ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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お久しぶりィ!


いやマジでお久しぶりです。今回はピクニックの回。


楽しんでいただけると嬉しいです。




責任と権利

 

 

 

 

 

 一悶着終え、ルーク達はピクニックに戻った。

 

 

 

 ちょうど良さげな池を見つけ、そこに持参した敷き布を広げて昼食となった。

 

 ロニエ達が持ってきた籐籠を六人で囲み、蓋を開くと、中に詰まっていたのは美味しそうな軽食。

 

 薄くスライスした肉やチーズ、魚などが閉じられた白パンと、鳥の揚げ物はどちらも出来が良い。

 

「おおっ、こいつは美味そうだな」

「こらキリト、聖句を唱えた後だよ」

「分かってるって」

「アラベルさん、天命は?」

「はい、平気です」

 

 ロニエが頷き、よしと頷いたルークが手を合わせるのにつられて全員同じようにする。

 

 聖句を唱え、ステイシア神に感謝を捧げると早速キリトが籠の中身へ手を伸ばす。

 

 サンドイッチにかぶりついた青年は、「ん〜」と咀嚼しながら幸せそうな声をあげた。

 

「美味い! これは跳ね鹿亭にも劣らないぞ、ロニエ君、ティーゼ君」

「わぁっ、本当ですか? ありがとうございます!」

 

 手を合わせて嬉しそうにするロニエ。ティーゼも少し照れくさそうだ。

 

 しかし、彼女がその言葉をかけてもらいたいのはキリトではなく……

 

「その、ユージオ先輩もどうぞ」

「うん、いただくよ」

 

 控えめがちに見てくるティーゼに、ユージオもサンドイッチを一切れとって食べる。

 

 口の中に素材と調味料の味が広がる。上品ながらも程よく男子の舌を満足させる濃い味付けだ。

 

 村でアリスが持ってきてくれた弁当とは違うな、と思いつつ、都会らしい味に慣れたなともユージオは思う。

 

「ん、美味しい。凄いね」

「あ、ありがとうございます」

 

 微笑みを向けるユージオに、ティーゼは少し俯いて赤くなった頬を隠す。

 

 わかりやすい反応にキリトとロニエが少し悪戯げに笑い、それから四人はとある人物を見た。

 

 

 

 

 言わずもがな、ルークである。

 

 残るはお前だけだと言わんばかりに見てくる弟分と後輩達に、彼は苦笑した。

 

 もちろん彼も空腹だったので、手を伸ばそうと体を揺らした所、隣にいたシャーリーが先に動いた。

 

 彼女は身を乗り出し、サンドイッチを一切れとると、振り返ってルークを見た。

 

「はい、先輩」

「……リィ? なんでサンドイッチをこっちに向けてるんだ?」

「口、開けて」

「食わせる気か」

「ん」

 

 それはいわゆる、仲の良い子供同士がやる「あーん」というやつではないだろうか。

 

 じっと見つめてくるシャーリーの瞳に、ルークは珍しくたじろぐ。

 

 随分と大胆な行動にロニエ達は「わぁ」と小さく声を上げ、キリトはニヤニヤとし、ユージオは呆れ気味。

 

「お前、なんか吹っ切れてないか?」

「私は先輩の傍付き。身の回りのことをする義務がある」

「いや、それにこれは含まれない……」

「いいから、食べて。みんなで頑張って作った」

 

 どうやら言って聞く気はないようだ。

 

 色々やりすぎたか、と若干後悔しつつも、迫ってくるサンドイッチの威圧感と外野の視線が意外と辛い。

 

 早々に諦めた方がまだいい。そう判断したルークは軽く溜息を吐き、自らサンドイッチに食いついた。

 

「んっ」

「!」

「「「「おおっ」」」」

 

 一口で半分ほども口に含むと、大きく咀嚼してサンドイッチを味わう。

 

「……どう?」

「ん……美味い。流石は俺達の後輩だな」

「ありがとうございます」

 

 非常に満足げな様子のシャーリーであった。

 

 まあ、これまで散々不安にさせたのだからこれくらいはいいか、とルークは思い直した。

 

 

 

 

 それから彼らは、和気藹々と雑談を交えながら昼食を楽しんだ。

 

 キリトが剣術談義をし、ロニエ達が興味深げに頷き、ユージオとルークもそれを聞く。

 

