ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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お久しぶりの作者です。

色々忙しかったり、構想練るのに時間かかったりしました。

楽しんでいただけると嬉しいです。


決意

 

 

 

「本来、この竜は存在しないはずでした。〝彼女〟が四聖竜と対極の〝全ての命を壊す〟存在として、()()という概念をプログラムした(刻んだ)のみ。しかし、世界の理であった頃のカーディナルがその伝承を現実にしてしまったのです」

「世界の均衡を保つカーディナル……圧倒的な力を持つ四聖竜と釣り合わせる為に、奴は生まれ落ちた。その力は、四体の竜が揃ってなお余りあるという」

 

 呆然と、その竜を見上げているルークは、二人の説明を半ば聞き流していた。

 

 それほどまでに、ライオットの告げた言葉は彼に衝撃を与えていたのだ。

 

「そして恐ろしいことに、奴の意識は既に……ルーク?」

「…………すまない。少し、考えさせてくれ」

 

 一言断り、席を立つ。

 

 そのまま、二人の顔を見ることもなくその場から立ち去った。

 

 目についた通路の方へ入っていき、ひたすら奥へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 本棚の迷路を突き進み、背中に彼らの視線を感じなくなった頃に立ち止まる。

 

 そのまま、傍らにある脚立に倒れこむようにして腰を下ろした。

 

「はぁ──…………」

 

 深く、息を吐く。

 

 両手で顔を覆い、目を瞑って暗闇の中に自分を落とし込んだ。

 

 そうすることで無駄な情報を取り入れず、ただでさえ複雑に絡まった思考を紐解いてみる。

 

「…………随分、壮大な話になっちまったな」

 

 しばらくして口から零れたのは、そんな一言。

 

 手で隠された彼の口元には、乾いた自嘲の笑みが張り付いていた。

 

 それは、知らずに背負っていた宿命に対して、あまりに小さな自分という存在への嘲笑。

 

 明かされた真実に、さしものルークでも心に過度の負荷がかかっていた。

 

「俺は……ただ、大切なものを取り戻したかっただけなんだが」

 

 その為にここまでやってきたはずなのに、いざ辿り着いてみれば恐るべき未来が待っていた。

 

 アドミニストレータ。人界の真実。

 

 

 

 そして、遍く人を滅ぼす邪竜という宿命。

 

 

 

 どれか一つをとっても重すぎるというのに、その全てを背負わなければならなくて。

 

 そして、ルークは自分がそれを受け止めきれるとは、到底信じられなかった。

 

「俺は……俺は、どうするべきなんだ?」

 

 勿論、アドミニストレータを打倒することは決まっている。

 

 それを為さねばアリスを取り戻すことも、この静止した世界を解放することもできない。

 

 ユージオやセルカへの償いも、キリトの未だ知らぬ目的を果たすこともできないだろう。

 

 ……ここまでなら、まだ()()()()()()()()

 

 

 

(でも、これは重すぎる)

 

 

 

 自分などでは、この人界の未来を守ることはできない。

 

 だってそうだろう。

 

 幼きあの日、ルークはアドミニストレータの作った法に屈し。

 

 彼らの、彼女の大切な未来を、壊したのだから。

 

 

 

 

 

 ずっと、その過ちを正そうと生きてきた。

 

 ユージオ達への罪悪感が、アリスへの懺悔の念が、ルークに原動力を与えてくれた。

 

 キリトが現れ、あの事件を経て村を出たときは、目的を果たすためならこの命さえ捧げようと密かに決めた。

 

 その後のことは……一度も、考えすらしなかった。

 

「なのに、今更俺だけは死ぬことが許されないって…………なんだよ、それ」

 

 もし、アドミニストレータとの戦いでキリトやユージオが命を落としたとして。

 

 その時生き残った自分に、どんな価値がある? 

 

 他の何より守りたい彼らを失ってしまえば、もう自分に存在意義を見出せなくなるだろう。

 

「…………そうか」

 

 ようやく悟る。

 

 キリトやユージオ達の兄貴分。彼らを守る側、頼りになる存在。

 

 そうして自分に「こうあれ」と定め、縛ることで、ルークは自己という存在を保ってきた。

 

 その方法が成立するのは、守るべき相手がいてこそであり。

 

「俺の方が、守られていたんだな……」

 

 彼らを理由にして、犯した罪に心が壊れないようにしてきた。

 

 

 

 

 

 実際は、ずっと苛まれている。

 

 この胸に燻る自責の炎が消えたことは、一日たりとてなかった。

 

 だからそれを失った時、自分を導いてくれるものがなくなるのが酷く怖いのだ。

 

 どこまでも自分勝手なことに、心の底から軽蔑と不甲斐なさが溢れてきて。

 

「俺は……俺、は…………」

 

 指の隙間から、異形の足が見えた。

 

 

 

 

 

(──────そうだ。俺ではダメなら、いっそ俺でなくなればいいんじゃ?)

