ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
何度か作り直し、ようやく出来上がりました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「……そうか」
「……もっと驚くと思ったんだがな?」
「予想は、していたからな」
かの白い竜が、ダークテリトリーからの尖兵如きに敗れ、殺されるはずはない。
目覚めたその意志と対面したことで、そう確信した。
ならば、守護竜を殺せるほどの戦士など限られてくる。
「アドミニストレータは、守護竜が邪魔だった。そうだよな?」
「ああ。奴にとっちゃあ、この人界の中で自分に従わない、かつ強大な力を持つ存在はそれだけで許せないからな。俺達整合騎士に討伐の勅命が下った」
つまり、白竜もいずれかの整合騎士に討伐されてしまったのだろう。
竜が持っていた、強力な神器である《青薔薇の剣》を回収しなかったことは少し疑問だが……
腰に差した《白竜の剣》に手を触れさせながら、耳を傾ける。
「山のごとき大竜。空より生まれ落ちたかのような、美しき暴力と蒼穹の化身。記憶がなくとも夢に見る程、今でもあの威容を覚えている」
「生前の守護竜、か……」
「奴らは最強だ。この人界にたった四匹しか存在しない真竜なだけはある。神器もない頃の俺が倒せたことが、今でも信じられねえくらいだ」
ライオットの魂にその思い出がなくとも、体が覚えている。
体の芯まで震わせる咆哮を。己の背丈ほどもある真紅の瞳を。
共に戦った教会兵士達を悉く鏖殺した、我が身が小虫のように思える絶大な殺意を、鮮明に想起できるのだ。
「命からがら勝利を掴んだ俺は、蒼竜を撃滅した証としてその双角を持ち帰り、アドミニストレータに献上した。奴はその褒美として、鎧とこいつを与えたのさ」
アドミニストレータの神聖術により、双角から姿を変えた特殊な神器。
あの鱗の壮麗さと、岩山をも切り裂く音の刃を秘めた、唯一無二の武具。
己が手で殺した守護竜の分け身を、ライオットは賜ったのである。
「そして、こいつを握った時。俺の中に〝声〟が響いてきた」
「もしかして、蒼竜の?」
「ああ。手記によると、蒼き竜はその時の俺にこう言ったそうだ。『身一つで
ライオットに合わせ、ルークも苦笑した。なんとも皮肉の効いた言葉だ。
だが、一度剣を交えたルークには彼の実力の片鱗が垣間見えている。
殺された竜自身がそう言ってしまうほど、全力のライオットは強いのだろう。
「最初は困惑した。だが、蒼き竜から守護竜の不死性と創造主の話を聞いて、腰を抜かすほどたまげたようだ」
読んでるだけで分かったさ、と彼は楽しそうに笑う。
過去のライオットは、相当臨場感に溢れた記録を残したらしい。
「最初はアドミニストレータに報告しようとしたんだが、もし口にしたら魂を噛み砕くなんて脅しやがってな。仕方がなく担い手になった」
さすがは竜、脅迫の内容が尋常ではない。
顔を引きつらせるルークに面白そうに笑って、ライオットは続けた。
「こいつの方も、俺を見極めるだなんて言ってしばらく任務を遂行してたんだが……ある時、こう言ったんだ」
当時から、東方領域を統括していたライオット。
その日も飛竜を駆り、巡回をしていた彼の脳裏に、琴剣から厳かな言葉が響いた。
『惜しいことよ。それほどの技と何者に負けぬ矜持を持ち合わせながら、傀儡でしかないとはな』
一年程共に任務を遂行してきた中での、突然の暴言。
要領を得ないその内容に、当時のライオットは困惑した。
「蒼き竜も、本来は聞かせるつもりがなかったのかもしれねえ。俺にも伝わるほどの意思になっちまったって感じだったようだしな」
「それって……」
「当然、整合騎士の真実についてだ。魂で繋がってるからこそ、アドミニストレータに改造されたことも分かっていたんだろうよ」
竜は、担い手の強い心意に共鳴することでその意思を蘇らせる。
〝彼女〟に聞いた通りであれば、蒼き竜は守護者であるはずのライオットの歪さに嘆いたのだろう。
同時に、竜によって共鳴する心意の形が異なるということにも気がつく。
「不思議と、その言葉に疑問は抱かなかった。竜にはそういう力があるのかもしれねえ」
「確かに、否応なしに納得させるようなものがあるな」
世界の始まりから生きる貫禄故か、それとも魂の共鳴という特異な繋がりが所以か。
無意識に傅きそうになる威容を思い浮かべ、頷いてみせる。
「そして、当時の俺の前にこいつが現れた。『ようやく時が来た』なんて言いながらな」
「俺と同じように、か」
「〝彼女〟がこの世界に残した守護竜の担い手ともあれば、真実を告げ、引き入れるのは必須ですので」
強大な力を危険視され、整合騎士達によって狩られてしまった竜の後継者。
