ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜   作:熊0803

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前回は大変なことになりましたね。

今回は丸々オリジナル。

楽しんでいただけると嬉しいです。


使者の最期

 

 

 

 

 

 カセドラル、五十階層。

 

 

 

 

 かつて《霊光の大回廊》と呼ばれたその広間は、今や廃墟も同然と化していた。

 

 その壮麗さはもはや永久に取り戻せないだろうと思えるほど、破壊され尽くしている。

 

 不朽の壁と同じ性質を持つ柱に支えられていなければ、塔は半ばから倒壊していただろう。

 

「ぐ……っ」

「ぬ、ぅ…………」

 

 その場所で、ライオットとバルドは膝をついていた。

 

 片や歴戦の整合騎士、片や心意すら自在に操る人界の人間最強の狩人。

 

 だがその威風堂々たる様は見る影もなく、屈強な体は無数の傷と血に染まっている。

 

 鎧は至る所が破損し、バルドの無敵の赤鎧も今はその炎を消沈させてしまった。

 

 携える武具も、竜具でなければとっくに粉砕していたであろう。

 

「このっ……屑虫、どもがァ…………ッ!」

 

 だが、その代償に、彼らは敵に同等以上の手傷を負わせていた。

 

 15メルも離れた前方から聞こえた怨嗟の声に、二人の騎士は顔を上げる。

 

 

 

 

 

 そこでは、自分達と同じように膝をついた使者が憎悪に目を染めていた。

 

 漆黒の執事服は無残に引き千切れ、全身は裂傷と矢傷だらけ。

 

 上腕の半ばから下が失われた左腕からは、人とは思えない、黄金の血を垂れ流している。

 

 だが、その絶大とも言える殺意にはいささかの衰えもなかった。

 

「このっ、私がっ…………至高の存在たる()が、貴様ら如き守護竜の残りカスの使い手にこうも傷を与えられるとはな…………ッ!!」

 

 アドミニストレータにすら匹敵する自尊心を損じたことへの、心底からの憤怒。

 

 尊大な口調は、自分の他の全てを見下していることが、ありありと感じ取れる。

 

「はっ……テメェが、何様だろうと知ったこっちゃねえ」

 

 それを鼻で笑い、全身を奮い立たせてライオットは立ち上がる。

 

 弦を弾きすぎて、壊死したように黒くなっている指先でもう一度琴剣を構え。

 

 切り傷と焦げ目に塗れた顔で、なおも不敵に笑ってみせる。

 

「この、ライオット様と戦った時点で。テメェは、とっくに冥界行き確定だ」

「…………然り」

 

 隣で、強く黒盾を地面に打ち付けたバルドが、その勢いで体を引き上げた。

 

 無骨な輝きを失った剣をも使い、巨岩のような威容を再び纏い直す。

 

「我らはかの残虐なる支配者を狩る者にして、人界の守護者なれば。貴様がどれだけ強大であろうと、決して屈しはせぬ」

 

 圧倒的な覇気に、不屈の戦意を燃やして対抗する。

 

 この三百年の中、彼の歩みを止められる者は、かつての友を除き誰一人としていなかったのだから。

 

 

 

 

 

 ペーリッシュは、不快そうに大きく顔を歪めた。

 

 俯いたまま不気味な動きで立ち上がると、ざっくばらんに切り裂かれた髪の中へ表情を隠す。

 

 そして、ゆらりと前触れなく露わになったその顔は──狂気的な怒りに満ちていた。

 

「調子に乗るなよ、(わっぱ)どもがァ──────────!!」

 

 

 

 バヂィッッ!!! 

