ソードアート・オンライン アリシゼーション Imagenary Fabricte ~光を照らす執行者〜 作:熊0803
今回は北の洞窟へと。
停滞した時間が動き始めますね。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ライオットは、そっと彼女に歩み寄る。
その音を聞きつけ、震えた肩に両手を添えた。
「顔を上げてください、母上殿。俺は貴女に頭を下げられるような男ではない」
セフィアが驚いて顔を上げると、緋髪の騎士は自嘲げな笑みを浮かべている。
「俺は、ずっと怯えていた。あいつが一人でなすべきことを成し遂げてしまい、置いていかれた気がして」
「騎士様……」
「貴女のように強い心を持った母がいるあいつが、羨ましい」
きっと、ルークはこの女性から無類の優しさと、あの父から無双の強さを受け継いだのだ。
剣の腕ではなく、心の強さ。決して穢されず、曲がることのない……絶対の意思。
かつてはそれに匹敵する矜持を掲げていたというのに、いつの間にか先輩風を吹かせられなくなっていた。
(足踏みをするのはここで終わりだ。俺も、もう一度あいつと……自分と、向き合わなくちゃな)
決心したライオットは、しっかりとセフィアの目を正面から見つめる。
「我が矜持に誓い、貴女の望みを叶えよう」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。ただし、今のあいつは本当に危うい。だから、どうか俺の後ろから出ないこと。それだけを約束してほしい」
「でも……いえ。わかりました。どうかよろしくお願いします、騎士様」
もう一度頼み込むセフィアへ確と頷き、ライオットはその肩から手を離す。
そうすると身を翻し、開いた片手を虚空へと向けた。
──イイィイイ
一人でに《蒼竜の琴剣》が地面から引き抜かれ、彼の手へと飛んでいく。
愛剣を受け止めた彼は、既に姿勢を低くしていた蒼星の背へ乗り込んだ。
剣を鞍の帯に嵌めて手綱を握り、セフィアの前まで移動させると片手を差し伸べる。
「どうぞ、母上殿」
「……失礼いたします」
自分の手に乗せられた白い手を掴み取り、一気に引き上げる。
驚くほど軽い彼女の体は浮き上がり、「ひゃっ」と悲鳴を上げる間にライオットの背後へ乗った。
「では、俺の胴に腕を。激しく揺れるので気をつけて」
「は、はい」
二本の腕が体に回され、キュッと弱々しい力が込もる。
やや頼りないそれを確かめつつ、ライオットは相棒の腹を具足の側面で軽く叩いた。
「行け!」
ギュアアア!!
大きく鳴いた青星が、一対の翼をはためかせて宙へと浮かんだ。
滑走路がないため、助走をつけられずに数度羽ばたきを繰り返し、高度を上げていく。
十分に地上から離れたところで、《果ての山脈》へ尖った鼻先を向けて飛行を始めた。
あっという間に、先ほどまでいた池が後方に流れていく。
セフィアは必死にライオットに掴まりながら、細めた目で下を見下ろし息を呑んだ。
「蒼星、今日はこれで最後だ。もう一踏ん張り、根性見せてくれ」
「あ、あの! 騎士様、これから一体どこへ!?」
「北の洞窟に。おそらく、そこにあいつはいる」
先ほど、《蒼竜の琴剣》に宿る意思が共鳴で教えてくれたのだが、説明が複雑なのでそう教える。
納得したのか、それきり彼女が質問をしてくることはなく、全身に力を漲らせた蒼星に任せて大空を飛んだ。
(待ってろよ、ルーク。俺は、今度こそお前を──!)
