ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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今回は結構な割合が原作通りです。

時系列の整理をします。

楽しんでいただけると嬉しいです。


整合騎士エルドリエ

 

 

 

 

 ルークが騎士ライオットと相見えていた頃。

 

 

 

 

 

 地下牢を脱出し、神聖術で割り出した剣の位置を辿っていたキリトとユージオも、また驚異的な敵と相対していた。

 

 最高純度の神聖力を生み出す、《神々の花》とされる薔薇の咲き誇る迷宮植物園。

 

 それを抜けた先には、一人の整合騎士が待っていたのだ。

 

「……買いかぶりだと最初に言ったのは、撤回しなくてはならないね。よもや私に、ここまでの手傷を負わせるとは」

「そりゃどうも」

 

 視線を押し付けるように、キリトはその騎士……エルドリエ・シンセシス・サーティーワンと睨み合う。

 

 その左手にはエルドリエの手に携えられた、白銀の鞭──神器《 霜鱗鞭(そうりんべん) 》をがっしりと掴んでいた。

 

 一方で、騎士エルドリエも、震える手でキリトの手首の枷に繋がった鎖を握りしめている。

 

 

 

 

 キリトの胸には、斜め一文字にぱっくりとした裂け目が肌まで出来ている。

 

 茨のような棘を持ち、《完全武装支配術》なる神器の能力を引き出す力によって幾つにも分かれる《霜鱗鞭》で切り裂かれたのだ。

 

 共に挑んだユージオは、同様に痛烈な攻撃を受け、今いる広場の噴水に沈んでいる。

 

 しかし、奇策を巡らせたキリトの一撃によって、騎士エルドリエも左手を粉砕骨折させられている。

 

 そして今、互いに痛手を負わせた二人は綱引きの様相を呈していた。

 

「……見事な体術と欺きの術だった。その技、その戦い方……不思議だね。何故か見覚えがある」

「へえ……だが、それがどうした? 以前に俺と同じセルルト流の使い手とでも戦ったんだろう?」

 

 柔能く剛を制す、此れを以てエルドリエに痛手を負わせたキリトは煽るように言う。

 

 だが、エルドリエが挑発に乗ることはなく、ふっと整った顔に笑みを浮かべた。

 

「そんなことはあり得ないのだよ、囚人君。最初に名乗った時に言っただろう。私は一ヶ月前に、この人界に召喚されたばかりなのだから」

「…………召喚、ね」

 

 当初、この広場に踏み入った時に交わしたエルドリエとの会話を素早く回顧する。

 

 まずキリトは、この新米整合騎士と、これまでに出会った整合騎士とを比較し、その法則性に気がついた。

 

 イーディスがテン。アリスがサーティー。これは整合騎士の序列、あるいは任命順と推測した。

 

 そして、最近人界に召喚されたというエルドリエは31。

 

 この《召喚》という部分に、キリトは何か引っ掛かりを覚えていた。

 

「なんだか、誰かにこの世界に呼び出されたみたいな……」

 

 思わず質問をしようとして、そこでキリトはふと気がつく。

 

 エルドリエの背後にある噴水。清涼な音で流れ落ちる水の音が変わっている。

 

 

 

(…………なるほどな)

 

 

 

 そこにいるだろう、相棒からのサインに内心で不敵に笑って。

 

 そしてキリトは、エルドリエに向けて挑発的な笑みを向けて見せた。

 

「そんな風に聞こえる、なっ!」

「な──!?」

 

 最後のセリフと同時、握られた鎖を自分の方へ強く引っ張る。

 

 瞬間、これまでの戦闘で《霜鱗鞭》と打ち合って損耗していた鎖が半ばから切れた。

 

 バランスを崩すエルドリエ。それを()は待っていた。

 

「りゃああああっ!」

 

 飛沫を上げて、噴水から飛び出したユージオが背後から鎖を鞭のように振るった。

 

