ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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引き続き、オリジナル含めて説明です。

楽しんだいただけると嬉しいです。


箱庭の真実(2/3)

 

 

 

 

 あの時から、教会に対して不信感を抱いてはいた。

 

 

 

 勿論、教会が広めている禁忌目録に対しても、少しだけ懐疑的に思ってはいたものの。

 

 それでも、人界の平和を、人々の善き部分を象徴してもいると、ルークはそう信じていたのだ。

 

 それなのに、明かされた真実の恐ろしさで純粋だった部分の心が大きく軋む。

 

 

 

 

 いっそ、不確定な憶測だと否定してほしいほどだった。

 

 これまで信じてきたもの全てがひっくり返ってしまったのだから無理もない。

 

 けれど、スワロウの言っていることが偽りだとはどうしても思えなくて。

 

「……大丈夫か? 少し休憩にしても構わんが」

「………………いいや。最後まで、聞かせてくれ」

 

 ルークは、続けることを選んだ。

 

 禁忌を破った今、目録が作られた理由がなんであれ、関係はない。

 

 己の意志を貫くと決めたのだ。この程度で屈してはいけないだろう。

 

 強いその眼光に、スワロウは少し笑みを深めて話を再開する。

 

「目録は、貴方達にとっても都合の良いものだったことでしょう。病を運ぶ毒沼の位置から、家畜に害を与える草木の名まで記されているのですから、それに従っていればなんの問題もない」

「……ああ、そうだった。禁忌目録に従い、反することなく生活すれば、生きることは容易かった」

 

 言葉にされて、改めてそのことを認識した。

 

 自分を含め、あらゆる人界の民は禁忌目録に頼り切りに生きていたことを。

 

 苦々しいルークの顔に、ライオットが同意するように肩に手を置く。

 

「また、目録を人界に流布し、生まれた子供に教授するよう義務付けたのは、誤ってそれを教えられない事態が発生し、同様に力を付ける存在を事前に排除することが目的でした」

「だから、誰も法を犯すことなく、この人界が成り立っていたってことなのか」

「教会にとっちゃ、純真な方が統治しやすいからな」

 

 その説明に、ふとある人達の顔が思い浮かんだ。

 

 

 

 ユージオやセルカ、村の皆。

 

 学院で出会った、キリト達の指導役であるソルティリーナやゴルゴロッソ。

 

 他にもザッカリアの衛兵隊の仲間や、ロニエやティーゼ……そして、シャーリー。

 

 何より、ルーク自身。

 

「俺達の心は……人を思いやる気持ちは、あくまで教会がそうだと教え込んだから……ただ、それだけだっていうのか…………?」

「…………少なくとも、発端はそうだろうよ」

 

 まるで、自分という存在そのものを大きくかき乱されたような衝撃が心を突き抜けた。

 

 真実とは残酷であると知っていたのに、それでも容易に飲み下せるものではない。

 

 何故ならそれは、己の誰かを守るという意思もが、目録の掟に端を発するものでしかないと。

 

 そう言われてしまったも同義なのだ。

 

「そうして社会の体系化を盤石にし、結果として人界は栄えた。人口は爆発的な増加の一途をたどり、大規模な術の行使によってその領域を限界まで広げて……最後には、大きな都市へと変貌したセントリアを中心に、一つの箱庭が完成したのです」

 

 街は都市へ、円環に囲まれた、四つの壁に隔てられた世界は領地へと。

 

 光が満ちた時、宙に浮かんでいたのは──今、ルークが生きる人界そのものだった。

 

「……クィネラにとっての、帝国」

「まさしく。けれど、彼女は飽くという事を知りませんでした。歳を重ね、衰えていくほどに、むしろその渇望はより一層深くなっていったと言ってよいでしょう」

「一体、何を……?」

「皮肉にも、と言うべきでしょうか。彼女は最初に与えられた役割……神聖術の解析に没頭していきました。更なる力、より高き場所──貴方達にとっての絶対の枷、《天命》をも凌駕する存在へ至るために」

 

 その言葉を聞いて、恐ろしさと同時に一つの納得を得た。

 

