ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
どうも、作者です。
今回も楽しんでいただけると嬉しいです。
「…………………………む」
異変を感じ、騎士は目を開く。
現れた銀眼が、己の両手が握る黒盾をじっと見下ろした。
オォォォオ…………
震えている。何かを騎士へ伝えようとするかのように。
その共鳴、盾に秘められた黒き翁竜の心意へ、騎士は目を閉じて繋がった。
瞼の裏へ浮かぶは、白銀の翼。
美しく、勇壮で、猛々しい。
だが、夥しい血に濡れ、それに比べて小さな少年の背から伸びた、竜の翼。
示された答え──未来を覗くに等しい予測に、ゆっくりと開眼する。
「……己が想いで、己が身を滅ぼすか。若き者よ」
その意味を理解し、未だ健在なる翁竜の叡智に騎士は呟いた。
守護竜は、この世にたった四柱の真竜。故にその魂に繋がりを持ち、互いを感じる。
その力を以って翁竜の意志は告げたのだ。
最も新しき担い手に、危機が迫っていると。
「許さぬ。己が願いに溺れ、その使命を果たせぬことは、決して許されぬ」
騎士は猛る。
誰より永く、己が復讐と同じほどにその使命と向かってきたが故に。
ならば、如何なる決断をすべきか。
「決まっている。見定めねばならぬ」
騎士は、来たる決戦に備え、休ませていた巨躯を立ち上がらせた。
呼応するように鎧の吹き上げる炎が強まり、闘争の気配に歓喜するが如く火花を散らす。
「………………」
騎士は手を開き、中に握り込んでいたものを露わにした。
純白の羽根。万物を焼き焦がす炎の中にあって形を損なわぬ、使者の招待状。
天を衝くカセドラルへの片道切符たるそれは、然るべき時に使うべきもの。
騎士にとって、今がその時である。
「許せ、古の使者。我が誇りにかけて、同胞を見極めねばならぬのだ」
躊躇なく、その羽根を握り潰した。
炎の中に消えたそれは、固く握られた手の中で眩い光を放ち。
火山の一角が、純白の輝きに染まった──。
●◯●
「……ん」
微睡みの中から、灯りをつけたように意識が浮上する。
薄ぼんやりとした意識を支える為に頭へ手をやりながら、ルークは起き上がった。
「あれ……俺は…………」
「よう、寝坊助さん。気分はどうだ?」
「ライオット……?」
緩慢に声のした方を向けば、そこにいた緋髪の騎士は悪戯げに笑いかける。
ルークが横になっている長椅子のへりに腰掛けていた彼は、手の中の本を閉じた。
「俺は……寝てたのか」
「丁度俺が、こいつを半分読み終える程度にはな」
ゆらゆらと手の中で揺らされる赤い装丁の本に、ルークは目を凝らす。
表紙に金字で書かれたのは、《Riot Stolz》の神聖文字。
「それは…お前の記憶か?」
「まあな。で、そろそろ意識がはっきりしたか?」
「ああ……俺としたことが、無駄に時間を浪費しちまった」
強く頭を左右に振り、完全に眠気を振り払って立ち上がる。
長く寝ていたので一瞬立ちくらみがするも、変質した足は以前よりバランスを取るのに優れていた。
前の三本と踵の一本、四本の鉤爪でしっかり体を安定させ、その場に立つ。
「経過したのは、一時間くらいか? 状況はどうなってる?」
「さっきカーディナルと連絡を取ってたスワロウの話じゃ、お前の仲間はとっくにカセドラルに入ったそうだ」
「何だって! それなら早く、俺達もいかないと!」
自分の失態を悔いるように歯噛みし、ルークは今すぐに出発しようとする。
だが、妙に左腰が軽いことに気がついて見下ろす。
そこに吊るしたはずの愛刀はなかった。一瞬困惑して、無意識にライオットの方を向く。
「ライオット。俺の剣は?」
「……ほらよ」
体の奥に隠すように立てかけていた《白竜の剣》を、ライオットが取り出す。
差し出されたそれを受け取ろうとして……強く握られた手が、それを妨げた。
「……なんのつもりだ?」
「……ルーク。さっき教えた、《エンハンス・アーマメント》だが」