 それは、鎧を着込んだエルドリエの唯一の弱点である頭部を狙ったもの。

 

 確実に当たった──そんな、キリトとユージオの確信。

 

 

 

 

 

「リリース・リコレクション」

 

 

 

 

 

 彼らの予想を打ち破ったのは、その刹那の前に放たれたエルドリエの詠唱だった。

 

 キリトが絡め取っていた鞭が、その式句をエルドリエが口にした瞬間、眩く輝く。

 

 そして、生命を得たようにキリトの肌の上で震え……爆発的に伸長した。

 

 

 

 

 

 銀蛇。目の錯覚などではなく、文字通りの隻眼と顔を持つ蛇に変貌した《霜鱗鞭》。

 

 それは宙を走ってユージオの鎖を口で掴み取り、全身をうねらせて持ち主ごと投げ飛ばした。

 

 グンっと体を持って行かれたユージオが、キリトのすぐそばの地面に打ち付けられる。

 

「が、はっ!」

 

 呻きと血を吐いたユージオが、目を見開く。

 

 全身に伝わる衝撃と鈍痛に苦悶しながらも、なんとか立ち上がろうともがいた。

 

 だが、完全に立つ前に鋭い音でエルドリエの腰の剣が抜刀され、突きつけられる。

 

「動かない方が、身のためだ」

「……!」

 

 額に触れそうな刃の先に、ユージオは動きを止める。

 

 そうしている間に、蛇はスルスルと縮小していき、最後には元の鞭に戻ってしまった。

 

 左手に再度巻きついたそれを強く掴みながら、キリトは驚くべき能力に目を細める。

 

 

 

(リリース・リコレクション……日本語に直訳すると、記憶の解放?)

 

 

 

 だとすれば、先程の蛇はこの《霜鱗鞭》に秘められた記憶だということか。

 

 類稀なる武具、特別な器……神器と呼ばれるものに宿る、記憶。

 

 記憶の隅から、あの夜のルークが脳裏によぎった。

 

 

 

(まさか、あいつも無意識にこの力を……?)

 

 

 

 考えながらも、エルドリエの動向から目を離しはしない。

 

 キリトが鞭を掴み、エルドリエはユージオを抑え。互いに牽制しあう形に逆戻りだ。

 

「……アリス様が警戒なさるわけだ。流石は我が師。型も何もないが、故にこそ私の予想を超える……よもや、《記憶解放》の奥義まで使わされるとは」

 

 やはり、とキリトは自分の推測の正当性を再確認する。

 

 一方で、ユージオはまるで感心したようにほう、とため息を吐いた。

 

「貴方こそ、やっぱり流石と言うべきだ。整合騎士殿」

「おい、この状況で何を感心して……って、やっぱり?」

 

 何か違和感のある言葉に、キリトは思わず聞く。

 

 首肯したユージオは、エルドリエを真っ直ぐに見て口を開いた。

 

 

 

 

 

「最初から、聞き覚えのある名前だと思っていたんだ。そして、ようやく思い出した。……キリト。この人は今年の()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、()()()()()()()()()()()。〝エルドリエ・ウールスブルーク〟だ!」

 

 

 

 

「な……!」

 

 なんだって、とキリトはエルドリエを凝視する。

 

 

 

 

 四帝国統一大会優勝者。

 

 それはつまり、三月下旬の帝国剣武大会、そして四月上旬を制覇した人間ということ。

 

 ソルティリーナや、キリトが懲罰として戦ったウォロ先代主席、多くの剣士を打ち破り、人界最強の剣士の栄誉を手にして。

 

 その功績を以って、このカセドラルに招かれた──以前、噂に聞いた話だ。

 

「お、お前……よく覚えてたな」

「キリトが新聞や掲示板を見ないからだろう? ……だが、間違いないはずだ。その顔も、新聞にしっかりと載っていました」

 

 一切の疑念なく言い切るユージオの言葉は、あることを意味する。

 

