ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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どうも、体調が不安定な作者です。

皆様はいかがお過ごしですか?季節の変わり目ですのでお気をつけて。

楽しんでいただけると嬉しいです。


戦いに向けて

 

 

 

 ライオットと共に、先ほどの場所へと戻ると、スワロウは変わらずそこにいた。

 

 彼は二人の姿を認めると、柔らかい微笑みを浮かべる。

 

「よっ、連れ帰ってきたぜ」

「ありがとうございます。ルーク様、戻ってきていただけて何よりです」

「すまない、少し取り乱した」

「いえ。私も少々事を急いてしまいました。お詫び申し上げます」

 

 軽く頭を下げるスワロウへ気にしていない事を伝え、ルークは席に着く。

 

 ライオットも座ったところで、二人に向けて徐に話を切り出した。

 

「……色々と聞いたが、正直言って今の俺には全部を受け止める自信がない」

「そう、ですか……」

 

 まず最初に、ありのままの結論を口にする。

 

 スワロウは予想していたのか、あまり驚いた様子はなかった。

 

 少し心が揺れるも、ライオットのこちらを見守るような瞳にぐっと拳を握る。

 

「……いえ、無理もありませんね。ライオット様でさえ、短くない苦悩の末出した結論です。一日で答えを出せ、という方が無理難題でした」

「すまない。……だが、一つだけは決めた」

 

 すっと、息を吸う。

 

 深く肺に入れたものを同じだけの時間をかけて吐き出し、気持ちを落ち着け。

 

 そしてスワロウに、自分自身に宣言するように告げた。

 

「俺は、アドミニストレータを倒す。俺の目的の為、守りたいものを守るために」

「自分の為、ですか」

「俺に人界の未来なんて大それたものは分からない。だが、少なくともこの目的は一致している。今はそれじゃ、駄目か?」

「…………ふむ」

 

 今は、確証のない未来に課せられた運命のことを考えるのはやめよう。

 

 ただ、為すべきことを為す。そう訴えたルークに、スワロウは何も返さない。

 

 その代わり、顎に指を当てると何事か黙考を始めた。

 

 

 

 

 

 一分、二分とそれが続く。

 

 そのうちルークは不安になって、ライオットにアイコンタクトを送った。

 

 

 

(おい、これ大丈夫なのか? やっぱりスワロウからしたら不十分じゃないのか?)

(まあ、待ってろ。こいつの思考回路は俺達じゃ計りきれねえ)

 

 

 

 三百年以上の時を待ち続けた彼には、この答えは不誠実に思えたのだろうか? 

 

 気を揉むルークを揶揄うように、無音の時は続いていく。

 

 それが破られたのは、五分も経過した頃だった。

 

「……分かりました。今は利害の一致、ということで納得いたしましょう」

 

 ほっと安堵する。

 

 スワロウを改めて見るが、その白い瞳に軽蔑や嘲りの色があるようには見えない。

 

 もしかしたら巧妙に隠されているのかもしれないが、それでも一応の安心を得た。

 

「ですが、ルーク様。貴方様が命を落とすことは許されない。それだけはお忘れなきよう」

「俺だって死ぬつもりでここにきたわけじゃないさ。時と場合によっては……もしかしたら、って覚悟は決めてるが」

 

 何も最初から、自分を捨て駒にするような事を考えていたわけではない。

 

 様々な事情が絡んだ結果、自身の存在を軽んじ始めていることは自覚している。

 

()()()()の話だ。

 

「とにかく、今はアドミニストレータのことだけに集中しよう」

「賛成です。まずは今後の見通しを立てましょう」

 

 また一つ空気が変わり、緊張感が別物になる。

 

 早速、話題は現実的なアドミニストレータ攻略作戦へと移行した。

 

「アドミニストレータは最上階に?」

「ええ。それまでには複数の整合騎士が配置されています」

「分かってると思うが、どいつも神器を下賜されている指折りの連中ばかりだ。俺を抜いて、目覚めてるのを確認したのは団長と副団長、姉御の側近四人にデュソルバートの旦那、見習いの双子とイーディス。アリスの嬢ちゃん、エルドリエの坊主だな」

「騎士エルドリエに関しては、ルーク様のお連れ様方が再起不能にしました。しばらくは戦力外でしょう」

「そりゃ助かる。新米とはいえ、整合騎士だからな。一人でも少ないに越したことはない」

 