 

 

 

 ペーリッシュの咆哮に呼応し、その周囲に金雷が多数出現する。

 

 これまでで最大最高のそれらは、百にも至る雷槍と、ひときわ大きな鉤爪を6本形成した。

 

「これで終わりだ!! 貴様らの愚かさを噛み締めながら、塵と化すがいいわァアアアアアッ!」

「バルド殿! 最終局面だ!」

「無論!」

 

 徐々に中へ浮かび上がり、金雷を従える狂気の使者へ、二人は最後の攻撃を試みた。

 

「死ねぇァアアアアア────ッ!!!」

 

 残った右腕が向けられた瞬間、すべての雷が一斉に飛来する。

 

 左右前後、上下全て、あらゆる角度とタイミングによる、圧殺攻撃。

 

 それをさらに上から叩き潰す、雷爪によるトドメの一撃。

 

 一つでも当たれば……否、掠りでもすれば骨も残らず絶命するだろう、絶死の雷鳴。

 

「オォオッ──!」

 

 真っ先に臆することなく飛び込んで行ったのは、バルドだった。

 

 それまでの長い戦いの中、途中から温存していた神聖力を全て鎧へと流しこむ。

 

 

 

 次の瞬間、大火山の噴火と見紛う大炎がカセドラルの天井を突き上げた。

 

 

 

 大いにその力を吸い取った赤鎧──赤き蛇竜の心意が、最高まで鎧を燃え上がらせる。

 

 作られたのは四枚二対、双方合わせて直径にして30メルに届きうる炎の翼。

 

 数千度を軽く超える獄炎が、岩山がそのまま突進するかのような彼の勢いを助長した。

 

 

 

 

 

 人型の要塞となったバルドの炎が、次々と生成される雷槍を悉く焼き尽くす。

 

 その後ろで、最初の位置に佇んだライオットは、深く深く息を吸い、それから吐いた。

 

「ふぅ………………力を貸せ、相棒」

 

 

 

 ──待ちくたびれたわ、たわけ。

 

 

 

 心に響く声に、口の端を吊り上げる。

 

 そうすると、琴形態になった《蒼竜の琴剣》をペーリッシュへと向けた。

 

 角度と重心を調整し、それがピタリと最高の位置に来た瞬間、術式を口にする。

 

「〝エンハンス・アーマメント〟」

 

 詠唱は省略。わざわざ式句を口にして力を発揮するような未熟な段階、とっくに過ぎている。

 

 顕現しうるは、前代未聞の、一日の中にして三度目の武装完全支配術。

 

 剣の天命値を限界間近まで削り取り、蒼き大竜の力を最大限にまで引き出してみせる。

 

「行くぞ……!」

 

 青い鱗が何枚も増加した目元をきりりと引き締め、ライオットは宣告した。

 

 酷使に酷使を重ね、限界を超越する一歩手前の体に喝を入れ、収束していない数本の弦に指を置く。

 

 そうして、一本一本の指に、全ての指を使った時と等しい莫大な力をかけて引き絞った。

 

 通常ならば、そんなことができるはずはない。

 

 だが、ライオットの()()()()()()という強い意志が、彼に力を与えていた。

 

 

 

 イイィイイイイイ!! 

 

 

 

 甲高い音を立て、琴剣の前に音の刃が集まり始める。

 

 何十、何百といった不可視のそれらが塊を成し──その音玉の数は、驚異の五つ。

 

 全てを一点に集中すれば、それこそ不壊の壁すら含め、この階層を横一直線に両断できるだろう。

 

 

 

(まだだ! まだ足りねえ!)

 

 

 

 だが、そうではない。

 

 ライオットが狙うのは、今か今かと隙を伺っている、あの金雷の大爪。

 

 全部で六本。全てを切り刻み、バルドが最後の一歩を踏み込む憂いを断つには、一つ足りないのだ。

 

 故に。

 

「ここが見せ場だ! さっさとそのクソみてぇに重い腰をあげやがれッ!!」

 

 

 

 ──まったく。お主という男は、いつまでたっても騎士らしくならぬのう

 

 

 

 やれやれと、艶やかで、かつ老獪な女の声は呆れ笑う。

 

 そして──ライオットの腕のすぐ側に、風が寄り集まって人外の腕が編み出される。

 

 目で捉えられぬ竜の小腕は、彼の指が引けなかった最後の弦を容易く引き絞った。

 

 新たな音の刃が収縮し、ついに六つ目の音塊が生み出される。

 

 

 

 

 

 準備は、整った。

 

 

 

 

 

「いくぜェ、バルドの旦那ァアアアアアッ────!」

 

 これまでの偽りの騎士としての生において、最大の戦いを共にした騎士へ。

 

 親愛を込めた叫びを届ければ──いつものように、最強の騎士は何も語ることはなく。

 

