ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
楽しんでいただけると嬉しいです。
「──なるほどな。目が覚めたら森の中にいて、それからすぐユージオに出会ったわけか」
「ああ、そういうことになるな」
「はじめてキリトに会った時はびっくりしたよ。いきなり森から人が出てくるんだから」
村の各所を案内しつつ、三人は会話を交わしていた。
その結果ルークがわかったことは、どうやらこのキリトという少年はなかなかに気さくであること。
ハキハキとした口調、周りを見る際の興味深げな目線、そして会話をする中での落ち着いた雰囲気。
道中、自分のことを聞いてくる村人たちにも丁寧に応答し、非常に好感の持てる性格をしている。
記憶がないという割には、随分としっかりした少年だ。
《ベクタの迷子》になる前はどのような天職を持っていたのだろう、と気に掛かるルークであった。
「ああそうか、それで合点がいった。あの奇妙なくらい的外れな音は、キリトがギガスシダーを削る音だったんだな」
「うぐ……」
「あはは。でもキリト、案外筋がいいんだよ。教えてるうちにどんどん上達していったんだ」
ほう、とバツが悪そうな顔をしているキリトを見やる。
飲み込みが早いのは
はてと考えようとしたものの、まあそんなことはいいかと勝手に頭の中で片付ける。
「それで、二人はどんな話をしてたんだ?」
「話、か?」
「ああ。こいつ、優男に見えて頑固なとこあるんだ。案外仲良くなるのは困難だぜ?」
「ちょっと、ひどいよルーク」
悪い悪い、と全く悪びれた風に言わないルークにユージオはため息を吐く。
(……やっぱり自然すぎる。ユージオとの接触でただのNPCじゃないのはわかってたけど、同じ《アンダーワールド》の住人同士でも人間としか思えない滑らかさで会話している)
「ん? どうしたキリト?」
「あ、ああいや、ちょっと思い出そうと、な」
「そんなに前のことでもないだろう? まあ、たわいもないことだよ。《果ての山脈》のことや、闇の軍勢のこと……それと、整合騎士のこと」
「……そうか」
ユージオの言葉に、さっとルークの顔に影が差した。
先程までの様子は鳴りを潜め、低い声で返答するルークに、ふとキリトはユージオに聞いた話を思い出した。
6年前。《禁忌目録》を破り、整合騎士に連れ去られたユージオの幼馴染。
連れていかれる彼女を助けようとしたユージオを押さえつけたのは……確か、彼のもう一人の特別仲の良い少年。
そこまで考えて、察しの良いキリトはなんとなく事情を察して顔を引き攣らせた。
すなわち──やべぇ地雷踏んだ、と。
「あ、あとはザッカリアのこととかな!」
「あの街のことか。ま、ここらで都会っていやぁあそこくらいのもんだよな」
苦し紛れといった様子のキリトの言葉に、すぐにルークが乗った。
それからユージオもすぐに加わって、会話をするうちに変な空気も霧散していく。
「そういえばずっと気になってたんだけど、それは?」
その中で、ふとキリトがあるものに目線を向ける。
それはルークが肩から下げている、細長いもの……白い鞘に収まった剣だ。
「ああ、これか? まあちょっとした貴重品みたいなものさ」
「見た所刀……ああいや、剣みたいだけど。衛士はみんな持ってるのか?」
「まさか。そんな
「命知らず?」
しまった、思わず口が滑った。
そう思ったルークだが、既にキリトは興味を示している。
言ってしまった自分の落ち度か。そう諦めたルークは軽く溜息を吐き、話し出した。
「こいつはな、《果ての山脈》にあった白竜の遺骨、その牙から削り出したんだ」
「ルーク、話してもいいのかい?」
「そりゃ
暗にアリスのことを話しただろう? と言うルークに、ハッとユージオは言葉とともに息を呑む。
「竜の牙から? つまりギガスシダーを削る《竜骨の斧》と同じってことか?」
