ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
アリシゼーションに触発されて、ちゃんと書き始めました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「くぁ……ほんと、暇だ」
大きく口を開けたルークは、誰に聞かせるでもなく呟く。
門番を始めて、早4時間ほどが経過した。
その間全く問題はなく、視界いっぱいに広がる青空と畑、森へ続く道に異常も人影もなく。
昼に近い時刻である為、ルーク同様に村の内外で皆己の天職に従事しているのだ。
「っし、そろそろ始めるか」
ならばと、ルークは日課を開始した。
村の門に足裏をつけていた右足を地面に下ろし、傍らに置いていた白剣を両手で取る。
「っと。相変わらずお前は重いな、未来の相棒」
ズッシリと両手を潰さんばかりに己の存在を主張する剣に、もはや口癖となりつつある文句が出た。
人差し指と中指を揃え、剣にかざす。
そうして右上から蛇のように曲がりくねった印を刻み、ポンと宙に浮かんだそれを叩いた。
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OBJECT ID [NL_SS969]
44 CLASS
287046/304012 DURABILITY
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(天命はそんなに損耗してないか……ま、ちゃんと手入れしてるから問題ないな)
剣の状態を確認したルークは、もう一度周りに誰もいないことを確認した。
安全なことをしっかり把握してから、肩にかけるための皮紐を外して、それで本体と鞘を固定する。
「ふっ、はっ」
軽く両手で振って、外れないとわかると左半身を後ろへ引いた。
右手を柄の付け根に、左手を卵を掴むような形に。
腰だめに剣を構え、深く息を吐く。
「フゥー……シッ!!」
斬り上げ一閃。
無人の道に風が吹き、カタカタと刀身に当たった鞘が音を立てる。
木剣とは比べ物にならないそれは、一度振るだけで鍛え上げられたルークの体ごと持っていきかけた。
それでもどうにか踏み出した足で地を踏んだのは、これを毎日欠かさず続けているおかげか。
「セイッ! ハァッ!」
一太刀、二太刀、三太刀。
剣を振るうほどに空は裂け、ルークの意識は無我の境地へと沈んでいく。
少しでも角度を間違えれば、剣は手の中からすっぽりと抜け、どこかへ飛んでいくだろう。
少しでも力の緩急を間違えれば、腕の骨や筋肉を断裂させることになるだろう。
衛士として時折村の周辺に現れる害獣を駆除しているルークだが、これを振るうにはまだ足りない。
力も、技も、覚悟も、何もかもが。
何より、この
掟に従えられ、〝彼女〟を見捨てたお前に……自分は扱えないと、そう言うように。
「ゼァアアアッ!」
自分の中から湧き出る考えを払拭するため、更にルークは声に気合いを込めた。
そうしたルークの剣舞は、ソルスが頂点に昇るまで続くのだ。
「っ、はぁ……!」
振り下ろした剣を、そのまま支えにして荒い息を吐くルーク。
地面と対面する顔からは滝のように汗が流れ、長い髪の先から滴が落ちる。
「あー、もう昼か……」
いつの間にか随分と時間が経っていたことに、ルークはふっと自嘲気味に笑う。
無論のこと、門番の役割もしっかりと果たしている。剣を振る中でしっかりと監視しているのだ。
服の袖で汗を拭い、持ってきた皮袋から水筒を取り出すと、中身を半分ほど一気に煽る。
「んぐ、んぐ……ぷはっ、生き返るぅ〜」
汗となって流れ出た水分を補給すると、地面に若干先端が沈み込んでいる剣を抜いて壁に立てかける。
