ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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今回は全て…と言うか最近ずっとそうだけど…オリジナル。

楽しんでいただけると嬉しいです。


黒の使者

 

 

 

 

「フッ──!」

 

 

 

 光の弦を五指で弾き、無数の音刃を解き放った。

 

 向かう先は、アドミニストレータへの道を妨げる障害として立ちはだかった黒き使者。

 

 文字通り音の速さでやって来た実体のない刃に、男は雷雲を操り結界のように防ぐ。

 

「この程度か、蒼竜の小僧!」

「まだまだァ!」

 

 挑発するように嗤うペーリッシュに、ライオットは対抗して声を張り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──最初に、ペーリッシュを見た時。

 

 

 

 

 

 

 

 ライオットの胸中には、言いようのない不安が立ち込めた。

 

 何故かはわからなかった。   

 

 だが、確かに彼は、その存在に穏やかでないものを抱いたのだ。

 

 

 

(初めて現れたのは、定期的に開かれる、互いの任務の状況を報告し合う整合騎士達の会合だったか)

 

 

 

 そこで、アドミニストレータの代理として初めて元老長チュデルキンと共に参席した。

 

 整合騎士団長や副団長ファナティオと、淡々と言葉を交わす様は堂々の一言。

 

 常に冷静沈着に意見を述べ、人界における統治やダークテリトリーとの境界の防衛任務を改善していった。

 

 そうして確かな実績を積み上げながら、決して必要以上に己を主張することはない。

 

 常に影のようにそこにいて、騎士達へ最高司祭の意思を伝える橋渡し役。

 

 非の打ち所のない、まさに最高司祭がその崇高なる胸の内を打ち明けるに足る相談役。

 

 それが騎士達の中での、ペーリッシュの印象だった。

 

 

 

 

 

 その完全さこそ、異様なものを直感した所以かもしれない。

 

 全く素性の知れない、天界から召喚されたという整合騎士より浮世離れした存在感。

 

 どこからやって来て、いつアドミニストレータに見初められ、その立場を得たのか。

 

 その真相は闇のように見通せず、時を重ねるほどライオットの中で不信は膨れ上がった。

 

 

 

 いつからだろうか。静かに語るその口が、不気味に裂けているように見え始めたのは。

 

 

 

 いつからだろうか。感情の見えないその瞳が、残虐な愉悦に歪んでいるように感じたのは。

 

 

 

 一体、いつからだろうか。

 

 

 

 その背中に伸び、壁に投じられた影を──巨大な怪物のように、錯覚し始めたのは。

 

 

 

(結局、その勘は正しかったわけだ──!)

 

 

 

 こうして《蒼竜の琴剣》を携え、敵として相対したことで確信した。

 

 吠え立てるように小刻みに共鳴する愛剣に言われるまでもなく、そのことを感じ取る。

 

 アレは、決して存在してはいけないモノ。

 

 ともすれば、アドミニストレータより遥かに滅ぼすべき邪悪な()()だと。

 

「貴様の企みはずっと知っていたぞ! 最高司祭の非道を知りながら、その屈辱を必死に堪え続ける顔は見ものだったなぁ!」

 

 ペーリッシュの周囲に、十以上の雷槍が形成される。

 

 術式を唱えることもなく、それらは凄まじい速度で射出され、空中で軌道を変えながら襲いかかってきた。

 

 何もかもが規格外の攻撃に対して、距離の近い雷槍から音刃で撃ち落とす。

 

 しかし、半数は刃をすり抜けてしまった。

 

「っく、間に合わないか!」

 

 素早く《蒼竜の琴剣》を両刃剣の形状に戻すと、攻撃に備える。

 

 

 

 

 

 まずは右からやって来た雷槍を、鋭い横薙ぎで相殺する。

 

 剣と槍が接触した瞬間、大岩がぶつかったように錯覚しながらもなんとか斬り捨てた。

 