それは神たるアドミニストレータに対し、唯一対抗できうる存在なのだろう。
特に圧倒的な組織力の差がある以上当然だと、ルークは推察する。
そうしてライオットを見ると──彼が再び浮かべた怒りの感情に、小さく息を呑んだ。
「世界の真の姿を知り、憤怒した。俺や、同胞の騎士達から何もかもを奪い取り、己が欲に任せるがまま歪めた奴に」
「……その気持ち、よく分かるよ」
アリス。連れ去られ、彼らと同じように整合騎士とされてしまった妹分。
自分達の大切なものを奪ったばかりか、酷く歪めてしまったアドミニストレータを。
ルークは、何があろうと許すことはない。
「だから俺は決意した。〝誰より誇り高き騎士である〟というこの矜持に誓って、奴に届きうるほどの力を蓄え、他の担い手と集い……いつの日か必ず、この支配を打ち破るとな」
「それが、今か」
「いくら担い手つっても、一人じゃ奴には勝てねえのは分かりきってる。だが、二人もいれば十分だ」
言い切ってから、ふとライオットは目を伏せた。
「……それに、俺は取り戻したいんだ。貴族の〝驕り〟を、竜に認められるほどの〝矜持〟変えてくれた、あの誰かの記憶を」
「ライオット……」
噛み締めるように、その想いを告白したライオット。
ふと、〝彼女〟のことが思い浮かぶ。
伝記によれば、自分などよりもずっと長く、それこそ幼い頃から共にいたという彼ら。
彼女の持つ強さと優しさが、ライオットの中にもあったのだろう〝貴族の醜さ〟を変えていったとしたら。
長い年月をかけて積み重ねた、想い出と愛を失ったのだとしたら──それは、なんという悲劇だろうか。
「んんっ! まあ、俺の個人的な事情はともかくとしてだ」
ライオットは、しんみりとした空気を入れ替える為に咳払いをした。
そしてルークにとある質問を投げかける。
「実のところ、アドミニストレータは全ての竜を同時に倒さなかった。それは何故だと思う?」
「それは……ええと、四匹同時に討伐するほど戦力が整っていなかった、とか?」
「平凡な答えだが、正解だ。団長は一人で白き竜をぶっ倒しちまったが、そんなのはあの人だけの例外だ。竜を討伐するとなれば、それだけで数百人規模の戦力が必要になる」
「つまり、比例して準備にも時間がかかるわけだな」
「そういうこった」
主戦力は一騎当千の整合騎士だが、共に戦う兵士達はそうではない。
相応の訓練、物資、作戦、武具、そして時間……多くのものが大量に必要になってくる。
いかにアドミニストレータといえど、それを四匹分同時に用意するのは困難を極めた。
「実体験のある俺から言わせれば、あれはもう天災の類だからな。まして、四竜でも単純な戦闘能力なら最強と謳われた蒼き大竜は、一番被害がでかい戦いだったよ」
「特に人員は、アドミニストレータが神だとしてもポンと生み出せはしないのか……」
「そりゃあな。カーディナル達に狙われてる以上、直接殺しに行くこともできないから、それだけの準備を整える必要があったってわけだ」
「……その慎重さが、奴にとっての仇になったな」
嘲笑うが如く、これまでの鬱憤を溜め込んだ声質でルークは返答する。
直接、竜達を骨の一片も残さずに殺していれば、こうして担い手が現れることはなかっただろう。
言い方は悪いが……アドミニストレータではなく、整合騎士に殺されて幸運だった。
そこまで考えて、ふとある事に疑問を抱く。
「赤き蛇竜と、黒き翁竜の担い手は? これまで現れなかったのか?」
「……残念ですが、この場に集う事はありませんでした」
スワロウは瞑目し、残念と言うようにかぶりを振った。
そうか、とルークは話を終える。心の中には期待が外れた悲しさがあった。
「全ての担い手が揃えば、もっと確実なものになっただろうに……」
「……ええ」
その時のスワロウの目にあったものを、ルークは見ていなかった。
「でも、俺の仲間もいる。あいつらとも力を合わせれば、アドミニストレータを必ず打ち倒せるさ」
キリトとユージオの顔を思い浮かべ、ルークは気を取り直すように言った。
恐らく、彼女の元に辿り着くまでには多くの整合騎士が待ち構えているだろう。
だが、ずっと切磋琢磨してきた弟分と、この騎士と共にあればできると、信じられる。
そんな風に考える彼に──しかし、ライオット達の表情は浮かないものだった。
「どうした。まだ何か、あるのか?」
「……ルーク様。問題はアドミニストレータだけではないのです」
「ああ。むしろこっからが本題だ」
固い声で告げるライオット達に、再びルークの顔も引き締まる。
二人の真面目な表情から伺えるものは、それだけの質量があったのだから。
「確かに、第一の目標はアドミニストレータの打倒だ。だが、
「厄介事?」
アドミニストレータを倒せた後、人界に訪れる激動の事だろうか。
そう考えたルークの心を読むように、スワロウが首を横に振る。