 二人の言葉を聞き、戦力分析を進める。

 

 最強と名高い、最初の整合騎士。その次席他、並いる整合騎士が待ち構えている。

 

 その中には当然、自分達を拘束しにやってきた〝整合騎士アリス〟も含まれており。

 

 それに……

 

「…………イーディス、か」

 

 

 

 

 

 あの、麗しくも鋭き剣気を放つ騎士。

 

 

 

 

 

 これまで見たどんな女性より、彼女の声や瞳を、その全てを美しく感じてしまった。

 

 相対する未来が来ると分かっていながら、それでも強く心にその姿が焼き付いている。

 

 彼女のことを思い浮かべるだけで、何かが奪われ、また満たされる不思議な感覚があった。

 

 

 

(これは、人間から逸脱することで生じた不安定さの発露だろうか?)

 

 

 

 分からない。

 

 生まれてから一度も経験したことのない違和感、もどかしいほど曖昧なそれ。

 

 これが何なのか、どう定義される感情なのか。ルークには理解できなかった。

 

 

 

(でも、あの時彼女に感じたものは……)

 

 

 

 難しい顔をする彼に、ライオットが気が付いて声をかける。

 

「あん? 何か気になることでもあるか?」

「あ……いや、なんでもない」

「そうか。──とにかく厄介なのは団長だ。あの人とは、まともにやり合うと勝機が薄い」

 

 はっきりと断言するライオットの目には、全く余裕がない。

 

 担い手である彼をしてそう断言する程の相手。ルークは全身が震えた気がした。

 

「私の見立てでは、状況によりますが騎士デュソルバートや双子は警戒さえ怠らなければ問題はないでしょう」

「旦那の神器は、外ならともかく屋内じゃ真価は発揮しきれない。稽古をつけてもらった身で後ろめたいが、ここは一つ胸を借りさせてもらおう」

 

 どうやらライオットの弓技は、騎士デュソルバートとやらから教授されたらしい。

 

 不可視の音の刃を自在に繰り出すには、相当の修練を積んだことだろう。

 

 その上であの身軽さを思い返せば、整合騎士という不老の存在とはいえその努力と才能には脱帽せざるを得ない。

 

「双子っていうのは?」

「整合騎士なんだが、まだ見習いのガキンチョだ。実力的には一番心配ない。顔は知ってるから、不意打ちもさせねえ」

「ええ。肝心なのはその後です」

「事前の打ち合わせでは、副団長の姉御と四旋剣(シセンケン)が大回廊、庭園にイーディスとアリスの嬢ちゃんが配置される。団長は……わかんねえな」

 

 スワロウがどこからともなく取り出し、卓上に広げたカセドラルの見取り図。

 

 その数箇所に指を当てながら、ライオットは悩ましげに指で顎をさする。

 

「エルドリエの坊主が脱落。んで俺が姿を眩ませたことを考えると、武器庫にはデュソルバートの旦那あたりが再配置される可能性が高いだろう」

「デュソルバートって、どんな騎士だ?」

「弓の名手さ。七番目の整合騎士で、八年前なんらかの功績でカセドラル内の警護に召し上げられた」

「八年前……」

 

 ちょうど、あの事件が起きたのと同時期。

 

 もしや、村に来てアリスを連行して行ったあの騎士だろうか。

 

 話を聞いていれば、活動している整合騎士の数はそう多くはない。

 

 反乱の可能性や、記憶の管理の観点からアドミニストレータは数を絞っているのだろう。

 

 

 

 

 

 だとすれば、本当に同一の騎士の可能性もある。

 

「……八年前の功績について、何か知ってるか?」

「いや、知らん。だが、直後にデュソルバートの旦那が記憶の初期化を受けてたことから考えると……かなり都合の悪いことだったのかもな」

 

 都合が悪い。それはつまり、覚えているとまずいこと。

 

(整合騎士は天界から召喚された、そう偽の記憶を植え付けられてる……それがもし、攫ってきた少女を騎士に仕立て上げたとなれば……)

 

 ますます確信が深まっていくルークだった。

 

「んで、副団長と四旋剣か……ちょいと数が面倒だ」

「整合騎士が五人か……」

「実質的には二人だけどな」

「? どういうことだ?」

「あいつら、個々の実力は大したことねえんだよ。おまけに神器もねえ、四人でようやく一人前の連中だ。一人ずつヤれば、脅威じゃない」

 