 シャーリーが積極的にルークに接し、狼狽えるルークに他の四人が明るげに笑った。 

 

「それにしても、随分手が込んでるけど。作るのは大変だったろう?」

 

 やがて、粗方籐籠の中が空になった頃にユージオがふと尋ねる。

 

 ティーゼ達三人は顔を見合わせ、それからやや申し訳なさげな顔をした。

 

「……実は、初等錬士寮の門限に帰るまでには、市場から学院までは遠くて」

「私達じゃ料理の材料を揃えるのは難しかったんです」

「だから、キリト先輩に上級修剣士寮の門限までに買い集めてきてもらった」

「なんだって?」

 

 ユージオ共々、全く知らなかったルークも驚いて振り返る。

 

 当の本人は得意げな顔で、「後輩の頼みだからな」と胸を張った。

 

「って、そんなに打ち解けてるなら気まずそうにしてるのはなんなのさ!」

「あー、いや、それは。な?」

「な? じゃないよ、まったくもう……」

「でも、すっかりいい先輩後輩になったみたいだな」

 

 ルークの言葉に、キリトは否定することなくはにかむ。

 

 その表情が答えを示していた。

 

「キリト先輩は、気さくで結構頼りになる。今回もおかげで、先輩と仲直りできた」

「うっ……今後は気をつけます」

「ん、お願いします」

 

 じと────っと顔を突き刺すような視線。

 

 ルークは変な汗をかいた。なまじ自分に非があるだけ、粛々と受け止めるしかなかった。

 

「そ、そうだ! 食事で思い出した」

「? 何をだい?」

「こいつさ」

 

 ルークは傍らに置いていた籐籠を差し出した。

 

 後輩組が持ってきたよりも、一回りほど小さなその蓋をルークが開けると……

 

「わあ、パイです!」

「おー、美味そうだな」

「本当だね」

「先輩、これはどこのものですか?」

「食後の甘味にと思ってな、俺も食材を買って少し挑戦してみたんだ。味は保証しないぜ」

「……先輩が、自分で作ったの?」

「そういうことだ」

 

 お茶目にウィンクするルークに、甘いもの好きな女子三人と食べ盛りの男達は目を輝かせる。

 

《ステイシアの窓》を開くと、天命は問題無し。手の平サイズのパイを皆が手に取った。

 

「幾つか種類がある。ミートパイとか、果実を使ったものだったりとか。中身は食べて確かめてくれ」

「ん、これアップルパイだ。美味いぞ!」

「こっちはオレンの実かな。爽やかでいいね」

「はぐ、はぐ。んん〜、甘いです」

「んっ、こっちは甘辛い。この食感は……果物?」

 

 各々パイを齧り、笑顔を浮かべていく。

 

 どうやら初の甘味作りは成功したらしい、と安堵しながら、隣のシャーリーを見た。

 

「……! ……!」

 

 彼女は最も顕著な反応を示した。

 

 小さな口でパイを齧る毎に目を輝かせ、小動物のように一心不乱に咀嚼している。

 

 それはルークが一番出来が良いと自負していた一つで、跳ね鹿亭の蜂蜜パイを模した一品だった。

 

 

 

 

 甘いものが幼い頃から好きなシャーリー。

 

 学院に入って……というより、ルークの部屋で食べるようになってからお気に入りの、蜂蜜パイのような味。

 

 何より、敬愛する先輩の作ってくれたものという事実。

 

 それらが合わさって、彼女はとても幸せを感じていた。

 

「……先輩」

「ん?」

「…………ちょっとだけ、許してあげる」

「そりゃよかった」

「ん」

 

 上機嫌なシャーリーに、また一つ安堵のため息。

 

 色々気を揉んでいたキリト達も、それを見て微笑みを浮かべて。

 

 

 

「いやぁ、菓子作りが趣味だっていう初等生に教わってよかった。やっぱり女子はそういうの得意だな」

 

 

 

 その一言で場の空気が凍りついた。

 

 四人の表情が引き攣る。

 

 シャーリーの動きが止まり、尻尾のように揺れていたサイドテールが落ちた。

 

 その中で、ルークだけは急に黙り込んだ一堂へ不思議そうな顔をする。

 

「る、ルーク、君は……」

「今のは……うん、失言だぞ…………俺も前に怒られたし……」

「ルーク先輩……」

「今のはないです……」

「え、どうしたお前ら?」

 