じっと見つめる《果ての山脈》は、いつまでもその連なる山々の大きさを変えはしない。
だが着実に接近しており、あっという間にルーリッドの上空を通過すると北方へ進路を変えた。
赤と橙が入り混じる森を超え、双子のようにつながった二つの大湖水を飛び越え。
ものの十数分で、《果ての山脈》がすぐ目の前にやってくる。
「よし、降りるか。母上殿、洞窟というのはどこに?」
「山脈の麓に、ひらけた場所があるはずです。きっとそこに……」
「なるほど……ん?」
彼女の言葉に従い、下を見下ろす。
そして、訝しげな唸りを漏らした。
幸いにも、すぐにその場所は見つかった。
草木が根絶し、岩肌が露出した大地に杭のような岩が不規則に乱立している。
その中心には小川が南の方面へ流れ、突き当たりにぽっかりとした大穴が口を開けていた。
「あれは……」
しかし、ライオットが注視しているのはそれではない。
岩肌の上に、黒い鎧と皮膜が特徴的な灰白色の飛竜がいたのだ。
その傍らには当然、鎧を纏う騎士がおり……こちらを驚いた顔で見上げている。
(なんであいつがここに……とにかく、一度着陸するか)
手綱を引くことで合図を送り、蒼星を岩場へ降下させていく。
訓練された緩やかな動きで、相棒は難なくその飛竜と騎士の近くに降り立った。
「っと。着きましたよ、母上殿」
「あ、ありがとうございました」
先にセフィアへ手を貸して、彼女を蒼星の背中から地面へと下ろす。
頭を鎧の上から撫でて感謝を告げ、ライオットも立ち上がると一息に飛び降りた。
そして、腕組みをして待ち構えていた、その女騎士へと視線を投じる。
「まさか、こんな所でお前に会うとはな。イーディス」
「ライオット。貴方こそこんな辺境に何の用?」
「ちょいと人探しだ。まあ、今は別件だがな」
「そうみたいね」
ちらり、と彼女はセフィアへ視線をよこす。
彼女は怯えるように肩を震わせ、すぐに視線を戻したイーディスへ今度はライオットが問いかけた。
「お前こそ、偵察任務はどうした? いつもの調子なら、そろそろカセドラルに戻る頃だろ?」
「私も人に会いに。アリスちゃん達の様子が気になってね。まっ、
「だろうな」
軽い言葉遊びを交わして、じっくりと互いの目の中を覗き込む。
ほんの数秒の沈黙。騎士達の視線が絡み合う。
ライオットとイーディスの関係は、特段親密なわけでも、険悪なわけでもない。
ある意味では良好な、同じ騎士団の仲間であるが、この時ばかりは張り詰めた雰囲気であった。
「…………どうやら、目的は同じようだな」
「そう、なのかしらね。貴方が連れているその人は?」
「あいつの母親だ」
「っ……何を考えているの? 今彼に会わせたら……」
「承知の上だ。お前も守るのを手伝え」
「……はぁ。普段は副長に怒られてばっかりの私が、まさか振り回される側になるなんてね」
やれやれとかぶりを振りつつも、イーディスは拒絶する様子を見せなかった。
長年の関係で了承の意を察すると、踵を返して洞窟の方へと向かう。
イーディスも歩き始め、セフィアはやや困惑しつつ彼等に追随した。
●◯●
洞窟の中は薄暗く、視界を確保するのが困難だった。
その為、ライオットが《蒼竜の琴剣》を仄かに発光させ、これを頼りに奥へと進んでいく。
ライオットを先頭に、後ろにセフィア、殿をイーディスが務める。
「寒いな……」
「あら、貴方ともあろう騎士が弱音?」
「バァカ、俺じゃねえよ。母上殿のことだ」
「あの、私のことは気にせずに……くしゅっ」
「ほらな」
ライオットは立ち止まり、剣を突き立てる。
そうすると留め具を弄ってマントを取り外し、彼女の肩にかけて首の周りで結んだ。
「これでいくらかマシなはずだ」
「……感謝します、騎士様」
「いや、何。あいつに会う前に風邪でも引かれたら寝覚めが悪いからな」
親身な笑顔を向けるライオットに、セフィアはなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。
