ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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今回で一応一区切り。

楽しんでいただけると嬉しいです。


箱庭の真実(3/3)

 

 

 

 

「キリト。お主はこの世界に、《ステイシアの窓》……いわゆるステータス・ウィンドウ以外に設定された、様々な数値があることはわかっておるな?」

「ああ。何となくだけど、そういったたものの存在は把握していたよ」

 

 カーディナルの質問に、キリトはすぐに頷く。

 

 例えば、キリトの指導役であったソルティリーナ。

 

 彼女は剣士として鍛え抜かれた肉体を持ってはいたが、それでも女性らしい細身であった。

 

 にも関わらず、この二年と二ヶ月で身長も筋肉量も大幅に増えた自分を、鞭の一撃で転がすほどの力を発揮していた。

 

 ここに、アンダーワールド内における実際の身体能力に付加された数値があると彼は踏んでいる。

 

「うむ。それらの中に、《違反指数》というパラメータが存在する。定められた法にどれほど反するか、といったものを心理状態や行動から数値化したものじゃな」

「そんなものまであったのか」

「本来は、外の人間が観察しやすいようプログラムしたものじゃろう。アドミニストレータはそれを利用し、《違反指数》の高い人間を捕縛しては……人体実験の素材とした」

「じ、人体実験!?」

「己に定められた魂の限界……それを解決するために、フラクトライトについて研究しようとしたのじゃよ。そして、数百という人間を犠牲にし、奴はフラクトライトの操作技術を発明し、高度化していった」

 

 ぞわり、とキリトは自分の全身が粟立つのを感じ取った。

 

 人を人とも思わない神の所業。それはゲームにおいても度々使われる設定だ。

 

 だが、それを元人間が己の為に平然と行なっていたと考えると……今、同じ世界にいることがとても恐ろしい。

 

「……実験体にされた人達は、どうなったんだ?」

「ほとんどが精神を崩壊させ、ただの息をする抜け殻と化した。奴は彼らを凍結処理し、己の所業が外に漏れぬよう封印したよ」

「考えるだけで恐ろしいな……」

「何、こんなものは序の口。……そしてここからが、わしの話の本題となる」

 

 一層表情を引き締めたカーディナルに、キリトも自然と居住まいを正した。

 

 完全に話を聞く姿勢になったことを確認してから、彼女は語り出した。

 

「フラクトライトの操作術を会得したアドミニストレータは……ある、年頃十ほどの少女を選び出した。家具職人の娘でな。カセドラルにて、修道女見習いとして暮らしておった。他の見習いよりも少し権限が高く、優れていたという理由で選ばれたのじゃ。茶色の瞳と巻き毛な髪が特徴の、冴えない女子じゃ」

 

 キリトは目を見開く。

 

 その容姿は、今目の前に座っているカーディナルと瓜二つではないか。

 

 彼女自身のことを語っているのだと、薄々勘付く。

 

「アドミニストレータは、己の居室に女子を連れて来させると、聖母の微笑みでこう言った……『あなたはこれから、私の子供となるのですよ。世界を導く、神の御子に』……当然、ここに愛情などはない。全ては奴の目的の為の詭弁じゃ」

「目的……?」

「奴は、その少女に己のフラクトライトの思考領域と重要な記憶を上書き複写……つまり、もう一人の己にしようとしたのじゃ」

 

 

 

 酷く冷たい声で告げられた言葉に、キリトは心が凍りついたような錯覚を覚えた。

 

 

 

 他人のフラクトライトの上書き──それはつまり、乗っ取りを意味する。

 

 聞いただけで怖気が走る所業だ。無意識に鳥肌の立った手の甲をもう一方の手でさする。

 

「で、でも……そんなことをするくらいなら、直接自分の記憶を整理すればいいじゃないか」

「お主は、例えば同じ立場だとしていきなり自分の記憶を弄るか? 下手をすれば全て消し飛びかねない可能性を孕んでいても?」

「そりゃ、しないけど……」

「アドミニストレータという女は、実に慎重じゃ。特に、カーディナル・システムの一件でその危険性を身を以て味わったからの。故に、十分な記憶領域のある少女の魂を上書きし、複製が上手くいった時は磨耗しきったもう一方を消すつもりじゃった。……じゃが、それこそが奴の失敗よ。それも類を見ないほど大きい、な」