 ただ、その泰然たる背中で物語った。

 

「さあ! とくとご覧に入れよう! これこそは我が絶技! 幾度記憶を失おうとも絶えず磨き続けた、二百年の研鑽が集大成!!」

 

 ライオットの腕が、悲鳴を上げる。

 

 自らを壊しかねない剛力の枷を外したことで、あらゆる筋肉の筋から血が吹き出した。

 

 骨が砕けるその音を聞きながら、されど緋髪の騎士は不敵に笑って。

 

「我が一撃、その身で以って味わうがいい! 人類の大敵、闇より来たりし破滅の使者よ────!」

 

 

 

 

 

 

 

 ついに、その指を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 六つもの音塊が、一斉に解き放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 それは空を削り、同じ音を破壊し、光に迫る速さを得て飛翔して。

 

 

 

 

 

 

 

 黒き死者が従えた死の雷爪を、刹那の間に粉砕して見せた。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ──!?」

 

 最後の力を振り絞って作り出した切り札を砕かれ、使者が喘ぐように驚愕する。

 

 その驚きは集中力の全てを奪い去り、五メル先まで迫っていた騎士を押しとどめていた雷槍をかき消した。

 

 あらゆる障害、あらゆる困難を跳ね除け、乗り越えた炎の騎士は──その身にある全ての力を込めて、剣を引き絞った。

 

 炎が刃に収束する。死を常に眼前に置いた極限の闘争に、宿る赤き蛇竜の心意が歓喜に打ち震えた。

 

 その狂喜を抑え込むが如く、剣には血のように濃い鮮血の輝きが宿った。

 

 

 

 

 もしもキリトがこの場にいて、その構えを見ればこう呟くだろう。

 

 片手直剣用ソードスキル、単発系最終技──《ヴォーパル・ストライク》、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疾く冥府へと堕ちるが良い、人の皮を被りし怪物よ────ーッ!」

「貴様、らぁアアアアアアアアァアアアアア──────────!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もはや、ペーリッシュは叫ぶことしかできず。

 

 

 

 

 秘奥義の力に従って、ライオットの音刃に等しい速度で疾走したバルドの。

 

 

 

 

 

 暗黒領域の大空よりも赤い輝きによって、その胸を正面から貫かれた。

 

 

 

 

 

 

 凄まじい速度で射出された蛇腹の刃が、本来の飛距離を超越して彼の肉体を貫通する。

 

 それは留まることを知らず、ペーリッシュの後ろにあった大扉を破壊して、昇降盤の手前に突き刺さることでようやく停止した。

 

 

 

 

 

 カセドラル全体を揺るがす程の激震が、《霊光の大回廊》を直接襲う。

 

 それは何秒、何十秒と続き、たっぷり3分もの時間を要してからようやく鎮まった。

 

「………………」

 

 ライオットが、それを睨め付け。

 

「………………」

 

 バルドが、銀の瞳でじっと確かめるように見つめる。

 

 そんな二人の前で──胸に大穴を開けたペーリッシュは、絶命していた。

 

 裂けるように口を開き、目玉が零れ落ちんばかりに双眸を開いて。

 

 この世の悪意全てを煮詰めたような、恐ろしい表情で。

 

 その天命の最後の一つまで、失っていた。

 

「フッ!」

 

 バルドが鋭く腕を引き、剣を手元に戻す。

 

 刃は一つに纏まっていき、その反動で傾いたペーリッシュの体は床に伏せた。

 

 数秒の間、立ち上がりはしまいかと警戒を続ける。

 

 しばらくしても立ち上がる気配がなかったので、ほっと安堵の息を吐いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バリィイイイィッ!!!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさにその時、ペーリッシュの体が内側から弾けた。

 

 少しだけとはいえ気を緩めていたライオットとバルドは、己の失態を悔いながら構える。

 

 だが、使者の体を内側から粉々に砕いたそれ──黄金の雷を見て、すぐに硬直した。

 

 

 

 

 

 ゴガァァアァアァア!!! 