イーディスが「かっこいー」などと茶化すと、渋くなった顔を正面に戻して進み始めてしまった。
唯一の導きである彼の後を、足手纏いにならないよう必死に足を動かす。
静謐な雰囲気に包まれた洞窟内は、小川の流れる音だけが響いていた。
水面に浮かぶ氷が、時折、他の氷や壁とぶつかって軽い音を立てる。
その際に飛び散る極上の破片が、琴剣の輝きに反射して謙虚に輝いた。
「不思議な所ね……何かを感じる」
「あいつがいるからかもな」
徐々に氷に覆われていく壁や地面は、この先に待ち受けるものの残酷さを予告しているよう。
自分が吐く息の白さに少し驚いていると、不意にセフィアがイーディスへと振り向いた。
「あの……無礼を承知でお聞きするのですが。騎士様は、どうしてここへ?」
「えっ? 私?」
「はい。ライオット様は私の願いを聞き、送り届けてくれました。しかし、何故貴女様はこの洞窟に……?」
よもや、ルークをどうにかするつもりではないのか。
そんな不安の入り混じる表情に、イーディスは苦笑せざるを得なかった。
確かに彼女からすれば、一人洞窟の前にいた自分は怪しく思えてしまうだろう。
「私もライオットと同じよ。彼の様子を見に来ただけ。あの時、アリスちゃん達と合流するまで最後に一緒にいたのは……私だから」
「そうなのですね……」
「ええ。それに……」
ふと、続きを言葉にすることを思い留まる。
(彼と、約束したから)
あの時託されてしまった約定を、果たすべきか、そうでないのか。
変わってしまっただろう彼に会い、見極める為にも、イーディスは今ここにいるのだ。
(ただの口約束と言われればそれまで。今はもっと大事なことが沢山あるのは分かってる。だけど……)
あの時、庭園で言葉を交わした彼の顔を思い出す。
それが半年もたった今もなお、イーディスの心を惹きつけたままでいた。
優しさ。慈しみ。悲しみと寂しさ。
あらゆる想いを含んだあの微笑みに、燻んでなお圧倒される意志を秘めた黄金の瞳に。
あの一瞬だけ、イーディスは心奪われたのだ。
(彼は、自分の全てを示してくれた。だったら私も、最後まで約束をやり遂げる義務があるはず)
それが自分にできる、せめてもの行いだと確信している。
他の騎士や、ライオット、幼馴染のアリスにさえも、その役目だけは譲ることはできない。
(でも……もし彼がそうなってしまっていたら。私は本当に、この剣を振るうことができるの?)
今までどんな敵だって切り伏せて、前に進んできた。
それは己が騎士として守る者の為、人界に生きる誰しもの命を明日へと繋ぐ為だ。
だが、今自分が決意しようとしていることは、本当にこれまでと同じなのか。
愛する者の為に戦い、その果てに全てを失ってしまった彼を斬ることは。
本当に、自分が信じてきた正義なのだろうか?
「騎士様?」
「……大丈夫。それよりも、足元が不安定だから気をつけて」
「は、はい」
前を向き直すセフィアの背中に、ぐっと《闇斬剣》の鞘を握る手に力を込める。
もしもその決断をする時が来るのなら、自分は彼女に酷い嘘をついてしまった。
ここまで来て、最初に彼の結末を聞いてからずっと揺るがなかった覚悟が崩れ始めている。
何故今更、と一人で密かに首を傾げて。
『あら。お姉さんに惚れちゃった?』
『……かもしれないな』
「……それは関係ないっ!」
「っ!?」
セフィアの肩が跳ねた。先頭にいたライオットも立ち止まり、何事かと振り返る。
そして、慌てて両手で口を塞いだ彼女に胡乱げな目線を送った。
「おいイーディス、うるせえぞ。いきなりどうした」
「……な、何でもないわよ」
「何でもないってことは……」
「うっさい! ほら、あと少しでしょ! 先に行って!」
「……ワケわからん」
なんとも不機嫌そうな顔で、ライオットはまた行進した。
同じように振り返っていたセフィアに愛想笑いをして、前進を促しつつ自分も歩き出す。