 一様に白けたような目を向けてくる弟分達に、ルークは困惑する。

 

 この男、年下との交流が自然すぎてそういう意識が抜け落ちているのである。

 

 とはいえ仔細に説明するわけにもいかず、キリト達もどうしたものか悩んでいた時。

 

「………………先輩、やっぱり許さない」

「え!?」

「しばらく許さない。絶対に」

「何でだ!? ま、また俺何かしたか!?」

「知らないっ」

 

 シャーリーがそっぽを向いてしまい、ルークはほとほと困り果てた顔になる。

 

 一進一退。二人の関係はどうにも円滑にばかりはいかないらしい。

 

 

 

 

 ルークが自分のパイを渡すことで、どうにかシャーリーの機嫌は取り直した。

 

 会話をする内に徐々に和やかな雰囲気に戻ってきたところで、ふとある話題が切り出される。

 

「指導生の変更申請をしたいから、学院管理部に口添えをしてほしい?」

「はい」

 

 背筋を伸ばし、真剣な様子で言うティーゼ。

 

 隣にいるロニエも同様であり、まさかとルークは未だ隣にいるシャーリーを見る。

 

「お前、もし今日和解できなかったら本当に……?」

「違う、私じゃない」

「えっ、それじゃあ……」

 

 今度はユージオは表情を変え、ティーゼ達を見る。

 

 その目には、やはり自分達が指導するのは嫌だったのかと書かれている。

 

 キリトもやや不安げに二人を見て、心情を読み取った彼女達は慌ててかぶりを振った。

 

「ち、違います! 私達三人じゃなくて……!」

「むしろ傍付きをさせてほしいというか、むしろ変わってほしいって子がいっぱいいるっていうか……」

「先輩達、人気」

 

 人気、と聞いて目を瞬かせる三人。

 

 余計なことを口走ったと言わんばかりに慌てた三人は、ひとまずそれをスルーして話題を戻した。

 

「お願いしたいのは、同室の子で……フレニーカっていうんですけどね」

「その子、真面目で一生懸命で、剣の腕も強くて、それなのに謙虚ないい子なんですけど……」

「……指名された修剣士が、厳しい人だった」

「それはどんな風に?」

 

 ただならぬと察し、ルークは普段よりさらに真剣な雰囲気を作って聞き返す。

 

 誰が話そうか、三人は視線を交差させていたが、結局ロニエが話し始めた。

 

「ちょっとした粗相にも、長時間の懲罰を課されたりするそうなんです。他にも、学院内では不適切と言えるようなお世話を言いつけたり……」

「……つまり、権利を乱用して好き放題してるってことか?」

「その……あまり口には出しにくいのですが。本当にフレニーカが、ここ数日辛そうで」

 

 

 

 聞けば、(くだん)の修剣士は随分な横暴ぶりらしい。

 

 

 

 ロニエが説明したことのみならず、他の二人からも次々と出てくる悪い情報。

 

 必要以上の叱責や懲罰に留まることなく、女生徒には受忍し難い行為さえもさせられたのだという。

 

 聞いているだけで心がささくれ立つような所業に、自然とルーク達の顔も険しくなっていく。

 

「……事情はわかった。出来ることは全てしてみよう」

「ありがとうございます、ルーク先輩」

「俺も手伝うよ。そんな野郎放って置けないからな」

「勿論僕もね。とりあえず、その修剣士の名前を教えてくれるかい? 確か……」

「『上級修剣士の鍛錬を最大限支援するため、身辺の世話係として一名の傍付きを置く。傍付きは、その年度の初等練士より成績順に十二名を選抜し任に当てるが、上級修剣士と管理担当教官の合意があれば、傍付きを解任し、他の初等練士より再指名することを認める』、だな」

 

 見事に学院規則をなぞらえて音読したルークに、重い表情で一同は頷く。

 

 ティーゼはしばらく逡巡したものの、言うしかない以上はとその名前を口にした。

 

「……ウンベール・ジーゼック次席上級修剣士殿、です」

「…………またあいつか」

「ユージオに立会いふっかけて返り討ちだったくせに、それを自分の傍付きに当たってんのかよ。陰湿なやつだな」

「待てキリト、そんな話は聞いてないぞ」

「先輩、ここ数日ずっと鍛錬ばっかりしてた」

「ぐっ」

 

 そういえば強くなることばかり考えて盲目になっていた、と思い出すルーク。

 