 そこでふと、ライオットは何かを思いついたような仕草をする。

 

「そういや、カーディナルんとこで匿われてるお前の弟分どもってのはどうなんだ?」

「どうって、実力か? そうだな…… 学院では序列五位と六位だったけど」

「上級修剣士の中位……ま、使えるか。そいつらに四旋剣を任せて、俺とお前で押せば副団長も突破できる可能性は高いな」

「彼らも神器クラスの武器を所有しています。カーディナル様があの術式を教授すれば、あるいは整合騎士次席も……」

「ほお?」

 

 興味深そうにライオットが目を細める。

 

 だが、聞き慣れない言葉にルークは訝しんだ。

 

「あの術式?」

「ん、そういや説明してなかったな。一定のクラスを超える強力な武器は、整合騎士にのみ使うことを許されている高位の神聖術を使うことでその力を解放できるんだ」

「それって、お前の武器みたいにか?」

「竜具は少し勝手が違うんだが、まあ大体同じだな。あとでお前にも教えてやる」

「わかった。すまない、話の腰を折ったな」

「問題ねえ。んで、副団長を突破したとして、だ」

 

 ライオットの指が滑っていき、カセドラル上層部へと移動していく。

 

 指が止まったのは、カセドラル高層。図面上では《雲上庭園》と記された場所である。

 

「ここには二人の騎士……さっきも言った通り、アリスの嬢ちゃんとイーディスが待ち構えてる」

 

 言いながら、そっとルークの方を見るライオット。

 

 図面を見つめて難しい顔をした少年。その目には複雑なものが垣間見える。

 

「さっきから聞いてりゃ、アリスの嬢ちゃんと因縁があるようだな」

「……ああ、そういえば言ってなかったか。アリスは、俺の……俺達の幼馴染なんだ」

「…………そう、か」

 

 端的な言葉だけで、全てを察する。

 

 整合騎士がその人生を奪われたように、かつて彼らと親しかった者も同じように奪われたのだ。

 

 険しく眉根を寄せたライオットは、ルークの背後にあるものを想像して、それ以上詮索をしなかった。

 

「なら、俺が相手する。お前はイーディスをどうにかしてくれ」

「だが……」

「安心しろ。確かに嬢ちゃんは強えが、怪我をさせずに抑え込むくらいは余裕だ」

 

 慈愛と遠慮を含んだ、ライオットの優しい提案。

 

 それはルークがアリスと相対するより、心理的にも実力的にも確実なものである。

 

 

 

 

 

 だが……ルークはかぶりを振った。

 

「いや、俺がやる」

「……あえて厳しく言うが、今のお前の実力じゃよくて相討ちだぞ? 嬢ちゃんの実力は整合騎士でもかなり上位のもんだ」

「分かってる。でも……俺がやるべきことだから」

 

 あの日、アリスを押し倒していなければ。

 

 北の洞窟に行こうとしなければ。アリスの手をダークテリトリーの地面に触れさせなければ。

 

 全てはルークの過ちから始まったこと。ならば自分で正さなくてはいけない。

 

 どんなに彼女と戦うことが心苦しくて、自責の念に苛まれようとも。

 

「それに、キリトとユージオもいる。あいつらとなら、アリスを止めることだって不可能じゃない」

 

 勤めて平静を装い、ルークはそう言う。

 

 一見冷静な、だが譲れない熱を感じる言葉だった。

 

「……俺はその二人の実力をよく知らないが。イーディスを相手取るってんなら、援護はできねえぞ?」

「それでいい」

「……そうか。なら、アリスの嬢ちゃんは任せる」

「ああ」

 

 頷きつつ、ルークは心を引き締める。

 

 あの可憐な少女が、どれほどの騎士となったのか。後悔とは裏腹に不思議な予感があった。

 

 それに、何も感情に任せてばかり言った訳ではない。ルークにはちょっとした秘策があった。

 

 

 

(騎士たちはモジュールで記憶を封じられ、忠誠を植え付けられたと言っていた。それなら重要な記憶を刺激すれば、アリスを元に戻せるかもしれない)

 

 

 

 以前の人格に強く根付いた記憶を呼び起こせば、モジュールを取り除ける可能性がある。

 

 他でもない、彼女をそうしてしまった自分と、幼馴染であるあの二人なら、あるいは。

 

 そんな風に内心で画策する彼とは裏腹に、ライオットが険しい顔で図面を睨む。

 

