ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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毎回不定期更新ですみません。

なるべくアンケートの通り、週二回更新を目指します。

楽しんでいただけると嬉しいです。


始動

 

「ユージオ、へばって、ないかっ!?」

「まだ、まだっ!」

 

 

 

 牢の中、互いを鼓舞するような叱咤。

 

 キリトとユージオ、二人の少年は険しい顔で、何かに踏ん張っていた。

 

 彼らの視線の先にあるのは、火花を散らす金属の輪の連結体──二人を戒める鎖であった。

 

 ピンと張り詰め、交差した二つの鎖は今、互いに擦れ合ってギリギリと不快な音を立てている。

 

 

 

(よし、この調子なら……!)

 

 

 

 キリトがそれを思いついたのは、単なる偶然だった。

 

 今後の事とと現状について、ユージオと相談という名の愚痴り合いをしていたのだ。

 

 そしてユージオの、「脱出をしようにもここには鎖とベッドしかない」というセリフに閃いた。

 

 クラス38という、非常に高レベルなこの鎖。手では勿論、そこらの名剣でも壊せない。

 

 だが、鎖同士なら? 

 

 思い立つや否や、キリトはユージオと協力をしてこの妙案の実行に当たった。

 

「キリト、耐久値は……!」

「今、見るって……!」

 

 鉄輪の嵌った右手で鎖を握り、開いた左手で印を切る。

 

 宙に描いたS字から開かれた《ステイシアの窓》には、目紛しい勢いで減少する天命が表示された。

 

「いい、調子だ! これならあと少しで……!」

 

 キリトのセリフに、ユージオは安堵と気力の満ちた表情となる。

 

 

 

 それを見ながら、彼はある事について考えた。

 

 あの、ユージオとルークが探し求めたアリスという少女は、同じ事をしたのだろうかと。

 

 いいや、この方法には鎖と人間が二つ必要な以上、たった一人で連行れた少女には不可能だろう。

 

 だとすれば、先ほどまで話し合っていた通り、何者かに記憶や人格……フラクトライトを改竄されたのだ。

 

 まるで、そう……

 

 

 

(今のルーク、みたいに)

 

 

 

 その時、甲高い音を伴って何かが破砕した。

 

 同時に右手にかかっていた抵抗力が消え、考え事をしていたキリトも、ユージオも後ろに吹っ飛ぶ。

 

 冷たい石壁に体を打ち付けた彼らは、飛び散った鎖の破片と一緒にベッドの上でバウンドした。

 

「げほっ、ごほっ……うう、今ので天命が100は減ったよ…………」

「ってて……その程度で済んだなら、儲けものだろ」

 

 後頭部をさすりながら、キリトは右手を持ち上げた。

 

 鎖は鉄輪から力なく垂れ下がり、半ばから割れた先端を寂しげに揺らしている。

 

 長さは120センチほどだろうか。

 

 てっきり、壊れた途端に丸ごと消失するものだとキリトは思っていたのだが。

 

「……ん、18000近くまで天命が戻ってる?」

 

《ステイシアの窓》を開いて見れば、元の二万を超える耐久に近い数値が現れる。

 

 クラスは30程度。どうやら、新たなオブジェクトとして定着してしまったようだ。

 

「これは、さすがにどうしようもないなぁ……」

「まったく。無茶、無理、無謀の代名詞みたいだよね、キリトは」

「時には奇策が功を奏するのさ。しっかし、これ、どうしたもんか……」

「とりあえず、腕に巻いておけば移動するには問題なさそうだ」

 

 前腕に鎖を巻き始めたユージオに倣って、キリトも同様にする。

 

 いくらかマシになったところで、さてと彼は相棒の方を見た。

 

「……ユージオ」

「ん? なんだい?」

 

 振り返るユージオ。

 

 キリトは深く息を吸い、吐いて……目元を引き締めた。

 

「改めて聞いておくけどな。これから俺達がすること……つまり、ルークを助け出し、アリスの真実を探し出して取り戻す。これは、真っ向から教会に反逆することだ。今後は予想だにしないことがごまんと起こる。その時、いちいち悩むようなら……お前は、ここに残った方がいい」

 

 キリトの言葉を、ユージオはじっと黙って聞いていた。

 

 

 

 

 何も彼は、ユージオを足手纏いだと言っているのではない。

 

 現在彼の精神……光量子の集合体たるフラクトライトは、長年培ってきた多くのものを変化させた。

 