(別に、あれだけで靡くほど単純じゃないし。ただ、あんまりにも自然に言うものだから、ちょっと記憶に残っただけよ)
頭に浮かんだ考えは、《闇斬剣》の完全支配術で繰り出す闇のような心の奥底へ必死に沈めた。
それから程なくして、一本道の終着点に辿り着く。
三人は岩陰へ身を潜め、そっと奥に広がる空間を見た。
「広いわね……」
「昔聞いた団長の話だと、ここが白い竜の寝床だって話だ。つまり、あいつがいるとすれば……」
「……ルーク」
小さく呟くセフィアに、ライオットとイーディスは顔を見合わせて頷く。
緋髪の騎士は元より抜き身の《蒼竜の琴剣》を両手で握り、女騎士は《闇斬剣》を引き抜いた。
「これから中に入る。母上殿、決して離れないように」
「っ、わかりました」
「よし。それじゃあ……行くわよ」
その言葉を合図にして、三人は広間の中へと踏み入った。
余すところなく薄氷に覆われた空間は、分厚い氷が床となり、水晶のように煌く氷柱が屹立している。
より一層寒々しい大気に見舞われ、セフィアがマントを両手で体に密着させた。
「敵は……いねえな」
「っ……ライオット」
硬い声で呼ばれた己の名前に、ライオットは警戒しつつ振り向く。
強ばった顔をしたイーディスは、ある方向を見るように顎で促した。
そちらに顔を振り向かせ……つられたセフィアと共に、息を呑む。
「おいおい……これは、ゴブリンか?」
「うっ……こんな、酷い…………」
耐えきれないという様子で、セフィアが口元を抑える。
地面に転がっているのは、無惨に全身を破壊された、ゴブリンだったであろう肉塊。
手足が欠け、腹が引き裂かれて臓物が地面に溢れ出ている。そこから強い血の匂いが漂っていた。
恐怖と怒りの中間のような表情を醜い顔に浮かべ、絶命しているそれに、ライオットは目を見開く。
「嘘だろ…………まさか、あいつ」
「何、ライオット。どうしたのよ?」
「……このゴブリンは。もしかしたら、あいつに」
イーディスの問いに答えようとした、その時。
どこからか、生々しい異音が響いた。
●◯●
グチャグチャと、何かを引き裂き、咀嚼するかのような音。
背筋が凍るようなそれに、ライオットとイーディスは一気に警戒心を引き上げる。
「…………」
「……っ」
目線を交わして意志を伝え合うと、イーディスがセフィアとの距離を詰める。
ライオットは異音のする方向へと顔を向け、ゆっくりと歩き始めた。
臨戦態勢を取りつつ、音を立てないよう、細心の注意を払って足を踏み出していく。
なるべく氷柱の影に隠れるようにしながら、たっぷりと時間をかけて氷の園の奥に踏み込んだ。
グチャッ……バキッ、ゴギッ…………ブヂヂッ…………
いよいよ、音の近くまでやってくる。
ライオットは意を決して、最後の氷柱の裏から出ると、その場所を目の当たりにして。
「っ…………!!」
大きく、息を呑む。
喉の奥からこみ上げた声を、なんとか抑えられたのは幸運だっただろう。
同様に、手放しかけた《蒼竜の琴剣》を必死に掴み直し、気取られるのを回避する。
広間の最奥、そこに堆く積み上げられた眩いばかりの金銀財宝。
それらを抱え込むかのように、仄かに青みがかった巨大な遺骨……竜の骸が散乱している。
富と死、二つの山の頂上では。
ギュルルルル……
一匹の成り損ないが、何かを貪っていた。
擦り切れた赤い外套を纏うソレは、周りの一切に目をくれず手元にあるものに集中している。
美しい鱗や鉤爪は赤い血で濡れ、頭髪のような灰色の体毛の奥にある目は爛々と獣欲に輝いていた。
そして、細長い口が一心不乱に噛み砕いているものは……緑色の肌をした、人型の腕。
(ルーク、お前…………っ!)
獣の如き様相に、ライオットは血が出るほどに下唇を噛み締めた。
理解はできる。
真竜となったのであれば、大気に満ちる空間神聖力を己の生命へ変換することができる。
だが、中途半端に変容したことで人の性質を残し、何かを食らわなければならなかったのだろう。
(こんなの、人の尊厳を踏み躙っているじゃない…………!)