 強迫観念とはげに恐ろしきかな、これまで欠かさず目を光らせていたあの二人まで見逃すとは。

 

「……もしかしたら、僕のせいかもしれない」

「え?」

「キリトの言ったように、返り討ちにしたわけじゃないんだ。引き分けだったんだけど、それがどうも納得いかなかったみたいで……」

「だから苛立ちをフレニーカって子にぶつけてるって話だろ。剣士以前に、人としてどうなんだって話だ」

 

 忌々しげに吐き捨てるキリトに、ルークも全く同じ気持ちである。

 

 あるいはそれは、彼の中に強く焼きついた〝あの女性〟の背中があるからかもしれない。

 

「……つまり、腹いせ、ってこと?」

「腹立たしいことにな。リィは貴族として、この事をおかしくないと思うか?」

「絶対におかしい。こんなことは間違ってる」

 

 即答したシャーリーは、キッと普段は動かない眉尻を吊り上げる。

 

 同じ貴族とはいえ下位貴族である彼女やティーゼ達は、その価値観を平民であるルーク達と近しくしている。

 

 故にこそ相談したのであり、そしてシャーリーは善悪の判断について他の二人より明確に口にする性だった。

 

「確かに、学院の規則にも、帝国基本法にも、ましてや禁忌目録にも抵触してない。でも……」

「でも?」

「……それは、人として()()()()()()()()()()

「そうだな。これは理性あり、知恵がある人として、あまりに恥ずべきことだ」

 

 ルークは、それをよく知っている。

 

 

 

 

 あの日、アリスが連れ去られるのを手助けして。

 

 ユージオ()を押さえつけたことに納得できなくて、その時の自分が認められなくて、大いに荒れていた時期があった。

 

 子供ながらに考えつく限りの言葉で自分の心を痛めつけ、拳を血が出るまで床に打ち付け。

 

 時には母にまで迷惑をかけてしまったこともある。

 

 いつかアリスを取り返そうと前を向けたのは、その母に痛烈な平手打ちを食らって諭されたからなのだが。

 

「……私も同じ気持ちです」

「ロニエ……」

「私もです。お父様は、いつも言ってたんです。私達が貴族で、特権を許されているのは当たり前じゃない。それを持たない人達が、笑顔で平和に暮らせるようにするためなんだって。そしていつか戦が起きた時は、貴族でない人達より真っ先に剣を取り、立ち向かわなかければいけないんだって……」

 

 聞く者の意識に染み込ませるような、確かな色を含んだ言葉でティーゼは語る。

 

 そうしてふと顔を上げると、彼方の方……帝国行政府の方を厳しい目つきで睨みつけた。

 

「ジーゼック家といえば、四区に大きなお屋敷も構えていて、セントリア郊外には私領地だって持っている名家です。ならば、ウンベール上級修剣士殿は下級貴族よりもっと、人々の幸せのために尽くさねばならないのではないでしょうか? たとえ、何に禁じられていなくたって、貴族ならば誰かの不幸になることではなく、幸せをもたらすことをしなくてはならない……お父様は、そう言っていました。ウンベール殿が何の法も犯していなかったとしても……それでも、フレニーカは昨晩、ずっとベッドで泣いていて……なんで、そんなことが許されるのでしょう……」

 

 長い語りだった。

 

 それだけ、想いを人に伝えるだけの重さを秘めた言葉で、目に溜まった大粒の涙は蒸発してしまいそうな程。

 

 同じようなことを教わったのだろう。深く共感したような面持ちで、シャーリーは彼女の重なった手を握る。

 

 シャーリーに微笑んだティーぜが、ロニエが差し出した手巾を受け取って涙を拭う。

 

 その一部始終を見ていたルークは──ふと、〝先輩〟の言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、後輩くん。君が我が子の意思を担い、守護者たらんとするのなら。一つ、私の好きな名言を教えよう──』

 

 

 

 

 

 

 

「…………大いなる力には、大いなる責任が伴う、か」

「え?」

「!?」

 

 ティーゼ達が顔を上げ、キリトが見たこともないようなギョッとした顔で振り返る。

 

 弟分のリアクションにやや驚いたものの、ルークは彼女らを見て語り出した。

 

「俺の指導係だった先輩から聞いた言葉なんだけどな。力を持っているのには、必ず理由があるってことだ。それは自分の為に振るうものじゃなくて、時にはもっと大切なもののために使う責務がある」

