ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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前回、ライオットの使う術が間違っていたので修正しました。危ない危ない。

さて、今回は早く書きあがりました。

楽しんでいただけると嬉しいです。


白き牙の真髄

 

 

 

 

「いいか。この術の重要な所は、神器のイメージを汲み取ることだ」

 

 

 

 ハリボテの残骸が片付けられた後、早速具体的な説明が始まった。

 

 先の一撃で、竜具の力の可能性を垣間見たルークは一言一句聞き逃さぬよう耳を傾ける。

 

「元となった性質、属性、能力……それらを見出した時、神器を完全に支配することが叶うんだ」

「全てを見出す……」

「一つの助言として、俺達の場合は竜の伝承がそのきっかけになるかもな」

 

 なるほど、と頷く。

 

 人界中に知られる守護竜の伝説。そこには四匹の竜の偉大さを表す逸話があった。

 

 例えば、彼の琴剣……双角の主であった大いなる蒼竜は、音を自在に操ったという。

 

 その最強の技である音刃の咆哮は嵐にも勝り、一息で山をも削り取った。

 

 ライオットの放った一撃は、その記憶を具現化したものであろう。

 

 

 

 

 

 他の竜にも、同じように大それた力が言い伝えられていた。

 

 赤き蛇竜は、ソルスの光を力に変え炎を纏い、湖すら焼き尽くす吐息を吐いた。

 

 黒き翁竜は、神に等しい膨大な天命と深い智慧を持ち、その涙や血には治癒の力が秘められていた。

 

 では、最も気高きものと謳われた白き竜は? 

 

「よく思い出せ。そして、竜具と繋がるんだ。そうすれば自ずと、心の中に確固たるイメージが浮かんでくる」

「……やってみる」

 

 頷き、早速イメージを始める。

 

 目を閉じ、暗闇という無の中に自分を放り込むことで意識を集中した。

 

 

 

(確固たるイメージ……白き竜の伝承)

 

 

 

『ベルクーリと北の洞窟の白い竜』。

 

 最初に思い浮かんだのは、ルーリッドの村で昔から語り継がれる有名なお伽噺。

 

 ある日、村一番の剣の使い手だったベルクーリは北の洞窟へ冒険をしに行き、そこで美しい剣を見つけた。

 

 しかし、その守り手であり、ダークテリトリーへつながる道を塞ぐ守護者である白き竜と対峙した。

 

 だが、結局竜とベルクーリがどうなったのかは定かではない。それに白き竜は骸と果てていた。

 

 他にも、思いつく限りの白き竜の伝承を懐古して……だが、糸口らしきものは無かった。

 

 ただ純粋に、気高く、強いということだけが言い伝えに残されている。

 

 

 

(ダメだ。他の竜のように、特別な〝何か〟が伝承として残ってない)

 

 

 

 過去の物語をあてにするのを早々に諦め、次に想起したのはかつての記憶。

 

 シャーリーと仲違いし、その末に認められた時に相見えた、かの竜の姿。

 

 

 

 

 

 勇壮で、美しい。

 

 この世で最も壮麗なものを見たと、心の底から感じた。

 

 純白の鱗も、人の身ほどある鋭い爪も、仄かに青く染まった皮膜や、黄金の眼だって──

 

 

 

 

 

 ──ィイン。

 

 

 

 

 

「──あ」

 

 何かが、闇の中で白く輝く。

 

 その光に導かれるまま、自然と体は動き出していた。

 

 左手が腰にあった鞘の根元を掴み、右手の五指が柄の上へそっと乗せられる。

 

 すると、肌を通して《白竜の剣》から共鳴が全身に行き渡っていくような感覚を覚えた。

 

 囁くように、内側から体を震わせる鳴動に心を任せ──

 

 

 

 

 

 

 

 バキッ…………

 

 

 

 

 

 

 

 光が、消えた。

 

 突如として霧散した白光を不思議に思い、目を開いてみる。

 

 すると、ひどく強張った表情のライオットや、その向こうにいるスワロウがいた。

 

「…………?」

 

 一体なんだろうと、彼らの視線の先……《白竜の剣》を握った自分の右手の辺りを見て。

 

「……え?」

 

 ()()()()()()()、竜のような右手に掠れた声を上げた。

 

 遅れて知覚が働き始めたのだろう。脳が情報を処理するのと同時、壮絶な激痛が走る。

 

「ぎッ…………ぃ、ぁっ……!!?」

 

 

 

(い、たい! 痛い痛い痛いイタいイタイッ!!!??)