 すなわち──このエルドリエは、どこか全く別の世界から《召喚》などされておらず。

 

 剣士から騎士に成った、れっきとした人間なのだということを。

 

「…………なん、だと」

 

 それを聞いた、エルドリエ自身は。

 

 まるで、この世の終わりのような顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 廊下に、二つの足音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 一つは金属質な、具足が踏み鳴らすもの。

 

 もう一つは、それとは異なった硬質なもの……鉤爪の先端が床を打つもの。

 

 先を行くライオットの数歩後ろに追随する形で、ルークはカセドラルの中を移動していた。

 

「……なあ」

「ん? なんだ」

 

 ルークの呼びかけに、ライオットは顔だけ振り向く。

 

 そこには変わらず一切の戦意はないが、しかし剣の鞘から手を離すことはできない。

 

「お前が、突然戦いをやめたのは……俺が担い手だから。そういうことか?」

「まあ、そうだな。単なる罪人なら四肢をへし折って地下牢にぶち込み直すが、お前は違った」

 

 一瞬《白竜の剣》に目をやると、ライオットは続ける。

 

「お前の剣技には、尋常ならざる修練と信念を感じた。卑劣に他人を害する奴が出せるもんじゃねえ。ましてや、最も気高く気難しい白竜の適合者ってんなら、あれ以上は同じ担い手として争う理由がねえよ」

「……そりゃどうも」

「おいおい、もう少し喜べ。整合騎士の中でも、俺の実力は上位だぜ? そんな俺と渡り合ったんだからよ」

 

 だろうな、と納得した。

 

 全力と口では言っていたが、その半分も発揮しているとは感じられなかった。

 

 あるいは、ルークが担い手と気付いたからこそだろうか。

 

 それに足りうる最低限の実力があるかを、あえて挑発的に振る舞うことで確かめたのかもしれない。

 

「それに、俺は自らの技を磨き抜いたやつってのが好きなんだ。まだまだ発展途上だが、お前には光るものがある」

「これでも、人生をかけて力を付けてきたつもりだ」

「その言葉に嘘偽りはないだろう。まったく、奇縁とはよく言ったもんだぜ」

 

 カラカラと笑うライオットに、ルークはなんとも言えない気分になる。

 

 ルークにとって整合騎士とは、かつて村にやってきたあの騎士や、連行しにきたアリス達のような、冷徹で無情なる存在だった。

 

 共感も同情も存在せず、ただ法の厳守それのみを是とする、教会の絶対なる使者。

 

 ところが、ライオットはこれまで見たどの騎士よりも人間味に溢れているように思える。

 

 

 

(蒼き大竜……その魂は、この整合騎士のどんな想いに呼応して目覚めたんだ?)

 

 

 

 昔から、考えていたことがある。

 

 北の洞窟の白い竜のように、古い御伽噺に謳われる他の三竜も既に死しているのではないか。

 

 そして、自分と同じようにその亡骸を武具に変えた者が、どこかにいるのではないか、と。

 

 それがまさか、公理教会の整合騎士……それもこのような人物とは、予想すらしなかった。

 

 

 

(…………いいや、違うな。俺は、大切なものを奪っていった整合騎士と教会を、伝承の守護竜と同じものだと思いたくなかっただけだ)

 

 

 

 むしろ、人界の守護者たる教会には真っ先にその可能性を疑うべきだろう。

 

 だが、ルークはそうしなかった。

 

 幼心に持っていた守護竜への憧れを、身勝手にも穢されたような気持ちになったのだ。

 

 だから、その可能性から目を背けた。

 

 

 

 

 それが、今になってようやく理解できたのだ。

 

 罪人と騎士。されど同じ担い手として自分を認めた、この騎士の存在によって。

 

 ルークもまた、このライオットという騎士を守護竜の代弁者として受け入れ始めていた。

 

 

 

(信じたわけじゃない。教会が敵なのは変わりがないし……この騎士のことを、まだ何も知らない)