 

 

 

 

 

 六枚の翼と四本の脚、四つ首の怪物の姿をした金雷が、咆哮のような雷鳴を奏でる。

 

 目に相当する部分を仄かに赤く染めたそれは、天に向かって今一度吠え立てると霧散した。

 

「今のは……」

「…………竜、だと?」

 

 

 

 

 

 

 

 ──おのれ。所詮、脆い人の身では我が(いかづち)の一部も使えぬか

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間。脳裏に滲み出た悍ましい声に、全身が震え上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──せっかく神気取りの女を使い、竜どもを殺して武具に封じ込め、この箱庭を堕落させたものを

 

 

 

 

 

 

 それは、この世のあらゆる悪が凝縮されたような、聞くだけで気が狂いそうになる声。

 

 

 

 

 

 

 

 ──まあ良い。これだけ腐れば、目覚めた時に喰らうには十分な塩梅よ

 

 

 

 

 

 

 

 どこから響いているのかもわからない声に、二人は冷や汗を流す。

 

 

 

 

 

 

 

 ──待っているがいい。いずれ、混沌と破滅の中で、地の底より我が目覚めるその時を

 

 

 

 

 

 

 

 それきり、声は途絶えた。

 

「──くはっ!? はぁッ、はぁッ!」

「っ…………ふ」

 

 体を縛り付けるような威圧感も消え、思い出したように大きく呼吸をする。

 

 十分に呼吸を整えてから、ペーリッシュの死体があった場所を見た。

 

 そこには黒焦げた何かの欠片が散乱しているのみ。何も残ってはいない。

 

「……バルドの旦那。今のは」

「…………うむ」

 

 小さく首肯し、同じ考えにたどり着いていることを示唆する。

 

 一瞬顔を強張らせたライオットは、深くため息をつくとその場に尻から座り込んだ。

 

「はぁ……ったく、散々な目にあったぜ。これほど死を間近に感じたのは初めてだぞ」

 

 

 

 ──無駄に長い退屈な日々から目覚めるには、良い刺激になったであろう? 

 

 

 

 揶揄うように言う声に、「んな訳あるか」と悪態を返す。

 

 そんなライオットの隣に、バルドもどっかりとその体を床に落ち着かせた。

 

 いかにこの男といえど、あれとの熾烈な戦いは相当に堪えたのであろう。表情に濃い疲労が滲んでいる。

 

 

 

 

 しばらくぼんやりとしていたが、やがてふと手元を見下ろす。

 

「…………この指じゃ、当分は弦を引けねえな」

 

 感覚がほぼない、震える指先を見て諦めたように笑う。

 

 この体たらくでは、とてもルークを追いかけて助力することは叶うまい。

 

 そこまで考えて、隣にいるバルドの様子を伺う。

 

 どこまでも己の復讐心と使命に忠実な彼は……しかし、瞑目して口を噤んでいた。

 

「あんたはいいのかい、旦那。俺よりも長く、それこそ団長と同じくらいの長い間、この時を待ち続けたんだろう?」

 

 ただ復讐のために、三百年に及ぶ日々を過ごし続けるなど、並大抵の精神ではない。

 

 あるいは壊れているからこそ耐えられたのだろうかと、不遜なことを勘ぐってしまう。

 

 だが、彼は一切の怒りを見せることも、冷酷な言葉を発することもなく。

 

 見開いたその目には、澄んだ色があった。

 

「…………あの者であれば、我が宿願を託すに相応しかろう」

「……あんた、やけにルークのことを気に入ってないか? 一体何があった?」

「貴様がそれを言うか、蒼角の」

 

 一瞬きょとんとして、すぐ後にそれもそうなんだがな、と頬を掻く。

 

 なんだか放っておけないあの青年を思い浮かべると、どうにもむず痒い気持ちになる。

 

「これも先輩心ってやつかねえ」

「そうか」

「そうかって、あんた相変わらず無愛想──」

「ご歓談中のところ、失礼いたします」

 

 自分の言葉を遮った何者かの声に、驚いて後ろを振り返る。

 

 

 

 

 

 すると、そこには光の扉を背に、怪しげな笑みを浮かべる白い男──スワロウが立っている。

 

「んだよ、お前か。驚かせやがって」

「申し訳ありません。しかし、尋常でない戦いでしたので。支援が必要と思い、参りました」

 

 そう言って、スワロウは唐突に指を鳴らす。

 