 続けて、左とその斜め下から突貫してきたものを、二つの刃でまとめて明後日の方へに逸らす。

 

「ぐっ」

 

 そこで、腕が痺れて一瞬動きが止まった。

 

 待ってましたと言わんばかりに、不規則な軌道を描いて迫る残りの雷槍。

 

 高い威力を持つそれに、剣の天命を犠牲にして盾にしようと鈍い腕を動かした。

 

 

 

「──フッ」

 

 

 

 しかし、その前に雷槍はかき消される。

 

 ライオットの周囲を取り囲んだ超高速の剣陣は、軽やかな音で崩れていった。

 

 そうすると、ほど近くにいたバルドの手の中に直剣となって戻る。

 

「無事か、蒼角の」

「助かった。危うく相棒を傷物にするところだったぜ」

 

 冗談交じりの礼を述べながら、二人は並んで得物を構える。

 

 

 

 

 

 彼らの前に、ゆっくりとペーリッシュが空中から降りて来る。

 

 その顔には不敵な笑みが張り付き、竜の騎士二人の猛攻はまるで最初から無かったかのようだ。

 

「思ったよりも楽しめる。だが、生前の奴らには遠く及ぶまい」

「あんまり見下してると、足を掬われるぜ? 最高司祭相談役さんよ」

「我らの力、この程度と思うな」

 

 気丈に言い返すライオット達に、ペーリッシュは笑顔を不気味に深める。

 

 それから、ふとバルドへとその視線を投じた。

 

「バルド。バルド、バルドォ〜、哀れな騎士め。何もかも根こそぎ奪われ、復讐心で生き続ける亡者。ああ、哀れだなあ? 貴様の逃亡劇は、中々に楽しい見世物だったぞ?」

 

 ニヤニヤと歪む口の端からは、愉悦と暗い悦びの感情が浮かんでいる。

 

 バルドの懊悩を踏みにじるような言葉に、ライオットが殺気立った。

 

 しかし、それと反して愚弄された本人は眉の一つも動かしてはいない。

 

「ん? 言い返さないのか? これでも私は、お前を上手く弄ぶ為に色々と策を練ったのだがな?」

「幾らでも虚ろに叫ぶがよい。貴様の如き下郎の言葉、我が心に一片の揺らぎも与えはせぬ」

 

 享楽によって他者を貶める畜生の言葉など、この騎士には響きもしなかった。

 

 

 

 

 

 それよりも余程、衝撃的な出会いをしたばかりなのだ。

 

 これから数十年先まで、あれを上回る出来事はないだろう。

 

 故に、陳腐な妄言など間に受けるに値しない。

 

「ハハハッ、大した自信だ。やはり貴様が代行者の中で一番面白いぞ、バルドォ!」

 

 狂気的な色をこれでもかと滲ませて、目と口を見開いたペーリッシュが攻撃を仕掛けた。

 

 瞬く間に生成された極太の雷槍が、螺旋状に渦巻きながら唸りを上げて飛び出す。

 

 ライオットとバルド両方を狙い、その数は優に二十を超えていた。

 

「蒼角の!」

「応ッ!」

 

 一言で、歴戦の経験から互いの意思を通じ合わせた騎士達も動き出す。

 

 結合が解け、炎によって繋がれた刃の鞭が縦横無尽に宙を駆け巡った。

 

 それに合わせ、天井に向けて琴剣を構えたライオットが全ての弦を素早く弾く。

 

 

 

 カッ──! 

 

 

 

 ゴッ!! 

 

 

 

 ポロン────ッ!! 