 誰にも太刀打ちできない力を備えたクィネラにもまた、人の子として限界があったのだと。

 

 

 

 

 天命とは、文字通り天より与えられた命の値。

 

 二十代から三十代で限界に達し、その後は緩やかに減少していき、やがて天寿を全うする。

 

 セフィアの父母……つまりルークにとっての祖父母もまた、そのように死んでいった。

 

「クィネラは結局、寿命を迎えたのか?」

「……いいえ。そうであれば、私がこうして活動していることもありえませんでした」

 

 力なく、スワロウは首を横に振るう。

 

 では絶対なる人界の支配者は、一体どうなってしまったというのか。

 

 その先を聞くことが、ルークはとても怖くなった。

 

「天命、つまりこの世界の生物に与えられた限界を操れるのは、創造主達、あるいはこの世界の均衡を司る大いなる力のみ。しかし、そのどちらでもないクィネラは老いさらばえ、圧倒的な美貌も、比類なき剣技を振るう力も失い、ついにはカセドラル最上階の寝室、そのベッドから一歩出ることさえ叶わなくなりました」

 

 光で、豪奢なベッドにいる老婆が描かれる。

 

 多少見にくくても、それが今にも事切れてしまいそうな、枯れ枝のような老婆だと分かった。

 

 もはや、全盛期の神々しい姿は見る影もない。

 

 眼前の《ステイシアの窓》を覗き込む、その目の執念以外は。

 

「しかし、彼女は諦めてはくれなかったのです。徐々にすり減る己の天命に焦りながら、それでも日がな一日中あらゆる音、単語の組み合わせを試し、扉を開く鍵を探し続けた」

 

 無機質なはずの光の偶像から、伝わってくる。

 

 恐れが。怒りが。

 

 そして、あらゆるものを呑み込むほどの支配への欲求が。

 

「成功するはずはなかった。私が計算した限りでは、その試みが身を結ぶ確率は百万分の一回にも満たない……そう、叶うはずのない無謀な夢」

 

 ですが、と呟き。

 

「彼女は、鍵を探し当てた。風前の灯火と化した命が消えゆくその夜、扉を開いてしまったのです」

「…………ッ!」

 

 その時初めて、スワロウは大きく顔を顰めた。

 

 彼の表情から滲み出る悔恨と戦慄……そして無力感に、ルークは息を呑む。

 

「あるいは、あちらの世界からの干渉があったのかもしれません。いずれにせよ、クィネラは見つけ出しました。この世界の神聖術全てを記した、ある窓を開く方法を」

 

 老婆の前に、大きな窓が現れる。

 

 それは《ステイシアの窓》と似て非なる、無数の神聖文字が羅列されたもの。

 

 学院で完全に習熟したわけではないルークには、その多くが理解不能なものだった。

 

 ……だが、わかる。

 

 

 

 

 

 

 

 この窓は……決して開かれてはいけないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「奴は狂喜乱舞した。文字通りに、の」

 

 カーディナルの言葉に、ふとキリトの脳裏で鮮明な光景が描かれる。

 

 立つこともままならず、感動を言葉にすることもできず。

 

 ただ、ベッドの中で奇怪に体をくねらせ、野獣の断末魔のような掠れた声で歓喜する。

 

 想像だというのに、その声さえも聞こえた気がして。

 

 キリトは、心から戦慄した。

 

 

 

(ラースは……菊岡達は、自分達が何を作ったのか、わかっているのだろうか?)

 

 

 

 もはやこれは、単なる文明シミュレーションや人工知能の創造ではない。

 

 人によって作られたものが、箱庭の世界の中とはいえ、遥かに人の領域を凌駕した。

 

 あるいはそれさえも、彼らの求める実験成果なのかもしれないが……キリトには恐ろしかった。

 

 これを現実世界に置き換えれば、人間が〝神〟にまで上り詰めたということなのだから。

 

「この窓……《 完全(エンタイア)コマンドリスト 》の末尾に、クィネラが求めた術式は記してあった。本来であれば、《原初の四人》が緊急時にこの世界を内より操る為のものじゃ。二百七十年前、クィネラはそれを使って自分の力を最高まで引き上げた。万物の操作と創造。神聖力の操作に、命の力……《天命》すらも操れるように」