そこで一度、ライオットは言い淀む。
一刻を争う気分でいるルークは焦るように、少し苛立った表情をした。
それを見たライオットは、口元を引き結んで何かをぐっと堪え、絞り出すように続きを言った。
「……本当に、いざという時だけ使え。どうしても自分の力だけじゃ勝てなくなった時に、使うんだ」
「今更何を……元々奥の手だって言ってただろ?」
「それはそうだが……とにかく、約束しろ。決して安易に使うな。いいな?」
強く念を押してくるライオットが、ルークは少し動揺する。
以前と違い、ちゃんと眠ってしまう前のことは覚えている。
《白竜の剣》の力も、その強大さもはっきりと認識していて、だから脅すようなその文言に込められた意志に気圧された。
「わ、分かったよ。使い所は見極める。ほら、もういいだろ? キリト達を追いかけないと」
「……そうだな。これ以上、無用な時間は使えねえ」
ようやく観念したように、ライオットの手が《白竜の剣》から離れる。
そんな彼の態度を未だ不可解に思いながら、今度こそ手元に戻ってきた愛剣を腰に履いた。
それから、ライオットの先導で相変わらず迷路のような図書館の中心まで戻る。
そこには既に、光の扉を用意したスワロウが真剣な顔で待ち構えていた。
「お待ちしておりました。あまり時間は残されておりません」
「すまない、また手間をかけた。それで、何か他に聞いてないことは?」
「では、最後に一つ。整合騎士の奪われた記憶についてお教えしましょう」
これが最後の一つと言わんばかりに、人差し指が立てられる。
「
「じゃあ、どうしたらいい?」
「単純なことです。奪われた記憶を、元の場所に戻せばよろしい。そして用心深いアドミニストレータは、それを己の手で管理しています」
「分かった。具体的な場所は?」
「残念ながら、詳細には分かっておりませんが……長年の調査から推測し、おそらくはカセドラル最上階──彼女の居室かと」
立てられたままの指が、今度は頂点を示すように天井へ向けられた。
好都合だ。アドミニストレータを打倒すれば、一緒にアリスの記憶を取り戻せる。
そして……
「つまり、やることは二つ。モジュールの除去。そしてアリスの記憶と、ライオットの記憶を取り返せばいいんだな?」
「ルーク、お前……」
驚きに表情を変える騎士に、少年は少し照れくさそうに微笑んだ。
「これだけ色々世話になって、礼の一つもしないのは人として駄目だろ。お節介だろうが、やらせてくれ」
「……ったく! 可愛い後輩だよ、お前は!」
ルークの頭を乱暴に撫で回すライオットの笑顔には、どこか嬉しさが滲んでいた。
ひとしきり髪をもみくちゃにされた後、再びスワロウへと向き直る。
静かに待ち続けた彼は、その手をルークへ差し出した。
少し息を呑んで……しっかりと、手袋に包まれたその手を握り返す。
「行ってくる」
「……どうか、よろしくお願いします。我らの悲願を、貴方達に託します」
「しかと受け取った」
二人は揃って頷き、スワロウもどこか安心したように微笑んで。
それ以上の会話はなかった。
ルークとライオットは、もう一つの迷いも持たず光の扉へ走り込む。
この図書館にやってきた時の焼き直しのように、閃光が全身を包み込んだ。
●◯●
その輝きの先へ走り抜け、超えた先には──カセドラルの廊下があった。
二人は周囲を見渡す。
傷だらけの壁や床、後ろを振り向けば消えた光の扉があった場所には大きな扉。
「ここは、武器庫の前か」
「みたいだな。だが、俺達より前に誰かが入ったらしい」
二人が最初に出会った時と異なり、武器庫の扉は全開になっている。
顔を見合わせ、武器を構えると中へと踏み込んだ。
室内は静寂に包まれている。
鎧や衣服、武器が整列して並び、作り上げられるのは不思議と張り詰めた雰囲気。
無音の武器庫を奥まで進んで、そこでようやく変化が現れた。
「……黒いやつと、《青薔薇の剣》がない」