 

 

 

 これまでの言動が、全てルークを欺く為の演技という疑いもある。

 

 だが……少しだけ。

 

 

 

 

 

 長年心の中に積み重ねられてきた騎士への嫌厭が、揺らいだ気がした。

 

 

 

 

 

「しかし、独特の剣技だったな。ありゃ我流か?」

 

 そんなことを考えていると、今度はライオットから話しかけてくる。

 

 先程までよりいくらか刺々しさを抑えた声音で、ルークは返答した。

 

「技は色々と教わったものを、自分なりに形にした。周りに中々の使い手がいてな」

「そうか。じゃあ、あの足運びは? 俺の動きにあんな風に合わせてくるやつなんざ、初めてだから驚いたぞ」

「……いい指導役がいたんだ」

 

 ルークの技量を格段に向上させたのは、やはり初頭錬士時代の経験だろう。

 

 

 

 

 既に、この世界から去った彼女。

 

 終ぞ埃の一つもつけられなかった彼女の指導によって、ルークは大きく成長した。

 

 今回ライオットと渡り合えたことで、改めて彼女への敬意を強めた。

 

「結局、俺は最後までその人の実力の底を見られなかったよ」

「ほお。そりゃあ是非手合わせ願いたいもんだ」

「残念だが、それはむ──」

 

 

 

 無理だ、と言おうとして。

 

 

 

 けれど、ルークの言葉は途中で止まった。

 

 代わりとでも言うように、その目でライオットの後ろ姿を食い入るように見つめる。

 

 自分の目線の先にあるものを、数秒かけてじっくりと確かめて。

 

「待て!」

「うぉっ!?」

 

 やがて、それが確かなものだと確信した瞬間、ライオットの肩を掴んでいた。

 

 かなりの膂力にライオットはたたらを踏み、怪訝な顔で振り返る。

 

「おい、何しやが……」

「お前、それ!」

 

 文句を言おうとするライオットに詰め寄り、険しい顔で問いただす。

 

 あまりの剣幕に思わず口を噤み、ルークが見ているものに意識を向けた。

 

「ああ、この()()()か? これがどうした?」

「一体どこで手に入れた!? それはもう手に入らないもののはずだ!」

 

 四つの花弁を模した一対の耳飾りに、ルークは声を荒げる。

 

 

 

 

 

 以前、彼女から餞別として受け取った時のことだ。

 

 この耳飾りは日記の〝彼女〟が自ら作ったもので、市販している装飾品ではないと聞いた。

 

 彼女や日記の主が生きた時代は、数百年も前のこと。

 

 つまり、今の時代に現存しているはずがないのだ。

 

 日記の主が、彼女と、もう一人の男に贈ったもの以外は。

 

「……それを知って、どうする?」

 

 聞き返したライオットの顔は、少し険しいものだった。

 

 触れられたくないものを突かれたような、そんな表情。

 

 しかし、今のルークにそれを気にかける余裕はなかった。

 

「いいから教えろ! どうやって手に入れ────うっ」

「おい!」

 

 ふと、前触れなく意識が遠のく。

 

 全身から力が抜けていき、鎧の首元を掴んでいた手も滑り落ちた。

 

 そのまま倒れる寸前で、ライオットがルークの体を受け止める。

 

「な、んだ……これ……は…………」

「チッ、急激に肉体を変化させた反動か! おい、しっかりしろ! あと少しで着く!」

「ぐ……その、耳飾りは…………」

「んな事は後だ後! 誰かに見つかる前に移動するぞ!」

 

 ルークの腕を肩に回し、ライオットは足早にその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 顔を青白く、目を限界まで見開いている。明らかに尋常な様子ではない。

 

「私が……北帝国、代表剣士……? ウールス、ブルーク…………?」

 

 確かめるように繰り返すエルドリエにあっけに取られながら、しかしユージオは頷いた。

 