 それは通常のUW人の枠組みを超えたことを意味するが、同時にひどく不安定にもなっている。

 

 過度の負荷がかかった時、どう爆発するかはわからない。

 

 だからこそ、ここで覚悟を決めてもらう必要がある。

 

 これはルークにも言えることだ。

 

 ユージオとは違う意味で、恐ろしい変化を始めているかもしれない兄を助け出した暁には、同じことを問うつもりでいる。

 

 

 

(そしてこの塔の頂上にあるはずのもの──現実に繋がるシステム・コンソールにたどり着いた暁には……)

 

 

 

 彼らと、菊岡達現実世界の人間を対面させる。

 

 そして知らしめるのだ。自分達の生み出したものが、一体どういった存在なのか。

 

 彼らの指先一つで、いつでもリセットできてしまうこの世界が、言葉にできないほどの価値を持つことを。

 

「……ああ、わかってる」

 

 思考を巡らせながら待っていたキリトの耳に、確かな答えが返ってくる。

 

 前を見れば、ユージオは揺れる所のない瞳でキリトの黒い瞳を見返していた。

 

「僕は、決めたんだ。本当のアリスを取り戻し、ルークと三人でルーリッドの村に帰るためなら、なんだってすると。剣を抜き、立ちはだかる障害を斬り伏せていくと……そう、決めたんだよ」

 

 はっきりとした言葉だった。虚勢も詭弁もなかった。

 

「………………」

「あの皆で森遊びをした日、皆で語り合ったよね。『法を越えてでも貫くべき正義がある』、って。今の僕には、その意味が少しだけわかるような気がするよ」

 

 いくらキリトが、その目を見つめても。

 

 

 

 

 

 ユージオの目が揺らぐことは、もうなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「……そう、か」

 

 ふっと、息を吐く。

 

 キリトの口元には、ちょっとした微笑みがあった。

 

「お前の覚悟、よく分かったよ。だがルークを救出して、この地下牢から抜け出したら、極力戦闘は避けるぞ」

「キリトにしては弱気な意見じゃないか」

「バーカ、アリスの他に何人整合騎士がいるか分かったもんじゃないだろ。あいつら、この人界最強だぞ?」

 

 少なくとも、あの時一緒にやってきたイーディスなる女騎士。彼女も相当の強敵だろう。

 

 それに、とキリトは不敵な笑みを浮かべていた表情を、物憂げにする。

 

「ルーク。あいつが心配なんだよ」

「…………うん。僕も、ずっと考えていた。彼は、とてもじゃないけど平気な状態じゃない」

 

 神妙な顔で、二人は頷きあう。

 

 ルーク自身が懸念していることを、キリトとユージオもまた、ずっと案じていた。

 

「そういえば前に、あの剣、北の洞窟にあった馬鹿でかい竜の遺骸から削り出されたものだって言ってたよな?」

「ああ、一番大きくて鋭く、硬い牙からね」

 

 そこまで言って、ユージオは何かを考えついたのか、難しい顔で手を顎に持っていった。

 

「…………もしかしたら、あの剣には白竜の魂が宿っているのかもしれない」

「まさか、そんなはずはないだろ」

 

 口では否定するものの、キリト自身もその可能性を無いとは言い切れなかった。

 

 

 

(あの時、ルークは窓から飛び込んできた。数十メートルはある上級修剣士寮の最上階に、だ。その後も筋肉痛程度で済んでいる……そうだ。いくらあいつが抜群の身体能力を持っていても、明らかに人の範疇を逸脱してるんだ)

 

 

 

 確かにアンダーワールド人は、恵まれた体力と身体を持っていることが多い。

 

 キリトも当初、現実世界の自分の体より頑丈なこの世界の体に驚いたものだ。

 

 しかし、そんなものでは到底収まらない。

 

「……そういえば」

 

 ふと、北の洞窟のことでキリトはあることを想起した。

 

 

 

 

 それは、ゴブリンの親玉を打ち倒し、先遣隊を撤退させた後のことだ。

 

 深く腹を切り裂かれ、重傷を負ったユージオを助ける為に、セルカと共に治療をした。

 

 拙い神聖術を振り絞ったが、しかし力及ばず……その時、どこからか声が聞こえたのだ。

 

 

 

 

 

《キリト、ユージオ……待ってるわ……いつまでも……セントラル・カセドラルの天辺で、貴方達を、ずっと待ってる…………》

 