 すると床の上に神聖術の円環が現れ、ライオットとバルドを悠々とその光の中に飲み込んだ。

 

 みるみるうちに傷が塞がり、全身を苛む痛みが消えていく。

 

 あれだけの重傷を完全に治療すると、二人へ向けてニコリと笑いかけた。

 

「このようなものでいかがでしょう?」

「やってから言うんじゃねえよ。まあ、助かった」

「礼を言う、古き使者よ」

 

 軽くなった体に力を込め、ライオットとバルドは立ち上がる。

 

「許せ、使者よ。貴様の策を無為にした」

「お気になさらないでください、バルド様。元より貴方様の望むがままの道を行くことを私は願っておりました」

「……貴様も奇妙な男だ」

「何せ、四百歳を超えておりますから。それに結果を見れば、あながち無意味とも言えません」

 

 ペーリッシュの残骸を一瞥し、お茶目に片目を閉じるスワロウに苦笑が漏れる。

 

 あの黒き使者を打倒したことは、今後を考えれば大きな戦果だろう。

 

 とはいえ、代償に疲労感や体力の消耗までは元に戻っていないようで、酷く怠い。

 

「竜具の天命も限界だし、残念だが俺達は脱落だな」

「…………口惜しいことよ」

「申し訳ありませんが、私の術では神器級のオブジェクトの天命値を操作することはできません」

「とすると……後は、あいつらに賭けるしかない訳だ」

 

 ライオットの言葉につられ、全員が上層へ向かう奥の扉だったものを見やる。

 

 後を託した同胞と、整合騎士をも打ち倒した彼の仲間達。彼らに希望を託すしかない。

 

 

 

(信じてるぜ、ルーク。お前ならきっと、アドミニストレータを倒すことが──)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュラァアアアアアァアアアアァァアアアアアァァアアアアァアアアアァッ!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として。

 

 

 

 

 

 骨の髄まで突き刺すような、恐ろしい咆哮が重圧を伴って彼らを襲う。

 

 

 

 

 

 先の金雷に匹敵する、魂までもが震え上がる力強い雄叫び。

 

 

 

 

 

 その声は、カセドラルの地下牢にまで響き渡り、深く眠っていた看守が飛び起きる。

 

 

 

 

 

 その声は、風に乗って央都セントリアにまで届き、ふと学院の中庭にいた少女が空を見上げ。

 

 

 

 

 

 その声は、ダークテリトリーとの境界に向けて飛んでいた女騎士の耳に入り、彼女は塔に振り向いた。

 

 

 

 

 その声は。

 

 

 

 

 

 何故か、ライオットを、バルドを、スワロウまでもを。

 

 

 

 

 

 とても、悲しい気持ちにさせた。

 

 

 

 

 

 長く、何度も壁に反響して響き続けた咆哮は、やがて小さくなっていく。

 

 最後の木霊が消えた時、ライオット達はどっと全身から冷や汗を吹き出した。

 

「っ……なんだ、今のは」

 

 今まで聞いたこともない、何かの雄叫び。

 

 それは自分の誕生を叫ぶような、己を何かに知らしめるような、そんなもの。

 

 人ではなく、獣でもない。騎士でもなければ、当然アドミニストレータでもあるまい。

 

「…………白き…………翼」

「…………何?」

「血濡れた、宿命を背負いし翼…………高く飛び立ち……神の喉へと喰らいつかん……かの賢者なりし黒き竜は、我にそう天啓をもたらした」

 

 天井を見上げ、ポツリポツリと無意識のように零すバルドに、ライオットも上を見る。

 

 しばしの間、穴だらけの天井を見つめ続け──やがて、何かに気づいて大きく目を見開いた。

 

「まさかっ!」

「……ライオット様」

「スワロウ! バルドの旦那! 行くぞ!」

 

 彼らの答えも聞かずに、ライオットは走り出す。

 

 その目には焦燥が満ち、何か怒りを堪えるように口元は戦慄いていた。

 

「あのっ、馬鹿野郎っ。まさかっ、まさかあれをっ!」

 

 

 

 

 

 あの、禁断の秘術を。

 

 

 

 

 

 そう呟いた自分の背中が、氷の茨で撫でられたような気がした。

 

 

 

 

 

 





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