「そ、そうです。流麗極まる剣術で、全ての試合を一本勝ちした美丈夫……そう、書いてありました」

「だ、だが……いや、しかし…………」

「あんたは、不思議な力で《召喚》なんてされてない。騎士になる前はそういう人間だった……そういうことじゃないのか?」

 

 戦闘中にも関わらず、そんな風に聞いてくる二人に、エルドリエは。

 

「ち、違う……っ! そんなはずはないっ!」

 

 何か、激しく狼狽した様子で否定し、大きく左右に頭を振る。

 

 それから険しい顔で、キリト達のことを睨みつけてきた。

 

「私は、私は最高司祭様に天界から召喚されて……この人界の秩序を保つための……天の、使い…………」

 

 何かをエルドリエは訴えようとした。

 

 

 

 

 だが、それを完全に言葉にする前に驚くべきことが起こる。

 

 突如として、彼の額から紫色の光が発せられたのだ。

 

「ぐ、ぅっ!?」

「お、おい!?」

「っ!?」

 

 眩く輝く三角の光に、何故かエルドリエは苦しむように嗚咽を漏らす。

 

 そして、ついには剣も鞭も手放して、両手で頭を押さえながら後ろへ後退りした。

 

「わた、しは……私は…………」

「──っ!」

 

 苦悶するエルドリエの額から、光が立体的に浮き上がってくる。

 

 それは、紫の結晶体だった。内に光の螺旋を描く謎の物体が、頭から生えてくる。

 

 みるみる内に露出したそれが五センチを超えた時……エルドリエが、その場で膝をついた。

 

 その姿勢からピクリとも動かない。

 

 キリトとユージオは顔を見合わせてから、騎士を見やる。

 

「何が、起こったんだ……?」

「分からない。だが……」

 

 このエルドリエの様子と、額から現れた結晶体は確実に関係している。

 

 キリトは、騎士アリスがユージオとルークが知るアリスから変貌した理由の一端を見出した。

 

 このまま、エルドリエを倒してしまおうか。

 

 そこに転がっている剣で首をひと撫ですれば、呆気なく殺すことさえ出来る。

 

 そんな考えが過ぎるも、下手に手出しをして反撃される可能性もあった。

 

 だが、あの結晶体が整合騎士を整合騎士たらしめているならば……

 

「キリトっ、結晶体が!」

「っ!」

 

 考えている間に、結晶体が再び肥大の中に沈み始めた。

 

 アレが元に戻ってしまえば、まずいことになる。

 

「エルドリエ! エルドリエ・ウールスブルーク!」

 

 直感で察したキリトは叫んだ。

 

 途端に三角柱の沈没が止まり、しかしすぐに再開されてしまう。

 

「ユージオ、他に何か! エルドリエに関することはないのか!?」

「えっと……そうだ! エルドリエ殿! あなたは北帝国騎士将軍エシュドル・ウールスブルークの息子だ!」

「騎士……団長…………」

「いいぞユージオ、もうひと押しだ!」

「あとは……そうだ、確か母親の名前は……アルメラ。そう、アルメラだ!」

 

 その名前を聞いた時、エルドリエの全身がわずかに震えた。

 

 結晶体の動きが三度止まる。そして、エルドリエの唇が動いた。

 

「アル……メ……ラ………………かあ……さん……」

「エルドリエ、思い出すんだ! 全てを!」

 

 叫ぶ勢いにつられて、キリトは一歩踏み込む。

 

 

 

 

 

 ドッ! 