 

 

 

 雷が弾け、恐るべき不可視の刃が大気を切り裂き、音の刃雨が降り注ぐ。

 

 互いが互いを殺す為の絶技は、見事なまでに相手に届くことなく対消滅した。

 

「さあ、もっと私を楽しませろ! その上であらゆる絶望を抱きながら死ぬがいい!」

「テメェの傲慢を後悔して死ぬのはそっちだ、ペーリッシュ!」

「その首、貰い受けるッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 騎士と黒き使者の戦いは、ようやくその幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「起きないなぁ」

 

 カセドラル八十階層、《雲上庭園》。

 

 そこに広がる花畑の一角で、イーディスは座り込んでいた。

 

 揃えた膝の上には、一人の少年がやや苦しげな寝息を立てながら横たわっている。

 

 無理に起こさず、されど放っておくこともできずに、こうして見守るように足を貸しているのだ。

 

「まったく……少し前まで戦っていたのに、ちょっと無防備なんじゃないの?」

 

 全くその気のない口調で言いながら、ルークの乱れた髪を指先で掻き分ける。

 

 少しだけ整えられた長い髪から、その奥に隠れていた横顔がより露わになった。

 

 

 

(十九歳だったっけ。結構大人っぽい顔をしてる)

 

 

 

 年齢以上の精悍さを感じさせるのは、果たして背負った信念の重さ故か。

 

 顰められた眉や、脂汗の浮かぶ鼻、苦しげに歪んだ唇を見て、そんなことを思う。

 

 きっとその表情や、頬に生えた鱗がなければ、さぞ整った顔立ちなのだろう。

 

「こんなこと男の子にするの、初めてなんだぞ?」

 

 もし触れたら痛いかもしれないと、鱗を避けて頬を突く。

 

 小さく呻き声を上げたルーク。合わせて身じろぎをして、少し仰向けになる。

 

 

 

 

 

 すると、一直線に切り裂かれたシャツの内側にある、岩のように割れた筋肉が垣間見えた。

 

 線に沿って走った傷は、もう塞がりかけている。尋常ならざる治癒力だ。

 

「エルドリエとかは貴族っぽい洗練のされ方だけど、こっちは磨き抜かれた原石って感じかしら」

 

 先刻の打ち合いで、並々ならぬ修練を積んできたのはすぐに分かった。

 

 それは体つきにも表れていて、そっと傷跡を隠す為に上着の裾をずらす。

 

「ん…………」

「うん?」

「ユージオ……アリ……ス…………キリ……ト…………俺が……必ず……お前ら……を……」

「……一体どんな夢を見てるのかしら」

 

 口の中で何事か呟いているのを見下ろし、また広がった髪を直す。

 

 なんだかそれが、昔誰かにやっていたように懐かしい感覚を思い起こさせた。

 

 

 

(もしかして、前の私は弟とかがいたのかな。それとも妹? ……うん、妹がいい。それもアリスちゃんみたいに可愛い子)

 

 

 

 そういえばアリスちゃんも妹がいるんだっけ、と独り言を呟く。

 

 自分も彼女も、本来の記憶は奪われ、それを確かめることは叶わない。

 

 だが、それを取り戻す為にこそ、この青年はこの場所まで昇ってきたのだ。

 

「ねえ。もし貴方達が最高司祭様から、アリスちゃんの思い出を取り戻して。その時貴方だけがいなくなってたら、悲しむとは思わないの?」

 

 起こさないよう、慎重に前髪を撫でながら、そんな質問を投げかける。

 

 当然、答えは返ってこない。

 

 それでもイーディスは、慈しむような手つきを止めなかった。

 

「私にはわからないけど。きっと、とても大切にしていたんでしょう? 本当の弟や妹のように、愛していたんでしょう?」

 

 出会ったばかりでも感じられるほど、言葉の節々に溢れた愛情。

 

 心の底から……自分の命と引き換えにしても守りたいと、そう決意するほどの存在。

 

 

 

 

 

 イーディスが守るべきとしている、人界と、そこに住まう民に向けるものとは異なる。

 

 それは整合騎士という、人界の守護者としての存在意義を証明する誇りであり、義務感だ。

 

「大義の為ではなく、大切な誰かのために……でも、そうしたら残された貴方の大切な人の心は?」

 

 もしかしたらいたかもしれない、〝愛する誰か〟の記憶が、今の自分にはない。

 