柄から離した手はプルプルと小刻みに震えていた。やはりルークには荷が重いようだ。
とはいえ、持ち上げすらできなかった最初の頃に比べれば、随分と扱えるようになった。
「……ユージオは〝あれ〟を振ってるわけない、よな」
ふと、自分のこれと同じように幼馴染が持つあるものを思い浮かべる。
かつての幼馴染は剣士に憧れていたが、今は自らの天職を全うしている。
余程
「そういや音が止んでるな。あいつも休憩か」
ギガスシダーがある方へと目をやれば、ここまで響いてくる心地の良い斧の音は聞こえない。
昔は休憩時にアリスと二人、ギガスシダーのところまでいったものだと一人で昔を懐古する。
思い出にふけるのもそこそこに、パンを水で適当にふやかして口に詰め込むと立ち上がった。
「っし、午後も頑張るか!」
二十分ほどの休憩で体力は十分回復したものの、もう一度あの剣を長時間は振れるほどではない。
あれよりも随分と軽い衛士用の剣の柄を軽く握り、ルークの午後の仕事はのんびりと始まった。
「おやルーク、今日も精が出るね。もう休憩はいいのかい?」
「あ、おばちゃん。おうよ、今日も俺は絶好調だぜ?」
「そりゃ頼もしいねぇ。次の村の衛士長は、やっぱりルークかね?」
「どうかなぁ。俺はほら、そんな真面目じゃないしさ」
「何言ってんだい、うちの衛士の中で一番頼りになるよ」
「はは、ありがと」
時折村に出入りする村人と会話を交わしながら、穏やかな午後を過ごす。
何年も変わらない、この一日。
それを繰り返すほど、ルークの中に安心と焦燥感が同時に募っていく。
こんな所でただ呆けたように突っ立っているだけでいいのだろうか。
ありもしない〝もしも〟のために剣を振っていていいのか、と。
「……いや、こんなこと考えてちゃダメだな」
かぶりを振って考えを振り払い、職務に集中することで意識を逸らす。
十分が経つ。小鳥の囀りが聞こえた。
三十分が経過する。畑にいる村人が手を振ってきたので振り返した。
一時間が過ぎた。ルークの意識は完全に仕事に没頭していた。
一度集中したルークは、よほどの事がない限りは決してそれが解けることはない。
そう、だからこのギガスシダーの方から聞こえてくる
「……ん?」
待て、とルークは自分にストップをかける。
「今、なんか……」
ふと森の方を見やり、ここからでも見えるギガスシダーの先端を注視する。
どこかおかしかった。いつもは規則的な何かの音が変なのだ。
ガゴギィンッ──────
それが何なのかを思い出そうとするルークの耳に、再びおかしな音が聞こえてきた。
「……あ、そうだ。ユージオがギガスシダーを叩く音だ」
そろそろ仕事を再開する頃であろうが、あまりにおかしい。
ユージオはもう七年もあの仕事をしている。今更あそこまで的外れな音は出すまい。
であれば理由は何か、とルークは首を傾げ……はっと何かに思い至る。
「……ははーん、さては昼飯で腹を下したな?」
(帰ってきたら、ちょいとからかってやるか)
幼馴染は不調なのだろうと異音の原因に見当をつけ、ルークはニシシと笑った。
それから時間が経つにつれて、異音はいつも通りの規則性を取り戻していく。
やはり不調だったのだろうと確信を深めたルークは、元の通りに門番の仕事を全うした。
二時間、三時間と時間は流れていき、ソルスが頂点から随分と傾いて、空は茜色へと変わる。
直に日暮れから夜の帳が落ちる頃合いだ、そろそろ村人たちも畑から帰ってくるだろう。
「ふぁ……」
ついつい、欠伸が漏れてしまう。
(ああ、今日も変わらなかったな)
ルークの心に、また安心と焦りが広がった。
やがて、村の外の畑から次々と疲れ切った表情をした村人たちが帰ってくる。
彼らと挨拶を交わして、最後にユージオが来れば門番は終わりだ。
「ん、おっ。帰ってきたな」