 

 

 

 表面を覆う白い鱗に、空気が触れるだけで骨を粉々に砕かれたかのような痛みが走る。

 

 果たして、一瞬で変質したが故なのか。

 

 ブルブルと小刻みに震え、骨や筋繊維、神経に至るまで、全てが痛みを訴えた。

 

 尋常でないそれに、思わずその場で膝をつく。

 

「っ、いけない!」

 

 歯を食いしばり、痛みに堪えるルークを見て、ようやく再起動したスワロウが結界を作動させた。

 

 即座に発動した結界内部に光が迸り、ルークの体を染め上げる。

 

 

 

 

 

 たっぷりと十秒間、光は放たれ続け、やがて巻き戻すように消えていった。

 

 目を細めていたスワロウは、光が止むのを待つと中の様子を確認する。

 

「──っ……はぁ、ふぅ…………ふぅうう……」

 

 ルークの右手は、元に戻っていた。

 

 引き攣った呼吸を落ち着かせていく彼の姿に、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「……ありがとう、スワロウ。おかげで助かった」

「いえ……よもや、結界が発動するより早く変異するとは。予測できなかったことをお詫びします」

 

 まさか自分の分析を上回るとは考えておらず、スワロウは所在なさげにした。

 

 苦笑いを浮かべながら、右手を握ったり開いたりしつつルークは立ち上がる。

 

「まさか、そこまで顕著に反応が出るとは……恐ろしい竜具だ」

「だが、おかげで少し掴めたものがある。次は上手くいくかもしれない」

「……いざとなれば、やめたっていい。それでお前が死んだら元も子もないからな」

「お節介なやつだな。でも、ありがとう」

 

 巌のように眉根を寄せる騎士に礼を述べながら、再び瞑目する。

 

 

 

 

(さっきので、なんとなくイメージは掴んだ。高い代償だったが、幸いあと二回は機会がある)

 

 

 

 意識を切り替え、痛みを恐れ震える体を抑え込んで集中を始めた。

 

 再び暗闇の中に描くのは、あの白き竜の姿……かの意思が形をとった、心意の形。

 

 

 

 

(瞳……そう、瞳だ。あの時何よりも印象に残ったのは、それだった)

 

 

 

 闇の中でなお鮮烈に輝く、月よりも静寂な光を持つ瞳。

 

 まるで、全てを見通し、射抜くかのようなあの瞳が、何よりも魂に焼き付いていた。

 

 

 

(……あれ?)

 

 

 

 そこまで考えて、チリッと思考に擦るようなものが生まれる。

 

 瞳。それを強くイメージすればするほど、何か既視感のようなものを覚えたのだ。

 

 見抜き、見定める瞳。余分なものを削り、飾らない言葉を想像すると、何かが思い出される。

 

 頭の奥に沈み込んだそれを引っ張りだそうと、少し焦って……

 

 

 

 

 

 

 

 バキッ

 

 

 

 

 

 

 

 また、失敗した。

 

 瞬く間も与えずに、一度耳にした異質な音が響いて目を開いた。

 

 見下ろせば、また腕が変形している。今度は一度目よりも早く痛みがやってきた。

 

「ぐっ…………!」

「すぐに処置を」

 

 指が鳴らされ、結界が発動してまた光に包み込まれる。

 

 

 

 

 

 それが消えれば、腕は元通りに。

 

 しかし、苦悶に歪めていた顔を穏やかに戻すルークの目には、何かがあった。

 

「……ルーク様。あと、一度になります」

「……分かってる」

「それで十分、って顔だな?」

 

 ゆっくりと、隣にいるライオットを見る。

 