「失敗……?」

「そうとも。奴は失敗した。それも二重にな」

 

 人差し指と中指を突き立て、老獪な笑みを幼顔に浮かべるカーディナル。

 

 その言葉の意味を測りきれずに、キリトはただ黙して言葉の続きを待つことにした。

 

「一つ。スワロウにその少女を連れて来させ、儀式の場に同席させたこと。プログラムという意味において、自分に絶対的に逆らえないと確信していた故の過ちじゃ」

 

 キリトは少し驚く。

 

 話の最中に聞いた、アンダーワールドをデザインしたというラースの技術者が導入したメンタルヘルスケアAI。

 

 長年に渡り、強制的に服従させられていたらしいそのAIが、まさかその一件にまで関与していたとは。

 

 

 

 内心驚愕するキリトに、続けてカーディナルは告げる。

 

「そして二つ──奴が完成させた、魂と記憶を統合する悪魔の儀式、《シンセサイズの秘儀》を行使した瞬間、ある事態が起こることを想定していなかったことじゃ」

「ある事態?」

「うむ。少女のフラクトライトに己の情報を上書きし、そして古い自分を消去する、そのごく短時間。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということじゃ」

 

 そして、と。

 

 伸ばしていた指ごとグッと小さな拳を握りしめ、カーディナルは獰猛に笑った。

 

 それまでの落ち着き払った賢者然としたものとは違う、暗い感情に燃えた瞳で。

 

「その時を、わしは七十年待った! 奴が過ちを犯すその時を、ずっとな!」

「なっ……ちょ、ちょっと待ってくれよ。あんたは……今、こうして俺が話しているのは、誰なんだ?」

 

 あまりの感情の高ぶり様に、キリトは困惑しながらも訪ねる。

 

 拳を解いたカーディナルは、眼鏡を押し上げると元の声音で答えた。

 

「まだ解らぬか?」

「え……」

「キリト、お主はカーディナル・システムのオリジナルを知っているのじゃろう? その機能の特異性を語ってみい」

「え、ええっと……確か、メンテナンスを必要とせず長時間稼働できる。それは、二つのコアプログラムによって相互監視を行なっているからであり、メインプロセスがバランス制御を行っている間、サブプロセスはメインのエラーチェックを……」

 

 そこまで言って、キリトは言葉を止めた。

 

 自分の言っていることの意味を、改めて理解したからだ。

 

 

 

 

 ゆっくりと、カーディナルを見る。

 

 小さな賢者。その体に見合わぬ知性と、底知れぬ強大さを醸し出すプログラムの具現。

 

 その感覚をキリトは知っている。

 

 かつて、鋼鉄の城で娘を消されそうになった時。彼女をエラーとして訂正しようとした、その圧倒的存在感を。

 

「気づいたようじゃな。クィネラが己に刻み込んだ基本行動原理は、一つではなかった。メインプロセスに与えられた《世界を維持せよ》。そしてもう一つ──サブプロセスに与えられた、《メインプロセスの過ちを正せ》」

「過ちを、正す……」

「単なるデータの解析装置であったわしは、クィネラに刻み込まれたことにより人格を得た。いわば奴の影としての、じゃが」

「多重人格、ってことか」

「うむ。そして、世界のみならずそこに住まう人々に手出しをし、歪ませたアドミニストレータを致命的なエラーと認識したのじゃ」

 

 そしてカーディナルは、そんなアドミニストレータを内から止めようとしたのだと語る。

 

 意識の表層に自分が浮かび上がった時を狙い、幾度も自害をしようと試みた。

 

 その手法を一つ一つ聞かされ、キリトはなんとも複雑な表情を作り出す。

 

