに二人ほど人影が立ち上がった。

 

「やあやあルーク君、ティリーモアさんとは上手く仲直りできたみたいだな」

「お前は少しくらい悪びれなよ……でも、確かに順調にいったみたいだね」

 

 いや、いきすぎたかな? などと言いつつ、含みのある笑いを浮かべるユージオにキリト。

 

 何を言っているんだとルークは返答しかけて……今更ながらに気がついた。

 

 シャーリーと未だに、軽く抱擁し合っていることを。

 

「バッ!! おまっ、これは違くてだな!」

 

 素早く手を離して一歩引くルーク。しかしシャーリーは動かない。

 

「ちょ、離れろリィ! 見られてるって!」

「嫌。また突き放されたら泣く。だから、もう少しこのまま」

「ええいこの後輩は!」

「あはは……シャーリー、すっごく積極的になってる」

「あんなに楽しそうなの、初めて見たかも……」

「一件落着、かな」

「はっはっはっ、後輩とこんな人気のない場所で仲睦まじいとは。ルークも隅に置けないなぁ?」

「だからそういうことじゃねぇええっ!」

 

 ルークの絶叫が響き、軽い笑いが四つほど森の中に響く。

 

 

 

 

 

 その中心でルークに抱きつく腕の力を強めながら、シャーリーは幸せそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 





これギャルゲーなら一大イベントでは?などと自問自答したり。

読んでいただき、ありがとうございます。

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