 けれども、深い愛情を以って接すれば、相手も少なからず同じものを抱くはずだと思う。

 

 その仮説は、変わり果てた彼を見て二人の青年が浮かべた表情を思えば、決して間違っていない。

 

「貴方が彼らを愛するように、あの子達だって貴方を愛してるんじゃないの? それなのに、全部諦めてしまったの?」

 

 よもや、彼らの心の中にだけ生きていればいいとでもいうのか。

 

 答えることができないのをいいことに、一番されたくないだろう質問を投げかける。

 

 

 

 

 

 しばらくの間、じっとその寝顔を見つめ続けていた。

 

 誰にも邪魔されることのない静寂が訪れ、緩やかに左右へ躍る聖花がそれを見守る。

 

「……なーんでこんなに親身になってんだろ、私」

 

 ふっと短く溜め息を吐いて、近づいていた顔を元に戻す。

 

 戦わないとは決めたものの、まだ仲間でも友人でもない男にどうしてここまで心を動かされるのか。

 

 強固な心意に感嘆させられたからか。

 

 それとも、自分がアリスを可愛がるように仲間達を思いやっていたからか。

 

 あるいは──

 

 

 

 

 

 

 

『あら。お姉さんに惚れちゃった?』

『……かもしれないな』

 

 

 

 

 

 

 

「……いやいや、それはないから」

 

 頭をよぎったものに、強く左右にかぶりを振って掻き消す。

 

 流石にそれが理由になることは、いくらなんでも初対面であり得ないだろう。

 

 普段は任務で東方の防衛に赴き、異性と関わりがないとはいえ、そこまで単純ではない……と思いたい。

 

 適当に相槌を打っただけ、という可能性も十分にありうる。

 

「それに、私とこの子じゃかなり歳が離れてる……って、なんか言い訳してるみたいになってるし」

 

 何だか思考がおかしな方向に向かっていくのを感じ、慌てて中断する。

 

「これはそう、アレね。騎士として、彼の高潔さに感じたものがあるだけ。うん、そうよ」

 

 誰が聞いているわけでもなし、うんうんと何度も頷いて。

 

 代わりとでも言うように、なんとなしにルークの頬へ手を添えた。

 

「早く目覚めなさい。使命を果たして……そして、貴方の大切な人達の為に生き延びて」

 

 そう、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハァ!」

「くっ!」

「ぐ……!」

 

 嵐のように降り注ぐ無数の雷に、ライオット達は全力に近い動きで逃げ回る。

 

 もはや、壮麗さの全てが失われた《霊光の回廊》を無慈悲に破壊する力の暴流。

 

 それは一つでも当たれば、大きく天命を損ずる死の凶兆に他ならない。

 

 

 

(こりゃ修繕が大変だな、なんて軽口も叩けねえッ!)

 

 

 

 強靭な意思で慄く体を律し、的確に雷を避けながら狙撃地点を探す。

 

 どこもかしこも破壊され尽くしているが、いくつかの場所はまだまともな足場として残っていた。

 

 幸いにも、雷が落ちてくる間隔は一定だ。気を見計らえば反撃も出来る──

 

「──そう思っているのだろう?」

「蒼角の!」

「っ!」

 

 嘲るような声と、鋭い警告に咄嗟に反応する。

 

 落雷の合間に飛び出そうとした足を止めれば、眼前に雷槍が降って来た。

 

 《蒼竜の琴剣》を使い、後ろへ跳躍すると空中で一回転して回避を試みる。

 

「どうした! 疲れてきたか!?」

「この、バケモンがっ!」

 

 息をつく暇もなく、容赦無く雷雲から頭上へ向かって迸る一条の光を躱す。

 

 不恰好な踊りを舞うようなその姿に、ペーリッシュの哄笑が響き渡った。

 

 

 

(おいおい、いくら何でもおかしいだろうが! 奴の雷は無尽蔵か!?)