「じゃが、わしは失敗した。最後の一度など、その場で転けようものならば命を消し去れるまで天命を減少させたというのに。一撃で葬り去れなかったのが敗因じゃ」

「話を聞いてる限り、アドミニストレータがそれを放置するとは考えにくいな」

「その通り。最後の試みで奴もわしの危険性を認識し、対策を取った。まずわしが表に出る状況を解析し、それを封じ込めにかかったのじゃ」

「あんたは、どうやってアドミニストレータ……メインプロセスを押しのけて意識を露出できてたんだ?」

「再三言っておるが、アドミニストレータとて元は人じゃ。クィネラだった頃に培った、わずかな情動というものが残っておった。そして、此れによって論理衝突(コンフリクト)をきたす時……つまり、動揺した時にわしが出てくることを突き止め……そして、己の感情回路を凍結した」

「と、凍結!?」

 

 思わず声を上げる。

 

 幾多の所業により、人間離れしたアドミニストレータの力を認識してきた。

 

 が、それは先ほどのフラクトライトの上書きに匹敵する驚愕だった。

 

「そ、それは丸ごと思考や記憶をコピーするより危険性が高いと思うんだが……」

「奴には悲惨な実験による、フラクトライト操作の十分な知識と技術があったからな。難なくやってのけよったわ」

「じゃあ、成功したのか」

「した。そして奴は、正真正銘心持たぬ世界の管理者……安定、維持、停滞。それだけを実行する存在になった」

 

 哀れな小娘の魂を乗っ取ろうとする、その時までは、な。

 

 

 

 

 カーディナルの言葉が、大図書館に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「客観的に見ても、あの瞬間のことは私ですら完全な解析は叶いませんでした。それは私がこの世界の人間とは構造を異することも関係していたでしょう」

 

 そう言いつつも、スワロウの顔には明確な感情の露出がある。

 

 眉根を寄せ、薄い唇から声が漏れるのを抑えるように引き結び。

 

 その瞳に、恐怖とでも呼ぶべきものがありありと浮かんでいた。

 

「私の目の前で彼女達は目を開き、そして互いを見た。その瞬間──堪え難いほどの膨大な敵対的感情が奔出したのです」

「敵意? その子の魂を乗っ取ったのは、アドミニストレータそのものじゃないのか?」

 

 何故、自分が作り出したものに対してそこまでの感情を剥き出しにしたというのだろう。

 

 おぞましい非道の果て、無垢な子供をある意味殺してまで作り上げた分身を、何故。

 

「奇妙な言い方になりますが、知性の深奥に刻まれた本能とでも申しましょう。全く同じ人間が二人存在するという事実は、自己という存在の証明を大きく揺るがす事態であり、すべての知性において最も忌避される状態だったのです」

 

 それまでとは違い、どこか自信がなさげに語られたスワロウの推測。

 

 ルークは想像する。

 

 目の前に、自分と同じ容姿、人格、記憶や経験を持ったもう一人の《ルーク》が現れる。

 

 ではその時、自分とその《ルーク》は、一体、どちらが本物の………………

 

「ぅ、あ…………ッ!!?」

「ルークっ!」

 

 

 

 途端、ひどく不快な感覚に襲われた。

 

 

 

 ぐらぐらと世界が揺れている。

 

 心臓が張り裂けそうなほど早鐘を打ち、臓物が全て裏返ったような吐き気を催す。

 

 目の前が真っ暗になっていき、自分という存在がみるみるうちにひび割れていく感覚を知った。

 

 

 

(ダメだ、ダメだダメだダメだ! これは、これ以上は、考えてはいけないッ!)