「服もいくつか持ってかれてるな。それに、こいつは……」
ライオットが手に取ったものを、空の台座を眺めていたルークも見る。
傷だらけで、今にも天命が尽きてしまいそうな、丁寧に畳まれた青と黒の衣服。
見慣れた上級修剣士の制服だ。その持ち主だった者もまた、馴染みの相手である。
「キリトとユージオのだ。あいつら、ここに来たらしい」
「装備を整えてから、上に進んだようだな」
「それなら尚更追いかけないと」
「ああ」
検分を済ませた二人は、武器庫を後にした。
扉から出てすぐ、目の前にある大きな階段から上へと昇っていく。
「っ、待て!」
「!」
だが、中間にある踊り場に出たライオットが突き出した手にルークも立ち止まった。
反射的に剣に手をかけると、ライオットは目配せしながら手を下ろす。
警戒しつつ、彼の隣に並んで……そこにある光景に息を呑む。
「これは……整合騎士、か?」
壁に倒れ込むようにして俯いている、真紅の鎧に身を包んだ中年の騎士。
鎧と同じ色の髪はきっちりと後ろで結ばれ、渋い顔立ちが厳格さを感じさせる。
しかし、その騎士は半ば体を氷漬けにされ、大きな怪我をこさえて眠っていた。
「……デュソルバートの旦那」
「こいつが?」
ライオットの呟きに息を呑み、もう一度整合騎士を見下ろした。
件の、かつてルーリッドの村にアリスを捕縛しにやってきた騎士かもしれない人物。
気を失っているので声はわからず、座り込んでいて身長も定かではない。
だが、あの日の記憶の中の騎士と、その体格は似通っているような気がした。
「ッ…………」
一瞬。激しい感情が、心を埋める。
沸き立つような怒り。粘りつくような憎しみ。何年もかけて熟成された、強い怨嗟の念。
思わず、軋んだ音が鳴るほど《白竜の剣》を握りしめる。
今なら容易に殺せる。あの日の騎士が彼ならば、首を刎ねなくては。
(何が正義の徒だ。何が偉大なる整合騎士だ。お前のせいで、俺の大切なものは全部──ッ!)
その親指が、音を立てて鍔を切った。
「尋常じゃない威力だな……ただの神聖術じゃない。神器の力だ」
まさに、渾身の居合を放つ瞬間。
真っ暗に染まっていた意識が、ライオットの呟きで正気に戻った。
ゆっくりと、剣を抜きかけている自分の両手を見下ろして。
(……俺は、今。何を考えていた?)
冷や汗が背中に浮かんだ。
戒めていたはずの激情が、枷を外したかのように溢れ出た。
己の正義にそぐわないものは何人でも滅ぼせ──どこか、そんな囁きが聞こえた気さえした。
(駄目だな。まだまだ未熟だ)
少し前まで自分を支配していた、昏い感情を深呼吸して押し流す。
今はそんな場合ではないと。そう改めて何重にも鎖をかけ、心の奥に沈め、剣を収めた。
「……もしかして、あいつらが?」
「だとしたら、お前の弟分どもはそれなりにやるようだな」
いずれにせよ、この状態では何もできはしない。
少し後ろ髪を引かれる思いになりつつも、切迫した状況を思い出してその場を後にした。
「今更なんだが、そのキリトやユージオってのはどういうやつらなんだ?」
大階段を上へ上へと走り抜けながら、ライオットは隣を走るルークへ問いかける。
彼としてはあまり戦力としてあてにしていなかったが、先の光景を見て気が変わったのだ。
ルークは横目で一瞥して、すぐに前へ目線を戻しながら口を開く。
「俺の生まれ育った村からの付き合いだ。ユージオは幼馴染で、キリトはある日ふらっと現れた」
「確か、北の洞窟近くの辺境だったよな」
「そうだ。ルーリッドっていって、平和な村だよ。慎ましくも支え合って暮らしてた」
ルーリッドの風景を思い出す。
和やかな街並みや、優しい人々。自然溢れる村の周辺や、母の顔を脳裏に描く。
生まれてから十数年暮らした村を鮮明に想像して、淡く微笑んだ。
そんな顔を見て、どこか優しげに……少し羨ましそうに、ライオットも笑う。
「随分と故郷が好きなんだな」