「ああ。こいつを剣の形にするのには苦労したぜ。コツコツと貯めてた金を全部使って、ザッカリアから高価な砥石をいくつも取り寄せたんだからな」
「そりゃまた、すごい代物だな」
「ああ、だがまあ困ったことにな……
ルークの突拍子も無い言葉に、さしものキリトも面食らった。
わざわざ牙を削って作った剣が抜けないとはどういうことか。見た所、肩にかけるための紐以外なにも付いていない。
(何かシステム的なロックがかかっているのか? いや、たとえそういう権限が付与されてたとしても、これは最近作られたもののはずだ)
ルークの口ぶりでは、あの刀のような剣が作られたのはそう昔の話でもないだろう。
であれば、削り出した者が何かをしたのか。そう勘ぐるが、疑問を解決するには材料が少ない。
「細工師のおっちゃんもびっくりしてたぜ。完成して鞘に入れたら、途端に抜けなくなったっていうんだからさ」
「なるほど……不思議な話だな」
「いや、そうは思わない」
「え?」
思わず間抜けな声を上げるキリト。
それからユージオと自分の間にいるルークを見ると、その目はどこか遠くを見据えていた。
「この剣は、相応しいものを選ぶんだ」
「相応しいもの?」
「ああ……きっと。俺の覚悟が本物になった時に、こいつは答えてくれる。そんな気がする」
これはまた、実に迷信的な理由だ。ユージオも苦笑をこぼしていた。
だがルークの横顔は、その自分の考えを心から信じていた。
それはまた、どうかそうであれと願っているようでもある。
「……そっか。いつか抜けるといいな」
「おうよ、まだまだ精進の日々だ」
力拳を作るように片手をあげ、ルークはニッとキリトに笑いかけた。
「ザッカリアのことも聞いたってぇと、衛士が参加できる剣術大会のこととかも聞いたのか?」
「へえ、そんなのがあるんだな」
そう受け答えしたキリトの視線が、ちらりと自分の腰の剣に向かったのをルークは見逃さなかった。
「そうだ、どうせならうちでちょいと剣を使ってみるか? 俺が練習に使ってる丸太があるんだ」
「ちょっと、ルーク?」
「いいのか?」
「ああ。まだそこまで日は沈んでないし、少しくらい寄っていっても問題ないだろう」
キリトの寝床の確保場所として、三人は村の教会のシスター・アザリヤを頼ろうとしていた。
幸いにも、ルークの家は教会からそう離れていない。今日門番をしていた南門とちょうど中間くらいにある。
ユージオが訝しげな目を向けてくるが、ルークには衛士としてこの少年を見極める義務がある。
「それなら、ちょっとお邪魔させてもらおうかな」
「よし、そうとなれば善は急げだ!」
「うわっ!」
「ちょ、ちょっと!」
またも困惑する二人の手を引き、ルークは快活に笑いながら自宅に向けて走り出した。
ああ──なんとなく、懐かしい。そう思いながら。
「着いたぞ。ここが俺の家だ」
「ゼェ、ゼェ……」
「い、いきなりは困るよ……」
「なっはっは、鍛えたりないぞ?」
今日の仕事を終えたユージオと、本日きこり初体験のキリトは突然の疾走に体力を使い果たし、両手を膝に置いて撃沈していた。
午後はたっぷりと休憩(門番)をしていたおかげでそれなりに元気なルークは、腰に手を当て笑う。
「そら、こっちだ」
二人の調子がある程度整うのを待ってから、普段修練をしている裏庭へと案内する。
そこは朝と変わらず、練習用の木剣と真新しい丸太だけが存在していた。
「ほれ、握ってみろ」
「ああ、借りるよ」
腰から衛士用の剣を抜き、キリトに手渡す。
受け取ったキリトは、二人が離れたのを確認してから軽くそれを振った。
「よっ、と!」
「ほう、なかなか様になってるな」
「まあな……こっからが本番だ」
不敵に笑ったキリトの雰囲気が、ふっと変化した。
丸太に視線を向け、上半身を少しかがめる。腰を落とし、右半身を引いた。
一連の動作を終えるまで、ほんの一、二秒。少なくとも素人でないことを、ルークは鋭く推測した。
「──ふっ!」
次の瞬間、鋭く呼気を放ってキリトは一歩前の足を踏み出した。
(踏み込みが早い!)