 

 

 

 

 

 ルークという罪人(じぶん)では、守れる自信がない。

 

 だったら、()()()()()()()()()()()()()()

 

 そうすれば、いいのだ。

 

「はっ、ハハッ……そうだ…………そうじゃないか。最初から、そうすればよかった」

 

 未来を思い描けないというのなら、最初からそこへ進む気を持たなければいい。

 

 存在意義を失うのが怖いなら、自分で自分の終わりを定めればいい。

 

 所詮、贖罪のために生きてきた身。それが果たせれば後はどうなろうと構わない。

 

 たとえルークという自己が消えようと、担い手に課せられた役目を果たせるなら、それで……

 

 

 

 ピキッ……パキ…………ッ

 

 

 

 手の甲に、白い鱗が浮かび上がる。

 

 一枚、また一枚と増えていくそれに伴って、その体を包むようにどこからともなく冷気が浮かぶ。

 

 爛々と黄金の右目を輝かせ、不気味な笑い声を小さく漏らしながら、裂けるような笑みを浮かべ。

 

 少しずつ、周囲を凍てつかせ始めて──

 

「──ようやく見つけたぞ」

 

 降り注いだ声に、ハッと正気に返った。

 

「……ライ……オット…………」

 

 顔を上げれば、そこにいたのは一人の騎士。

 

 彼はルークの憔悴した顔を見下ろした後、その異変を視界に収める。

 

 徐々に鱗が消え、冷気が霧散していくのを見て……何も言わずに、彼へ笑いかけた。

 

「ったく、探したぜ。ここ結構広いんだぞ?」

「……すまない」

「ま、見つかったからよしとするか」

 

 その言葉に、ルークは自分が連れ戻されることを予感した。

 

 だがそれに反して、ライオットは「よっこらせ」と態とらしく言いながら隣に腰を下ろす。

 

 驚いた顔で、彼を見る。

 

「悪かったな」

「え?」

「いきなりアレコレと話しちまって。ただでさえ尋常じゃない事を抱えてるやつに、あれはやりすぎた」

「……いや。俺の方こそ、最後まで聞けなくてごめん」

「お前の立場なら、誰だってそうなるさ。今もいっぱいいっぱいなんだろ?」

「っ…………」

 

 千々に乱れた内心を見透かされたようで、ぐっと奥歯を噛む。

 

 そんなルークの横顔に、ライオットは柔らかく笑った。

 

「お前さんの気持ち、俺にもわかるよ」

「……どういう意味だ?」

「昔の俺もそうなったから、さ。スワロウの野郎に全部聞かされて、同じように頭抱えるハメになった」

 

 また驚いた。

 

 てっきりこの快活な騎士は、自分などとは違い即断したものだと思っていたのだ。

 

 目を見開くルークに、「そんな顔をすると思った」と悪戯が成功したように言ってみせる。

 

「整合騎士としての自分を、全部ひっくり返されたんだ。悩みもするさ」

「お前ほどの騎士でも……か?」

「俺もお前も、同じ人間だろ。これからどうすればいいのか、本当に今やっていることは正しいのか……自分を見失うことだって、時にはある」

「あ…………」

 

 確かな実感の込められた言葉。

 

 ルークは、自分の中に波紋が広がるような感覚を覚える。

 

 

 

 

 

 確かに感じたそれを更に確かめるように、ルークは口を開く。

 

「どうやって、受け止めたんだ?」

「……それはアドミニストレータやロヴィナのことか? それとも、()()()()()()()()()()ことか?」

 

 射抜くように細められた眼光に、喉がすくみ上がるような気がした。

 

 全てを見抜く……否、そうではない。

 

 150年という積み重ねられた年月と経験、そこから育まれた慧眼だ。

 

「図星って顔してやがるな」

「っ……」

 

 再び俯くルークに、ライオットは嘆息を一つ。

 

 そして、おもむろにルークの頭をその手で撫で回した。

 

「おわっ!」

「辛気臭ぇ顔ばっかしてんな! お前はよくやってるよ!」

「でも……」

 