「ルーク様、事後処理の事ではありません。もっと深刻な……この人界の存亡をかけたものが、すぐそこまで迫っているのです」
「それは、一体どういう……」
その時、閃光が駆け巡るようにルークの記憶が刺激された。
一瞬にして思い起こされたのは、また〝彼女〟と過ごしたあの休息日のこと。
その時、彼女が告げたあの一言。
──いずれ来る世界の終わりを前に、どうか折れないで。
全身を、悪寒が駆け巡った。
「…………世界の……終わり………………」
「やはり、聞いていましたか」
呟きを聞き逃さず、スワロウは目元を鋭くする。
「ルーク様──この世界には、いずれ確定された終焉が訪れるのです。人界の誰もが逃げる事の能わない、本当の終わりが」
「…………何が…………何が、起こるんだ」
「果ての壁が崩れ、暗黒領域との境が消えます。そうすれば戦争が始まるでしょう。互いの支配と生存を賭けた、暗黒の時代が」
全身が、総毛立つ。
想像する。
北の洞窟で見たゴブリンや、まだ見ぬダークテリトリーの怪物達が大軍を成す光景を。
それらが果ての山脈の向こう側からやって来て──全てを、蹂躙していく様を。
ルーリッド村が、央都が、そこにある営みや住まう人々の全てが、破壊されていく。
覚えたのは、失う恐怖。伴うは絶望。
それは、自分の大切なものが危険に晒されるというものだけではなくて。
「何を考えているのかは、分かる」
「っ、ライオット……」
「そうだルーク。今の人界には……奴らに対抗する術が、ないんだ」
長きに渡るアドミニストレータの支配によって、人界は停滞した。
百戦錬磨の技は衰え、貴族達は怠惰に耽り、よって暗黒領域の軍勢に対抗する戦力は皆無。
たとえ、整合騎士が数十人いようとも……到底、それだけで人界を守れるとは思えなかった。
「もう時間がない。早々にアドミニストレータを倒し、少しでも民を鍛えなければ、もう俺達に未来はやってこない」
「………………猶予は」
「ごく僅か、としか」
つまり、具体的な数字を聞いてしまえば心が砕けてしまう程なのだろう。
濁したスワロウの答えから裏を察して、更なる絶望が襲い来る。
「もう、今しか…………ないのか」
迷っている暇は、ない。
改めて突きつけられて、震える両手を握り締める。
けれど、その心に〝諦める〟という言葉は一片も存在していなかった。
その証拠に、揺れる瞳には圧倒的な負の感情と同時に、己を奮い立たせる意思が現れ始めている。
それを見たライオットとスワロウは、顔を見合わせると頷いた。
「ルーク。ただでさえ、こんな話を聞いていて混乱しているだろうが……あと一つ、教えることがあるんだ」
「………………それは、なんだ」
やや間を置いて、ルークは答える。
未だに震えは止まらない。けれど、もう引き返す事はできない。
この際、どんな衝撃の事実があっても全て受け止めてやろうと、自分を鼓舞する。
「ルーク様。貴方は全てを聞き、それでも心折れなかった。ならば、今こそ教えましょう。守護竜、そして担い手の、〝真の存在意義〟を」
スワロウが、空中へ指を走らせる。
再び現れる光の軌跡。それは五つの生物を描き出す。
壮麗なる竜。山のごとき竜。
四つの翼を備える蛇竜に、要塞と見紛う堅剛の竜。
それらを前に──一つの、生き物がいた。
「これ、は…………」
絞り出した声は、あまりに弱々しかった。
それは巨大だった。
荘厳で、雄々しく、力強く。
とても…………とても、恐ろしかった。
「人々を守りし、人界の聖なる守護者である〝四聖竜〟。
スワロウの言葉に続き、ライオットが深く息を吸って。
覚悟を決めるように吐き出すと……ルークに、告げた。
「その忌み名を────〝
「ロヴィ、ナ……」
名を口にするだけで、光の偶像を見るだけで、体が震える。
見たことも聞いたこともないはずなのに、魂の根底にでも刻まれたような恐怖が滲み出る。
これは……存在してはいけないものだと、本能が告げていた。
「世界の終わりが来る時、奴が復活する。撒き散らされる大量の死を喰らって、地の底から目覚めるんだ」
「正確には、生物が死んだ際に放出する負の心意と神聖力を。全てを破壊するかの竜を殺しうるのは、特別な力を授けられた四聖竜のみ」
しかし、アドミニストレータによって守護竜達は狩られてしまった。
ならばそれを成せるのは、かの竜達の力を受け継いだ……
「…………俺達、だけが」
自分と、ライオットだけが、この怪物を倒すことができる。
倒さなくては、ならないのだ。
「わかるか、ルーク。俺達は必ず生き残らなきゃいけないんだ。世界の終わりが訪れる……奴が蘇るまで、絶対に、何があっても」
たとえ、アドミニストレータとの戦いで大切な誰かが死んだとしても。
それは刺し違えてでも無慈悲な神を殺すより、遥かに大きな重責だった。
読んでいただき、ありがとうございます。
オリジナル設定マシマシやでぇ