 

 

 

 この先を考えれば──理解すれば、〝ルーク〟が壊れる。

 

 自分が、抜け殻になってしまう。

 

 そのことを察したルークは、即座に思考を封じ込めた。

 

「その先を考えるなッ! 自分を保てッ!」

「……ライ……オット…………」

「ルーク!」

「……大……丈夫…………だ……」

 

 返事をすると、必死に揺さぶっていたライオットは安堵の表情を見せる。

 

 いつのまにか、机にうつ伏せていたルークは緩慢に体を起こす。

 

 そして、スワロウのことを見た。

 

「……これが、そうか」

「図ったわけではありませんでしたが、分かったようですね。ルーク様に起こった事が、二人のアドミニストレータの間で起こったのです。今もその光景を記憶しています」

 

 アドミニストレータに使役されていた頃の、どのデータより鮮明に記録している。

 

 あれほどの〝恐怖〟を、スワロウは四百五十年前から現在まで他に見た事がない。

 

「同一存在に耐えられず、二つの魂は崩壊するはずでした。しかし、記憶を限定・圧縮していた新しいアドミニストレータが一瞬早く崩壊し。僅かなその瞬間を狙い、もう一人の〝カーディナル〟が少女の体を支配しました」

「……それが今、キリト達を保護しているカーディナルなんだな」

「左様でございます」

 

 二人の偶像のうち、幼い少女が先に崩壊し、新たに史書の姿となって再生した。

 

 そのまま、二つの偶像は互いにむけて険しい表情を作る。

 

「主機能と補助機能、別々の意識に分かれたことにより崩壊は止まり、彼女達は互いを排除しようと試みました。クィネラの肉体に残ったアドミニストレータは、幾度も己を妨害した厄介な存在として。カーディナル様は、深刻な間違いを犯し、訂正すべき存在として」

「……二人の管理者、か」

 

 激しく神聖術を互いにむけて放ちだした偶像に、ルークは呟く。

 

 当時の光景を鮮明に再現しながら、スワロウはどこか懐かしげな口調で語る。

 

「その時、私は選択を迫られました。生まれて初めての自主的思考と言えるでしょう。彼女達に連なる存在として、どちらのプロセスに従うのかを」

「……お前は、カーディナルを選んだ。そうだろう?」

「やはり、直ぐに分かりますか」

 

 柔和に微笑むスワロウに、ルークは思わず苦笑する。

 

 自然にどちらか分かるよう話していたのに、態とらしい態度だ。

 

「──ええ、その通り。私は、アドミニストレータをこの世界が産み落とした最悪の存在として、修正することを選びました」

 

 カーディナルの傍らに、一人の偶像が新たに立ち上がる。

 

 纏っていた豪奢な神官服を脱ぎ捨てたその男は、少女の隣に立って支配者と対立した。

 

《原初の四人》の内、善良な三人が作ろうとした世界。

 

 定期的な検診の際、彼らはこれから発展していくだろう人界の善き予想図を語った。

 

 研究が主な目的であったが、本当の子供のように育てた始祖達への、ひいてはこれから生まれる人々への慈しみも含まれており。

 

 それと、アドミニストレータの作ったこの人界を、彼はどうしても一致させられなかった。

 

 治療のために彼らの活動を観察していたスワロウという機能は、その意志を尊重したのだ。

 

「これでも、彼女達に次いでこの世界では最高の権限を持っていると自負しています。緊急時に《原初の四人》を保護する為に、神聖術の行使にも長けていました。同等の力を持つ彼女達の一方に加勢すれば、結果は見えていた……()()()()()

「はず、だった?」

「……私の想像していた以上に、アドミニストレータという存在は狡猾で優秀だったのです。劣勢に立たされ、あと一撃で天命を全損させられそうになった彼女は、予想だにしない方法で戦況を覆しました」

 

 スワロウの指が、光を変化させる。

 

 

 

 

 風の刃、氷の礫の嵐、炎の竜巻に無数の雷……飛び交っていた術の一切が消えたのだ。

 

 突然戦闘が止み、困惑する。重なるように少女と男の偶像が体を揺らした。

 

 それをじっと見て、しばらく考え──ハッとルークは息を呑む。

 

「まさか!」

「彼女は最上階の居室を全て、神聖術を禁ずる空間にしたのです。管理者の権限というのは、実に恐ろしい」

「そ、その後はどうなった?」

「まず、私が使い者にならなくなりました。単なる精神治療の機能ですので、神聖術(システム・コマンド)を封印されると何もできません」

 