「もっと、大切なもの……」

「それは法でもなければ、誰かに課されたものでもない。人より優れ、他人の何かを左右してしまう何かを持った人間が自分自身で課さなければいけないものだと、俺は解釈している」

 

 今度こそ同じ過ちは繰り返さないと、自分という存在の全てをかけて大切なものを守ると。

 

 それが世界の終わりであっても覆してみせると、力を託してくれた彼女の前で己に誓った。

 

「だからまあ、何が言いたいのかっていうと……シュトリーネンさんのお父様は、気高い志を持つ人だ」

「あ……」

「お前達もそう思うだろ?」

 

 話を振られたキリトとユージオは少々驚くも、しかしはっきりと頷いた。

 

 自分の先輩達も賛同したのを見て、難しい顔をしたティーゼは遠慮がちに口を開く。

 

「でも、でもそれは……常に、それが正しいとは限らないのでは?」

「その通りだ。だからこそ〝責任〟とはなんなのか。その力とはどう使うのが最も善いことなのか、考えなくちゃいけないんだと思う。たとえそれが、時には法や人が間違っていると言うことであっても」

「たとえば、本来なら逆らっちゃいけない上級貴族様に物申す、とかな?」

 

 付け加えたキリトの言葉に、後輩達はハッと目を見開いた。

 

 キリトはニヤリと笑いかけてくるので、()()()()()()と思っていたルークもニヒルに笑い返す。

 

 一方で、二人の言わんとしていることを理解したユージオは困惑した色を浮かべた。

 

「でも、そうやって誰もが自分の力を振るう責任や範囲を決めたら、秩序なんてなくなるんじゃないのかい? それを公平に決めるために、公理教会があるんじゃ?」

 

 ユージオの意見は、この場のほぼ全員が納得できるものだった。

 

 確かにウンベールがそうしているように、禁忌目録や他の法にも穴はある。

 

 それでも世界を想像した神の代行者である公理教会が定めたことは、いかなる場合でも絶対の理なのだ。

 

 だからユージオは、まるでキリトのように公理教会にある意味反することを述べたルークに戸惑った。

 

 長年共に過ごした弟分の心情を手に取るように理解したルークは、ふと自問する。

 

 

 

(……アリスを失った日。そして、白竜の剣が北の洞窟で目覚めた時から。俺の中の、公理教会に対する何かが失われつつある)

 

 

 

 どうにも、ここ最近のルークの中からは全ての人界人の中にある()()が薄れている。

 

 まるで少しずつ凍りつき、鋭い牙で削られていくかのように、日々自分の内からすり減っていく。

 

 それが〝彼女〟が自分に目をつけた理由ではないかと、最後の休息日の会話からルークは推測していた。

 

 

 

「…………法が全てじゃない」

 

 

 

 考え耽るルークの思考を現実に戻したのは、小さくも凛とした言葉だった。

 

 自分の意見を肯定するような言葉に、驚いて隣から自分を見つめる少女を見下ろす。

 

「シャーリー?」

「法は秩序を作っている。人を守り、平和を保っている。けれど、だからって全部に従っていればいいわけじゃない……そうでしょ?」

「リィ、お前……」

「少し、わかる。だって…………たとえ私が間違ってるって、そう言われることを覚悟しててでも、踏み出したから」

 

 胸に宿る思いのほとんどをぶつけた激白。

 

 それは失敗と間違いを恐れていた彼女に、一種の思考の変化をもたらしていた。

 

 ただ言われたままに従って、何もしないことは一つも辛い現実を解決してはくれないのだと。

 

「……そう、だね。私も、そう思う」

「ロニエ……」

「要するに、それって自分の中でこれだけは譲れないっていう正義ですよね。法があったとしても、それと自分の正義を照らし合わせて考えるって、そういうことですよね?」

「ああ、そうだ。それができるからこそ、人間は強いんだ」

 

 頷くキリトに、ロニエは否定されなかったと安堵の微笑を浮かべた。

 

 迷うそぶりを見せていたティーぜも、二人の言葉を聞いて何かを考えたのか。

 

 ずっと揺れていた紅葉色の目の色を、少し変えるのだった。

 

 

 

 






読んでいただき、ありがとうございます。


次回はかの意思との対面…

これからも楽しんでいただけると嬉しいです。
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