 彼は、先程の表情とは一転して、何か面白そうに口元に弧を描いていた。

 

 変わらずルークの身を案じてはいるものの、それだけではない期待のような色が見え隠れする。

 

「ああ。次は、やれる」

「なら、やってみろ」

 

 今一度強く頷き、ルークは三度(みたび)瞼を下ろした。

 

「フゥー………………」

 

 まず、深く息を吸い、同じだけの時間を用いて吐き出す。

 

 そうすると、闇の中に閉ざされた自意識をより深い場所の中へと落とし込んでいった。

 

 

 

 

 

 深く、昏く……深淵とも呼ぶべき、意識の底。

 

 そこまで意識を沈めて、ようやく思い出せるものがある。

 

 

 

(……ライオスを斬り捨てた、あの時。俺は、奴の胸の内にあるものが見えていた)

 

 

 

 それは、どこか僅かにあった罪悪感から、わざと朧げにしていた記憶。

 

 後輩の尊厳を汚し、キリト達を害そうとした、全てを飲み込もうとする醜悪な黒い渦。

 

 それがライオスの胸の中心に、はっきりと見えていたのを思い出した。

 

 

 

(もしあれが、奴の本質……ライオス・アンティノスという人間を形作っていた、意思だとしたら)

 

 

 

 ルークが斬ったのは、ライオスの生命や、肉体だけではなく……

 

「……スワロウ。的を」

「……畏まりました」

 

 静かな、だが底知れぬ何かを秘めたルークの声音に、神妙な顔で使者が頷く。

 

 彼の前に、ライオットが使ったものと同じハリボテが金素から精製された。

 

 

 

 

 

 目の前にその存在を感じ取り、ルークはゆっくりと腰を落とした。

 

 膝を曲げ、上半身を軽く屈ませると、腰だめに《白竜の剣》を構える。

 

 

 

(──いける)

 

 

 

 ピタリと姿勢を完成させた時、確信が生まれた。

 

 恐ろしいほど静かなその佇まいに、静観していた二人も何かを感じ取って一歩下がる。

 

 闇の中、ルークはいよいよ全ての雑念を捨て去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(意識を研ぎ澄ませ。余念は要らない。ただ、ただ。鋭く、素早く、疾く────)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『────〝エンハンス・アーマメント〟』」

 

 

 

 

 

 

 

 ──その瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 誰も、刃が抜かれたことを知覚できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ライオットも、スワロウも。ルーク自身でさえも、認識していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 キ──────────ィイン。

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、音が響いて。

 

 瞬きをしていないにも関わらず、不思議な意識の隙間が過ぎ去った時。

 

 ルークは、《白竜の剣》を振り抜いていた。

 

「……………………」

 

 無言で、目を見開く。

 

 ゆっくりと、いっそ緩慢なほどの動きで、姿勢を元に戻す。

 

 抜き身の《白竜の剣》を持つ右手を見れば、先ほどまでのように変異していることはなく。

 

 次にハリボテを見れば──やはり、何事もなかったかのように鎮座していた。

 

 

 

 

 

 ルークは自然な足取りで、ハリボテに近づいた。

 

 目の前までやってくると左手を伸ばし、その指先で金属の塊に触れる。

 

 すると、思い出したようにズルリとハリボテが斜めにずれて、上半分が零れ落ちた。

 

 激しい音を立て、地面にそれが転がる。それをライオット達は唖然とした顔で見ていた。

 

 ただ一人、何かを得たように残骸を見つめる彼を除いて。

 

「……そう、か。そういうことか」

 

 ()()()()()()

 

 いいや、最初から斬るものがこのハリボテには宿っていなかった。

 

 だからこそ、この《白竜の剣》に秘められた性質を、はっきりと自覚することができた。

 

「……ありがとう、ライオット。スワロウ」

 

 ハッとして、二人は我を取り戻した。

 

 やっと夢から覚めたような気分で、声の主に意識を向ける。

 

 そんな二人に振り返ったルークは。

 

「おかげで、この剣の真髄が理解できた」

 

 少し、その色を濃くした黄金の右目と灰色の左目を弓なりにして、そう笑った。

 