 

 

 

 

 天啓のようなその声が聞こえた直後、キリト達の体に光がみなぎり、そしてユージオは助かった。

 

 だが、ふと思い返してみると。

 

 その後、戦闘中に気を失って倒れていたルークを、ユージオ共々セルカと運び始めた時に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《お願い……どうか、彼を白い竜から守って………………ルークの魂にはもう、その手が…………》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()、あの声が聞こえたような気が──

 

「おや。興味深い話を聞きつけ、来てみれば」

「「っ!?」」

 

 意識の隙間に入り込むような声に、二人は素早く身構えた。

 

 鎖を巻いた腕をナックルのように構えて、声がした牢の外を見る。

 

 

 

 

 薄暗がりに包まれた廊下。

 

 その中でも一層影の濃い壁際に、誰かがいつからか立っていた。

 

「どうやら、無事に自由への切符を手にしたようですね。おめでとうございます」

 

 〝白い燕尾服〟を着たその人物は、優雅な所作で拍手をする。

 

 聞くものを決して不快にさせない音だったが、むしろ今の二人には警戒を強めさせた。

 

「何者だ。どうして俺達のところへ来た?」

「……まさか、カセドラルの?」

「ふむ。努力を讃えたというのに、この反応は些か傷つくというものですが……まあ、よろしいでしょう」

 

 おどけたように手を下ろし、片方を体の後ろへ持っていく。

 

 残った手を顔の辺りにやってこほん、と咳払いをした白燕尾服は、ゆっくりと語った。

 

「時間があまりございません。手短にお伝えします」

「いや、待て。その前に質問に──」

「〝お前達を信じている。必ずまた会おう〟。ルーク様からのお言付けでございます」

 

 キリトも、そしてユージオも、鋭くしていた目をまん丸に見開いた。

 

 ルークからの伝言。それを伝えてきた謎の人物に、二人は呆気に取られる。

 

「……あなたは、一体誰だ?」

「どうしてルークのことを知っている。俺達にそんなことを伝えて、何を企んでいる?」

「企みですか。そうですね、常に行動とは理由を伴うものです」

 

 ぼかすような言い方だった。流石の二人も、再び顔を険しくする。

 

「ですが、私の〝理由〟など些細なもの。今貴方がたが、すべきことに比べれば」

 

 ああ、と、そこで声を上げる。

 

「すべき事と言えば。その鎖を外すのはお勧め致しません。この先、役立つ事でしょう」

「……キリト」

「……ああ」

 

 この人物は、自分達の目的をも知っている可能性がある。

 

 何故? いつから? そんなありきたりな疑問が頭の中を満たしていく。

 

 それさえも見透かしているように、燕尾服の人物はくすりと闇の向こうで笑った。

 

「ルーク様は、あの剣の元へと向かわれました。()()()になりませんよう、お祈りしております」

「何だってっ!?」

「お前! あいつに何をした!?」

「それではまた。再び見えることもあるやもしれません」

 

 

 

 

 

 次に、二人が瞬きした後。

 

 

 

 

 

 そこにはもう、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

「……なんだったんだ?」

「僕達、幻を見ていたのか……?」

 

 その人物の、影も形もない廊下に二人はゆっくりと拳を下ろす。

 

 不気味な気分だった。たった数分にも満たない事だったのに、心にモヤモヤとしたものが溜まる。

 

「……今は考えても仕方がない。まずは、ここから出るぞ」

「あ、ああ」

 

 ひとまず、二人は疑問を心の奥に押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 人界で最もソルスに近い場所は? 

 

 

 

 

 

 

 

 おそらく、誰もがこう答えるだろう。

 

 紛れもなくセントラル・カセドラルであろう、と。

 

 しかし、それに迫る場所が一つある。

 

 

 

 

 ウェスダラス西帝国、北部。

 

 山地中枢に聳える大火山。その火口付近に位置する高台。

 

 付近で煮えたつマグマの熱にあてられ、漂う熱気が息を吸う度に肺を焦がす。

 

 そして、天より降り注ぐソルスの無比なる光によって、草木の一本も生えることは無く。

 

 何者にも……火山に住まう獣達ですら決して寄り付くことを許されぬ、天然の熱の祭壇である。

 

 

 

 

 

 ただ一人の、例外を除いて。

 

 

 

 

 

 轟々と熱気が吹き付けるその場所に、巌のごとく直立する威容さ。

 