「ああ。俺は村の衛士だったんだが、昼になると親の手伝いを終えた子供達がやってきて………………」
「…………? ルーク?」
急に口を噤んでしまった相棒に、ライオットは不思議そうな顔をする。
そして、彼の横顔を覗き見て──息を呑んだ。
酷く、何かにショックを受けたような顔。
口の端や目元が震え、瞳孔は開いて、血色が少し褪せている。
「…………思い、出せない」
「何?」
「思い出せないんだ。あの子達の顔を、名前を…………忘れるはずが、ないのに」
「──ッ!」
「おかしいな。なんでだろう、まるで、水がこぼれ落ちた絵の具みたいにグチャグチャで……」
ルークの頭の中で、その記憶は抽象的にしか思い浮かばない。
かけがえのないものと思っていた、純真無垢な笑顔が、声が……全て、滲んでいる。
「ごめん。色々あって、頭がこんがらがってるみたいだ。落ち着いたらまた話すよ」
「…………そう、か」
ライオットは、彼に見えないように、そっと唇を噛み締めた。
それから一分も経たないうちに、また新たな変化が現れて二人は止まる。
「今度は……血溜まり?」
「二つあるな。そして血痕が上へ続いてる……」
赤いカーペットに黒くシミを作っているのは、人間の血だった。
それは一直線に上の段へ向かっており、誰かが引きずられていったことを如実に物語っている。
「まさか、キリト達の……っ!」
「他に大きな血痕や戦いの跡は見受けられない……とすると、何かしらの手段で弱らせて、連れていった?」
「っ、行くぞ!」
「おう」
これ以上の状況判断は困難と感じた二人は、血痕を追って再び足を踏み出した。
●◯●
終わりが見えないのではないかという程、延々と続く階段。
だが、事前の打ち合わせでその終着点をルークは知っている。
五十階層、大回廊。そこが塔内で唯一の移動手段であるこの階段の終わりだ。
(もしっ、もしあの二人が既に死んでいたら────ッ!)
高鳴る心臓と積み重なる焦燥。脳裏をよぎる最悪の光景。
それら全てを無理やり押し込めながら、二段飛ばしで《霊光の回廊》を目指す。
「ライオットッ! 回廊に待ち構えてる可能性が高いのは、整合騎士団副団長と《四旋剣》だったな!」
「ああ! だが、それがどうした!」
「そいつらがキリト達を連れ去ったって可能性は!」
「ありえねえ! 副団長はちょっとばかし難しい事情を抱えちゃいるが、高潔な騎士だ! 副団長に師事してる《四旋剣》もな! あんな拷問みてえな真似はしねえはずだ!」
叫び合うように情報を交換しながら、ルークは必死に頭働かせる。
先程の光景を思い出す。
傷つけておきながら、まるで何かをするためにわざと生かして連れていくような血痕。
圧倒的な力を持つ、整合騎士らしからぬ手口。あれはどちらかといえば、奇襲の類だろう。
そんな方法を使う輩が、マトモな事をするはずがない。
ルークは眠りこけてた自分を、また激しく責めた。
「とにかく急ぐぞッ!」
「ちっ、血気盛んな相棒だな!」
ぐんと走る速度を増した二人は、飛ぶようにして大回廊を駆けた。
やがて、幾度となく見た曲がり角ではなく、金属らしき大きな赤い扉が見える。
「扉が開かれてる! もう中に入ったみたいだぞ!」
「キリト、ユージオ……っ!」
走りながら抜刀し、あるいは琴剣をいつでも振るえように構え直して、二人は最後の一段を踏む。
扉の間にある空間を跳躍して、《霊光の回廊》へ文字通り飛び込んだ。
果たして、二人が見たものとは──
「なっ!?」
「こ、これは……」
ルークも、ライオットも、震えた声を漏らす。
《霊光の回廊》。
ソルスの光が壁や天井に嵌め込まれたステンドグラスから降り注ぎ、その暖かさに感謝を捧げる場所。
カセドラルに住まう修道女や修道士、その見習い達が礼拝を行う場でもある回廊は、無残な姿になっていた。
ステンドグラスも、部屋を支える大理石の大柱も、何もかもが破壊されている。
まるで超高温の熱線でも浴びたように融解し、穴が開き。