「最大の障害は、やっぱり団長だ。あの人をどうにかしなきゃ、アドミニストレータには辿り着けない」

「さっきから言っていたが、そんなに団長っていうのは強いのか?」

「人柄、カリスマ、実力、神器の扱い、すべて随一。この目で全力を見たことはないが……確実に俺や副団長より強いことは確かだ」

 

 かなりの実力を自負するライオットでさえ、最強の整合騎士を降せる未来は思い浮かばない。

 

 ましてやそれが修練の途中であるルークともなれば、勝てる気はしなかった。

 

「ああ、本当に厄介だ。いっそ直接アドミニストレータのところまで行けりゃあいいんだがなぁ」

 

 椅子に体を投げ出し、大きくため息をつく。

 

 そうして横目でスワロウを見れば、白き使者は苦笑する。

 

「申し訳ありませんが、私はカーディナル様との連絡役であり、他にも色々とすることがございますので、ここから動くことはできません」

「だろうな。言ってみただけだ」

「じゃあ、団長のことは何も分からないのか?」

「いや。他の騎士達もそうだが、ある程度情報はある。そこから対策を立てよう」

 

 

 

 

 

 

 それから、ルークは二人からもたらされる情報によって整合騎士達のことを学んだ。

 

 各騎士の性質、神器の特性、配置された場所の詳細な情報……その内容は多岐に及んだ。

 

 これを元に、整合騎士達へのキリト達も含めた戦略と対応が立案され、各自の意見によって磨き上げていく。

 

 会議は長時間に渡り続けられ、気がつけば二時間が経過していた。

 

「──と、整合騎士への作戦はこんなところか。後は当たって砕けろって感じだな」

「ライオット様、忘れてはならないことが二つほど残っています」

「そうだな……」

 

 スワロウに指摘され、苦々しい顔をするライオット。

 

 何やらおかしな様子に、ルークは眉を顰める。

 

「まだ何かあるのか?」

「ああ。整合騎士達の他に、アドミニストレータを倒すに当たって障害がある。一つは元老院長だ」

「元老院長?」

「整合騎士団の上位にいる、アドミニストレータの定めた法を管理してる連中だ。ま、俺達以上に壊れ、道具と化した抜け殻さ」

「その長の名はチュデルキン。元老院を統括するに相応しい、人界最高峰の神聖術使いです」

「また厄介そうな相手だな……」

 

 ただでさえ整合騎士という最強の剣士達が待ち構えているというのに、更なる難敵がいるとは。

 

 これも課せられた試練かと覚悟を決めるルークに、張り詰めた表情でスワロウが人差し指を立てる。

 

「そして、もう一人。アドミニストレータの側にはとある存在が控えています」

「それは一体?」

「……わからん」

「…………何?」

 

 分からないとは、どういうことだろうか。

 

 口をつぐんでいるライオットに首を傾げ、ルークはスワロウを見る。

 

 しかし、全知に等しい存在のはずの彼は力無く頭を横に振った。

 

「そいつは、常にアドミニストレータの側に仕えている。丁度こいつみたいな格好をしたやつだ」

「スワロウみたいって……〝彼女〟に作られたこの世界の機能ってことか?」

「私とはまた異なるようです。実力は不明。恐らくは、私がカーディナル様と共に潜伏した後に現れた人物と思われます」

「名は〝ペーリッシュ〟。肩書きは最高司祭の相談役だが、全く得体が知れねえ」

「アドミニストレータと戦うなら立ち塞がるのは間違いない、か」

 

 整合騎士、元老院長、そして正体不明の相談役。

 

 全て強敵だが、特に警戒すべきは一切の情報がない不気味な相談役であろうか。

 

「まあ、多々障害があるわけだ。どうだ? 最後に一度聞くが、怖気付いたか?」

「──まさか。今更引くわけないだろ?」

「それを聞いて安心した」

 

 力強く笑えば、ライオットもまた獰猛に笑って見せる。

 

 スワロウも頼もしげに微笑み、三人の心は一つの目的を前に集結していた。

 

「さて。それじゃあさっき言った神器……俺達の場合は竜具の力を解放する術を教えよう。これがないと話にならねえからな」

「わかった。よろしく頼む」

「おう。がっつり鍛えてやるから覚悟しろよ?」

 

 

 

 

 

 そうこなくちゃ、とルークは返答した。

 

 

 

 

 






読んでいただき、ありがとうございます。
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