 

 

 

 いくらなんでも、この雷は異質すぎる。

 

 神聖術ではないことを薄々感じてはいたが、それでもあまりに限界がない。

 

 

 

 

 

 神聖術が空間や自分の神聖力を、《武装完全支配術》が天命を大きく消費するように。

 

 全ての理には代償が存在し、いかに強大であろうとも終わりが必ずやってくる。

 

 故に、この強力無比な輝きの理不尽さは恐怖以外の何物でもない。

 

 

 

(何か、絡繰があるのか? アドミニストレータですら覆せない世界の法則を外れた、何かが──)

 

 

 

 反撃の機会を窺いながら、必死に打開策を考える脳裏に。

 

 ふと、底の見えない微笑みを湛える、あの白い使者の顔が過ぎっていった。

 

「…………まさか、そんなことが?」

「動きが鈍いぞ!」

「っ、くっ!」

 

 ペーリッシュが手を伸ばし、そこから唸るように発射された雷の球から横飛びに逃げる。

 

 床の上を転がって体勢を立て直すと、ようやく治まってきた落雷の向こうにいる男を見た。

 

 ペーリッシュは、突破口を開こうと攻撃を続けるバルドへニタニタと笑みを浮かべている。

 

 

 

(この世に生を受けたものではない。スワロウのように、世界の形を決めた神が生み出した存在──?)

 

 

 

 その仮説が、彼の中で現実味を帯びていく。

 

 異質な存在感も、終わりがない力も、まるで生前の四聖竜を知っているような発言も。

 

 何もかも、人界の始まりから全てを観測してきたあの男に似通っていた。

 

 

 

(だとすれば、奴の正体は一体……)

 

 

 

 次々と浮かぶ疑問に思考を裂きそうになったが、すぐに中断する。

 

 ペーリッシュの本性がなんであれ、打倒するべき敵であることには変わりがないのだ。

 

 

 

(今は、奴を殺すことだけを考える! ルーク達がアドミニストレータを倒しても、こいつが生き残っていては意味がない!)

 

 

 

 推察を一旦投げ捨て、ライオットは再び《蒼竜の琴剣》を構える。

 

 出現した弦に指を添え、放つ音刃の数と威力、軌道や距離を瞬時に計算する。

 

 秀でた知力を存分に使って全てを測り終えると、その指先が弦を弾いた。

 

 

 

 ポロン──! 

 

 

 

 流麗な音を立て、絶妙な力加減で形成された数十の音刃が乱れ飛ぶ。

 

 それらは雷雲を打ち破ろうと奮闘していたバルドを後押しするように、彼へ向かう雷を打ち消した。

 

「む──」

「────ッ!」

 

 ペーリッシュが眉を顰めた瞬間、バルドは銀光を煌めかせる。

 

 

 

 

 

 蛇腹状に展開していた剣を一つに戻し、腕から炎を伝わせて赤く燃え上がらせた。

 

 腰だめに構えられた、常人であれば大剣に匹敵する大型の直剣に炎と重なった光が宿る。

 

 キリトが言うならば、片手用直剣単発系ソードスキル、《バーチカル》の輝き。

 

「フッ──」

 

 竜の炎と秘奥義、二つの力を重ね合わせた一撃が薙ぎ払われた。

 

 猛々しいその一閃は、ペーリッシュの周囲に展開されていた盾の雷雲を一刀両断する。

 

「むう……!」

「ハッ!」

 

 続けて、流れる水のような連続の動きで直剣が蛇腹剣へと高速変化。

 

 バルドが腕を振るえば、命を持ったかのように動き出す。

 

 そして宙に漂っていた雷雲の残滓を消し飛ばし、ついにペーリッシュの全身を捕縛した。

 

「小癪な──!」

「セェア──ッ!」

 

 野太い叫びと共に、大きく全身を用いてバルドが《赤竜の尾刃》を操る。

 