そして、あらゆるものが青薔薇の氷と、凍えるほどの冷気に包み込まれていた。
「一体、ここで何が起こったんだ……」
「おいルーク、ちょっと来い」
背後からの声に振り返り、ライオットへ駆け寄る。
やってきたルークに、彼は自分が見ていたものを指で示した。
つられてみれば、ベルトで手を後ろに縛られた二人の少女が、こちらを睨みあげている。
「この子達は?」
「リネル、フィゼル。前に話した騎士見習いだ。アドミニストレータの狂った実験の生き残りでな」
「そうか……」
説明を受け、苦い顔になりながら少女達を見下ろす。
見たところ齢十ほどか。修道女の服を着ており、ルークとライオットを見比べて不審げにする。
「……ライオット様、なんで咎人と一緒にいるの?」
「そいつ、あのお兄さん達と同じダークテリトリーの手先でしょ?」
「訳あって俺は離反させてもらった。今はこいつと二人部隊ってところだ」
リネル達は揃って息を呑む。
よもや、絶対正義の象徴たる騎士が咎人に与するとは考えもしなかっただろう。
特にライオットにはその気さくな態度ゆえに懐いていた為、顔を見合わせて狼狽えている。
一方で、彼女達の言葉を頭の中で噛み砕いていたルークがハッとする。
「お兄さん達……キリトとユージオか!?」
二人の前に膝をつくと、目線を合わせて詰め寄った。
「おい、あの二人はどうなった!? 今どこにいる!?」
「な、何よあんた。あの人達なら、もう先に行っちゃったわよ!」
「わ、私達、麻痺毒であの人達を弱らせて、殺そうとしたんだけど、やり返されて……それで、目の前でファナティオ様も倒されて……」
あまりの剣幕と、謎の凄みを感じる金色の右目に、怯えたように二人は答える。
あの血痕の正体を知って、一瞬酷く憤りを見せるが……すぐにかぶりを振って消し去った。
(いくら敵でも、村の子供達と同じような年齢の少女を傷つけることはするべきじゃない。目的を履き違えるな、ルーク)
心の中で自分に言い聞かせて、ルークは怯える二人の頭に手を置いた。
「……そうか。教えてくれてありがとう。それと、怖がらせてすまない」
鬼の形相から一転して優しげに笑いかけてきたルークに、二人はポカンとする。
呆けた少女達から手を引いて立ち上がれば、隣にいたライオットが回廊の中を見回している。
「そこらの氷柱の中に、《四旋剣》どもが閉じ込められてるな」
「本当か?」
ルークも改めて周りを見直してみる。
すると、確かに幾つかの大きな氷塊の中に騎士鎧をつけた人間の姿が見えた。
「凄い力だな……《エンハンス・アーマメント》だとして、この所々に咲いてる薔薇は……もしかして、《青薔薇の剣》か?」
「んで、肝心の副団長は……いない?」
「あ、あの! ファナティオ様なら、咎人の二人が何かして、どこかに消えちゃいました!」
ルークとライオットが肩を震わせた。
突然後ろから答えが返ってきて、少々驚きながら振り返ると、リネルとフィゼルがこちらを見ている。
先刻までの不審げな色は少し薄れ、だが多分に警戒を残した目をしながらも口を開いた。
「なんか、戦いに負けて倒れてたファナティオ様を、黒い方のお兄さんが助けようとしてた」
「青い方の人も協力してて、最後にはパッと消えちゃったっていうか……」
「消えた? どういうことだ?」
「……よく分からんが、殺したわけじゃあなさそうだな」
「あいつらはそう簡単に人の命を奪ったりしないよ」
それこそ、余程の理由がない限りは刃を向けることはない。
あっさりと命を奪った自分と違って……そんな続きが浮かぶも、すぐに考えるのをやめた。
「だが副団長をのしたとなると、この先の昇降機から上へ向かった可能性が高いな」
「じゃあ、俺たちも後を…………」
追いかけようと、そう言おうとして。
「待て」
回廊を包み込むほどの重厚な声に、その言葉は塗り潰された。
読んでいただき、ありがとうございます。
これなら二クール分くらいの尺でこの章終わりそうかな。