「…………じゃあ、彼女は」

 

 カーディナルは、重々しく頷く。

 

「クィネラは損じた天命を全回復し、己を全盛期にまで若返らせ、永久に減少を停止した。この世界の絶対原理──《カーディナル・システム》への干渉すら可能な、その力を用いて」

「……!」

「死の一歩手前だったはずが、己の全盛を取り戻した喜びは、まだ年若いお主にはわからんじゃろうがの……」

「まあ、それが女性の永遠の夢の一つだってのは分かるよ」

 

 キリト……和人も、現実世界に恋人がいる。男として多少の理解はあった。

 

 とはいえ完全に分かるかと言われれば否であり、それを見透かしたようにカーディナルが薄く笑う。

 

「ともあれ、望んだ全てを手にしたクィネラの喜びは凄まじいの一言に尽きた。際限のない欲望の心……その底に、穴を開けてしまうほどにな」

「それだけの力を手に入れて、まだ満足しなかったのか」

「うむ。彼奴は、絶頂に至ったからこそ、自分以外がその場所にいることすらも許せなかったのじゃよ」

 

 それこそ人間の愚かさよな、と呆れたように呟くカーディナル。

 

 数度、人間的感情がないと自称しつつも人間臭い反応に、キリトは言葉の意味を反芻する。

 

 すぐに答えに行き着いた。

 

「もしかして、カーディナル・システム?」

「当たりじゃ。意識を持たぬプログラムすら、己の世界から消し去ろうとした。じゃが、あくまでクィネラとてアンダーワールド人。神聖術に長けていても、科学技術に精通しておるわけではない」

「じゃあ、カーディナルを排除することはできなかったのか」

「事態はもっと最悪じゃ。無理矢理にラースの技術者向けに書かれたプログラムコードを読み解こうとし、カーディナル・システムを取り込もうと新たに組み上げた神聖術を唱えた。その結果……」

 

 また一度、少しだけ間を空けて。

 

 クィネラは、嘆息するように言った。

 

「クィネラは、ある意味では試みを成功させた。しかし同時に、失敗したのじゃ」

「せ、成功して、失敗した?」

「カーディナル・システムの取り込み……というよりも、乗っ取りじゃな。それは上手くいったものの、同時に己のフラクトライトに書き換え不可能な基本命令を焼き付けてしまった。つまりは……一体化したのじゃ」

「な……」

 

 キリトは、すぐにはその意味を理解できなかった。

 

 あまりに現実離れした話に頭が混乱する中、絞り出すように質問を投げかける。

 

「その、基本命令ってのは……?」

「《秩序の維持》。お主もカーディナルに支配された世界を経験したならば分かるだろう? その監視の全能性と、エラーに対する容赦のない制裁を」

「あ、ああ……結局、何度も裏をかこうとしたけど成功したことはなかった」

 

 唯一成功、というよりも敗北しなかったのは、娘であるAIのユイを助け出した時だろう。

 

 カーディナルに紐付けされたプログラムであった彼女を救い出す、たったの数十秒間。

 

 

 

 

 その時感じた、強大な存在感。

 

 今にして思えばあれは錯覚ではなく、カーディナルそのものだったに違いない。

 

 そんなことを思い出すキリトに、カーディナルが童顔に似合わぬ貫禄ある笑みを浮かべる。

 

「当然、たかが数百人の人間の知恵で欺けるほど甘くはないわ。……しかし、単なる機械であるカーディナルとは異なり、クィネラの《秩序の維持》のやり方は酷く冷酷なものだった」

 

 カーディナルは語る。

 

 激しい己の変化に、丸一日昏倒したクィネラが次に目覚めた時、それは既に別の存在だった。

 

 食事もせず、老いもせず……ただ、己の管理する人界の永久維持を求めるモノになったと。

 

 その維持とは世界のみではなく、彼女自身が長い年月をかけて支配した人々もだった。

 

「奴は名を改めた。公理教会最高司祭、アドミニストレータ……と」

「クィネラが、アドミニストレータ……」

 