 上へ向けて振りかぶった腕に従い、巻き付けたペーリッシュごと剣は空高く舞った。

 

「今だ、蒼角の!」

 

 次に叫ぶは、共闘する担い手へと。

 

 

 

 

 

「──それを待ってたぜ、バルド殿!」

 

 

 

 

 

 負けず劣らずの声量で答えたライオットは、既に《武装完全支配術》を展開していた。

 

 不敵に笑った目元に青い鱗を浮かばせ、一つに纏まった光弦を引き絞る。

 

 瞬く間に刃と刃の中心に収束した音塊が、使い手が手を離すと同時に解き放たれた。

 

 

 

 

 

 目に見えない刃の塊が、豪速で飛び去っていく。

 

 触れれば人と同じ大きさの金属塊すら細切れとする、必殺の一矢。

 

 それが、解けて退避した蛇腹剣が空中へ残したペーリッシュへと迫った。

 

「くっ──!」

 

 初めて顔を歪めると、ペーリッシュは両手を体の前で交差させる。

 

 滲み出るように再び雷雲が出現し、十分な厚みを生む前に音塊が到達した。

 

 

 

 激しい音を立てて、雷と音が衝突する。

 

 

 

 それは一瞬のことで、勢いが優った音塊は雷雲ごと男の身を吹き飛ばした。

 

 天井近くの壁に着弾し、新たな破片と土煙が爆発する。

 

「っと……」

 

 それを見届けた瞬間、ライオットの意思に関係なく琴剣から弦が霧散した。

 

「流石に、いくらお前でも日に二度の《武装完全支配術》は無理をさせすぎたか」

 

 大きく天命を減少させているだろう相棒を撫で、もう一度前方を見る。

 

 バルドの背中の向こう側、大扉に程近い付近の壁に待っていた土煙が薄れる。

 

「………………」

 

 そこに、ペーリッシュが埋まり込んでいた。

 

 高い耐久度を持つ壁を易々と砕く一撃を食らっても、その身が千々になっていないことに息を呑む。

 

 ありえない、と目を見開くライオットの視界の中で、不意にペーリッシュの指先が動いた。

 

 

 

「………………やってくれたな、小僧」

 

 

 

 低く、入り口近くに陣取ったライオットにもよく聞こえる声が響く。

 

 それまでの愉悦が消え、怒りが秘められた言葉を吐くと、男はゆっくりと赤い瞳を投じた。

 

「よもや、ここまで骨があるとは思わなかったぞ。せいぜい、奴らの残骸を振りかざして騒ぎ立てる小物と思っていたが……どうやら、もう少しやる気を出す必要があるようだ」

「「…………!」」

 

 その瞬間溢れ出た濃密な殺気に、ライオットもバルドも身構える。

 

 

 

 

 

 ペーリッシュは両手に力を込め、強引に穴から体を引き抜いた。

 

 そのまま垂直に落下してくると、地響きを立てて足の裏を床へめり込ませる。

 

「覚悟をしろ、塵芥共。貴様らを、この身で振るえる全力で消し炭にしてくれる」

 

 暗い声でそう言った途端、ペーリッシュの周囲にまた変化が起きた。

 

 現れたのは、やはり黒雲と黄金の雷。

 

 またそれかとライオットが思った瞬間、それらは見たことのない変化を始めた。

 

 

 

 

 これまで黒雲から生まれ、離れていた雷が、その太さを増して雲へ巻きつく。

 

 まるで中に包み込むように増殖した金雷は、やがて翼のない竜のような形へ変じた。

 

 次々に同じものが生まれ、あっという間にペーリッシュの周囲に十匹の雷龍が控える。

 

「さあ──最期に無様に踊って、私を楽しませろ」

「誰がテメェの歌で踊るか──よっ!」

「フンッ──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び、使者と騎士達の殺し合いが始まった。

 

 

 

 

 

 






読んでいただき、ありがとうございます。


次回、ルークが最後の眠りから目覚めます。
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