 言い淀むルークに、ライオットは柔らかい眼差しを向ける。

 

 それは手のかかる弟を見るような、優しげのあるものだった。

 

「一つだけ助言できるとすりゃあ、その答えはここにしかないってことだけだ」

 

 そう言ってライオットが親指で叩いたのは、自分の胸。

 

「テメェがどうしたいかも、これからどうすべきかも。全部テメェでしか決められねえんだよ」

「俺に……しか……」

 

 自分の胸に、手を置いてみる。

 

 そこには迷いと過去への暗い思いが渦巻くばかりで、光はひとつもない。

 

 硬い殻に閉じられたような心に、ライオットの言葉は不思議と染み入ってきた。

 

「いいか、ルーク。こっから先は迷えば迷うだけ失うことになるぞ。それが嫌なら……」

「……嫌なら?」

「さっきの話、全部忘れろ」

「…………………………は?」

 

 完全に意表を突かれたことで、間抜けに口を開けるルーク。

 

 また楽しそうに笑ったライオットは、そんな彼に助言を与える。

 

「全部受け入れられないなら、最初から決めたことだけを考えろ。諸々のことは後でいい」

「…………いいのか?」

「生き残ってさえいれば、な。それができるか?」

「………………」

「もう一度、よく思い出せ。お前はどうしてここにいる? 何がしたくて、今まで歩んできたんだ?」

 

 試すような言葉。優しくも、厳しい導き。

 

 

 

 

 

 ルークは少し逡巡したが……やがて、目を瞑る。

 

 そうすると、また多くの苦悩が浮かび上がってくる。

 

 

 

(今は、考えるな。為すべきことだけを掘り起こせ)

 

 

 

 一つ、一つと、自分を苛むものを取り払う。

 

 暗闇をかき分けていくように不確かで、けれど確かに少しずつ、自分を回顧する。

 

 人界のこと。戦争のこと。畏怖すべき竜のこと。

 

 全て、今は追いやって。

 

 そうして一つ、残ったものは──

 

「……俺は…………守りたい」

 

 

 

 

 

 ──世界が滅んでも、それさえも覆して守ってみせる

 

 

 

 

 

 彼女の前で誓った、その言葉だった。

 

「何を?」

「俺の大切な人達の、笑顔を。その過程でどんな困難が立ちふさがっても……それでも、俺は」

「お前は?」

「……守りたい。そして…………取り戻したいんだ」

 

 思い返す。

 

 幼い自分と、キリトと、ユージオと。

 

 そしてアリスと四人で、ギガスシダーの下で笑い合い、木漏れ日に照らされた、温かな日々を。

 

 ずっと取り戻したいと思ってきた。それだけが、ルークを支えてくれた。

 

「その為に……アドミニストレータを、討つ」

「それが、お前の()()()()()()か?」

「……ああ」

 

 じっと、ライオットがルークの目を覗き込む。

 

 金と灰、異色の双眸。そこに再び宿った意思の光。

 

 先程までの、今にも砕けてしまいそうなものとは違う……だが、どこか揺らぎのあるそれ。

 

 

 

 

 

 しばしの間、静寂が続く。ルークにはそれが審判の猶予であるように思えた。

 

 少し不安を感じ始めた頃、ふっとライオットが嘆息する。

 

「まあ、いいだろう。今はそれで十分だ」

「今は?」

「気にするな。ひとまず迷いを振り払ったことは褒めてやる」

 

 手を伸ばし、またルークの頭を撫で回す。

 

 キョトンとしていた彼は、手が頭から離れると憮然とした表情を作った。

 

「なんか、子供扱いしてないか?」

「バーカ。俺からしたら、お前なんざまだまだガキだよ、っと」

 

 立ち上がるライオットを見上げて、口を尖らせる。

 

「ガキって……そりゃ、生きてる年月は違いすぎるけど」

 

 拗ねたように言う少年を、慈愛を秘めた目で一瞥する不老の騎士。

 

「ルーク。これだけは忘れるな」

「……?」

「お前を救えるのは、いつだってお前だけだ。他の誰にもそれはできない」

「それって……」

「ま、頭の片隅にでも置いとけ。そら、戻るぞ」

 

 言いながら、すぐに歩き始めるライオット。

 

 ルークもしばらく座り込んでいたが、やがて立ち上がると後を追いかけるのだった。

 

 

 

 






読んでいただき、ありがとうございます。
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