 今もなお、白亜の塔の最上で人界を眺める管理者。

 

 エルドリエが呟いていた最高司祭の正体を知り、キリトの中で謎が一つ解けた。

 

「神、と名乗らなかったのは奴らしいがな……クィネラは、まず最初にひとつの勅令を下した。人界を四つの帝国に分け、大貴族達を皇帝にしたのじゃ。そして分かった国を、壁で隔てた」

「壁……あ! もしかして、《不朽の壁》か!」

「うむ。実は、あれはカセドラルのように人界の民が長い年月をかけて積み上げたのではない。クィネラがその力によって一瞬で生み出したのじゃ」

「あ、あれを一瞬で!? そんなことをしたら、民は震え上がったんじゃないか……?」

「まさにそれが狙いよ。強大な力への心理的恐怖と、壁という物理的障壁。この二つを以って深く民の心にその存在を刻みつけ、また未来永劫人々をそれぞれの地に閉じ込めることで、いつまでも純朴な信者であることを望んだというわけじゃ」

 

 それだけではない、と言葉が続く。

 

「クィネラは央都のみならず、辺境にまでその手を伸ばした。破壊することは不能に等しいオブジェクトを設置し、それ以上の拡大を封じたのじゃ」

「破壊不能なほどのオブジェクト? それは例えばどういうものなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 キリトのなんでもない質問に、カーディナルはニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「割れない巨岩、埋められない毒沼、渡れない大激流、などなど。ルーク様も心当たりがおありでしょう」

「心当たり……」

 

 本日数度目に、自分の記憶を洗い出す。

 

 この北帝国の辺境とも呼べるルーリッド村に、生まれてから十数年住んでいた自分。

 

 そんな自分に心当たりのある存在……それは、一つしかなかった。

 

「悪魔の大樹、ギガスシダー……あれも、アドミニストレータが生み出した障害なのか」

「あまり人界が広がりすぎても、神たる彼女をして目が届き切らないと考えたのです。そういった数多の障害を用意し、完全に停滞した人界を彼女は維持しました」

 

 それが二十年、三十年と続いていくうち、やがて人々の発展は無くなった。

 

 平民は己の天職に従い一生を全うし、貴族達は安寧の中で徐々に腐敗していった。

 

 かつての剣士達が練り上げた技は見世物に堕し、人界は平和という名の終わりに浸ったのだ。

 

 

 

 

 スワロウの言葉に、ルークは不思議なほど納得してしまう。

 

 あの日、アリスが連れていかれなければ。

 

 白竜の牙を剣にしなければ、キリトが現れなければ。

 

 きっと自分は、この真実を知ることもなく、あの村で生涯を終えていたのだろう。

 

 それはある種、優しいように思えるが……今のルークには悪夢だった。

 

「しかし、何事にも永遠というのは存在しません。あちらの世界がそうであるように、この世界もまた等しくね」

「アドミニストレータに何か起こったのか?」

「魂の限界、とでも申しましょうか……ルーク様。人は老いを克服した時、どこまで生きられると思いますか?」

「どこまで、って……そりゃ、永遠なんじゃないのか?」

 

 事実、アドミニストレータは350年という無限に等しい時を生きている。

 

 そうではないのかという顔をするルークだったが、すぐにスワロウの言葉を思い出した。

 

「魂の限界……まさか、魂は永久には生きられないのか?」

「アドミニストレータも人の器だった、ということです。あちら側の世界における貴方達はとある〝箱〟の中に存在していますが、そこに蓄積される記憶には絶対的な限界がある」

「その限界が、アドミニストレータにも?」

「ええ……百五十年以上の時を生きた彼女はある日、己の異変を知りました。完璧に暗記したはずの神聖術を瞬時に口にできなくなり、数日前のことを思い出せなくなり、ついには時折意識が途絶さえするようになった。その時の恐怖は、あるいは管理者になった時の狂喜と同じほどだったでしょう」 

「自分を……失う…………」

 

 積み上げてきた〝己〟が損なわれる恐怖。

 

 それは……ルークには、理解できてしまった。

 

 

 

 

 柔らかな絨毯を踏み締める足裏の、鱗の感触。

 