「はぁああっ!!」
気合い一閃。
剣を
また、それに伴い吹いた一陣の風が止んだ時……ずるり、と丸太の半ばから上がずり落ちた。
「すごいよキリト! そんな技が使えるなんて! もしかして、大きな街の衛兵だったんじゃないか?」
「……」
キリトの剣技を褒めそやすユージオの隣で、ルークは限界まで目を見開いた。
(──なんだ、こいつの綺麗な剣は)
キリトの動きを見るために集中していたルークの目には、その動作が細かな所まで見えていた。
剣の持ち方。体重の移動。踏み込みのタイミング。刃を入れる角度。刀身の長さから丸太までの距離。
その全てが完璧。
まるで辛く厳しい戦いの中で鍛え上げられたような、強さと繊細さを併せ持った剣。
こいつと戦いたい。
剣使いとしてのルークの純粋な闘争本能が、思わずそんな言葉をはじき出した。
「──お前、いつの間にかそんなに強くなってたんだな」
「え?」
「ルーク? 何言ってるの?」
「……え、あれ? 俺、何か言ったか?」
「変なルーク。それよりキリト、本当にすごかったよ」
「あ、ああ。ありがとうユージオ」
かろうじて返事をしたキリトは、何か疑問があるのか、自分の握った剣をじっと見下ろした。
「あら? ルー君帰ってたのね。それにユージオ君もいるじゃない」
「あ、おばさん」
そんなキリトをルークが見つめていると、後ろから声がした。
振り返れば、そこには若干汚れた顔にのほほんとした笑顔を浮かべている母。
その顔を見ていると、なんだか、いつの間にか張り詰めていた気分が解けていった。
「うちに来るのは久しぶりね〜。ご飯食べていく?」
「ありがたいですけど、平気です」
「あら、残念。それと、そちらの子は……」
「……母さん、こいつはキリト。ユージオが連れてきた《ベクタの迷子》なんだ」
「まあ! それは大変だったのね」
お人好しであるセフィアは、本当に心から心配するようにキリトに駆け寄るとあれこれと聞いた。
記憶がなくて心細くないかとか、今夜はどうするのかとか、矢継ぎ早に聞く彼女にキリトは狼狽える。
そんな様子にルークとユージオは互いに肩をすくめ、事情をセフィアに説明した。
「そう、アザリヤさんのところへ……それなら心配いらないわ。彼女はとても親切ですもの」
「ああ。じゃあユージオ、あとは頼めるか?」
「あれ? ルークは一緒に行かないのか?」
「ああ。いきなりうちに連れてきてすまないが、教会は……な」
気まずげに言うルークに、例の件に何か絡んでいるのだろうと察したキリトはそれ以上追求しなかった。
「ユージオ、すまん」
「いや、いいんだ」
自分と同じく、あの件を気に掛けているユージオにまるで押し付けるようで、ルークは心苦しかった。
教会に違い村中央の広場へ行く二人を、ルークはセフィアと二人で、その姿が見えなくなるまで見送った。
「……ルー君」
「ん? どうした母さん?」
ぎゅ、と手を握られる感覚。
驚いて隣の母を見下ろせば、彼女は心配げな目で息子のことを見上げていた。
「あまり、思いつめないでね」
「……ああ、そうするよ。ありがとう母さん」
そう返事をして、ルークはもう一度キリト達の行った方を見るのだった。
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