 真紅の鎧に包まれた体は、周囲に負けないほどの音を立て燃え盛っている。

 

 常人の身の丈に迫る豪剣を納めた盾を地に打ち立てる様は、石像のようだ。

 

 その堂々たる様は、かつてこの場を棲家としていた()()()に酷似していた。

 

 

 

 

 

「…………誰だ」

 

 

 

 

 ふと、髑髏の奥に銀の眼光が現れる。

 

 開眼した巨岩──炎の騎士は、周囲の熱気をも打ち払う声を震わせた。

 

 知恵なき獣ですら慄くだろう、その言葉に──騎士の後ろに立つ、白い燕尾服の人物は微笑む。

 

「安眠の最中、申し訳ありません。貴方様の貴重な時間を消費させることを、どうかお許しください」

 

 慇懃な態度で、燕尾服はゆるりと頭を下げる。

 

 そこには本気の敬意が見て取れ、炎の騎士が剣の柄から手を離す。

 

「…………貴様、か。……何用だ」

「お知らせしたいことがございまして、本日は参りました」

 

 姿勢を戻した人物は、切れ長の瞳をさらに真剣に細めた。

 

「塔が崩れます。三つの光により、円環の箱庭を覆う暗雲が晴れることでしょう」

「…………そう、か。機が、熟したか」

 

 静かに、されど確と、騎士が呟く。

 

 

 

 

 

 そして、岩山が動いた。

 

 

 

 

 

 そう錯覚するほど、騎士から立ち上った戦意は身に纏う炎以上で。

 

 燕尾服の人物は、無意識に喉を鳴らす。

 

「二百年以上待った。この時を」

 

 音を立て、再びその手が剣を握る。

 

 そして、骨を削るような荒々しい音で豪剣が引き抜かれた。

 

 瞬間、鎧から立ち上る炎がまるで翼のように膨れ上がる。

 

「担い手はここに揃い。四つ竜の魂は目覚め、天を衝く白の塔は今、崩れ落ちる」

 

 溢れ出る覇気は言葉にさえ乗り、火山全体にまで広がってゆく。

 

 天に無数の鳥が飛び立ち、山さえも慄くようにマグマが激しく煮え滾った。

 

「報復の時だ。解放の刻だ。さあ、鐘を鳴らせ」

 

 踏み込む足は、大地を溶かし。

 

 昇る炎は、天をも焦がす。

 

 その、騎士は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──これより、狩りを始める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 復讐に、燃えていた。

 

「……お力添えいたします。最も偉大なる担い手。()()()()()を従えたる、至高の騎士よ」

 

 跪き、片手を胸に添え、その人物は首を垂れる。

 

 それは()()()()U()W()()()()()()故にあるはずのない、本能からの敬服。

 

 あるいはこの電子の世界の中であるからこそ、似通ったものを感じ得たのだろうか? 

 

 

 

 

 解析できない。

 

 だが、その人物にとって騎士に助力する事に大きな利益があることは間違いなく。

 

 こうして臣下の如く膝をつくことに、何の抵抗も存在しなかった。

 

「準備は整っているか。白き燕よ」

「勿論。彼らが箱庭の守護者達を討ち倒し、混乱を広めれば、〝彼女〟にも隙が生まれましょう。その暁には、貴方様をかの塔へとお連れいたします」

「……いいだろう」

 

 身を震わせる声に、その人物はふと顔を上げる。

 

「恐れながら、私からもお聞きしたい。──充分に力を蓄えられておいででしょうか?」

 

 その問いに、騎士はゆるりと剣を掲げる。

 

 切っ先が示すのは、空に燦然と輝く日輪の輝き。

 

 

 

 

 

 

 曰く、御伽噺に語られた古き竜の一匹は。

 

 

 

 

 

 燦然たるソルスの光を己の力に変え、湖をも焼き尽くす炎を吐いたという。

 

 ならば、赤き竜の亡骸を鎧に誂え。

 

 かの炎の残滓を纏う、その騎士は。

 

「我は炎の化身。赤き竜の写し身。かの光は、既に我が身に集まった」

「……その力、心より感服いたします」

 

 その人物は、また頭を垂れて。

 

 

 

 

 

 

 

「最も強大にして、最もかの支配者に疎まれし者。()()()()()()()()──バルド・シンセシス・ゼロ様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 真紅の炎が、轟と天に吼えた。

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

次回はルークの場面。

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