 あの場で一番焦っていましたよ、と苦笑気味にかぶりを振るう。

 

「でもそれは、アドミニストレータにも同じ事なんじゃないか?」

「ええ。必然的に、戦いは次の段階……武器による近接での直接戦闘になりました。彼女達は管理者の権限を用いて周囲の物体を武器に変換し、戦おうとしましたが……ここで大きな誤算が起こりました」

「誤算?」

「体です。成熟したアドミニストレータの肉体に対して、カーディナル様が支配した少女の体はあまりに未発達でした。その体では、クィネラが積み上げた剣技を発揮できなかったのです」

「……なるほど」

 

 確かに、いきなり別の体に入ったとなれば感覚が全く違うのだろう。

 

 手足の長さ、筋力や体力も違う。そんな状態では、とてもまともに戦えない。

 

「先刻申し上げた通り、私に近接戦闘の機能は皆無。アドミニストレータが勝ち誇った微笑でカーディナル様を見下ろす様を、見ていることしかできませんでした」

「今からでも俺が鍛えてやろうか?」

「遠慮しておきます、ライオット様」

 

 驚き疲れたルークを慮ってか、二人が冗談じみたやり取りを交わす。

 

 思わず苦笑しながらも、スワロウに無言で続きを促してみた。

 

「ですが、そんな私にもできる事が。私のみが持つ、唯一にして最大の機能──転移の術です」

「それも神聖術じゃないのか?」

「いいえ。〝彼女〟に備え付けられた、私自身の機能でした。故に私は、カーディナル様を連れて撤退することを選択しました」

 

 ゆっくりと近づいてくるアドミニストレータと、後ずさるカーディナルの偶像。

 

 後ろで見ていたスワロウの像が、突如走りだしてカーディナルを担ぎ上げる。

 

 そして、一瞬で居室の中から消え失せた。

 

「あれは英断であったと、今でも確信しております。事実、カーディナル様からも感謝のお言葉を賜りました」

「間一髪だったんだな……」

「あの時の、アドミニストレータの唖然とした顔。今でも忘れられません」

 

 くつくつ、と笑うスワロウを、ルークは少し驚いた顔で見た。

 

 これまで一度もそんな反応を見た事がなく、とても物珍しかった。

 

 そんな顔をされることは予想していたのか、コホンとひとつ咳払いをして顔を戻す。

 

「まず、カーディナル様が権限を回復し、反撃する策を練る場所と時間が必要でした。そこで、アドミニストレータが魂の限界への対策の一つとして作り出した、とある場所を利用することにしました」

「とある場所?」

「カセドラル内、大図書館です。アドミニストレータはそこに、全神聖術と歴史、己の記憶にまつわる記録を収蔵し、自分以外には入れない様に細工していました。そこをカセドラルから切り離し、我々の領域としました」

「それも、かなり切迫してたらしいぜ?」

「お恥ずかしながら、追いかけてきたアドミニストレータに後一歩で閉ざした扉をこじ開けられるところでした。彼女の怒りと殺意がひしひしと扉越しに伝わってきましたよ」

 

 ちなみに、とスワロウは手を掲げる。

 

 そのままゆっくりと腕を動かし、一周させてから戻ってきた。

 

「この空間も、その一部です。私個人の領域として一部を拝借しております」

「ま、マジか……だが、アドミニストレータが作ったものなら、侵入の可能性があるんじゃないのか?」

「ご心配なく。常に空間的な座標が変動しておりますので、彼女に捉えることは叶いません。ただし、外に出る際の〝扉〟を感知されてしまえば別の話になりますが」

 

 彼女が早々尻尾を掴ませることはないでしょう、と確信のこもった声音で締めくくる。

 

 そこで一度、スワロウは気分を入れ替えるように紅茶を啜り。

 

 ゆったりとした動作でカップをソーサーに置くと──真剣な目でルークを見た。

 

 

 

 

 

「そして。アドミニストレータとカーディナル様、私の長い争いが幕を開けました」

 

 

 

 

 





読んでいただき、ありがとうございます。

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