 

 

 

 

 ライオットの背筋に大量の冷や汗が浮かぶ。

 

 この世界の人間とは異なるはずのスワロウですら、一筋の冷たい雫が頬に浮かび、流れ落ちた。

 

「……おい。今のは、なんだ?」

「…………私ですら、推測するしかありませんが」

 

 そこで一度、スワロウは大きく喉を鳴らした。

 

 まるでその先を言うことを恐れているように、だが答えないわけにはいかないと。

 

 意を決して、ライオットにそれを告げる。

 

「ルーク様は、()()()()()()()()。正確には心意を、でしょうか」

「………………マジか?」

「私は漠然としたものでしたが、貴方様ははっきりと感じたのでは? 己という存在が、一刀のもとに切り捨てられる錯覚を」

 

 否、と答えることができなかった。

 

 彼の言う通り、確かにその恐ろしい感覚をライオットは得ていたのだから。

 

 

 

 ──カカッ。あの小僧、やりよったわ

 

 

 

 脳裏に、普段は語らぬ〝相棒〟の愉快そうな声が響く。

 

 寡黙で、滅多に己を表さないその竜の意思に、ライオットは眉を顰めた。

 

 

 

(あれを、知ってるのか?)

 

 

 

 ──応とも。あれこそは我が同法(はらから)の絶技。暗黒領域の有象無象をひと撫でに鏖殺せしめた、御魂(みたま)斬りよ

 

 

 

 確かに帰ってきた答えに、大きく体を震わせる。

 

 何故なら、その言葉が真実なら。

 

「あいつは……あいつの力は、危うすぎる」

 

 

 

(振るわれる相手にとっても、ルーク自身にとっても。あの力を自在に操れるようになれば、一撃で相手の魂を刈り取ることも、心だけを斬り、生きる屍にすることさえもっ──!)

 

 

 

 ある意味、アドミニストレータすら匹敵しうる。

 

 その力を目覚めさせてしまったことに、喜びや達成感よりも先に、恐れを抱いた。

 

 整合騎士になって幾星霜、長らく覚えることのなかった原始的な恐怖を目に乗せ、ルークを見据え……

 

「ぅ…………」

「っ!? おい、ルークっ!?」

 

 突然崩れ落ちた少年に、反射的に駆け寄る。

 

 慌てて肩に手を置けば、《白竜の剣》を支えに膝をついたルークは汗だくの顔でぎこちなく笑った。

 

「ご、めん。これ、結構、キツい、わ」

「っ……馬鹿野郎。無茶しやがって」

「それ、くらい、しないと……何も、守れ…………な………………」

「うおっ!?」

 

 最後まで言い切る前に、ルークの体が倒れこんできた。

 

 迫ってきた抜き身の刃に飛び退けば、倒れ伏した彼は剣を手放してしまう。

 

 

 

 

 

 そのまま動かなくなったルークに、恐る恐るといった体でもう一度近付いた。

 

 リソースが底を突きかけた結界を解除し、スワロウもやや警戒しながらやってくる。

 

「すぅ…………すぅ…………」

「……寝てやがる」

「極限の集中と、影響の抑制。その上で竜具の力のみを引き出したのですから、相当に堪えたのでしょう」

「ったく……末恐ろしいんだか、年相応なんだか」

 

 一見穏やかにも見える顔で寝息を立てる少年に、ライオットは複雑な顔で後頭部を掻いた。

 

 そんな彼に同意するように苦笑しながら、スワロウはルークの体を起こし始める。

 

「ひとまず、安静な状態にしましょう。ライオット様はその剣を」

「おう」

 

 軽々とルークを担いだスワロウを見送り、ライオットは床に転がった《白竜の剣》を取る。

 

 同じ担い手である為、拒絶されることはなく手の中に収まった。

 

「…………頼むから、ルークがやり遂げるまではあいつを喰い尽くさないでくれよ」

 

 

 

 ──あの小僧に愛着が湧いたか? 

 

 

 

「まあ、な」

 

 脳裏の声に口で答えつつ、ライオットは二人の後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 





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