最後の村人と会話をして、しばらくした頃か。
森へ繋がる道から、見慣れた幼馴染の姿が現れた。
その姿を認めて、ルークは大きく手を振り上げ。
「おーい、ユージ──」
そして、言葉は止まった。
続けて呼吸が止まり、音が止まり、時間さえもが止まった錯覚に陥る。
ユージオと一緒に、もう一人の少年が出てきたのだ。
遠目から見て、ルークやユージオと同じ年頃か。ユージオの金髪とは正反対の漆黒の髪がよく似合う。
「──っ」
ルークが動きを止めたのは、その少年が見知らぬ人物だったからではない。
ユージオが自分以外の前で、久方ぶりに親しげに笑っていたからではない。
ただもっと単純な、この感情は──
「………………」
気がつけば、降ろした腕の代わりに一歩を踏み出していた。
最初は無意識に。次の一歩はより大きく。
そして三歩、四歩と進むたびに、それは疾走へと変わっていって。
「あ、ルーッ!?」
「え、ちょ、なにおぶっ!?」
気がついた時には、その少年を全力で抱きしめていたのだ。
「馬鹿野郎ッ! 今までどこに行ってたんだよ……!」
「え、な、何……?」
「る、ルーク? 一体どうしたの……?」
狼狽る二人に構わずに、強く少年の体を両手で抱きしめる。
自分でもおかしなことをしているのはわかっている。
この少年のことなど、何も知らない。
どうしてこんなにこみ上げてくる感情があるのか、ルーク自身不思議でたまらない。
けれど、こうしたくてたまらないのだ。こうしなくてはいけない気がするのだ。
二度とこの手から離さないように。
あの夢のように、目の前で突然パッと消えてしまわないように。
アリスのように……失わないように。
「お、おいユージオ、助けてくれ」
「ごめんねキリト、普段はこんなことするやつじゃないんだけど……ほらルーク、〝キリト〟が困ってるから」
「……おう」
ユージオに肩を引かれて、ようやく少年を解放する。
改めてちゃんと見る少年の顔には、やはり強い戸惑いの色があった。
当たり前だ。いきなり男にに抱きつかれて喜ぶような輩はいない。いたとしたらそれは変態だ。
「ごめんな。びっくりしただろ?」
「あ、いや、別にいいけどさ……あんたはユージオの知り合いか?」
「俺はルーク。この村の衛士だ。よろしくな、えーと」
「ああ、俺も自己紹介しなきゃだよな……俺はキリト。えっと、〝迷い人〟ってやつ……らしい」
キリト。その名前をルークは胸に刻んだ。
ポッカリと心のどこかに開いていた穴に、初対面のこの少年の名前が収まった気がしたから。
「そっか、ベクタの……あー、自分のことはわかるみたいだな?」
「あー、いや、すまん。自分の名前以外はわからないんだ」
「そいつは大変だな……出身や天職もか」
こくりとキリトが頷くと、ふむとルークは考え始める。
それを衛士として村に入れるか迷っていると取ったユージオは、ルークに心配げな目を見せた。
「んな目しなくても、追い返したりしねえよ」
「わわっ」
幼馴染が何やら勘違いしていることに気づいたルークは笑ってユージオの頭を乱暴に撫で回す。
ひとしきり髪をぐしゃぐしゃにすると、ルークはこちらを見て苦笑いしているキリトの方を見た。
「とりあえず、もう暗い。今晩は村に来いよ」
「いいのか?」
「困ったときは助け合いだ。だろうユージオ?」
「そうだね。ありがとうルーク。キリト、村の中を案内するよ」
「ああ、よろしく頼む」
頷くキリトに、ルークは右手を差し出す。
キリトは少し息を飲んで、それから不適に笑ってルークの手を握った。
「ようこそ、ルーリッド村へ。歓迎するぞ、キリト」
「とりあえず、今日は世話になるよ」
──おかえり。ようやく帰ってきたんだな、キリト。
心のどこかで、誰かがそう言った。
読んでいただき、ありがとうございます。