 

 

 

 

 

 直後、つんのめって体のバランスを崩した。

 

 反射的にもう片方の足で支え、ふと右足を見下ろす。

 

 赤銅色の矢に、靴ごと射抜かれていた。認識した途端、激痛が足から昇ってくる。

 

「あぐっ!?」

 

 その場に膝をついたキリトは、歯を食いしばりながら足を抑えた。

 

 靴の中に血が溜まっていく感触がある。原因たる両手で矢を掴むと、一気に引き抜いた。

 

「ぐッ」

「キリト、大丈夫かい!?」

 

 こちらを見下ろすユージオに答えようとしたが、それはできなかった。

 

 代わりにユージオの鎖を掴んで、こちらに引き寄せる。

 

 

 

 

 

 直後、ユージオのいた場所に連続して矢が突き刺さった。

 

 振り返り、石畳を砕いたそれにユージオは心底肝の冷えた顔をする。

 

「くっ、どこから……!」

 

 矢の飛んできた方向を、キリトは一心不乱に見上げる。

 

 東の空──陽光が徐々に闇を照らし始めたそこに、旋回する飛竜の影が一つ。

 

 その上に、大柄な人影が長弓を構えている姿を確かに捉えた。

 

 あの距離から、キリト達に向けて矢を放ってきたのだ。なんという精密性だろうか。

 

「罪人ども、サーティワンから離れろ!」

 

 植物園中に轟くような大声で、その騎士が頭上から叫ぶ。

 

 少しずつ見えてきたその姿を確認すると、既に弓には複数本の矢が番られていた。

 

「邪悪な術で誉れ高き整合騎士を誑かした罪、許せん! その四肢を射抜き、地下牢に叩き込んでくれる!」

「やべぇ、逃げるぞユージオ!」

「う、うん!」

 

 二人が広場の入り口へ走り出したのと、その騎士が指を離したのは同時であった。

 

 コンマ数秒の差で背後に四本もの矢が突き刺さり、二人は一目散に迷路の中へ飛び込む。

 

 しかし、頭上という場所にいるその整合騎士にはなんら関係がない。

 

 俯瞰した視点から二人の位置をはっきりと見定め、次々と矢が降り注ぐ。

 

「くそっ、一体何本矢を持ってやがる!?」

「少なくとも三十本は超えてるよっ! それに、すごい正確だっ!」

 

 エルドリエの鞭など比ではない。

 

 確実に六十メル以上は離れた上空からの射撃など、鎖程度でどうにかなるはずがなかった。

 

 両者、鞭によって生まれた胸の傷に顔を歪めながら、ただ全力で走り続ける。

 

 

 

 

 

 不思議と前髪を引く、謎の感覚に沿って右へ左へと迷路を突き進んだ。

 

 背後からの風切り音は止むことがなく、刻一刻と最後の瞬間が近づいてくる。

 

 そして、十数度の進路変更をした時、ついにその時が訪れた。

 

 

 

 

 

 

「おや。随分と急がれている様子ですね」

 

 

 

 

 

 キリト達も騎士も、予想だにしない形で。

 

 行き止まりの通路。

 

 二人がたどり着いたそこには、白い背中が待っていたのだ。

 

「お前は、あの時の……!」

「何でここに……!」

「お二人とも、ご無事で何よりです。そして、〝この場所〟にたどり着いたこと、誠におめでとうございます」

 

 何を、とキリトが言う前に、その人物は手で右を示した。

 

 二人がそちらを見ると……壁に張り付くようにして、小さな光の入り口が現れている。

 

「どうぞ、中へ。〝あの方〟がお待ちになっております」

「……お前は、いったい…………」

「キリトっ!」

 

 ユージオの厳しい声音に、はっとして後ろを見る。

 

 既にかなり近くまで騎士が迫っていた。隙間なく全身を覆った鎧の装飾さえ見える程だ。

 

「くっ……!」

「キリト、今はこの人の言葉を信じるしかない……!」

 

 悔しげに歯噛みしたキリトは、その人物をひと睨みしてから光へ飛び込んだ。

 

 続けてユージオも扉をくぐり──

 

 

 

 

「またお会いしましょう、ユージオ様。そして……()()()()()()()()様」

 

 

 

 

 その言葉を聞いたのを最後に、キリト達を受け入れた光は消え失せた。

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。
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