彼の後ろから顔を出したイーディスもまた、あまりに凄惨なその姿に打ち震えた。
話には聞いていた。だが現実は、決めた覚悟を遥かに上回る残酷さだったのだ。
彼との交流が長くない彼らでさえも、そうなのだ。
セフィアの反応は激的と言ってよいものだった。
「う、そ………あぁっ、ルーク…………!」
「っ、駄目っ!」
全身を震わせながら、手を伸ばしたセフィアが彼へと近づいていく。
横を通り過ぎたところでようやく気がつき、イーディスが諌めるが……それが引き金になった。
咀嚼音が止まる。
一瞬で空気が凍りつき、イーディスがしまったと自分を責めた。
彼女が、ライオットが、セフィアが恐る恐る視線を向ける中、動きを止めた成り損ないが振り向く。
そして、自分の領域に足を踏み入れた三人の侵入者に、何かを確かめるような瞳を向けてきた。
グルルルル……
「……絶対に、おかしな挙動はするなよ」
「できるわけ、ないでしょ……!」
ジリジリと、少しずつ成り損ないから距離を取る為に後ずさる。
セフィアを庇えるように移動しながら、こちらを観察している成り損ないの様子を伺う。
その歪な巨体から露出を始めた、物々しい雰囲気が寒気を呼び寄せた。
セフィア達の所までライオットが辿り着くまで、一メルと五十セン。
そこまでやってきた時、ゴブリンの腕を手放した成り損ないが傍らに突き立てた蛮刀に手をかけた。
(まずい……!)
大きく力んだ成り損ないの両足に、ライオットは一瞬で意識を切り替える。
彼がセフィアの前へ躍り出たのと、成り損ないが凄まじい音で跳躍するのは同時だった。
ギュラアァアアァア!!
「クソッタレがッ!」
天井高く跳び上がり、裂帛の咆哮を上げながら成り損ないが落ちてくる。
大上段から振りかぶられた蛮刀に、琴剣を使って曲芸のように跳び上がったライオットは応戦した。
「オラァァアァアッ!」
ギュラアァア!!
ぐんぐんと近づいた成り損ないの蛮刀と、騎士の剣が空中で交差する。
激しい衝突音を奏で、盛大に散った火花と豪風にセフィアが悲鳴を上げるのが聞こえた。
自分を大きく上回る膂力で蛮刀が押し込まれ、両手で琴剣を支えて受け止める。
「ぐ、ぅおぉおおぉおおっ!」
腹の底から叫び、全力で蛮刀を弾き返した。
姿勢を崩した成り損ないは空中で回転しながら、翼を使い後方へと引き下がる。
ライオットも頭から落ちる体を捻り、なんとか上下を入れ替えると着地した。
「っく! あの野郎、とんでもねえ馬鹿力してやがる!」
「ライオット!」
「騎士様!」
「イーディス! 今すぐ彼女を連れて出口まで退避しろ! 俺が時間を稼ぐ!」
こちらへ近づく気配を見せた二人を、怒号に近い声音で制止する。
足音が止まり、されど躊躇しているのか動かない彼女達へ成り損ないを見ながら言葉を続けた。
「今のこいつは
「……分かった!」
「待ってください騎士様! ああっ、ルーク! ルーク────!」
悲痛な叫びが、尾を引くように残響しながら離れていく。
懸命な判断をしてくれた同輩に内心で感謝しつつ、ライオットは山上に戻った成り損ないを睨んだ。
「よお、ルーク。随分な挨拶じゃねえか。出会った時の仕返しか?」
グルルルル……!
「ハッ、言葉も忘れたってツラだな。今のテメェに何言っても無駄か」
片手を地面に置き、獣らしく荒々しい殺気を垂れ流す成り損ない。
その堕落した姿に奥歯を噛み締め、ライオットは怒りに滾る両目で言葉を投げかけた。
「……今のお前は、何も知らねえし、覚えてねえ。そうだろ? だったら、もう一回教えてやるよ」
ライオットが、不意に構えを解く。
そうすると《蒼竜の琴剣》を優雅に回転させ、刃の一方を床に深く突き刺した。
背筋を正し、肩をほぐすように動かして──胸の前で、掌に拳を叩きつけ。
「俺とお前の間にある、経験の差ってやつをよぉ!」
怒りの雄叫びを上げた成り損ないが、拳を構えたライオットへ飛びかかった。
読んでいただき、ありがとうございます。
前章の初期ぶりに、二人の対決です。