 隣から聞こえる、荒れ狂う豪風のような心音に、ふとライオットを見る。

 

 すると右目に、彼の胸の中心で輝く光の塊のようなものが透けて──

 

「ルーク?」

「っ!」

 

 ハッと、我を取り戻す。

 

「……ごめん。続きを聞いてもいいか?」

 

 俯きがちに言ったルークを、スワロウは少しの間見つめる。

 

 感情の見えない白の瞳で、何も問わずに彼はただ頷いた。

 

「少々、自分語りになってしまいますが……彼女が管理者となった時。それは、私にとって過酷な日々の始まりでもありました」

「過酷って……アドミニストレータが人界を操るのを見ていたことか?」

「それだけならば、どれほど良かったことでしょう」

 

 スワロウは、そこで一度口を閉ざした。

 

 それから瞑目し、何かを逡巡し始める。

 

 まるで、その先を語ることを恐れてでもいるかのように。

 

 数分の沈黙の果て、ようやく結論を出したように、白い睫毛が震えて瞼が持ち上げられた。

 

「……私は。アドミニストレータの手助けをしたのです」

「っ!?」

「《原初の四人》が帰還した後、カーディナルに紐付けされていた私はこの世界を傍観し続けました。しかし、神となったクィネラは私を見つけ出し、その支配を盤石にする為使役したのです」

 

 当時を思い出し、それを光で再現する。

 

 作られたのはクィネラの前に臣下の如く跪く、スワロウの姿。

 

 それを見て、ルークは表情から驚きを隠せない。

 

「ご存知の通り、私には望む場所へ瞬く間に移動する力があります。それはいつでも《原初の四人》の元へ駆けつける為のものでしたが……これをアドミニストレータに利用されました」

「…………っ」

「現実側の存在として私もそれなりの権限を有してはいたものの、上下関係(プログラム)としても、権限の値としても神である彼女に抗うことはできず。命じられるがままに人々を扇動してしまった」

「後悔、してるのか?」

 

 スワロウは、悲しげな笑みでかぶりを振った。

 

「私は、貴方達とは作りが違います。心というものも厳密にはありません。……それでも確かに、貴方達が言うところの〝愛着〟が。この世界に対してあったのです」

 

 だからこそ、屈辱であった。

 

 

 

 

 

 ある時は、アドミニストレータの権威を知らしめる神官として演説を行い。

 

 

 

 

 

 ある時は、辺境の地を巡って目録が完全に行き渡るよう暗躍した。

 

 

 

 

 

 そしてある時は……彼女の命ずるままに、本来ならば罪なき人を攫ったことさえある。

 

 

 

 

 

「命じられるままに動く機能でしかないことを、あれほど歯痒く思ったことはありません。まあ、お陰で私に〝情動〟というものが芽生えていたことにも気付けたのですが」

「何百年も生きてりゃ、どんなものにだって感情は宿るだろうよ」

「そういう、ものなのか?」

「そうだろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何気なく告げられた言葉に、ルークは目を瞬かせた。

 

 

 

(今のって……つまり守護竜も、最初から完成した存在ではなかったということか?)

 

 

 

 ふと想像してみる。

 

 〝彼女〟によって生み出された、四匹の小さな竜の幼体。

 

 まだ角も翼も発達しておらず、西帝国に多く生息するという〝トカゲ〟に酷似しているのだ。

 

 以前学院の図書館で読んだ生物図鑑の絵を思い出し、少しだけ気が緩んだ。

 

「話を続けても?」

「ああ、わり。話の腰を折った」

「俺もすまない」

「いえ、それほどお気になさらずとも。……そんな日々が、七十年ほど続きました。人間であれば、一生を使い果たしたほどの時です」

 

 そんなに長い間、人々から未来を奪う片棒を担がされるというのは、どれほどの懊悩か。

 

 あの日アリスが連れていかれる一助となった自分を思い出し、今度は眉根を寄せてしまう。

 

 無論、何倍もの時間の差があるわけだが……それでも、一片ならば共感できる気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そして、彼女が魂の限界に達したその時。ついに好機が訪れました」

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。
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